● それの名前は「うそつきかがみ」。 よくある怪談の類です。 夜中歩いている人の前に、すっとそれは現れます。 宙を浮かぶ「うそつきかがみ」が。 のぞき込むと、そこにはその人が心の底から欲しいと願うものの姿が映ると言います。 金銀財宝が、大事な家族が、夢を叶えた自分の姿が。 様々なものが、鏡には映し出されます。 そして、「うそつきかがみ」は言います。 自分に触れれば、願うものが手に入る、と。 でも、鏡の名前は「うそつきかがみ」。 手を触れたものは命を奪われてしまうのです。 ここまではただの都市伝説。 普通なら一笑に付して終わるお話。 ですが、ここでは終わりません。 このお話は、ここから始まります。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:KSK | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年08月29日(木)23:36 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 最初に『三高平の悪戯姫』白雪・陽菜(BNE002652)が目にしたのは、「三高平に住まない自分自身の姿」であった。容姿も鏡を覗く自分自身のものとは違う。それでも、はっきりと分かる。あの黒髪の少女は、紛れも無く自分自身であると。 それに何よりも、鏡の中の少女が猫を愛でている姿を、見守っている老人は紛れも無く、自分の祖父だ。 自分の運命を変えたナイトメア・ダウン。その中で命を落とした祖父の姿がそこにあった。 鏡の中の少女は平凡で幸せな日常を送っていた。戦いの無い世界で友達と仲良くソフトクリームを食べて、無駄話に華を咲かせる。 そんなありふれた日常。 わたしの元へ来なさい。 そうすれば、この景色は現実のものとなるでしょう。 声が聞こえる。 それはあまりに甘美な、そして陽菜にとっては残酷すぎる言葉。 そして、そのような状況にあってさえ、彼女は涙1つ零さなかった。 いや、出来なかったのだ。 ● 「何処にでもあるような都市伝説、エリューションゴーレムの仕業とは。風情も何もあったもんじゃないな」 裏通りにエリューションを追いつめ、『アウィスラパクス』天城・櫻霞(BNE000469)は大型の拳銃二丁を向ける。浮遊する鏡は不気味な輝きながら、リベリスタ達の姿を映し出している。鏡が映し出すのは、光では無く人の心だという。神秘が与えたのはある意味で真なる姿を映す力と言えようか。 「普通の人達には、怖い鏡だね。でも……あたし達なら、大丈夫だよね」 『Radical Heart』蘭・羽音(BNE001477)の握る巨大なチェーンソーが唸りを上げる。人を切るために調整された武器ではあるが、エリューションにだって当然高い戦闘力を秘めているのだ。 「……気を、引き締めていこう」 「あぁ、勝手に人の頭を覗く様な胸糞悪い代物は百害あって一利なしだ。唯でさえエリューションは嫌いだっていうのに面倒な仕事だよ。早々に排除して終わらせるとしよう」 一方、『微睡みの眠り姫』氷雨・那雪(BNE000463)は未だに夢心地。はふと欠伸を噛み殺す。エリューションから、それ程の「気配」は感じない。特殊能力こそ強力だが、戦闘力そのものは低い個体なのだろう。 「わたしには、そこまで、望むものは、ないから……見れるのなら、見てみたいもの、ね……」 そして、その「強力」であるところの特殊能力も自分にとって有効かは怪しい所だ。 それは『骸』黄桜・魅零(BNE003845)も同じこと。 「私の欲しいもの、ちょっと思い浮かばないな」 エリューションが望むものを映し出し、その隙を突いて殺しにかかるのであれば。それ程執着のあるものを持たなければ、むしろ望みさえ叶っているのなら、脅威足り得ない。フォーチュナから聞かされた対策よりも、それは有効と言えないだろうか。 そこまで思って、魅零は自分の胸にふと目をやる。 あぁ、これはもっと欲しいかもしれない。 魅零とは色んな意味で対照的に、『ライトニング・フェミニーヌ』大御堂・彩花(BNE000609)はやや思案顔だ。自分の欲しいもの、望むものと言うのは存外言われてみると難しいものだ。少なくとも、彼女は人よりも恵まれた人生を送って来た自負がある。嫌味では無く、純然たる事実だ。 「まあ強いて希望をいうならば、24時間365日不眠不休で働いてくれる社員がいれば助かりますね」 彩花がふっと視線をやると、陽菜はヒッと悲鳴を上げる。冗談ですよと言ってはいるが、彩花の会社にいる人間にとっては、悪趣味な冗談だ。 「怪談に鏡物は定番だけど、少しずるいね……。望みを突き付けて命を奪うなんて」 『ルーンジェイド』言乃葉・遠子(BNE001069)の場合、はっきりとこれに違いないと思える望みが存在した。自身の望みを自覚出来ているからこそ、恐怖がはっきりと分かってしまう。人間であれば誰しも望み、欲望というものは持っている。望みが満たされると思ったのなら、如何に意志が強いものと言えど、わずかな逡巡が起きるはずだ。そこを突いて、このエリューションは人の命を奪う。 望みが叶うと思ったまま死ぬことはある意味で幸福なのかも知れない。だが、その望みが叶うことは永遠にあり得ない。だからこそ、このエリューションは「うそつきかがみ」なのだ。 睨み合ってからどれ程の時間が流れたのだろう。 ほんのわずかのような気もするが、永い間睨み合いを続けていたような気もする。 向こうはリベリスタの動きを伺っているのか、動きを見せない。Eゴーレムだけに表情を読みづらいというのもあるが、少なくともただの鏡と間違えていた、というオチはあるまい。 そして、痺れを切らした誰かが動こうとした時、エリューションは静かに光を放った。 遠子は傘で光を防ごうとする。届かない望みを直視することを、無意識下に恐れてしまったのだろうか。しかし、間に合わない。 『パラサイト以下』霧島・俊介(BNE000082)は避けようともしなかった。 リベリスタとしては不用意な行動なのかも知れない。それでも、彼は避けないことを選んでいた。 「なあうそつき鏡、逆に教えてくれよ。俺って何が欲しいんだろうなぁ? 富もいらん、名声もいらん、力も正直いらん……なんもいらんよ」 ● 「やはり……か」 「うん、そうだね」 見えた景色に櫻霞は静かため息を漏らす。それに答えたのは、陽菜だった。 ある意味で想っていた通りの景色が映し出されていたからだ。過去を思うこともあるが、それは人であれば当然の感情というものであろう。『R-TYPE』への怒りを忘れたことも無いが、少なくとも未練を残していたり、積極的に取り戻したいと動いたりするようなものではない。 そんな過去の友人たちの姿が、ナイトメア・ダウンで失った友人たちの姿が映っていたのだ。 エリューションは鬱陶しくもそれらを暴き出してくれた。 三高平で生きる者で、あの事件のことを知らない者はいない。むしろ、多くの者達の胸に、今も消えない傷跡を残している事件である。アレさえなければ、と。あの悲劇が無かった世界を望むものは決して少なくないし、それを望むことを責められる者はおるまい。 遠子が見たのは、その景色に似ていた。だが、わずかながらに差異もあった。 「やっぱり……ずるい、よ」 遠子の瞳から涙が零れ落ちる。彼女の身に宿した神秘の象徴である瞳は翡翠のように輝いていた。そこに映るのは紛れも無く、革醒した日に失った「平凡」そのものだ。 思えばあの頃も本が好きだった。ページを繰る度に、ただのインクの染み込んだ紙に過ぎないはずのそれからは、いくつもの神秘が飛び出してきた。自分は無邪気にその実在を信じ、そして大人になって行くうちにそんな思いすら忘れて行くはずだったのだろう。 エリューションが映し出したのは、そんな何気ない平凡な日々だった。 小さいことに喜び、くだらないことに悩んだ、なんでもないかけがえの無い日々だ。 このエリューションの残酷性を遠子は悟る。 「うそつきかがみ」は叶えると偽る願いは、単に欲望を満たすものに限らない。存外、心の底から望むのなら、億万長者となった自身の姿すら見せる可能性もあるだろう。そうした「本当の望み」を見抜き、暴き立てる。そして、それを餌に人の命を喰らうのだ。 これ程までに残酷なことがあろうか。 並みの人間がこの誘惑に抗えないというのは道理だ。 しかし、この場にいたのはリベリスタだった。 自分の信念のためなら、自身の命すら懸けてしまう、そんな狂った人種だった。 「なるほど、たしかにそれは魅力的ですね」 腕を組んだまま、彩花は鏡に映る自分の姿を眺めていた。そこにあるのは、神秘の力を失った彼女の姿……ではなかった。一層力を増した、より高みに至った彼女の姿だったのだ。 文においては並み居る識者を相手取り、武においてはバロックナイツとすら渡り合う、そんな少女の姿だった。移ろい行く周囲よりも、移ろわざる自身を追求するのが大御堂彩花のルール。加えて言うなら、彼女自身が言ったように物質的・精神的には満たされている。さらっと人望も得ていると言ってしまう辺り、彼女の傲慢さが見えないではないが。ともあれ、今日の自分よりも優れた自分の姿が映し出されるのは当然の帰結と言えよう。 「であれば、これを物理的に打ち破れば、私の成長の証明になるというものですね」 ニコリともせずに、彩花は自身の気息を整える。冗談を述べたつもりなど無い。自分の進化が光より速いことを、エリューションが見せた景色を超える程に速いことを、一切疑っていないのだ。 そして、彩花は空を翔けるように、大きく踏み込んだ。 ● 「ギャハハハハ、すごい、すごーい!」 手を叩いて鏡に映る景色を楽しんでいるのは魅零である。女の子でその笑いは如何なものと思うが、それはさておき。 魅零が目にしているのも「力を手に入れた自分自身」であった。 鏡に映る「理想の魅零」は、圧倒的な力で悪徳フィクサードを蹴散らし、傷つけられていた人々を救っていく。だからと言って、「彼女」はその強大な力に溺れてもいなかった。 「それってとても素敵ね。力があるってやっぱり良い事だよね。力こそ全て! キャハハハ!」 かつての魅零はフィクサードの元で見世物として悲惨な人生を余儀なくされていた。だからこそ、彼女は望む。何物にも屈さない強い力を。傷付く人々を救える強い力を。そして、強い力にも呑み込まれない程、強い心を。 と、そこまでひとしきり笑った所で、魅零は笑いを止めて哀しげな目に変わる。 「ごめんね。すごいと思うけど、こんな光景見たくないや」 魅零は刀を構える。顔は泣いているような、笑っているような、そんな不思議な表情。 理想の姿に惹かれているのは嘘じゃない。だけど、はっきりとした意志を持って、彼女は戦うことを選んだ。 すると、エリューションも自分を受け入れない者達の存在に気が付いたのだろう。高速で回転を始め、敵対者を殺すべく動き始めた。その先にいるのは、戦闘が始まったにもかかわらずぼうっとしている那雪の姿があった。 浮かび上がる影が那雪に迫る。 しかし、神秘の刃を押し戻すべく、何処からともなく強い息吹が戦場へと流れ込む。 「させねぇよ」 息吹の中心にいたのは俊介だった。 聖痕を輝かせ、真っ赤な髪を風に揺らせている。いずれも、俊介自身が忌み嫌うものばかりだ。それでも、使うことを恐れはしない。 そんな厄介な癒し手を惑わすべく、エリューションは再び自分の身体に俊介の望む世界を浮かべ、誘惑の言葉を囁く。 そこには、彼が望む「普通の世界」があった。 神秘の力なんか関係ない、ただの「俊介」がそこにいた。黒髪で黒い瞳の少年は、世界の真実など知らず、何にもない世界に生きていた。 「いいな、そんな世界。俺そういう世界好きだよ」 『何もいらない』俊介にしてみると、それは理想の世界。力も名声もいらない。血も殺しも何にもない。かみさまがくれる『余計なもの』など、何一つ存在しないのだ。 「だからこそだ、誰かの普通を護るために俺はこんな場所で止まれない。 俺は霧島俊介! アークで最高の回復手様だ!!」 言葉と共に聖痕へ魔力を集めて行く。 その言葉に今までぼうっとしていた那雪も動き出した。 「一緒の時くらい、頼りにして欲しいものだな」 つい口から出るのは生意気な言葉。さっき見た景色に影響を受けてしまったのだろうか。いや、そんなことは無いはずだ。すぐさま意識を戦場へ集中させると、気糸を張り巡らせ、エリューションを迎え撃つ。 「これ以上、惑わすのは止めて貰おうか」 那雪の罠が戦場を、エリューションの領域を削って行く。この罠に落ちた相手は逃れることもあたわず、力尽きてしまうのだ。 しかしその一方で、彼女の頭の中にはエリューションの見せた光景がリフレインしていた。 そこにいたのは、感情豊かな那雪自身の姿。怒り、悲しみ、笑う、彼女の姿。そのような彼女の姿を見たことがあるものは、おそらくいないはずだ。 だけど、今はそんなものいらない。切り捨ててきたから、今の自分があるのだ。 もし、必要になったら、自分自身で手に入れてみせる。 だから、 「だから、そんな偽りの感情なんて『必要ない』」 「ガンガン、いくよ……っ」 気糸がエリューションを捕える。そこへすかさず切り込んでいくのは羽音だった。 チェーンソーが大きく唸り声を上げるのに合わせて、羽音は大きく振りかぶる。エンジンを動かすのは、彼女自身の闘気だ。機械に神秘の力が流れ込むとき、そこには全てを屈服させる破壊力が生まれる。 しかし、その猛烈なエネルギーが生まれる直前に、羽音の動きが止まる。 エリューションなりの命乞いと言うのだろうか。 鏡は再び、羽音の望むものを映し出した。そこにいるのは、エリューション事件で死んだはずの両親だった。昔と同じように、優しい笑顔を浮かべて彼女に手を差し伸べてくる。 彼女をリベリスタ足らしめたのは両親の復讐をするという決意。目の前で救えなかったからこそ、悔しさと悲しさは、彼女の心に深い傷を刻んだ。全ての始まりとなった想いだからこそ、甘美な味を持って羽音の心に願いが忍び寄る。 だが、 「お父さん、お母さん、ごめんね」 羽音はそっと腕輪を撫でると、あらためてチェーンソーのエンジンをフルに稼働させる。 両親が死んだからこそ、同じように復讐を誓う少女と出会えた。 アークに来たからこそ、彼と出会うことが出来た。 その積み重ねこそが、今の自分なのだ。 「あの頃に戻れたら、それはとても嬉しいけど……リベリスタとして、世界を守る生活も……案外、悪くないよ」 そして、渾身の力を込めて唸る物体を振り下ろした。 「あたしは、今……それなりに、幸せだよ」 ありがとう、そして、さようなら……。 鏡に皹が入る。 エリューションに感情があるとして、それを言い表す言葉は『恐怖』以外にはありえないだろう。 今までの『常識』からしたら、欲望を持たない人間などいなかった。それ故に、言うなればカモだったのである。しかし、目の前の人間達(リベリスタ)は、願いを弱さにはしていなかった。 「あの日の悪夢に十年以上振り回されてきた、もう乗り越える時期なんだろうな。 何より支えなきゃならん奴もいる」 櫻霞の弾丸が精確に鏡に穴を空けて行く。 いつまでも過去に引きずられるつもりはない。だからこそ、過去の哀しさを力に変えるのだ。 「それ以上家族と友を騙るな、叩き壊すぞ……エリューション風情が」 「戦う事は辛いし、苦しい……。何よりも誰かが傷つく事が悲しい……それでも、私は忘れない」 誰かを護りたいと願った事を。 護りきれずに失った人達の事を。 遠子の手繰る糸が出来た穴へと追い打ちをかけ、エリューションを破壊していく。 人の心を弄ぶエリューションを、願いを汚すエリューションを、リベリスタ達は決して許さない。容赦の無い攻撃がエリューションに加えられる。 怒りも悲しみも、自分を乗り越えるばねへと変えて、リベリスタ達は戦う。 自分達は1人ではない。 一緒に戦ってくれる友達がいる。だから、遠子はどれだけ傷ついても前に進むことを誓える。 「こんなアタシでも此処(アーク)は、優しく迎えてくれたし。 革醒しなかったら皆とも会えなかった、世界も守れなかった そういうこと全部考えても今が一番だと思うよ」 陽菜の目に涙は無い。祖父の葬儀の時もそうだったし、そのせいで散々言われたものだ。だけど、あの時の自分とは違う。 学校でも虐められたり、忘れたい・知られたくない思い出もいっぱいある。それでも、今の自分を否定する理由にはならない。この力には何度も救われてきたのだから。 「だから、アタシは今の自分が好き!」 エリューションの否定では無く、自分を全て肯定した力で、陽菜は戦う。 「うそつき鏡ごめんね、私は貴方を乗り込えて見せる! 今ある、力でね!!」 エリューションが見せてくれた「理想の魅零」。魅零はまだそれに全く追いつけていない、あまりにも弱っちい、ちっぽけな存在だ。そんな自分にとって「理想の魅零」は眩しすぎる。 だから、ここで甘えられないのだ。 「それが私のダークロード!!!」 現れた漆黒の霧が、暗黒の拷問具へと変わって行く。 毒、刃、炎、氷、雷、鎖、様々なものがエリューションを苦しめる。 「こんな場所でこんな奴に負けるんじゃない。早く三高平に帰ろうぜ、あそこには帰るべき場所があんだろーがよ!」 そして、今こそ攻め時だと俊介が鬨の声を上げると、リベリスタ達は一斉に攻撃を仕掛ける。 エリューションには分かるまい。 これこそが、リベリスタ達の望み。 リベリスタ達は願いを叶えるため、世界に向かってその小さな刃を振り上げるのだった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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