● 入れ替わり立ち替わり。芽吹き、そして散っていく。 花の様子は人に似ている。人だって、入れ替わり立ち替わり芽吹き、そして散る。 生死など決められたレールの上にある物だと、誰かが言っていた気がする。 首を締めれば締まるのが当たり前のような簡単な理論。 所で問題です。 このお花が枯れた時に『あなた』は死ぬとします。どうしますか? 「えいりは死んでいただいても構わないんですけど、美しくなるし」 「勿論、綺麗になるってのは大事だよ、えいり」 「うん、えいりが美しくなればみんなうれしいでしょー?」 くすくすと笑う彼女は帽子を深く被りにっこりと笑った。 ● 「趣味が悪い」 真顔で一言。『恋色エストント』月鍵・世恋(nBNE000234)が吐き出す言葉にリベリスタは頷いた。 それじゃ、おさらいとプリントを差し出す彼女の瞳は困った色が浮かんでいる。 「こちらアーティファクト『アカンサス』。形状はお花。硝子の様なものよ。綺麗でしょ? ……は、おいておいて、これは毒を含んでいるわ。服毒者は一定期間のうち枯れ果てる」 其処まで吐き出して、世恋はアーティファクトの写真を指し棒の様なものでとん、と叩く。 「『アカンサス』には他人の美貌を吸い取る能力があるわ。これを使用するのが三尋木。 所有者は三尋木のフィクサード、鶴木えいり。彼女、三尋木凛子に憧れて美しくなりたいんだそうだわ。 それで、これを使ってるってわけね。ターゲットは若い女性。服毒のさせ方は――」 其処まで云った後にモニターに映し出したのは花だ。アサガオの花を象ったブローチを加工し、其処に毒を含んでいる。 「触れれば針が飛び出る趣向。正し革醒者に効果は無いらしいわ。一般人だけに効果を発揮する毒だそう。 美しさを吸い取るからこそ、服毒したターゲットは枯れてしまう。因みに、そのターゲットが何処に居ても毒は『アーティファクト』を壊すまで効き目を表し続けるそう」 趣味が悪い、ともう一度発した世恋はおさらいはOKかしら?とリベリスタを見回す。 「の、で、このアーティファクトを確保又は破壊してきてほしいの。 鶴木えいりと彼女と共に行動するフィクサード。アーティファクトは彼女たちが根城にしてる雑居ビルの中に存在してると思う。 美しくなりたい、なんて女性の命題だとは思うけど、他人から奪いたいとは思わないわ」 さあ、いってらっしゃい、と世恋はリベリスタを見回した。 そして、最後に『気持ち悪い』ともう一度呟いて。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:椿しいな | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年08月23日(金)23:22 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 雑居ビルは出入り口が多数存在していた。目を凝らし、周辺を警戒する『微睡みの眠り姫』氷雨・那雪(BNE000463)が漏らす溜め息は今から破壊しなければならないアーティファクトに対するものだろう。 アーティファクト『アカンサス』。その花言葉を考えながら『ウィクトーリア』老神・綾香(BNE000022)は眼鏡の奥で紺色の瞳を細めて見せる。 「アカンサスの花言葉は『美術』、『芸術』、『巧みさ』と言ったものだったか……」 論理戦闘者は赤い髪を靡かせて悩ましそうに眉を寄せる。その言葉に耳を澄ませながら遠くを見据える『星の銀輪』風宮 悠月(BNE001450)は『花言葉』がそのアーティファクトを示すのか、その形状がソレであるのか、考えながら長い髪を撫で付けた。 三尋木は良く分からない。首領たる女が美しさを求める事に憧れる少女。頭の宜しい行いといえど、恐山の様な『小賢しい』真似とは違い、金銭と云うよりも自己の欲求の為に活動しているとも言えるだろう。頂点たる女の為に動く面々も見られる度に『度し難い』と感じてしまうのは何故であろうか。 「……良く判りませんね」 「良く分からないのは行いその物ね。美しさに自信があるならば自分の力で磨けばいいのに」 毒吐いて、箱庭を騙る檻を閉じる『運命狂』宵咲 氷璃(BNE002401)の薄氷を想わせる瞳は今は伏せられる。 彼女が使用する術。白鼠を象ったそれは雑居ビル内を駆けているのだ。中の様子を探る白鼠がアカンサスに気付くか否か。 突入口を特定した悠月や那雪の声に頷いて、周囲を警戒する様に『無銘』熾竜 伊吹(BNE004197)がサングラスの向こうで目を細める傍ら。作戦に参加する面々の顔を見て小さくため息をつく。 「女の業は深いな。……俺の様なおっさんは些か場違いな気がする」 「あら、熾竜君はまだまだイケますよ。美しくなりたいという気持ちがよく分かっても奪おうとする気持ちはワタシにだって判りませんから。醜悪すぎますし」 呆れの溜め息一つ。『ヴァルプルギスナハト』海依音・レヒニッツ・神裂(BNE004230)が突入する出口前で声を潜めてくすくすと笑う。握りしめた白翼天杖で地面をとん、と叩く。仲間に与えた翼の加護。雑居ビルの階段を上る足が軽くなる。 「私ハ速度ダケしかナイガ、此処から入りゃ、ぶっ潰せんダロ?」 ナイフを握りしめる手に力が籠る。逸る気持ちを抑えながら、『黒耀瞬神光九尾』リュミエール・ノルティア・ユーティライネン(BNE000659)が唇を釣り上げた。 探索するスキルは無くとも己の役割ははっきりしてる、と少女は告げたのだ。美しくなりたいと美を追求するフィクサード。醜悪な行為だと海依音が称すると同じ様にリュミエールは「理解デキナイ」と未だ慣れない日本語を吐き出した。 それでも、ソレがその人達の『灯火』であるならば、『灯探し』殖 ぐるぐ(BNE004311)が求めてしまうのは仕方がない。 杖を握る小さな掌に力が籠る。短い髪が揺れ、色違いの瞳が細められた。大体の場所は敵の布陣が教えてくれる。視線をおくった後、唇を釣り上げたリュミエールが扉を蹴破り、中のフィクサードへと最大限の笑みを見せた。 ● 「えいり、君の邪魔をしようとする人があらわれたよ」 「えいりの邪魔をするだなんて許せない。即刻、けっちょんけっちょんにしてあげましょう!」 キッと目を強める少女の声が雑居ビルに反響する。耳にしながら、来訪者に武器を構えたフィクサード。後衛位置のホーリーメイガスを目指し歩を進めるリュミエールを堰き止めたのは彼女と同じくソードミラージュであった。 「アホラシイことシテンジャネェヨ」 「お嬢さんの遣りたい事をを邪魔する方がアホらしくないかな」 首を傾げるソードミラージュに溜め息を一つ。低空飛行で浮かび上がりながら、リュミエールの行く先へ伸びあがった黒鎖。 六枚の白い羽根が揺れる。氷璃の瞳がふ、と細められた。彼女の視界が捉えるのは花の形のアーティファクトとそれを護る様に深く帽子を被るフライエンジェの少女。 「……貴女が『えいり』?」 「そう、えいりがえいり。貴女は?」 銃を握りしめたえいりが氷璃を見据えている。名乗る前に、くす、と笑ったぐるぐが首を傾げて、その小ささを武器に前線へと飛び込んでいく。 「アークです。ちょっと通して下さい。『ボク達』は貴方に興味はないですから」 往く手を阻むフィクサードの体を増殖(ふ)えながら、ぐるぐが前進する。えいりが一歩引くその前線に中性的な外見をした少年が踊りでた。沙羅の蔦を握りしめる彼の輝くナイフがぐるぐの握りしめる妖狢にぶつけられる。ちら、と前に向いたぐるぐがにぃ、と笑った。 「ボク達が用事があるのは貴方ですから。さら」 「こんばんは、えいりの邪魔をしに来たんだよね?」 させないと嗤うその声に溜め息交じり、緩く浮かびあがりながらアカンサスを視界にとらえた海依音が紙を靡かせる。 赤いシスター服が舞いあがり、周辺のフィクサードの往く手を阻む。広がる強烈な閃光が周辺を包み込み、カミサマ嫌いが放つ聖なる破邪の光がフィクサードを包み込む。 「御機嫌よう、アークです。できれば荒事は起こしたくないのですけれども……何が必要かだなんて簡単に推測できる筈ですよ?」 「えいりが持ってる『お化粧道具』が欲しいんでしょう?」 「そう、その通り。そのお花を頂きたいんです。海依音ちゃんだけじゃなくアークはわりと好戦的よ?」 ラブテロリストはくす、と笑い少女の美貌を歪めて笑う。可愛らしい外見をしたシスターにえいりが気にくわないわ、と氷璃を見詰めた後に、撃ち出す弾丸。流れる様にそれを避け、悠月は緩やかに目を伏せる。 魔力を周囲から取り込みながら、羽と見紛う氷刃が突き刺した。銀の円環の護符を握りしめた悠月へと降り注ぐ弾丸を避け、月の光の剣を握りしめた魔女は黒い瞳を細めて笑う。 「――アカンサス……葉薊。頂けますか?」 緩やかに笑う悠月の言葉に、咄嗟に反応したフィクサードが奥の硝子の花のアーティファクトを護らんとする。その行動に目を付けて、綾香がゆるりと笑った。 「毒が仕込まれてるらしいな? それは趣味が悪い、気持ち悪いと言った言葉が頷ける。 それは存在してはいけないものだ。誰かの美しさが奪われる前に私達がこの毒を消毒してやろう」 「あら、お姉さん、過激なお言葉」 くすくすと笑うえいりの言葉を受け流し、その思考を読み解く綾香。えいりの想いは美しくなりたいと言う妄執が満ち溢れ、さらの気持ちであっても『アカンサスは渡さない』という意思が強い。 どちらも妄執に満ち溢れた思いを胸に立っているのだから、彼等は奪われたくないと言う意思が強いのだろう。だが、彼等は人間から物を奪う。奪う者が奪われる事を厭う等許されない。 「――人の美しさを奪うのは今日で終わり、今度は奪われる側になるがいい」 その声に、飛びあがり、刹華氷月を握りしめ『アカンサス』に狙いを定める那雪はフィクサードの体を貫いた。 気糸を受けとめながら睨みつけるフィクサード。思考回路がぱちぱちと合わさっていく。普段のぼんやりとした視界の中で、少女は意識が研ぎ澄まされて行く感覚に目を醒ます。 (美しい者には棘がある、とは言うけれど……) 「これは棘とは云えんな。そこまで美に執着する気持ちが理解できないのでな」 眼鏡の奥で細める瞳。彼女の言葉にぎ、と目を向けるフィクサードが前線に飛び出した。後衛から狙い撃つ其れが那雪の体を貫かんとする。避ける那雪の背後から地面をたん、と蹴って伊吹が繰り出した。 前線で応戦するフィクサードの体を吹き飛ばし、アカンサスを庇うように布陣するフィクサードの体を狙い撃つ。 「言った通り、『危うい毒』は消えて貰おうか」 お兄さん、と外見から感じた印象で伊吹へと声をかけるえいりが一歩下がる。氷璃の鎖をひっぱり、強い視線を送れば伊吹が真っ直ぐに乾坤圏を投げ入れる。 「おっと、えいり君。此方には『ラーニング』できる方だらけよ? アカンサスに加え、虎の子の必殺技まで奪われちゃいますか?」 「さっきから一々五月蠅いおねーさんね!」 笑う海依音を貫く弾丸。その身を貫く其れさえも海依音は厭わない。回復を使用しないのは海依音の意趣返し。 神の力を借りなければならないそれを、海依音は是としない。 (――ま、ワタシを狙ってくれるうちは一番かもしれませんけど) えいりの視線が海依音に釘付けになっている。さらが反応し海依音へと攻撃を仕掛けんとするその足をとめたぐるぐがに、と笑った。 「魅了できますか? 意志はえいりさんに任せたままなのでしょう?」 「えいりが綺麗になる事がいちばん幸せだからね」 「デモ、逃がしてヤンネーヨ」 ふ、と前に飛び出すリュミエールが速度を纏い、さらへと攻撃をくらわした。沙羅の蔦を狙うリュミエールのナイフが触れる。避ける、そして、其処に貫かれるさらの身体。 「アホラシイ、ダカラお前ハブッ細工ナンダヨ」 (私ハ自分ガ誰ヨリモ速イト信ジテウタガワナイ――サァモットモットモット世界ガ加速シロ) ――私ハ誰ヨリモ速イノダカラ! 真っ直ぐに決めた言葉。リュミエールは告げながら前線へと繰り出した。尻尾が揺れる。 九つの尾は揺れ動く、翻弄する様な狐の少女は笑いながらフィクサードの体を切り裂いた。 「しばらく大人しくして貰おうか」 さらが一歩引く。それを止める様にと、那雪が縛り付ける。一歩引くその足を止め、ぎ、と睨みつけるさらを通り過ぎ、綾香の瞳は背後の『アカンサス』へと向けられていた。 ● 幾重もの気糸が真っ直ぐに貫かれる。アカンサスを狙う事を最優先したリベリスタ達は攻勢に転じていた。 回復手を巻き込んで、綾香の気糸が貫かれる事に、ホーリーメイガスは癒すよりもアカンサスを庇う事を一番に気配っている。 流れる赤い髪を裂く様に飛ぶマグメイガスの魔術。間を裂く様に微笑んだ悠月が真っ直ぐに四色の光りを放つ。 「これ、そんなに大事ですか? 美しさですか……理解、できませんね」 目を細める悠月。貫かれるソレにホーリーメイガスがぎ、と睨みつける。気を取られ振り仰ぐさらを縛り付ける氷璃の鎖がぐるり、と巻き付いた。 「周りが自分より綺麗なら自分は男らしいとでも? 態々自分より劣る筈の他者から美しさを奪うだなんて私は他者より劣っていますと明言しているようなものよ」 「えいりは美しい。素晴らしい出来だろう?」 それは誰だって認める筈だ、とさらが声を荒げる。その言葉に幸せそうに微笑むえいりに向けて振り翳される気糸。 美しい少女が首を振る。嫌だと避ける様に彼女が放つソレ。自身の『特別な攻撃』は海依音の言葉で遮られる。使えないとえいりが唇をかむ様子を見詰めながら『術』を奪う目的が強い氷璃がくす、と笑う。 「何を言われても都合の良い解釈しか出来ないのなら。人の知性を奪うアーティファクトで人並の知能を得なさい」 「どういう意味よ……」 「性格がブスって外見は綺麗と言う意味ではないのよ? それとも動物会話かタワー・オブ・バベルが必要かしら?」 言葉に目を見開いて、怒る様に彼女が羽を揺らす。翼が広がり、切り裂く様に展開される。鋭利な不可視のナイフが真っ直ぐに氷璃へと向けられた。海依音の言葉も気にせずに、真っ直ぐに不可視の刃が周囲に広がった。 「――それが、貴方の技?」 寄越しなさい、と一言囁いて。その仕草も、魔力の流れも全部全部氷璃は奪おうとするが届かない。 流れるその攻撃が氷璃へと降り注ぐ、彼女が一歩引いた時、前線で振り翳す伊吹の武器がホーリーメイガスを吹き飛ばした。 「アカンサスを寄越して貰おう。大人しく立ち去れば、今は追撃はしない」 頬を掠める伊吹の攻撃に、えいりが目を見開く。一歩下がるさらは逃げ出したいと言わんばかりの怯えを出し、ぐるぐの顔を見詰めていた。 「ボク達の楽しみを阻害する器具は要りません。ボク達は、許しませんから」 「速さの前ニ逃げれるなんて思うンジャネェゾ」 ぐるぐとリュミエールに囲まれて、さらが「えいり」と名を呼んだ。前線で戦うフィクサード達は攻勢に転じるリベリスタ達により壊滅してしまっている。 出来る限り手薄な出口を探し、なおかつ、アーティファクトという目的を違えないリベリスタ達の前で、『穏健派』は怯えたように、足を引いたのだ。 「お前たちの云う最上の美しさ、潰してやろう」 奪い尽くす。綾香の言葉にも三尋木のフィクサードは駄々をこねる様にやだやだと首を振る。 那雪がその弾丸を受け流しながら運命を味方につけてさらの行動に気を使った。 えいりを残して、アーティファクトを護らんとする行動が見えるかもしれない。硝子の花は確かに美しい。毒を孕むソレを作る場所は別の部屋なのだろう。 気付いたぐるぐが小さく笑う。アカンサスを壊さんとする手を伸ばす那雪の気糸が掠める。綾香の気糸が絡み付き、フィクサードの動きを止めた。 「チェックメイトだ」 少女のかんばせが歪んでいく。深くかぶった帽子を脱ぎ棄てて、目を見開く彼女は怒りを見せた様に那雪へ弾丸を繰り出した。 「生憎だが倒れたり座り込む訳にはいかんのでな」 「ッ、許さない、許さない!!」 壊させないと繰り出す手を受け止めるのは氷璃の鎖。間を裂いて、真っ直ぐに四色の光がアカンサスを捉え出す。 伊吹の弾丸が撃ち抜いて、硝子の花びらが散る。眼を見開いたさらがナイフを握りしめ、目の前に存在した、ぐるぐを切り裂いた。 「それが貴方の灯火ですか? 素敵だとは思いますが、余り気に食わない」 小さく告げるぐるぐが増殖(ふ)え、其の侭、さらの体を切り裂く。傷だらけ、『沙羅の蔦』を握りしめたままの少年が視線を送る先は硝子の花を散らすアカンサス。 半分涙を浮かべて、「えいり」と呼ぶ声に、少女が振り向いた隙をついて、その動きを食いとめる様に悠月の氷刃は突き刺さる。 「穏健派の三尋木さん、もうコレ以上ワタシ達に用はないでしょ? ワタシ結構短気でして。 ……もう、面倒なんですよね、消耗戦。ハッキリ云えば、このままブッ潰して差し上げたい」 カミサマの加護なんてないんですよと告げながら一歩踏み込む海依音に下がるえいり。アーティファクトが壊れた以上、彼女を護ろうと踏み入れるフィクサードが存在した。 だが、彼等にだって構ってられない。妖狢を向けた先、ぐるぐの瞳は普段の柔らかな『灯』ではなく、凍てついた色を灯して居る。美的感覚(センス)は人によって違う物。幾ら艶やかな華であっても叶える事は難しい。 「あの花――『アカンサス』は貴女の美的感覚に沿う美を齎すものなのですか?」 「えいりはね、美しくなるためには手段を問わないの。確かにキレイになれるわ。だから、いいじゃない」 その言葉にぐるぐが目を伏せる。同意をする訳ではない、『そうですか』の言葉。踏み込んで、そのままに構えた小さな銃が撃ち出そうとするソレをえいりは咄嗟に避けた。身体が窓をぶち破り落ちようとする。 リベリスタ達の勧告は『退避せよ』という物だ。伊吹はサングラスの奥で目を細める。えいりが羽を揺らし銃を構えるその直線状。乾坤圏を手にしたまま名を呼んだ。 「そなたは今でも十分美しいだろうに、まだ足りぬのか」 「褒め言葉?」 「いいや、これは褒めてはおらん。確かに外見は美しくとも美しさの求め方は認められん」 確かにそのかんばせは美しかった。整った少女の美は更に美を求めようとする醜悪な行為によって歪んで見える。歪み切った美貌を見詰める悠月の表情が歪められたと同時、浮かびあがった氷璃が小さく息を吐く。 その瞬時に打ちだされる矢。凍てつくソレが少女の顔を狙い撃つ。少女の『美しい顔』を形成する大きな瞳が見開かれる。 ――ひゅん。 ぶちゅん、と少女の耳に響く音。真っ直ぐに見据える海依音の瞳は冷え切っている。まるで、自信が時を止めた『少女の頃』を見詰める様に、カミサマを怨む瞳は唯、真っ直ぐに三尋木の少女を見据えている。 叫び声、劈く悲鳴、聲。 「いやああああああっ!!!! 眼っ! えいりの、目っ!」 自身の美しいかんばせを歪める様に左目から流れる血の涙。見逃してあげると言った氷璃の唇がつり上がる。 「綺麗よ? ほら、行きなさい。これ以上はないわ。貴女の大切なものを奪ってあげる」 「ええ。それでは、さようなら。アンチエイジングと美しさの秘訣は規則正しい生活ですよ?」 適度な運動も大事ですね、とまるで『友人』に語りかける様に囁く言葉は海依音が戦闘を辞めたという証拠だろうか。 えいりの左目は何も映さない。血が流れ、ぽたぽたと滴るそれを抑えたまま、翼を広げ少女は飛びだした。 「赦さない……覚えてなさいよッ」 睨みつける、その言葉を受け流しながら悠月が目を伏せる。彼女の言葉を耳にしながら逃げ惑う少女の背中が小さくなる。 えいり、と呼ぶさらがその背中を追う。止める事は無いままに悠月は深く、深く微笑んだ。 「――あなたの憧れる『三尋木凛子の美しさ』は、そんな安っぽい作り物なのですか?」 落とされた、アカンサスの硝子の花びらに触れながら綾香が溜め息をついた。 ――美しいまま、散ると良いよ。 残ったのは、ただの、壊れた美しさの欠片のみ。しん、と静まった場所にはその他には何もない。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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