● 知ってる? お祭のときは迷子になっちゃいけないんだよ。 お祭のときに迷子になった子は……神様に連れて行かれちゃうんだって。 ● 一人の幼い少年が泣きながら暗い夜の神社の境内に座っていた。 少年は家族と一緒に神社の祭に来ていたはずなのに屋台の物に気を取られているうちにはぐれてしまった。どこに行けばいいのかもわからず少年には泣くことしかできなかった。 屋台の周りは明るくにぎやかなのに、少年の周りはただ薄暗く誰もいない。 もしかして自分はもう誰にも見えない存在になってしまったんじゃないのか、そんな不安に襲われた。 「どうしたの? 迷子になったの?」 「男の子が泣いたらダメなんだよ」 かけられた声に顔をあげると、いつの間にか少女が二人立っていた。同じ髪型同じ模様の浴衣、そして鏡に映し出したかのように瓜二つの顔。少年は泣くことも忘れて双子の少女をぽかんと見つめた。少女達は少年よりも年上に見えたが、それも一つか二つくらいの差だろう。 「誰と来たの?」 「……パパとママ。あと、こうくん。赤ちゃんなの」 少女の問いかけに少年は答えた。少年には生まれたばかりの弟がいるらしい。 「そういう人達なら向こうの方で見かけたよ」 「ほんと!?」 「うん。だからお姉ちゃん達が連れてってあげる」 少女は少年に向かって手を差し出した。 ● 山の頂上へと向かう石段を三人は歩いた。 この山の頂上には神社の本殿がある。子供の足でも三十分も歩けばたどり着くことができる。しかし祭りの最中に登ろうとする存在はあまりいない。頂上への道を灯篭が照らしだし、虫や鳥の声が聞こえるばかりだ。 双子は片方がユナ、もう片方がサヤだと名乗った。 だが自己紹介をされても同じ顔が二つ並んでいてはどちらがどちらかわからなくなる。 「どうしてお姉ちゃん達はそっくりな顔してるの?」 「双子なんだよ。双子は顔がそっくりなんだよ」 「へー」 そういうものかと少年は納得した。 普段ならば双子ってなぁに? などと無邪気に尋ねるだろうが今はそんなことに興味を持つことはできなかった。 なぜなら。 「……ねぇ、パパとママ、本当にこっちにいるの?」 連れて行くと言ってくれたはずなのに少女達が向かう先に人の気配というものが存在しない。 「「――本当にいると思う?」」 両側の同じ顔から同じ言葉を投げられ、少年は「ひっ」と息を飲み込んだ。 少女達は楽しそうにくすくすと笑った。同じ笑い声が左右から聞こえて頭の中で響く。 「本当はね、あなたのパパとママに頼まれたの」 「この子はもういらないからどこかに連れて行ってほしいって」 「う、嘘……そんなの……」 嘘とは言い切れなかった。弟が生まれてから両親はずっと弟にかかりきりだ。お兄ちゃんだから我慢しなさいと言われていたが、もしかしたら本当に自分のことなんて……。 いつもだったら言い返すこともできたかもしれない。 しかし薄暗い山道の中で左右から同じ顔同じ声で笑われ続ければ自分がどこにいるのか、どこに行けばいいのか、そして何が正しいのかさえわからなくなってしまう。 不安と迷いと恐れと怖れが頭の中をかき回し続ける。 ぐるぐると、ぐるぐると、ぐるぐると。 「大丈夫。パパやママなんていなくても私達がずっと遊んであげるから」 「私達だけじゃないんだよ。ほら、見てごらん」 少年は顔を上げた。いつの間にか自分は頂上の本殿へとたどり着いていた。そこには虚ろな表情を浮かべる子供達がいた。少年はそれを見て悲鳴をあげることはなかった。なぜなら少年もすでに同じ表情を浮かべていたから。 「ずっとずっと一緒だよ。誰も私達を捨てたりしないの。ずっとずっとずぅーっと」 それはとても幸せなことだと思った。 ● 「もうすぐ行われる、とある大きなお祭で十人以上の子供が行方不明になる」 まるでハーメルンの笛吹よね、と真白イヴ(nBNE000001)は言った。 「犯人は双子の少女のノーフェイス。……彼女達が子供をさらうのはエリューションとしての本能とも言えるし、彼女達自身の意思とも言える」 彼女達自身の意思とはどういうことなのか。 同じ子供を傷つけてもいいと思うほどに残虐な双子なのだろうか、と誰かが聞いた。 その質問にイヴは静かに首を横に振った。 「彼女達は一週間前に母親に捨てられたの。今まで訪れたこともない遠くの町のさびれた神社に置き去りにされて」 ここでお祭りがあるから大人しく待っているのよ、お祭りが終わったら迎えに来るからね。 そう言い残して母親はいなくなった。 だがさびれた神社で祭りなんて行われるわけもなく。しかもその日は記録的な猛暑だった。神社の前を通り過ぎて双子の存在に気付く人間もいなかった。 「あるはずのない祭を待ち続けた彼女達はやがてひどく衰弱して動くこともできなくなった」 祭なんて本当はなく、自分達が捨てられたことに彼女達が気付いたのはいつからだったのだろうか。 誰にも助けを求められないくらいに動けなくなってからだろうか。 それとも名前も知らない遠くの田舎町に連れて来られたときからだろうか。 「そのまま死ぬはずだった二人は死の間際に革醒した。だけど運命を得るまでには至らなかった」 ノーフェイスと化した双子の少女達はその場から姿を消し、そして改めて別の場所で姿を現す。 置き去りにされてしまった子供を自分達なりに助けるために。 「彼女達の変異はフェーズ2まで進んでいる。もう助からない。……いいえ、最初から助からなかった。だって革醒しなければそのまま死ぬ運命だったから」 未来と過去が見えるはずのフォーチュナは哀しげに呟いた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:桐刻 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年08月31日(土)22:49 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 色とりどりの浴衣を着て人々がはしゃいでいる。遠い昔、この祭は山の神に奉げるための祭であったが、現代においてすっかり意味を忘れ去られていた。 「神隠しか……」 祭の様子を遠巻きに観察しながら『アヴァルナ』遠野 結唯(BNE003604)は呟いた。 神隠しとは前触れもなく人がいなくなることだ。それは神に隠されたのだから仕方ないと諦めるためのものだったかもしれないし、本当に神秘的な存在が関わったことなのかもしれない。 そしてここはかつて神域と言われた土地でもある。 「それが山の神社で人外による神隠しとは……なんという皮肉だ」 古来より異界にさらわれた者の物語は多い。 その結末は二つ、帰ってこれるか、こられないか。 「さてこの話の結末はどうなるものか……」 黒い髪黒い服を纏った結唯は闇の中へと姿を消した。 それはまるで隠されたかのように。 ● 浴衣を着た『シャドーストライカー』レイチェル・ガーネット(BNE002439)が人ごみの中を歩いていた。頭には猫耳が生えていたが気に留める者はいない。祭の最中、多少の奇抜な恰好は許されるものだ。 「まさか本物とは思ってませんでしょうけどね」 レイチェルはくすりと笑い、周囲に鋭い視線を送った。 笑顔を浮かべる人と人の隙間でくすんくすんと泣いている少女を発見した。 「どうしたの、お父さんかお母さんは?」 レイチェルは少女に近づき話しかけた。 「お店見てたらいなくなってたの……」 間違いない、迷子のようだ。 「すいませーん、この子の保護者さんいますかー?」 レイチェルが人ごみに向かって声をかけると、母親らしき女性が慌てて人ごみから飛び出し、レイチェルに向かってペコペコと頭を下げた。 「今度は見失わないように手をつないであげてくださいね」 母親と少女に笑いかけ、レイチェルは人ごみの中に消えた。 ――今宵の祭で手を離せば二度と会えなくなるかもしれない。 「……ママ、パパ、こうくん、どこ……」 不安そうな顔で幼い少年が歩いていた。祭に夢中な大人達は足元の少年を気にする様子はない。もしかしたら自分は誰にも見えない存在になってしまったのではないか、そんな不安に襲われかけたときだ。 「迷子になったんですか? なら、私が助けて上げるね。さ、手を繋いで」 少年へと手を差し伸べながら、『残念な』山田・珍粘(BNE002078)はやわらかく微笑んだ。少年はこぼれかけた涙をぬぐい、珍粘の手を取った。 「なので、私のことは那由他と呼ぶように。良いですね約束ですよ?」 目の前の少女の本名を知らない少年は、理由はわからないがとりあえずうなずいておいた。 数人の迷子達を引き連れて『銀の腕』一条 佐里(BNE004113)が祭の運営テントまで向かったとき、テントの中では運営委員と思われる男達が酒を飲んでくつろいでいた。佐里が迷子を引き渡すと、男の一人は面倒くさそうに対応した。 「迷子、毎年出てるみたいですけど……対策は何か出来ないのですか?」 「いやぁ、うちとしてもやった方がいいとは思うんだけどねぇ」 男が笑いながら話すには、どうやら数年前に起きた誘拐未遂事件の犯人が地元の有力者の息子らしい。 「だからほらわかるでしょ? 表立って対策したら偉い人の機嫌を損ねちゃったりするからさぁ」 あまりの態度に佐里は激しい怒りを覚えた。 「そんなことで……! 自分の子供が迷子になってそのまま帰ってこなかったり、誘拐される可能性だってあるのに……!」 抗議しかけた佐里を『赤錆烏』岩境 小烏(BNE002782)が片手でさえぎった。 「自分は弟探してんだけどさ、どうやらここには来てないみたいだな。こうやって探すのも大変だ。そもそもはぐれないのが一番だよ。あんたらだって迷子の相手してたら祭を楽しめないだろ?」 じぃっと小烏は男を見つめた。ほろ酔い気分だった男は小烏の眼を見るうちに何をすればいいのかさえわからなくなってきた。 「だから迷子注意の放送でもしてくれねぇか?」 「あ、ああ、そうだな……そうしよう……」 男は会場全体に放送するためのマイクを手にとり、迷子への注意をうながすための放送を流した。 「これである程度は大丈夫だ。ま、できるなら来年も気を付けてもらえたらいいんだけどな」 小烏は軽く肩をすくめ、二人は運営のテントからそっと離れた。 「お姉ちゃんありがと!」 母親に手をつながれてぶんぶんと手を振る少女に『大食淑女』ニニギア・ドオレ(BNE001291)も手を振り返した。 「探してみたら結構いるものなのね、迷子って」 他の特異者達と同じように迷子らしき子供を探して声かけをしていたニニギアであったが、これまでに数人の迷子を見つけていた。アクセス・ファンタズムからの通信からも仲間達が同じような調子だということがわかる。 ニニギアは人ごみから少し離れた場所でアクセス・ファンタズムから聞こえる会話に耳を傾けた。 「……そろそろ動かなきゃいけないようね」 迷子探しではなく本来の任務のために。 ● その時『灯探し』殖 ぐるぐ(BNE004311)は屋台から少し離れた場所で祭の様子を見守っていた。 子供が母親に綿菓子をねだり、母親は小言を言いながらも財布を取り出して綿菓子を買い、子供に手渡した。 「おかあさん……」 ぐるぐは遠い遠い記憶に想いをはせた。 ボク達のお母さんはどんな人だっけ。 「ねぇ君達、ボクのお母さんを知らない?」 ぐるぐはいつの間にか目の前に立っていた二人の少女に問いかけた。 「知ってるよ」 「向こうにいたよ」 少女達は同じ顔同じ声でくすくすと笑いながら山を登る石段の方向を指さした。ぐるぐはうなずき、少女達についていくことにした。 そんなところにいないとはわかっていたけれども。 石段の入り口には『通行止め』の看板が置かれていた。普通ならばこの先で崩落でも起こっているのかと思って引き返すだろうが、少女達に気にするところはなかった。 看板の近くには浴衣を着た金髪の少女、『飛常識』歪崎 行方(BNE001422)が座っていた。 「あなたも迷子なの?」 「一緒においでよ。その方がさみしくないよ」 行方は大人しくうなずき、少女達の少し後ろよりついてきた。 暗い石段を四人の子供が歩いていく。 不意に双子の一人が足を止め、後ろの闇をにらみつけた。 「……誰か後ろからついてきてる気がする」 「上にお参りしたい人じゃない? 早く行こ、サヤちゃん」 「うん、そうだね」 子供達は再び石段の上へと歩き始めた。 「ボクはぐるぐって言います。あなた達の名前は?」 「私はユナ!」 「私はサヤだよ」 双子にとってただ大人しくしているだけの行方より、あれこれと質問するぐるぐの方が話しかけやすいようだ。 いつの間にか少女達はぐるぐの両側に立っていた。 「大人なんていなくてもいいと思わない?」 「いつもいつも自分のことばかり」 「私達子供のことなんて全然見てくれない」 「きっといなくなってもいいんだよ」 一瞬だけそうかもしれないと思ってしまった。ぐるぐはうなずきかけた頭を振り、慌てて少女達から距離を取った。 「……どうして逃げるの?」 少女達は冷たい表情でぐるぐを見つめ返した。 すぐそこに石段の終わりが見えた。 ● ぐるぐと行方は石段の上まで走った。少女達はくすくすと笑いながら二人を追いかけた。 石段と同じく灯篭が照らし出す本殿の敷地内で二人は少女達と向き合った。 「鬼ごっこのつもりですか? ですが……」 石段から足音が聞こえた。登ってきたのは今まで迷子を捜していた特異者達であった。 「嬢ちゃん、駄目だよ。そんな風に騙されるのは自分等だってもう真っ平だろう」 小烏の持つ懐中電灯の光が少女達を照らし出した。見た目は普通の子供のはずなのに醸し出す気配は子供のものとは全く異なっていた。特異者達は始まる戦闘に備えてゆっくりと距離を取った。 「あなた達が邪魔してたのは知ってるよ」 「やっぱり大人ってひどい。そうだよね?」 双子の一人が近くにある茂みに呼びかけると、茂みの中から子供が三人姿を現した。どの子供もうつろな目をしていた。 「その子達はすでに人ではないものなのよ! ついていったら戻れなくなることくらい、本当はわかってるくせに!」 レイチェルが叫ぶと感情なんてほとんど浮かんでいなかった子供達に怒りの感情が見えた。 「……ひどいこと言わないで……」 自分達を親よりも大切な存在だと刷り込ませてるからこそ挑発への効果があった。子供達は双子から離れ、レイチェルがいる方向へと走り出した。 「私とも遊ぼう! お姉ちゃん!」 しかし子供達よりも早く双子の一人、ユナが駆けた。その後ろからサヤが禍々しい光球を、レイチェルと佐里に向けて放り投げた。 「お姉ちゃん達にこれあげる!」 光球が着地すると同時に感じる衝撃。痛み。二人はまともに動くことができなくなってしまった。 「あはっ! 動けないんだっ!」 そして二人の前に飛び込んできたユナはくるりと回った。見た目は普通の浴衣の袖のはずなのに、その攻撃は剣で薙ぎ払ったかのような斬撃を二人に与えた。 「いきなり!? ちょっと早すぎるわよ!」 ニニギアは聖神の息吹をレイチェルと佐里に放った。二人は回復の息吹を受けてふらつきながらも立ち直った。 「やったー! 命中命中!」 特異者達が苦しむ姿を見てサヤは手を叩きながら喜んだ。しかしその隙を突くように何者かが駆け寄った。 「……今度はボクが鬼ですよ」 サヤが慌てて振り向いた瞬間、ぐるぐの姿をした幻影達がサヤへと斬撃を繰り出してきた。サヤにはその攻撃をまともに受けることしかできなかった。 「サヤちゃん!」 ユナは叫んだ。 「誰かに見られては困る光景だな……」 結唯は強めの結界を神社の本殿中心に張りめぐらした。これで通行止めの看板を無視して登ってきた一般人も近づくことはなくなったはずだ。 「ほらほら、こっちへおいで! ……お父さんとお母さんが待ってるよ?」 麻痺から解放されたレイチェルは子供達に呼びかけながらじわりじわりと後退した。洗脳よりも怒りに囚われた子供達はレイチェルがいる方向へ顔を向けた。 「捕まえたわよ。ほら、大人しくして」 そしてニニギアは近づいてきた子供を捕まえ、拘束した。子供は暴れたが所詮子供の力だ。 その様子を見てぐるぐは小さく安堵のため息を吐いた。 「ひどいよね、あのお姉ちゃん達。私達の友達を奪うなんて」 「だからあなたが新しい友達」 しかしその隣に双子が並んだ。同じ顔同じ声がぐるぐの心をかき乱していく。ボクが新しい友達なのか、とぐるぐはうなずいてしまった。 「殖さん!」 佐里が呼びかけるとぐるぐは顔を上げた。うつろな目をしながら。そして呼びかけに応じるように佐里へと近づき武器を振り上げた。佐里は寸でのところでその攻撃を回避した。 「おい、しっかりしろって!」 子供を保護することに協力していた小烏はブレイクイービルを使い、ぐるぐを洗脳から解放した。 その様子を双子はくすくす笑いながら見ていた。 「近くにいるだけでどっちがどっちだかわからないデス。……もうどっちでもいいデス」 「ッッ!?」 音もなく双子に近づいていた行方は大振りの肉切り包丁を双子の片方へと叩きつけた。 「きゃあああっ!?」 「ユナちゃん!」 行方の攻撃によりユナは大きく弾き飛ばされた。 「ああ神隠し。消えた子供は多数いても、子供に消される神隠しはアナタ達だけ。アハハ!」 大人しく迷子のふりをしていた姿はどこに行ったのか、心と体の制限をすっかり取り外した行方はとても面白そうにケタケタと笑った。 「いじわるな子! 大嫌い!」 ユナは体勢を立て直し、怒鳴りつけた。 「嫌いでも構いませんよ。でも私は可愛い子が好きなんですよね」 不意に闇がユナへと囁いた。違う。ユナのそばには漆黒の闇を体に纏って立つ珍粘がいた。漆黒の闇は霧となりユナを包み込み、黒い箱となった。 「その寂寥感に満ちた心がとっても大好きです」 「あああああああっっ!!」 黒い箱が再び霧へと戻ったとき、そこにはありとあらゆる痛みに耐えるユナの姿があった。 今なら攻撃する最大のチャンスと言える。半端な同情をして逃すことはリベリスタには許されない。 「……ごめんなさい」 佐里は胸の痛みに耐えながらも連続攻撃をユナへと放った。 そしてユナのもとへ駆け寄ろうとしたサヤへは結唯が鋭い一撃を放った。 「どうして邪魔するの!」 「その非常識で強欲な生への希望、せめて私の血肉として喰らってやろう……」 攻撃を避けながらのサヤの叫びに、結唯は淡々と答えた。 ● 「……して」 珍粘の与えた痛みを振り切りながらユナはうめいた。 「どおしてどおしてどおしてどおして!!」 憎しみに燃える目がすでに遠く離れてしまった子供達を見ていた。まだ洗脳の支配下におかれてはいるが、レイチェルと小烏の動きにより、すっかり隔離されていた。 「どうしてその子達は助けて私達は助けてくれないの!」 ユナは自分を囲む特異者達を薙ぎ払った。激怒のままに振るわれる攻撃を行方はまともに喰らってしまった。薄い刃のような浴衣の袖が行方の顔や腕を細かく切り刻んだ。 「私達に、あなた達を救うことはできない。だからせめて一刻でも早く解放してあげたいの!」 回避の際に崩しかけたバランスを整えながら佐里は答えた。 「ユナちゃんにいじわるしないで!」 サヤはユナを囲む特異者達に向かって光球を投げつけた。光球は三人の特異者達に背後から襲い掛かった。広がる衝撃の前に特異者達は動けなくなった。 だが。 「ボクを忘れてる……わけじゃありませんよね」 ぐるぐの姿をした幻影達が再びサヤに襲い掛かった。さすがに予想はできていたのかサヤは次々と襲い掛かる連撃を振り払った。 「……あなた達だって救いたかったわよ」 やり場のない悲しみや罪悪感を心深くに閉じ込め、ニニギアは聖神の息吹を使った。痺れに翻弄されていた行方は顔をあげた。 「お返しデス。アハハ!」 行方は笑いながら肉切り包丁を大きく振り上げた。 ドゴッ! 強い一撃の前にユナは大きく弾き飛ばされた。これだけサヤと引き離されれば両側から語りかけられてしまうこともなくなる。 「例え双子でも場所が違えば個人デス。アハ」 血のついた包丁を握りながら行方はゆっくりとユナへ近づいた。離れるつもりは行方にはなかった。 「化物は人間のかえるべき場所にはなりえぬ。人間の道を踏み外したのだから」 サヤへと攻撃しながら結唯は呟いた。 双子の体はすでに崩壊しかけていた。特に集中攻撃を受けたユナの体は細かいヒビが入り、人間ではありえない崩れ方をし始めていた。 「言ったはずです。私はあなた達が大好きだって」 闇を纏った珍粘がくすくすと笑いながらユナを抱きしめた。漆黒の闇はユナをギリギリと締め上げた。 「なんて可哀想な子供達なんでしょう、親に捨てられるなんて! なんて可哀想な子供達なんでしょう、私達に殺されるなんて。……そんな彼女達の事が、私は大好きですよ?」 ――この話の結末はすでに見えていた。 ● 灯篭が照らす薄暗い神社から戦闘の音は消えた。 体が朽ちかけた少女達が寄り添いながらしくしくと泣いていた。それはまるで迷子のように。 しかし連れて帰ることはすでにできない。彼女達に残されている時間はあと少ししかない。できることはこのまま消えるのを待つだけ。 「ひとつだけ聞かせてくれ。帰れるものなら帰りたいか?」 小烏の問いに二人の少女は黙って首を横に振った。もし帰れたとしても同じ結果になることくらいわかっていた。 「もし、いくアテがなくて寂しいのならうちへ来ませんか?」 少女達は顔を上げた。ぐるぐは微笑みかけながら武器を構えていた。それを見た少女達は同じように笑った。 ようやくこのシガラミから解き放たれるのだと。 「さぁおいで灯火達、ボク達はキミ達を捨てないさ」 ぐるぐの姿をした幻影達は二人の少女に優しく剣を振り下ろした。 ● 洗脳から解けた子供には怪我もなく、『双子の少女に誘われて遊んだ』という記憶しか残っていなかった。 処理班に任せる必要もないと判断した特異者達は子供を連れて石段を降りた。祭はまだ続いていたが、終わりかけの気配を見せつつあった。 「おかーさーん!」 「もう! 心配したのよ! どこ行ってたの!」 母親は駆け寄る子供を抱きしめた。 「……えっと」 「お母さんを探してるうちに上まで行っちゃったみたいなんです」 ニニギアは子供が説明で困る前に口を出してあげた。 「怪我もないみたいだし、あんまり叱らないでやってくれるかな?」 小烏にも言われ、母親は子供を厳しく叱る気が失せた。 「あなた達が見つけてくださったんですか? 本当にありがとうございます」 母親は二人に向かって何度も何度も頭を下げた。 「いえ、あまり気にしないでください。……それよりも」 ニニギアは一瞬だけ悲しげな表情を浮かべた。 「その子の手はもう離さないでくださいね」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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