●行き交う人々の合間に きらきら。ぴかぴか。 鮮やかな光が瞳をつつく。 ぴーぴー。ひゃらひゃら。 賑やかな音が耳をくすぐる。 でこぼこした固い地面を少し歩くと、甘い、甘い匂いがした。 棒で四角く組んだ建物のようなものの前に立ち止まる。その上には薄くて黄色い布が被せられていた。赤で何か書いてあるがよく解らない。ただ、建物に取り付けられている灯りで、黄色が一層明るく見えた。 「りんご飴、りんご飴はいかがっすかー。……ありゃ。こんなところで何やってんだ」 ずい、と何かが――いや。誰か、だろうか? 建物の奥から身を乗り出し、こっちを見つめている……のだろうか。よく解らないが怖くはなさそうだ。 身体を伸ばし、建物の台へ手をかけてみる。け、結構高い。 もう少し身体を伸ばしてみると、台の上にあるものがほんの少しだけ見えた。 棒に刺さった赤い玉。つるつるしていて、形はちょっといびつ。透明な薄い何かで覆われてる。 「飼い主、近くにいねえのか?」 「いないみたいっすねぇ」 「放し飼いかよ! ったく……」 何か話してるみたいだけど、目の前の赤くてつるつるしたものの方が私には重要だ。 これは一体何だろう。様々な光に彩られた周囲の様子も手伝ってか、妙に心が躍らされる。 「……あれ? あいつ、どこいった?」 逃げろ。逃げろ。 手に入れた。手に入れたぞ。甘い匂いがする、棒のついた赤い玉。 あ。あれは何だろう。紐が何故か上に伸び、そのてっぺんには大きな丸い玉が浮いている。 ああ、あれは何だろう。伸び縮みする紐の先に玉が付けられていて、じゃぽんじゃぽんと鳴きながら上下している。 あれは? あれは? あれは――? ●お祭り会場での迷子報告 すう、はあ。 一組の呼吸の後、『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)は笑顔で言った。 「お集まり頂き有難うございました。迷子のお知らせです」 「……迷子?」 彼女の様子と物言いは、まるでショッピングセンターの放送のお姉さんだ。その様に緊張を解いたリベリスタが思わず口を開いた。 「はい。とある神社の隅っこに開いたゲートから、アザーバイドが一人でやってきてしまったんです」 ゲート付近は人気もなく、静かな場所だ。しかし神社の周辺では、ちょうど夏祭りが開催されていた。 どうやらこのアザーバイドは、立ち並ぶ屋台、祭りの音や光、人々が賑やかに行き交う様に心を奪われているらしい。興味の向くままふらふらと人ごみに紛れてうってしまうため、早急な接触が必要だろう。 「アザーバイドはお祭りの様子が見慣れないからか落ち着きはありませんが、敵意や攻撃性は殆どないようです。むしろ友好的な態度も見せていますね」 戦闘で片を付けるならほとんど手間はかからないだろう。だが――。 「お祭りに満足したら、そのままお家に帰ってくれそうです。なお、満足させるにあたってリベリスタの方々が何をどれほど満喫しようと、アークは一切言及致しませんので」 どのように過ごされるかは、お好きなように。 楽しげな含みを込め、和泉はひたすら微笑んでいた。 「ちなみに、これがそのアザーバイドのビジュアルデータです」 モニターが明滅した一瞬の後、切り替わった画面に白くふわふわしたものが映し出された。 真っ白な体毛に黒い鼻と目。二本足で立ったらきっと小さな子供くらいの大きさ。 口にはりんご飴を咥え、周囲を忙しなく見渡している。 それは、まるで――。 「……犬?」 「に、見えますが。アザーバイドです」 和泉は一際笑みを深めて告げた。 「リードが必要でしたら支給致しますので、ご心配なく」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:チドリ | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 4人 |
■シナリオ終了日時 2011年07月26日(火)21:27 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 4人■ | |||||
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●特別な夜が始まる 灯りがひとつ、ふたつ、みっつ――。 地を焼く夏の陽も漸く眠り始めた頃、しかしそこは明るさを失わない。多くの光が道を照らし行き交う人々を包み込む。 「ふふっ、縁日、お祭り♪」 そこかしこにフリルが踊る浴衣を着た『ナーサリィ・テイル』斬風 糾華(BNE000390)が楽しげに袖を振る。今日は『Trompe-l'œil』歪 ぐるぐ(BNE000001)とのデートと称し、彼女と共に――もとい、彼女に引っ張られ屋台を覗いていた。 「あ! あれ超綺麗!」 「ホント、綺麗……あ、ちょっと待って、ぐるぐさんっ」 慌しくも、糾華の顔には笑みしか浮かばない。 「お嬢様……お似合いですわ」 藍色を基調とした浴衣の『ヴォーパル・バニーメイド』ミルフィ・リア・ラヴィット(BNE000132)は、主である『童話のヴァンパイアプリンセス』アリス・ショコラ・ヴィクトリカ(BNE000128)の姿を目に惚けたように息を吐いた。 親愛なる主はミルフィが用意した淡いピンク色の浴衣を纏い、花のように微笑みながら語る。 「折角のお祭りですから楽しんで頂きたいですね。アザーバイドさん……『りんごちゃん』には」 りんごちゃんとは、今回接触するアザーバイドに対して糾華が提案した呼び名だ。 神社に紛れ込んだアザーバイドへの対処、ホールの破壊。それが今回の仕事だった。だが集った中でも女性陣の多くはそれぞれが華やかな、もしくは可愛らしい、美しい浴衣を身に付け明るい通りを歩く。 「私はホールの周辺から人払いをするわ」 『ロストフォーチュナ』空音・ボカロアッシュ・ツンデレンコ(BNE002067)はこの神社の巫女に扮し、祭りの喧騒からやや離れた場所に空いたホールを見つめていた。 間違っても一般人がここへ入り込んでしまわないように。普段からよく着ているのか、巫女装束で歩く姿もごく自然だ。 周囲に合わせ『イケメンヴァンパイア』御厨・夏栖斗(BNE000004)は甚平を着て、『毒絶彼女』源兵島 こじり(BNE000630)の傍らを歩く。 「あ、あれ! 型抜きやりたい!」 夏栖斗のくるくると変わる表情は年相応だ。対するこじりはどこか晴れ間の薄い顔。 (御厨くんと回るなんて、嫌だわ。あの子、迷子になりそうだし) 彼女が重い息を吐いた数秒後のことだった。 「あっ、ヨーヨー! ……あれ、どこいった?」 屋台へ目を輝かせる夏栖斗は、ふとこじりがいた方へ目を向ける。 彼女は、忽然と姿を消していた。 夏栖斗が指したヨーヨー釣りの屋台の傍に、白いふわふわしたものが座っていた。『三高平の肝っ玉母さん』丸田 富子(BNE001946)は覗き込むようにそれを見つめた。 「これが危険な存在なのかい? わんこじゃないか」 声に、それは振り向いた。白い毛に黒い目、そして鼻。 アザーバイドの『りんごちゃん』。 ●りんごちゃんと 祭りの様子に落ち着かないりんごちゃんへ、『臆病ワンコ』金原・文(BNE000833)は負けないくらい気も漫ろに駆け寄った。 「りんごちゃん、わたあめ食べてみる?」 自分の綿飴を千切って差し出して見せると、彼(?)はりんご飴を石畳の上へ置き、興味津々といった様子でふんふんと数回鼻をつけた。 「りんごちゃんは順番に預かるのかしら」 「じゃ、最後がいいなー。先に楽しんで来る!」 糾華とぐるぐ。もう少し詳しく言うと、ぐるぐに腕を引かれた糾華は、彼女に引かれるまま人ごみの中へ分け入って行く。 綿飴を作るところも面白いよと歩く文に、りんごちゃんはてちてちと付いていき――その屋台の前で抱き上げられ、綿状となった砂糖が割り箸に巻き取られていく様子を不思議そうに眺めていた。 「うむ、元気で結構」 玩具を手にした『誰が為の力』新城・拓真(BNE000644)が微笑みながら頷いた。傍らへ寄り添う『星の銀輪』風宮 悠月(BNE001450)を一瞥し、りんごちゃんを見失わないようにとアーティファクトで他の仲間へも状況を伝える。 「りんごちゃんが気に入ってくれそうなものがあれば良いんですけど……」 アリスはミルフィと共に屋台を回りながら、気を引く材料を見繕う。 見た目は犬、しかし相手は異世界の住人。とは言え、興味をそのまま態度に示すりんごちゃんの気を引くことはかなり容易なようだった。 「あっ! ミルフィ、あれ」 道行く人々は時とともにその数を増していく。その合間から覗くのは大小様々な箱とライフル型の玩具の銃――射的の屋台だった。 (りんごちゃんはどれを気に入ってくれるかしら……) 傍らで見守るミルフィの視線を受け、アリスは真剣な面持ちで照準器を覗く。 (……祭りか) こういった場に足を運ぶのは何年ぶりだろう。りんごちゃんを眺め、拓真はふと思う、 祭りへ来ると思い出す過去は、決して幸福なものではない。それが解っていながら彼は来たのだ。 選んだのは、過去より今。 浴衣を身に付け彼と連れ立つ悠月の横顔を提灯が照らし、赤く染める。その光景はどこか日常と違う空気も感じさせ、拓真はしばし魅入っていた。 「手を。……逸れてしまわぬようにな」 「はい、拓真さん」 差し出された、自分のよりも大きな手。 悠月は頬に薄紅を浮かべ、そっと手のひらを重ねる。賑わいは程なくして頂点を迎え、密度を高めていく人ごみの中、二人は確りと手を握り合った。 そういえば、子供の頃に祖父と離れ迷子になった事があった。そういった子供がいないかと拓真は頭の片隅で意識を張る。 その頃、子供ではないが、とある迷子が周囲を見渡していた。 「全く、世話の焼ける。一度蝋人形にしてくれようかしら」 案の定居なくなった夏栖斗を探すためこじりは一人立ち上がる。そう、案の定。屋台のひよこを見てただけの私のせいじゃない。 抱いた籠の中では、今しがた手に入れたひよこが小さく囀っていた。 「あ、あれ富さんたちの店じゃない?」 人々が行き交う中でぐるぐが指す、その先。 「さあ、いらっしゃい! 甘いものそろってるよ!」 雑多な声と頭上へ響き渡る音、その両方に対抗するよう『テクノパティシエ』如月・達哉(BNE001662)は声を上げる。紙袋に熱々の大判焼きを、素早く、だが丁寧に詰めていくその手捌きも慣れたもの。 彼は祭りに紛れ、富子と共に屋台を構えていた。人の多さと重なり合う声のためか今のところ誰からも咎められてはいない。 「こんばんは、お富おばさん、達哉さん、お勧めなぁに?」 右手に風船、左手にお面。さらに光る腕輪を手に通した糾華。腕輪はぐるぐとお揃いだ。 彼女らの姿からは問わずとも祭りを満喫してきたことが解る。満足そうに頷いた達哉がメニューを見せているところへ、りんごちゃんを仲間へ託した文もやってきた。 「丸田さん、如月さん、こちらにいらしたんですね」 たおやかな声で呼ぶのは悠月だ。祭りへ来るのは初めてと語る彼女へ配慮し、彼女の望むところへ付いて回っていた拓真も顔を覗かせる。彼の手元では幻想纏いが静かに動作し、他の仲間と状況を伝え合う。 以前、アークからの依頼で料理対決をした達哉と富子。ただし今その壁はなく、繁盛する屋台に二人で笑みを浮かべるばかりだった。 「よく来たな。楽しい思い出を作ってけよ」 訪れた仲間達へ一品サービスするつもりで達哉は告げる。 若い者達に是非楽しい思い出を、それこそが大人の務めと胸に秘めたまま。随分と感傷的だと僅かな自嘲も否めない。その裏には、夏祭りという単語で思い返される苦い過去と傷がある。 それを乗り越えるように笑顔で見せたメニューには、大判焼きとクレープをメインに、りんご飴とかき氷がサブメニューとして添えられていた。 「甘いものをたくさん用意なさってるのですね」 「僕がパティシエだからだ!」 それは、青年の譲れない主張。 陽が完全に沈みきり、墨色に染まった空へ花火が上がる。 白、黄、青、様々な光が、ぱっと広がっては散っていく。一瞬で過ぎてしまう夏をそのまま表しているかのようだ。 「あ、居た」 「いったー!?」 夏栖斗を発見したこじりは一縷の迷いもなくつかつかと歩み寄り、同じく微塵も躊躇わず彼の頬を平手で打ち据えた。 居たとも痛いとも分別が付き難い、絶妙な声を上げた夏栖斗。その両手には綿飴にりんご飴と、様々な『囮』が抱えられていた。 「鼻緒、切れた。もう歩けない」 呟くこじりが何も履いてない足を指す。 「……なんで裸足なん?」 「捨てたのよ。履けない下駄はただの板」 つまるところの要求は、負ぶいなさい、ということ。 彼が向けた背中にこじりが乗った。かかる重量はごく僅かだ。もう少しくらい食べれば、と夏栖斗が思った時、耳元でこじりが囁く。 「御厨くん、今私、着けて無いのよ」 「え? 何もあたってないけど?」 ゼロではない、ほんの少し。だが確実に認識していたそれの感覚を誤魔化す夏栖斗に、こじりは密かに眉を寄せる。 「いってえええ!!」 鋭い痛覚に夏栖斗の視界が一瞬揺らぐ。 慌ててその元を辿ると、失礼な返答を寄越した夏栖斗の首筋へこじりが噛み付いていた。割と本気で。 「血って、ホントに鉄の味がするのね」 「血を吸うのは僕だろ!?」 吸血鬼の少年が嘆く声も祭りの賑わいに紛れていく。 「やりましたわ!」 アリスが撃ったコルクの球が箱を弾き、店主が賞品のベビーカステラを手渡した。 賞品を受け取ったアリスは誇らしげに笑みながら、拍手を送るミルフィを見、その傍らにいた白いものへも声をかける。 「……あら? ごめんなさい」 人、いや、犬違いか。 そこで白い浴衣を着て座り込んでいた少女がきょとんと首を傾げ、母らしい女性の元へ駆けていく。 屋台と人ごみが視界を埋める中、りんごちゃんの姿はない。 ●空に咲く華 神社の一角。喧騒からやや離れ、静寂と虫の声が漂う。 迷いこんだのか、りんごちゃんの姿はそこにあった。狭い階段に腰かけて花火を見ていた夏栖斗に呼ばれ、差し出された綿飴に再び鼻を付ける。濡れた鼻に触れた綿が溶けた。 「こじりん、りんご、かわいい」 夏栖斗がそう声をかけた直後、空から立て続けに爆音が鳴り響く。 燃える空に視線を奪われる二人と一匹。終焉に近付く祭りを一層賑わすよう空は彩り豊かに輝き、こじりの横顔をも幻想的な色で染め上げていく。 「……綺麗だね」 何が、と問うこじりの手が夏栖斗の手と重なる。逃げるかもという懸念は杞憂に過ぎない。 「ん? こじりがにきまってるじゃん」 「あら、今更気付いたの。鈍いのね」 こじりは空を仰ぐ。なんて贅沢な時間だろう。職人が一瞬のために作った花火が今、夜空で美しい花弁を広げている。 「今更じゃねえよ、ずっと前からだ。お前のこと……」 夏栖斗の言葉に巨大な華の声が重ねられ――。 ぱらぱらと儚い音を残して、華は夜空に溶けていった。 「ブィィィィイイイッ」 吹いたストローの先で羽が揺れ、風船が震えながら膨らむ。ストローから口を離したぐるぐはふうと息をついた。 「あ、あれ、りんごちゃん?」 ストローの音に耳をぴんと立てたりんごちゃんと、夏栖斗とこじりを見つけ、糾華とぐるぐが階段を駆け上がる。 気付けば、喧騒も静まり始めていた。屋台で得たものをしこたま抱えた彼女らの姿からも時間の経過を感じざるを得ない。 「はい、りんごちゃんも」 ぐるぐが着けているお面は糾華が渡したもの。同じようにりんごちゃんへもお面を差し出し、紐を首へかけて被せてみた。 「りんごちゃんにもあざちゃんみたいにかわいい着物もってくればよかったね」 既にりんごちゃんには屋台巡りの様々な戦利品が与えられ、そのままでも祭りらしい姿になっていた。だが折角の機会だったとぐるぐは悔やむ。 「あ、りんごちゃん! ベビーカステラ、如何ですか?」 ミルフィと共に足早に駆け寄ったアリス。安堵の息をひとつ吐いてベビーカステラを差し出すと、りんごちゃんは嬉しそうに尻尾を振っていた。ミルフィからは蛍光色のアクセサリーが、細く結った毛束に結ばれる。 もっとやりたい事はないだろうかと、ぐるぐがその思考を垣間見た。言語らしきものがまるで並ばない奇妙な感覚が流れ込んで来る。しかしその全ては、鮮やかな原色のように明るいもので染まりきっていた。 まるで、宝物を手に入れた子供のように。 ●終焉 袴の裾がふわりと揺れる。 巫女として振舞いながら、冷えつつある夜風に髪を遊ばせていた空音の元に人の気配が近付いてきた。 「ここは立ち入り禁止よ。……関係者以外、ね」 やってきたのは関係者、もとい仲間達。 その足元にはたくさんのお土産を、咥え、あるいは腕に通し、そして纏めた毛に結わえたりんごちゃんの姿もあった。 「……ちょっと寂しいわね」 別れは近い。ぽつりと一言、糾華が声を落とす。そんな彼女を、一行を励ますよう、ぐるぐが明るく声を上げた。 「ではりんごちゃんを中心に全員せいれーつ!」 彼女の手にはカメラがひとつ。 一瞬の時間を切り取るためにシャッターが切られる、瞬きにも近い間の直前。 同じように一瞬の時を輝く最後の華が空を照らし、辺りを飴色に照らし出していた。 リベリスタ達からそれぞれ土産や別れの挨拶を受けたりんごちゃんは、穴の向こう側から馴染み深い香りを感じ取ったのか鼻をひくひくと動かした。 偶然出会った親切なひとたちと二度と会えないとは欠片も思っていない様子で、今歩いているのは何の変哲もないただの道であるかのように、てちてちと爪を鳴らして帰っていく。 だが、それは世界と世界を繋ぐ異質の穴。 小さな来訪者を見送った一行は、ごく静かにそれを閉じた。 ――あの言葉は届いたのか、否か。 答えの出せない思案に耽る夏栖斗の耳元へ、唐突に声がかかる。 「1112324493」 驚いて振り向くと、目と鼻の先にこじりの顔があった。 「なぞなぞよ。分かったら、答えなさい」 踵を返し帰路へつくこじり。夏栖斗の目はその後姿に釘付けられていた。 「悠月」 任務も終わり、帰り支度をしていた悠月は拓真に呼ばれ振り向いた。 「俺からの日々の感謝を込めての礼の品だ。受け取って貰えると嬉しい」 「ここで開けても、宜しいでしょうか?」 頷いた彼に笑みを返し、悠月は渡されたプレゼントの包装を解く。中身は銀にブルームーンストーンが彩るペンダント。愛する女性へ贈られるべくしてあるようなその石に悠月の頬は一層赤く染まった。 拓真の前でそれを身につけて見た悠月は、恥ずかしげに、だが確りと礼を伝える。 「……もう祭りも終わりだ。送って行こう」 見れば、遠くに灯っていた光も鎮まりつつあった。 (僕も、祭りを一緒に回れるような(巨乳の)彼女欲しいなあ……) 仕事を共にした仲間達の様子に、達哉は浅く肩を竦める。 祭りを盛り立てていた彼らのことだ。祭られた神様がそのお返しにと、何らかの縁を繋げることもあるかもしれない。 運命が彼らを愛するように、神様も、きっと。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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