●三行で分かる依頼内容 夏だ! 海だ! 修行だ! ●砂場のランニングは足腰が鍛えられる 「海でござるー!」 海岸を走るのは水着を着た『クノイチフュリエ』リシェナ・ミスカルフォ(nBNE000256)。夏の暑さなど何のその。始めてみる海に開放的になって走っていた。割といつもと変わらないというが。 「修行?」 「まぁな」 リベリスタの疑問に『菊に杯』九条・徹(nBNE000200)が答えた。この酒好き、日陰でビールを飲んでいやがる。 「えーと、僕ら南の島にバカンスに来たんですよね? 何で修行?」 「九月に『魔神王』が攻めてくるだろ? なので福利厚生とはいえ遊んでいるわけには行かない。幸か不幸か海での修行は定番だ。そういうわけだよ」 徹の説明に釈然としないリベリスタ。それもそのはず。 「……あそこでビーチフラッグしてますけど」 「瞬発力とダッシュ力を鍛えてるんだ」 「あっちで泳いでません?」 「水泳は効率のいい全身運動なんだよ」 「ビーチバレー……」 「球技による対戦は心理戦の訓練と同時にとっさの連携にも役立つんだよ」 「じゃあスイカ割りは心眼を鍛えるとかそういうのですか?」 「いいねぇ。それいただき」 沈黙が落ちる。 全てを咀嚼し、可能な限りオブラートに包んでリベリスタは徹に言う。 「要するに、修行にかこつけて遊んでるだけ……?」 「逆だ。修行という名目をつけないと海で息抜きしない輩が多すぎる。メリハリつけるのも大事なんだよ」 徹は言ってビールを口にした。『親衛隊』の戦いからすぐの福利厚生。そもそも『親衛隊』の決着を急いだのはすぐ後に『魔神王』との戦いがあるからだ。そんなときに遊んでる余裕なんてない、というリベリスタも少なくない。 そういった人たちを騙s……理由を与えて息抜きをさせようというのが目的だ。まぁ、実際に体を鍛える人もいるし、適度に体を動かすこと自体は悪くない。なるほど、それが目的かとリベリスタは納得し、 「……で、九条さんは何をしてるんですか?」 「決まってるだろ。俺はその辺が分かってるから酒呑んで気を緩ませてるんだよ」 やっぱり釈然としないものを感じるのであった。 「ざっぶーーーーん!」 遠くではリシェナが派手な水しぶきを上げていた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:どくどく | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年09月08日(日)23:03 |
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●フォーチュナ二人 暑い太陽の下、明るい声が響き渡る。 「ハーイ、三高平のウェスタンヒーローことロイヤーさんデースよ!」 アメリカンなビキニを着たロイヤーが、ビール缶片手にハイテンションだった。いつもビキニの彼女にとって、水着大会など無意味。その道は既に通りすぎていた。 「プッハー! デリシャス! 暑い中で冷えたビールは最高デスね! ぎろぎろも一杯呑む?」 「じゃあ一杯。ところでこのビールはどこから持ってきたんです?」 ロイヤーの隣にいるギロチンがビールを受け取る。プルタブを開けながら何とはなしに問いかけた。 「はげのおっちゃんからパクりました」 ギロチンのビールを飲む手が一瞬止まる。九条さんのかようわやっべー、と思いながら全部ロイヤーさんに押し付ければいいやと思い直して、嚥下する。ぼくはしらない。 「ヒーローたる者、強大な敵を相手にする前には修行して必殺技を編み出すものデース。日朝のヒーロータイムで見て覚えたネ」 「そうですね。ところでロイヤーさんは訓練しないんですか?」 「ビール飲んで胃を鍛える訓練だヨ。もう一杯!」 「じゃあぼくも」 フォーチュナ二人してビールを飲む。訓練なんてただの名目だ。適度に気を抜くのも、次の戦いに備えてのこと。 「ワォー! カエルですヨ。酔っ払ってきたネ」 「ああ、アレはリシェナさんです」 酔ってテンションが高くなったロイヤー――いつもとあまり変わらない気もするが、まぁ――が遠くで走っているリシェナを指差す。カエルパーカーと水着。奇抜だが可愛い水着だ。ギロチンはそれを見て、疑問に思ったことを呟いた。 「凄く可愛らしい水着ですけど、泳ぎお上手なんですかね?」 ●泳げリベリスタ 「蛙に丸呑みされてます……!?」 リンシードはリシェナの水着を見てそんな感想を抱いた。そしてそんな水着かと気づいて、リシェナの胸部を見て二度驚いた。分かってはいたが相変わらずのおっぱいである。 「なんだかむしゃくしゃしてきたので水泳勝負しましょう……」 「何故!? でも勝負なら負けないでござるよ」 「あそこのブイに先にタッチした方が勝ちです。スピードなら負けませんよ……?」 「じゃあ行くでござるよ。よーい、どん!」 「ブリッツクリーク」 「ちょ!?」 驚くリシェナをよそにリンシードはあっという間にブイまでたどり着く。ようやく追いついたリシャナに向かい、勝ち誇ったように腕を組む。 「ふふっ……抵抗の差ですね」 胸の。心の中で付け足して虚しくなるリンシードであった。 「拓真って泳ぎは得意?」 「俺は……どうかな。得意か苦手かは少し判断がつかないが、泳ぐのは好きだぞ」 夏栖斗と拓真が浜辺で屈伸運動をしながらそんな会話をしていた。 「じゃあ、競争しようぜ! 先にブイに届いたほうが勝ちってことで」 「……一応ここは訓練場と聞いていたのだが」 「いや、マジで、マジで特訓だって! 全身運動で水泳はメジャーじゃん?」 手を振って訓練であることを強調する夏栖斗。こうやって拓真と遊ぶのは始めてである。夏栖斗は少しはしゃいでいるところがあった。そして拓真もそんな夏栖斗に気遣って、深く追求はしないことにした。 「あぁ、そうだな。ひたすら泳ぐと言うのは、昔から良くある訓練法だ」 「よっし! じゃあいくぜ!」 こうして夏栖斗と拓真が一斉に海に入る。二人ともクロールでブイまで泳ぎ始める。パワーで水をかき進む拓真と、柔軟な筋肉で泳ぐ夏栖斗。その結果は、 「よっしゃ! 僕の勝ち!」 「見事だ、夏栖斗」 一秒ほどの差で、夏栖斗に軍配があがった。ガッツポーズを取る夏栖斗。 沖まで戻った拓真は夏栖斗の肩をガッ、と掴む、 「今日はありがとうな、楽しい日が過ごせそうだ」 「おう! 明日も楽しもうぜ!」 明日もきっと、暑い日々が待っている。バカンスはまだ、終わらない。 シュスタイナは黒いビキニを着てフロートの上に寝転がっていた。波にあわせてゆらゆらと揺れるフロートは、ゆりかごのようで心地よい。シュスタイナ自身は泳げないのだが、 (泳げないけど、飛べるからそんなに問題ないしね) ということでのんびり見学していた。 視線の先には壱和とカルラ。カルラに泳ぎを教えてもらっている壱和を見ながら、襲ってくる眠気に身を任せる。 「このくらいなら、それなりに休みつつ練習にもなるな」 カルラは壱和の手をとって泳ぎを教えていた。何故かカルラは水着に着替えず普段着のままである。曰く『水に落とされたときの練習だ』とか。なにかのトラウマに引っかかるのかそれ以上は聞けなかったが。 「そうですか。ありがとうございます」 壱和は黒のツーピース水着を着て、カルラにつかまり足をばたばたと動かして、泳ぎの練習をしていた。プールは見学ばかりだったので、泳ぐ機会が少なかったのだ。最初は苦労したがコツを掴めば上達も早い。今日中には皆と遊ぶぐらいにはなるだろう。 水に慣れてくれば壱和にも余裕が出てくる。フロートの上でがんばってと手を振るシュスタイナ。泳がないのではなくてもしかして……? 「……カルラさん」 「あぁ、なるほど。一人だけ何の練習もなし、とはいかないなぁ」 アイコンタクトを交わし、ニヤリと笑う。シュスタイナの視線がそれている隙にフロートに近づいて……。 「……えいっ!」 「きゃあ!」 二人は一斉に力をこめてフロートをひっくり返した。上に載っていたシュスタイナはたまらず海に落とされる。 「シュスカさんだけずるいです。せっかくの海です。一緒に遊びましょう」 「折角一緒なんだ、付き合ってもらうさ」 「分かったわよ。二人がその気なら。私も本気でお相手するわ。二人ともずぶぬれにしてあげるわ!」 いつしか泳ぎの練習は水の掛け合いになる。訓練だったはずだけどもういいや。三人は笑いながら水を掛け合う。 「おぉ、結構割れるもんだなぁ」 モヨタは割れたスイカを前に驚きの声を上げていた。 革醒者は非革醒者に比べて力が優れているという。だが普段の相手は同じ革醒者のフィクサードかアーティファクトなど自分と同等かそれ以上の相手である。どれだけ強いのかピンとこなかったのだが……。 こうもあっさり潰れると、逆に恐怖に似た感情も生まれてくる。これが普通の人間に向けられればどうなるか。モヨタは自分の力を再認識した。上手くコントロールしなくてはいけない。 「まぁ、それはそれとして」 近くにあった椰子の実も試しに割ってみる。さすがにスイカほどあっさりとは行かなかったがそれでも割ることができた。そして美味しい。 「ほんまにいけるもんなんやなぁ」 モヨタのスイカ割りを見ながら椿が目隠しをする。木の棒を手にすることなく、無手で砂浜を歩いていく。何故素手かというと、 「最近物理攻撃覚えたことやし、ちょっと練習がてらスイカ割でもしよか! 素手やったら極道拳スイカにぶち込んでも大丈夫やろ……多分」 しかし物理攻撃293点に耐えうるスイカなどあるはずもなかった。ぱかーん、と小気味いい音を立てて砕けるスイカ。目隠ししてもESPがあるから無問題。 「……うん、あれやな、皆で食べよう思ったらもうちょっと加減は必要そうやな……」 とりあえず割ったのはロイヤーさんのところにもってこか、と椿は頭をかきながら割ったスイカを手にした。 「なるほど。ああやるんですね」 「いや、あれは違うから」 リセリアが椿のやり方を見て、なるほどと頷く。それにツッコミを入れる猛。 スイカ割りをやったことがないというリセリアに、じゃあやってみようと猛が提案する。そしてスイカ割りをやっている場所に来てみたらごらんの有様であった。 「それじゃあ、俺がやってみるから。目隠しした後はぐるぐる回してくれよ」 「分かりました。参考にさせてもらいます」 猛が目隠しをして木の棒を手にする。ぐるぐると回して、前が見えない状態で歩き出す猛。周りの人の声に導かれながら、少しずつスイカに近づいていく。 (心の目で……見る!) ここだ、と思った場所で猛は棒を振り下ろした。パコン、と音を立ててスイカが叩き割られる。 「見えない上に低い位置の目標。腰の入りきらない一振り。……当てるのは難しそうですね」 「次はリセリアだ。がんばれよ」 「やってみます」 目隠しをしながらリセリアが応える。そのまま深く意識を集中する。視界を封じたことで研ぎ澄まされる他の感覚。それを信じて一歩ずつ進む。――スイカまで先導しようとする声ががうるさいので、それほど深く集中はできなかったが。 (ここです) 振り下ろされる棒は、見事スイカの上部を砕いていた。 ●「折角水着なんだし、男女混合ビーチバレーで遊ぼう!」 と言う快の一言によりビーチバレー参加者は混合で行うことになった。チームを組んでいる人以外はくじ引きでチームを組むことになり、通りすがった毒々しい人が、慌ててくじ引きを作ったのである。 第一チーム:ミュゼーヌ&旭。 「可憐な華にも棘があるという事……思い知らせてあげましょう」 「ふたり一緒ならひゃくまんばりきなの! えへへ」 第二チーム:・喜平&プレインフェザー。 「……暑いな。はやりスーツはまずかったか」 「富永……マジでスーツ着てんの? 暑くねえ?」 第三チーム:快&そあら。 「よっしゃ! 男女ペア!」 「どうせやるなら勝つです! 優勝なのです! ……優勝とかってあったのでしたっけ?」 第四チーム:慧架&フツ。 「ビーチバレーって水着きてやるんでしたっけ?」 「本気で勝ちに来てるようなら受けて立つぜ!」 第五チーム:涼子&ウェスティア。 「なんでもありって言ったよね? つまりバーリトゥードだ!」 「やるからには本気で。1/10殺す気ぐらいでがんばる」 第六チーム:翔護&リシェナ。 「渚に現れたスーパーレシーバー、それがSHOGO。はい、キャッシュからの!」 「ぱにーっしゅ!」 そんな六チームの総当り。まずは第一チーム対第二チームから。 「全力トス! いけ、フェザー!」 「アターック! あれ、ウソ? 上手くいった? 奇跡じゃん、やったな!」 スーツ姿のプレインフェザーが放つアタック。それが第一チームのコートに突き刺さった。 「……でも、変なところガン見するのやめろよな」 プレインフェザーがこっそり喜平の視線からお尻をガードする。ジャンプしたり動いたりするたびに後ろ……というか喜平のほうから視線を感じるのだ。 「大丈夫。俺は紳士だ」 イーグルアイを使って拡大準備万端の喜平が親指を立てる。どこを拡大してみるかは、紳士の秘密である。 「ふふ、負けっぱなしじゃいれないわね」 「本気チームさん相手なら、こっちもよーしゃしないもん!」 ミュゼーヌと旭が喜平とプレインフェザーの本気に炎を燃やす。ミュゼーヌがドレスを脱いで白ビキニだけになった。その脱ぎっぷりにギャラリーから声があがる。 「砂まみれでもへーき!」 砂浜を転がりながら旭がボールを繋ぐ。視線だけで攻撃のサインを連絡しあい、ミュゼーヌが宙に舞う。 「旭さん、ナイストスっ……やあぁっ!」 どす! ミュゼーヌのスマッシュが相手のコートに叩き込まれた。 ハイタッチをするミュゼーヌと旭。息のあったコンビネーションである。 続いて第三チームと第四チーム。 「新田に気をつけろよ」 「ええ。スポーツやってるみたいですからね。ラグビーでしたっけ?」 フツと慧架が試合前に相談を始める。 「いや、確かに新田の守備力はバレーでも驚異的だが、そういう意味じゃない。 ヤツの目は、ずっとあるものを追っていた。そう。ボールではなく、揺れる二つの……ちょ、指関節はやめて! 俺は俺なりに心配して!」 慧架は無言でニコニコしながら、フツの人差し指をありえない方向に曲げていた。 そんな一幕もあったが、試合自体は普通に進んでいた。 「弐式鉄山で触れずにアタックとか出来そうですねー」 「そんなことするとアッパーでボールこっちに向くようにするからね」 色々試そうとする慧架に、快がこっそり釘を刺す。 ジャンプした慧架がの体が弓形に反らされ、溜め込んだ力を解放するようにボールを叩きつけた。 「ステキな光景だ。天然のフェイントだね!」 スパイクのたびに揺れる慧架のけしからんお胸様に目を奪われながら、しかし快は転がるようにそれを拾う。 「そしてボールに反応するそあらさんの超反射神経……はもうないのです」 深化したからね、そあらさん。しかし超直観でボールの行く先を見て、全力で駆け出す。初動の速さもあって、そあらのアタック成功率は高かった。 「思わぬダークホースだな……だがこのフツに策あり。 あ! あんなところに時村の旦那が!」 「ふにゅう! さおりんどこですか!?」 「隙ありアターック!」 ぴーっ! 加点の笛が鳴り響いた。 そして第五チームと第六チーム。 「ビーチバレーはやったことないけど、ようはボールを落としたり持ったりしちゃだめなんだよね」 「あとスキルでボール割らなきゃいいとおもうよ」 「じゃあテラーテロールで相手をビビらせてからでいいか」 「自コートにボール落ちそうならエアリアルフェザードで巻き上げるから!」 涼子とウェスティアが革醒者的ビーチバレー作戦を行っている間、 「相手は女性二人組。これでこの勝負はSHOGOの勝ち!」 「翔護殿、女性と侮ってはいけないでござるよ」 「何言ってるのさ。アタックのときのおっぱいぷるるんを真正面から見れるんだよ。ダブルで。これって勝ちじゃん! あ、リシェナちゃんのアタックは横から見るから」 「何の勝負でござるか、それ!?」 翔護とリシェナはそんな漫才に興じていた。胸をガードするようにリシェナがツッコミを入れる。 そんな四人なので、試合はすぐにカオスになった。 「相手ごと、ぶち抜く」 「目を逸らさず……見るうわああああああ!」 「翔護殿ー!? 顔面ブロックでござるよ今の!」 「ああ、いい揺れだった……ぜ」 「あたーっく、そしてエアリアルフェザードのコンボ! ボールの軌道を風で返るわ」 「あ、コートの外に飛んでいったでござる」 「こうして倒れていると……太腿とおっぱいがいいアングルd、ゴフゥ!」 「あ、そっちにボール飛んで行った」 試合結果は12分43秒で翔護のTKOであった。フィニッシュホールドは葬操曲・黒アタック。双方汗を流し、幸せそうな終幕であったという。、 ……試合? さて、それとは別のコートで四人のリベリスタが相対していた。 「優希、これは訓練なんだ! 仲間との連携やとっさの判断力を付ける訓練なんだよ!」 ツァインがボールを手に優希を指差し叫ぶ。 「一切の容赦は捨て置く。我が復讐の炎をその身に刻め!」 怒りの炎に身を任せた優希がその挑戦を受けるように腕を組んだ。 「ほむほむどうしたの?」 小首をかしげて壱也が翔太に尋ねる。 「ああ、夏祭りでツァインがほむほむの財布で買い物をしたんだ」 「お前もだ!」 優希が翔太に向かって怒りの叫びをあげる。拙作『夏祭りに行こう』参照。 そんな理由もあいまって『優希&壱也』対『ツァイン&翔太』の対戦となった。試合はダイジェストでお送りします。 「食らえ、ツァイン! 土砕ロケット!」 「バレーの英霊よ! 我に力を! パーフェクトブロォォーーック!」 「ナイスブロックだ。幻影アタック!」 「ほむほむ、この二人の連携はやっぱ侮れないね……!」 「いくぜイッチー! この季節には欲しい、氷結アタック。アイスのフェイトを消費する」 「氷結アタック!? 涼しげだけどわたしが冷たくなるのはいやー! アイス食べたい」 「良かったなイッチー、胸があったら即死だっったぜ!」 「ちょっとつーくんなんか聞き捨てならないことが聞こえた羽柴アターック!」 「グボハァ!」 「ツァインの防御力を打ち砕くとは。壱也のバネ、そしてパワーも流石なものだな。俺も負けてはられん! これで終りだ翔太! 弐式ミサイル!」 「優希……二式の連発はやめろ、ブレイクされる! この間謝っただろう!」 「そうだとしても……お前達に勝つためなら構わない!」 「ほむほむ……」 「そこまで……そこまで憎いか! もう俺達に和解の道はないというのか! バーガーのときはお金出したじゃん!」 「それはそれこれはこれだ。もはや道は分かたれた! この炎、復讐のために燃やすのみ!」 「……うわ、ブレイクイービルも効かないぐらいの怒りだな」 「憎しみあいながら戦い、その根底には裏切られたという愛の裏返し。いけるわね!」 「「イッチーの悪い病気が!?」」 喧嘩している風に見えて、四人は結構仲良く競い合っております。 「男には負けると分かっていても受けなければならないボールがあるグハァ!」 「二人同時攻撃か、これはツァインもたまらないな」 「いえーい! さすが紅組なのだー!」 「うむ、ありがとう壱也!」 ハイタッチをする壱也と優希。倒れているツァインは頭を振りながら起き上がった。 「やー、負けた負けた。やれるよな? もう一戦行こうぜ!」 「ああ終わるにはまだ早い、仕合を続けるぞ!」 「うん、勝負はまだこれからだよ!」 「よっしゃ! もう一丁来い!」 試合は優希&壱也ペアが勝利を収めたのだが、まだまだツァインと翔太は戦う気満々だった。 熱戦がまた、繰り広げられる。 ●修行という名目もありましたね そんな海岸から少し離れた場所。 大自然が生み出した洞窟の中に滝があった。高低差もあって山にあるような激しいものではないが、それでもその流れは滝を想像させるに十分なものである。 「ひゃっはー! 海だー!」 そんな滝のそばで叫び声をあげるのはシィン。数多のフュリエの例に漏れず海に来るのは始めてである。そのせいもあってテンションが高くなっていた。前の日に寝れないほどに。 「古来より伝わる日本伝統の修行ですから、きっとご利益があるはずですからね!」 シィンさん、ここは南の島。しかしご利益云々はともかく滝に打たれる事自体は心身を鍛える荒行として昔から有名だった。 「荒ぶる水に打たれて心身を研ぎ澄ます……過酷でしょうが、きっと自分なら大丈夫なはず!」 体を打つ水に耐え、冷える肉体に精神を鍛える。そう、それは覚悟があれば容易なこと―― 「いたいいたいいたーい! ひーん、もう少し鍛えないと無理みたいです」 あまりの痛さにシィンは涙を流しながら滝から出る。 もっともシィンは倒れる前に滝から離れることができて、幸運だった。終は逃げるタイミングを間違え、流されていた。 「……ハッ! 寒い寒い寒い! 凍えて死ぬる!」 滝に打たれて意識を失い、そのまま水の流れるままに流されていた終。少し歩けば灼熱の夏の日差しがあるのに、終の体が冷え切っていた。 「南の島で凍死しそうになるとか、どんな不幸だ」 タオルで水を拭き、冷えた体を温める。大自然の驚異を身をもって思い知った。 「大自然の……」 終の脳裏に浮かぶのは、ラ・ル・カーナでであった稲妻の巨人。歪んだ世界が生み出した自然の猛威が具現化した存在。 その存在を切り伏せたナイフ捌き。奇跡に近いあの動きを、終は思い出そうとする。流れる滝に向かってナイフを振るった。水流の抵抗が激しく思うように行かない。 「確か、こう……そして――」 終のナイフは止まらない。あのときの奇跡に近づくために。 そんな滝から離れた水面で、晃は中華風の胴着を着て構えを取っていた。 「こういう機会は正直言ってありがたい」 福利厚生が終わり、落ち着いたところで『魔神王』が攻めてくる。そのための修行の機会は多いに越したことはない。 滝の音が耳に響く。その音すら着にならないほど深く集中し、息を吸う。構えを崩すことなく自らの周りにあるものを感じ取る。洞窟内の冷えた空気、流れる水、そして晃自身の生命の鼓動。 「はぁ!」 機械化した腕をゆっくり動かし、大地をしっかり踏みしめて水面を思いっきり叩く。その衝撃は波紋となって水面に広がっていく。 「やああああああああああああああ!」 怒涛の連打。息の続く限り、体の動く限り。何度も何度も拳を振るい、自らを鍛える。ただ無心に、何年も培ってきた動作を繰り返す。 否、完全な無心ではない。心を満たす晃の欲望。 『魔神王の前に立ってみたい』 純粋な目的のために、晃は拳を振るい続ける。 ●南の海で 「夏! 海! ならばなんと! 修行するのです!」 イーリスがランス片手に馬にまたがっていた。 「おまえも見えるですか、はいぱー馬です号!」 またがっている『はいぱー馬です号』はうまー、と鳴いた。もちろん普通の馬はそんな封に鳴かないので、この鳴き声はイーリスの幻聴である。 イーリスの目の前には椰子の木。なっている椰子の実をじっと見た。風が吹けば落ちそうな実の下で槍を構える。 「ついてくるですよ、ヒンメルンラージェ。握り締めて、落ちてくる瞬間をじっとまつです!」 落ちてきたところをデッドオアアライブするです、とばかりにじっと待つ。 そして風が吹く。ゆらりと実が揺れて、地球に引かれ、落ちてくる。 「真いーりすまっしゃー!」 ぱかん。軽快な音と共に椰子の実が割れた。 「これぞめいきょうしすい! たいとくしたのです。具体的にはべりーいーじーのけいけんちがはいるのです」 メタなこといわない。 「うー! みー!」 どぽーん、と水音を立てて華乃が海に飛び込んだ。どんなことでも猪突猛進。それが華乃だ。 「あはは、しょっぱーい! たっのしー!」 南の海を力いっぱい泳いでいるうちに、昔やりたかったことを思い出す。普通の海では人目があってできなかったことを。浅瀬まで移動して、足をつける。膝ぐらいの海面に向かって槍を向けた。 「でっかーい、みーずーばーしーらー……!」 槍を高く掲げ、力をこめる。華乃がやろうとしているのは、大きな水柱を立てようとしているのだ。そりゃ普通の海じゃできない。 「せーっの! めが! くらぁーっしゅ!」 どぽーん! 巨大な水柱があがり、たーまやーという華乃の声があがった。 「なんだあの水柱?」 「そんなことより海だあああああああああ!」 そして浜辺にハイテンションに叫ぶ集団がいた。 「海でけえええ! もうここまで見てしまったら入らないと帰れねえわ!」 浜辺に来るまでは潮風がべたつくとか文句を言っていた俊介が、海を前にテンションをあげていた。 「うわあああ海だーッ! 海パン! 海パン買ってくる! あっねえねえみてみて観光地特有の変なTシャツー! かっこいい!」 ヘルマンが慌てて海の売店に向かって駆け出す。そこ一応時村さんのお店ですから、下手にディスるといろいろアレですよ。 「おおおおおお! 気持ちいいいいい! 海気持ちいいいいい!」 龍柄の入った水着を着た竜一が海ではしゃぐ。竜一もまた、暑さを前にテンションが下がっていたのだが海にはいるや否や、このテンションである。 「お前ら行くぞ海へェェェッ!」 本当は泳ぐ気がなかった鷲祐は、その速度をもって海に飛び込む。いつの間に着替えたんだとばかりに青と白の水着を着て、水の中ではしゃいでいる。 「バカだ、バカしかいない。いや、私もはしゃぐバカの一人だが」 そんな彼らを見ながらいつもどおり毒舌を吐きつつ、ユーヌも海に突撃していた。周りのテンションに引っ張られているというのもあるが。 「飛べ手前等グズグズするんじゃあない!」 ビーチサンダルにハーフパンツ。既に泳ぐ気満々の火車が、我先にと海に飛び込んだ。軽く散歩のつもりだったが、海を見た瞬間に全てが吹き飛んだ。 「よし、行こう火車! みんな! グズグズするな!」 悠里が号令をかけるまもなく、皆は海に突貫している。悠里も水着に着替えて、海に走り出した。 「あっちの変な浮島っぽい場所まで行こうぜ!」 「太陽もっと輝いていいぞ! にしても海で泳ぐのとか、久々だわ! ひゃっほー! 沖目指すぜ! ……ああ、足つったぁ!」 「あまり遠くまで行かれると追いつけないな……足が届かなくて」 「泳いでるんですけど前に。前に進まないんですけど、前にブクブク……!」 俊介と竜一とユーヌが奥に向かって泳ぎだし、ヘルマンが泳いでる途中で沈んでいく。 「あ! 竜一くとユーヌさんが溺れそうになってる! 鷲祐さん助けに行って!」 「ヘルマンは?」 「さぁ?」 「任せろ。どちらを差に助けるかだが……」 溺れる二人を前に鷲祐が思案する。二人同時に助ければ、自分も溺れかねない。こういうときこそ冷静になって余裕のなさそうなほうを先に助けるのだ。 「へぇるぷ~」 「竜一は余裕がありそうだな。ユーヌ、今助けるぞ!」 「ぐっ、口に水が……ごほっ。大丈夫、水が入ってむせただけだ」 呼吸を整えながらユーヌが言う。大事には至らないようだ。 「ふぅ。よかった」 「こんなところで溺れるとか洒落にならないからな」 悠里と火車が安堵の声を上げる。遊びに来て大事故とか、冗談ではない。 「あぶあぶあぶ! 足、足痛いー! まじピンt……」 「あの! わたくしメタルフレームなんで金属比重高くて! あの! その!」 竜一とヘルマンが沖で何かを主張していた。 「大丈夫だよヘルマンさん。船だって金属だけど浮くし!」 「竜一ぃ、『三高平最響』の名が泣くぞぉ!」 その主張をあっさり流す悠里と火車。そのまま彼らは海を楽しむ。 「「いやまじでへるぷー!」」 「しょうがねぇなぁ」 せっかく楽しんでるんだから静かにしろよ、といわんばかりの口調で火車がヘルマンと竜一を助けに行く。竜一は浅瀬のところまで来ると片足をつけてつった足を伸ばす。そしてヘルマンは、 「もう! 足のつかないところはダメです! もっと浅いところで遊びましょう」 「じゃあこういうのはどうだ!」 遠泳から帰ってきた俊介にばしゃばしゃと水をかけられるヘルマン。お返しとばかりにヘルマンも水を俊介にかける。 「水遊びならまけないですよ!」 そう言った数秒後、 「せいやぁ喰らえヘルマンッ!」 「ほーら、ヘルマンさん水をくらえー!」 「ボッチ! ボッチ! ボッチ! ボッチ!」 鷲祐と悠里と火車が一斉にヘルマンに水をかけ始めた。 「えっなんですかこの圧倒的戦力差! まって! まって! うわあああんひとりじゃないもんー!」 四方向からの水攻撃にあっさり陥落するヘルマンの精神。 「あー、たのしかった」 「いじめはなかった」 清々しい顔で言い切る鷲祐と悠里と火車の三人であった。 そして最後は砂浜に文字を書いて記念撮影を取ることになった。 「む……ヘルマンが見事に影に隠れてるな。もう一度」 「ヘルマン! お前は何時もボッチなんだよ!」 「ボッチじゃありません!」 「じゃあいくぞー。笑いながら叫べー!」 叫ぶ言葉は決まっている自分達と一緒に写真に写る、砂浜に書いたあの言葉だ。 「「「「「「「夏! サイコー!」」」」」」」 ●つわものどもがゆめのあと 風斗とアンナは救護&監視官となって皆を見守っていた。 「我ら二人が見守っているからにはもう安心。さあ皆、思う存分遊んでくれ! 行き過ぎそうなときはすぐに飛んでくるからな!」 「何もなかったら木陰でのんびりジュースでも飲んでるけどね」 と余裕たっぷりに腕を組んだ事を彼らは、すぐに後悔することになった。 「……おお、終わったぁ……」 「終わってないわ……まだ被害報告書とか書かないと……」 夕刻、ぐったりと事務室の机に突っ伏す風斗とアンナがいた。 「ハメ外しすぎだろ! 誰だよ人間砲台とか持ってきたの!」 「アンタはいいわよ……こっちは怪我治ったと思ったら五分後に溺れて戻ってくるとかザラよ」 「訓練にかこつけて新技のためし打ちとか、武道館番外編とか、水着剥ぎデスマッチとか!」 「ふっふっふ。それで怪我した人は全部こっちに流れてくるのよ」 二人して疲れたようにため息をつく。海ではしゃぐ者たちのエネルギーを、二人で対処しようなど甘かったようだ。 二人が落ち着いたのは日が落ちてから。それも大量の書類作業が待っているという状況である。 (しかし素で監視員と救護班やってる辺り、何とも私とアイツだというか) アンナは書類にペンを走らせながら、風斗を見る。真夏の海で二人きり。だけどロマンが生まれる様子はない。そこを含めてらしいと思ってしまう。 「……アンナ」 風斗が口を開く。緑の瞳がアンナの碧眼を捉えた。昼と夜の狭間、茜色の夕日が二人を照らす。寄せては返す波だけが、二人の耳に響く。自分の呼吸と鼓動がやけに大きく聞こえた。 「な、なによ急に真剣な顔になって」 「真剣な話だ。お前をパートナーとして信用して言うぞ。 『魔神王』との戦い、必ず勝ち残るぞ」 「…………そうね。その前に書類の山を解決しないとね」 「ぐっ……! 俺はもう駄目だ。あとはよろしく。ばたー」 「いいからそこにサインしろ! あとこっちは詳細をもう少しつめる!」 ――声に気づいて事務室を覗き込んだリシェナが、なんだあの二人か、と何も言わずに走り去っていった。 夏も終わり、南の島の休暇が終わる。 箱舟が相対するのは歪夜十三使徒第五位『魔神王』キース・ソロモン。その実力は今だ不明。 だけど負けるつもりはない。リベリスタたちは激戦を予想しつつ、床に就く。 今は静かに眠れ、戦士達。体を休めるのも戦士の務め。 船はもうすぐ、三高平港に―― |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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