●不死の姫君 真夏の夜中。深夜0時まで、残すところ1時間弱、といったところか。 蒸し暑い夜だ。昼間の熱気を多分に含んだ空気が、未だ地上に停滞している。虫の鳴き声や、葉の擦れる音。何かが不敗したような、不快な臭いが漂っている。 場所は、海辺に並ぶ外国人墓地であった……。 今でこそ遺体を火葬、灰にして埋葬しているものの、随分昔はそのまま遺体を土に埋めていたらしい。 足元には、その頃に埋められた遺骨がゴロゴロしているのだ。 そういう立地だからこそ、彼女はここに現れたのかもしれない。 Dホールを潜って、地上に姿を現したのは、ゴシック調のドレスに身を包んだ、美しい女性であった。しかし、その顔色は蒼白で、まるで死体のそれである。 名を(クラリモンド)。異世界から来た存在、アザーバイドというやつだ。 「うふふ……。やっぱり、ロケーションって大事だわ」 夜の墓場に美しい女性。不気味さ際立ち、恐怖心と好奇心を煽る。 銀の髪をなびかせるクラリモンド。ゆったりと歩き出した方向には街明かりが見える。彼女がこの世界で活動できるのは、深夜0時までだ。あと1時間弱しかない。 だが、それだけあれば、街の1つを恐怖のどん底に叩きこむことなど、造作もない。 優雅に真夜中の散歩を楽しむクラリモンドの背後から、更に3体、異形の怪物が姿を現す。 1人は、首のない騎士であった。 もう1人は、黒いローブを纏い大鎌を持っている。 そして最後に現れたのが、骨で出来たドラゴンであった。 まるで、神話かRPGの世界から抜け出して来たような出で立ち。 クラリモンドを筆頭に、彼らは街へと進行を始めた……。 ●恐怖感染 「アザーバイド(クラリモンド)と不死の軍勢が今回のターゲット。外国人墓地に出現し、街へ向かって進行中。相手は、深夜0時までしか活動できないから、それまでの時間持ちこたえればいい」 防衛に務めるのも、攻め込むのも自由だ。『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001は、モニターに映った地図に目を向ける。 「街まで約500メートル。さほど遠いわけでもないし、季節柄、海の方へ夜景を見に来る者も多いでしょうね」 街までさして距離があるわけでもない。油断すれば、あっという間に抜けられる可能性だって否めない。 相手はアザーバイド。異形の怪物である。出来ることなら人目に触れさせることなく送還したいところである。 「クラリモンドを筆頭に、彼らは皆不死だから。戦闘不能には出来るけど。現時点では、殲滅の方法は不明。また戦闘不能状態になっても、暫くすれば回復してくる」 死なない、ということは、基本的にダメージを恐れる必要がない、ということだ。 その上で、比較的好戦的な相手である。厄介といえば、厄介かもしれない。 「クラリモンドの戦闘能力は高くないけど、サポートに優れている。一方、残る3体の戦闘能力は高いみたい。攻防のバランスが取れたチームといってもいいかもしれないわ」 Dホールの破壊も忘れないでね、とイヴは一言付け加えた。 墓場に現れ、街へと進行する不死の軍勢。まるで、ホラーゲームか、ホラー映画のようでもあった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:病み月 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年08月27日(火)23:09 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●真夜中の散歩 異変は墓場から現れた。霧の中から姿を現したのは美しい女性と、異形の怪物たちであった。 喪服のようなドレスを纏った女性(クラリモンド)の指揮で、配下の怪物たちは動いている。クラリモンドが乗っている骨の竜が、ピタリと足を止めた。 『誰か居るの? 出てらっしゃいよ』 愉悦に頬を歪ませて、不気味な笑みを浮かべるクラリモンド。 その声に応えるように、リベリスタ達が姿を現した。 ●不死の軍勢 「考えておく、って言ってくれてたのに……結局また肉着てんの。残念」 溜め息混じりにそう零し、眠たげな視線をクラリモンドへ向ける。『孤独嬢』プレインフェザー・オッフェンバッハ・ベルジュラック(BNE003341)を含む数名は、以前にもクラリモンドと会ったことがある。 『あら? 確かどこかで。お久しぶり』 なんて気さくにあいさつを返すクラリモンド。余裕の表れか、もとよりそういう性格なのか。 「可愛げがないですね。追い払われたなら、さっさと諦めればいいものを」 嘲笑と共に、異形の怪物を眺めているのは『落ち零れ』赤禰 諭(BNE004571)だ。重火器を構え、臨戦態勢を整える。数メートルの距離を置いて対峙している両陣営だが、張り詰めた空気は戦場のそれだ。 「厄介でございますね。早々にお帰りいただきましょう」 空気の弾ける音がする。『レディースメイド』リコル・ツァーネ(BNE004260)が勢いよく鉄扇を開いた音だ。 『お帰りしてもいいのだけど。でも、少しくらい遊ばせてくださらない?』 すい、とクラリモンドの手が踊る。楽団を指揮するように、枯れ木のような彼女の手が空を駆ける。それに合わせ、骨の竜が吠える。大きく1歩、前へ踏み出した。 左右に控えていた死神と、首なしの騎士も行動を開始。ドラゴンに先行し、飛び出した。 「本当にまた来るとは思ってなかった。さて、お前を止めるとするか」 デュラハンライダーと死神を無視し『立ち塞がる学徒』白崎・晃(BNE003937)は鉄扇を振りあげ、ボーンドラゴンの眼前へ。剥きだしにされた牙目がけ、鉄扇を叩きつける。 衝撃。ボーンドラゴンが揺れる。へし折れた牙が1本、地面へ落下。しかし次いで、ボタボタと大量の血液が零れ落ちた。晃の肩には、ドラゴンの牙が深々と突き刺さっている。 『追撃なさい』 クラリモンドの指示に従って、ボーンドラゴンは脚を振りあげた。鋭い爪が晃の顔に影を落とす。降り降ろされたその爪を、横から突き出された剣が受け止める。 「不死の軍勢、恐るるに足らず! この聖なる力が宿る(予定の)ゆうしゃのつるぎで一網打尽ですよ!」 ドラゴンの脚を押し返し『勇者を目指す少女』真雁 光(BNE002532)は跳んだ。降り抜かれた剣は、まっすぐドラゴンの頭部へ迫る。 「またオマエらか。今回は随分洋風だな」 影に紛れて移動していた死神の眼前に『輝く蜜色の毛並』虎 牙緑(BNE002333)が躍り出る。大剣を振り回し、死神へと踊りかかる牙緑。それを受け、死神もまた大鎌を振りあげた。湾曲した刃が牙緑の首筋を狙う。皮1枚斬られた所で、剣の柄でもって鎌を防御。 膠着状態へと持ち込んだ。 『………』 髑髏の眼窩が、牙緑を見つめる。無言、無表情。殺意すらなく死神は鎌を振るうのだった。 戦場は3つに分散された。中央ではドラゴン&クラリモンドが。道路の端には死神が。戦場の最端ではデュラハンライダーが猛威を振るう。左右の手に持った剣と槍とを交互に振るうデュラハン。それを受け止め、『祈りに応じるもの』アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)が剣を繰りだす。鮮烈に輝く一閃が、デュラハンの胴を切り裂いた。 「名のある騎士とお見受けする。我が名はアラストール・ロード・ナイトオブライエン! 不死者の騎士殿。卿との一騎打ちを所望する」 剣を掲げ、名乗りを上げるアラストール。首のない騎士もまた、剣を掲げて返礼。 『生憎、我に名などなし。首と共に捨ててきた。それでもよければ相手になろう。討ちとった所で武勲にもなるまいがな』 馬を駆って、飛び出すデュラハン。突き出された槍がアラストールを襲う。黒衣を翻し、アラストールはデュラハンの突きを回避するのだった。 舞い散る燐光。淡い光が傷ついた仲間達へと降り注ぐ。 傷を癒し、体力を回復させていく。 回復役を担うのは『ODD EYE LOVERS』二階堂 櫻子(BNE000438)であった。猫耳を揺らし、小首を傾げる。不死の軍勢に対し、何か思う所があるのだろうか。 「死なない身体、不老不死というモノは憧れている方が多いですよね」 不死に憧れる気持ちなど、櫻子には到底理解しかねるものらしい。立場が違えば、見えないこともあるのだろう。と、そう思う。 吹き荒れる黒炎を軽いステップで回避するプレインフェザー。戦闘の優先順位では死神の方が上ではあるが、どういうわけか姿が見えない。死神と牙緑はどこへ行ったのか。探し出すにはドラゴンが少々厄介だった。クラリモンドの指揮に従い、広範囲攻撃と、隙を見て突進を繰り返す。 それを押し留めることに戦力を裂かれているのが現状だ。 「ねー。また会えたじゃん。あたしの事覚えてくれてる?」 骨好きのプレインフェザーからしてみれば、クラリモンド達は好みのタイプ、といったところか。フレンドリーに話かけるも、クラリモンドから返って来たのは訝しげな表情だけ。 『覚えていないこともないけど……。どうせすぐに忘れてしまうわ。一々覚えて、られないわ』 不死とはつまり、そういうことだ。生者でもなく、死者でもなく。ただただ存在しているだけで。 同様の存在としか、思い出すらも共有できない。 「そっか。じゃあ、また邪魔させてもらうわ」 残念だな、と呟いて。 プレインフェザーは、指先から無数の気糸を放出させた。 不吉なオーラを撒き散らすのは、ドラゴンの上のクラリモンドだ。怖気の走るそのオーラが戦線を飲み込む。後衛からそれを見ていた諭は、やれやれと、苦笑い。 「腐りきっていて不味いですね。そろそろ滅んでリセットしたらどうですか?」 オーラを浴びて、彼もダメージは受けているのだろう。事実、召喚していた影人が数体、オーラに飲まれて消えて行った。 オーラを打ち消すのは轟音だ。諭の重火器が火を噴いた。地面を揺らし、ボーンドラゴンの眼前に着弾。アスファルトを砕き、瓦礫を飛び散らせる。 動作の鈍ったドラゴンの前脚を、左右から打つのは晃と光だ。 全身全霊を込めた光のフルスイングが、ドラゴンの前肢に罅を入れる。飛び散る骨片。爪の先が、光の腕を引き裂いた。流れる鮮血もそのままに、光は更に1歩、足を踏み込む。ノックB。ドラゴンの体が数メートルほど後方へ飛ばされた。 「ボーンドラゴンさんは生まれた時からボーンドラゴンなのか、普通のドラゴンがこうなったのか……。どちらにせよ、戦って倒す事には変わりないんですけどね!! 」 肩で息をし、その場に剣を突き立てた。疲労は蓄積される一方だ。 「確実に進路を塞いでいくぞ」 追撃に飛び出す晃であった。吹き消されたオーラのただ中を、鉄扇振りあげ駆け抜けて行く。大上段から叩きつけられた鉄扇が、ドラゴンの鼻先にヒット。グラリ、とその身が大きく傾いた。 クラリモンドの姿が顕わになる。にたり、と笑うクラリモンド。晃の全身に、黒い腕が巻き付いたのはその直後だった。 「う……グお」 ギリ、と晃の骨が軋む。それを見て、クラリモンドは尚更楽しげに笑うのだった。 戦闘開始から20分が経過した。クラリモンド達の侵攻を、少なくともそれだけの間、封殺していることになる。彼女達がこの世界に留まることができるのは12時まで。あと40分も持ちこたえれば、こちらの勝利だ。 しかし、事はそう上手く運ばない。ボーンドラゴンが暴れまわり、晃はクラリモンドの放った影の手に掴まった。じわじわと削られていくこちらの体力。 「もっとゆっくりしてけよ」 プレインフェザーの放った気糸がドラゴンの口を縫いつける。口の端から漏れた黒煙が、傍にいた光の肩を焼く。 その隙に、リコルはドラゴンの鼻先を蹴って、上へと跳んだ。 「こんばんは、クラリモンド様」 挨拶と同時に、鉄扇を一薙ぎ。晃を捉えていた影の腕ごと、クラリモンドの胴を叩く。衝撃。ドラゴンの背に倒れるクラリモンド。 解放された晃が落下する。晃の身は仲間に任せ、リコルはクラリモンドと対峙した。 「異世界のレディにお会いできて光栄です。ですが、夜も深まり淑女の出歩く時間ではございません。早々にお帰りくださいませ」 『あら、頭の固いメイドだわ。夜遊びも、淑女の嗜みよ?』 なんて、悪戯っぽく笑って返すクラリモンド。 じわり、と周囲に毒の霧が広がっていく。霧を払おうと、リコルが鉄扇を広げた。 次の瞬間。 ガクン、と急にドラゴンの背が大きく揺れた。 地面に蹲り、咳き込む晃。クラリモンドやドラゴンとの戦闘で、ダメージが蓄積しているのだろう。治療するべく、櫻子は胸の前で手を組んだ。 「さぁ、痛みを癒し……その枷を外しましょう」 そっと目を閉じ、何事か呟く。猫の耳がぴくりと揺れた。周囲に飛び散る淡い燐光。癒しの光が風に乗って、仲間達の元へと飛んでいく。 光が晃達に届く、その寸前だ。 何が合図になったのか。 ボーンドラゴンが、突如として大きく頭を振ったのだった。 プレインフェザーの気糸が切れる。暴れる動作に押しやられ、光は地面に倒れ込んだ。 大きく開いたボーンドラゴンの咥内には、黒い炎が渦巻いている。諭の指示で影人が動くが間に合わない。 ゴウ、と音をたてて吐き出された黒炎が、蹲ったままの晃を飲み込んだのだ。 槍を受け流すと、時間差で今度は剣が襲ってくる。デュラハンとの戦闘は、単純に速度と手数で押されていた。ましてや相手は馬上からの攻撃である。武器の重さと元の力に、高さまで加わるとアラストールの痩身では少々受け切るには力不足か。 『我が斬撃。受け切ってみせよ』 呟くようにそう言って、デュラハンがダッシュ。高速で突き出される槍と、槍の間を縫って振るわれる剣の波状攻撃がアラストールを襲う。上下左右から襲ってくる無数の斬撃が、アラストールを切り刻む。 このままでは負ける、とそう判断し、アラストールは大きく後ろへ飛び退いた。ここに至ってなお、敵に背を向けなかったのは、騎士としての誇り故だろうか。 アラストールを追って、デュラハンもまた馬の速度を上げたのだった。 『我は命を狩り取るだけだ』 そう呟いて、死神は影へと紛れこむ。それを阻むべく、牙緑は剣を一閃。影ごと切り裂くようにして、死神の動作を阻害する。だが、そうなればそうなったで、今度は死神の鎌が上下左右、いずれかの方向から振り回されるのである。 軌道は一直線。しかし、サイズと速度、重量が違う。おまけに、大きく湾曲した刃はひどく受け止め辛いのである。 「う……っぐ」 肩に突き刺さる死神の鎌。呻き声をあげる牙緑。口の端から血が零れる。 しかし、牙緑は笑っている。素手で死神の鎌を掴むと、力任せにそれを持ち上げ、宙へと放る。 鎌を掴んでいる死神ごと、だ。 影から引き剥がされ、死神が宙を舞う。上下が逆になった世界の中で、死神が見たのは剣を手に飛び上がった牙緑の姿だった。 まっすぐ向かってくるなら好都合。牙緑の首目がけ、死神は鎌を振り下ろした。 ●深夜0時の鐘が鳴る ドン、と突然死神の背に衝撃が走る。降り向くとそこには、槍を突き出した姿勢のデュラハンの姿が。ということは、今し方死神の背を貫いた衝撃は、デュラハンの槍か。 見ると、槍を受け流した姿勢でアラストールが、デュラハンと死神の丁度間に挟まっている。 衝撃で手元がぶれた。降り降ろされた大鎌は、牙緑の首ではなく、胸から腹にかけてを切り裂くにとどまった。大怪我には違いないだろうが、しかし命を奪うには至っていない。 アラストールによって、デュラハンはこの狭い場所へと誘い込まれたのだ。 その結果、デュラハンの攻撃は死神を巻き込み、隙を作ってしまった。 「------------っ!!」 声にならない怒号をあげて、アラストールが剣を掲げた。鮮烈に輝くその剣が、まっすぐデュラハンへと振り下ろされる。デュラハンもまた槍を投げ捨て、剣で応戦。交差する剣と剣。アラストールの肩から血が噴き出す。 次いで、デュラハンはその場に倒れ伏した。見ると、腰の位置で真っ二つに両断されているのだ。不死とはいえ、これでは動く事もままなるまい。 「御見事。敵方なれど賞賛します」 そう呟いて、アラストールは剣を納める。 デュラハンとアラストールの戦いが終結を迎えた。それと同時に、もう1つの戦いも終わったのである。 「オマエの鎌はどれほど命を刈り取ってきたんだ。今度はオレの牙で、オマエの喉笛かみちぎってやるよ」 鮮血が壁を汚す。壁や木などを足場に蹴り上げ、牙緑は死神の頭上へ飛び上がった。 死神が鎌を振りあげるより早く、牙緑は剣を振り下ろした。身体ごと、ぶつかるような斬撃。全身の力を爆発させるような気迫を感じる。 気合い一閃。剣が死神の首を切り裂く。頭骨がくるくると宙を舞い、やがてそれは地面に落ちた。 首を失い、それでもなお動こうともがく死神の体を横目に見ながら、牙緑は傷口を押さえ地面に膝をついたのだった。 櫻子のAFに連絡が届いたのは、深夜まで残り10分を切った頃だった。不死の軍勢を2体、撃破した、というものだ。代わりに、怪我をしてしまったらしい。 クラリモンドとボーンドラゴンの様子を見て、櫻子はくるりと踵を返す。 傷ついた仲間を放ってはおけない。倒した不死達を送還するために、諭も付いてくる。 ドラゴンの黒炎と、クラリモンドの毒霧を、諭の砲弾が打ち消し道を作る。駆け足でそこを進む櫻子。暫く進むと、戦闘の痕跡が見られるようになってきた。 傷ついたアラストールと牙緑の姿を見つけ、櫻子は回復術を行使。 「さぁ、参りましょう……」 燐光舞い散る中、櫻子は淡く微笑んだ。 「お帰りはこちら。ダストボックスみたいですね。ゴミ箱から溢れだして」 諭の召喚した影人が、デュラハンと死神を持ち上げる。アザーバイド達の体を、駆け足でDホールへと運んでいくのだ。 満足そうにそれを見送り、諭は「さて」と呟いた。 残り時間もあと僅か。 堪え切ることができるのか。 それとも、犠牲者が出るのが先か……。 『あら? またやられちゃった? ま、いっか。死んだわけでもなし』 ほぅ、と溜め息を零すクラリモンド。足元から湧きあがる無数の腕が、周囲を飛び交う。回避するだけで精一杯。その間にも、クラリモンドの毒霧はじわじわと街の方向へと流れて行く。 それを食い止めるべく、街へと駆けて行く影が1つ。全身に火傷を負った晃である。戦闘不能から復帰し、そのまま彼は駆けだした。 「優先するのは敵より味方。味方より一般人だ」 ブレイクイービル。状態異常を癒すスキルだ。誰1人、犠牲者など出さない為に、彼は1人、ひた走るのだった……。 大暴れするボーンドラゴン。しかし、前へは進めない。 「不浄なる者たちよ。裁きの雷をくらうのです!」 剣を振り回す光であった。撒き散らされる電光が、ドラゴンやクラリモンドを撃ち抜いていく。感電。雷電。バチバチと音がする。 光が倒れない限り、ボーンドラゴンがこれ以上先へ、進む事はないだろう。 『そろそろ潮時かしら?』 小首を傾げるクラリモンド。残り時間もあと僅か。それならせめて、邪魔してくれた者の1人でも血祭に上げて行きたいが、と影の腕を繰りだした。 その時だ。 影の腕の間を縫って、無数の気糸が宙を疾駆してきたのは。 気糸を掴む影の腕。1本たりとも、クラリモンドの元へは届かない。 だが……。 「おやすみなさい、レディ。ごきげんよう」 気糸に続いて、メイド服のリコルが飛び出す。鉄扇を振りあげ、クラリモンドの胸を打った。予想外の攻撃だったのか、クラリモンドは目を見開いて地面に落下。 尻餅をついた状態で、リコルを見上げる。 ダメージによるものか。それとも驚愕故か。或いは、時計の針が深夜0時を回ったためか。 クラリモンドの顔が、腕が、全身が、真っ白い骨へと変わっていた。美しい骨だ。染みの1つもない、まるで芸術品のような白骨の姫である。 「やっほー。この時期の朝の光ってのもいいもんだよ。一緒に見て、もっと仲良くなろうぜ」 そこへ現れたのはプレインフェザーだ。よっ、と馴れ馴れしくも片手を上げてクラリモンドへ言葉をかける。どこか和やかなその顔を見て、クラリモンドは悟るのだった。 『あら……。今回も、わたしの負けかしら?』 カタカタと、骨を鳴らして彼女は笑う。それからゆっくりと立ち上がると、ドレスに付いた泥を払う。軽く指を鳴らすと、今し方まで暴れていたボーンドラゴンが動作を止めた。 『せっかくの御誘い、ありがたいけど、わたしは帰るわ』 また会いましょう。 そう言い残し、クラリモンドは帰路に付く。散々暴れまわった挙句、酷くあっさりとした帰還である。 こうして、不死の軍勢の侵攻は阻まれたのであった。 「はぅー。持久戦は苦手ですにゃー……」 クラリモンドを見送って、櫻子は大きく溜め息を零した。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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