●命を賭けてでも守る 「お姉ちゃん、助けて――っ!!」 境内の外から突然弟の正春の悲鳴がした。急いで賀茂璃梨子は声のしたほうへ向かう。そこには正春を襲う巨大な黒い顎を持った生物がいた。 人間の身長を遥かに超えたノコギリクワガタがいた。鋭い顎をちらつかせて、今にも弟の正春に襲いかかろうとしている。 璃梨子はすぐに敵に攻撃を仕掛けようとした。 だが、後ろからもう一匹の巨大なカブトムシが現れる。 璃梨子と正春は前後に挟み撃ちされた。相手は口を大きく開けて襲い掛かる。璃梨子は弟を咄嗟にかばった。着ていた巫女装束が破れる。 すぐに防戦一方となった。璃梨子はこれでもリベリスタだった。弟ひとり守れないようではこの先もやって行くことはできない。式神を飛ばして攻撃を試みる。 だが、璃梨子が戦っている最中にさらに敵が現れた。 「お前が、この神鴨神社の跡取り娘である賀茂璃梨子と正春だな」 「貴方たちは何の用があって土足で神域にあがってきたんですか? はやくここを出ていかないと容赦しませんよ」 璃梨子は突然現れたフィクサードの「鬼蜘蛛一派」の頭領である鬼蜘蛛江壬志に向かって威嚇した。江壬志は全身を包帯で撒いている異様な姿をしていた。 「貴様らのこの神社はちょうど我々の拠点にするに相応しい場所だ。以前にこの場所を狙って撤退したフィクサード達がいるらしいが、俺達はそう簡単には負けない。なぜなら今回は強力な援軍がいるからな」 江壬志の手にはアーティファクトの「笛」を手にしていた。それを吹くとカブトムシとノコギリクワガタが一斉に璃梨子たちに攻撃を仕掛けてきた。 苛烈な攻撃に璃梨子は血を吐いた。一人で敵を相手にするにはあまりにも無謀すぎた。すでに深手を負って満足に戦えない。それでも璃梨子は闘志をむき出しにした。 「正春だけは――絶対に死なせない。この命に賭けてでも! 貴方たちのような悪にこの先祖代々受け継がれてきた大切な神域を奪われるわけにはいかないの!」 「威勢だけはいい奴だ。ならばひと思いに殺してやるぜ」 江壬志は刀を抜いて璃梨子に突きつけた。 ●新時代の維新 「京都の神鴨神社の姉妹がフィクサード組織の『鬼蜘蛛一派』に襲われた。彼らは今回、巨大なE・ビーストたちを操って兵力を増強している。このままでは賀茂璃梨子と正春の命が危ない。何とかして二人を救助して鬼蜘蛛江壬志たちを撤退してきてくれ」 『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)がいつになく焦った口調で喋る。伝え聞いたリベリスタたちも思わず唾を飲み込んだ。 フィクサード組織の『鬼蜘蛛一派』は祖先を幕末の尊攘派維新志士に持つ剣客たちだ。 尊王攘夷を唱えて新時代を築き上げるために幕府と命をかけて戦った者の末裔。特に同じ京都に拠点を持つフィクサード集団『新撰組』や『隠密御庭番衆』とは因縁がある。 今回彼らは神鴨神社の広大な敷地を奪うことで自らの拠点にしようとしていた。この京都の中心部に近い拠点を抑えれば他の敵対組織に対して有利に行動できる。 とくに江壬志は京都を炎上させることを目的にしていた。賀茂璃梨子は地元のリベリスタでもある。ここで彼女らを叩いておけば邪魔な地元リベリスタも排除できて一石二鳥の試みともいえた。彼らはたとえ相手が子女であっても容赦するつもりはない。 「今回は厄介なことにE・ビーストがいる。奴らを排除するためには、江壬志が持っているアーティファクトの笛の破壊が必要だ。笛を吹かれると、その効力によってE・ビーストは何度倒されても体力が元通りになって復活してしまうからだ。それに江壬志たち幹部の能力も決して侮ることはできない。くれぐれも気を付けて行って来てくれ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:凸一 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年08月30日(金)22:46 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●雁字搦めの因縁 加茂川にかかる橋を渡るとそこは神鴨神社の広大な敷地だった。周りを鬱蒼とした雑木林で囲まれている。まるで自然の要塞だ。ここなら京都の中心街からも近い。 数多のフィクサード組織がこの場所を狙うのも無理はなかった。だが、悠長なことは言っていられない。すでに賀茂姉弟たちが鬼蜘蛛一派に襲われている。 「維新、変革――何を持って世界が腐れたと言い、如何世界を変えると言うのか。前は神社仏閣を焼き、民を襲う。此度は神社の簒奪、女子供に大人気ない」 『祈りに応じるもの』アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)は厳しい目つきで杜の奥を睨む。聖骸闘衣を纏って自身を強化する。 「最早ごろつきだな。行動は嘘をつかない。保護対象と神社を守ってみせる」 『Brave Hero』祭雅・疾風(BNE001656)も前回鬼蜘蛛一派と戦ったことを思い出していた。拳を握りしめて決意を込めて誓う。 「……来ちゃったよ。前回も散々面倒だったのにまた関わっちゃったよ」 『息抜きの合間に人生を』文珠四郎 寿々貴(BNE003936)はこの間の激戦で陰ながら躍動した。今回は視界が悪くて早く帰りたい気持ちもするが、なんとか暗視ゴールを身につけて堪える。翼の加護を皆に付与して準備した。 「俺の実家も大概だったが、京都の連中はさらに因縁だの何だので、雁字搦めみたいだな。なんとも身につまされる。今はこういう地元弱小リベリスタが個人営業できる時代じゃないな」 『影の継承者』斜堂・影継(BNE000955)は辺りを警戒していた。暗い影は自分の味方になるはずだった。条件の利を生かして敵を退ければと思う。 「はぁ~……なんかどうも小悪党って感じの相手だなぁオイ。言ってることがいきがったチンピラみてぇだぜ」 『悪童』藤倉 隆明(BNE003933)が溜め息をついた。まるで昔の自分を見ているような感じがして余計に腹が立った。 「実に自分勝手なフィクサードらしいやり方に声も出ないね。いこう! こんな奴ら好き勝手なんてさせるわけにはいかないよ!」 『メイガス』ウェスティア・ウォルカニス(BNE000360)は元気よく仲間を鼓舞した。可愛らしい黒い翼を羽ばたかせながら先頭に立って進む。 「親衛隊といい、過去の亡霊が多すぎるわね。それも市井の人に手を出すだなんて志士の末裔とやらが聞いて呆れるわね。止めて見せましょ。支え、守り、癒す……私の力はその為にあるんだから」 大きな白い翼を持つ『ANZUD』来栖・小夜香(BNE000038)もウェスティアの後から続いた。戦闘前にマナコントロールで力を蓄え準備をする。 「その虫だけで、大火なんて大事が成るわけねェわ、な。いやわかってるよ、どっかに軍艦でも隠し持ってんだろ?」 『華娑原組』華娑原 甚之助(BNE003734)は冗談を込めて言った。とにかく今は姉弟の確保が先だった。緊張を解してから着物の襟を正して精神を整える。 境内のすぐ近くまで来たところでリベリスタは二手に分かれた。辺りにはどこかに潜んでいる敵がいるかもしれない。警戒しつつも迅速に行動を開始する。 ●田畑に群がる害虫 「矜持無き暴力、言葉だけの変革を語る悪漢―――それ以上の狼藉、我等が許さん」 アラストールが剣を構えて斬り込んで行った。派手に大声を上げながら一目散に鬼蜘蛛江壬志たちがいる所に突っ込む。 後ろから甚之助が腕装着式TRMを使って敵の位置を確認していた。その情報を瞬時に他の続いてくる仲間に教える。 影人を作りだして先に賀茂姉弟の所へ庇わせに向かわせる。 巨大な鍬形と甲虫のいきり立つ羽音が大きくなった。視界が開けて境内の真ん中に今にも殺されそうになっている賀茂姉弟たちの姿が見える。 「てめぇら――よく来たな! また会うとは懲りもしない奴らだ。今度の俺達はこれがある。邪魔するなら容赦しねぇぜ」 江壬志はすぐに笛を取りだして笛を吹いた。すると甲虫と鍬形が一斉にリベリスタの方に向き直る。角をしきりに大きく動かして威嚇する。 賀茂姉弟はまだ鍬形と甲虫に邪魔をされている。 「やぁ、包帯のおっちゃん。すずきさん、また邪魔しにきたよ」 仕方なく寿々貴は先に江壬志たちにアッパーユアハートを放つ。さらに続いて甚之助も援護して式神で江壬志を射抜いた。 「かかってこいやぁー! こっちにはアラストールさんや影人軍団がいるんだ!あっ、直接はだめ。しんでしまいます!」 寿々貴は攻撃すると狙われないうちにすぐに後衛に退いた。 怒りを食らった鍬形と甲虫がこちらに向かって風刃と光線を放ってきた。甚之助の影人が姉弟を庇いながら奮闘するが次第に力尽きる物も出てくる。 「まだまだこれからだぜ。お前らをこれ以上好き勝手にあばれさせはしねえ」 甚之助は次に鍬形にナイフを持って攻撃を仕掛けた。堅い身体に向かって切れ味の鋭い刃先で斬りかかる。素早い攻撃に鍬形は苦しめられた。 もはや目は甚之助だけを見ていた。何とか姉弟から鍬形を引き離すことに成功する。だが、鍬形も甚之助に体当たりで跳ね飛ばした。 その隙に巨大なハサミでお返しとばかり挟み込んでくる。甚之助は影人を呼び寄せて集中攻撃で敵を抑えつけた。 「御前達はあまりに小さい、敵ですら無い、田畑に群がる害虫と変わらない!」 アラストールは賀茂姉弟の前に斬り込んだ。 攻撃を受けながらもこれまでの幾憶千万の鍛錬を信じて甲虫の鋭い角を受け止める。激しい鍔迫り合いをする最中に寿々貴が姉弟の元へ向かう。 「助けに来てくれてありがとうございます」 「少しは持ち直して動いてもらわないとジリ貧だものね。敵は林に潜んでるし、無理に逃げられないから気をつけないと。弟くん、ねーちゃんにいいとこ見せようぜー。しっかり生き残る的な意味でさ」 「うん、僕がんばるよ。すずきお姉ちゃんありがとうね」 寿々貴は璃梨子と正春と言葉を交した。すぐに聖神の息吹で姉の傷を癒す。璃梨子は癒しを貰って苦痛に歪んでいた顔を和らげた。 璃梨子が弟を庇って安全な所へ避難させようと後退する。それを守るようにして寿々貴が後ろから付き添った。皆にディフェンサードクトリンで支援する。 「そうはさせるかってんだ。これでもくらいやがれ!」 だが、敵も黙って見ているだけではなかった。江壬志がそうはせまいと、剣をふりあげて襲い掛かってくる。隆明がそれを見て飛びかかった。 「よう、楽しそうなことしてんなぁ? 俺も混ぜてくれよ!」 隆明が真っ直ぐに突っ込んで行く。銃を突きつけて狙うのは江壬志が手に持った笛だった。江壬志は隆明の心を読み取ろうとする。だが、自分を殺そうという執念しか読みとれなかった江壬志は油断した。 隆明が狙った銃弾は江壬志の持った笛を打ち砕いた。 「馬鹿な……どこ狙ってやがる!」 思わず江壬志は舌打ちする。それでも隆明が攻撃した後の隙を付いて、江壬志は刀で隆明を叩き斬った。斬られて血を噴いた隆明は地面に崩れる。 「くっ……だが、これで笛は使えねえ。どう戦うんだ江壬志さんよお」 「笛を破壊したのは褒めてやる。だが、この俺はそうはいかねえ」 怒った江壬志が再び刀を振り上げて襲ってくる。隆明は傷ついた身体を引きずって真っ直ぐに突っ込んで江壬志を抑えにかかった。 拳を叩きこまれた江壬志は顔を顰める。口から血を吐いてにやりと笑った。すぐさま江壬志の刀と隆明の拳のせめぎ合いが繰り広げられる。 笛を破壊された甲虫と鍬形はすでに抵抗力を弱めていた。それでも羽ばたきから風刃を作りだしてリベリスタ達を一斉に巻き込む。 狙われた賀茂姉弟たちを庇ってアラストールが再び攻撃を受けた。さらに甲虫に光線を浴びて防戦一方となる。 「この身は人の守り手、騎士。後は御任せを、貴女と弟殿は我等が守りましょう!」 アラストールは耐え忍んだ。集中を重ねて剣に力を込める。これ以上は力が持たないと判断したアラストールは一気にここで勝負を決めにかかった。 巨大な甲虫は強烈な一撃を叩きこまれて内臓を破裂させて動かなくなった。 ●己が憎むこと 「気をつけろ! その木の後ろ側に敵が隠れているぞ」 甚之助の言葉にいち早く反応したのは影継だった。戦斧を大きく振りかぶって隠れている敵に先制攻撃を仕掛ける。 「壁を潰せ後衛を潰せ回復を潰せ。セオリー通りって奴だな!」 襲われたレイザータクトはフラッシュバンを放って反撃しようとしたが、影継は物質透過で狙われた場所とは違うところに出現していた。 「暗さは俺達の味方だな」 影継は相手の首元を狙って戦斧で横に引き裂いた。急所を狙われたレイザータクトは逃げることもできずに血の雨を降らして崩れ落ちた。 「ウェスティア! ホリメはどこにいる?」 「あそこだよ。後ろから襲ってくるから気を付けて」 ウェスティアは影継に注意した。 集音装置と熱感知を使用して敵より早く相手の位置を掴む。 血液の黒鎖を手から放って瞬時に敵を濁流の渦に飲み込む。動けない敵に今度は影継が暗黒で敵を覆い尽くしてホーリメイガスを倒す。ホリメがやられて攻勢に出た敵のスターサジタリーがハニーコムガトリングをぶっ放す。 「絶対にあんたたちをここから一歩も境内に向かわせない!」 ウェスティアは再び黒鎖の濁流を放つ。攻撃を受けたスターサジタリーが膝を突いて身動きが取れなくなった。そのとき陰から長曽根虎次郎が現れた。 「派手にやらかしてくれましたね。それでは僕もひとつ行きましょうか」 虎次郎は抜刀術の構えから一瞬にして消えた。 その瞬間に背後に回った虎次郎の愛刀――長曽根虎徹がウェスティアと見せかけて影継を切り刻む。影継は避けきれずに攻撃を食らって血を噴いた。 堪らずに地面に伏せるが小夜香が回復を施す。起き上がった影継はそのまま境内の方へ行こうとする虎次郎に向かって吠えた。 「京都人に敬意を表して古式ゆかしい言い方をすれば、『ここから先に行きたかったら、俺を倒してから行くんだな』ってトコだな」 「貴方――どうやらタフな方のようですね。見たところ――その戦斧なかなか立派なものじゃありませんか。いいでしょう。この僕が相手をします」 虎次郎は影継に再び剣を構える。その隙に影継はジャガーノートを使用して準備を整えた。今度はただでやられるわけにはいかない。 「斜堂流古伝、円月斬……ってな」 影継は戦斧を振りかぶって木ごと虎次郎を斬りかかる。暗闇でも苦もなく動き回る影継にさすがの虎次郎もこれ以上前に進めない。 小夜香はジャミングを用いて敵のテレパスなどが行えないよう封じていた。飛び回りながら傷ついた仲間を積極的に癒して回る。 「皆に癒しよあれ! まだ敵も威勢がいいみたい。気を付けて」 回復の風を送りながら自身は攻撃にあたらないように上手く位置取りをしていた。敵が多く強力な個体も多い。自分が倒されないように注意を払った。 当然敵も回復役を狙ってくる。小夜香に目を付けた幹部の芳来山慈苑が厄介な邪魔者を排除しようと木陰から襲い掛かってきた。 「慈苑! お前の敵はこの俺だ!」 疾風はAFを取り出して変身していた。ARK・ENVGⅢの暗視機能でもって暗闇の遠くまで見渡す。そこに巨漢の慈苑が現れた。 疾風が慈苑を見つけるなり飛びかかった。拳を腹に叩きつける。うめき声をあげて慈苑は顔に苦悶の表情を浮かべた。額に大量の汗が漂ってくる。 「疾風と言ったな。この前は世話になった。なにゆえに貴様は俺達を邪魔する? いくら貴様でも明王の慈苑は貴様を放ってはおかない。地獄に堕ちろ!」 慈苑は疾風に突然頭突きを食らわした。頭を割られた疾風はうめき声をあげる。その隙を突いて鳩尾に慈苑は渾身の破壊力を込めた拳で突いた。 「ぐあああっ!!」 血を吐きながら疾風が木に激突する。堪らず小夜香が回復を施す。 「大丈夫よ。まだ戦えるわ。気をもってしっかりして」 疾風は小夜香に頷いた。慈苑は前回よりも強くなっていた。このまま押し切られるわけにはいかない。意地でも慈苑に勝たなければと奮起した。 「今の世を守れぬ輩が新たな世を生み出せはしない。慈苑、貴様がやっている行いは己が憎む事そのものだ」 ●まだ見ぬ黒煙 疾風は金剛陣を使用して慈苑に対峙した。先ほどとは目の色が違う疾風を見てさすがの慈苑も姿勢を正す。着ていた袈裟を破いて隆々とした肉体を見せつけた。 疾風の倍ほどもある巨漢は見る者を圧倒していた。だが、それでも疾風は自分の拳を信じていた。なにより慈苑の考える正義に対して我慢できない。VDアームブレードで慈苑の身体を裂いた。鮮血が飛び散り慈苑も倒れかかる。 「お前にはわからないだろう。寺の子供達をリベリスタに殺された苦しみが――今こそ貴様を倒して子供達への花向けとする。救世の本懐を見せつけてやる!」 慈苑は拳を大きく振り上げると地面に叩きつけた。その瞬間に地面が割れて衝撃波が走って疾風を襲う。攻撃に巻き込まれた疾風が吹き飛ばされた。 「おい、慈苑と虎次郎! 笛がやられた。すでに味方のホリメたちもこの様だ。このまま俺達も傷を負い続けると体力が危ない。一旦隠れるぞ」 江壬志が雑木林の慈苑に向かってきてそう伝えた。目の前には追い駆けてきた隆明と甚之助が息を荒くしながら睨みつける。 「さすがに虫だけでは京都に大火は放てねえみてえだな。今度は軍艦でも出すか?」 甚之助が啖呵を切って江壬志に迫る。 「なぜそれを知っているんだ? 俺達が黒船を持っているのは秘密事項だぜ。さすがはリベリスタといったところだな。まあいい。今度会うときは黒船で押し寄せてお前たちを始末してやる。覚えておけよ」 「よそみするんじゃねえ。これでもくらいやがれ!」 隆明が江壬志に拳を繰り出した。鳩尾に決まって江壬志は突っ伏す。だが、慈苑も隆明を組んで投げ飛ばした。その隙に幹部たちは林の中を四方八方に散って姿をくらます。すぐ近くには避難していた賀茂姉弟たちがいた。 一瞬そちらに向かうと鬼蜘蛛たちは見せかけた。堪らずリベリスタは寿々貴を中心に集結して賀茂姉弟の周りを固める。まだ息の根を止めていなかった鍬形が空から襲い掛かってくる。 「絶対に姉弟は守るよ」 ウェスティアが敵のやってくる方向を見破ると同時に黒鎖で相手を封じ込めに掛る。そこを影継が戦斧を大きく振り回して巨体をぶった斬る。 鍬形も息の根を止めた。残るは雑木林の中に隠れた三人の幹部だ。だが、ウェスティアが集音装置と熱感知で敵幹部を探したが見つからない。 「どうやら撤退したみたいね。幹部達も少なからず傷を負っていたからまだ遠くには行ってないと思うけど――」 ウェスティアはそう呟いたが、小夜香は治療と救護を第一に主張した。 敵がどこに潜んでいるか分からないため、これ以上の深追いは危険だった。万が一のことを考えるとやはり賀茂姉弟たちをこのままにしておくのはよくない。 「京都はなんつーか、面倒な連中がいんなぁ……似たようなのがあと二ついるんだろ?」 隆明は戦いが終わって一息ついた。傍らにいた璃梨子に向かって問う。 「ええ、『新撰組』と『隠密御庭番衆』の勢力ですね。どちらも地元の京都のリベリスタでは太刀打ちできない程の戦力を持っています」 「やはり個人では太刀打ちできない時代だ。アークが討伐に乗り出すしかないな」 「ありがとうございます。影継さんがいてくれると心強いです」 影継に璃梨子が握手を求めた。これには思わず影継も頬を赤くする。横にいた寿々貴も照れる影継を冷やかす。その場に明るい雰囲気が戻ってくる。 「――それにしても本当に奴ら軍艦もってるとはな。笑えるぜまったく。こうなったら次は特製の爆竹でも用意しておくか? なあ疾風」 甚之助は苦笑した。それには疾風も同意せざるをえない。 「まったくです。しかも慈苑の奴とまた決着をつけそこなってしまった。これ以上慈苑には殺生をしてほしくない。出来るならこの手でトドメをさしてやりたい」 疾風は次に備えて拳を鍛えておくつもりだった。彼らの幕末を一刻も早く終わらせるために――疾風はまだ見ぬ鬼蜘蛛の戦艦の黒煙を脳裏に夢想した。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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