●万物を癒すもの そこには、光があった。 荒廃した大地があり、枯れ果てた木々があった。 降り立った光は揺れ、人の形を取ると荒廃に手を差し伸べる。 世界は息を吹き返し、再びの夢を見る―― ●言うだけならタダなんですが 「……と、いう感じの能力を持つのが、この光球型アザーバイド『移ろう聖女』の能力のようです」 なんだか随分と、もう随分な導入部を恥ずかしげもなく映像つきで表示させ、『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)は説明を始めた。見たところ、砂漠とまではいかないまでも、旱魃で干上がった地に緑を戻す、というところから見て凄まじい治癒能力に近いものを持っている、というのは傍目から見て取れた。 「本体は光であって実体が存在せず、観測者の意図に合わせて姿を変える、というのが現在まで観察した結果の共通見解です。今回はこのアザーバイドの送還、なのですが……」 言いよどむ和泉をよそに、モニタの画面が切り替わる。 荒廃した地が潤った、そこまではいい。しかし、あろうことか新しく芽を出した植物が『移ろう聖女』を拘束しているようなのだ。光なのに。 「『彼女』の能力は高位のホーリーメイガスクラスなのですが、どうやらこの世界にとっては刺激が強かったようです。仮にこの状況を脱しても、残された植物や『彼女』の癒しが混乱をもたらすのは必至。先ずは救出、それから説得の上で送還をお願いします」 なんだか、物凄く厄介な話を聴いた気がするが……大丈夫なのだろうか。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:風見鶏 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年07月18日(月)22:02 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●おまわりさん(略 この世界の植物って皆こんなにやんちゃなのだろうか……と、『彼女』は思案した。 今のところ、縛り上げられているだけで別段害意はないようだけれど、このままでも何かと問題がある、かもしれないと思う。全体の何%かしか癒せてないのに足止めをされては、ここまできた意味がない……尤も、いちいち元気だったら困るのだけど。 もしかしたらすり抜けたほうが話が早いかもしれないけど、それはここのルールとしてどうなのか……などと考えていたところで、遠くから気配を感じた。見たところヒューマン・タイプらしいけど……うわぁ。うわぁ。 「あれがすげぇ聖女たんか……!」 よもやアザーバイド『移ろう聖女』本人からとんでもないドン引きを受けているとはいざ知らず、『合縁奇縁』結城 竜一(BNE000210)はテンションの高さを隠さない。勿論撮影機材を隠そうはずもない。寧ろ撮りまくってる。大丈夫か。 更にこう、不幸なことに竜一の意識にフィックスされているためか、光球が素体で在るはずの彼女がすげぇナイスバディである。男連中がもう少し多かったら、薄布一枚で浮遊する薄光の女性など前にしたらこう云うだろう――ご馳走様です、と。 「良かれと思ってした事が相手を傷付けてしまうなんて、すごく辛い事なの……」 聖女が囚われている様子を見て、つらそうな表情を見せたのは『夢見がちな』識恵・フォウ・フィオーレ(BNE002653)。どういう原理で捕まってるかは謎だが、まあE能力ということで解決しておきましょう。辛いことにはかわりないだろうし。 「自分の撒いた種で捕まってりゃ世話無いか」 聖女に目もくれず、そんなことをぼやくのは『エースランナー』音無 光騎(BNE002637)だが……目もくれない、というよりは敢えて目を背けているようにも思える。別に、竜一のイメージがどうとかではない。彼なりに思うところがあるのだ。聖女の特性とか、そういう観点で。 「聖女様かあ。どんな世界からやって来たんだろうね」 ほぼ荒地の中、聖女の周りにひときわ明るく広がる草原の様子に舌を巻くのは『墓守』アンデッタ・ヴェールダンス(BNE000309)。一見して植物と戯れているようにも見えるが、だとすると植物に縁があるのだろうか……などとも考えてしまう。荒地の回復を考えれば植生より土の肥沃化な気がするので、その思索は間違っちゃいない。 「まさか癒しの力でエリューションを誕生させてしまうなんて……」 癒しは必ずしも世界に正しく作用するとは限らない。『銀風』セフィリア・ロスヴァイセ(BNE001535)の感慨は尤もだが、栄養のない状態から植生を生み出すほどのそれを、ボトム・チャンネルで『癒し』と銘打っていいものかどうか。その辺りは、聖女本人の認識を問わないことには彼女には預かり知れないのだが。 余談ではあるが、彼女の持つイメージが「綺麗で優しそうな女性」であったがために、そうあったばっかりに、竜一がより喜ぶ事態が発生したのは……もう何か許してやれよ。 「荒廃した地に緑が!?」 事実は小説より奇なりとは言うが、実物に驚く『さくらさくら』桜田 国子(BNE002102)の気持ちは理解して余りあるだろう。局地的とはいえ理を超えて発現した緑は目に眩しいくらいなのだから、これをすごいと思わずしてどうしたものやら。 「貴女を解放してあげたいのだけど、それには植物を少し傷付ける事になる。構わないかな?」 アンデッタが前へ出て言葉を紡ぐ……が、問いかけられた聖女はきょとんと首を傾げるだけで、未だ縛られるままだ。なすがまま、というところで、逃げる気配も無い。焦って手振りを加えるが、却って混乱している気がする……まあ、仕方ないといえば仕方ない。同じ位階ですら通じないことがある言葉が、異界の住人に必ずしも通じるとは限らないのだ。っていうか複雑だしね日本語。 「私たちは、あなたを助けにきたの。ほら、捕まってるままじゃ大変じゃない?」 『……状況説明が欲しいけど、いい?』 「そうだね、そこから始めないとね……」 「わ、私にも説明させてくれんか!? 存在感が空気なのは勘弁して欲しいのじゃ!」 というわけで、タワー・オブ・バベル所有者の『カチカチ山の誘毒少女』遠野 うさ子(BNE000863)、『雪暮れ兎』卜部 冬路(BNE000992)の出番です。言語能力者二人という構成は昨今ではなかなか珍しいものがあるが、二人居るということは、それだけ表現の幅、説明の補足に関して隙がないということだ。より分かりやすい表現を、と考えれば冬路の存在は頼もしい限りであるし、うさ子の説明自体、そも簡潔明瞭であるので心配がいらない、というのも大きい。 『こっちの世界の植物は、皆こうやんちゃなのかしら?』 「ううん、貴女の癒しはとても素晴らしいのだけど、こっちの世界にとってはかなり刺激が強いの。だから、癒しを受けた植物が変質して、世界に悪影響を与えるようになってしまう……とても残念なのだけど」 『あらあら。それはちょっと大変かしら』 「まあ、ちょっとどころではなく大変じゃなあ……して、こやつらはこちらで処理させてもらう故、できれば力を抑え気味にしつつ、こちらで休んでいてもらえんか?」 『成程、よくわかったわ。それじゃ、お願いしようかしら?』 「話が早くて助かるのう……」 元々、『聖女』自体がおとなしい性格である上、交渉役のうさ子と冬路も、その口ぶりや身形には威圧的な点は(身体特徴は兎も角)存在せず、交渉を優位に進めるのに役に立った。何しろ、言葉が通じるというその一点だけでも、相手に与える安心感は絶大で、隙がない。 果ては、お茶の用意までしてきているのだからそれを否定する要素がどこにあろう。交渉、見事に成立。 ●想いをその身に 「俺はあんたの敵じゃない! あんたを救うことで、それを示す!」 交渉を終えたのを知るや、竜一が真っ先に駆け出していく。目掛けるは、聖女を捕らえているノーライフグラス、その一体。傍らの個体が竜一へ葉の刃を繰り出せば、アンデッタの鴉と化した符が飛んでいき、その意識を彼女自身へ向ける。もう一体の刃は、国子のリボルバーから放たれる必中の銃撃が次々と落としていき、竜一の接近を支援する。 蔦を狙うことを第一に考えていたとはいえ、草刈りに銃撃が向かない愚を知っている彼女が通り一遍にその行動に出るとは限らない……これも、彼女なりの「弱い者が戦う際の工夫」なのである。 「草よ! 癒してくれた聖女を慕うのは分かるが、拘束までするのはストーカーちっくだぞ!」 びたーん。 「いだっ……意地でも離さないってか!? そうはさせるかー!」 『あらあら、大変そうねえ……』 言葉は通じないが、意思は行動で通じる。草にひっぱたかれながらも必死に聖女を救出に行くそのひたむきな姿勢が、聖女に通じないわけもない。聖女から草を引き剥がした竜一を包んだのは、常々受ける癒しの波濤とはまた違う、より強化された聖なる光。識恵の目から見ても、そのレベルは格段に高い。 「すげぇな……傷があっという間に塞がっちまったよ! ありがとー聖女様ー!」 当の竜一も、その回復力には驚きを隠せないらしく、興奮した声を上げる。 「では、こちらへどうぞ。お茶でも飲みながらお互いの世界について語りましょう」 『何ていうのかしら、その、素敵なおもてなしね?』 ふよふよと飛んでいく聖女の下では、アンデッタが強く守りを備え、開放のタイミングを待っていたセフィリアと光騎が戦闘態勢に入ろうとするところだった……うん、何とも素敵な絵面だね。 「セフィリア・ロスヴィセ……参ります!」 「ここからは倍速で行くぜ……!」 待ちかねたフラストレーションを吐き出すように、二人は一気に前進する。対象は、同じ。平原に於いて足場が無いなら、連携から作り出すまで。光騎の肩を借りたセフィリアは高く跳躍すると、ノーライフグラスへ一撃を見舞う。着地点に待つ光騎が連続した剣戟で追加打撃を加えると、その手を構えて受け止める態勢を造り、再びセフィリアは宙に舞う。 他、一体はアンデッタの式符が執拗に攻め立て、その意識を割く猶予を与えられずに体力を削られていき。 「うおおおおおぉぉらぁぁぁぁァ!」 圧倒的とも言える二刀流を繰り出す竜一に次々と蔦を刈り取られ、 「癒しを任せた分、全力で攻撃するの!」 識恵の放った光が次々とノーライフグラスを呑み込み、その余力を削り取る。お茶会に興じる者達は、国子の銃弾の庇護にあり、被害をうける気配は無い。これ以上無い、完全な状態だった。 「そちらの世界はどんな感じなのじゃ?」 『こことはかなり違うかしらね? 私のようなタイプが普通だし、形体が一個体に確立しているケース自体が珍しくて、つい癒しちゃったけれど……』 「食べ物とか、どんなものを食べてるのかな? お茶とか、口に合えばいいけれど……」 『とても、美味しいわ。取り込むこと自体はできなくはないけれど、私たち自身、概念や意識を取り込む存在だから、そもそも味覚という観念には疎い点があるかしらね?』 「やっぱり、そのあたりは違うんだね……」 方や、お茶会中の通訳担当と聖女だが、見事なまでの意思疎通ができており、情報を引き出すこと、与えることに大いに役立っていた。特に冬路などは年齢相応の話好きということもあってか、聖女から情報を引き出し、またこちらから与えることも忘れないサービス精神が幸いし、その意思疎通がスムーズだったのは特筆できる。 「話の邪魔をするでない!」 ……こんな感じで、露払いも忘れない辺り立派である。 『順調みたいね、頑張って』 ゆるりと聖女が立ち上がり、再び癒しの波を操る。ちらりとそちらに視線をやった光騎の視界の端で、彼女の姿が一瞬揺らぎ―― 「……かーちゃん」 彼にとっての大切な存在。久しく顔を見なくても、その姿は忘れない。これからも、同じく。故に聖女の姿を変えうる意識があり、彼の士気を否応なく高める。母の前で、否、その姿を映す存在の前で、無様な姿など晒せはしない。再び彼が放った一撃は、ノーライフグラスの一体を鮮やかに切り散らし、抜けていく。 「私達はお主らのような別世界から来た者たちの応対をしていての……話が通じるだけでも、助かるのじゃ」 『あら、そんなに大変なの?』 「じゃな、この間なぞ……」 冬路の話は尚続く。聞き上手な聖女さんマジ聖女。回復も忘れないとかほんとスゲェ聖女。さりげなく小説をさし出して紹介する冬路、さすがである。 「よし、これで……」 「最後の、一体!」 アンデッタと国子の声が重なり、各々の攻撃の軌道が重なる。ノーライフグラスは、根元に打ち込まれた銃弾と、鴉の執拗な啄みの前にその短い生涯を閉じたのであった。 ●さよならのフラグ 『最初は本当にどうしようかと思ったけど……助かったわ、ありがとう』 「いや、これがリベリスタの役割だからな。礼には及ばないよ」 聖女を前にして、凄くいい笑顔で応じる竜一。因みに、通訳はうさ子である。 「この世界の命は時間をかけて育まないと歪みを孕んでしまう……あれはきっと雑草だから、根が残っていれば何とかなるよ」 「癒しの力で生きる行程だけが増大してしまうと、大地が枯れる。バランスが大事なのかもしれないね」 『世界が違うと色々と難しいものね……ごめんなさいね』 「まあ、いいんじゃねーの? そればっかりは実際に立ち会わないと分からない訳だし……」 識恵、アンデッタの言葉に対して頭をさげる聖女だったが、そこは光騎がフォローする……やはり、顔を見るのは抵抗があるらしい。ぶっきらぼうに見えなくもないが、彼なりの優しさは伝わったことだろう。 「聖女様、お帰りになるならこれを……」 『……これは、種?』 「こちらの世界の花の種、です。持ち帰っていただければと思いまして」 『大事に育ててみるわ。有難う』 セフィリアとアンデッタが持ち寄った種を受け取ると、聖女は再び優しく微笑んだ。それを見た竜一の様子も色々とアレではあった、というかカメラ持ち出していたが、彼女の喜びに非してみれば些細な問題である。 『じゃあ、また会う日を期待しているわね、異世界の皆さん』 「力を抑えてさえくれれば歓迎するのじゃ。せっかく仲良く慣れたのに残念じゃが……」 最後に小さく礼をして、聖女はバグホールの向こうへと消えていく。うさ子とセフィリアの一撃が、彼女の通ったそれを両断して消滅させる。 「……リア充に……成り損ねた……!」 消えた場を掻き抱くように崩れ落ちた竜一に、声を掛ける者は居ない。 ――お前が見たフラグ、出会ったから別れもあるよってヤツじゃないかなとか。そう言うのは敢えて言わないお約束。 後日談だが。 竜一が持ち帰ったメディアデータ、その中の聖女は……綺麗サッパリ、全部光球としてデータ化されていましたとさ。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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