●科学とオカルトは相いれない 言い争いをしている2人が居た。1人は白衣を着た白髪の男。もう1人は、真っ黒いローブを着込んだ占い師然とした女性である。 場所は、とある散歩道。街の一部をぐるりと一周するように整備された桜並木である。たいして長い並木道ではないが、しかし、それでも距離にして2キロメートル程はあるだろうか。 喧嘩しながら歩く2人を、道行く人々は、何事か? という目で見ていた。 「科学だよ科学。データを割りだし、然るべき方法で対処すれば、出来ないことはない。人の心や意思だって思うままだ!」 「オカルトよ。結局は意思や心なんて不確かなもの。データでは測れないもの」 どうやらこの2人の主張は噛みあわないらしい。 「だったらこうしよう。これから、この街の人間の心を掌握する実験をするんだ」 そういって白衣の男が取り出したのは、小さな無線機のような機械であった。それを手近な木の影に設置する。 「えぇ、受けて立つわ。でも、これは実験ではなく、儀式なの」 次いで、ローブの女性が取り出したのは1枚のお札だった。見た事のない文字で何事か書かれている。男の設置した機械の傍に、彼女は札を張りつけた。 どちらも見た事のないアイテム。どうやらこの2人、この世界の住人ではないようだ。 「科学とオカルト、どちらが優れているか勝負といこうじゃないか!」 そう叫ぶ白衣の男。 しかし、高笑いする彼を見て笑う者はいなかった。周囲に居た人々は皆、虚ろな目をしている。 拍手を送っている者が半分。ブーイングを送る者が半分。前者が機械に、後者はお札によって操られているのだろう。 傍迷惑この上ない喧嘩ではあるが、2人の持つスキルは侮れないようだ……。 ●マインドコントロール 「アザーバイド(ドクター)と、アザーバイド(サイキッカー)の2人。異世界からこの世界へ迷い込んだ傍迷惑な奴ら」 悪意があるわけではない。 ただ、少しだけ、趣味嗜好が特殊で、欲望に忠実なだけなのだ。 そう告げて『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は、モニターを切り替えた。 「並木道のスタート地点から、東周りにドクターが、西回りにサイキッカーが移動中。約100メートルおきにドクターの機械と、サイキッカーのお札は設置されている」 機械とお札には洗脳効果があり、周囲の者の意思を乗っ取るようだ。洗脳状態にある者は正気を失った状態になり、何をしでかすかわからない。また、ドクターやサイキッカーの命令に服従するようにもなるらしい。 「目下の目的は、機械と札を破壊して洗脳を解除すること。それから、アザーバイドたちの殲滅か送還」 もちろん、Dホールの破壊も忘れてはいけない。恐らくは、並木道のいずこかに今だ開いたままになっている筈だ。 「少々厄介なのは、機械とお札には自衛機能が付いていること。あまり強くはないけど、破壊されそうになると分身体を召喚して邪魔してくる」 現在、機械とお札はそれぞれ2つずつ設置されているようだ。これからどんどん増えて行くだろう。 「1つずつ確実に潰していくもよし、班を分けて、洗脳解除とアザーバイドの対応に別れるのもよし。どちらにせよ、アザーバイドをなんとかしないことには事態は収束しないことは確か」 また、時間をかけ過ぎると一般人に被害が出る可能性もある。機械とお札も時間経過に伴って増えて行く。その点を踏まえて行動してほしい。 「ドクターは物理攻撃を、サイキッカーは神秘攻撃を得意としているみたいね。さて、それじゃあ、行ってらっしゃい」 そう言ってイヴは、仲間達を送り出すのであった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:病み月 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年08月30日(金)22:45 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●夏の日の異変 ある種異様な光景であった。燦々と太陽光の降り注ぐ並木道を、虚ろな顔をした男女が歩き回っていた。活気はなく、生気にも欠け、ただふらふらと。 まるでゾンビ映画のワンシーンのようでもあった。 並木道に仕掛けられた洗脳装置が原因である。それを仕掛けたアザーバイド(ドクター)&(サイキッカー)の2人。それぞれ、並木道を東西に別れて移動中だ。 虚ろな目をした一般人を監視するように、通りにはアザーバイド達の呼びだした機械人形や影人形も存在している。 「傍迷惑ですね。オカルトと科学の優劣話したいやら、自分の腕前を競いたいやら……」 嘲りの笑みを浮かべ『落ち零れ』赤禰 諭(BNE004571)はそう呟いたのだった。 ●暴走サイキック 「ミミミルノ、きょうもサポートがんばりますっ!」 飛び散った燐光が、仲間達の背に集約。小さな翼を形作る。翼の加護。一時的に翼を与えるスキルである。『さぽーたーみならい』テテロ ミミミルノ(BNE004222)の今回の役割は主に仲間のサポートだ。 「人ン家の庭荒らすと殴られるって解んねぇのか。そのへんキッチリ覚えてお帰りいただくとしようぜ」 バイクに跨り『華婆原組』華婆原 甚乃助(BNE003734)がそう呟いた。バイクの運転は影人に任せているようで、彼自身は後部座席で腕を組んでいる。 残りのメンバーは、諭の出したトラックに搭乗。移動を開始する。とはいえ、一定間隔置きにアザーバイド達の仕掛けた洗脳装置があるため、さほど効率が良いとはいえないかもしれない。 「まずはサイキッカーからですね。迷惑ですからやめて欲しいですよう」 やーん、とぼやく『メガメガネ』イスタルテ・セイジ(BNE002937)。発進したトラックの上から視線を巡らせ、洗脳装置を捜索している。イーグルアイを使った索敵が主な役割となるだろうか。 「全く……。喧嘩なら元の世界でやってくれればいいのに」 溜め息混じりにそう言ったのは『荊棘鋼鉄』三島・五月(BNE002662)だった。洗脳装置の破壊にいかほどの時間がかかるかは分からないが、いざという時先行してサイキッカーの足止めを行うため、彼女はすぐに飛びたてる用意を整える。 暫く進むと、木の影に札が張られているのをイスタルテが発見。報告を受けて『ルーンジェイド』言乃葉・遠子(BNE001069)がグリモアールの頁を捲る。 解き放たれた気糸が札へ迫る。しかし、その直後、札から自衛機能である影人形が飛び出して来た。身を呈して札の破壊を阻む影人形。 だが……。 「先ずそこで大人しくしていろ」 銃声が1つ。次いで、空中を疾駆する弾丸が風を切る音。飛び出した影人形の頭部が爆ぜる。正確無比な『アウィスラパクス』天城・櫻華(BNE000469)の射撃であった。 気糸が札を破壊すると同時、影人形も砕けて消えた。 「科学とオカルト、どちらが優れているかなど……。なんと無駄な争いでしょうか」 はァ、と陰鬱な溜め息1つ。『ODD EYE LOVERS』二階堂 櫻子(BNE000438)は洗脳の解けた一般人を眺めて呟く。 どれくらいの時間走行しただろうか。数枚の札を破壊した段階になって、サイキッカーはこちらの存在に気付いたらしい。 洗脳された一般人が、影人形が、トラックの進路を阻むように立ちはだかる。影人形だけなら弾き潰してしまえばいいが、一般人はそうはいかない。 停止したトラックに、それらがわらわらと纏わり付いた。 「影人形は名前が似ていて嫌ですね? まったく、不良品に似た名前が付いてると思うと。綺麗さっぱり掃除しますか」 影人を召喚し、影人形の迎撃に向かわせる諭。自身もトラックの荷台に立って、重火器を構えた。 「ミミルノもえんごしますですっ!」 杖を片手に、翼で荷台へ飛び上がるテテロ。周囲には無数の光弾が浮いている。荷台まで這いあがってきた影人形を撃ち落とした。同様に櫻華も荷台へと上がる。 その瞬間だった。櫻華の体を空中で何かが捕まえたのは。 「っぐ……?」 呻き声。身体を圧迫され、口の端から血を吐き出す。視線を巡らせると、人混みの向こうに黒いローブの占い師風の女性が立っているのが見える。 「下手に逃げられても厄介だ。まずは縛らせてもらうぞ」 気糸の罠を発動させる。しかし、影人形が身代わりに入ることで、ローブの女性・サイキッカーを捕まえることは叶わなかった。 「もう見つかった……。あぁ、まったく、なんで邪魔が入るのかしら」 ヒステリックな叫び声を上げ、踵を返すサイキッカー。逃げるつもりだろうか。 「ええと……。最初はサイキッカーを狙うんだよな」 甚乃助がバイクの運転席へ移動。荷台に飛び乗ったのは五月であった。五月の頭にヘルメットを被せる甚野助。いいの? と五月が視線で問うた。 「メットか? 被ってたまるか」 アクセルを絞って急発進。人混みを縫って、バイクが飛び出す。小さくなるサイキッカーの後姿を追いかけ、2人が先行。 「一般人への対処は皆さんに任せます」 速度を上げて、2人を乗せたバイクが走る。 「さぁ、始めましょう……」 飛び散る燐光。櫻華の傷を癒すのは、櫻子の回復術である。回復以外にも、チャージやマナコントロールなどサポートも充実している。 もっとも、一般人と影人形相手では、さほど大怪我を負うこともないだろう。 何故なら……。 「やーん。真下に影人形が迫ってますぅ」 仲間に指示を飛ばすイスタルテ。イーグルアイで見た敵の位置を仲間へ指示。その指示に従い、諭やテテロ、櫻華が攻撃。順当に敵を討伐していく。もちろん無傷とはいかないが、しかし櫻子の回復は厚い。 「まずはお札の装置を止めさせないと……」 一般人の怒号と、飛びまわる影人形。銃声と瞬く光弾。そんな中、冷静に状況を確認している者が居た。遠子である。 眼鏡の奥の瞳を細め、じっと周囲の様子を窺う。影人形は、張られた札から続々と湧き出ているようだ。見れば、周囲には複数の札。先ほどサイキッカーが撒いていったものだろう。 グリモアールの頁から、無数の気糸が飛び出した。人混みを、影人形の隙間をすり抜け、疾走する気糸。 まっすぐそれは、札を数枚刺し貫いた。 荒い呼吸を繰り返す。元より、運動は不得意なのだ。サイキッカーは膝に手を突き、足を止めた。懐から取り出したのは1枚の札。 「はァ……あぁ。まったく、しつこい奴らだわ」 札の大半を此処に来るまでの間にばら撒いてしまった。追ってくる甚乃助と五月を阻むためである。残り僅かな札を、手近な木へと張りつけた。 瞬間。 札ごと、並木が爆ぜた。轟音と共に木端が飛び散る。 「え……」 開いた口が塞がらない。冷や汗も止まらない。言葉が継げず、ただただ木端を身体に浴びる。 「単純に破壊するなら、これが一番です」 掌を突き出した姿勢で、五月は告げる。土砕掌。内部から並木ごと、札を吹き飛ばしたようだ。走って来たのか、五月の頬には汗が浮かんでいた。 どうやら、道中に放った影人形たちの相手は、甚乃助がしているらしい。 「くっ……。勝負の邪魔をしないでくれる?」 片手に札を、もう片手を怪しく揺らしサイキッカーは後ろへ跳んだ。 見えない力が五月を襲う。全身に纏わり付く不気味な圧力を感じながら、五月は地面を蹴ってサイキッカーへと踊りかかるのであった。 「邪魔が入っちまったなぁ。これで公平な勝負と言えるかな?」 携帯を構え、影人形と影人が戦っている現場を撮影する甚乃助。襲いかかってくる一般人を、当て身で気絶させ無力化させる。 この映像は、後ほどドクターに見せて大人しく撤収することを促す予定である。 影人の1体に携帯を持たせ、バイクに乗せる。ドクターの元へと向かわせたのだ。ドクターに映像を見せて、勝負の無効を悟らせることが目的である。 煙管を吹かし、紫煙を吐き出す甚乃助。 そんな彼の背後から、1台の車が走って来るのであった。 五月の掌と、見えない手が衝突。全身を掴まれ、五月は地面に叩きつけられた。荒い息を吐くサイキッカーだが、一定の距離を保ったままの戦闘を続け、なんとか五月相手に善戦している。 ドロリ、とサイキッカーの全身からオーラが溢れる。ぬるま湯のようなそのオーラが、五月の全身を包み込んだ。 やばい、と思った時にはすでに遅い。 オーラが爆発。周囲に衝撃波を撒き散らす。見えない爆風が五月の全身を嬲っていく。皮膚が裂け、内臓にもダメージが残る。途切れそうになる意識の中で、五月は1台の車を見た。 「痛みを癒し……その枷を外しましょう」 囁くような声が聞こえる。五月の全身を包み込むのは、暖かな燐光。櫻子の回復術である。ホタルの光にも似たそれは、優しく淡く、五月の傷を癒していった。意識の途切れるその直前、ギリギリのところで五月の体力は回復。血の滴を垂らしながらも、五月はよろよろと立ちあがったのだった。 やれやれ、と首を振り諭はぶらぶらと並木道を歩く。 「長閑な散歩なら兎も角、操られて不景気な面を眺めて歩く趣味はないんですよ」 周囲に召喚した影人達が、意識を失った一般人達を抱えあげて道の脇へと移動させていくのであった。サイキッカーの張っていた札は、ほとんど破壊しただろうか。 「ミミルノのおめめがきゅぴーん! なあいだはわるものはぜったいゆるさないのですっ!」 怪我をしている一般人へ、治療を施すテテロであった。燐光が飛び散る。傷といっても大したものではない。手加減をした結果だろうか。 おかげで、思いの外時間がかかってしまったが。 それでも、仲間達はサイキッカーの元へと辿り着いただろう。 「また……。あぁ、上手くいかない上手くいかない。こんな筈じゃ無かったのに。私の第6感は何も告げてはくれなかったわ!!」 頭を掻きむしり、悲鳴にも似た叫び声を上げるサイキッカー。酷く取り乱しているようで、全身から止め処なくオーラが溢れているのが分かる。 小規模な爆発を繰り返しながら、サイキッカーのオーラがリベリスタ達を覆い尽くした。 「さて、何処まで耐えられるかな?」 両手に構えた銃から、連続して弾丸を放つ櫻華。蜂の群のような弾丸の嵐が、迫りくるオーラを打ち消していく。 「やーん……。迷惑ですよぅ」 空中を飛びまわるイスタルテ。視線の先にはサイキッカー。オーラを打ち消す櫻華へ指示を出す。弾幕とオーラ、どちらが勝るか。結果をただただ見守るのである。 「オカルトはデータに起こせない。それはオカルト側の怠慢で言い訳だよ……」 グリモアールの頁を開き、遠子はじっと戦況を分析し続けるのだった。 ●騒乱の後に 爆発するオーラ。吹き荒れる衝撃波。地面を転がる櫻子とイスタルテ。オーラの壁を突き破り、櫻華の弾丸がサイキッカーの体を穿つ。 倒れそうになりながら、しかしなんとか堪えるサイキッカーを見て、櫻華は素直に感嘆の声を漏らした。 「存外頑丈だな。流石はアザーバイド」 オーラが爆発。櫻華の腕は焼かれ、血が零れる。 オーラの爆発に巻き込まれた仲間の治療を櫻子が。一方イスタルテは、地面に倒れたままイーグルアイを活用しオーラの隙間を探るっている。 「そこですっ!」 指さす1点。同時に放たれたのは1本の気糸。まっすぐ迫ってくるそれを、サイキッカーは見えない拳で遮った。 糸を握りつぶし、そのままその手を遠子へ伸ばす。 しかし……。 「本命はそっちです」 眼鏡を押し上げ、遠子は一言そう呟いた。 「は……? あ?」 気付いた時には既に手遅れ。真横に迫った影が1つ。見えたのは掌。まさに一瞬。衝撃が走る。胴体に食い込む五月の掌打。激痛。それも一瞬だった。 すぐに意識が遠のいていく。 「ぶち転がしてあげます」 意識が途切れるその瞬間、サイキッカーが聞いたのは五月の声であった。 「おっと……。来たか」 散らばっていた札を踏みにじりながら、甚乃助は視線を上げた。並木道の向こうから、1台のバイクが走ってくる。バイクは甚乃助の物。乗っているのは白衣の男、ドクターだ。 「おおおお!! なんてこった! なんでこんなことになっているのだ!」 半狂乱、という言葉がピッタリだろうか。バイクから飛び降り、ドクターはサイキッカーへと駆け寄った。意識不明のサイキッカーを抱き起こし、心配そうな視線を投げかける。 その様子を、リベリスタ達は呆然と見つめていた。 一体何が起こっているのか。 「阿呆みたいな面ですね。喚かず大人しくしていてください」 追いついてきた諭が、喚き散らしているドクターを見て一言、そんな言葉を吐き捨てた。 しかしドクターの混乱は収まらない。 「何故だ? 何があった? 彼女はどうした? 生きているのか? 誰か、お前たち、治療を! 彼女を治療してくれ! 条件があるのなら、飲むから!」 その一言を待っていたのか。 「でしたら……」 交換条件を、とイスタルテが前に出る。 「かいふくはバッチリ、ミミルノたちにまかせてくださいっ」 イスタルテに次いで、テテロも前へ。 イスタルテの課した条件は以下のものであった。 洗脳装置の停止。 この世界からの撤収。 その2点を果たすのなら、サイキッカーの治療をする、というものだ。 ライバルとはいえ、同じ世界の仲間である。放ってはおけなかったのだろう。ドクターは1も2もなくその条件を飲んだ。 Dホールから帰っていく2人に向け、遠子は言う。 「偏見を捨て、手を取りあって探究を続ければ新しい発見があるかもしれないよ」 難しい顔をして、それでも2人は、肩を並べてホールを潜る。 2人が帰還したのを確認し、はァ、と櫻子は溜め息を零した。 「お仕事も終わりましたし、帰って甘い物が食べたいですにゃ~♪」 そっと櫻華の袖を握りしめ、櫻子は笑う。 ある夏の日の騒乱は、こうして幕を降ろしたのだった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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