●ぷるぷる、落ちる じゃぼん、と夏の空に水飛沫が吹き上がった。 長期休暇を迎えて、人気のなくなった小学校のプールだった。 燦々とした日の光に細かな水飛沫がきらきらと輝いて、眩しい光景を前にしたアザーバイドはつぶらな目を細める。 けれどそんなことを楽しむよりも先に、次から次へと仲間達が降って来て身体の上をぽよんぽよんと跳ねていくものだから、異世界の見知らぬ風景に浸るどころではない。 仲間達を睨みつけようとして視線を落とすと、夏の日差しに照らされて、自分の虹色お肌がやけに目に眩しかった。 『ぴぐくく、ぷるぴー』 虹色のぷるぷるした生き物が鳴いた瞬間、そこかしこから呼応するようにぴぴく、ぷきぷーと甲高い鳴き声が湧き上がった。 つぶらな瞳が数えた結果、その数はしめて30匹ほどだろうか。 それが水色をした蓋のない箱の中、これもまたきらきらした水の中で楽しげに泳いでいるものが大半だ。 虹色のぷるぷるは困ったように目を細めると、改めて空を見た。ただし今度は水飛沫でも、太陽を見詰める為でもない。 そして案の定、虹色の頭上すぐのところに『それ』はあった。――ぽっかりと口を開けた、異世界への入り口だ。 どうしてこんな所に落っこちてしまったのか、ぷるぷるアザーバイドには分からない。分かるのは、この穴を通ればまたいつもの見慣れた世界に戻れるのだろうということだけだ。 けれど哀しいかな、自分には他のぷるぷるした仲間達とは大きく違う問題があった。 動けないのだ。大き過ぎて。他の仲間のようにうっかり飛び跳ねたが最後、こんな狭いスペースでは洩れなく仲間達を下敷きにして、ぷちっとやってしまうのが関の山だ。 これでは仲間を戻してやろうにも、手段がないのだから仕方がない。 そんな悩みを余所に自由気ままに遊び始めた仲間達を一瞥して、虹色のぷるぷるしたアザーバイドは、小さく溜息を吐いたのだった。 ●ぷるぷる、回収任務 「ぷるぷるしてるの。ぷるぷる。とにかくぷるぷる」 モニターの前でぷるぷる、という擬音めいた言葉を強調するのは、『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)だ。 画面に映し出されているのは、白い少女が強調したくなっても無理のない姿をした、いかにもぷるぷるしていそうな淡い虹色のアザーバイドだ。 「小学校の25メートルプール、ってあるでしょ? その屋外プールの上にD・ホールが開いて、こんなぷるぷるが沢山落っこちてきたみたい。ぷるぷるの数は多いけど、フェンスが閉められていたのは不幸中の幸い」 お陰でプールの外には逃げ出していないようだと、画面の中のつやつやぷるんと柔らかそうなアザーバイドを示し、イヴがぷるぷるという言葉を連呼しながら任務内容を口にする。 「フェイトは得ていないようだし、日暮れにはホールが閉じてしまうから、それまでにぷるぷる達を回収して送還してあげて欲しいの。ぷるぷるに敵意はないらしいし、此方から攻撃しない限りは襲ってこない筈だから。……数が多くて送還が難しいようなら、討伐しても構わないけど」 「……その“ぷるぷる”って言うのは?」 任務内容とは関係ないポイントで戸惑いがちに質問を投げたリベリスタへと、イヴはいつも通りの無表情を向けた。 「固有名が存在しないみたいだから、便宜上、私が名付けたの」 無表情、それでも元の素材を存分に生かして、少女は大層可愛らしく小首を傾げる。 「駄目? ぷるぷる」 どうやらお気に入りらしいその語感に、面と向かって異を唱えられるリベリスタは居なかった。 曖昧とした微妙な空気がブリーフィングルームに漂う中で、リベリスタ達の顔を一瞥したイヴは、やはりこれも普段と変わらず淡々と告げる。 「そういうことだから、よろしく」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:猫弥七 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年08月23日(金)23:21 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●ぷるぷる、出会う 全員が水着を纏っていれば、任務というよりも遊戯的な趣が強い。 「うわー! すごい、いっぱい泳いでるねー先客が!」 「ぷるぷるがいっぱいなのです、わーい!」 夏の空に、『腐敗の王』羽柴 壱也(BNE002639)のはしゃいだ大声が響いた。 プールに突撃するすぐ後ろを、同じように声を上げた『純情可憐フルメタルエンジェル』鋼・輪(BNE003899)も追いかけていく。 「ひゃっはー! ぷるぷるは消毒だー! いえ、言ってみただけですが」 誰かに突っ込まれる前に言った端から否定したキンバレイ・ハルゼー(BNE004455)も、そこらに転がっていたぷにぷにぷるぷるを両足で踏ん付け、「世紀末的人間大砲なのですよー!」と言いながら水の中にダイブしていた。 小学校のプールといえば、然程広い代物ではない。 それでも訪れたのがたかだか八人程度であれば、遊ぶには充分な広さがあるというものだ。――例え人間とはかけ離れた姿の先客がいたとしても、それは変わらないだろう。 「おーホントだ、ぷるぷるしてんな、ぷるぷる」 足元をころころと転がっていた青いぷるぷるを手に取った『足らずの』晦 烏(ID:BNE002858)が言う所へ、捕まったぷるぷるの方は掌でころりと回転しただけだ。捕まることには何の抵抗もないらしい。 「そいつ、水中でも大丈夫なのか?」 「うん、平気だよ」 『てるてる坊主』焦燥院 ”Buddha” フツ(BNE001054)が指差す先、腕に絡む白蛇の鱗を撫でて『Le Penseur』椎名 真昼(BNE004591)は頷いた。 「あらあら、出ちゃ駄目よ。初めまして」 最後にしっかりと入り口を閉めた『薄明』東雲 未明(BNE000340)もまた、足元に転がってきたぷるぷるを掌に乗せて微笑む。 ちなみにその頃、プールへと飛び込んだ『百の獣』朱鷺島・雷音(BNE000003)は、真っ先に虹色のぷるぷるの前に回っていた。 「こんにちは。ボトムにいらっしゃい。一緒に遊んでもかまわないかな?」 見知らぬ異界の少女のスキルを介した言葉に、キングぷるぷるの目がきょとんと瞬く。それが物問いたげに周囲を泳ぐ小さなぷるぷる達を捉えるものの、肝心の仲間達は全く気付いた様子もなく、早々にリベリスタ達に馴染んでいた。 興味深げに近付いていたり、抵抗もなく捕まっている様子を見て、虹色お肌の中でお手玉サイズの目が呆れたように細くなる。 「暗くなる前におうちに帰れるように責任はもつのだ、それまでの間は遊んでいこう」 そんなキングぷるぷるへにっこりと微笑みかけた雷音に、少しの間迷うようにくるりと目を回したぷるぷるは、けれど。 『ぴぴぷ、きぷぷきー』 ちっぽけな口から小さく溜息を吐くことで、交渉を成立させたのだった。 ●ぷるぷる、プールサイド 日除けの下、折角の水着も飽くまで場に合わせたものとでもいうように、取り出した椅子に腰掛けた烏がいつものように煙草の紫煙をくゆらせる。 気になるのはその様子か、それとも異界の人間そのものか――或いはこの場で最も異質だろう、男の纏う被り物か。 最初に捕まったひやひやぷるぷるが、未だ興味津々に足元から烏を見上げていた。 そのつぶらな瞳を暫し覆面越しに眺めていた烏だったが、ぷるぷるを掌に乗せて持ち上げると煙草を一服吸い込んで。 「…………ふー」 『ぴきゅっ』 吹きかけられた煙に驚いたのだろう青色が、引っ繰り返って後ろ向きにころころと転がり落ちた。 コンクリートの上でぷるる、と身体を震わせて煙を払うと、怒ったようにその場で蹈鞴を踏む――つもりなのかどうか、ぴょこぴょこと飛び跳ねてプールの中に飛び込んでいく。 「子供みたいな反応だね、まさに」 フィルター近くまで吸った煙草を携帯灰皿に躙り、次の一本に火を点けながらくつくつと喉を揺らすような笑声を零す烏の上に影が差した。 「泳がないのです? プール涼しいのですよ?」 「おじさんは流石に水遊びって年でもないからねぇ。……それよりその水着……いや、まぁ良いんだが」 プールから上がってきたばかりなのか、水を滴らせて首を傾げるキンバレイに返しながら烏が言葉を彷徨わせる。 見た目は幼いのに一部分においては大人顔負けのスタイルが、透け感のある白いスクール水着に包まれて妙に危うい。 一歩間違えれば犯罪者の心理状況を理解出来てしまいそうな光景からそれとなく目を背ければ、いつものように白夜を腕に纏わせた真昼の姿が目に入って、烏が覆面の下で口を開いた。 「あぁ、これから入るのかい?」 「うん、水分補給してから」 「だったら飲み物は好きなものをどうぞだ。熱中症で倒れたら元も子もねぇからな」 プールという水場とはいえ、未だ猛威を振るう真夏の炎天下だ。 ノンアルコールしか用意してないがね、と煙草の先でクーラーボックスを示す烏に、「それじゃ遠慮なく」と真昼が蓋を開ける。と、まるで真昼がしゃがみ込むのを待っていたかのように、数匹のぷるぷるが転がり寄ってきた。 知らない存在だらけの未知の世界。 そんな中で人とも違うシルエットを持つ存在が物珍しいのか面白いのか、ぷるぷる達はしきりに真昼の腕に絡む白夜の尻尾に触れては、ころころぴょんぴょんと飛び跳ねて牙の届かない場所まで逃げ出している。どうやら度胸試しとでも思っているらしい。 クーラーボックスから適当に一本を選び出し、心なしかうんざり顔の愛蛇を撫でながら尚も寄ってくる青いぷるぷるを持ち上げた真昼が、ふと顔を上げた。 噛み付く代わりに白蛇の尻尾で転がされたぷるぷるを受け止めたキンバレイが突如、それを自分の胸元に寄せたのだ。 「……何してるの、君」 「おっぱい!」 「……………………えーと」 ぷるぷるを二つ胸の前に当てる小学生に、思春期の少年が無表情のまま言葉を悩ませる。それとなくこの場の年長者に視線をずらしてみたものの、烏は何事も聞こえなかったかのようにあらぬ方を向いて煙草を噴かしていた。年の功だ。 突っ込み待ちの少女と、対応スキルを持たない少年と、我関せずの中年。 微妙に居た堪れない空気が漂う中、救いは別のところから現れた。 「何してるのキンバレイちゃん!」 「入るかもしれないじゃないですか?」 「駄目! ほら、ぷるぷる潰れちゃうから!」 突如として現れた壱也が、キンバレイの手から水着の中に押し込まれそうになっていたぷるぷるを取り上げる。 「あれ……寒いの? パーカー着てるけど」 「へ!? あ、日焼けしちゃうから! ね! あ、ちょっと動かないで」 「…………、何?」 「うん、なんでもない」 救出したぷるぷるを引き寄せて小学生をプールに送り返す壱也を見て、真昼が不思議そうに首を捻った。 一瞬激しく動揺したように見えた壱也が、妙に慌てた様子で言葉を返し――かと思いきや、唐突に携帯を出してカメラ機能のシャッターを切った。 突然の行動にぽかんとしたものの元より興味はないのか、それとも先程のキンバレイの言動が尾を引いているのか、ドリンクで喉を潤した真昼は特に疑問を重ねることもなくプールへと戻る。 その様子を見送った壱也は、いそいそとプールサイドの隅っこに移動するとおもむろに先程の携帯電話を構え――ぷるぷるを、パーカーの中に入れた。 「あ、やばいこれは……!」 丁度胸の位置に収まるように置いてから呟きつつ、素早くパシャリ。 液晶画面に映し出された豊満な光景に、壱也の表情が思わずにやける。 「き、記念だから!! ただの!!」 思わず誰にともなく言い訳しながら、誰かに気付かれる前にパーカーを脱ぎ捨てた壱也は、ぷるぷるを手にプールへと急ぎ戻るのだった。 ●ぷるぷる、遊ぶ 交渉が纏まったところで、雷音がキングぷるぷるを前に少しだけ首を傾けた。 「えっと、ぽよんぽよんさせてもらってもいいかな?」 きょとんと瞬いた虹色ぷるぷるが、ぷきき、と小さな鳴き声をあげる。 「ありがとうなのだ!」 それを肯定に聞き取った雷音が顔を輝かせて飛び付けば、キングぷるぷるがふるり、と身体を震わせた。大きさに対してつぶらな目の下の辺りが、嫌悪でないことを証明するように、ほんのりと虹色の濃さを増す。 「りんもぽよんぽよんしたいですぅ!」 二メートル、決して大きい訳ではないが、小柄な少女二人に圧し掛かられるのは問題ないらしい。 続け様に飛び乗ってきたりんもぷるるんと受け止めながら、仄かに色付いていた虹色が更に色を濃く増した。 そんなキングぷるぷるの前で、仁王立ちになって説教中なのは、豊かな胸を反らせたキンバレイだ。 「ちょっと太り過ぎなのですよ? メタボは駄目なのです。ダイエットするのです!」 『ぴぷるぷー……』 スキルがないのだから言葉が通じる筈もないのだが、若干不満そうにキングぷるぷるが鳴く。 「こんなにぷるぷるしたのが沢山居ると、つっつきたくなる衝動を抑えきれないわ……ああ手が勝手に」 未明の方は、無警戒に寄ってきたほかほかぷるぷるを掬い上げ、つんつんと指先でつついていた。その度にぷるるんと震えながらも不快ではないのか、ぷるぷるはきょとんと瞬くだけだ。 「ぴぐ、ぷぷるー。え、あれ何か違う?」 スキルを有さないなりに会話を成立させようと気を取られていた未明は、水中から近付く影には気付かなかったらしい。 「わっ!」 「きゃっ!? ――フツ!」 突如水中からざばっと姿を現したフツの顔面に、反射的にぷるぷるを投げ付けていた。 飛び道具にされたぷるぷるが『ぷきゅる』と鳴きながらべちょりと額にぶつかって跳ね返るのを抱き留めた未明が、半ば責めるようにフツを睨む。 「よしよし、一人目成功っと。次は誰にするかな」 けれど攻撃を意に介さなければ非難の視線にも気付かないのか、未明は上機嫌に水中へと戻っていくフツを睨んでいたものの、結局溜息を吐いて抱き留めたぷるぷるを撫でた。 「男同士でやりあえば良いと思わない?」 『きゅるぴー?』 会話の通じない小さな生き物が未明に釣られたように語尾を上げるのを、少女は指先で再び突付きながら肩を竦めた。 ●ぷるぷる、遊ばれる 水中からプールサイドから、拾い集められたぷにぷにぷるぷるは何事かというように、揃ってフツを見上げている。大人しく並べられるがままになっているのは、状況の把握云々というよりも彼の行動に興味を持っているからだろう。 しかし少し離れたところに立ったフツが、 「おりゃー!!」 『きゅるぷー!』 ……勢い良く駆け出すなり踏み台にしてプールに飛び込めば、踏ん付けられたぷにぷに達の間から仰天したような悲鳴が甲高く夏の空に響いた。 どうやら偶然踏み付けられることと故意に踏まれることの違いは理解しているのか、整列していたぷにぷに達がぷるぷる怒りながら散り散りに散らばっていく。 一方のフツはといえば空中で華麗に三回転半を決めると、水飛沫高くプールの中に着地してみせた。 「ふ、どうだ……! “ダメよフツさん! プールの水深は1mしかないの! あなた、散々あのプール坊主遊びをして、まだわかってなかったの!?”と心配する女子の悲鳴を――」 「しっかりして、フツ。脳内の妄想が全部だだ漏れよ」 落下制御による華麗な着地は良かったものの、裏声での妄想に悦に浸る間もあればこそ、未明が冷静な突込みを入れる。 だがそれはそれ、素直に感心する少女もいたらしい。 「おお! すごいのだ」 「素直過ぎるわ、雷音……」 「だろ!? やっぱり朱鷺島は分かって――って、そう怒るなよ!」 ぱちぱちと拍手でもって感嘆する雷音に、未明は小さく溜息を零した。 対して満足げに振り返ったフツだったが、後頭部を目掛けてぺちんと飛んできた緑色に水中で蹈鞴を踏む。怒りに任せたぷにぷにの体当たりだ。 勝手に跳ね返る所為でゴムボールがぶつかるほどの痛みもないが、煩わしいといえば煩わしい。 「フツにも悪気はなかったと思うのだ。……多分」 フツにぶつかった勢いのままで跳ね返ってきたぷにぷにを捕まえた雷音が話しかければ、捕まったぷにぷには小さな手の中でつぶらな目を不機嫌に眇め、ぷるるっと身体を震わせた。 けれどその訴えるような視線をじっと見返していた雷音は、思い立ったようにキングぷるぷるへと視線を走らせて――おもむろに、投げる。 「…………ていっ」 『ぴくくー!?』 綺麗な放物線を描いて放られたぷにぷにが、吃驚したような声を上げながらもキングぷるぷるの上に着地した。着地のみならず、そのままぽよんぽよんと真上に向かって跳ね始める。 「うん、思ったより弾むな!」 『……ぷきー』 腰に手を当てて非常に満足そうな雷音に、キングぷるぷるの上で飛び跳ねるぷにぷにが大層不満げな視線を送っていた。 ●ぷるぷる、お別れ 少し後、太陽が幾らか傾いた頃。 「ふよふよで気持ちいいのですー、一家に一匹キングぷるぷるなのですー」 「うん、家に欲しい……」 「二人とも、気持ちは分かるけどそろそろ時間よ」 いつの間にかキングぷるぷるの上でお昼寝モードのキンバレイと真昼に、未明が声をかけた。その言葉通りに仲間達の方も、小さなぷるぷるの回収をそれぞれに始めている。 「はっ! 寝ちゃ駄目なのです! 送り返すんでした……討伐でもいいんですよね?」 「え、討伐したいの?」 飛び起きたキンバレイが周囲を眺めた末に、ふと思い付いたように下敷きにした虹色お肌を見下ろした。 真昼の口調に不穏を感じたのか、それとも頭上からの獲物を狙う狩人の視線に気付いたのか、キングぷるぷるがぶるっと大きく震える。 その反応に「冗談です」と満足げに答えたキンバレイと、溜息を吐いた真昼がぷるぷるから滑り降り、二人も他の面々と同様に、ぷるぷる回収作業に加わった。 その頃小さなぷるぷるを一つ手にとって、烏は覆面越しに天に開いたD・ホールに狙いを定めていた。 「左手はそえるだけってゴリも言ってたしな」 そんな呟きと共にバスケットのジャンプシュートさながらに放られたぷるぷるが、『ぴくくー』と鳴き声の余韻を残してホールの中に飲み込まれていく。 「そーれっ――わ。結構跳ね上がるんですね、ヒャー!」 プールの中でも同様に、ぷにぷにを踏ん付けた輪が跳ね上がる力を利用して、手にしたぷるぷるをホールへと放り込んでいた。 男女を判別しているのか体格の所為か、フツに踏ん付けられた時には喚いていたぷにぷに達も、輪に踏まれたことは気にした様子もなくぷかりと浮かんできては、少女の周りを器用に泳いでいる。 そんなぷるぷるも一つずつ拾い上げてD・ホールに放り込む作業が終わった頃。 「よし、それじゃトラック出すから離れてろよ」 フツの言葉を受けて、雷音が虹色のぷにぷにを撫でた。 「安心してくれ、小さい子は全部おうちにかえれたのだ。……ところで水中に出して平気なのか?」 「大丈夫だろ、このくらいなら。第一、浮力がないときついぞ」 キングぷるぷるから視線を移した雷音の疑問にフツが返し、アクセス・ファンタズムからトラックとアウトドア用品を取り出す。 「そいつ、少しは自力で動けるのか?」 アウトドア用品の中からテントを取り出して、水中に沈めて広げながら尋ねるフツに、バベルを用いて言葉を交わした輪が頷いた。 「下に仲間が居ないなら、ちょっとくらいは平気ですって!」 「うん、どうやら押し潰すのを心配していたみたいだな」 ぴるる、と鳴き声をあげるキングぷるぷるの言葉を理解した輪が翻訳するところへ、同じように聞き取った雷音も言葉を重ねる。 その言葉が終わるより早くリベリスタ達の要求を理解したキングぷるぷるが、広げられたテントの中央に自分からごろんと転がり込んだ。布地の四隅の穴にロープを通し、巾着状にぷるぷるの身体を包む。 「せーので持ち上げるのだぞ」 「力仕事は得意だよ、息を合わせればきっとうまくいく!」 雷音の言葉に壱也が返し、それを掛け声に全員でロープを引っ張り、或いは下から押し上げてトラックの荷台に移す。 「ひやひやとほかほか持ち帰ったら電気代が節約できるでしょうに……」 名残惜しい、というのとは若干違った視点で呟くキンバレイの言葉を余所に。 同じ方法でトラックの荷台からD・ホールへと運ばれたキングぷるぷるは、大人しくホールの向こう側へと姿を消した。 「それじゃ、また落ちてくる前にブレイクゲートしちゃうわね」 未明が全員に告げてホールへと掌を翳せば、異界に繋がる出入り口は跡形もなく閉ざされていく。――その奥から聞こえた『ぴぴるる、ぴきぷー』と甲高い言葉を最後に残して。 「……ありがとう、ですって」 最後の言葉を通訳して輪が笑えば、それを合図にしたように弛緩した空気が漂った。 「さて、片も付いてプールも堪能したと。引き上げてカキ氷とでも行きますか。おじさんが奢るんでね」 「わーい、賛成ですぅ!」 「奢りなら行くのですよー!」 烏の言葉に輪やキンバレイがはしゃぎ声を上げる隣で、未明も軽く頷く。 「そうだ、水饅頭買って帰ろう。イヴへのお土産に良いかも」 「なら、体冷やさないうちに行こうっ」 未明の言葉に、水を掻き分けるようにしてプールサイドへと向かいながら壱也が笑った。 夏の日差しは暮れて尚強く、暑い季節はまだ終わらない。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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