● きな臭く。煙る。炎。 こんな気配は何時ぶりだろうか。 背水の構えで異界の荒野に降り立ったあの時か。 それとも。逆凪のフィクサードと呼ばれアークのリベリスタの前に立ったあの時か―― 天を仰げば、傾いた真夏の太陽は早くも視界の全てを金色に染めていた。 見渡す限りの夕暮れと、黄金の海。未だ幾分か生暖かい風が吹く夕刻。 古くは暮れ六つ、逢魔刻と呼ばれる不吉な時である。 「そこだな?」 緊張の糸は依然解れぬまま、誰かが固唾を飲む。 「はい……」 押し殺した声と共に、『翠玉公主』エスターテ・ダ・レオンフォルテ(nBNE000218)はナイフを握り締めた。 ―― ―――― ● 漸く炭火が起きてきた。 バーベキューだ――! 遊びつかれたリベリスタ各位は右手の方向をご覧頂きたい。これが肉である。 霜降りのカルビを網に乗せ、じゅわり。 炭火に焼かれ、くつくつと油が煮え立つ肉を取るのがいい。上品なロースを噛めば肉の旨みが溢れてくるだろう。 そう。肉だ。 タレで食べるか。様々な塩で食べるか。それとも山葵醤油か。 網の上に鎮座するのはタンにサブトン、ブリスケ、ヒウチ。これぞ肉である。 まだまだハラミ。新鮮なココロ、ミノにハチノス。センマイにレバーだってレアでも頂ける。 こちらは豊富な各種ホルモンだ。 コロコロのマルチョウは表面をカリカリと焼きたい。噛めば肉汁が口の中でじゅわりと染み渡り――これもまた肉である。 それからぷりぷりのソーセージ。ハムにベーコンとくれば卵。たっぷりタレが染み込んだジューシーなスペアリブだって捨てがたい。 あれも、これも、それも。肉、肉、肉とくれば。飲み物は――勿論ビールだろう。いや。モヒートやサングリアだっていい。 ここにあるのは各種焼肉の定番だけではない。 サーロイン、テンダーロイン、ランプのステーキは焼き加減お好み自在に。 塩コショウにガーリックソース。野外ならダイナミックに、ブランデーでフランベも乙な物である。 ここでは一つ。飲み物は赤ワインもいいかもしれない。 振り返れば砂浜。 のたり、のたりと打ちつける緩やかな波の音を聞きながら、思い描くのはやはり海鮮であろう。 とれたての小ヤリイカにアサリ。新鮮なタチウオにカツオ。それからカンパチ。 網や鉄板で焼いても良いが、どれもお刺身だって行けるだろう。 岩牡蠣は焼くのか。それともレモンでさっぱりと頂くのか。小ネギに紅葉おろしも面白い。 鉄板に海老の頭を押し付けて焼けば、ぱりぱりのお煎餅のようでこれまた美味い。 こうしてそろそろ登場するのは秋刀魚である。塩を振ってしばし待つ。水気をふき取り、化粧塩をして丁寧に焼き上る。遠火の強火だ。 後はふっくらとした身を箸で割って、ワタごと頂くだけであろう。 味にひとつアクセントを加えて大根おろしにカボスかスダチを添えたっていい。 感じるのは。ほっくりとジューシーな旨みに隠された、ほろ苦い、夏が去り往く焦燥にも似たあの気配―― それからひっそりと見つけられるのは……これは海魚ではない。子持ちの落鮎だ。稚鮎、若鮎にはない楽しい食感が堪らないではないか。 ここは白ワインか、焼酎か、それとも夏の日本酒か。 初呑切りをそのまま頂いても、はたまたオンザロックだって今風でいいだろう。 昼の日差しで火照った体には、ワインや日本酒はスパークリングだって捨てがたいだろう。 後はほかほかの白ご飯か、それともさっぱりお茶漬けか。 いやいやまだまだ。鉄板があるならば焼きそばやガーリックライスだっていい。 いつしか空が瑠璃色に染まれども、お開きにはまだ早すぎる。 満天の星空の下で、そろそろデザートだって欲しい所だ。 ウィスキーならスペイサイドにハイランド。アイラにアイリッシュ。国産やバーボンもいいだろう。飲み方自在なれば、ルールは自分の心だけだ。 さっぱりとグラッパの香りを楽しむのも、グラスに氷を敷き詰めてミストスタイルのブランデーを楽しむ贅沢だってあってもいい。 ゆったりと楽しもう。 夜はまだまだ長いのだから…… |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:pipi | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年09月07日(土)23:49 |
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● 「そこだな?」 ごくりと、生唾を飲む音。 「はい……」 真剣な眼差しを注ぐエスターテに声を掛けたのはツァインだ。 辺りには肉を焼く美味しそうな香りする。 少女が見つめる一点。中央が盛り上がった兜様の鉄板は、外側に野菜、中央部には新鮮な羊肉が用意されていた。 こうする事で肉の余分な脂と汁が焼けた野菜を良い感じに煮立たせるのだ。 取り仕切ったのは祥子である。水着の上に肩を出したワンピースが瑞々しく健康的な色香を漂わせている。 羊と言えば、中には癖が強いと言う人も居るが、素朴で味わい深い美味しいお肉である。ツァインには馴染みあるスタイルであろうシチュー。シチリア生まれのエスターテにとってはハーブを塗した焼き物だろうか。 とは言え、ツァインと祥子。MGKの二人。共にアイルランド系ではあるが、方や親日家の親を持ち、方やハーフの道民であれば、こういう食べ方も馴染み深いのだろう。 「……食うか?」 「……はい」 ナイフとフォークを握り締めるエスターテの前に、良く焼けた肉と野菜をよそってやる。 「そんじゃ決戦お疲れさーん! じゃんじゃん食べてじゃんじゃん飲もーう!」 まずは 「はい、乾杯!」 火照った体に冷たい飲み物が染み渡って行く。 「あ~、ターテと早くお酒が飲みたいなぁ~」 「え、と。はい……」 とは言え成人したばかりの二人と、未成年の一人にとって必要なのは、まずはお肉だ。三者三様に、肉汁滴るラム肉を頬張る。 「美味いわ~……どーだターテ?」 「美味しいです……」 少女にとって初めての味だったであろうが、熱々の白ご飯と一緒に頂いてじっくりと味わっている。心なしか幸せそうだ。 「いつもありがとな日野原、作ってもらってばっかでー」 二人の様子を見て祥子は、よかったと微笑む。『日野原先生が作ったものに間違いはない』とはツァインの弁。南駅前で小さなスナックを営んでいる祥子にとって、この程度はお手の物だ。 そろそろ飲み物も欲しくなる頃。 「エスターテちゃんて14才なんだ」 祥子は思う。目の前の少女は、ずいぶん落ち着いて見えるのだ。 自分が同じ年齢だった頃は――もっとアホだった気がする。 片手にはフローズンスタイルのアステカ。そういえばツァイン共々去年の夏や秋には飲めなかった訳だが、ようやく念願叶ったり。こうして友人と杯を交わすことが出来たのだった。 お酒があればますます話にも花が咲く。 「ツァインさんて小、中学は日本の学校だったの?」 「小学校の途中からだなぁ」 すっかり日本は長い。ナイトメアダウンの後、親日家の両親に連れられてやってきたのだ。 「すぐに馴染んだから普通のやんちゃ坊主だったよ。中学からは翔太連れ回して遊んでたわ」 なんだかそんな様子が想像できて、桃色の髪の少女はくすくすと微笑む。 「こっち来る前は田舎だったからなぁ、棒振り回しながら野山駆けてる洟垂れ坊主だった!」 と。さて。まだまだ夜は長い。 「これだけ人が集まってバーベキューとなると賑やかだな」 そろそろ涼しくなってきたから、二人は水着の上に浴衣やパーカーを羽織って。 「色々ありますね……」 振り返る猛の笑顔に、リセリアは流石はエスターテさんと加える。 この手際、グルメ公主の名は伊達では――おっと。何時の間にこうなったのか定かではないが、恐らく冒頭に居た金髪アイルランド人のせいである。まあ、フィクサード時代には友人と呼べる相手も居なかったろうから、親しみを籠められることに当人もまんざらではないらしいが。 「たまには、こうやって賑やかに食べるのも悪くないですね」 ともあれ、まずは焼かねば食べるものもない。 「一先ず分担してやりましょうか」 まずはリセリアが串にお肉や野菜を刺して行く。どんぐりで育てた豚だの、ブドウの皮で育てた国産和牛だの。どれもなんだか美味しそうだ。 それを猛が流れるように網の上に並べて行く。手際の良い連携だ。 それに―― (火傷しちゃ危ないからな) 少年らしい小さな優しさを秘めて。 「…んー、美味しそうだな。もう食べれそうだけど」 にわかに良い香りがしてきた。今のうちにリセリアはお皿を用意して、猛は手に取る串を裏返して戻す。 「駄目だな、もうちょっと」 まだ半生だったのだ。 火の加減を調整しつつ、じっくりじっくり火を通す。ふつふつと煮え立つ脂が、焼炭にじゅわりと落ちかかり――頃合だ。 「よぉし、出来た! 飲み物は……どうすっかな、俺は烏龍茶で良いか。リセリアはどうする?」 「飲み物は……そうですね、お茶。猛さんと同じものお願いします」 これでやっと口に運べる。真剣な眼差しは、いつしか笑顔に変わっていた。二人で協力して焼き上げた串は、きっと格別に美味しいことだろう。 「お肉祭りに……かんぱーいっ……♪」 「乾杯」 羽音は烏龍茶。義兄と慕う鷲祐のほうは黒ビール。 「さぁ、行くぞ羽音!」 レッツお肉タイム。網の上には早速厚切りの牛肉がででんと鎮座している。 塩コショウを構え、目分量で豪快に神速斬断――もとい、ぶっかける。 羽音の方はカルビ、ハラミ、ロース、タン……。豊富な種類で対抗だ。 ザ・肉食ビスハコンビ。のっそりした口調の割りには、元気で獰猛な妹分である。 ともかくよしきた。ここはコンビの本気を見せてやるのみ。 塩コショウで味付けされた肉は、ウェルダンまで一気に焼き上げ、熱いうちに食い切る。 ウェルダンは、ともすれば焼きすぎともなりかねないが、そこは時村財閥のパワーオブマネーが唸りをあげている。極上のサシと香ばしい肉の旨みがギュっと詰まって、口の中にじわりと広がってくる。上質であればこそ栄える焼き加減というものもあるのだ。 「はふ……んー、おいひぃ……♪」 羽音は厚切りのタンにキュっと絞ったレモンを。カルビ、ハラミ、ロースは甘辛いタレで頂く。 お次はぷりぷりのソーセージ。口の中でパリっと弾けた皮から、熱々の肉汁があふれ出してくる。 それからたっぷりとタレが染み込んだスペアリブ。気分転換に海辺ならではの新鮮な海老やイカも頂きたい。 「お、焼岩牡蠣もいいな」 潮の香りに貝の旨みが口の中でとろけて、とろけて。それから落鮎? これは食べたことがない。 「是非とも頂こう!」 身そのものはふっくらした若鮎には及ばないが、円熟を重ねて濃縮された旨みと、抱かれた卵の食感がたまらない。「鷲兄さん、いっぱい食べてる?」 「……ん? ああ、いっぱい食べてるぞ。お、ミスジあったぞ。旨いぞこれ」 美味しい所を互いの皿へ。 コップが空けば、更なるお酒を投入だ。 「ああ、今夜は限界まで食おうか。さ、まだまだいくぞ!」 「鷲兄さんが、満足するまで……とことん、付き合うよっ」 「よう、シュスカじゃないか、ひとりかい?」 シュスカことシュスタイナに声を掛けているのは、精悍なガタイの兄ちゃんエルヴィンだ。 「俺もひとり寂しくぶらついてた所でね、良かったら一緒にどうかなお嬢さん」 有り体に述べればナンパである。 「あ、エルヴィンがかわいこちゃんナンパしてる」 そんな様子に眉を吊り上げ駆け寄るのは、みんなの害獣ことピンクのウーニャであった。邪魔をしてやるのだ。 「こら、抜け駆けはダメなんだから」 全く油断も隙もないと軽く睨みを効かせる。その後ろにはウーニャの誘いを受けたミミルノまで居たりして。 それにしてもエルヴィンの野郎、可愛い子に声を掛けたものである。 ウーニャがぴょいと近くで見るともっとかわいいではないか。 誰かに似ているような……はたと思いつくのは、アークで活躍中の姉の姿。髪色や纏う雰囲気は正反対と言える程違えど、どこか似ている所がある。 「私はウーニャ。よろしくね☆」 「えっと、はじめましてさんだらけっぽい! ミミルノはミーノおねーちゃんのふたごのいもーとだよっ!」 早速女子同士で会話に華が咲き始め、これはナンパ失敗だろうか。 一瞬残念とも思ったエルヴィンだが、こうなっては仕方ない。不可能を可能に変える男エルヴィン。ならばまとめてナンパするまでの事。どうせ全員可愛い女子陣なのだから問題はない。 という訳で。 「肉を喰いに行こうぜ!」 思い切りは早い。 「……ほら」 指し示すの先には炭を熾し網を並べる―― まさかの『肉の守護神』降臨!? 「あっちでバーベキューやってるじゃん。せっかくだし、皆で一緒に行こうって事さ」 まあ、吝かではない。 「OK、決まりだな」 千客万来。腕の振るい甲斐もあるというもの。 そんな男女ががやがやと押し寄せる中、焼肉係を買って出た快が額の汗を拭う。 こちらのテーブルでは、熱は均一になるように程よく空気が流れるように並べ替えられた炭の配置は完璧だ。 各自、思い思いの肉に視線を走らせ始めるが、快の仕事はまだ終わった訳ではない。 「おっと、焼き肉係は俺に任せて貰おうか」 快の声の中。こうして。じゅっと。肉の香りが漂い始めれば、もう辛抱堪らない。 「まだ待つんだ」 早速箸を伸ばす夏栖斗を快はトングで牽制する。 「いいじゃん! レアくらいがおいしいんだって」 トング同士の熾烈な攻防は、防衛側に軍配が上がったようだ。 「最高の肉は最高の焼き方でこそ、だ」 目の前で焼ける肉。この音と香りは、ある種の拷問の様でもあり。 「はやくやけねーかなー!!」 クーラーボックスの上で所在なげにガタガタ揺れる夏栖斗の前に、そっと置かれたのは最初の一枚。輝きを取り戻す瞳。これでようやく―― いただきます! 「折角だから俺はこの国産和牛の希少部位を選ぶぜ!」 開かれた赤い扉。柔らかい赤身のシンシンに、美しいサシまわりのトモサンカク。肉の表面全体に肉汁が浮いてきた所で、ひっくりかえして3秒だけ炙り、口へと運ぶ。 それぞれぎゅっと濃厚な赤身の旨みと、上品に甘くとろける脂身がたまらない。 柔らかく繊細なリブ芯はステーキのように厚切りに。表裏七対三でレアに焼き上げる。このこってりとジューシーな旨みを最高に引き出すのは、ワサビ醤油だろう。 「うーん美味しい!」 「おいしい!!」 刺しでもいけるミスジは塊のまま串を打ち炙ってとろけるたたきに。 次々と焼かれるお肉をウーニャが頬張れば、ミミルノは頬一杯に詰め込み満面の笑顔を見せる。 「このおにくちょうおいしい~~~~っ!!」」 まるで頬袋に向日葵の種を詰め込むハムスターの様で愛らしい。 「みんなももっともっとたべるのだっ! ゼッピンだぞっ!!」 さそってくれたうーにゃんに感謝せねば。 「よ、肉焼き奉行! 飲み物はクーラーボックスのでいいんだよな」 成人組には三高平のひやおろし。ひと夏の終わりに、熟成の旨みをギュっと込めた初物。 未成年には夏に美味しい酒粕の冷やし甘酒である。飲めないとは言え、香りと雰囲気は十分に楽しめる逸品だ。 「さ、おひとつどーぞ」 早速お酌に回るウーニャ。今日はしとやかに。 「ああ、俺のはお酒だよ、ウーニャのは?」 勿論、新田酒店特性の日本酒だ。 「最近はそれなりに飲むようになったかな、そっちの先輩のおかげで」 成人組のグラスに次々とお酒が注がれるのが、十三歳のシュスカには少し羨ましい。 一口くらい、飲んでみたいなぁ……なんて。 「今飲めなくても、そのうち嫌ってくらいのめるんだから、我慢我慢」 からりと笑う夏栖斗のグラスに満たされているのは冷やし甘酒だ。 雰囲気だけでも、とは言えど、上質な酒粕に篭められた香りは絶品である。 それじゃあ、乾杯! 喉を滑る清涼に、染み渡る暖かな香り――篭められたひと夏の想い。 「野菜もしっかりと食わないとな」 網に追加されたのは南瓜にサツマイモ。肉厚のしし唐も美味しいだろう。 それから忘れちゃいけないのはオニオンの輪切りだ。 「割と野菜好きだよ、僕」 それからそれから―― 後はのんびりおしゃべりでも楽しみながら。 ほんの十五分前までは『初めまして』だった人も居る。 けれど、すんなり会話ができるのは、開放感のある海辺だからかしら? ● 「みんなでお肉食べるよー!」 元気一杯の壱也。腐敗の王。 「しっかり食べて色々お肉つけないとねっ!」 ぺたn――こほん。スレンダーな肢体に足りないものは唯一つ。いや、お腹じゃない。もっと上だ! 隣の海依音が眩しくて―― 「私まだまだ成長期だからな!」 すかさず、なずな。 二人が目指す所は唯一つ。 主におっぱいとかおっぱいとか……おっぱい…… 「は、羽柴!」 「頑張ろうなずなちゃん!」 「頑張ろうな!!」 さて。白いハーフパンツ型の水着に、トレードマークの帽子は決して外さない。我等がシブガキ福松。 (衣装が会場で見かけた『アレ』でないのが少々残念である) 先ほどから一人、じっくりと焼いているのはホルモンである。 半面はカリカリに。半面はぷるぷるに。余分な脂はしっかりと落として―― 「何食べてるの? ホルモン!」 覗き込むように壱也。 「おいしそうだな~わたしもそれ食べたい」 食べるといいだろう。まだあっちのほうに席は空いている筈だ。黙々と焼く福松。 「きゃー、福君!」 水着よーと、ぷりんたゆんと現れる海依音。 「目のやり場にこまっちゃう?」 「うるせえ色ボケ共!」 大丈夫困らない。 困らないけど。 「囲むな! オレは静かに肉を食うんだ!!」 ぺたんぺたんどーん! こちらは『ドキドキおねーさんとショタの焼き肉大会!』が始まった。 「そうそう。男の子なんだから、しっかり食べないとですよ!。ね、羽柴君、斎藤君」 「うんうん」「そうだな」 混ざる気満々な三人。姦しく。いつの間にか福松は完全に包囲されている。 ぴょんぴょんと跳ねている。ゆれるたわわな胸。 構わない。ホルモンを焼き続けるだけだ。構わない。構わない。 「ホルモンて渋いな……子供のくせに……」 海依音は、はい、お肉と。福松の皿にホルモンを投入。焼き加減は最高だ。 「こっち見て下さいよー!」 「あああ! もう、うるせえ!」 けど、まあ。焼いてくれた分は有り難く受け取る訳だが―― すとんすとんたゆん。 「お前等もそんな無駄に揺らしてないで肉食え肉を」 大丈夫。揺れているのは一人だけ。 なぜなら壱也となずなには揺れる所など……もとい、じっと海依音をガン見しているから。 「あれは、なんだ。爆弾か。危険物だな!? ヴァルプルギスナハトだな!?」 「なに食べたらあんなに育つんだ……肉か?」 そうだ! 別に羨ましいことなど何もない。 ていうか来年になったら、あれぐらい余裕だし。意気込む二人。すっとん二人。 ためしに、胸をよせてみて――すかっ。 ためしに、ぴょんぴょん跳ねてみて――しーん。 うわああああああん!! 「なずなちゃん!」「羽柴ー!!」 なきながら抱きしめあう二人。抱き合いやすい二人。 焼肉はソロだって美味しい。 悲しくなんてないのだ。だって目の前に肉があるから! こまけぇこたぁいいのである。 魚? 野菜? ご飯? デザート? ――なにそれおいしい? 肉とビールがあればいい。 グレイスは気合十分に肉を網に乗せる。 味付けは塩だ。わき目も振らずカルビ。ロース。いやいや。それもいいが重要なのは内蔵だ。 ぷりぷりしたハツの歯ごたえ。シマチョウ、コブクロ、ギアラにシマチョウ。臓物はやめられない。 焼いて、焼いて、時々飲んで。 日本にやってきて初めて食べる部位もあるから楽しみだ。 とは言えど、焼くのだって面倒でもある。 新鮮なレバーの味わい、センマイのコリコリした歯ごたえは、焼かなくたって美味しいのだから―― 大丈夫。R・ストマックがついている。 ぐーーー…… こちらもソロで。一日遊びまわったから、終もお腹がすいている。 バーベキュー場にたどり着けば、辺りは既にお肉の美味しい香りで満ちていた。 「いっぱい食べるぞー」 これだけ空腹なら早速カルビを焼いて、甘辛いタレにつけてもぐっと行きたい所だが……まずはタンである。 一枚目は焼いてそのまま。素材の味を楽しむ塩だけで頂く。あふれる肉汁と歯ごたえがたまらない。 生きてて良かった…… 二枚目はレモンをつけて。絞りたての香りが上タンの脂をさっぱりと包み込み、これも美味い。 いよいよ次はロース。綺麗なサシが入った上物だ。やや厚切りのそれを、焼き加減はミディアムレアで頂く。 とろける肉の旨みと、上品な脂が口の中で蕩けて…… 「ああ、うん……」 もはや言葉にもならない。 そろそろレバーを焼いて。臭みなく、ゴマの風味とトロトロの舌触りが最高だ。 そしていよいよカルビの登場。ガツンとした脂と濃厚なタレが疲れた体を癒してくれる。 それから。夏の終わり。そろそろ登場してくる初物の秋刀魚はかぼすとすだち、どちらにしようか。 じっくり焼き上げながら近くを見れば、成人組はお酒だって飲んでいて。美味しいお肉とお酒って合うのかなあと、想わざるを得ない。 19歳と10ヶ月の終。あと二ヶ月がつらい所である。 兎も角。お肉もいいがお野菜も焼こう。キノコにタマネギ、かぼちゃにピーマン。そしてキャベツ。バランスが大事である。 〆は……まだまだ暖かい波打ち際なら、そうだ。かき氷にしよう―― こちらはどりん。もとい、そあらである。 お肉もお魚も大好きなのです! 食べるのも好きなそあらであったが、焼くのだって大好きだ。 そあらさん、もう大人()だから、火遊びしてもへっちゃらな23歳なのである。 そこらのリベリスタを相手にどんどん焼いて行くそあら。 スタッフという訳ではないが、さおりんの為ならなんだってするのだ。 「あ、えと。こんばんは」 桃色の髪の少女。 「エスターテさんも、リクエストあれば美味しく焼き上げるですよ」 リクエストは――なぜかデザートだ。 「お任せ下さいです」 さすがそあら。お料理もお手の物。マシュマロを軽く炙ってアイスクリームのトッピングに…… 「あ……」 「え、と……」 こんなマシュマロ(´・ω・`)が、(´・ω●】こんな哀れな姿になってしまって…… 「ちょっと火が強くて焦げ目が多くなったですが問題ないです」 「あの……はい……」 「苦味がアクセントになるのです」 「え、と」 「ほんとなのです」きりっ(`・ω・´) 夏の終わりのマシュマロは、ほんのり苦い味がした。 お詫びのおすそわけは、とっておきの苺なのだ。 宴はまだまだ終わらない。 以心伝心の二人。嶺は白いワンピースタイプの上にパーカーとデニムのショートパンツを。 義衛郎は山鳩色の甚平姿でレッツ焼肉。 二人の飲み物は共にサングリア。柑橘類中心に夏向きの爽やかなモノが用意されている。 早速もりもりのご飯を片手に、義衛郎は食材のチョイスを嶺に任せてある。彼女のほうがこういうのは詳しいからだ。 さり気無く可愛い系男子義衛郎。両手に米とグラスを持って焼けるのを待つばかり。 それから楽しみなのはぷるぷるのホルモンやモツ類だ。嶺はこれに目がないのである。 まずは新鮮なホルモンから。それからソーセージ、レバー、ハラミ。二人前なので少し多目に取って来た。 どれも美味い。義衛郎の米が進む。進む。 そして、いよいよメイン。カルビのご登場である。 説明不要。肉・オブ・ザ・肉。 丁寧に網を引き摺り焼き色をつける。じわりと溢れる肉の旨みを口にいれれば―― 美味い。一切れだ。わずか一切れで茶碗半分の米が消えた。 肉の旨みと脂を満喫した後は少しさっぱりとムール貝の白ワイン蒸しだ。 ぴりりとした鷹の爪をアクセントに、オリーブオイルが香っている。 これを甘口のフレッシュな白ワインと共に頂くのだ。 それからとれたてのクルマエビを素焼きにして。良く焼けば殻まで香ばしく頂けて、ぷりぷりの身とのハーモニーがたまらない。 「ふふふ」 嶺が楽しみなのは頭の濃厚な味噌。海老好きにか欠かすことの出来ない所で、ここが美味しい。 夏の海の恵みを最後までしっかりと頂く。 「はー、よく食べた。もう入らない」 「大分食べましたね……」 お酒とご飯でふわふわとしてくれば、そろそろ眠気にも誘われて―― さて。一海の発案で慰労会に集まったのは、クリスティナ率いる親衛隊との決戦に挑んだ【援護組】の面々だ。 各々水着の上に薄物を羽織るラフな姿で海辺のバーベキューである。 肉、肉、酒。未成年は一人だが酒飲みは問題のないメンバーだ。 「まずは私はビールだ」 集まってもらった皆には遠慮なく飲み食いしてもらいたい。 なぜならば……すらりとした足のまぶしい一海自身も遠慮などするつもりはないからだ。 もちろん未成年にアルコールを勧める訳にはいかないのだが……パルマディンはノンアルコールカクテルというものを聞いたことがある。果たしてどれなのだろう。 「ああ、マディンお前は未成年だからね、カクテル辺りの間違って飲まないように気をつけるんだ」 「それなら、これじゃないか?」 仲間の指指す所には。これは――! 「それをぜひ飲みたいんですけどぉ……?」 サマーデライト。ノンアルコールと書いてあるからこれだろう。 さわやかなライムグリーンが美しいフィズの下に沈むのは、夕暮れの太陽を思わせるラズベリーのシロップ。グラスはハイビスカスとカットライムに彩られてムードも満点である。 これなら安心して、さあ―― 「乾杯じゃ!」 ごきゅと飲み干し、咲夜は早速手酌でお代わり。 「やはり、頑張った仕事の後の酒は美味いものじゃのぅ」 網に早速肉が投入される。 ビール片手に、ディートリッヒは肉も野菜もたっぷりと焼いてゆく。 勿論自分自身もつまむが、周りの連中にこそ良く食べてもらいたい。 それから欲しいのは―― バーベキューは久しぶり。見た目こそ幼い少年の様ではあるが、咲夜は八十二歳になる。魚介も食べたいお年頃。 きらきらした瞳で食材を眺めるのだが――届かない!? 「ん? 冷泉は届かないのかね」 欲しいものがあればとってやってもいいのだが、いっそこうして――ひょい。 一瞬、目を丸くする咲夜も、これなら大丈夫だろう。 「届くかい?」 「すまんのう」 お礼という程でもないが、ならば刺身は己が用意したい。 生でも十分にいける新鮮な魚介が沢山用意されているのは確認済だし、なによりも。 (ふふん、昨今の女子にモテるには、料理は必須スキルじゃからな) 宴もたけなわ。料理も、酒も進む、進む。 「あ、貝食べたいのう」 あーんと出来ればしめたもの。今日は無礼講だ。久しぶりに騒いで、食べて、疲れも全て吹き飛ばすのだ。 そんな様子をほほえましく眺めていた未成年パルマディン。 綺麗な景色に楽しい仲間と美味しい料理の仲で、ふと気づくことがある。 「このペースって事はきっとみんなちょっとどころじゃ無くてぇ、……泥酔しますよねぇ~?」 OK。わかってます。わかってますよぉ~。 「私が責任もって介抱しますから安心してぶっ倒れちゃってくださいねぇ~」 ● という訳で。 「運び屋わたこ、海辺にバーベキューパーティに来ていますv」 スクール水着の上にエプロンつけて、お料理スタイルも完璧だ。 肉、肉、肉! 焼肉は極上のグルメって言うじゃないっ! 「浜辺でバーベキューなんて初めての経験……」 集ったのは少女達。潮騒の音色に耳を澄ませ、星々の下、仲間達と賑やかな一時を過ごすなんて、とても贅沢だ。 山も良いが、海のバーベキューもまた格別なもの。ミリィにとって、何より楽しいのは皆とこうして過ごせることでもあり―― 輪にとってもこの福利厚生の催しは楽しくて。彼女にとってアークは何人もの家族と共に在籍しているのだが、ほら、海とか。父が錆びちゃうし。 その手の平には、この辺りの固有種だろうか。小さな黒い蟹が歩いている。 前にフナムシとか持ってたら近寄らないでと言われたので蟹なのだが。 もう少しトゲトゲしい、例えばフルメタルセイヴァーな感じの蟹とか居たら、父へのお土産にしようか、等と―― というわけで。楽しそうにはしゃぐ少女達に、氷璃は一人瞳を細める。 真夏の太陽は、些か刺激が強すぎるが、沈み往く太陽を肴にグラスを傾けるのも乙なもの。 彼女のグラスに満たされたのは深いクラレット。芳しい神の子の血――ボルドーだ。 興味深げに注がれる視線に 「糾華達にはまだ早いわね」 微笑んで。 「さぁ、皆に飲み物が行き渡ったわよ?」 「A votre sante(かんぱい)」 そうね。小首をかしげた糾華は閃いた言葉を口にする。 「夏、サイコー! かんぱーい!」 「「かんぱーい」」です……! その、ちょっと恥ずかしいです。頬を赤らめるミリィに、糾華も少し照れた笑いを浮かべる。 子供のようにはしゃぐ、文字通りの『子供』達を眺めながら、氷璃は赤ワインを一口。 舌先に感じるエスプリ、続く柔らかな酸味と芳香は、お肉の旨みを存分に引き立ててくれることだろう。 スピカが口にしたリンゴソーダのかぐわしい酸味と甘みが、火照った体にすっと染み渡る。 こうして集まって、賑やかで楽しいと、美味しさも何割か増しになるような気がする。 あとはとにかくお肉。お肉だ。 さて、どうするか。遠巻きに氷璃はすっと瞳を閉じる。料理は手伝いませんとぴしゃり。 家のキッチンと違って、こういう場所は勝手が違う。慣れない作業に右往左往しはじめた糾華を前に。 「火の近くは熱いだろうから、ひっくり返したりするのはオレに任せろ!」 少女の中、一人立ち上がるフツは、焼き奉行。こういう時に男性が居ると助かるものだ。 女子が多そうなので野菜もたっぷりと用意した。 定番のタマネギやニンジンもいいが、アスパラやエリンギだってウマイもの。 といっても、女子だって適度に肉を食べなきゃダメだ。特に三高平の女子達ときたら、戦いで流血が絶えないのだから、肉を食って元気になってほしいもの。貧血なんて目もあてられない。 とはいえ、そんな心配も杞憂だったのだろうか。 野菜は時間がかかるからと、まずは肉を焼くリンシード。彼女は。なんと! 肉に、飢えているのです……! 先ずは一枚ぺろり。細身の小さな体にどうやって入るのか。これでもかと盛られた肉を次々にたいらげていく。 これはレアだから。だから大丈夫。明らかに生焼けだが気にしたことではない。焼きあがるのを待つことすら出来ず、生焼けだって齧ってしまう。 「うふふ……おいちいです……」 「ん、そのソーセージもういいんじゃね?」 「はい……!」 肉が刺さった串を両手に三本ずつぐらい持つ様子は、なんだか、投げナイフみたいで見栄えはカッコイイのだが、その――取り過ぎ。 皆の視線を感じて、あわてて肉を開放するリンシード。あの人形の様な少女も、いつの間にか少女らしい動きをするようになってきたのだろうか。そんなこんなで氷璃お姉様にもお一つ献上。 焼きたてのシンプルな塩コショウのものを一つだけ頂くお姉様。 「タレはお嫌いですか?」 赤ワインとのマリアージュを楽しみたいから。 「決して好き嫌いではないのよ」 いよいよ野菜も焼けてきた。網の上で焼いていたとうもろこしを糾華はパクリ。 「ん、おいしー!」 醤油の香りが鼻腔をくすぐり、しゃきりと甘い。 「これ、焼けたわよ」 取り分けてくれた糾華にお礼を一つ。はふはふと頂く。 これはザブトン? カルビ? 熱いけれど、どれもとっても美味しい。 「でね?」 お肉もいいけれど――ここは運び屋わたこ。甲斐性の見せ所。 「海の幸、豪快に頂きたくないかしら」 折角の海辺のバーベキューなのだからと、クーラーボックスの中には近海で取れた海の幸がぎっしり。 「「わあっ!」」 綻ぶ皆の頬。続く喝采。 殻付き牡蠣には醤油とレモン汁。仕上げに刻みネギを少々載せて、殻がバチバチ言う頃に素焼きの完成だ。 ぷるぷるの牡蠣がさっぱりと喉を通って行くからたまらない。 「緒に焼いてた魚のエスニックハーブ焼きもそろそろ食べ頃よ?」 火傷に気をつけて。出来立てを是非是非めしあがれ―― はてさて焼き奉行フツ。 修行僧の様に、ひたすら奉仕を続けてきたのだが、自分の分は出来れば女子に焼いて頂きたいものである。 当然と言えば当然。自分で焼いて自分で食べるのはなんか味気ないからだ。 けれど、キーンと頭に来るかき氷に興味引かれる楽しげな少女達を邪魔するのもなんだか申し訳ない。 無理そうだからいいのだ。 それは小悟と呼べばいいのだろうか。 ● こちらは異界から来た二人。なんだかマイナスイオンが漂っている。 「色々な食材がありますね」 ファウナが眺めてみる分には、お肉……と呼ばれている素材がとても多いようだ。 恐らく哺乳類と分類される陸生生物の屍骸を、と。 それは兎も角、これはバーベキューと呼ばれる催しのようだ。これも宴の一種なのだろうか。 一先ず、どうすればいいのだろう。 スタッフを呼ぶという手もあるのだろうが、各々一言ある面々が多いようで、自分でやっている所が多い。 ならば彼女はそれを観察して。 「成程」 こうして焼くのかと完成したのはお肉の串。これを火にかけて、お茶を一啜り。 それを見たチャノも、やはり見よう見真似で串を作る。 肉、野菜、すいか、オレンジ、マシュマロ、ソーセージの特大串だ。 すごい! 周りを見渡しても、これが一番豪華な串なのではないだろうか。 さっそく焼けてきた。肉が焼ける香ばしさと、柑橘の甘酸っぱい香りも意外と食欲をそそり―― 熱い! 熱いけれど。お肉をパクリ。とろける肉厚なカルビの肉汁が、甘辛いタレと絡まって、これは! 「ねえファウ、これ美味しいよっ!」 それからこぼれおちそうな熱々のスイカを―― …… 「いまいちなところもあるよ……」 何事も経験か。そんなチャノの様子を見ながら、ファウナもお肉を一口。柔らかいフィレ肉の旨みがギュっと口の中に広がってくる。これは美味しい。 「ファウ! ファウ!」 「……チャノ?」 一人悶絶するチャノに小首をかしげる。 「うう、ファウ、辛いよ、口がしびれるよ……」 ソーセージに味を占めて二本目を焼いたつもりだったが、実はチョリソーだったらしい。 あらあらまあまあと、先ずはお茶を差し出し。涙目で飲み干すチャノ。 なんなのだ、これは。見た目がソーセージと同じなのに。いや、ちょっと赤が強いだろうか。それにしてもだまされた。こんなのってないと思うが、美味しいものは美味しかった。 次はお野菜で口直しをと、ししとうをパクリ。 フレッシュな青みと、しゃきしゃきの歯ごたえが口の中で―― …… ………… 「はぅぁぅぁ!?」←当たり。 「……さて」 悶絶するチャノに冷たいお茶を差し出して、慎重派のファウナはもう少し色々試してみたい。 お肉の他にもご飯や、やきそばなる茶色のウネウネ。 食べすぎには重々気をつけながら、色々と味わってみようと想うのだ。 注意点は、あと一つだけ。 ……チャノが食べて失敗したものも避けましょうか。 「最近仕事でガンバッたからさ」 そんな二人の横でバーベキューを始めるのは、またまた二人。 「ちっと奮発して……」 コヨーテと真昼のペアである。 「ジャーンッ!」 飛び出た分厚い国産和牛。特大最高級の逸品であろう。 「買ってきたぜッ!」 ええと。 「コヨーテ、自分でお肉用意したの!?」 「前依頼で豚食ったけど、牛はまだだもんなッ! 腹いっぱい食おうぜッ!」 味付けは塩と胡椒だろうか。備品を物色するコヨーテの背に向けて―― 「誘って貰って少し驚いたけど、ありがとう」 たぶんお肉ってアークが用意してくれていると真昼は思うが、あえて皆まで言わない。 それにしても、依頼で何度か一緒になったが、コヨーテは面白い。 「あッ。オレ焼いてくから、真昼、塩コショウぶっかけてってくれッ! 真昼の方が上手そうじゃんッ?」 そういうものなのだろうか。 「真昼は焼き加減何がイイ?」 「そのお肉、オレも食べて良いの?」 もちろん、コヨーテはそのつもりだ。 「オレはやっぱ、ちょっとレアっぽい方が好きだなッ」 鉄板に乗せた肉が焼け、良い香りが漂ってくる。思わず、喉が鳴る。 それにしても暑い。風があるとは言え、残暑の季節、火の傍でしている格好ではない。思わず水を飲んでいると、現れた光景に真昼は苦笑一つ。 「イイ肉は匂いまで最高だなァ……焼きたてな内にどんどん食おうぜッ!」 目の前の皿が肉で覆われていた。 こんなに食べきれないのだが、やはりコヨーテは面白い。 「デザートもあんのか……うえ、オレはイイや、甘いの食えねェ」 どうやら甘いものがダメらしい。 「ッてか甘くねェのって何かねェの?」 うーん。野菜? ● BBA――もとい。 「BBQにやって参りましたのじゃー! さー今日はお腹に溜め込むぞよ!」 スク水の上にパーカー。それも大型マーケットでおかんが買ってきた系のものを羽織り、レイラインは元気一杯だ。 スク水の理由はまあうん、色々と…… 深く聞いてはいけない。兎も角。今年もやってきた南の島! 青い空に海、そこで皆と息抜き出来るのは最高だ! 「肉の他にも色々あるな!」 疾風が見渡す限り、テーブルには各種肉に、その加工食品。新鮮な魚介まで目白押し。これはご飯が進みそうだ。 まこちゃん&だんちのみんなでばーびQ! きゅぴーん! 可憐な水着が愛らしいミーノ発動したのはマスターファイヴ。五感を研ぎ澄ませ、団地の皆が「ちょうこうりつてき」にばーびQ出来るように、戦闘指揮で応援するのである。 本気度100%だ。 集まったのは三高平団地の面々。妹から送られた水着の上、ハッピにねじり鉢巻きを決めた竜一が、今宵の焼肉奉行である。 タレは持参した。時は夏。泳ぎ、疲れ、遊んだ後。ならば味は濃いほうがいいだろう。 繊細な味付けではなく豪快に。だが雑なのはいけない。味、仲間、場の空気。その全てを加味した上で、フルーティな甘み、酸味。飽きさせぬ玄妙な味と複雑さを加えねばならぬ。 更に言えば、肉々しさは忘れてはいけない。 かといって固い肉ではダメだ。 ゴムのような肉はダメだ。 肉って肉であることと固い肉ってことでは意味が違うんだ。 とはいえ、それがただのタレの塊であっても意味がない。 肉汁とタレの調和。 味の多重奏を奏でてこそ、焼き肉の本質さ…… 下ごしらえは完璧だ。焼き方は――人それぞれ。 好みを押し付けるような野暮はしない。 楽しんで食うこと。これが一番重要なのだ。 それでは。一心不乱に肉を焼こう。 という訳で、ビールをぐびり。役得役得。焼きも捗るというものだ。 と。まあ。拘って焼いてくれるのだから、きっと美味しいだろう。 レンは隣で早速海の幸を焼き始めた真独楽(←注:美少女)を見やる。さすが南の島だけあって、こちらも美味しそうだ。 お肉は『一人焼肉マスター』の竜一に任せた。二人共頼もしい限り。 なんだか矢鱈とエロい水着の兄貴分。悠里が焼く野菜もちゃんと食べよう。 「みんな~! 夏!! サイコー!!!」 爽やか夏ボーイ()。みんなの火車君が手をふって登場だ。 水着アロハマン参上! ぶっちゃけ飯食うのも忘れて遊び狂っていた昨今、そろそろエネルギー補給しないと身体が燃え尽きかねない筈なのだが…… 見渡せば皆色々な食材を持ち寄っているようだ。便利な全自動焼肉機ドラゴンも存在しているようだから、彼は貪る団地員Bでいられるのである! 「火車と悠里は、コンテストの入賞記念に、イチバン大きい牡蠣焼いたげる♪」 「わ、ありがとう真独楽ちゃん」 早速網の上でくつくつと煮え始める牡蠣がたまらない。 「お……っ。祝辞とかマジありがてぇわぁ……」 ほんと良く出来たガキ共である。もう頭とか撫でたる。 「ウラちゃんのお皿には、おつまみになりそうなおっきいイカ」 「シーフードたんとうのまこちゃんっ! ミーノはえびっ! えびぷりーずなの~」 「ミーノ、おにくっ!あとソーセージ!ちょっとこげめがあってかりっとしてるのはミーノがよやくっ><*」 「レイラインは猫さんだし……やっぱお魚かな?」 遠火の強火で。焼かれ始めたのは卵たっぷりの落鮎。塩焼きだ。 いよいよ牡蠣が焼けてきた。つるりと熱々。旨みもたっぷりで。 「美味しいよねー牡蠣」 「いた牡蠣ます!」 スパーン! 「ってえ」 火車は言うなり竜一の頭をはたく。がんばった竜一。とばっちり竜一。 ああ。しかしこんなものを食べてしまうとお酒が欲しくなってくる。 悠里の視線の先には良く冷えたビール。あれは悪魔だ。いや、エンジェルか。 野菜担当の責任もあるが、ちょっとぐらいならいいじゃないか。 「竜一くんと火車もビール、いく?」 「若い者は遠慮をすることはないぞ。」 出た。年長者のお墨付き。 「ウラジミールさんもビール飲む? ウォッカとかの方がいい?」 火番のロシヤーネ。食材が焦げ付かぬよう、寡黙に細心の注意を注ぎ続ける彼は、今宵ビールを御所望だ。 「レイラインちゃんと疾風さんも」 「にゃお! わらわもお酌して回るぞえ!」 トクトクと注がれるビール。始めに少し泡を溜めつつ、とっとっと。 「みよ! この絶妙な泡加減!」 亀の甲より年の――いえ、なんでもありません。 未成年にはジュースを配って、それではみんなで。 「かんぱーい!!」 「いえーい! かんぱーい!」 「Yeah-! 夏サイコー!」 「ん!? 何? こういう時酒飲むモンか?」 神妙に頷く一同。 「……飲むもんだな! ビールなら行ける! 気はする」 たぶん! 「よしきたカモォン! 缶とかジョッキじゃなくてもう樽で来い樽で!」 夏、満喫。いぇーい! 疾風は色々な部位を。出来る限り素材の味を生かした形で楽しむ。塩かワサビ醤油がお好みだ。 「わ、ロブスター! コレはヒーローの疾風が食べなきゃでしょっ!」 お皿に置かれる真っ赤なロブスター。エメラルドのようなぷりぷりの卵に濃厚な海老味噌までついて。こんなのも悪くない。 「丁度良い具合に焼けているから食べるといい」 「わっ」 ロシヤーネの心遣いに、ありがとうと、真独楽の瞳が輝く。 みんなに魚介を配り続けていた真独楽へのご褒美は、とびきり美味しく焼けた上カルビだ。 「……ぷぁはっ! ……ぉぉあああ! キクなやなー!」 ギンと来る喉越し。鼻腔を抜ける麦芽の香り。火照った体に染み渡り――と。そんなこんなで大人組は早くもお酒に移行のようだ。 どうやら竜一と火車も飲めるようになったらしい。めでたいことである。 「あ……」 通りすがり、ぺこりと頭を下げるエスターテに、ウラジミールは問いかける。 楽しんでいるだろうか。 「……はい」 彼女の笑顔から屈託が消えたのは、何時の頃からだろうか。 「夏は短いので存分に楽しむのいいだろう」 「エスターテちゃんも一緒にどう?」 飲み物を頂く少女に悠里は問いかける。 「お父さんは元気にしてるかな?」 顔は見ていないが元気なようだ。誕生日の折には家に小さなプレゼントが届いていたらしい。 開けていないという少女に、なぜ開けぬのかと問えば、なんとなく悔しいのだという。 乙女心は複雑なものだ。 「レンも真独楽ちゃんもミーノちゃんもしっかり食べて大きくならないとね」 む。 「あ、レンはもう大学生だったね……」 なにを。 「成長は……」 「ユーリに追いつくのはすぐだぞ?」 「まぁ、うん……」 着実に伸びているというのに。 と。宴もたけなわ。オトナタチのお酒も進んでいくのがちょっと羨ましくもあり…… (俺も飲めるようになったら一緒に飲もう) あと二年の辛抱だ。 兎も角、こうなれば未成年はオトナタチの心配も始める。 「レイラインは顔が赤いが、大丈夫か?」 「ち、ちがうのじゃ、その」 気づいたらお皿が一杯で。その上にあるのは…… 何が違うのだろうか。ばーちゃん少し震えているような気がするが、大丈夫そうなら次である。 「ウラジミールも疾風も度数が高そうなお酒d」 「ひぃイカ!?」 イカは本能がダメなのである。何がダメなのか。とにかく伝承的にダメなのだ。 「にゃぎゃぁこっちにはタコ! デビルフィッシュ怖いー!!」 ふにゃふにゃと腰を抜かしてへたり込むレイライン。つまり、そういう事だったのだ。 「おぉおぉレンで飲めるよーになんのが来年より今年か!?」 「む。再来年だな」 「オーケオーケ! ガハハ!」 ガハハ――ガハ? 最初の一杯。おやすみ三秒。顔に出ていないようで真っ先な火車であった。 という訳で。 「ほふ~ミーノおなかいっぱい! ごちそうさまなのっ」 皆お腹もすっかり満腹で。オトナタチがお酒をちびりちびりと始めても。 「デザートも充実しているな」 ちっちゃい子達にだって楽しみはある。そろそろ欲しいのは甘いものだ。動けなくなるまで食べたつもりだけれど、こういうのは別腹別腹。 「よーし! ミーノ、レン、次はデザート攻めだよ♪」 さり気無くレンをちびっこ組に含めるまこにゃん。まじ小悪魔系美少女。 フルーツの盛り合わせは、マンゴー、パパイヤ、ライチにパイナップル。スターフルーツにドラゴンフルーツ。 ココナッツミルクにタピオカもあれば、お約束のケーキもあったりして。それから南国風のしゃりしゃりなシャーベットに、夏といえばかき氷だ。 コンプリートはミーノと真独楽にお任せして―― 「うわ!」 きーんと、抹茶のカキ氷が脳天に響いた疾風はお約束。 誰しも。 「ちょうだいまんぞく!!」 なのであった。 さて。 ちょっと席を外したエスターテは、もう一つ約束があった。 「俺が焼いてやるから、ちょっと待ってな」 マルタ生まれの姉弟とのバーベキューだ。 スーパーで流れていた『おにくのうた』を歌いながら待つ少女達。タイトルも歌詞も知らないが、なんだか耳に残る歌なのだ。 男子らしいてきぱきとした仕草で、ジースは肉を次々に焼いてゆく。 じっと炎を見つめる少女に 「エスターテ、あんまり近づき過ぎると危ないからな?」 ぽんぽんと頭を撫で、姉の方へ誘導しようとするが―― 「っておい」 二人とも火に近すぎだ。 「よし、焼けたぞ!」 「やけたー!」 僅かに潤む瞳。おいしそうに焼けている。 「どんどん食べろよ! 2人とも大きくなれねーぞ」 「ほい、タン塩」 「あ、タン塩はレモンかけていい?」 「え、と。はい」 あまり作法を知らないエスターテは曖昧に頷くが、なんだかさっぱりとおいしそうだ。 「行くよ!」 気合は十分―― 「うにー!!!」 レモン汁飛んだ♪ めめまで飛んで――♪ くるくるくる。 悲鳴一つ。険しい表情のまま、宙をきりもみ回転するジース。 ――倒れて落ちた♪ 「目が! 目が!!」 これは痛い。高速のレモン汁が瞳にダイブ。 まさか、夏の浜辺に打ち上げられた魚の気分を味わうハメになるとは。 「ああ……」 少女達はくすくすと笑っている。姉は何か棒のようなものでわき腹をつついてくる。 つんつんしないで…… ともかく水がほしい。 「水……ギャアアアアア!」 言いかけた途端、かぶさる海水にジースはひとしきりむせる。 がんばったジース。とばっちりジース。夕空に浮かぶのはドラゴンの笑顔。 その下に、お姉さまのイイ笑顔。なんですか、これ。 「その……」 差し出されるタオル。 「ああ、ありがとうエスターテ、ほんと良い子だな」 マジ天使―― プスッ。 桃色の髪の少女は静謐を湛えた瞳を潤ませ――笑った。 ● 金色の空は赤く色づき。やがて瑠璃色へと変わって往く時間―― 恋人と。兄妹と。どちらにもなりきれず狭間で揺れる男女。 レイチェルは美しい褐色の肌に良く栄える白い水着を隠すように、同じく白いパーカーを羽織っている。 先日の戦い―― 命を賭して、否。二人共生きて帰る為に戦い抜いたあの決戦。 あれから幾ばくかの時がすぎ、もう一歩だけ。二人は踏み込む勇気を手に入れた。 その筈だったのだが―― 「さあ、いっぱい食べるんだよ」 苦笑一つ。彼女は今、夜鷹の手で丁寧に焼かれる肉をただ黙々と食べているだけである。 言葉は無く。レイチェルの胸の内には僅かな緊張と、不思議な安堵とが渦巻いていた。 綺麗だ。薄手のパーカーは透けて、褐色の地肌と白い水着が見える。おそらく――夜鷹は想う。本人は気づいていまいと。 少し。酒を飲む。僅か数秒前に口の中から喉に通り抜けたであろう味なんて覚えていない。 レイチェルは今のままでも十分可愛いのだけれど、もう少しふくよかでも構わないだろう。 細身の身体に、意外と出る所は出ているのだが…… そんな事を考えながら、つい少女の出で立ちを見つめてしまう。 いけない。何を考えているのだろう。 暑さと酒に酔ったのだろうか。ふと立ち上がり、彼は―― 「え、ちょっと……!?」 いきなり何を。脳裏を駆けた後半は声に出なかった 暖かく大きな手が、パーカーのファスナーをするりと下げて行く。 「待って下げないで」 色々近い。 いつの間にか後ろに回りこまれていることなんて、気が付かなかった。 混乱するまま、レイチェルは夜鷹の拾い両手を掴み、おなかの辺りに抱え込む。 これ以上下げられたら――頬が熱い。 なのに夜鷹はそのまま、戦場で守り抜いた小さな黒猫を抱きしめて―― ホントにもう。 貴方って人は…… あきれたため息は。 けれど。それは数刻後の勇気となり―― |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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