●数年前の話 ねえ、知ってる? 病院の話! うんうん、夜に『出る』って噂の……あそこでしょ? マキも見たんだって! 白い幽霊が三人もいたらしいよ! うっそー、それ本当に言ってるの? ふと見た窓の端から目が覗いていたり。 階段を下りてたら、違うタイミングでもう一人分の足音が背後から聞こえたり。 扉を閉めたら、閉まったと同時に向こう側から鍵がかけられたり。 亡くなった患者の無念で呪われた病院なんだって。 病院の写真を霊感ある人に見せたら悲鳴を上げてたんだって。 物を持ち出そうとするとね、『かえして、かえして』って聞こえてくるらしいよ――。 「……ちょっとやりすぎたかなあ」 「こんなに騒ぎになるとは思わなかったよね」 山中の廃病院で、三人の少年少女が輪になって座り込んでいた。 「まあ、いいんじゃない? それだけマジっぽかったってことで、勝った気になっておけば」 彼らは三人揃って、血糊と砂埃で汚した上下セットのパジャマを着ていた。元は白かったらしいそれは患者衣を装うつもりだったのだろう。 「面白かったけどさ。俺らだってバレてたら嫌だよな」 「大丈夫でしょー。チラッとだけで、殆ど姿見られてないし」 「灯り持ってる奴には手も出さなかったしな。顔も見られてないはず」 暗闇の合間に見える白い人影。それだけでも、半信半疑で肝試しにきていた同級生達を心底震え上がらせていたに違いない。 「……そっか。うん、そうだよな!」 怯える友人の顔を思い返し、少年はにかっと歯を見せて笑った。 ●今年の話 モニターには、ホラー映画にも引けを取らない様相の廃病院が映し出されている。 「お、お待たせ……しました。依頼の説明をします……」 ホラー映画は好き。でもお化けはちょっと怖い。『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)はどこか落ち着かない様子で、資料をぱらりとめくった。 「現場はここ、山中の廃病院。……周辺の小中学生には、『出る』と言われているところです」 和泉は小さく肩を震わせる。 神秘の存在を知ってはいても、抗い難い恐怖というのはあるものだ。 「ですが真相は、数年前にある中学生達がでっち上げた怪談話でした。彼らが幽霊に扮し友人を脅し、その話に尾ひれがついて、子供だけの都市伝説として語られ続けていたのです」 数年前に中学生だった彼らは、既に大人と呼ばれる年齢になっている。悪戯の記憶すら既に薄れ始めている頃だろう。しかし――。 「怖がらせたい、脅かしたい。その意志が残留し、エリューションとして実体化してしまったようです。院内には三体の白い人影が病院内を徘徊し、脅かしながら襲ってきますので気をつけて下さい。現場は傍目では大きな変化はありませんが、中に入ると……それはもう」 ぶるり。もう一度、和泉は肩を震わせた。 例えば勝手に鳴り響くナースコール。例えば、唐突に点く手術灯。どうやら病院内は、何をするにもそれなりな出来事が待っているらしい。 気を引き締めて臨まなければ、同行者に無様に怯える様を見せてしまうかもしれない。逆に、怖がるふりをしてあわよくばしがみ付くことも可能なのだが。 「あ。あと、とても重要なことなのですが……」 心して聞いてくださいね、と和泉は念を押す。 「エリューション達は、強い灯りがあると姿を現してくれないようです」 倒すためにも、どうかいろいろとお気をつけて。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:チドリ | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 4人 |
■シナリオ終了日時 2011年07月26日(火)21:29 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 4人■ | |||||
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● 光とは常に人の生活の傍らにある。 それが断たれる感覚、例えば暗闇に満ちた山の中を歩くことに慣れない人は少なくない。 「『お友だちと肝試し』なんて、まるで童心に帰ったようですわね」 『鬼泣かせ』鬼哭・真心(BNE002696)は大人びた思考の元で微笑み、縦に巻いた髪をつつく。 「待ちに待った肝試しや!」 『イエローシグナル』依代 椿(BNE000728)は現場に着くなりぎゅっと拳を握った。『てるてる坊主』焦燥院 フツ(BNE001054)と共に持ち込んだデジカメ等の機材の揃いに抜かりないよう、もう一度荷物を確認する。 でっち上げられた幽霊騒ぎ。それが元になりエリューションを倒せと言うのが本部からの命。だがこの事件のために死人が出たとの話もなく、集ったリベリスタの多くが肝試しを兼ねた心持でいるようだった。 だが、それを苦手とする人間も珍しくない。『見習いメイド』三島・五月(BNE002662)はいかにも何か出そうな廃病院へ足を踏み入れながら重く息を吐いた。 (説教の一つでもしてやりたいですね) 原因となった彼らは今もどこかで人生を謳歌しているのだろう。この息がいずれ届くことがあるかは、解らないが――。 ● 病院は三階建て、現れる人影は三体。ならば手分けして探索しようと、一行は四人づつの三班に分かれていた。 一階を回る、椿と『食欲&お昼寝魔人』テテロ ミ-ノ(BNE000011)、フツ、『悪戯大好き』白雪 陽菜(BNE002652)。 前者三人はオカルト研究会の同志として、何か心霊現象を押さえられたらと神経を尖らせていた。だがミーノは……。 「……怖かったらうちの裾掴んどってもええんやよ?」 「テテロ、本当に怖くないの?」 「ほほほ本当なの、陽菜ちゃんにせせせ先輩としていいとこみみみ見せるのっ」 膝と声を震わせての主張にはまるで説得力がない。 「おっ、電話か?」 無機質な呼び出し音を耳に留めたフツ。マイクとビデオカメラを構えて廊下を進むと、『内線』と書かれたボタンが赤く光る電話の子機が見えた。 「……どうする?」 「呼ばれてるわけやし、なあ」 にやりと笑み、椿はボタンを押して子機を耳に当てる。 『……』 「……もしもし?」 『……』 椿は軽く首を傾げ、目のみで仲間を見る。 電気が通っているように思えない。椿は今触れている怪現象を無駄にするものかと受話器の向こうへ聴覚を集中させる。 『……いで』 「おっ、……え、何やて?」 『そのまま動かないで』 椿の意識が受話器へ張り付いてる隙。彼女のすぐ後ろへ、瞬くのみの間に白い人影が現れた。 「でっででで出たの~っ!!」 真っ先に気付いたミーノが叫び、椿が振り向きざまに身を屈めてカメラを向けた。首を捕えようとした白い腕が宙を掴む。 「って、近ああぁっ!?」 撮れた画像は、なんかちょっと白いだけでよく解らないものだった。 かつん。かつん。 折り返す階段を昇り昇って、『アガシオン』雑賀 暁(BNE002617)達の班は二階へ辿り着いた。 「千歳様、怖いならオレがお手を握って差し上げましょうか……?」 「嫌よ。気持ちわるいわ」 暁が何かを申し出るたび『ヴァルプルギスの魔女』桐生 千歳(BNE000090)は一瞬で却下する。だが彼は引き下がらない。 「いえ、別にやましい事は考えていませんので!」 「ちょっと! 何手ェつないでんのよ!」 別に暁に付き合いにきたわけじゃない。……嫌いというわけではないのだが。 「ふえーん、暗いよー……」 携帯電話の画面。何とも心許ないそれを頼りに『臆病ワンコ』金原・文(BNE000833)は辺りを見渡していた。背後には床にガラスの欠片が散り、窓には大きな破片が残っている。 「金原様。そこに映っているのはまさか……」 「ええぇ!?」 真心に促され窓を見る。残る破片に顔が浮かび上がり、思わず彼女は飛びのく。よく見るとそれは自分の顔。 怖がってばかりいられない、自分はリベリスタだ。ぐっとお腹に力を込め、前を歩く暁達の後を追おうと踵を返しかけ――獣の力を持つ彼女だからこそ僅かに察知した気配に足を留めた。 ふっ。 「きゃああぁっ!?」 振り返った文だったが、唐突に息がかかり飛び上がる。そこには美しい顔を綻ばせ微笑む真心がいた。 (倒す前に極上の悲鳴を聞かせれば、きっとエリューションにも満足頂けるでしょう) 真心はその意図を伏せたまま先へ進む。自分はお化け程度には充分な悲鳴を献上出来ない。仮に、アレにでも出くわせば話は別なのだが。 そう、アレ。黒くて艶々した、ちょうどそこの棚の隙間から這い出てきた昆虫のような。だがそうそう居やしな……ん? 「……きゃああぁ!!」 「あっ、真心さん!」 微風のように穏やかだった真心の表情が一変。驚愕と恐怖に歪み、真心は一目散に走り出した。慌てて文が追うが、その直後、何かにぶつかった。 「……」 白い、でも薄汚れた衣装。見上げるにつれ、赤い何かが点々と白を染める。 「きゃっ、で、出たーっ!?」 文の目線より少し高いところに、痩せこけて青白い、血まみれな頭があった。甲高い悲鳴を受けたそれは嬉しそうに揺れ、暁がはっと顔を向ける。 千歳は別格だが彼女以外を気遣わないわけではない。むしろ千歳、文、真心に囲まれているこの状況は、 (……ハーレムじゃん) 男としては願ってもない図。暁は、鼓動がより強く打たれる感覚を抱き式符を飛ばす。 誰も私を砕けない。 それが彼女の口癖だった。身体の一部の機械化と引き換えに命を引き戻した少女、『インフィ二ティ・ビート』桔梗・エルム・十文字(BNE001542)の。 そう、だれも、 「ひゃあんっ!」 わたしを砕けるはずが、 「きゃうっ!」 ……ない。 首筋に冷たい何かが触れたり、物影から唐突に人影が現れたりしたからって、別に驚いてなんかないし変な声なんか出してない。周囲から温かい視線が注がれているのも気のせいだ。 ぱんぱんと膝を叩き、右手で髪をかき上げて平静を装う桔梗。 視線のひとつは五月のものだ。三階を歩くこの班で唯一の男だと気を張るも、周囲の不気味さを否めない。 (全く、本当に腹立たしい相手です……) 深夜の廃病院なんて、こわ……いや、戦いにくいではないか。暗いし。 敵への抗議を抱く五月がふと視線を上げると、半開きの扉があった。大きな窓がついているが暗くて内部がよく見えない。 彼は意を決してそれを握る。開いた隙間から手が出て腕を捕まれるか、等と思い手元を凝視しながら。だが特に何もなく、安堵と共に顔を上げると――。 「……ひっ」 「きゃっ……ああああ!」 再び見たガラス窓に白い男の顔が張り付いていた。充血した目玉だけがぎょろりと動き、五月と、そして声を上げた桔梗を捉えて震えている。 「あああ……、あれ、え?」 彼らが息を飲み、目を瞬かせた一瞬の間に男は消えていた。 「随分とやつれた顔じゃったのう」 『伯爵家の桜姫』恋乃本 桜姫 鬼子(BNE001972)が首を傾げる。提灯の光で周囲を薄ぼんやりと照らし、周囲を窺う。 逢乃 雫(BNE002602)は動じず、ひたすら冷静に警戒を強めていた。彼女の瞳は闇の中でなお灯りの下のように世界を視る。 戸棚からばさばさと何かが零れ落ちた。仲間同士、顔を見合わせる。 戦闘の際に前へ出る心積もりの雫が音の元へ歩み寄り、落ちた紙を拾う。それはレントゲンで撮影した画像を印刷したもののようだ。 「……て……ちゃんと、……せてよ……」 どこからか、すすり泣く少女の声が響く。器用なものじゃと鬼子がひとりごちた。 周囲には破損した様々な機器が放置され、血糊が塗されていた。書類を納めていたらしい棚の周辺は、手指で掻き毟ったような赤い痕が残されている。何かを探していたかのように。 「どうしてみせてくれないの」 鳴き声が責め立てる声に豹変し、雫の首に手が伸びた。 「……!」 頚椎が絞られ、巡る血が一気に頭に留められる。だが彼女は少し眉を寄せるだけで驚愕の表情は浮かべない。 仕事、ならば忠実に成すべき――雫は現れた敵の姿を瞳にしかと捉えた。側面へ素早く回り込み、気の糸で霊の身を絡め取る。 ● 「はい、正座」 至極冷静な動作による蹴りが幽霊を一閃する。べしゃりと一度、床に身を伏した幽霊が見上げた先に椿の顔があった。 「えぇか、自分。うちらは心霊写真・映像が撮りたいんや」 椿は赤子を諭すよう、一段階トーンを落とした声でゆっくりと語る。 「それやのに、のっけから至近距離過ぎたらピントが合わへんどころか、見とる人からしたらわけわからへんやろ?」 先程のよく解らない画像を思い返しながら、椿は語り続ける。 心霊スポットにカメラを持って入ったのだ。この人影が空気を読めるデキる子だったなら、例えばフラッシュの瞬間だけやたらと明確に青白い顔を浮かび上がらせてその場を二度見させる等、もう少し何か気遣いがあっただろう。この舞台においてなんて惜しい。 椿は譲れない拘りを滾らせていた。語りに実演を混ぜる程に。 「ちゃんと驚かすつもりやったら、こぉ……こぉや! わかるか? さりげなく周囲の背景に混ざりつつもちゃんと自己アピールして存在感をやなって、ちょっと待ちぃ!?」 「やっやややめてこここ来ないでえぇぇっ!?」 語り続ける椿の前から幽霊はさっと去り、より容易に驚くミーノの背後へ回り込んだ。白く細い手を首へ回されたミーノは、まるで全身の血が凍りつくような恐怖に囚われる。 「こここ、こっちきちゃだめぇぇぇぇ!!」 「逃げるなあああっ!!」 ミーノの両手はそれぞれフツと椿の服の裾を掴み、恐怖も合間って固く、固く握られたまま。 慌てるミーノ、踊るように脅かし続ける幽霊、それを追う椿がぐるぐると回る。足音と悲鳴が廊下に響き渡り、木霊となって跳ね返ってくる。懐の携帯電話にそれを録音しながら、陽菜は笑みを堪えきれずにいた。 だが一応、エリューションの討伐が今回の仕事だ。やや惜しむように一度視線を落とした後、陽菜は愛用の巨大な火器を掲げ、放つ。 「なっ、ななななんでランプも懐中電灯も点かないの~!?」 灯りの準備は万端、のはずだった。だが電池やオイルのことを忘れていたらしく、頼みの綱は握れない。彼女らしいと言えばらしいのだが、彼女自身からしたらとんでもない、大問題。 恐怖のまま顔を引きつらせたミーノは椿とフツの服の裾を握り、一心不乱に蹴りを放った。 フツは皆を護る結界を張り、椿が符を掲げる。心霊現象を捉えるとは言いつつも、この程度の戦いは慣れたもの。幽霊は数度手を伸ばしてきたが、首に深く食い込むことはない。 「……せやから、至近距離過ぎる言うとるやろ!」 戦闘中でもカメラを手放さずにいた椿が歯噛みする。 彼女の放った鴉の符が人影に食らい付くと、それは霧のように姿を消した。 二階でも戦いは賑やかに行われていた。 暁は癒しの符で援護に勤しみ、文が懸命に黒きオーラを放つ。 「おばけヤだおばけヤだおばけヤだーっ!!」 「んふ。魔女が幽霊を怖がるとお思い?」 暁とちょっと離れて立つ千歳も行動の阻害に励み――そして幽霊はそんな千歳の首を絞めようと、ふわりと飛んできた。 「千歳様! ……ぐっ、が」 千歳と敵の間に暁が無理矢理割り込み、伸ばされた手は代わりに彼の首を掴む。痛みと息苦しさに視界を揺らしながらも、その中には無事な千歳がいる。 (これで少しは……見直してくれませんかね……) 緩められた手を振り払い、自らに符を当て痛みを散らす。 「……うふふ、わたくしの首を絞めたいの? いらっしゃい」 黒いアレのせいで涙を溜めたままの瞳で真心は語る。 まだ僅かに嗚咽を残す彼女の元へ、人影は滑り込むように迫り両腕を広げた。右と左、ふたつの手を戦慄かせて彼女の首をがしりと掴む。 だが、掴まれたのは敵も同じ。 抱きしめて、逃げ道を奪い、仕留めて差し上げる――首の痛みは予想以上だったが、真心は敵をその両腕で抱き込み死を含む爆弾を植えつけるよう放った。 死が炸裂し、人影の身が暴れるように捩られ、二つに千切れる。 人影は、そのまま床へ溶け込むように沈んでいった。 「手早く片付けてしまいたいですね……!」 恐怖がないわけではない。だが、望むもののため。 五月は床を蹴り、敵のすぐ前へと迫る。腕に宿した彼の炎は一層強く燃え上がり、人の形をした白いそれへ真っ直ぐに叩き込まれた。 そのすぐ脇から桔梗も身を滑らせ、人影へ思い切り剣を振るう。別に脅かされたことを根に持ってなんかいないし、いつもより力が入ってるわけでもない。 幽霊のように振舞う人影だったが、やはり相手はエリューション。剣が描く軌跡に合わせてその身に傷を示していく。 (……確実に、排除しなければ) 猛攻を受け続け、人影は僅かに消え始めていた。一度解かれた糸を雫がもう一度舞わせ、影に幾重にも巻き付ける。伸びる手は首まで届かない。 後方で鬼子が支援を行う中、メイド服に包まれた腕がまたも燃えた。可憐な容姿に反した激しさを籠め、五月は全力を賭して人影を殴ると、それはひとつ大きく身を逸らし、その姿を二重にブレさせた。 ゆらり、構えた剣が握り直される。 「誰も私を砕けない。それは幽霊でも同じ」 桔梗が腕を大きく振るい、影を真っ二つに叩き割った。 繰り返し言うが、いつもより力が入ってるように見えるのは気のせい。 ● 探索を終えた班から元の場所へ戻る。全て倒したことを確認すると、この場を怖がっていた者の顔に安堵の色が浮かんだ。 「千歳様……お怪我はありませ痛ッ!」 「五月蝿いわ、全く」 暁が千歳を気にかけることは、帰りの道中も変わらない。千歳が彼へ苛立つよう平手を打った。 「……仕方のない人ね。怪我はない?」 物言いは辛辣。だが、別に、嫌いなわけではないのだ。 「弱いけど、恐ろしい敵だったかもしれないね」 彼女なりにきりりと引き締めた表情で桔梗は語った。だが首を傾げた仲間につい口を噤み、ぷいと顔を背ける。 「……。だから、驚いてない。気のせい。それ以外の事実はないんだよ」 顔を向けないまま主張するあたり、どこか意地を感じさせる。 心霊現象はきちんと撮れただろうかと椿とフツは機材の画面を覗き込んでいた。すぐに判断は付きにくく――特に、あの半透明な身体がめいっぱい映っただけの画像に椿は口を尖らせる。 「で、でも、ぜんっぜん大した事なかったのっ」 ミーノはむんと胸を張った。が、これまでの様子や未だ震えの見える声からして、だいぶ背伸びしているようだ。だが、 「か えし て」 「はうわっ……!」 耳元で囁くような声。止まった涙が再び一気に溢れ、ミーノは空気が抜けたかのようにその場にへたり込んだ。 囁いた陽菜はやりすぎたかと頬を掻く。これくらいにしておこう。 (私の今回の目的は肝試しで、エリューションのことはオマケだったけどね) ふふ、と口の中で笑みを含み、帰路へと足を向ける。 ――『視える』人が視たら、その後を何かが憑いて行っていると言うかもしれない。だが、彼女の足取りは軽かった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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