● 「……シャドウクローク?」 1人の青年が、聞きなれない言葉に反応を示した。 「あぁ、一切の気配を消す事が出来るんだ」 答えた仲間の言を聞けば、どうやらそういった類のアーティファクトのようだ。 ただし発動中は視覚と聴覚を奪われるため、戦闘にはおよそ使えないモノではあるが。 「しかも使えるのは1人だけ。いやぁ、まったく使えないシロモノだな!」 結論。どう頑張っても、あんまり役に立たない。 だがそんなアーティファクトを、彼等は手に入れた。 彼等は『自由の翼』を名乗るリベリスタ集団。 過去、手に入れたアーティファクトを狙った逆凪に奪われ、壊滅しそうなところをアークに救われた事がある。 「まぁこんなモンなら、前みたいに誰かが狙ってくる事も……」 「おい、それを俺にくれ!」 「うわぁ、来たよ」 そして再び、彼等が手に入れたアーティファクトを手に入れるべく1人のフィクサードが飛び込んできた。 彼の名は風祭・翔。 目の前にいる『自由の翼』を壊滅寸前まで追い込んだ逆凪のフィクサードであり、現在は「腹減った!」を連呼しながら各地を彷徨い歩く残念な子。 牛舎を見つけた時は「焼肉だ!」と牛舎を襲撃するも、結果的にはアークに焼肉を奢ってもらったり。 蟹のアザーバイドと相対した時は「蟹!」と燃えてタイマンを望むも、やはりアークと共闘してみたり。 その時に帰路につけるようリベリスタ達が便宜を図ったはずなのに、今も戻らずにこんな場所をうろついている辺り、相当な方向音痴なのかもしれない。 「フィクサードにくれと言われて誰がやるか! 1人だけなら、俺達でも十分いけるぞ」 「そうだな、あの時の礼をしようか」 当然ながら『自由の翼』はリベリスタ集団だ。フィクサードに『くれ!』と言われて渡す道理はない。 さらに言えば、1度は苦渋を舐めさせられた相手である。報復する機会が訪れたと考えるのも頷ける話だ。 「俺をボコりたきゃ好きにしろ。代わりにそれ、くれ!」 だが、当の翔はその報復を素直に受けるという。それほどまでにシャドウクロークの入手を望んでいるという事か。 「じゃあ、抵抗はするなよ?」 無抵抗を決めたフィクサードに攻撃をかける、自由の翼のリベリスタ達。 「悪人に人権なんざ、いらないしな」 「コレが欲しけりゃ死なない事だ。過程でうっかり殺しても、文句は言うなよ。死人になんとやらとは言うが」 報復という気持ちに囚われた彼等に、翔への手心は一切感じられない。 むしろ自由の翼にとっては、翔は『明確な悪』なのだ。どのような形であれ、『悪を倒す』という名目を得た彼等は、相手が無抵抗であれば被害を受けない分だけマシだと考えてもいるのだろう。 それは正しく、行き過ぎた正義。 5分、10分と時間だけが過ぎていく。 既に翔は口もきけないほどにボロボロで、動く事もままならない。 「じゃあ、殺すか。悪人だし」 「そうするか」 気が済むまで滅多打ちにした後ですらも、自由の翼の面々はシャドウクロークを渡さず、翔を殺す判断を下した。 そこにあるのは『悪人に対しては何をしても良い』という考え。 果たしてソレが正しいかどうかはさておき。 「……そう上手くいくと思うか?」 「新手か!」 遮るようにその場に現れたのは、神薙・蘇芳という少年が率いる逆凪フィクサードの一団だ。 彼も『自由の翼』を壊滅寸前に追い込んだ1人であり、双方互いに面識はある。 「……馬鹿を見付けたという話を聞いてきてみれば、ゲスな真似をしているな」 どうやら蘇芳の一団は、迷走する翔を探してここに訪れたらしい。 結果として見付けたのは、無抵抗のままにリベリスタに滅多打ちにされる仲間の姿。 「悪いが、ソイツが死んでも天文学的な数字で逆凪には痛手だ。……貴様等には暴力のなんたるかを教えてやろう」 先に手を出したのは、リベリスタ。 仲間を救うという目的で戦いを仕掛けるのはフィクサード。 ――通常とは逆のシチュエーションの中、双方の戦いが始まる。 ● 「悪を嫌うのは良い事なんだけどね」 この場合、どっちが悪人かわかったものではないと桜花 美咲 (nBNE000239)は漏らす。 とはいえ『自由の翼』も一応はリベリスタだ。 察知してしまった以上、壊滅させない必要はある。 「ということで、自由の翼を壊滅させないように動いてほしいの。壊滅さえさせなければ、後は各自の判断で動いていいわ」 別に逆凪の一団を壊滅させる必要はなく、シャドウクロークを回収する必要もない。 言うなれば、今回は調停が任務の目的か。 「でも自由の翼は過去にやられた経験から、無駄だと知るまで戦うわね。逆凪の側も同じよ。仲間をやられてるのだから、そう簡単にひいてはくれない」 双方に『無意味だ』と感じさせ停戦するように持っていかなければ、調停はままならないだろう。 そこをどうするかは、集まったリベリスタ次第だ。 「じゃあ、後はお願いね」 今回においては『自由の翼』の側に非があると感じているせいか、美咲は『逆凪の側を壊滅させろ』という事はなかった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:雪乃静流 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年08月26日(月)23:31 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●仲裁の使者 「……しかし、コイツがお前達如きに良いようにやられるとはな」 神薙・蘇芳にとってはそれが信じられない。 何度かやった模擬戦での勝率は確かに自分の方が上だが(口が裂けても言えないが)、それでも風祭・翔は自由の翼にここまで滅多打ちにされる存在では決してない。 割り込んだタイミングでは、もはや戦えない翔を自由の翼が殺害しようとしていた点しか判明していない。 「そんなにコレが欲しかったのかね。欲しけりゃ無抵抗でやられてろと言ったら、その通りにしやがったよ」 何故だという問いに対する答は、自由の翼の1人が発したこの一言だ。 本来ならば奪えば良いだろう。それくらいの実力はある。しかし翔はそれを是としなかった。 「……なるほど、それに対しての対価か。ならばもう、十分に払ったと思うが?」 「はは、悪人と交わした約束など、守る必要があるか?」 無抵抗を続けた翔への仕打ちに加え、契約不履行。 如何に過去に因縁のある相手ではあっても、これは逆凪に対してはマイナスばかりの出来事だ。 「やはり……お前達には暴力のなんたるかを教えてやらねばなるまい。ついでに契約も強制執行とさせてもらおう」 であるが故に、蘇芳は自由の翼に対して何の慈悲も持ち得ない。 「お前達はヤツを救え。残りは攻撃だ、奴等を殲滅する」 そして蘇芳からの指示が飛んだ。 ――同時に、 「アークです、双方そこまで」 戦いの場に割り込む声が響く。 声の主である『原罪の蛇』イスカリオテ・ディ・カリオストロ(BNE001224)は待った待ったとジェスチャーしながら前へ進み、中央に位置する自由の翼の一団へと近づいていく。 「……特務機関アーク。『神速』司馬鷲祐。この戦場、俺達が預かる」 随伴する『神速』司馬 鷲祐(BNE000288)や、他のリベリスタの顔ぶれは小規模リベリスタ組織の自由の翼ですら知っているほどのもの。 流石に彼等が間に入ろうとしているのだから、この時ばかりは自由の翼も攻撃態勢をやめ、一旦は大人しくなった。 「この一件与らせて頂きたい……と、言っても恐らく通りますまい」 今回、逆凪の側は仲間をやられた仕返しを行おうとしている。その点から彼等はアークの調停を受けないだろうと、イスカリオテは考えたようだ。 「1人1撃。私に入れて下さって結構。それで話を御聞き願いたい」 「お前にそうする理由がない。話を続けると良い」 その考えから条件を出したイスカリオテではあったが、蘇芳はアークの出方を伺っているのだろう。彼の出した条件を蹴り、素直に話を聞く姿勢を見せた。 (……必要なかったようですね) もしかしたらイスカリオテが攻撃を受けるのではないかと、傍で彼を守ろうとしていた『祈りに応じるもの』アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)の考えは杞憂に終わったらしい。 「どうせこいつ等を倒しに来たんだろ、やっちまおう、アークの皆さん」 「そうだそうだ、俺達は多勢に無勢なんだ。助かったぜ」 逆に自由の翼の面々はアークが加勢に来たと感じたのか、好き勝手な事を言い出す始末。 「少し黙れ。リベリスタとフィクサードの境界は非常に曖昧だ。悪であっても無抵抗の輩を一方的に正義が叩けばどうなる? 結果は言うまでもあるまい」 彼等の一方的な物言いを抑え、諭したのは『アウィスラパクス』天城・櫻霞(BNE000469)だ。 「何言ってるんだ。悪人は徹底して叩かなければ秩序なんざ守れないだろう。あんた等の仲間にもそういった手合いのヤツがいないとは言わせねぇ」 が、自由の翼はその言葉を聞き入れようとはしない。 正義であれば何をしても構わない。 妄執する考えを持ってしまった彼等に、今は言葉は届かない。 「……話を続けよう。あっちの方が大変そうだがな」 向こうの会話が落ち着くまで待っていては埒が明かないと、蘇芳が話の続きを求め言う。 「自由の翼への“教育”は此方で行います。弊社は傍観頂きたい。それと彼らの命、彼らの所有する破界器は渡せません」 対するイスカリオテが出した条件は、 「代わりに我々は風祭氏を逆凪社に応急処置の上返還します。更にこの場で風祭氏を含む逆凪社には一切手出しをしない」 この2つだ。 「どうして此処に居て、こんな事になっているのですか……。戦っていれば実力で奪えた筈なのに……無抵抗だなんて」 「真っ直ぐなご気性は貴方様の美徳でもございますが、少々無茶が過ぎますよ……翔様」 視線を移せば、『蒼銀』リセリア・フォルン(BNE002511)と『レディースメイド』リコル・ツァーネ(BNE004260)の2人が翔へと近付き、応急手当を行おうとしている。 過去に面識があり、共に戦った事もあるせいか、彼女達の心配する気持ちは本物だ。 「癒すのは任せてくれよ」 本格的に翔を癒すのは『パラサイト以下』霧島 俊介(BNE000082)の役割であり、彼の放つ息吹に翔の傷が癒えていく様子に目を細め、頷く蘇芳。 戦うか否か。交渉の札を切ったアークに対する、逆凪の答は――? ●仲裁の行方 「何やってんだよ!?」 「勝手なことしてくれるなよ!」 もちろんこの行動に対しても自由の翼からはブーイングが巻き起こり、かつ攻撃を仕掛けようとする者もいたが、 「おい止まれ! この戦闘に意味なんてねぇよ、無駄に血を流させるな!」 咄嗟に割り込んだ俊介がそれを許さない。 状況を見ればどちらが理知的かはわかるものだが、今回アークが守るべきは理知的ではないほうだというのが非常に厄介だと言えよう。 (己が信念で正義を掲げることは素晴しい事だと思います。アーク所属の我々も、各々が各々の“正義”や“信念”を持っていますから……ですが) そんな理知的ではない彼等であっても、そのあり方自体は素晴らしいと『ODD EYE LOVERS』二階堂 櫻子(BNE000438)は考える。 しかし、理解出来るのは『各々の正義や信念』のあり方だけだ。 (私から見れば貴方達がした事は“正義”ではなく、唯の“横暴”ですわ。我々と同じく“リベリスタ”と言う看板を貴方達も背負っていると思うと嫌になりますね) あり方は認めるものの、やり方は到底認められたものではない。だからこそ彼女は、自由の翼が同業だという事実に不快感を示す。 「ここで我々と矛を交え誰を喪うにせよ、コストパフォーマンスが悪過ぎる……と、弊社の社長なら仰られると思いませんか?」 一方では後ろでの自由の翼と仲間のやり取りを尻目に、蘇芳との交渉を続けるイスカリオテ。 確かに逆凪黒覇ならばそう考えるだろう。 そして蘇芳の一団も、『翔がある程度の傷を癒して返される』ならば、別にアークに後を任せても良いと考えるほどには冷静だ。 ――しかし。 しかしである。 それは蘇芳達だけに適用される話でしかないのだ。 「俺達だけならば、それでも良いかもしれん。……だが、アイツはどうだ?」 滅多打ちにされた翔は、自由の翼が持つアーティファクト『シャドウクローク』を欲したがために、このような状況になっている。 アークに後を任せたは良いが、そのためにシャドウクロークを手に入れられなかった――では、翔にはまったく立つ瀬がない。 「どうせ、やりあうつもりだろうが!」 「食らえ!」 その時、自由の翼の2人からの攻撃が蘇芳に飛んだ。 仲裁に入ろうとしている存在がアークだろうが、構う事はないと。 自分達はリベリスタなのだ。フィクサードとの戦いならば、彼等は自分達の味方をすると。 さらに言えば、アークにだって似たような考えの持ち主がいるだろうと。 「悪人は倒す、それがリベリスタだ!」 この言葉を発した3人目の自由の翼のリベリスタまでもが攻撃を仕掛ける時点で、交渉は決裂したとしてもおかしくはない。 「……あの連中の教育、それならばお前達がやっても良いだろう」 「そう言ってもらえるのは助かりますね。やり過ぎた未成年の教育は、大人の役目なれば」 おかしくはないが、蘇芳は『過去の因縁のせいだ』とも言わんばかりに甘んじて彼等の攻撃を受けた。 止められずにすまないと謝りながらのアラストールの言葉に、気にするなと手を振る様子からは、蘇芳が15歳という年以上に大人びても見える。 「俺達が最初に非を犯したのは事実だ。手間をかけさせた事は済まないと思う。……だが、な」 答えながらも、静かに息をつく蘇芳。 「せめてその……『シャドウクローク』だったか。それを手に入れてやらねば、あいつも浮かばれまい」 例え手に入れられなかったとしても、手に入れようとする行動こそが翔には救いになるのだと彼は考えていた。 交渉を決裂させたのは、自由の翼の行動によるものではない。 ただ1つ、『シャドウクローク』を渡さないという条件を、逆凪は飲めなかったのだ。 「……腹減った! 飯!」 そんな時だ、意識を失っていた翔が俊介の手によって目を覚ましたのは。 「第一声からそれですか」 「おはようございます、翔様」 明らかに寝ぼけているだろう様子で『腹減った』を口にするのは如何にも翔らしく、心配していたリセリアもリコルも『これなら大丈夫』と苦笑いを浮かべ彼に声をかけた。 きょろきょろと辺りを見渡す彼は滅多打ちにされた影響で、軽く記憶が飛んでいるのだろうか。 「何がどうなってんだ、この状況。……えーと、あれがこうして、そうなって」 まだ体を動かすにはきつそうな様子の中、状況を把握しようと珍しく思考を張り巡らせている。 「……どうしても渡せないか?」 「残念だが、それは諦めてくれ」 状況を判断させた要因は、蘇芳と櫻霞のこの会話だった。 見れば蘇芳達、見知った仲間がアークと交渉をしている事は翔にも理解出来、その交渉を『無意味だ』と自由の翼が蘇芳達に攻撃をかける姿が視界に止まる。 アークのリベリスタ達が制止するのも聞かず、『悪は滅ぼす』と交渉をぶち壊しにかかる姿は、翔からしても『馬鹿だ』と感じさせるほどのもの。 「そろそろ大人しくしてはどうですか? 逆凪側は手を出していませんよ」 「手間を掛けるな、余計な死体は増やしたくない」 威風を持って自由の翼をアラストールが睨み付ければ、流石に実力行使に出なければ止まらないと判断した櫻霞の気糸が罠となり、その内の1人の動きを止めた。 「なんで邪魔するんだ!」 「フィクサードは滅すべきだろう!」 それでも彼等は止まらない。否、既にブレーキは壊れてしまっている。 「悪い、逆凪。お前らは悪くない、でも撤退してくれ」 蘇芳達が引かなければ自由の翼は沈静化する事はないのだと、俊介が撤退を促す。 「――彼の事を考えてあげてはくれませんか?」 次いで、リセリアが蘇芳に言う。 ここまでボロボロなのだから、まずは翔にちゃんとした治療を受けさせるべきだと。 「考えているからこそだ。こいつは相手がどうであれ、こうと決めたらそう動く性格だからな」 しかし蘇芳は翔の行動に応える道を選び、引こうとはしなかった。 「へへ、良く、わかってんじゃねぇか。しかし……な」 その気持ちが翔には嬉しい。嬉しいのだが、現実は決して逆凪の側には微笑まない。 「卿等が殺傷に及ぶなら我等も相応に対処する」 アラストールの振るう祈りの剣は命を奪うまでではなくとも、的確に前に出ようとするクリミナルスタアに傷を与えていく。 敵が自由の風だけだったならば、勝利は逆凪の勝利は当然だ。 「アークと事を構えたら、この編成じゃあ負けるだろ……!」 故に翔はこの戦いが無謀だとも感じていた。馬鹿でもわかる。勝てないのだと。 「狙いはあの連中だけに絞る。あわよくば、お前の欲しがったものを奪う。無理はしない」 蘇芳の方はアークに勝つ事より、翔を滅多打ちにした連中を屠り、同時にシャドウクロークを奪う事に念頭をおいているようだ。 彼の手にした爆炎の妖精が、自由の翼だけに狙いを絞り――、 「ここのリベリスタ全てを相手にして損害を出さない。それは、厳しいぞ」 「制裁の為に仲間を失う心算ですか――退いてください、誰かが失われる前に」 炸裂する瞬間、爆炎から3人を鷲祐とリセリア、そして俊介が守る。 そうまでしてシャドウクロークを欲する理由は何か? (スピカ……すまねぇ、持って帰れそうもねぇ。けど、なくても守るさ) リーディングを試みた俊介が翔から引き出せた情報は、この言葉のみ。 「あまり暴れずに引け。こいつ等の教育はこちらが受け持つ」 「信念の伴わない報復など、下らない馬鹿げた行為意外の何物でもない。それは後でじっくり彼等に教えます」 シャドウクロークは渡さない。それでもお灸は据える。 櫻霞も櫻子、その場に立つリベリスタの全てが態度を持って逆凪に説く。 無駄な争いはやめておけ――と。 ●行き過ぎた正義の行方 「……引くぞ、翔」 「あぁ、俺のためなんかに無理するな」 攻め立ててもアーティファクトの入手は不可能だと判断した蘇芳が、撤退を告げる。 頷いた翔もわかっていた。このまま戦っても、シャドウクロークは手に入らないと。 「すまねぇな、余計な戦いをさせちまってよ。だけど俺様はまだ、帰らないぜ?」 「それがお前がアレを欲しがった理由か。……好きにしろ」 とはいえ翔の方は、入手が出来ずとも蘇芳達と共に帰還するつもりではないらしい。理解を示した蘇芳は反論はしないものの、とりあえず手当てはさせろと強引に翔を引っ張り撤退していく。 (さっき聞いた、『スピカを守る』ためか) 唯一、翔の心をリーディングしていた俊介だけはその理由がわかっていたものの、シャドウクロークを渡さないという条件が原因で戦ったのだから、それを翔に渡そうという言葉はどうしても言い出せずにいた。 (悪い事しちまったかな) どうやら神秘事件には関わるようだが、悪事のためではないのではと感じた俊介は、足を引きずりながら仲間と離れ去り行く翔の背を静かに見守る。 神秘事件に関わらないならという条件を念頭に置いていたために、『渡してやれよ』と言えなかった点が、口惜しいとも感じているのかもしれない。 「――また、お腹を空かせた彼と出会いそうですね」 「その時が来たら、お料理を振舞うのも悪くないと思います」 共闘した事もあるリセリアやリコルは、その背中からそう感じざるを得なかった。 『腹減った!』 『強いやつと戦いたい!』 それが、放浪する風祭・翔の行動理念なのだからと。 「奴に伝えておけ。『アンタの社員は優秀だ』ってな」 「ふ……また会おう」 一方では、そう言葉を投げた鷲祐に対し、蘇芳が柔らかい笑みを浮かべ答えている。 決して彼は撤退する事を悔しいと感じていないわけではない。 友の気持ちに報いた。 その事が、蘇芳に笑みを零させたのだ。 ――さておき。 「なんで見逃すんだよ」 「あんた等はあいつ等の仲間か?」 引いていく逆凪を見逃した事実を、自由の翼は許さない。 許さないが、それは彼等にとって明確な『倒すべき悪』が目の前から消えた今となっては、ただの我侭でしかないのだ。 「お前らの悪人ってなんだよ。フィクサード=悪人は数千歩譲って納得してやる。だがな、友達を理不尽な理由でぼっこぼこにされてキレない友達なんていねーだろ!」 その我侭に、ついに俊介の怒りが爆発した。 否、俊介だけではない。 「……後先位考えなさい、貴方達はだいっきらいですっ」 近くにいた自由の翼の1人の頬を叩いた櫻子も、 「リベリスタの質も随分と堕ちたものだな、どいつもこいつも浅慮な奴ばかり。足りない頭を回して考えろ愚か者、過ぎた秩序はただの害悪だ」 最初に諭そうとした櫻霞も同様だ。問題のシャドウクロークは回収なり破壊なりしたかった彼だが、それを行えば自由の翼に対しての悪事となるため、手を出せずにいた。 それに対しての理解が出来ない彼等は、悪態をつくばかりで反省の色など見せはしない。 「正義を良く知る人程、正義を為す事の難しさを知っております。貴方方はその事について考えた事がありますか?」 「悪人なら倒す。それで良いじゃないか。何が違うんだ?」 リコルの説教に対しても同様だ。 「正義も過ぎれば悪となります。薬も使い方を誤れば毒となるように……。過たぬよう常に正義が何であるかを考えねばならないと、わたくしはそう思っております」 「いい加減に気付いたらどうだろうか? 卿等は……自分達が嫌う存在になりかけている事を」 それでもリコルは言った。 理解出来ないのならと、アラストールは噛み砕いて説明もした。 「何故リベリスタがフィクサードを討つか。それは一定の秩序を乱すからだ。秩序とは生殺与奪。理不尽に拠るそれが起こらぬことだ」 鷲祐も言葉を紡ぎ、静かではあるが凄みを感じさせる空気を纏って彼等に言う。 果たして、彼等の言葉は自由の翼に届くだろうか? 「悪をつぶせるなら悪でも構わんさ。あんた等の中にも、そういうギリギリの存在はいるだろ。誰かを殺すわけでもないヤツを、悪ならば……ってな」 ――結果は否。届かない。 対する答は、アークのリベリスタ達の言葉が、気持ちが最後まで伝わらなかった事の表れ。 自分達を『悪』だと言い放つ辺りに心境の変化は見られるが、それならばそれで良いのだと彼等は開き直る素振りを見せる。 確かに守るべき存在である『自由の翼』の守護には成功した。 成功はしたが――。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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