●森崎神社 かつてこの町を守っていたお侍さんがいたんじゃ。 じゃが平和なこの場所をほしがる鬼がおってな。ある日その鬼が襲い掛かってきた。お侍さんは迫り来る鬼をこの街から守るため、必死になって戦ったんじゃ。 鬼はお侍さんのあまりの強さに驚いて逃げてしまったんじゃが、お侍さんの刀も二つに折れてしもうた。 「この刀は共に過ごしてきた仲間だ。ゆっくり休ませてほしい」 お侍さんはそう言ってこの刀を神社に預けた。そして折れた刀では不憫じゃろうと町の鍛冶屋さんが折れた刀を使って二本の刀を作ったんじゃ。 これがその刀じゃよ。夫婦刀というて、二つで一つの刀なんじゃ。こっちが『菊水』こっちが『狐火』じゃ。今でもこの神社とこの町を守っておるんじゃよ。 エリューション事件とは突発的に発生するものである。運よくフォーチュナが予知でき未然に防げる可能性もあれば、そうでない可能性もある。 「美緒……逃げるんじゃ……!」 血まみれの老人が地面に伏す。逃げろといわれた孫は、非常識の遭遇と親族の生命の危機に慄き、ただ首を横に振るだけだった。 目の前には犬を大きくしたような『何か』が二匹。それがエリューションと呼ばれる存在であることなど、知る由もない。ただそれが害意をもってこちらを睨んでいることだけは理解できる。 逃げるのが最上の手段なのだろう。それが可能かどうかはともかく、力の差は歴然だ。だが少女の心はそうしなかった。 「おじいちゃんを助けなきゃ」 恐怖が麻痺したのか、自分が殺されるという事は考えてない。でもどうやって? 困惑する少女の脳裏に浮かぶのは、昔祖父が話してくれた刀の話。あれがあれば。 無我夢中で走り、刀が奉納されている箱を取り出す。封を開け、その刀を手にする。 そんな背中に無慈悲に振り下ろされるEビーストの爪。 鉄の鎧すら引き裂くその一撃を、少女が持った刀が受け止める。 かつてこの地を救った刀が少女の祈りに答え、今一度の奇跡を示す。二匹の獣もその様子に気づいたのか、唸りを上げる。『食事』をする構えから、革醒者を『狩る』構えに移行した。 二匹の爪と牙を凌ぐ二刀。だが、結果は見えている。 少女は革醒しているわけではない。非革醒の状態で刀の能力により対抗しているのみ。単純な話だ。革醒者の動きに、一般人がどこまで耐えられるか。 ただそれだけの延命。 ●アーク 「イチニイサンマル。ブリーフィングを開始します」 録音機にスイッチを入れて、資料を開く。『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)は集まったリベリスタたちの顔を見ながら、これから起こるであろう神秘の説明を始めた。 「ある神社に犬型のEビーストが発生します。フェーズはそれぞれ2。数は二体」 和泉の説明と同時に、モニターに神社の地図と写真が映し出される。破壊された神社とそこに倒れる宮司。そして年端の行かない少女が一人。 「この少女は祖父をエリューション救うために武器を求めました。そしてこの神社に伝わる夫婦刀を手にします」 通常ならエリューション相手にただの刀を手にしたところで、何の役にも立たない。だが『万華鏡』が予知した未来はそうはならなかったのだ。 「この刀はもともとはアーティファクトだったのでしょう。夫婦刀になってもなおその効果は失われず、手にした少女にエリューションに対抗するだけの力を与えます」 「……それって万事解決するんじゃない?」 リベリスタの言葉に、和泉は首を横に振る。 「革醒していない彼女は、とても革醒者の戦いに耐えることはできません。戦いの途中で酷使した体が耐え切れず、彼女は命を落します」 その後は言わずもがな。Eビーストの餌食となるのだ。自らを傷つけたものに対し、獣が手加減する理由などない。 「少女……というより刀はEビーストが存在する限り戦いをやめないでしょう」 「Eビーストを先に倒せば、少女は止まる……?」 「おそらくは。しかしその間も少女は戦い続けるでしょう。興奮しているのか敵味方の区別がつかないみたいです」 仮にリベリスタが目の前でEビーストと戦っても、味方とは認識してはくれない。そしてその間にも少女の命は削られていくのだ。 「少女を助けるための最良の手段は、手早く刀を放させることです。容易ではないでしょうが……」 エリューションを相手しながら少女の相手も行う。それができれば勇ある少女を助けることができる。 「最優先事項はEビーストの打破です」 和泉は静かに書類に書かれた用件だけを告げる。 少女が殺されてEビーストが餌食にしているところを襲えば、不意打ちは可能だろう。ダメージも受けているため、任務達成は容易だ。そして作戦内容はリベリスタに一任される。 リベリスタたちはなにをすべきかを確認しあい、ブリーフィングルームを出た。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:どくどく | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年08月27日(火)23:11 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「さぁーて、今日も元気に人命救助だ」 『遊び人』鹿島 剛(BNE004534)は幻想纏いから銃を取り出し、構える。革醒前から人助けを行っていた剛は、夫婦刀の行動も理解できなくはない。その守る力で少女を傷つけてしまうのだから、本末転倒なのだが。 「祖父を助けたい一心で夫婦刀を手に取ったか」 目の前で繰り広げられるEビーストと少女の戦いを見ながら『陰陽狂』宵咲 瑠琵(BNE000129)が笑みを浮かべる。延ばした手が好機をつかめるとは限らない。だが手を伸ばした勇気に感服し、瑠琵は札を構える。 「全く、面倒をかけるガキだ」 ぼやくのは 年齢的には同じの『ラック・アンラック』禍原 福松(BNE003517)。だがその根性は嫌いじゃないとシニカルな笑みを浮かべる。手にした黄金の銃が陽光を受けてきらりと輝いた。 「ボクには分かるぜ。なんつったって同じ『守る為』の存在なんだからよ」 『墓守』ノアノア・アンダーテイカー(BNE002519)が少女を見ながら『盾として誇り高き古城の外壁』を構える。守りたい者がいるものとして、守りたい者がいたものとして。誰かを守りたいという気持ちは痛いほど理解できる。 「厄介な状況ではありますが、現時点では辛うじて犠牲者は出ていない」 少女とEビーストの両方を狙える位置に移動しながら『シャドーストライカー』レイチェル・ガーネット(BNE002439)が状況を確認する。確かに厄介な状況だ。だがこれをこなしてこそのアークのリベリスタだと自身を奮起させる。 「わざわざ厄介な形で戦いに臨むなんて我ながら、らしくない」 抜刀しながら『ファントムアップリカート』須賀 義衛郎(BNE000465)は自らの行動にため息をつく。崩界防止のために手段を選ばない義衛郎だが、勇敢な少女を助けること自体は悪い気分がしない。 「ンジャマァ、行きマスカ」 地を這うように走る『黒耀瞬神光九尾』リュミエール・ノルティア・ユーティライネン(BNE000659)の興味は少女は持つ刀のほうにあった。だが今はEビーストを葬るのが先だ。最速を持って、エリューションを葬ろう。 「肉体を削って戦うなんて、そんなことやらせるかよ!」 不条理に怒りの声を上げながら『男一匹』貴志 正太郎(BNE004285)が戦場を走る。この戦いはEビーストさえ倒してしまえば終りだ。少女を囮にしてもいい。だが、そんな結末は認めないとばかりに正太郎はフィンガーバレットを指にはめた。 二刀が交差し、獣がほえる。 少女もEビーストもリベリスタの存在に気づいたようだ。生まれた三すくみの状態。 しかしリベリスタは自らを敵と認識する少女と夫婦刀を救うために、破界器を構えた。 ● リベリスタの作戦は『Eビーストを攻撃しながら、美緒の刀を手放させる』である。瑠琵、義衛郎、リュミエールがEビーストを抑え、ノアノアがその補助に。そして命中精度の高い技を持つレイチェル、福松、正太郎、剛の四人が刀を落しにかかる。 「九尾ノ速サニ追イツケルカ、犬ッコロ」 『ミラージュエッジ』と『髪伐』の二本の刃を構えてリュミエールが戦場を駆ける。獣の爪を掻い潜り、その懐に入って跳ね上がるように刃を振るう。その傷を獣が認識する前にさらなる一閃。 「昔ノ遺産カ……狐火トイウノハ気に入った」 リュミエールがちらりとアーティファクトのほうに目をやる。装飾としては簡素なその小太刀。自分とは相性がよさそうだと思いながらさらにEビーストへと一撃を加える。速度と手数がリュミエールの武器。貪欲にそれらを求めた結果の一撃が、獣に刻まれる。 「お前達は、こっちだけ見てたら良いんだよ」 義衛郎の二刀が獣の注意を引く。義衛郎の二刀は攻防一体。『柳刃』が獣の牙を受け流し『鮪斬』が相手を裂く。払い、流し、斬り、裂く。時々二刀で攻撃を受け止め、相手の顔を蹴ることもある。 「さすがにアッチの技は無理か」 広範囲に剣戟を行う技もあるが、それをすれば味方を巻き込んでしまう。義衛郎の動きは自然と単体攻撃に絞られた。下手な広範囲攻撃は味方もそうだが美緒も巻き込んでしまう。 もっとも美緒のほうはそれを気にすることなく、広範囲に氷刃を振るっているのだが。 「ったく、攻撃してる余裕ねぇぜ」 ノアノアが美緒の刀が与える氷の戒めを打ち払う。いまEビーストと交戦している者たちがやられそうになったら交代するために、仲間の挙動を見守っていた。もう誰も死なせるつもりはないという気迫がそこにある。 「なあ菊水、狐火。お前らが守りたかったのは所有者じゃねえのか?」 ノアノアは美緒に……正確には美緒の持つ刀に語りかける。確かに二刀は美緒と神社の人間の命を守ってる。だがその行為自体が美緒の体を壊しているのだ。寝ぼけてるんじゃねぇよ、と悪態をつく。 「言うてやるな。アレとて苦肉の策だったんじゃろう」 式を打ちながら瑠琵がノアノアの悪態に答える。脈々と受け継がれ世代による精錬されが式の技術。それにより生まれた鴉の式がEビーストを襲う。その攻撃は肉体と精神の両方を刺激し、黒い衝動がEビーストを侵食する。 「さぁ、おぬしの相手はわらわじゃ。少し付き合ってもらうぞえ」 侵食したモノが瑠琵への怒りを生む。瑠琵は影に術を放ち、自らを守る盾とさせた。長くは持たないだろうが、それでいい。時間さえ稼げば後は仲間が何とかしてくれる。瑠琵は不敵な笑みを浮かべてEビーストの双眸を見た。怒りに満ちた咆哮が耳朶を打つ。 「護振り回される刀を正確に狙い撃つ、なかなか難易度が高いですが」 レイチェルは混戦状態から離れた場所で美緒を見ていた。正確には美緒の持つ刀を。刀にヒビでもあれば、と注視したが都合よく見つかりはしなかった。美緒の動きをよく見て、その動きが止まった瞬間にレイチェルは神秘の糸を打ち放つ。 「アークの精鋭としては、これくらい軽くこなしてしまわないと、ね」 レイチェルの放った糸は美緒が左手に握る刀に衝撃を与える。金属が震える音が響いた。神秘の加護があるのか一撃では刀を弾くことはできないが、それでもその加護を削ることができたのを感じる。 「犬のほうは任せたぜ!」 正太郎は美緒の真正面に立つ。回転するような動きで美緒の刃が迫る。革醒者ならともかくこの動きは確かに普通の人間には負担が掛かるだろう。発生した冷気を払いのけながら、正太郎はフィンガーバレットを構える。 『美緒を離せ、その子は普通の女の子だ。身体が必要なら、オレを使え!』 テレパスで語りかけながら、正太郎は刀に銃弾を叩き込む。答えはない。答えるべき口がないのか、そもそも意志がないのか。変わらぬ美緒の動きが答えとばかりに正太郎を切り刻む。 「お侍さんよ。あんたの志は解る」 福松は黄金の銃を構えたまま動き回る美緒に語りかける。正確にはその体を動かしている神秘の正体に。この奇跡がなければ、この神社の人間はアークが駆けつける前に皆死んでいただろう。その功績を蔑ろにする気はない。 「だがな、あんたのその力は、その子を殺しちまうんだ」 舞うように動く美緒の手先を追う様に福松の銃が揺れる。だがそれは安定した動き。手首だけで銃を動かし、それを支える腕と肩は全くぶれていない。狙いは確かに。弾丸は美緒の刀に向かって飛ぶ。 「守る力が強すぎて、体を酷使して持ち主に被害が出てしまう、か」 過ぎた力は身を滅ぼす。剛はそんなことを思いながら銃を構える。刀にとっては不本意な結果だろう。このまま放置するわけにも行かない。早く刀を手放させ、保護しなくては。手に馴染んだ銃で、幾度となく繰り返してきた狙いの構えを取る。 「お前さんも持ち主なんか傷つけたくないだろう」 息を吸い、吐く。剛の精神はそれだけで研ぎ澄まされ、射撃の状態に入る。直径26ミリの硬貨すら狙って当てることのできる精密な射撃。その射撃が美緒の刀を揺らす少女の体にあたらないかと不安もあったが、落ち着けば何とかなりそうだと剛は安堵する。 リベリスタには美緒を見捨ててEビーストを狙うという選択肢もあった。そのほうがリベリスタの被害は少ないだろう。運がよければ美緒も命は助かる。だがリベリスタはそれを選ばなかった。美緒を無事に救い出すということに心血を注ぐ。 しかし相手はフェーズ2のエリューションが二体。戦力を割いて戦うのは、安易な道ではない。 ● 美緒とEビーストは共に近接戦闘を主体とし、リベリスタ到着時にも切り結んでいた。 リベリスタはその間に無理やり入り込んだに過ぎない。背後に回ったリュミエールを除けば、交戦している者たちは形の上では美緒とEビーストに挟まれている形になる。 それはつまり、Eビーストと美緒の双方の攻撃を受ける形になっていた。 獣の瞳がリベリスタの動きを止めれば、牙がその肩口を食い破る。『菊水』が太腿を裂くと同時に『狐火』が胸元を鋭く突いた。 「らしくないことはするもんじゃないね」 「まだまだ負けるかぁ!」 義衛郎と正太郎が三方向からの猛攻に運命を燃やす。回復のない構成では長くは持たない。早く勝負を決めなければと焦りが募る。 「全く。乱暴者じゃのぅ」 影を用いてダメージコントロールを行っていた瑠琵も、耐え切れぬとばかりに膝を突いた。全く楽な戦いではないと運命を燃やして印を切る。 「やべぇな。代わるぜ!」 「いや、まだまだやれるぜ」 ノアノアは疲弊した前衛と代わるように前に出ようとするが、やんわり押しとめられた。事前に打ち合わせがあれば交代もすんなりいけたかもしれないが。 Eビーストと美緒への対応が少ないということは、逆に言えば美緒の持つ刀に向かう火力が多いことである。針の穴すら通す精密な攻撃が、二刀に次々と襲い掛かる。 「美緒の身体をこれ以上傷つけさせるわけにゃいかねえ」 正太郎が両手で二刀を受け流しながら叫ぶ。迫る刀を拳で弾き、至近距離から刀に弾丸を放つ。もちろん全てを受け流せるわけではない。むしろ傷だらけだ。それでも正太郎は引くことはない。その不転退の覚悟が、ついに美緒の腕をつかむ。刀が狙いやすい位置で押さえられ、動きを止める。 「今だ! いけ!」 「任せろ」 福松が笑みを浮かべて黄金銃を向ける。脇を締め、軽く肘を曲げて銃を掴む。拳の延長ともいえる愛銃から、一発の弾丸が放たれた。二刀の加護を貫いた弾丸は、その威力を落すことなく刀に命中し、美緒の手から刀を弾き飛ばす。 まるで人形の糸が切れたように、少女がその場に崩れ落ちた。激しい運動により息は乱れているが、生命の危険はなさそうだ。それを確認してリベリスタはEビーストに視線を向ける。 「こちらは抑えておきます。もう片方を一気に潰しちゃってください」 レイチェルはEビーストに向かい糸を放つ。刀に放った鋭い糸ではなく、動きを捕らえる罠の糸。糸は蛇のように地を這い、獣の俊敏ささえも上回る動きで絡みつきその動きを拘束する。 「捕らえました。易々と逃げられると思わないでください」 純粋な力ではEビーストに負けるが、それを技術で押さえ込む。レイチェルという黒猫の爪は鋭い。 「コッチダゼ、ワンコ。コノ剣閃ヲ見切ッテ見ロ」 言葉よりも速くリュミエールが駆ける。二本の刃を振るうたびに光が生まれ、その瞬きに翻弄されている間にさらに斬撃が走る。文字通りの剣閃。Eビーストの豪腕は確かに猛威だが、連続で刻まれるリュミエールの刃はそれを上回っていた。 「見エルモノナラ、ナ」 「時間稼ぎが出来ればそれでいいんでな。悪いが付き合って貰うぜ犬っころ」 Eビーストの前に立つノアノア。振るわれる破界器から生命力と精神力を搾取する暴利の技。相手を傷つけながら、その上で奪う二重の攻撃。ノアノアの生来の防御力とあわせて、時間稼ぎにはうってつけだ。ニヤリと笑みを浮かべて、獣を睨む。 「さーて、作戦をちゃちゃっと片付けましょうか」 美緒の安全が確保できれば、それを庇うような位置に立ち剛が銃を撃つ。一番の懸念である美緒の生命は確保したのだ。後は少女を守りながらエリューションを撃つのみ。口調が軽くなるのは『遊び人』の面目躍如たるというべきか。もちろん油断するつもりはない。 「よくがんばったな、祖父ちゃんも無事だぜ。あとはオレたちに任せろ!」 その美緒を抱えて正太郎が一旦戦線を離脱する。刀を手放した美緒が革醒者の戦いに巻き込まれれば、今までの苦労が水の泡だ。息絶え絶えの美緒が正太郎の言葉に答えることはなかったが、何かしら伝わったものがあったのだろう。安心して眠るように、美緒は意識を失った。 「こいつで終りだ!」 義衛郎がステップによりEビーストを幻惑しながら間合をつめる。右に揺れたかと思えば左に、そして気がつけば前に。Eビーストが惑ったのは一瞬だろう。だが戦闘における一瞬は致命的。生まれた隙を逃すことなく『鮪斬』は振るわれ、エリューションの命脈を絶つ。 「……チッ、マダ速サがタリネー、ッテカ」 リュミエールがEビーストの爪に裂かれて、吹き飛ばされる。空中で回転し血を吐いて悪態をついた。運命を燃やし、さらに加速する九尾。 「美緒を救出してしまえばもう遠慮は要らぬ! と言いたい所じゃが、やる事大して変わらんのぅ」 「いいえ。今まで瑠琵さんがこの一体を押さえていたからこそ、被害は少ないんですよ」 瑠琵がEビーストの気を引き、その間に他の敵を掃討する。それがなければ前衛の瓦解もありえただろう。 「じゃあな犬ッコロ」 福松がEビーストの瞳を睨む。その視線に乗せるように銃口を向けた。あまりの素早さかはたまた福松の気迫に呑まれたか。Eビーストはその視線から逃れることができずにいた。引き金がゆっくりと引かれていく。 時間にすればそれは刹那。弾丸はEビーストの眼球を貫き、そのまま脳天まで届く。激しい痛みに獣に絶命の咆哮をあげた。 「野良犬同士のケンカは、俺の勝ちだ」 宣言と共に銃をしまう。 それと同時に最後のEビーストも地面に倒れ伏した。 ● リベリスタが美緒から刀を手早く飛ばしたこともあり、美緒の容態は肉体疲労程度で収まった。一日安静に寝れば、後遺症も残らないだろう。 「みんなが無事でよかったぜ」 正太郎の一言は、美緒のために尽力したリベリスタの総意だった。エリューションによる一般人の被害は最小で抑えられた。 だが、一つだけ問題が残される。『菊水』と『狐火』をどうするか。これに関してはリベリスタも意見が分かれた。 「今回のことを考えるとここにおいておくのは危険だと思う」 「彼女達と共にあっての守り刀、だとは思うのですが。さすがに回収せざるを得ないでしょうね」 「これだけのアーティファクトを野放しにするのも問題ダナートハオモウ。トイウカ私に使わせて欲しい」 義衛郎、レイチェル、リュミエールの回収推進組と。 「この刀達はずっとここを護ってきたんだ。個人的にはできれば刀は元の場所へ戻しておきたい所だな」 「個人的には刀を元の神社に戻したいがねぇ」 「一般人への影響を考えたら余り得策じゃあねえんだろうけどな」 福松、剛、ノアノアの神社に戻す組である。 「美緒が託したいと思った相手に託すのが良いと思うのぅ」 という瑠琵の意見もあったが、当の美緒は体力回復のために睡眠中である。さすがに憚れた。 刀をどうするかの相談は五分ほど続き、最終的には回収する方向でまとまった。神社に戻す組も、ここに刀をおいておくデメリットの大きさは理解できたからだ。 「封の解かれた夫婦刀を狙う不逞の輩が現れたときに、また我々が護れるとも限りません。何卒、ご協力を」 義衛郎が事情を説明し、頭を下げる。最初は信じられないと戸惑っていた森崎神社の人たちもその態度に嘘を言っていないことを理解する。 「傷だらけになってまで美緒を救ってくれたお礼じゃ」 そういって宮司は刀をアークに手渡した。 かくして『菊水』と『狐火』はアークの元に送られる。 「欲シカッタンダケドナ、狐火」 「うむ、わらわも欲しかった」 とはいえ物は夫婦刀である。二本一緒で扱うのがいいだろう、ということで二本一緒に納められることになった。 そして、美緒は順調に回復して今日も元気に走り回っているという。エリューションとの邂逅は記憶になく、革醒の様子もないとか。 ――数年後に美緒が剣道を始め、二刀流の剣士としてかなりの成績を残すのだが、それはまた別の話である。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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