●君を二の次、起きるは惨事 少年は今日も自室で、パソコンの画面へと向き合っている。ネットの向こうにいる友人と、今流行っているアニメの話で盛り上がる。 気になるキャラクターの話題になり、彼は思わず笑みが浮かべた。慣れた手つきでキーボードを叩き、打ち込まれる言葉は『俺の嫁!』 『ヒデ、お前また嫁変わったのかよw』 友人の返事に一瞬ドキリとしつつも、少年は適当に言い訳をしながら彼女への愛を語り始める。 確かに自分は少し移り気なところがあるが、どの子も可愛いのだから仕方ない。 かつて好いていたキャラクターへの想いが冷めたといえば、嘘になる。けれど、今はこの子の事しか考えられないくらいには、少年は彼女に夢中だった。彼女への愛の言葉は、止まる事なく紡がれていく。 彼の部屋の至るところには、色々なキャラクターのフィギュアやポスターが飾られている。一番目立つところに置いてあるのが、まさに今『嫁』と宣言された少女のグッズだ。 デスクトップの壁紙にも、彼女の姿が踊っていた。眩い笑顔を振りまく彼女を見ていると、自然と少年の頬は緩む。課題やバイトの疲れも、この笑みを見ていれば吹っ飛ぶというものだ。 「……ねぇ、その女、誰よ?」 不意に、そんな声がどこかから聞こえて、少年の肩がびくりと震えた。 両親はまだ仕事から帰ってきていないし、彼には兄弟だっていない。家には今、自分一人しかいないはずだ。 女の声だった。どこかで聞いた事がある気はするが、誰のものかは思い出せない。 女はあれきり黙り込み、室内はしんと静まり返っていた。そのせいで、少年自身の鼓動の音だけが、いやに耳に響く。 先程までは心地よかったはずの冷房が、急に肌寒く感じる。背中を伝う汗は、夏の暑さのせいではない。 少年は、恐る恐るといった様子で首を動かす。 振り返った先には――誰も、いなかった。 ……気のせいだったのだろうか。ホッと息をつき、少年は再びパソコンへと向き直る。 そして、気を取り直して娯楽に浸ろうとした瞬間……画面に映る人影と、“目が合った”。 「ひっ……」 悲鳴をあげようとしたその喉に、白く細い腕が絡みつく。 画面から這い出てきた女が、恐怖に震える彼の顔を覗き込んだ。 「そこも、どこも、全部私の場所だったのに……。どうして、どうしてあの女がいるの? どうして他の女を見るの? どうして私を見ないの?」 特徴的な甲高い声で繰り返す、少女の顔。見覚えのある、顔だ。 そう、それこそ、数日前までは穴があくほど毎日見入っていた――。 「あんなに愛してるって言ってくれたじゃない!」 鈍い音が響く。彼がかつて愛した二次元の花嫁は、腕に怨嗟と力を込め彼の命を捻り潰した。 ●英雄、ビット色を好む 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)の二色の瞳が、リベリスタ達の事を見つめる。そして今日もまた、彼女の唇から運命は語られるのだ。 「E・ゴーレム、そしてE・フォースの討伐をお願い」 対象は、ヒデオという名前の少年の所持しているノートパソコンがE・ゴーレム化したもの。 そして、そのE・ゴーレムが生み出すE・フォースである。 E・ゴーレムは、不快な音を辺りに響かせその場にいる者達全てを混乱させようとしたり、対象一人を感電させようとしたり、味方の状態異常を治療したりするのだという。 「E・フォースは、少年のかつての『お嫁さん』……彼が昔好きだったキャラクターの姿を象り、少年の事を優先的に狙うわ」 彼女達の攻撃手段は、首を締める事と呪いのように言葉を呟く事。どちらの攻撃も対象は一人だけだが、威力は馬鹿に出来ない。 場所は、とある二階建ての一軒家。両親は外出中であり、家には件の少年が一人だけ。一階にあるリビングや和室等は広いが、他の部屋はやや狭い。 エリューションがいるのは、二階の少年の部屋だ。E・ゴーレムはすでに革醒済であり、今か今かと暴れ出す機会を伺っている。 リベリスタ達がE・ゴーレムのいる部屋に足を踏み入れた瞬間、E・フォースが三体生み出されすぐに戦闘が始まるだろう。 「E・ゴーレムが存在する限り、一定時間経過ごとにE・フォースの数は一体ずつ増えていくよ。くれぐれも、気を付けて」 イヴの言葉を背に、リベリスタ達は向かう。嫉妬を知ってしまった、二次元の花嫁の元へ。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:シマダ。 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年09月06日(金)23:12 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●愛は次元を超え、憎悪へと姿を変える はふり、と小さく溜息を噛み殺す一人の少女。『微睡みの眠り姫』氷雨・那雪(BNE000463)は、今日の戦いの場となるであろう一軒家の窓を見上げながら、フォーチュナが語った任務の内容を思い出す。 男は移り気が多い、とは聞いた事があるが、こういう事なのだろうか。まぁ、自分には関係のない事だが。 「大切な人がいるのなら、その人……人? まぁ、大事にしないから……こうなるの、よ……」 人、の部分に疑問符を付けるべきか悩んでしまうのも致し方ない。今回の任務の相手は、何せ次元の向こうに住む花嫁達なのだ。 「二次元とはいえ、相手は女のコなのにィ……」 『ビタースイート ビースト』五十嵐 真独楽(BNE000967)は、ムッと口を尖らせる。 けれど、E・フォースに魅入られる事となる件の少年も、まさかこんな事態になるとは思ってもいなかっただろう。気を取り直した真独楽は、戦闘の準備を整え始める。 『クオンタムデーモン』鳩目・ラプラース・あばた(BNE004018)は今日の任務に何か思うところがあるようで、先程から押し黙っている。無表情ながらも、その瞳は僅かに怒りの色を灯していた。 「えっと、えっと……アニメや漫画のキャラクターがお嫁さん?」 しかも、コロコロお嫁さんが変わる……? と、『ODD EYE LOVERS』二階堂 櫻子(BNE000438)は小首を傾げる。 ほわわんとした少女はしばらく思案した後、「ある意味、自業自得ですわ」とキッパリと吐き捨てた。 「まぁ……二次元なんて私達には関係ありませんけれど。ね、櫻霞様♪」 にぱぁ、と黒猫は愛らしく微笑む。視線の先にはもちろん、愛しい人。『アウィスラパクス』天城・櫻霞(BNE000469)の姿があった。櫻子の言葉に、櫻霞も視線を返し、頷く。 「現代的なエリューションだね。この時代ならではって感じ」 そう呟いたのは、『Lost Ray』椎名 影時(BNE003088)だ。 けれど、彼女達のやる事は変わらない。何時でも何処でも、エリューションは葬るもの。 そこには、感情も慈悲もいらない。そう告げた影時は、最後に付け加える。「害虫を駆除するのに一々理由なんて考えないからね」 「『俺の嫁!』ね。大人な表現だね。恥ずかしくなっちゃうや」 『Le Penseur』椎名 真昼(BNE004591)が、今回の舞台となる部屋の主である少年の口癖を思い出し、呟く。 「あ、兄さん居たんだ。気付かなかったよ。一緒の依頼になるのは二回目だね、あはは」 「うん、ずっと居たよ。いつも通りにね」 妹である影時の声に、真昼もいつも通りの言葉を返す。今日の任務は、妹も一緒なのだ。頑張らなくては、と気合が入る。 ――さあ、思考を始めよう。 ●ディボースブルー 櫻子が授けた翼によりリベリスタ達は飛行し、窓の外から援護する者、室内に入る者の二手へと分かれる。 窓から室内へと無事突入する事に成功した真独楽は、その素早さを活かしすかさずパソコンと少年の間へと割って入る。 「へ!? なっ、ちょっ……!? だ、誰!?」 突然の事に驚く少年ヒデオの前に、真独楽はかばうように立った。上目遣いに少年を見やる真独楽と、彼の視線が交差する。 「あまり深く気にしないで。ヒデオを助けにきたの!」 真独楽の口が開き、紡がれる言葉。それはまるで、幼き頃に憧れたヒーローのような、そんなセリフ。 「ダイジョブ、絶対に守ってあげるから!」 「は、はぁ……?」 ヒデオには状況が分からない。この者が何者なのか。何故相手が自分の名前を知っているのかさえも。 けれど、にこりと笑った愛らしい見た目の人物と、少なくとも自分の味方であるような発言に、僅かに彼は警戒を解いた。 いったい何が起こったのか、ヒデオは真独楽に尋ねようとするが、生憎ゆっくりとお話をしている時間はリベリスタ達にはない。 何せ、ここはすでに戦場。ノートパソコン、否、E・ゴーレムは不穏な音を立て、場にフォース達を召喚する。 「ごめんね、ヒデオ! 説明してる時間はないんだ! ……うさぎ、パスっ!」 「はいこんにちは! かーらーの連行!!」 「は!?」 混乱しているヒデオを、『夜翔け鳩』犬束・うさぎ(BNE000189)は問答無用で担ぎ上げた。そのまま、向かうは部屋の入り口の向こう。 なるべく敵から離れた場所、けれどフォース達の視界からは外れぬ場所までうさぎは彼の事を連行する。 「いったい何なんだアンタ達……うわあああああっ!」 ヒデオの文句の言葉は、途中から悲鳴へと変わった。彼の瞳は、自分へと襲いかかろうとしている謎の人物の姿を捉えたのだ。 ヒデオを求めE・フォースは彼の元へと向かおうとする。けれど、真独楽がそれを許さない。 彼の代わりに、桃色の髪のナイトクリークはフォースの一撃をその身で受ける。続け様に放たれた別のフォースの攻撃も、真独楽は防ぎきった。 「ヤンデレに殺されてデッドエンドが嫌なら、ここで大人しくしてなさい!」 うさぎの言葉に、ヒデオは言葉を発する事も忘れ頷く。どの道、恐怖のあまり動けそうにもなかった。 「さぁ、参りましょうか……」 銀髪の女の、左右で色の違う瞳が細められる。櫻子が、周囲に存在する魔力を取り込み力を高めた。 「なんなのよアンタ達っ! 私と彼の邪魔をしないで!」 フォースの言葉が真独楽に襲いかかり、ゴーレムが放った電撃は影時へと向かう。 「恋する……それも、決して叶わない相手に恋する気持ち。まこもよくわかるよ」 真独楽は考える。恋してる相手の事を。大好きな、パパの事を。 「でも……スキな人を傷つけるのは、もっとダメ。恋する女のコがしちゃ、絶対ダメッ!」 単なるデータや画像とはいえ、一度はヒデオを愛し愛された女の子。 ヒデオを助けるため、そして彼女たちがスキな人を手にかけるのも阻止するため、真独楽は彼を庇い続ける。 那雪は真剣な面持ちで、部屋の外からフォース達に狙いを定めていた。脳の伝達能力を上げ、集中領域を高める。そこにあったのは、戦闘前の眠たげな彼女の姿ではない。きりりとした面持ちの、一人のリベリスタの姿だ。 「神秘は何処にでも発生するな。曰く付きの場所ならまだしも、引きこもりのパソコンですらか」 しかし、文句を言っても変わらない。どうであれ仕事は果たすだけだ。櫻霞は、二挺の大型拳銃を構える。 「まあそういう事情だ、部屋の中に置いてある『何かが』壊れたとしても……文句は言うまい?」 ――命があるだけ儲けものだと思っておけ。 紡がれた言葉と共に、放たれるは蜂の襲撃の如き弾丸。容赦のない連続射撃が、エリューション達の体を撃ち抜いて行く。 「さて、それにしても図々しいよね。アニメか漫画かゲームかは知らないけどさ、君達の物語は完結してるんだろう?」 真昼が、一体のフォースの周囲に罠を展開。現れた気糸が彼女の体を縛り上げ、行動の自由を奪う。 語り掛けてくれる事をやめた子を思い出だけで愛し続けるのは、きっと難しいし寂しい事だ。終わった君達が、今更どんな理屈で彼を責めるのか。 「熱烈なアピールを終えたのは、繋がる事を打ち切ったのは、きっと君達が先なのに。新しい彼の嫁は、君達に比べてどれだけ彼に語りかけてるんだろうね」 フォースは、彼の言葉を聞いているのかいないのか、答えようとせず、ただ呻き声をあげている。 「エリューション、聞きなよ。君への愛してるっていう彼の言葉はね。人間が子猫に可愛いねっていうのと同じだよ」 影時の声、そして彼女の攻撃が兄へと続く。 影時は語る。彼のそれは条件反射であり、其処に本物の愛はないのだと。 「機械の、それもただのデータの分際で恋愛でもできると思ったのかい? たかが0と1の世界しか持たない君が、設定された愛を語るとか笑えるよ」 虚ろな瞳で彼女はフォースを見据えた。少女の口元に浮かぶのは、笑み。 「悔しいなら僕の口、閉じさせてみるといいよ」 「二次元は愛してくれず信じてもくれない。だからこそ捨てられもしなければ裏切られもしない。希望が無いから絶望もない。醜い自分を見ないでいてくれる。クズな自分に期待しないでいてくれる。その優しさを愛するものなんだ」 壁を背にしたあばたの瞳が、フォース達を捉える。 銃口が向けられる先にあるのは、彼女達の胴体の中心部。なるべく部屋にあるコレクションを傷つけぬよう、細心の注意を払いながらあばたは狙いを定める。 「それがこっちに出てきて愛するだの憎むだの、お前は何だよ。何年オタク野郎のノパソやってたんだお前」 鳩目・ラプラース・あばた。インターネットジャンキー。彼女の二次元への思い入れが、フォース達への怒りとなり牙をむく。 「絶対に許さない。顔も見たくない! 二 度 と 三 次 元 か ら 出 て い け ! !」 放たれる、神速の抜き撃ち連射。殺意のこもった弾丸は、次々とエリューション達の体を撃ち抜いた。 前線に戻ってきたうさぎが、フォース達、そしてゴーレムの体を切り刻む。まやかしの血が咲き乱れ、室内を赤く染め上げる。 フォースはリベリスタ達の猛攻すら気にする事はなく、ただ一心にヒデオの事だけを見つめてる。けれど、先程食らった攻撃のせいで体が痺れて動けず、彼女は彼の元へと駆け寄る事は出来ない。たとえ体が自由だったとしても、リベリスタ達に阻まれて彼のところへ行く事は出来ないだろう。 「さぁ、痛みを癒し……その枷を外しましょう……」 櫻子の癒しの息吹が、辺りを包み込みリベリスタ達の傷を癒す。 ゴーレムを大人しくさせるため、那雪は対象の周囲に罠を設置。見事、ゴーレムの自由を奪う事に成功した。 もう一体のフォースの行く手を、真独楽が遮る。その上、ヒデオの前には真独楽と庇い役を交代した真昼が立ち塞がっていた。フォースの手は、ヒデオに触れる事は叶わず真独楽の首を締め上げる。 再び、放たれるあばたの弾丸。精密な射撃は他のものを傷つける事なく、ただエリューションの体だけを射抜く。 「やれやれ全く、こんな場所で暴れる羽目になるとは。……なに、諸共撃ち抜くまでのこと。エリューション相手に手は抜かん」 櫻霞の射撃も、それに続いた。一体のフォースが大きく苦悶の声をあげ、掻き消えていく。最期に、呪いのような愛の言葉を叫びながら。 「悲しいね。悔しいよね」 影時は、気糸を振るいながらもフォース達に声をかける。 「もし君が誰かの愛が本当に欲しいなら、次生まれる時は人間として生まれておいで。そしたら僕はもう馬鹿にもしないし汚さない」 君の純粋な思う心を誰が汚せるものだろうか。今は運が悪かっただけだ、と影時は告げる。エリューションは、倒さねばならない。 「解ってくれないかな。解ってくれなくても、倒すけどね」 続け様にもう一撃、放たれる気糸。また一体のフォースの姿が、命を失い霧散していった。 真独楽の攻撃が、残りの一体のフォースを呪い、縛り上げる。運良く自由を取り戻したゴーレムが、お返しとばかりに周囲に不快な音を響かせ、リベリスタ達を惑わす。 「あの……あの化け物達なんなんですか? なんか、ゲームのキャラとかに似てるし……コスプレ? な、わけないですよ、ね……」 真昼と代わりヒデオを庇う那雪に、少年は問いかける。 「前には出ないほうが良い。奴らの狙いは、キミだ」 「な、なんで俺が……!」 「……大切な人に見捨てられれば、淋しい思いを抱くのかもしれないな」 那雪の言葉に、何か思う事があるのかヒデオは黙り込む。室内では、彼を愛する少女が未だ暴れ狂っている。ただひたすらに、少年の事を求め届かぬ腕を伸ばす。かつてのような、愛のこもった抱擁を求めるかの如く。 ●此方には咲けぬ花 櫻霞の弾丸が飛び交う。真独楽が鮮やかに間合いを奪い、愛らしいクローで死の口付けをお見舞いする。影時の攻撃が、フォースの命を着実に削っていく。 櫻子が味方の傷を癒し、彼らに自由を奪う魔の手を取り除く。 負けじと対抗しようとしたフォースは、目の前に現れた影に自身の目を疑った。 うさぎが、怪盗を使用し自身の姿を瞬時に変えたのだ。モデルは、周りに山ほどある。そう、ヒデオの現在の嫁だ。 次元の違う存在である彼女を、完全に真似るのは難しい。けれど、フォースを動揺させるには十分だった。彼女の顔が、憎々しげに歪む。 うさぎはその隙をつき、相手の事を神速で切り刻んだ。息つく間もなくあばたの攻撃が放たれ、フォースの命をも撃ち抜く。 ゴーレムが、新たなフォースを場に呼び出す。待機していた真昼が、すぐ様周囲に罠を張り迎え撃った。前衛には、大切な妹がいるのだ。彼女を、フォース達なんかに傷付けさせる気は毛頭ない。 リベリスタ達の猛攻は続いていった。彼らの綿密な作戦が功をなし、状況はリベリスタ達優勢のまま進んでいく。 遂に、敵はゴーレム一体となった。じわじわと削られていたゴーレムの命を、うさぎの攻撃が更に削り取っていく。 「さっさと落ちろ害毒」 櫻霞の畏怖さえ覚える程の精密な射撃が、ゴーレムを的確に貫いた。 ゴーレムも不快な音を出し抵抗するが、惑わされたリベリスタ達は櫻子によって正気へと誘われる。真独楽が庇っているおかげで、ヒデオには傷一つつかない。 ゴレームは那雪の展開した罠にかかり、行動の自由さえも奪われる。 その好機を、リベリスタ達は逃さない。真昼の全身から伸びた気糸が、相手の弱い部分を狙い撃つ。 兄に続くように、戦場に舞うは妹。影時の攻撃に縛り上げられ、ゴーレムが悲鳴をあげるかのように画面を点滅させた。 そして、室内に音が響く。あばたが銃を構える音。ゴーレムを死へと誘うカウントダウン。 硬貨さえも撃ち抜く精密な射撃が狙うのは、無論E・ゴーレムだ。撃ち抜かれたゴーレムは、最期に僅かに奇妙な音を発したものの、それきり動き出す事はなかった。 戦場に、沈黙が訪れる。嫉妬を知った花嫁は、リベリスタ達の手により眠りについた。恐らくもう二度と、目覚める事はないだろう。 完全に起動を停止したパソコンに、影時の声が落ちる。 「おやすみ。恋に生きる乙女」 ●忘れじの花嫁 「運が悪かったな、ご愁傷様とだけ言っておこう」 戦闘が終わり、自身の部屋の惨状を見て茫然とするヒデオに、櫻霞が声をかける。それでも、あばたの気遣いのおかげで幾分かは被害を抑えきれたのだから、幸運だろう。 しかし、パソコンの内部のデータの復旧は困難だ。オンラインデータなら、電子の妖精を使ってでも自分が引っ張ってくる、とあばたが言う。 「何、わたしも興味がないわけじゃない……」 「この事後処理って、本部に全部任せちゃって良いのでしょうか……?」 ふりふりと尻尾を振りながら、きょとりとした様子でそんな疑問を口にする櫻子。 「俺達に出来る事は、もう無いな」 「神秘は秘匿するもの、ね……。彼はアークに渡して対応してもらう必要が、あるわね……」 櫻霞の言葉に、那雪もぼんやりと頷く。そして、彼女はヒデオの姿を目に入れると、彼に向かい言葉をこぼした。 「……次々に目移りするのは、男の性……? ……そんなこと繰り返していると、大切な人が出来たとき……悲しませるわよ?」 恐らく、神秘に満ちた今日の事を彼は忘れてしまうだろう。けれど、少しでも意識に残ればそれでいい。 那雪の言葉に、ヒデオは少しだけ困惑した素振りを見せたものの、しばらくして覚悟を決めたかのように、彼女の瞳をしっかりと見つめ返すと頷いた。 そして、ヒデオとリベリスタ達との別れの時がやってくる。 「また会えるといいね?」 投げキッスを投げてくる真独楽に、ヒデオは僅かに頬を染め、小さく手を振り返した。三次元も悪くないな、いやいや、なんて一人で色々考え慌てて首を左右に振ってみたりする。 「嫁が更新大いに結構。でも、時々は思い出してやって下さいな」 最後に、うさぎがそんな言葉を彼に投げる。無表情ながらも、どこか温かさを感じる声音で、うさぎは続ける。 「思い出と懐かしさが良い感じにスパイスになって、それはそれで良いものですよ?」 ヒデオはようやく少しだけ笑って、頷いた。 「忘れませんよ。何せ、大好きな、俺の嫁ですから」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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