●妖精さん 蝶か小鳥か、と見紛うだろうか。視界の端を一瞬横切り、ふと気付いたら消えている。蝶のそれに似た羽をもった小さな小さな少女であった。 絵本に出て来る妖精のようだ。だがしかし、そんな生き物が存在している、とは普通の人間は思わないだろう。真夏の日差しも影響し、白昼夢か見間違いだと判断する。 だが、そうではない。 ようせいは、実際、今、この街に存在していたのだ。 E・フォースと呼ばれる、この世の理から外れた存在たちである。 一体何匹の妖精が、この街に居るのか分からない。 ひらりひらりと飛びまわる妖精たち。 そして、幼い少女を見つけるとその肩に腰かけ、何事か囁きかけるのである。 果たして、妖精と少女達の間でどのようなやり取りがあったのかは分からない。 しかし、妖精に囁きかけられたその直後から、少女たちは妖精の力を借りて、空を駆ける力を得るのであった。 どういうわけだろうか。 妖精に憑かれた少女達の存在もまた、一般人には認識し難いものとなっているようだった。 ●ようせい劇場 「E・フォース(妖精さん)と、それに憑かれた幼い少女達の話。妖精さんは、フェーズ2の(大妖精さん)を筆頭に、街へ散っている。あなた達にやって貰うのは、妖精さんの捕獲ね」 モニターに映ったのは、都会の街中の映像であった。暑さに顔をしかめながら、道行く者たちの頭上を小さな妖精が飛び去っていく。『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は更にモニターを切りかえる。 「妖精たちは、幼い少女を見つけると接近し、取り憑くみたい。とりつかれた少女は、1時的に妖精の能力を借りることができる」 空を駆ける能力と、それから一般人に認識され難くなる能力である。 あくまで、認識され難いだけで、認識されないわけではない。 その為、捕獲の際はできるだけ人目に付かない場所で捕獲することをお勧めする。目撃者を増やしても、仕方ないだろう。 「捕獲した妖精は、とりあえず捕まえておいて。瓶や袋に入れておけば大丈夫」 街を逃げている妖精は全部で8匹ほどである。 「少女に力を貸して、妖精は何処かへ向かっている。ちなみに、大妖精を捕まえて倒さない限り、他の妖精さんも消えないから」 つまるところ、極端な話、大妖精以外は無視しても構わないのだ。 ただ、その場合、妖精に憑かれた少女達が一般人に見られる危険や、事故に合う危険が残る、という話。 「妖精の殲滅と、少女達の解放が目的。それでは行ってらっしゃい」 そう告げて、イヴは仲間達を送り出すのだった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:病み月 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年09月04日(水)23:41 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 6人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●空を駆ける少女 街ゆく人々は気付かない。自分達の頭上を飛ぶ、小さな妖精の姿に。 そして、妖精と共に空を駆け抜ける、少女達の姿に……。 ●妖精劇場 大妖精は退屈していた。 それと言うのも、飽きてしまったのだ。天敵のいない花畑での、幸せで楽しい毎日に。 けれど彼女は知っている。外の世界は危険に満ち溢れていると。 しかし、大妖精は飽きていた。飽きて飽きて、飽きることにも飽きてしまって。 そしてとうとう、生まれ故郷の花畑を後にし、外の世界へ飛び出したのだ。 その結果、命を落とす事になろうとも……。 好奇心には、勝てなかったらしい。 ふわりと橋から飛び降りた。日傘が風を受け、ぶわっと膨らむ。傘の骨が折れる直前で停止。翼を広げて宙に停止するのは『ダンス・イン・ザ・ダーク』プリムローズ・タイラー・大御堂(BNE004662)であった。彼女の眼前で少女が止まる。空中で対峙するプリムローズと少女。足元を行き交う車の群。クラクションの音。排気ガスの臭い。少女の肩で、妖精が顔をしかめる。 「ご存知かしら。イギリスの家の庭には妖精が住んでいるのよ? 実際この手のエリューションは私も見飽きる程度には目にしてるわね~」 虫取り網を取り出して、プリムローズは飛び出した。 「街、街か。やっぱ人多いよな。いや、怖いわけじゃないんだ。ただちょっと都会に慣れてないだけで」 自分に言い聞かせるように、独り言を繰り返すのは夜兎守 太亮(BNE004631)だ。路地裏から大通りを覗き込む。 森で育った彼は、大勢の人に囲まれる事になれていないのである。 キョドキョドとしている太亮の背後を、妖精が1体通り過ぎて行った。 「こんにちは妖精さん。あなたの探し物はなぁに?」 翼をはためかせ『Wiegenlied』雛宮 ひより(BNE004270)が少女の隣を飛んでいる。少女の肩に乗った妖精が、不思議そうな顔でひよりを見ている。 ひよりの背には1対の羽。仲間か否か、判断に迷っているらしい。 ひよりはそっと、少女と妖精へミルクとお菓子を差しだした。恐る恐る、それを受け取る妖精である。 クッキーを齧り、表情をほころばせる妖精。少女共々、動きが止まった。笑顔の妖精に向け、ひよりはそっと指を差しだした。 と、その時だ。 「長閑な山奥にでも出たら微笑ましかったのですが、街中で好き勝手では害虫ですね?」 バイクの音と共に、それに乗った『落ち零れ』赤禰 諭(BNE004571)が現れた。影人を召喚し、一緒に妖精を追いかけているようだ。 必死で逃げる妖精。まだ少女に取り憑いてはいないようだ。 「おや?」 ひよりを見つけ、諭はそう呟いた。 妖精2体と、少女が1人。リベリスタ2名と対面であった。 ひよりと諭では、妖精に対する対応が違う。果たしてどちらに合わせるべきか。 妖精もまた、逃げるべきか、それとも大人しくしておくべきか判断に困っているようだ。 膠着状態が続く。 「妖精たちが何を探しているのかとても気になりますが……」 そう呟くのは離宮院 三郎太(BNE003381)である。人気のない道を歩きながら、視線を巡らせ妖精を探す。 今だ姿を見せない大妖精と、何かを探しているらしい小妖精たち。 全ての妖精に対処していては時間がいくらあっても足りない。幸い、大妖精を倒せば他の妖精も消えてしまうらしい。 眼鏡を押し上げ、三郎太は唸る。 そんな彼の眼前には、2体の妖精が飛んでいる。 大妖精ではないけれど。 見逃すべきか、それとも捕獲するべきか。 三郎太は迷っていた。 さて、と一言『ルーンジェイド』言乃葉・遠子(BNE001069)は呟いた。 「妖精さんと女の子が冒険をする物語…だったら素敵だけど」 彼女の正面にはアゲハ蝶の羽を持った、美しい女性。サイズこそ小さいものの、しかし絶世の美女と言ってもいい外見をしている。 大妖精だ。遠子の前に姿を現し、穏やかな笑みを浮かべている。 仲間に連絡しようと、遠子はAFを取り出した。瞬間、突風が吹き抜ける。否、風ではない。高速で飛んだ大妖精だ。遠子の手からAF が奪われる。 『これ電話でしょう? 止めておいてくれる? 今、ゲームをしているの』 遠子の手にAFを投げ返し、大妖精はそう言った。 頬笑みを投げかける大妖精。幸せそうな笑みだ。楽しくて仕方が無い。そんな顔をしている。 『思い切り遊んでみたかったの。だけど、普通に遊んでも私の姿を見つけられる人は少ないから。かといって、妖精の仲間に見つけてもらうのも、ちょっと詰まらないじゃない?』 それくらいの事なら、こんな街中に出なくてもできる。 だから、大妖精は仲間の妖精をゲームに参加させた。 『私の姿を見つけられるのは、幼い少女だけ。そういうルール。貴女達は特別みたいだけど』 「取り憑いているのが少女限定なのはそういう理由?」 問いかける遠子。AFから魔導書を取り出す。 悪意があるわけではない。 しかし、妖精たちが大妖精を発見するまで悠長に待っているわけにもいかないだろう。 『そっちにも事情があるのね。いいよ。じゃあ、遊びましょう』 戦意を感じ取ったのか。 先に動いたのは大妖精だった。蝶の翼を羽ばたかせる。光の粒子が飛び散った。光の粒子が集まって、無数の妖精へ姿を変える。 視界を埋め尽くす大量の妖精。思わず目を閉じた遠子の全身を、衝撃が襲う。 しまった、と思った時にはもう遅い。 『捕まえて御覧なさいな』 遠子の耳元で、大妖精が囁いた。 妖精に憑かれた少女は、幾分性格に影響を受けているようだ。きゃはは、と笑うだけでプリムローズの話を聞こうともしない。 空を駆けまわる少女と、その肩で手を叩く妖精。通り過ぎざまに、妖精の尻尾がプリムローズの胴や腕を叩いていく。 僅かにずれた軌道。道路標識にぶつかり、地面に落ちるプリムローズ。ほんの少しのベクトルの変化が、空中では大きな影響を及ぼすようだ。 「貴女は何を求めているの? 手伝うことも吝かではなくてよ? 別に人助け……妖精助けがしたいわけではないけれど」 ただの興味本位である。妖精たちが何を探しているのか、プリムローズはまだ知らない。 もっとも、妖精自身も半ば忘れかけているのかもしれないが……。 降り抜かれた虫取り網を回避し、くるんと一回転。大妖精の捜索など忘れて、プリムローズと遊んでいるようだった。 踊るような動作で接近。網を振り回すプリムローズ。上下左右から襲い掛かるその網を、妖精は楽しそうに避け続けるのだった。 「いいなぁお前ら、簡単に人混み回避できて。そこから何が見える?」 ビルの壁沿いに妖精が飛び上がる。それを追跡する太亮は、面接着を活用し壁を駆けあがっていた。面食らったような表情を浮かべる妖精。動きが鈍ったその瞬間を見逃さず、太亮は虫取り網を振り抜いた。 この妖精は、少女に取り憑いていない。その分、遠慮なく捕獲に専念することができる。元より体長10センチほどの小さな妖精だ。すばしこくとも、早くはない。 だが、しかし……。 「うわっ!?」 網を回避し、急降下。擦れ違いざまに頬を打つ妖精の尾。足を滑らせ、壁面から落下。地面が迫る。 その途中、太亮の体が妖精を追い越した。落下する速度と、飛びながら降りる速度。そして、元々の体格差。太亮の方が、落下速度が速かったのだ。 妖精にとって誤算だったのは、太亮の反射神経の良さだっただろうか。 気付いたときには、既に手遅れ。眼前に迫った虫取り網を回避しきれず、捕獲されてしまう。いくら暴れようとも、網が破れることはなかった。 即座に巾着袋に閉じ込められた妖精。空中で体勢を立て直し、太亮は地面に着地する。 「さて……。蝶が探すといったら花か?」 なんて、巾着の中の妖精に、太亮は声をかけるのだった。 妖精2体は、少女に取り憑いてはいなかった。だから無視して進もうと判断した三郎太であったが、しかしどういうわけか妖精は三郎太の周囲を飛び回っていた。 E能力に反応しているのか、妖精たちは三郎太のことを興味深そうに観察している。 「人数的にも、全てに対処していくのは難しいのですけどね」 妖精に向け、気糸を放つ。しかし妖精は、あっさりとそれを回避。そう簡単には倒させてくれないようだ。 それならいっそ、空を飛んで引き離そうと、翼の加護で得た羽を広がる三郎太。地面を離れたその瞬間、妖精2体が三郎太に飛びかかった。 妖精の尻尾が三郎太の胴と首を打つ。何かの弾けるような音。ぐらりと傾く三郎太の体。見れば、三郎太の背にあった羽が消えている。 「出来る限り早急に大妖精を見つけたいのに……」 スン、と拳を振り抜く三郎太。気糸の巻き付いた拳が妖精を打つ。 バチン、と軽い音をたてて妖精が弾き飛ばされる。しかし、その隙にもう1体の妖精が三郎太の胸を打った。走る衝撃。口の端から血が流れる。 妖精2体に翻弄されながらも、三郎太はこの場を切り抜けるための算段を思考しているのであった。 「五月蠅い羽音を撒き散らさないでください」 影人を召喚し、妖精を追跡する諭。2体の妖精と少女は、空を駆ける。それと並行して飛んでいるのはひよりである。 敵意のある諭と違い、こちらは幾分フレンドリーであるようだ。 「この硝子瓶に入ってくれるとうれしいなの」 そう言って、大きな硝子瓶を差し出すひより。しかし、妖精はその中へ入ろうとはしない。2体とも、少女の肩に乗っている。 妖精単体での飛行速度はたかが知れているものの、少女に取り憑いての飛行となるとそれなりに速く飛べるらしい。 ひよりも諭も、付いていくだけで精一杯、と言ったところか。 妖精と少女はコミュニケーションが取れているのだろう。妖精が少女の耳元で何か囁く。少女は頷き、キョロキョロしながら、何処かを目指して飛んでいく。 一体どこへ向かおうと言うのか。 ひよりと諭は、疑問を抱きながらも少女と妖精を追跡する。 ●ラストワルツは誰と 無数に飛び交う妖精たち。幻だと分かっていても、流石に圧巻。大迫力。美しい燐光を撒き散らしながら、妖精たちが遠子を襲う。 明らかに動作が鈍くなっていくのを感じながら、それでも遠子は魔導書片手に大妖精の姿を探していた。 「大妖精撃破を優先しつつ、いざと言うときはフォローを……」 現在近くに人はいないが、いつ誰かが通りかかってもおかしくない。そんな時、果たして遠子1人で対応できるのか。頭痛の要因としては、十分すぎるものだった。 複数攻撃に放った気糸も、幻の妖精を打ち消すだけで大妖精を捉えるには至らない。 このままではジリ貧。もしかすると、既に逃亡されているかもしれない。 そう思った、その時だ。 「獲物の虫を探す気分ですね。いえ、妖精は食べれませんが。煮ても焼いても食えない虫以下ですね」 轟音。爆風。酷薄な笑みと共にそれを放ったのは、バイクに跨った諭であった。次いで、無数の影人が突進してくる。ぴょんぴょんと飛び跳ね、妖精を捉えようとする影人。 一気に数が減った妖精の中に、しかし大妖精の姿は発見できない。 数と火力で、場を一掃する諭。彼の巻き起こす粉塵の中を突っ切って飛び込んできたのは、少女と妖精と、それからひよりではないか。 どうしてひよりが妖精と? と、首を傾げる遠子であった。 「その子の代わりにわたしがお手伝いするの」 ふわり、と花の咲くような笑みを浮かべるひよりであった。なんとか妖精から少女を解放させようと、先ほどから説得を続けている。 しかし妖精と少女は止まらない。きょろきょろと周囲を見渡す少女と妖精。 何を探しているのか、と首を傾げるひよりであった。 「あっ」 暫くそれを観察し、そして遠子は声を漏らす。 『私の姿を見つけられるのは、幼い少女だけ。そういうルール』 先ほど、大妖精はそんなことを言ったのではなかっただろうか。 少女と妖精に駆け寄る遠子。ひよりに事情を説明した、その直後だ。 「あっち!」 満面の笑み。元気な声で、少女は一言、そう叫んだ。 少女の指さした方向へ向け、ひよりが飛び出す。邪魔をするように纏わり付く幻の妖精を影人が打ち消す。幻の妖精が消えたその先に、大妖精の姿が見えた。 『あら。見つかっちゃった』 ふわりと笑う大妖精。瞬間、その姿が消えた。突風。吹き飛ばされて地面に転がるひよりであった。 だが……。 「やっぱり貴女は負けてしまうよ……。ごめんね」 パン、と渇いた音が響く。 大妖精の胸を、遠子の気糸が刺し貫いた。 血液の代わりに、光の粒子を撒き散らす大妖精。痛みはないのか、目を閉じて柔らかく笑っている。 羽の動きが止まって、大妖精は重力に引かれて落下。落下しながら消えて行く。 地面に落ちる、その直前。 『あぁ。楽しかった』 最後に1言そう呟いて。 大妖精は、消えてしまった。 大妖精が消えると共に、少女に取り憑いていた妖精も消失。意識を失った少女がその場に落下。受け止めたのは諭の影人だ。 先ほどまでの喧騒が嘘みたいに、辺りはシンと静まり返る。飛び交っていた妖精の幻も、光の粒も、夢みたいに消えてしまった。 妖精劇場。その幕が降りたのだ。 役者は舞台を降りるのみ。 少女を木影に横たわらせて、リベリスタ達はそっとその場を立ち去っていく。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|