●世界には先がない この世界はドン底で、袋小路で、行き詰まりで、『先生』が言うには、もはや先がないらしい。 底ならば底の生きる道を『先生』が問いているけれど、わたしたちには少し難しい。 「世界が下流にあるならば、上から流れ出るものを享受するべきです。そこに世界の真の繁栄があるのです」 上流に通じる道を塞いじゃう人達がいて、『先生』はとても困っていると言っていた。 キャンディを口に含んで、嬉しそうに美味しいと喜びながら『先生』は、ニカリと笑って私たちに言う。 「少しばかり大掛かりな仕掛けをして、通り道を開けてみようと思います。思いました。やりましょう」 『先生』は、面白いイタズラを思いついた子供のように嬉しそうに笑いながら、実験の説明をする。 わたしたちには難しい、でも、とても楽しそうなお話。 世界のトンネル。異境に通づる通路。異世界の門。 「楽しい楽しい実験のお時間です。皆さんは手伝ってくれますか?」 『先生』は、愛嬌があって優しくて難しい問題にもあっという間に答えを出してくれる。 冗句のセンスは壊滅的にないけれど、素敵な『先生』をわたしたちは大好きだ。 「……よろしい。では始めるとしましょう」 頷くわたしたちを見て、『先生』は満足そうに頷くと、『教室』を見渡して朗らかに言う。 「では、この私と『生徒』の皆さん、総勢12名で、世界に穴を開けましょう。 明日へ通じる希望の道です!きっと楽しい世界が待っているはずですよぉ!」 楽しそうに笑う『先生』。自然と顔がほころぶ。 きっときっと楽しい世界が待っているだろう。 信じるには容易く、夢見るには壮大で、妄言でありながら信憑性が存在するモノ。 幼ければ幼いほど、力があればあるほど、常識の壁は薄く脆い。 灯された希望が大きく眩しく、信頼が強く硬いほど、世界を穿つ杭は鋭い。 純度の高い盲信は、ストレートで呷るには、少々毒が強いものである。 ●楽しい課外授業 「そして、世界に大穴を開ける儀式を始める。それが23時」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)がモニターを切り替える。 そこに映るは山頂から夜空に幾重にも展開されていく魔法陣。 複雑に絡み合う魔法陣は歯車を噛み合わせる様にゆっくりと動き、そして開かれていく夜空。 「このままでは、いずれ天蓋を外され、ディメンションホールが開かれることになるわ」 開いてしまうとその場のリベリスタ達だけで対処出来るか微妙な規模。 そこまで言うと、わずかに揺れる瞳でリベリスタを見つめるイヴ。その色は、紅と碧。 「お願い、止めてきて」 「相手はフィクサードの集団。『私塾』と呼ばれる所で育成された11人の子供、『生徒』と1人の『先生』 彼らは、とある山の頂に向かい、23時に儀式を始めるわ。 皆が、ここから直行して山頂にたどり着くのは22:30」 そこまで言うとイヴは資料を手渡す。 「これが纏めた資料。後で読んでね。あと、『先生』は強力なマグメイガスなので注意して」 準備を始めるリベリスタの背中に、イヴは頑張って、と声をかけた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:築島子子 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 4人 |
■シナリオ終了日時 2011年07月26日(火)21:21 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
■サポート参加者 4人■ | |||||
|
|
||||
|
|
● 夜空を埋める満点の星空。 街の喧騒より遥か離れた山の頂にて、少年と少女達は集う。 この綺羅星に彩られたキャンバスに神秘と運命を練り上げた絵筆を走らそう。 今宵、この時より行われるは、魔術の真髄にして秘儀。 異世界への門を開けよう。 子供達の期待に満ちた眼差しを見つめ、先生は朗らかに笑った。 星空を、天を流れる星々の河を覆うように魔術が夜空を彩った。 強固なる深紅の魔方陣が夜空を覆い、数多の色彩を持った11の小さな魔方陣が折り重なるように複雑な幾何学模様を作り上げていく。 精密な機械仕掛けの時計の様に、一つ一つ歪みのなく深紅の魔法陣の内に納まり、緩やかに、運命を巻き上げながら動き始める。 「さあ、世界を開けましょう!」 陣の完成を祝うように、『先生』は夜に魔術を放つ。 蒼い魔光が夜空を貫く。 夜が、世界が、啼くように……ギィと響く。 世界を穿つ夜が始まる。 「見えるの?」 「うーん、なんとか」 『ディレイポイズン』倶利伽羅 おろち(BNE000382)の問いかけに『鷹の眼光』ウルザ・イース(BNE002218)は木々から身を乗り出して答えた。 「ウルザ殿、身を乗り出しすぎだ。我々が発見されてはならないだろう」 同じように遠くを見据える『T-34』ウラジミール・ヴォロシロフ(BNE000680)の冷静な窘めに、ウルザは慌てて頭を引っ込める。 夜目と遠距離視覚を持つウラジミールとウルザ、遠距離に思考を伝播させる事ができるおろち、3者は斥候として暗闇に満ちる林の中に身を潜める。 「どうやら、前衛と後衛と、明確な役割をもって隊列を組んでいるようだ……後ろに控えているのが、撃破優先対象のホーリーメイガスだな」 記憶した。合流しよう、と、ウラジミールとウルザは頷く。 儀式が始まった。急いで戻らなければ…… 全てが手遅れになってからでは遅いのだから。 夜陰に乗じてリベリスタが大地を飛ぶ。 偵察により選定されたルートより、周囲への警戒が最も薄まったこの瞬間に強襲を仕掛ける。 夜闇に乗じて黒衣に身を包んだ一団。『アンサング・ヒーロー』七星 卯月(BNE002313)の翼の加護により飛行能力を得た戦士達が地面スレスレを翔ぶ。 その距離にして、50……40……30……そして…… 「皆さん、お客さんが見えましたよ。お出迎えして差し上げましょう」 リベリスタを見据え、蛇のように『先生』が嗤った。 襲撃に現れたリベリスタの数は12人。 くるりと振り返る二十二の瞳。11人の『生徒』達の視線がリベリスタを見据えた。 放り投げた松明は、闇を照らす光明となり得るか? 放った炎は、夜露に湿った草原を少しずつ照らしあげる。 子供たちを見やり『弓引く者』桐月院・七海(BNE001250)は、心の中で反芻してきた思いを繰り返す。 「子供や利用されている事を過小評価してはいけない」 儀式に、『先生』を妄信しているという事は命を投げ出す覚悟もあるという事。 ならば……同じ戦士として徹底的に撃ち抜く。 言葉を一つずつ胸の内で並べ、鏑矢を弓に番える。 髪に隠れた瞳が、猛禽の瞳の如く鋭く、夜空を彩る魔方陣を睨む。 戦いの始まりを合図するかのように、この邪な意志を打ち払うかの様に、弓を引き絞り、放つ。 細く長い音を棚引かせて、鏑矢は空を駆けていく。 翔けていく矢。音を打ち消すように雷光が煌めく。 轟音と共にかき鳴らされるギターより放たれる雷撃の雨は『先生』と『生徒』を強かに撃ち付ける。 『重金属姫』雲野 杏(BNE000582)は、空より戦場を見下ろし、勝気に笑う。 「こんにちは、魔術師先生。子供たちを使って一体何をやろうとしているのかしら?」 答えは無くも当然。そう思いつつも問いてみる。 前線では、ウラジミールが、ウルザが、おろちが、『Dr.Tricks』オーウェン・ロザイク(BNE000638)が、少し下がって卯月が、各々『生徒』と切り結んでいる。 戦場の構築は、リベリスタもフィクサードも双方前線を挟み、対峙している。 「愚問だよ、アークの若き術者」 戦場に満たされる剣戟の轟きの中、『先生』の静かで穏やかな声が水面を打つように響きわたる。 「魔道の追求に果てはなく、子供達の未来に限界もない。私はね、あらゆる可能性を肯定したいのですよ。この世界の可能性を、子供たちの未来を」 『生徒』の奮闘を見守る視線に道具を見る『色』はない。 『先生』である彼の言葉が武器を持ち戦う子供たちの背中を支え、迷いし時には的確な言葉を与える。 この男、間違いなく魔術師であり、教師なのだ。 ああ全く、飛んだ熱血教師だわ。 嘆息し、杏はギターを掻き鳴らす。迸る雷光は魔力制御通りに戦場を蹂躙する。 この為に魔術師をしているのだ。魔道の真髄など、専門にしている人に任せればいい。 「世界の反映を願ってか、崩界を目論んでか……どのような目的であれ、このような手段は誤りなのだよ。このような方法で救われる世界ではない!」 仲間への的確な支持を与えながらも、気糸で目の前の『生徒』を撃ち、卯月が叫ぶ。 ヘルメットのバイザーの奥より貫かんとする糾弾の視線を正面から受け止め『先生』は静かに語る。 「異なる世界にあるモノの可能性を検証もせずに誤りと断じ、異世界より及ぼされる僅かな害意すら盲目的に否定する。そのような姿勢は、魔術師的でなければ学術的ではない。そうは思わないかね?」 理を解すれども、総ての者が合理的に動くとは限らない。それが探究心の発露であるならば、尚更に、彼は止まらない。止まれない。 「やはり、君は僕の、僕達の敵だ」 吐き棄てるように呟いた卯月の言葉に、『先生』は然りと頷いた。 癒しの旋律を風に乗せ、傷を癒しながら、『節制なる癒し手』シエル・ハルモニア・若月(BNE000650)は背筋が寒くなる事を止めることをできないでいた。 「知的探究心を第一とし、事を為すに足りない分は『他』で補う。成程、貴方の在り方は、正当な魔術師かもしれません……でも私には受け入れ難い在り方です」 そのたおやかな美貌を曇らせ、心の内より湧き出た言葉。それを彩るのは苦渋。 閃光が視界を灼き、爆炎が包み込む。 棚引く煙と共にコートをはためかせ、『先生』は宣告する。 「お互い理解し歩み寄るフェイズなど私達には存在しませんでした。そろそろぶつかり合いましょう。私の大事な『生徒』達に欠員が出る前に、ね」 轟く魔力に、杏は身構え、そして思う。 (大事なあの子が、こんな先生に教えられなくてよかったわ) ● 時間は少し遡る。『先生』は動かず、『生徒』が奮闘するその刻に…… 苛立ちを胸に、おろちは眼前の『生徒』と対峙する。 その姿は10にも満たない少女。細腕により大振りに振るわれる得物による強打は子供といえど侮れるものではない。 何より革醒を得た存在にとって、年齢や性差など微々たるものであるが……。 「あんたにとって敵ってなにかしら? 世界を壊してまで、門を開けたいものかしら?」 運命を巻き上げられ、命を使いながら、勝ち取る未来に意味はあるのか? 神光が薙ぎ、爆炎や雷光が飛び交う。おろちにとっては過ぎた鉄火場であるこの戦いで、他者の人生に触れる余裕などなかったはずだ。 そう、問うつもりはなかった。対峙する目の前の子供の心に触れるつもりなど一切なかった。 だが、問いてしまった。聞いてしまった。 くもりガラスのような瞳が一瞬思考に逸れるが、振り回された刃はおろちを強かに打つ。 「先生が、凄いものを見せてくれるって約束してくれた。これは、良いことなんだって。だから、ジャマする人は、みんな敵だよ?」 あどけなくも、飾らない言葉。 頭に上る血。聞くべきじゃなかった聞きたくもなかった。でも聞いてしまった。嗚呼、畜生。 「先生が良いことだって言ったから、凄いものを見せてくれるからってそれを盲目的に信じてどうすんのよ!」 おろちにも分かっている。これが教育というものだ、これが盲信というものだ。 怒りに任せた体はスムーズに動き、風に舞う鋼線に黒いオーラが満ちる。 振り下ろされたオーラの一撃は、少女の頭部を捉える。そして、神光。 「他人の言いなりじゃ全然無理に決まってるっしょ。自分の欲しい物を、自分で考えて、自分の手で掴む為に、自分の足で進むしかねーっしょ?」 崩れ落ちた少女を見据え、おろちは忌々しげに呟いた。 とにかく、これで1人。 自立しない盲信など見飽きたと断ずるには子供達には聊か酷だろうか? ウラジミールは聖なる鉄槌と化した拳を盾に打ちつける。 眼前の少年の盾は度重なる鉄拳により、無残にひしゃげている。 だがそれでも少年が無事なのは守りの力に秀でているからだろう。 ウラジミールの敵にも、味方にも、盲信者、狂信者は幾らでもいた。 祖国の変遷とともに、味方も敵も、その顔ぶれは変遷していった。 味方であった者は敵となり、敵であったものが味方になる事もある。 拳を撃ち下ろす。盾がひしゃげる。撃ち下ろす。撃ち下ろす。 機械的である自分は、戦いに身を置くのが丁度いい。 青い瞳で震える少年を見つめる。 運命を、フェイトを引き寄せても尚、届かないものはあるのだ。 一度目を伏せ、拳を撃ち下ろす。 意識を失う少年に、同情をするべきではない。冷酷とも取れる言葉を繰り返す。 これで良い。狂信に及ばないのならば、罪の重さを知ってからでは手遅れなのだ。 そして2人目。 前衛のバランスが崩れた事により、リベリスタの弾幕戦が始まる。 杏の雷光は言わずもがな、前線深くに抉り込んだウルザの神気閃光がなぎ払う。 だがそれでも、範囲内外を出入りするホーリーメイガスを仕留めるには能わず、焦れるものの、戦線はリベリスタ優位に進む。 七海は弓を引き絞り、夜空を睨む。彩る魔光は未だ衰えず、運命は未だ魔方陣に吸い上げられる。 「もはや猶予はありません。容赦なく討ち取りましょう」 その矢は星光の如く降り注ぎ、子供達を射抜いた。 「界の狭間の扉を開く儀式魔法……その術式に興味はありますが、完成させるわけには行きません」 『星の銀輪』風宮 悠月(BNE001450)の雷光と杏の雷光、二つの雷撃が敵陣を薙ぐ。 子供を犠牲にする魔術を阻止するために、子供を討た無ければならない、その事実に悠月の表情は曇る。 しかし、2人の魔術の威力により、敵陣より奏でられる癒しの旋律も癒す事もかなわず……。 また1人、子供が傷つき倒れる。 これで3人。儀式を崩す為には後2人、敵は傷を癒しきれていない。行ける。 勢いづいたその瞬間、大気を震わせるような魔力の奔流。 空を紅く照らす魔方陣をそのまま移したが如く紅く巨大な魔方陣が描かれる。 魔陣展開。 「そろそろぶつかり合いましょう。私の大事な『生徒』達に欠員が出る前に、ね」 その身より恐るべき魔力を立ち上らせ、表情は穏やかに『先生』は笑う。 ● 「皆さんよく頑張りました。ここから私も出ます。あと一息です。一緒に頑張りましょう」 ひどく優しい声で『先生』が囁く。 「「はいっ」」 一斉に応える子供たちの信頼が酷く痛々しい。 「これだから放っておけないんだ」 後方に回り込んでいたウルザが束縛の気糸を放つが、傍らに控えた『生徒』が庇う。 計らずもホーリーメイガスを束縛するに至ったが、ウルザは苛立ちに唇を噛み締める。君じゃない! と叫べたらどんなに気が楽だったろうか。 『先生』を囲むように、集まり出した『生徒』にかける適切な言葉をウルザは持っていない。 「見過ごせないからこそ、勝利を優先する。邪魔をするならば、容赦なくなぎ倒させてもらうぞ」 地面からスルリと現れオーウェンが凝縮した思考、理論、戦術、数式を圧力へと変換し解き放つ。 爆発。身を翻した『先生』はともかくも、神光の影響が抜けきれていない『生徒』の多くは圧力に屈し弾き飛ばされる。 「成程、物質透過ですか。厄介ですが、対処できないほどではない」 落ち着いた口調で語る。たとえリベリスタが圧せども、場を支配するのは、この強大な魔力を内包した魔術師だ。 おろち、ウラジミールが突貫するが、体勢を整えた『生徒』に阻まれた。 弾き飛ばされた生徒たちも、起き上がり、構えを取る。 戦闘は、儀式は、継続されている。 刃は『生徒』に届けども倒すに至らず、反撃に繰り出される束縛の術式と火焔の魔術はリベリスタを傷つける。 「目を覚まして欲しいのです!」 それは、子供に向けた真摯な祈り。『ぴゅあわんこ』悠木 そあら(BNE000020)の祈りはリベリスタを支える癒しの歌だ。 リベリスタの傷は祝福の風で癒され、卯月のサポートにより、余力は十分にある。 「目を覚ます……無理でしょう。掲げる夢も希望もなくなれば、子供には寄る辺がなくなってしまう」 倒れ伏す『生徒』達を見つめ、『先生』はどこか無機質に微笑む。 「だからと言って……『生徒』を危険な企みに巻き込む理由にならない」 魔力の矢を放つエリス・トワイニング(BNE002382)の言葉により浮かべた笑みは、何よりも苦みに満ちた物だった。 矢を受け倒れ伏す『生徒』、また子供が1人、意識を手放す。 これで4人。あと1人子供が倒れるだけでこの儀式は崩壊する。 「世界に、運命に愛されたところで、社会に弾かれた子供にとっては、世界など護るに値しないものですよ」 過剰な力など、不幸そのもの。かつての彼らには、夢もなければ、希望もなかった。そう『先生』は囀る。 ――この世界を必要としないと断じているのは、私ではなく、何よりも、あの子達なのです。 求めるものを全て与えたならば、世界は子供の夢と引換えに壊れて果てる。 「だからこそ、私は儀式を継続する。私は真理を探求する。その果てに、私の欲望(ゆめ)とあの子達の夢があるならば!」 そして、強大な魔力により構成された大鎌が振るわれる。 羽ばたく翼から力が抜け、ウルザは膝をつく。 たったの一撃。 たったの一撃で純白に翼は真紅に染まり、その余力をほぼ全てもぎ取っていったのだ。 血濡れの体を持ち上げ、右腕を前に掲げる。 右腕の黒手袋、嘆きを現していると自らを茶化す術具を構える。 力が流れ、傷が痛み、顔をしかめた。 「やられっぱなしは嫌だし、何よりまだ諦めきれないよね」 「ええ、儀式を、終わらせます」 お返しとばかり放った閃光に杏と悠月の放つ雷撃が重なり、疲弊したフィクサード達を『シスター』カルナ・ラレンティーナ(BNE000562)の放った神光が薙いだ。 夜空に浮かぶ魔方陣が崩れる。 術者との魔術的リンクを断ち切られ魔法陣は崩れ落ちるようにその形を失っていく。 夜空を彩っていた魔力の光の渦は、魔力の光の束になり、糸になり、溶けるように消えていった。 夜空は、まるで何事もなかったかのように、星を写す。 その魔法陣は、欲望であり夢であった。 欲望は否定され、夢は潰えたのだ。 「実験は失敗に終わりました。さあ、帰りましょう」 夢の為に倒れた『生徒』達を見つめ、虚しさを胸に『先生』は言葉を絞り出す。 帰る? 帰ることができるのだろうか? 夢を否定された子供が……夢を喪った子供が? 武器を手に、戦うことを選んだ子供が? ――そして、無尽蔵のリベリスタと強大な『先生』がぶつかり合い。 残った『生徒』達もリベリスタへと挑む。 ● 『先生』は肩で息をし、リベリスタの疲弊は激しい。 『生徒』は全て地に伏せ、そのほぼ全てが血に濡れていた。 「満足ですか?」 七海は、狙いをピタリと合わせたまま問う。 「子供たちを命すらをも失いかねない戦いに駆り立て、満足ですかと、聞いている」 七海の強い問いかけに、『先生』はハハと笑う。 答えなどない。 『先生』の魔力の暴力は、壮絶を極めた。 狙い済まされた強力な魔力の一撃は、前衛後衛問わず、命をすり減らす間際まで追い詰める。 だがしかし、シエルの、そあらの、カルナの、エリスの、4人の癒し手に支えられた戦線は崩れず、卯月の魔力配給が更に回復を支える。 魔光の魔曲も、死神の大鎌も、リベリスタを追い詰めるが、後詰めが無ければ先はなく……。 ウラジミールの鉄槌の拳、おろちの鋼線、ウルザの神光、オーウェンの爆砕が追い詰める。 「もはやこれまでだ。『先生』とやら、大人しく観念したらどうだ」 オーウェンが勧告し、ウラジミールが前に進み出る。 そう、もはやここまで、この戦いに先はない。 「これまで、ですか……」 晴れやかな顔で、腕を掲げ、魔力で手首を切り裂く。 「これは……! 退避! 退避だ!」 ウラジミールが対比の指示を出す。 素早く距離をとるリベリスタ。ウラジミールは『先生』の前に立ちふさがり、護りを身構える。 報告書にあった……葬送曲・黒。 夥しい血が、もはや血でないものが、顕現し、満たし、そして弾けた。 「その対処は正しい。満点です」 黒鎖の渦を空間に満たし、『先生』は血溜まりに沈んだ。 ● 「結局、この子達はどうすなるのでしょう?」 はて、と頬に手を当て、シエルは考える。 「取り敢えず、アークで保護することになるだろう。リベリスタになるかどうかは、本人次第だが……」 何よりもアークの気風に溶け込めるかどうかが寛容だろうと、オーウェンは語る。 『先生』は捕縛され、『生徒』は収容された。 盲信するも毒なれば、されるも毒。 ストレートでは、刺激が過ぎるという物だろう。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|