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<福利厚生2013>青に揺れるゴンドラ


 シンフォニー・ブルーの青が視界を鮮やかな色彩で染めていく。
 先に見える眩しい白い光りと、覆い尽くすグーズグレイの岩肌は対照的に黒く。
 波に揺れる身体は、ここがまるで切り取られた夢の中だと錯覚していく様に揺蕩うた。
 ―――海蝕洞。
 小さな入口を船で漕ぎ出し、身を屈めて中に入れば広がる青と黒と白だけの色合いは、自然が創りだした魔法。
 太陽の光が限られた隙間から入り込んで海底に反射し、海中を通って瞳の中に海の色を届ける。
 透明度が高いほど、それは素晴らしく神秘的な“青”を抱くのだ。
 まるで、海の妖精が優雅な時を遊ぶように。優しく光を帯びる水面。
「これだけじゃないよ。もっと先に行こう」
 栗色の髪をした陽気なゴンドリエーレが歌をうたいながら奥へと漕ぎだす。
 ギィコ、ギィコ。
 薄暗い洞窟を奥へ奥へ進んでいく船。
 水面を手で掬えば、夏だというのにひんやりと冷たい。
 いつの間にか、辺りはシー・グリーンに色づいていた。
「さあ、着いたよ。見てごらん、素晴らしい景色だろう?」
 海色の視線を上げた先。
 ぽっかりと空いた岩肌の天井から落ちてくる、プリムローズ・イエローの太陽に照らされた岸辺の煌めき。
 エメラルドグリーンの海色と白い砂浜、灰の岩肌とパラダイス・グリーンの背高い木々。
 リトル・ガーデンを思わせる調和の箱庭。
 洞窟の入口が“青”なら、この場所は“碧”に満ちていた。
「これを着けて、海の中に入ってみるかい?」
 ゴンドリエーレが手にしているのはマスクとスノーケル、それにレモンカラーのフィンだ。
 手を差し出されてエメラルドに輝く小さな海にゆっくりと入り込む。
 マスクのガラスが水に触れた途端に“碧”がクリアになった。
 外から見るのとは違い、水面の反射が無い分だけ鮮明な彩りを瞳に映し出す。
 コポコポと水音が耳に入ってくる。それさえも自然の創りだした奏曲の様。
 波に身を任せ、自然を肌で感じながらそっと瞳を閉じた。


「“アオ”の洞窟に行きませんか?」
 太陽に照らされて『碧色の便り』海音寺 なぎさ(nBNE000244)のイングリッシュフローライトの髪がその色を淡く染める。
 彼女の指差す方向には、優しげなゴンドリエーレと小さな船があった。
「あれに乗って、岸壁の方へ行くんです。其処には素敵な“アオ”に満ちている海蝕洞があるんですよ」
 にこりと笑って、手を差し出したフォーチュナはどこか嬉しげな表情。
 この様な素晴らしいプライベートビーチに来るのは初めてだったから。
 養護施設で育った彼女にとっては、物心ついてから初めての海になる。
 潮風が運んでくる磯の匂いも、肌に纏わり付く湿気を孕んだ凪も、初めての経験。
「良かったら、一緒に行きませんかっ!」
 この“アオ”が彩る光景を共に分かち合いたいから。
 ―――少しだけ強引に、その手を取って駆けて行くのだ。



■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:もみじ  
■難易度:VERY EASY ■ イベントシナリオ
■参加人数制限: なし ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年09月04日(水)23:38
 もみじです。青の洞窟に行ってみたい。

●目的
 海の洞窟を楽しむ。

●ロケーション
 太陽が出ている時間。島の裏側にある岸壁から入る海蝕洞。
 洞窟の先にはスノーケリングが出来るスポットもあります。
 場所にアルファベットを振っておきましたので、ご活用下さい。

A:青の洞窟(シンフォニー・ブルーの青)
 洞窟の入口。狭い入口は船で身をかがめて入ります。
 中に入ると、白い外からの光りを海底が反射して幻想的な青を作り出します。
 陽気なゴンドリエーレが歌を歌っています。
 ゆらゆらと揺られながら、神秘的な魔法を楽しんで下さい。

B:蒼の水路(ミラニーズ・ブルーの蒼)
 薄暗い洞窟の水路。蒼い光苔が生えており、ほのかに辺りを照らします。
 少し肌寒いかもしれません。こっそり寄り添っても周りからは見えないでしょう。

C:碧の楽園(ブライト・シーの碧)
 洞窟の奥にある、少し開けた場所。洞窟の天井が抜け落ちて岸になり、その上から太陽が降り注いで木々が根を生やしています。
 エメラルドグリーンの海でスノーケリングもできます。
 岸で一休みするのも良いでしょう。
 お弁当を持ってここで食べても構いません。

●NPC
 同行するなぎさはPCに絡まれない限り空気として扱います。

●注意
 未成年の飲酒喫煙は出来ません。

●イベントシナリオのルール
・参加料金は50LPです。
・予約期間と参加者制限数はありません。参加ボタンを押した時点で参加が確定します。
・イベントシナリオでは全員のキャラクター描写が行なわれない可能性があります。←重要!
・獲得リソースは難易度Very Easy相当(Normalの獲得ベース経験値・GPの25%)です。
・特定の誰かと絡みたい場合は『時村沙織 (nBNE000500)』といった風にIDと名前を全て表記するようにして下さい。又、グループでの参加の場合(絡みたい場合)は参加者全員【グループ名】というタグをプレイングに用意するようにして下さい。(このタグでくくっている場合は個別のフルネームをIDつきで書く必要はありません)
・NPCを構いたい場合も同じですが、IDとフルネームは必要ありません。名前でOKです。
・内容は絞った方が描写が良くなると思います。

●参加NPC
・海音寺なぎさ

参加NPC
海音寺 なぎさ (nBNE000244)
 


■メイン参加者 45人■
インヤンマスター
朱鷺島・雷音(BNE000003)
覇界闘士
御厨・夏栖斗(BNE000004)
ナイトクリーク
星川・天乃(BNE000016)
ホーリーメイガス
悠木 そあら(BNE000020)
デュランダル
結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)
ホーリーメイガス
アリステア・ショーゼット(BNE000313)
ホーリーメイガス
七布施・三千(BNE000346)
ナイトクリーク
斬風 糾華(BNE000390)
ホーリーメイガス
天城 櫻子(BNE000438)
クロスイージス
新田・快(BNE000439)
スターサジタリー
天城・櫻霞(BNE000469)
スターサジタリー
ミュゼーヌ・三条寺(BNE000589)
デュランダル
鎖蓮・黒(BNE000651)
インヤンマスター
焦燥院 ”Buddha” フツ(BNE001054)
プロアデプト
言乃葉・遠子(BNE001069)
インヤンマスター
ユーヌ・結城・プロメース(BNE001086)
ナイトクリーク
神城・涼(BNE001343)
ソードミラージュ
ルア・ホワイト(BNE001372)
デュランダル
楠神 風斗(BNE001434)
スターサジタリー
八文字・スケキヨ(BNE001515)
覇界闘士
設楽 悠里(BNE001610)
覇界闘士
宮部乃宮 火車(BNE001845)
ダークナイト
山田・珍粘(BNE002078)
ソードミラージュ
レイライン・エレアニック(BNE002137)
ホーリーメイガス
翡翠 あひる(BNE002166)
ソードミラージュ
鴉魔・終(BNE002283)
覇界闘士
葛木 猛(BNE002455)
ソードミラージュ
リセリア・フォルン(BNE002511)
覇界闘士
焔 優希(BNE002561)
デュランダル
羽柴 壱也(BNE002639)
プロアデプト
エリエリ・L・裁谷(BNE003177)
ダークナイト
朝町 美伊奈(BNE003548)
ホーリーメイガス
綿谷 光介(BNE003658)
ナイトクリーク
鳳 黎子(BNE003921)
ナイトクリーク
ロアン・シュヴァイヤー(BNE003963)
プロアデプト
一条 佐里(BNE004113)
ホーリーメイガス
海依音・レヒニッツ・神裂(BNE004230)
ナイトクリーク
浅葱 琥珀(BNE004276)
クリミナルスタア
貴志 正太郎(BNE004285)
ナイトクリーク
纏向 瑞樹(BNE004308)
覇界闘士
テュルク・プロメース(BNE004356)
ダークナイト
グレイ・アリア・ディアルト(BNE004441)
マグメイガス
フィリス・エウレア・ドラクリア(BNE004456)
クリミナルスタア
鮎川 小町(BNE004558)
スターサジタリー
エフィカ・新藤(nBNE000005)
   

●シンフォニー・ブルーの青
 島の大きな砂浜がある反対側、切り出された様な断崖を海の水が侵食して出来た海蝕洞。
 透き通おる程綺麗な水質と狭い入口、海底の白い砂。
 良い条件が揃わなければ見られない、自然が創りだす青の魔法。
 佐里はゴンドラに揺られながら、ロンドン・フォグの瞳を細めた。
「自然に触れるのっていいですよね。楽しんでいきましょうっ」
 エメラルドグリーンの砂浜を離れて、断崖に向かっていく船から眺める景色。
「アークって、こういうところ連れてきてもらえるんですね……」
 まるで、楽園の様な場所だ。
 ――そして、海蝕洞の入口を潜れば、広がる幻想の青。
「わぁ、綺麗……! 話には聞いてたけど、本当に青い。すごい……!」
 揺れる波に身を委ね佐里は、こういう時間がとても良いのだと思った。

「こんにちは、素敵なお誘いありがとうございます! とても素敵な青ね。貴方の色だわ」
 海依音はなぎさと共にゴンドリエーレの船に揺られていた。
 ゆったりと流れる時間。
「貴方はやっぱり青がすきなのかしら?」
「はい。海依音さんは?」
「ワタシですか? ワタシのイメージは赤ですもんね。青はワタシには眩しい色だけど、でも嫌いではないわ」
 水面の青にローテンブルクの瞳を細める海依音。
 ゴンドリエーレの歌声に重ねる海依音の鼻歌になぎさは「楽しそうですね」と紡いだ。
「ええ、とってもご機嫌だわ。ダイブもしてみますか?」
 手をしっかりと繋ぎ、2人で潜って行く。
 本当に、来てよかったと海依音は一つ呟いて、なぎさが頷いた。
「なぎさちゃん、お誘い有難う」
 ロアンは海から上がったなぎさを迎えた。
「妹が増えたみたいで嬉しいよ」
「えっと……」
 少し照れた様な表情で髪を拭くなぎさ。
 陽気な歌を一緒に歌い、青を抱く水面に手を伸ばせば、光る魚の群れ。
 目の眩むような“アオ”の中、ロアンは少女を見つめた。
 妹のアオ、なぎさのアオ。複雑な心境を抱えるロアン。
「『視える』って、どんな感じなんだろう?」
「そうですね」
 怖く陰鬱として泣きながら起きる事も?々。
 こんな小さな女の子に、汚いモノや凄惨な未来を多く視せて……神様、僕は貴方が嫌いだよ。
 その悪夢を唯一変えてくれるのはリベリスタなのだ。
 ロアンも其の一人なのだと、なぎさは語った。

「入り口はまた狭いですね。身を屈めるにも限度というものが……」
 大きい弟が引っかからないだろうかと心配そうなユーヌの瞳。
 それを見て、テュルクは大丈夫だと手を振った。
「最近回避は鍛えてまして」
 ヒュッ
 ――ガッ!
 ……バタン
「ふむ、無用な心配だったか」
「あはは、そうやって寝てくれてた方が、お兄ちゃんぐらいデカイと入りやすいな」
 陽気なゴンドリエーレが船体に横たわるテュルクを見て笑顔になる。
 中に入った姉弟を迎えたのは、シンフォニー・ブルーの青。
「あぁ、これは素晴らしい」
 テュルクが感嘆の声を上げれば、ユーヌもそれに頷き揺れる水面に顔を寄せる。
「うん、良い色合い。吸い込まれそうになるな、綺麗な海だと」
 艶やかなユーヌの黒髪は青を反射してインク・ブルーに色づいていた。
 それは、モノクロな姉弟にとっては新鮮でとても相応しいものだとテュルクは思う。
「即興ですが……妖精を、呼んでみます」
 自然が作る魔法に乗って、無表情で踊る弟。それを無表情で見つめる姉。
 外から見れば、一見仲の悪い兄妹に見えるのかもしれない。
 けれど、親しい友人達がこの光景を見れば、姉も弟も実に楽しげにしている事が見て取れる。
 青が弟が揺らめく度にユーヌの口元が少しばかり微笑みを見せるのだから。

「ふわぁあ……! グレイさんグレイさん、とってもとってもキレイなのです……っ」
 輝く青の水面とゴンドリエーレの陽気な歌声は洞窟の中に乱反射していた。
 声も光も共鳴して歌う。その様子はまるで、自然に溶け込んだクラシックの如く、グレイと小町を洞窟のメロディホールへと誘うのだ。
「ホールで聴くクラシックも良い物だが、こういった自然の中で、と言うのも悪くない。ここだけでしか味わえないモノだろうしな?」
「はいっ、このおうたが一番似合う舞台です。このおうたも、きっと此処で奏でられるのがいちばんキレイに響くですね」
 洞窟の光でパフェ・グレープになった瞳をキラキラと輝かせながら小町は小声でグレイに話しかける。
「小町も楽しんだか? この南の島のバカンス、てヤツをさ」
 自分でも呆れるほど保護者の様な発言。けれど、彼女はとびきりの笑顔をグレイに向けた。
「こまちとってもたくさん楽しかったです……! グレイさん、誘ってくれてありがとございましたのようっ」
「まァ、また戻ったらクラシックでも聞きに行くとするか」
「次はクラシックですか? また次が、あるですね」
 重ねる約束が続けば、それだけ共にする時間が増えるということ。
 2人は揺れる青の船で小さく指切りをしたのだ。

 【ぼっちー】の3人はゴンドラの上で広がる水面に目を奪われていた。
「きれいだな、壱也!」
「ねー……、すごく、きれい」
 壱也のアザレアの瞳はラムネ瓶の中に入っているビー玉を思い描く。或いはアクアリウムに沈められたものか。
 ……しかし、あれだな。こういうのに乗ってると、ゴンドラ揺らしたくなるな…。
 竜一は無言で小刻みにゴンドラを揺らし始めた。
 最初は小さく、どんどん大きく。
 (ゆらゆら)
 ……(ゆさゆさ)
 壱也がゴンドラの縁に手を掛けた瞬間を狙い、大きく船体を揺らす竜一。
「うわわ! おおおお落ちる!! ちょっと竜一くん!?」
「わわっ! 竜一は暴れちゃダメなのだぞ。落ちちゃうじゃないか」
「はっ!? らいよんに怒られたー」
 しゅんとなった竜一を壱也は吸い込まれそうになった海へと誘う。
「あ、そうだ。ちょっと潜ってみようよ!」
 雷音はゴンドリエーレからマスクとスノーケルを受取り、青の海へと純白の羽根を潜らせる。
 続く2人もボチャンと入り込み、沈まないようにフィンをゆっくりと動かしていた。
「つーか、不思議だな。なんで青いんだ? うーむ……青い」
 まるで其処は人魚の住処の様に神秘的。それに、可愛い2人の人魚も傍にいる。(胸ないけど)
 吸い込まれそうな青に壱也は少しだけ怖くなって、雷音と竜一の手を握った。
「うん、大丈夫」
 ゴンドラから見る青と海中で見る青は少しばかり違う。水面の反射が無い内側はもっと鮮明なのだ。
 海に魅了されている少女達の頭を竜一は優しく撫でる。
「よしよし、らいよん。よしよし、いっちー」
「な、なんでなでられてるんだろ。まあ今日ぐら許す……! でも、胸ないとか思ってたでしょ」
「え……」
 きゃっきゃとはしゃいだ後は、満足気にゴンドラに戻る3人。
「素敵な青だった。二人と一緒に見れて、ボクは嬉しいのだ」
「すごく綺麗だったね。わたしも嬉しい!」
 これが世界の優しさだろうか。一面の青が雷音の心を少しだけ癒していく。
「いい、思い出ができたな」
 この光景を忘れぬように、帰ったら手紙に記そう。

●ミラニーズ・ブルーの蒼
 初めての南の島に心を踊らせているのは櫻子だった。
 ……櫻霞様とバカンスなんて素敵ですにゃ
 にぱぁとした笑顔を隣の櫻霞に向ける。
「洞窟って初めてなのですにゃー……でも、櫻霞様が一緒だから怖くないのです」
 頬を少しだけ朱に染めて、もちろん、しっかりと彼の手は握っていた。
「ある程度なら光もあるだろうし、明るいなら怖くもあるまい?」
 櫻霞も櫻子が居なくならないよう、そっと小さな手を握り返す。
 丁度座れそうな場所に落ち着いた2人は、暫し時の過ぎるまま蒼の光苔を瞳に写していた。
 ふと、視線を感じた櫻霞が櫻子を見ると、今にでも飛びついてきそうなぐらいに尻尾をフリフリとさせた彼女が此方を見つめていた。
「ふにゃ、ふにゃ~……」
 おいでと膝に乗せれば、コロコロと寄り添う子猫。頬をすりすり。ころころ。
「本当に甘えたがリだな? まあこれも何時ものことか」
「何時も通りですけれど、櫻霞様にぴったりすると幸せなのですにゃ~♪」
 櫻子の長い髪を撫でながら櫻霞は優しげに彼女を見つめるのだった。

「うわぁ…!」
 ミラニーズ・ブルーの水路に広がる光苔に声を上げたのはアリステアだ。
 隣には涼が彼女の手をつなぎながら小さな2人乗りのゴンドラを漕いでいる。
 島の独特な暑さとは違い、この場所は陽の光を浴びない分温度が低い。
「少し肌寒いかもしれないけども、アリステアは大丈夫?」
「うん……!」
 握りしめた手の暖かさを感じられるから。
「でも、賑やかなバカンスの南の島の中だけれども。今此処には俺達二人みたいな感じに錯覚するね」
 見えるのは仄かな蒼の灯り、聞こえるのは静かな波音。
 周りには誰も居ないのだろう。
「でも、まあ、キミとこんな感じで二人きりでいるのも落ち着くし嬉しいな、て思ったりするよ」
「じゃあ、ちょっとだけ甘えさせてね?」
 そっと寄り添う様に身体を涼に預けるアリステア。
 握っていた手で彼女の肩をしっかりと抱き寄せる涼。
 余った指は空いたアリステアの手に絡ませて。いつもより、近い距離。
 冷たい気温も2人で居れば、あたたかいものに変わっていく。
 三高平に帰れば、戦いの日々が続くだろう。
 だから、せめて今だけは―――2人だけのぬくもりを感じていたい。
 絡めた指先も肩から伝わる体温も。
 ミラニーズ・ブルーの灯りも。
 全て、2人だけの時間。

 海蝕洞か……こういう所は浪漫があって良いな。神秘的っていうかさ。
 猛はリセリアの手を繋ぎ、蒼の水路脇にある細道を歩いていた。
 先が仄かに明るいデルファイァ・ブルーに輝いているのが見えたからである。
「苔が生えてるみたいだし、気をつけてな。大丈夫だとは思うが」
「はい」
 擽られる冒険心の赴くまま、ぴたりと寄り添い光のある方へ向かっていく。
 視界が開けるとドームになった壁一面に蒼に輝く光苔が現れた。
「わぁ……」
 初めて目にする光景にリセリアは目を見張る。
 光の無い洞窟で灯る光。不思議な光景を綺麗だと彼女は思った。
 ふと、足を止めた猛がつぶやく。
「少し寒いな……やっぱ洞窟だからかね」
「確かに、ちょっと肌寒くなってきましたね」
 羽織った浴衣の前を強くかき合わせたリセリアを猛は自分の腕の中に抱き寄せた。
「――え、きゃっ」
 誰も見ていないとはいえ、力強く抱きしめられれば慌てもする。
 しかもだ。
「好きだぜ、リセリア」
「ち、ちょっと猛さん――ん」
 そのまま唇をリセリアの唇を奪った猛。
 少しだけ冷たい表面が、直ぐに熱を帯びてくるのと同時に、相手の体温を感じて頬が染まっていく。
 柔らかい感触が唇から離れていけば、むにっと猛の頬を指で摘んだ。
「……もう」
「身体も心も温まった所で先に進もうか!」
 にっかり笑った彼が手を引いて、先の通路に足を踏み出す。
 確かに温かいけど……その、ねえ?
 声に出さない言葉はリセリアの朱に染まる頬にくっきりと現れていた。

「ゴンドラか、春のイタリア旅行を思い出すな」
 正太郎と遠子は2人でゴンドラを漕いでここまで来た。
 旅行では正太郎が船から落ちて大変だったよねと微笑む。
「今度は落ちないでね……」
 それでも、眼鏡越しのブラック・ジェイドの瞳は心配そうに正太郎の行動を追っていた。
「まかせとけ! あの後、帰国するまでさんざか練習したんだぜ」
 得意気にオールを漕ぎだす彼。
 へへっ、遠子もゴンドラを気に入ってたみてえだしよ。次は二人で乗ってみたいと思ってたのさ。
「どうよ、遠子。なかなか様になってきてんだろ?」
「綺麗だね……。物語の中に出てきそう」
 正太郎の華麗なオール捌きに安心すれば、蒼の灯りが幻想的に光っている事に気がついた。
「先はどんな物語に繋がっているんだろう……」
 仄かに照らされる天井と水面。淡い色合い。
 其処に見える物語はどんなものだろう。小さなアイル・トーン・ブルーの妖精がふわりと飛び立つ様子を黒翡翠の瞳で思い描いた遠子。
「おっ、そうだ! 遠子が歌えばいいんだよ。カンツォーネを一曲たのむぜ」
「えっと、歌……?」
 物語の世界に引きこまれていた遠子を引き戻したのは正太郎の声だ。
「でも、私、声小さいし…本場のゴンドラ乗りさんみたいに陽気に歌えないよ……?」
「二人で一人のゴンドリエーレだ!」
 彼の笑顔に負けて、遠子は小さな歌声を洞窟の中に響かせる。
 それは、優しい旋律を伴っているのだった。

「ゴンドラに乗って洞窟を行くなんて、わくわくしちゃいますね」
「ふふ、そうね。何だか海と星の狭間を探検している気分」
 三千の隣にはロイヤルブルーのキャミソールドレスの下に白ビキニを着ているミュゼーヌが居る。
 天井を見れば仄かに光る蒼の光苔。
「壁がでこぼこしているからか、どことなく海面みたいです」
「洞窟もこの辺りまで来ると、中々涼しいわね。避暑地にもってこいかしら」
 ふと、少しばかり身体が震えて居ることに気づいた2人。
 ミュゼーヌは三千に気を使わせないように平気な振りをして見せる。
 平素露出を好まない彼女の柔肌は透き通る様に白く美しい。それに加え蒼のドレスに白の水着は三千の心を揺らしたのだろうか。
「こうすれば、少しは暖かいでしょうか・・・?」
「ひゃっ、あ、うん……暖かい」
 回された腕の力強さに寒さとは別の意味で身を縮めるミュゼーヌ。
 暖かさと安心感で心に熱が広がっていくと同時に、水色の鼓動が回転数を上げた。
 いつもとは違う大胆で逞しい腕のぬくもりは、彼女の頬をオパール・ピーチへと染めていく。
 ドキドキと木霊する鼓動さえも心地よく、ミュゼーヌは三千に身を委ねた。
「夏に涼しさを感じられるのも、ちょっとだけ贅沢な感じかもですね、えへへ」
「ん……これだったら、夏でもいっぱいくっついていられるし……ね」

 フィリスと琥珀は蒼の水路から少し奥まった場所に足を踏み入れていた。
「ほう……光苔か。これの御蔭で、多少の暗さなら問題ないと言う事か」
「昏く深い蒼に、光で照らす苔か。幻想的だなぁ」
 目の前に広がるのは壁一面のミラニーズ・ブルーの仄光。
 物珍しそうに辺りを見渡すフィリスに応える琥珀も感嘆の声を上げている。
 普段熾烈な戦場を渡り歩いているんだ、戦場から離れて羽を伸ばせるのは悪くない。
「この奥には、確かもっと面白そうな物があるのだな。良し、早速行くとするぞ、浅葱!」
 いつもより元気な紅蓮姫は友を催促した。
「むっ?」
「っておぉ? あっぶね!」
 フィリスの身体が傾ぐ。苔に足を取られたのだ。
 しかし、琥珀はしっかりと彼女の美しい身体を支えていた。
「な、なかなかやるではないか浅葱。助かったぞ」
 紅蓮の花があしらわれたパール・ホワイトの水着がパーカーからチラリと見えて。
 助けられた恥ずかしさからフィリスの頬がオーロラ・ピンクに染まっていく。
 普段の凛々しさからは想像も出来ない程のギャップ。
 琥珀は自分だけに見せるその変化をたまらなく可愛いと思っていた。
「足元注意だぞ?」
 ぽんぽんと背中を叩いて立ち上がらせる。
「こほん。ともあれ、先に進むとしよう。まだ先もある様だしな?」
「ああ、最後までバッチリ楽しむぞ!」
 蒼の水路の奥のその奥へと歩き出した2人の手は、しっかりと繋がれていた。

「強引に連れ出すなんて、何時にも増して積極的ですね」
「あ、すみません」
「いえ、年相応な貴女の姿が見れて私は嬉しいですよ」
 那由他となぎさを乗せたゴンドラは蒼の水路を進んでいた。
 グラファイトの黒はなぎさを見つめて微笑みを浮かべる。
『そうですね、今日位は家族のことも忘れて楽しんでも良いかもしれませんね。
 あ、ひょっとしてもう忘れてました?』
 なーんて言ったら傷つくでしょうか。
 どんな顔で私を見るのか知りたいなあ……言っちゃおうかなあ。
 漣の深淵を覗くことが出来る邪悪の道化の様な笑み。
 そのまま発声をすれば、引っ掛かりもせず言葉に出せる悪意。
「山田さn「那由他です」
「……すみません……わっ!?」
 瞬間になぎさの身体が暖かいものに包まれた。那由他に抱きしめられたのだ。
「んー、なぎささんってあったかいですよねー。私とは大違いですよ」
「子供だからでしょうか?」
「体温の話じゃなくて、心の話です」
 なぎさには那由他の言葉の意味が分からなかったが、こんなにも誰かに抱きしめられたのは家族を失って以来、初めてだった。
 暖かさへの安堵か、海色の瞳に込み上げる熱いもの。けれど、決して落とさない雫。
 ――つまりは、貴女に嫌われたくは無いと思う位は、貴女のことが好きって話なだけですよ。

●ブライト・シーの碧
 アクア・ブルーの水着と白いシャツを羽織り、岸辺に寝そべっているのは光介だ。
 エメラルドグリーンの水面が彼のクリーム・シルバーの髪に優しく反射する。
 醒めるようなアオと、身体が引きずられるような遠く響く漣の音。目を瞑ると反響する思考と感情。
 先日の戦場に紛れた「ノイズ」を思い出してしまう。
 狂いかけの音。破滅への螺旋。
 追い続ければ、光介もその不協和音に足を取られて抜け出せなくなる。そんな、漣(ノイズ)。
「光介さん?」
 場違いな思考を、苦笑で隠して光介は隣のなぎさに声を掛けた。
「海、楽しんでますか?」
「はい! とっても楽しいです。こんなに綺麗な場所は生まれて初めてです」
 光介はなぎさに聞いてみたい事があった。
 本当に聞きたい事、伝えたいことはまだ言うべきでは無いけれど。
 光介が追い求める男と再び相見えるまで、彼女には一切を伝えないと決めているからこそ。
「波の音は好きになれそうですか?」
 この言葉を選んだ。
 できれば好きであってほしい。
 あなたにとってのアオは。漣は。家族との思い出は。
「はい! なんだか、懐かしい感じがします。変ですよね」
 この洞窟のように、素敵な色合いであってくれればいい。
「いいえ、変では無いですよ」
 この先も、ずっと。ボクなんかが狂ってしまったとしても、ずっと。

 【ダイビング】の2人。快と悠里は完全装備で海に浸かっていた。
「男二人でっていうのも色気のない話だけど……」
 そんな事気にならない程、悠里は目の前のシー・グリーンが織りなす煌めきに魅了されている。
「ところで、これ着込んだら誰かわからないよね」
 ダイビング装備を装着しながら、隣の快に念のため確認をした。
 背格好からして分かるけれど、念のためである。

「守護神ですか?」
「違います」

 悠里、それ俺じゃない。と快は涙を流した……気がする。
「悠里、俺はこっちだよ」
 浅い場所から深い所へ。
 スノーケリングでは行けない深い海底近く。
 透明度の高い海だからこそ、差し込む太陽は其の光を海底にまで十分に届かせる。
 そこに住まう魚達も極彩色のカラフルを乗せて自由に泳ぎまわっていた。
「透明度の高い海だから広く視界が取って綺麗だなぁ」
「綺麗な海だから、ゴンドラや海面で遊んでる人も見えるね」
 カテドラルの黒の水着が天乃の白くて細い身体にフィットしていた。
 彼女の横に居るのはアークのマスコットえんじぇるエフィカたんである。
 胸元にフリルをあしらったセパレート水着は白地に花柄という清楚な印象。
 腰には空と向日葵のパレオ。清純派アーク職員は今日も可愛い。
 天乃がお弁当を岸に置いて、ゴムボートを出してくる。
 もちろん、エフィカを乗せている。
 適当な位置にレモンのボートを浮かべ、お喋りに興じた。
「この間、はお疲れ様……必要なら、泳ぎ教えるけど」
 アウトドアが好きなエフィカの為に天乃は泳ぎを勧めてみる。
「何時までも苦手って逃げてたら駄目ですよねっ」
 ポチャンと天乃に支えられてエメラルドグリーンの海に入れば、広がる色彩のカーニバル。
「すごい……っ」
 脇を抜けていく魚や煌めく水面。
 天乃はエフィカの手を取って泳ぐ練習をさせてあげる。
 羽根が生えてからうまく泳げない彼女にとって、水中呼吸に水上歩行を持つ天乃は先生の様だった。
「うんうん。その調子」
「は、はいっ!」

「エフィカさんと天乃さん、手振ってるのに気づくかな?」
 海の底の【ダイビング】チームは水面に揺れる2人を見て手を振ってた。
 エフィカがマスクから海中を覗くと、悠里と快が手を振っている。
「天乃さん、見て下さいっ。快さんと悠里さんが居ますよっ!」
 天乃とエフィカは大きく手を振り返す。
 2人で魚を追いかけてくるくる。
 碧の海を堪能していた快と悠里はタイミングを合わせてエフィカと天乃目掛け急浮上。
 イルカのようにエメラルドグリーンの水面に飛び出してジャンプ!
「わー!」
「わ……わぁ、わあぁっ!」
「びっくりした?」
「もぅ!……すごく、びっくりしましたよっ!」
 したり顔のダイビングチームはやったねとハイタッチ。
 その光景を近くの岩場で眺めているのは鎖蓮である。母校と呼ばれるこの男の視線の先は……。
 (エフィカさん……)
 あえて口には出さないが、楽しげにはしゃぐオパール・グリーンの天使を見つめていた。
 母校の名に恥じぬよう、背筋をぴんと伸ばした彼の膝には手製のお弁当が広げられている。
 ふりかけご飯に赤いタコさんウィンナー。ひよこに見えるようカレー粉の色を着けたうずらの卵。野菜のベーコン巻き。ミニトマト。茹でたブロッコリー。
 ひよこに1つだけかまぼこの小さな羽根がついていた。
 ――モデルは……これは私の心にだけ留めます。
 それでも、追ってしまう視線にエフィカは気づいた。
 会話が聞こえるぐらいの場所に、鎖蓮が居る事を。
 何故だろう、優しげに微笑みを浮かべる彼から目が離せない。
 エフィカのハイライトが急速に明度を落として行った。

 随分凄ぇ場所だなオイ……。
 火車はエメラルドグリーンに輝く楽園を目にして隣の黎子に視線を向ける。
「私とて一人では来にくい場所というのはあるのです……こういった場所も悪くないと思いませんか?」
「一人じゃ恐いとかそういうんじゃねぇなコレ……。一人では……辛い系の……。あぁまぁ……嫌いじゃねぇよ こういうのも」
 いや泳げないからとかそういう話ではなくてですね。と弁解する黎子だったが。
 煌めく碧の海を魅入られたように見つめている。
 (いやしかし、確かにここまで来て見ないのも勿体無い……波もありませんし潜るくらいは……)
 波打ち際に立つ黎子に火車は、せっかくのやる気に水を差すまいと行動を眺めていた。
「ちょっと、ちょっとだけ潜って見てみます。足着くし。宮部乃宮さん溺れてたら引き揚げてくださいね」
「そりゃ溺れてたら引き揚げたるよ」
 ボーっと溺れて行くのを見届ける火車。
 (……なるほど、これはすごいものですね。日本でこんな光景が見れるとは驚きです)
 ザバッと水面から顔を出した黎子は火車を手招きする。
「んっ!?あぁ…足着くのな」
「宮部乃宮さーん、すごいですよ! 一緒に沈みもとい潜ってみましょう」
 彼女の誘いに仕方がないと火車は返事を返した。本当に溺れられても困るのだ。
「ハイハイ あんま離れんなよ」
 遊び倒してお腹が空いてくれば昼食にしよう。
 もちろん、お弁当の中身は唐揚げで!

「青い洞窟も綺麗だったけど、これぞ南の海! って感じの色だね☆」
 終は碧の岩場に立ち、レッツダイブ☆と飛び込んだ。
「うわあ……。すっごい一面綺麗なエメラルドグリーンだぁ」
 イソギンチャクの間に揺れる小魚達も海の色に対抗するようにビビットカラー。
 スノーケルから立ち昇る泡も色彩の水中では真珠の様に優しい光を帯びる。
「あー。昔、こうやって海の中から空を眺めるの好きだったなぁ」
 海の青と空の青が陽の光がゆらゆらきらきら。
 不思議と時間が経つのを忘れて魅入ってしまったのが原因で溺れたと勘違いされたことも。
「さーて☆」
 友達のお土産に綺麗な貝殻を探す終だった。
「なぎささんも御一緒にエメラルドグリーンの海を見ながらお弁当でも食べませんか?」
「はいっ!」
 そあらの誘いに元気よく応えるなぎさ。
 ぴゅあわんこのとっておきのお弁当。
「からあげにサーモンのマリネ、デザートにはみかんのアレがあるですよ」
 アレとは何か。アレとは。
「興味があります」
 身を乗り出して覗きこむ夢見。楽しいランチタイムが始まる。
「日本にもこんな綺麗な海と洞窟があるのですねぇ」
「此処って日本なのですか?」
「えっ」
「えっ」
 ちょっと泳いでみようと波打ち際に立つそあらだったが。
「……と思ったですけれどあたし泳ぎはあまり得意じゃなかったです」
 (´・ω・`)

 スケキヨとルアが乗るゴンドラがゆっくりと碧い海の岸辺に止まる。
 エメラルドグリーンの海に足を着ける……その前にルアは頭から落ちた。
「ぴえええー!?」
「船でゆったり……て、ルアくん!? 大丈夫かい?」
 がぼがぼ。
 よく見ると足が船の縁に引っかかっている。
 スケキヨに助けだされたルアはそのまま海に入り込んだ。
「濡れちゃったね……よし、このまま泳いで、とことん濡れちゃおうか」
 どんなに深い場所でも彼の優しい腕がしっかりと抱きしめてくれる。
 その腕に捕まってゆらゆらふわふわ。
 遊び疲れたらパラダイス・グリーンの木の下でお弁当。
「前ルアくんにお弁当を作って貰ったから……今日はボクの番」
「スケキヨさんが作ってきてくれたの!? わぁ! 嬉しいの!!!」
 広げられたバックの中身は傷まないように保冷剤で冷やされた、シンプルだけど栄養バランスの考えられたお弁当。
 ルアは笑顔でスケキヨの膝の上に座り、口いっぱいに頬張った。
 ふと、彼の指に溢れた米粒が着いてるのを見つけた少女は、ぺろりと舌で舐めとる。
 ルアの暖かさが冷えた指に心地いい。
「フフフ、有難う」
 スケキヨがルアの小さな身体をぎゅうと抱きしめれば、悪戯っぽい笑みが照れた笑顔に変わる。

 フツとあひるは足が海面に届くぐらいの岩場に座ってランチタイムを共に過ごしていた。
「洞窟の奥に、こんな場所があったなんて知らなかったぜ」
 こういう場所は上から見れば只の穴である。下から見るからこそ岩場に現れた陽の光に感銘を受けるのだ。
「奥まった所だから、涼しくて……幻想的な景色が広がってて、来てよかった」
 2人で色々な場所に赴いたが、まだ見ぬ素晴らしい風景が在るのだとワクワクするあひる。
「さあ、弁当食おうぜ、弁当!」
 足を水面に着けてバシャバシャと水滴を飛ばすフツ。
「ホラ、あっくんも、サンダル脱いでやってみ。魚に足を突かれないように」
「ん!? お、お魚、あひるの足に、噛み付かないよね……!?」
「……なんつって、冗談だぜ、ウヒヒ。」
 軽快に笑う彼に頬を膨らませるジェイドの天使。
 くぅ。――そろそろお腹が鳴り出した。
「じゃーん、今日はベーグルのサンドイッチです
こっちはセロリのマリネに、生春巻き……」
「南国風っつーか、鮮やかで食欲をそそるよな……ム、これなんだい?」
「うん! よくぞお気づきになりました、南国風です、頑張ったのです!」
 普段と違うメニューは薄皮の中に色彩豊かな具とスイートチリソースが掛った生春巻き、爽やかな香りとさっぱりした味わいのセロリと赤パプリカのマリネだ。
 フツの優しい笑顔と逞しい手があひるの頭を撫でていく。
「普段と違う場所で食べるとまた一層ウマイ!」
「えへへっ……」
 食後の運動は忘れずに。碧の海を2人で満喫するのだ。

 【天守】の引率こと、楠神 風斗は年長者として子供達が危ない目に合わないように目を光らせていた。
 今日は苗字と名前の間に奇妙なフリガナやミドルネームは無い様子である。
「ほわー……ほわー! 綺麗なもんじゃのう……自然の力というのは素晴らしい物じゃな!」
 もう一人の年長者、レイラインが碧の楽園に驚嘆の声を上げた。
 何故だろう。風斗のラッキー・グリーンの瞳が逸らされたのは。
 ……まあ、うん、お年寄りに無理はさせられないかな、って……彼女は純粋に楽しんでくれればいいんじゃないかな……
 ――おっと、はしゃぎすぎんようにせねば。今日は孤児院の子供達を引率する立場じゃからな。
 しかしである、レイラインの二股の尻尾は毛玉で遊ぶ猫の様にゆらゆらと揺れている。
 ふと、尻尾の動きが止まった。
 風斗一人に任せては大変じゃろうし、偶にはあの子も伸び伸び楽しんでもらわねば、な。
 張り詰めた空気の中で生きる少年に少しでも「子供」の特権を味わってほしいと思うのは彼女が還暦を過ぎた乙女だからだろうか。
「わーお、あずーら!」
「綺麗……それに、凄い」
 子供の特権、元気な声でエリエリが叫べば、小さな声で美伊奈が言葉を紡ぐ。
「まるでイタリアの映画みたいです! ……なんの映画でしたっけ」
 フォギー・ブルーの強い眼差しで小首を傾げてみせるエリエリ。
「日が差す時間は全然短いでしょうに……それでもこんなに育って」
 パラダイス・グリーンの木々を愛おしそうに撫でながら、美伊奈はミヨゾティの空を見上げた。
「でも、そうね。そうよね。僅かでも良い、日が差す時があるから、枯れずに居られる……」
 一番ではなくても、遠くても、ずっとではなくても。
 照らして貰えるなら……。
 優しい笑顔(ひかり)を少しでも向けてもらえるなら。それだけで、生きていく事ができるから。
 レガッタ・ブルーの瞳で“緑の色”に想いを馳せた。
 碧の海を堪能した後は、唸るお腹を満たすランチタイム!
「お弁当も用意したのです! みいちゃんと料理勝負なので、気合入れたのですよー」
「私は梅おにぎりと、手作りの蜂蜜梅」
「このロケーションを考慮したお弁当! 食べやすく運びやすい……そう! サンドイッチなのです!」
「エリエリと美伊奈、二人共お弁当作ってきたんじゃな。偉いのう……あれ、わらわこの中で一番女子力低い?」
 おっと、それでいいのか恋する乙女。氷を纏う彼とは……先日はプールでお楽しみでしたね!
 そんな彼女を応援するエリエリが持ってきたサンドイッチの中身は、普段野菜等をあまり取って居なさそうな引率2人の健康を考えたサラダサンド。
 食べやすいよう煮込んだラタトゥイユ風ソースで更に野菜みっちり。
 トマトにタマネギ、パプリカ。ナスとズッキーニ等の夏野菜をレタスで包み、ハーブ、白ワインの風味が香る上品な味。肉はヘルシーな鶏むね肉の自家製ハムを使って。
 美伊奈が差し出したのは乗り物酔いに効く、梅のおにぎり。
 甘くてちょっぴり酸っぱい蜂蜜梅。それと消化に良いリンゴは、うさぎのかたちをしている。
「どっちが良かったですか?」
「……む? 料理の判定!? うむぅ……どちらも美味しかったんじゃが……」
「何? どっちが美味いかって? ……い、いや、どっちも甲乙付け難いなあ、はははは……」
 こんなに素晴らしい景色の中で、仲の良い「家族」で食べるお弁当はどれを食べても美味しいから。
 来年もまたこうして一緒に美味しいごはんを食べたいと思うのだ。

「青に蒼、そして碧か。言葉一つでよくぞ海の色の変化を表現できるものだ」
「洞窟外にある海も、ここにある海も同じもの。なのに、こんなにも違うんだなんてすごいね」
 オフェリアからブライト・シーを経てターコイズへと色を変える碧の海。
 碧というだけでも、こんなにも沢山の色を持っている。
 宝石箱の様な海の色を前に瑞樹の手を引く優希。
 スノーケルとマスク、シアンとカーマインのフィンを着けて海中へと入った。
 広がる海の色彩。エメラルドグリーンの碧。
 日を照り返し水面の反射が輝く中、想像を絶する光景に優希は驚き振り返る。
 そこに居るのは浮遊感を楽しむ瑞樹だ。
 プリムローズ・イエローの光に照らされて際立つ、彼女が抱く「青」を優希はじっと見つめる。
 瑞樹が持つ青リンドウの瞳がとても美しかった。
 ――このまま融けて、消えてしまいそう。
 揺られる波間に己の存在が乖離していく感覚を覚えた少女だったが、掴まれた手のぬくもりを思い出した。
 触れた場所から伝わる優希の暖かさ。
 強く握られた手を同じように握り返して、互いの笑顔に安堵する。
 共に泳いだウミガメがすうっと離れていくのを見送って海面に浮上した2人。
「竜宮城があるとしたらこのような光景に包まれているのだろうか?」
 子供っぽい発言をした事にたいして頬が熱くなるのを感じた優希。
「竜宮城かあ……ふふ、あそこがそうだったのかもしれないよ」
 その照れた表情を優しく見守る瑞樹の口元はとても嬉しげだった。

「綺麗で澄んだ海の中みたいな隠れ家ね。素敵。ありがとう、カズト君。連れて来てくれて」
「最近、あざっちゃんと一緒に遊びに行くのなかったもんね。たまにはこんなきれいな場所でお弁当なんてどう? ちなみに、サンドイッチは僕特製。お姫様の口に合えばいいんだけど」
「お弁当もバッチリね。準備のいい人はポイント高いわよ?」
 ベーシックな卵とポテトサラダ。トマトとレタスにスパム。
「意外と僕料理はできるんだよ。喫茶店やってるしね」
「ほんと見事ね。私の出番がないくらい」
 ふふっとアティック・ローズの瞳で糾華は笑う。
「ところでここに冷えたジャスミンティーの入った水筒があるのだけれど?」
 飲み物を忘れた夏栖斗のフォローもお手の物。
「どう? 美味しい?」
「うん、すごく美味しい」
 パートナーが居る彼と行動を共にすることは、糾華には難しい。
 けれど、それも、もう思い出の中にしか存在しない。
「妹分に出来るのはこれくらい……よね」
 気遣うように夏栖斗の頭を撫でる糾華。その糾華さえ消えてしまいそうで夏栖斗は金の瞳で問う。
「あざっちゃんは何処にもいかないよね?」
 不躾な質問に少女はきょとんとしたが、すぐに言葉を返した。
「私はね、幸せになりたいの」
「そっか」
 幸せになるためには生きていなくてはいけないから。
 ……きっとね。

 自然の織りなす、青と蒼と碧の海で交わした心はサニー・ゴールドの太陽に煌めく螺旋の記憶を記した。
 いつまでも遠くに続く漣が揺れる波が、名残惜しいと眠りに落ちる間際に身体を揺する。
 アオを抱きながらアウタースペース・ブルーのゆりかごで瞼を閉じた。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
お疲れ様でした。
南の島での『アオ』のアルバムを楽しんで頂けたでしょうか。
いつか、本物の青の洞窟に行けるのを楽しみにしている、もみじでした。