●ぱちぱち、どーん 「アークの業務は個人ではなくチームで行うものが大半。とすると、連携は大切なものですよね?」 姿勢を正して、『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)はリベリスタにそう告げた。 「皆さんご存知の通り、アークはまだ稼働を開始してから間もない組織です。 もちろん、構成員の中には早くから活動されてきた方もいますが、革醒して間もなく、本格的な戦闘に挑む心構えができていない、という方もいると思います」 本人が望むと望まざるとに関わらず、運命に愛され否応なしに生活が変わる人間は多い。 その結果、使命感に駆られ、復讐で、何となく流れで、他に行き場がなくて――様々な理由によってアークに属したが、本格的な戦いに身を置くのはまだ怖い、という者もいるだろう。 それを甘えと思う必要はない。 何においても、誰かと誰かの感覚が違うのは当然の事。 また、今までの常識とは違う場所で見知らぬ人と動くのに躊躇いがあるのもまた必然。 「そういう方々への支援として、今回は親睦を深めつつ、弱いエリューションを退治して頂こう、という依頼です」 端末を操作した和泉によって映し出されたのは、巨大な火花。 今にもぱちぱちと聞こえてきそうなそれらは三つ。 信号よろしく赤、黄、青が揃っている。 「火花の形状をしたE・エレメント。フェーズは1。フェーズ進行の気配、しばらくなし。色の通り、炎、氷、雷の特性を持っています。特性としては、弱体化による自爆」 自爆、の言葉に構えたリベリスタに和泉はぱたぱた手を振った。 「あ、自爆と言ってもそこまで多大な被害は受けない様子です。そして、このエリューションのもう一つの特性が『似た火花に惹かれる』という事で……皆さんには、花火をして誘き寄せて頂きます」 曰く、花火をしていればその色とりどりの火花につられて奴らはやってくるはずだ、と。 「で、最初の話に戻りますが、メンバーの仲が潤滑であれば、依頼達成の為の連携も取りやすいと思うんです」 ただ誘き寄せる為だけに無表情で黙々と花火をやる必要もない。 楽しめるのならば楽しんでしまった方が良い。 命を賭ける事もある仕事だからこそ、息抜きは大切だ。 「許可は取ってありますので、センタービル横の駐車場が使用可能です。ビル内の一般の方々が帰宅してから始めて下さいね」 過度に緊張せず、適度な心構えを持って頑張って下さい。 そう言ってフォーチュナの少女は笑った。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:黒歌鳥 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 4人 |
■シナリオ終了日時 2011年07月26日(火)21:31 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 4人■ | |||||
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●和泉のしおり 前略。 『百の獣』朱鷺島・雷音(BNE000003) 『自称・雷音の夫』鬼蔭 虎鐵(BNE000034) 『狡猾リコリス』霧島 俊介(BNE000082) 『ドラム缶型偽お嬢』中村 夢乃(BNE001189) 『冥滅騎』神城・涼(BNE001343) 『血に目覚めた者』陽渡・守夜(BNE001348) 『スターチスの鉤爪』蘭・羽音(BNE001477) 『森の魔将。精霊に導かれし者』ホワン・リン(BNE001978) 『シャドーストライカー』レイチェル・ガーネット(BNE002439) 『花火で遊ぶリベリスタの新人』後鳥羽 咲逢子(BNE002453) 『首輪付きの黒狼』武蔵・吾郎(BNE002461) ユーフォリア・エアリテーゼ(BNE002672) 以上、十二名にて今回の研修を行います(※名簿はアーク登録順です) 参加者の皆さんはよく学び、よく戦い、よく遊んで下さい。 出発から無事の帰宅までが研修です。 ●最初っから飛ばして行きましょう 三高平市センタービル。 地下に特務機関たるアークの本部を、要となる『万華鏡(カレイド・システム)』を据える、市の象徴とも言えるその場所の駐車場に集ったのは十二人のリベリスタ。 アークに登録されているリベリスタの人数からすれば微々たるものかも知れないが、それでも一度に揃う人数としてはそれなりに多い方であった。 そんな彼らが駐車場に集って取り出したのは、色とりどり、大きさも様々な花火。 楽しげに取り出されるそれらに、ライターに神秘の仕掛けなどは一切ない。 何故なら彼らがこれから行うのは、夏場によく見かけるごく普通の花火だからだ。 「これこそナイヤガラの滝ダ!」 張ったロープに釣り下がる無数の花火に、ホワンが手持ち花火を片手にダッシュで点火したのが華々しい夜の幕開けとなった。 正に滝の如く流れる光の雨に上がるは驚嘆、歓声、拍手。 羽音が青から紫に変わる炎を持ってくるりと回れば、綺麗な光の輪ができる。 「熱っ!」 「あっ、俊介、ごめんね」 「いーよいーよ、大丈夫っ!」 傍にいた俊介にちょっと引っ掛かったがそこはご愛嬌。恋人に心配されればあっさり俊介は笑ってみせる。 「こら、そこ、余り危ない事をしているとアークの偉い人に怒られるのだぞ!」 言いながら自身も遊ぶ気満々の咲逢子が、水を張ったバケツを置いた。 咲逢子にレイチェル、ユーフォリアが運んできたバケツを横に、弾ける火花はきらきらと美しい。 年齢も故郷も全く違う面々が、今一つの組織の新人として集っている事実。レイチェルが不思議に感じるのも無理はなく、運命の寵愛を受けると同時、それに翻弄される事ともなったリベリスタの過去は、屈託のない人生から口に出すのが憚られる人生まで本当に様々だ。 力を厭った者、望んだ者、受け入れた者、溺れた者――それを改めて問う事は、互いへの気遣いもありあまりない。明るくも心に影を負う場合がある。触れ合いながらも閉ざし続ける場合がある。後悔と罪悪感を抱き続ける場合がある。一般人よりも辛い事に触れ合う事も多い。 だからこそ、楽しめる時には楽しんで欲しいと、狼の顔と巨躯に少しだけ長く生きてきたが故の老婆心を隠し、吾郎は持ってきたねずみ花火を転がした。 「ハハハ、皆追いかけ回されてこい!」 「おお!? 花火は楽しく安全にしなければ――と」 「うぉわあ全部俺に来やがったぁ!?」 対花火最終兵器であるバケツを構えた咲逢子の目の前、ねずみ花火は全弾吾郎を追い掛け始める。ばちばちばちい、と派手な音を響かせた花火はまるで意志あるかの如く狼を追尾する。窮鼠猫を……ではなく狼を噛んだか。 「もう、危ない事しちゃ駄目なんですよ~」 「うむ、雷音に危ない物が向かない様にと思っていた拙者の愛の賜物でござる!」 「それはどうかなー」 「本当に虎鐵は何を言っているのだ……」 ユーフォリアの声に何故か仁王立ちで勝ち誇る虎鐵の足元では、涼と雷音がぱちぱち弾けるスパーク花火を手に笑い、溜息をついていた。 「しかしこういうのって思わずポーズ取っちゃいますよね」 「ならば私も!」 複数本持った花火を手にレイチェルが変身ヒロイン張りのポーズを取れば、夢乃が隣で合わせて決める。その前をねずみ花火に追われた吾郎が走り抜ければ、自然と漏れる笑い声。 「幾つになっても花火って楽しいもんだな」 涼が思わず呟いた様に、知らぬ者が見たら何の集団かは分からずとも楽しげで和やかな風景ではあるが――この場の誰も、油断はしていない。 「……しかし、そろそろ来ないかな」 「あ、あれでしょうか~」 終わった手持ち花火をバケツに入れながら呟いた守夜に答えるようにふわりと浮いたユーフォリアが示した先。 今回のもう一つの目標である三つの火花が、ゆっくりと接近していた。 ●花火の前座 「ふ、来たでござるな! 雷音とデートする為にも速やかに倒させて頂くでござるよ!」 真っ先に動いたのは虎鐵。可愛い愛しい雷音と一緒のお陰か、気合の入れ方が半端ない。溢れる闘気は彼を覆い循環し、引き締まった体に力を与える。 「手早く行かせて貰うぜ……!」 「頑張っちゃいますよ~」 涼とユーフォリアが一番早く動ける態勢へと己の体を引き上げた。レイチェルの集中力が一気に増し、咲逢子のブーツから真空の刃が放たれる。吾郎の刃が、三色の火花を切り裂く。 リベリスタが真っ先に狙ったのは、赤黄青の内、厄介と思われる火炎を操る赤であった。 「俺に炎は効かないぜ!」 前に躍り出た守夜が、氷を纏った拳を赤に向けて高々振り上げる。革醒してからこれまで実践で学んできた拳の振るい方は既に身に馴染んでいた。とは言え、守夜とて場数を踏んだ歴戦の戦士という訳ではない。仲間の戦い方を見て、自身の良くない場所を探す事も忘れない。 「お一人で全部引き受ける必要はないですよ」 そんな気張る守夜に並んだ夢乃が微笑みながら己に再生の力を宿し、共に仲間に対する壁となるべく立ちはだかった。 くるくると動き回る火花は、それ自体が花火のように美しく。 抜き放った虎鐵の刃が火花と触れて別の色の小さな火花を夜闇に散らし、涼の得物に打たれ弾けた部分が光の華として鮮やかに咲いた。ホワンの斧が火花を打ち付ければ、鍛冶場にも似た金が舞う。 「なんか青いのの攻撃って涼しくなりそうじゃないか?」 「涼しいと言うか冷たいと思いますよ」 「あれならちょっと考えちまうなあ」 レイチェルに対し冗談に聞こえない呟きを返す吾郎はさて置いても、仲間の体に触れ、燃え、凍らせ、雷を走らせたとして、夢乃の呼ぶ優しい光は皆の身を健常な状態に保つ。雷音の守護が前衛の体を更に強固なものとする。 数的には完全にリベリスタが上。中断している花火の為に気合も充分。 ならばこの程度の敵など、手こずる要素はどこにもない。 「弾けろ!」 何度目かに放った咲逢子の一撃が、赤の火花に直撃した。警戒すべきは自爆技。敵の能力を読み取っていたレイチェルが、そろそろ危ないと皆に警告を発する。俄かに前衛が緊張し、羽音が最前列の仲間を庇うべく駆けた。 次いで響いたのは爆発音。 爆発のその瞬間だけ七色に輝いた火花に見とれたのは、一人や二人ではない。とはいえ今までの攻撃とは流石に威力が違う。眩しさに目を閉じた雷音が目を開けば、前には見慣れた頼もしい背中。 「雷音、大丈夫でござるか? 拙者の雷音には傷ひとつつけさせないでござる!」 「……『拙者の』がなければもっと格好良かったのだが」 「うっし、皆まだ頑張ろうぜ!」 そんなやり取りの後ろ、致命傷ではないものの傷を負った仲間に向け、俊介が世界に請うた澄んだ歌声を響かせる。 レイチェルが放った眩い、だがリベリスタ達の目を焼かない光は火花の動きを止めた。 「行くぜ!」 「ああ、ぶっ飛ばしてやろうぜ!」 吾郎の残像が刃を火花に滑らせる。 そして涼の残像が共に堅い金属の棒を振り上げ――黄と青の火花を同時に打ち抜いた。 赤から順に狙うとは言え、複数狙いの攻撃も重ねられていては他の二種とてそうそう長くは持たない。 連続して響いた音は、本物の打ち上げ花火の音にも似ていた。 ●ここから本番 「それじゃあ、これで……」 「何を言う。祭りはこれからダ」 カップルの邪魔をしないよう、と早々に立ち去ろうとした守夜をがっつり掴んで、ホワンが大き目の花火に点火する。吹き上がる赤、紫、青、緑と、光の柱が上がった。 彼女によって光のカーテンを作るように連続して上げられる噴出し花火は、後半戦の開始の合図。 今度こそ本当に、落ち着いて花火を楽しめるのだ。 真っ先に空間に入り込んだのは、やはりこの二人。 「先に落とした方が負けだかんな!」 「うん、負けたら、キスね……?」 線香花火を片手に意気込む俊介に、くすくすと笑いながら答える羽音。とはいえ、線香花火なんてそれこそ揺らせばすぐに落ちる訳で。俊介の火花が先に落ちたのは偶然なのか、はたまたうっかり手が滑ったのかは本人しか知らない。敗者が腕取り寄り添い勝者の姫君の柔らかい唇に捧げるのは、甘い甘いキス一つ。互いの瞳に映るのは、いつだって相手だけ。 しかしまあ、あっさりさっくりオンリーラバーの空間に到った二人に注がれているのが、微笑ましい視線だけのはずもない。顕著なのは夢乃である。目が怖い。バナナで釘打てる冷たさ。カーンカーン。リア充爆発しろというか凍結粉砕しろみたいな念が篭もっている。 (……アレですかつまりこれがいわゆるリア充とか言う奴ですかなんてことですあたしの目の前でいちゃいちゃするとか本当にもう爆発すればいいんです爆発いやもしくは炸裂でも構いませんむしろなんでさっきの火花で爆発してくれなかったのですかああもううらめしや口惜しや独り身のあたしには目の毒ですだいたいみなさん相手とかどこで見つけてくるんですか恋人のバーゲンセールでもどっかでやってるんですかあっちでもそっちでもいちゃいちゃいちゃいちゃと本当にもうあたしそういうのって公序良俗に宜しくないような気が時々してるんですよ彼氏とか恋人とかだいたいあたしたちリベリスタが子供できたとしてどっちの能力引き継ぐんですかねいやそもそも近場で見つけりゃいいってもんじゃ無いに決まってるじゃないですかあああああもうあたしも彼氏欲しい!! きっとどこかにあたしの王子様がいるんです、そうに決まってます) 「待ってろ王子様ー!!」 思考は全文引用。なんか切実だから。最後口に出てたけど気にしない。隣で非リアグループに無理やり組み込まれた守夜がちょっとびくっとしてたけど気にしないったら気にしない。黙っていれば一定層に受けそうな外見であるのに実に残念だ。 「まあまあ。急いてもそうそうできるものじゃありませんし~?」 その内にどす黒いオーラとか出て来そうな空気に割り込んだのはユーフォリアの声。名前の通りに常時幸いであるかの如くのんびりとした口調の相手に、夢乃がぐるっと目を向けた。 「ユーフォリアさんはないんですかそういう浮いた話もとい恋バナとか!」 「生憎とストックがありません~。革醒の時に危険な香りを漂わせた殿方に強引に連れ去られたくらいです~」 「何ですかそのおいしそうな話はちょっと詳しく聞きましょうか……!」 にじり寄る夢乃の興味は、既にカップルじゃなくてユーフォリアの恋バナ(に聞こえたもの)に移っていた。ほら乙女だし。好きだよね恋バナ。 少し離れた場所で線香花火を輝かせているのは、虎鐵と雷音。 「虎鐵の持ち方は少し乱暴なのだ」 線香花火を選んだのは雷音だが、それが虎鐵の好みとも合致したという事でやたら感動した所から始まった花火。虎鐵の手に添えられた雷音の手によって安定した小さな火は、長く咲き続けている。 「花火は果敢ないからゆえの美しさなのかな」 ぽつり。口にした血の繋がっていない、だが何より大切な娘に向けて虎鐵は微笑む。 「そんな花火よりも雷音の方が綺麗でござるよ」 「……お前は黙っていろ」 ぺちぺちと叩く雷音が本気ではない事を知っているから、虎鐵は離れない。それが自分から雷音への愛だから、と言って憚らない。 隣では涼が花火の袋を片手に、軍服の少女に歩み寄る。 「咲逢子、咲逢子、一緒に花火やろうぜ!」 「おう、ホワンみたいに噴出し花火もきっと楽しいぞ!」 「そうだな、終わったら線香花火もしっとりと、な」 「う、うん、私が一緒に花火をするのだから、当然一番楽しい花火にしてやろう!」 この機会に仲良くできれば嬉しいな、と少し目線を外しながら告げる涼に、同じ事を考え若干の気恥ずかしさを覚えた咲逢子があえて胸を張り断言した。袖振り合うも他生の縁。ならば命懸けで戦う仲間との間にも何らかの縁が結ばれているのかも知れない。 各所で繰り広げられる光景を眺めていたレイチェルの元に、線香花火を手にした吾郎が近寄ってきた。 「ヒマなら一緒にコイツでもどうだ?」 喜んで、と受けたレイチェルと吾郎の間で、小さな火花が揺れ始める。 しばらく無言で眺めていた二人だったが、やがて吾郎が口を開いた。 「なあ、楽しいか?」 「ええ。……私も恋をしたくなってきちゃいましたよ」 革醒し、人間とは違う存在となった自分。だからこそ、もう諦めていたのだけれど。 そう語る、娘ほどの年の差のあるレイチェルに吾郎が首を横に振る。 「んな事言わないで、若い内くらい楽しめ楽しめ」 「すいません、なんだかしんみりしちゃって」 「ほら、だったらそんな顔してねぇでもっとパーっと行こうぜ、な?」 「……ありがとうございます」 軽い調子ではあるが、そこにある気遣いを汲み取ってレイチェルが微笑んだ。 その顔をほの明るく照らしていた線香花火が役目を終えて、静かに散る。 無数の光の花が咲いて、そして誰かが灯した最後の線香花火が落ちて――今宵はここで、『ひとまず』おしまい。 吾郎の思う『辛い事』に触れる日々が、また明日から訪れるとしても。 明後日か明々後日か、その次の日か、また集まって笑い会う日も必ず来るのだから。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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