● 「暑い」 「暑いなぁ」 「いつまで続くんだ、この暑さ」 「わからん」 「携帯も熱い、触りたくない」 「某所は四十度超えだとか」 「バッ、ば……ばっかじゃねーの!! ばっか……はあ」 窓全開。六畳一間の部屋に六人の男女が、川の字になって倒れていた。 彼等はただの友達同士であり、ちょっとした猟奇的な部分で気が合う、よく居るフィクサード達である。 「暑い」 「暑いなぁ」 「マジでイライラしてきた」 「ほんまに、なんか……あ、そうだ、」 殺そう? 「それだ!!」 「イライラ解消にはそれがいいよね」 「行こうか、ぐあー行くのもめんどくさい」 「でも行かないと殺せないぜー」 「川とか近いところが涼しそうかな」 「あ、涼しい場所ならはかどりますわー」 「あれ、なんで殺しに行くんだっけ?」 「「「「「さあ」」」」」 「まあ、いっか」 ● 「っていう、行楽気分で血祭が始まるのよ。どうにかこうにかで止めてきて」 ブリーフィングルームには『クレイジーマリア』マリア・ベルーシュ(nBNE000608)が浮いていた。その小さな手には資料を持ち、集まったリベリスタ達へ言葉を放つ。 「場所はね、山奥のキャンプとかやるのに適しているっていう川のすぐ傍の、なんかそんなとこの近く」 アバウトである。 其処で一般人が複数、家族とバーベキューしていたり、夏を楽しんでいる最中。だが、其処にフィクサード達が来て一般人たちを殺しまくるという未来を『未来日記』牧野 杏理(nBNE000211)は視たのであった。 「まあ、彼等が一般人に接触する前にアークが彼等に接触できるから、一般人を護りながら戦えってワケでは無いのよ。彼等にはその川へ行く道の途中で接触できるのよ、つまり、其処を突破させないで撃退か討伐かなんとかして。それでいて、一般人に被害がいかないようにして頂戴ね」 やたら注文が多いが、集まったリベリスタ達ならできるのだろうとマリアは信頼している。付け加えがあるとすれば、敵は車に乗って川へ続く道を通過するのだ。つまり、その車を止める所から始めなければいけない。資料の中にはナンバープレートや、車種が書いてあり、地図には戦場として一番適している場所に赤い丸が書いてあった。 「敵はかなりチームワークが優れているわ。でも、だからこそ、歯車がひとつ無くなると動かなくなる事もあるわ。ま、頑張りなさいよ。あ、マリアは行かないよ、だって暑いもん」 そのままマリアはブリーフィングルームでお菓子を食べ始めたという。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:夕影 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年08月21日(水)23:55 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● ジジジ……と鳴く蝉の数なんて解らない。そんな大音量のBGMを全身に受けつつ、『影の継承者』斜堂・影継(BNE000955)は仲間が居る場所へと帰って来た。彼は一般人が来ないように、フィクサードが来る方向とは逆の方向の道を赤いコーンで封鎖していた訳だ。 「お疲れさんな」 「ああ……そろそろ時間か?」 「いや、もうちょっとだな」 『侠気の盾』祭 義弘(BNE000763)はそんな作業をしてきた彼を労いながら、腕に巻いてある時計を見た。チク、タクと針は流れる。その間にも真夏の暑さはどうにもならない。 「帰りは遊んで帰りてーなー」 手で仰いで風を求める『道化師』斎藤・和人(BNE004070)。近くでは川があって涼める場所があるというのに、此処には熱されたコンクリートしかない、早く終わらせたい、早く此処から何処か行きたい。 「まあまあ。あっ、そろそろじゃないですか?」 『銀の腕』一条 佐里(BNE004113)は涼しい顔をしながら、仲間に笑いかける。まるで暑さを知らないかのような、そんな顔だ。それもそうか、『こんな暑さ』彼女が大昔に体験した『暑さ』とは比べ物にならないのだろう。あの日は――いや、今はよそう。 「……面倒くせぇ話だ」 まったくだ。三影 久(BNE004524)は道路沿いの草むらに身体を押し込みながらぼやいた。暑くなると頭がおかしいのがよく出るのは知っているが、清々しい程のイカレ連中だ。 「なんにせよ、やる事はひとつです」 同じく頭のおかしい連中に苛立ちを覚えていた『シャドーストライカー』レイチェル・ガーネット(BNE002439)。愛らしい耳がぴくりと動けば、段々と大きくなってくるエンジンの音を拾っていた。 「もう来ますね、お願いします」 「はーい。もう、暑くて服がひっつく……」 『魔性の腐女子』セレア・アレイン(BNE003170)はレイチェルに促され、ひとつの詠唱を空間に刻み込む。 苛立ち、一言も喋らない『ピジョンブラッド』ロアン・シュヴァイヤー(BNE003963)はクレッセントと呼ばれた極細の糸を腕から伸ばしていく。何人、この糸に食われるかこれから楽しみでもあるが――。 「さ、あたしの詠唱はそこらへんの奴と同じにしないで頂戴ね」 高速で紡がれていくセレアの詠唱。それは、フィクサード達を抑え込む魔の檻であった。 ● わいわいがやがや、ぎゃーぎゃーと楽しげに彼等はやってきた。 こんな暑いのに、少しの物音でもイラつく程度には神経質になっているのに、そんな事してるから暑いんだ。そんな言葉を心の中に浮かべたかはさておき、レイチェルの先制。 草むらからガサリと立ち上がり、腕を上から下へ振り落せば、複数の気糸が空を舞い、弧を描いて車へと直撃した。弾けるタイヤ、変な方向へ曲がるボンネット。まあこんなものかと、レイチェルの口が笑う。 「なあああんだあああ!!?」 「おい、なんだ、安全運転しろよ!!」 「ちげーよ、今のどう見てもプロアデプトの技だろ!」 「――って、ことは」 「よう、ゴキゲンだな。外道共。悪いがここは通行止めだ。加えて言うなら、引き返すという選択も存在しない」 久が草むらから抜け出し、車の前へと出た。既に久の攻撃によって、パンクした数が増えるタイヤ。 もはや陣地が敷かれたこの状況で、彼等に逃げる術は無いのだ。半ば、親切に死ねと言っている久だが、彼等はそれに聞く耳は持たないらしい。 「いいよ、逃げろ逃げろ!!」 上下左右に揺れる車はそのまま走り去って行こうとする。久を通り過ぎ――「なんだただの馬鹿か」と久は言葉を吐いた。 そして――。 「ゴミはゴミ捨て場に捨てないといけないんだよね」 ロアンはAFからトラックを出現させた。それは彼等の行く手を完全に塞ぐようにして。 「イリューーージョンッ!!」 「なんかいきなり何処からともなくトラアアアック!!!?」 慌てたフィクサードは全力でブレーキを押し、トラックにぶつかる事は無かった。だがまあ、『そして』というのは重なるものであるように。 「めでたい奴等だな」 影継が得物を振り、漆黒を弾き飛ばした。すれば、車の扉という扉が異様な音を立てながら凹み。 「あ?! あかねーよ!!」 「ホラー!! げんっ!! ショウッ!!」 「うるさいわね、少しは静かにできないの?」 テンション高すぎる彼等を見ながら、此方が冷静になってしまった状況にセレアは大きく溜息しか出ず。それでもいいかと放った葬送の音色は車を蜂の巣にするばかりに穴を空けていく。 「6人乗りか、いい車だな。で、中でマトモに回避できるのかよ?」 影継があーあーという目線で、正方形の箱の中に閉じ込められているフィクサードたちを見ていれば。 「扉凹ませておいて、貴様!! 今出るからちょっと待ってろよ!!」 向うが怒るのも仕方なく。 影継の機転のおかげで確かにフィクサード達が車から出てくる速度はかなり減らせただろう。そのうち扉を足で蹴破って、やっとこさフィクサード達はぞろりと出て来た。 「おい!! 車のローンまだあんだぞ!!」 「それはすいません」 べこべこに凹んだ車を指差して、涙目になっている男にレイチェルは呟くように謝った。 「ごめんなさいで済んだら警察はいらねんだああ!」 勢いで放った敵の暗黒。咄嗟に出て来た義弘は自慢の身体でセレアの前につき、攻撃を代わりに受けた。大事な陣地の詠唱手。こんな小さな所で戦闘不能にさせて、檻を壊される訳にはいかないのだ。 暗黒の閃光が飛ぶ中、佐里は気糸を放つ。狙いは札を投げ、鬼を召喚している彼だ。その攻撃が直撃した瞬間、佐里の身体が衝撃と共に横のよろけた。見れば、拳をグーにした女が1人。 「暑くて皆イラついてんだ」 佐里とクリミナを分かつように飛んでいく精密な一撃。和人の目線の先、インマスが怒りの瞳でギロリと和人を睨んだ。 「無駄に運動させんじゃねーよ」 ハッ、と笑う和人の表情。 「んの、やろ……!!」 しかしそこに巻き付く、ロアンの糸。 「さあ、懺悔の時間だよ。言い残す事はあるかな?」 「まだ、死んでねえ!!」 言い残す事があったとしても、聞いてやらないけどと付け加えたロアン。その手に巻き付いた糸を引っ張れば、インマスの身体が宙に浮いてから、全身から血が溢れだしたのだ。まるで、絞りたての果実の様――。 ● デュラの大剣が義弘の脇腹を貫き、セレアの眼前で刃は止まった。 「しぶてぇなぁあ!!」 「それが取り柄ってもんでな」 刃を掴んだ義弘はそのまま大剣ごと押し、デュラの身体を遠退けた。しかし直後、空から氷柱の雨が降り注いだのだ。義弘は雨を剣で薙ぎ払いながら、後方に居たセレアは詠唱を奏でる。 「早く家に帰ってクーラーのある部屋で寝たいのよねぇ」 扇子を取り出し、それで風を仰ぎ。見開いた目――その瞬間、呪いを打ち消す光が戦場に溢れたのだった。 「早く殺し尽くしちゃいましょう」 そのために、往けと。セレアは扇子をかの敵の方向へと向けた。 「はいはいっと……」 影継はスケフィントンの娘から抜け出す事に成功し、そのままインマスへ攻撃を仕掛けた。それに気づいたインマスは即座に影人を召喚して庇わせようとしていたが、いまいち速度が足りない。他にも気づいたフィクサードが彼を庇おうと動こうとするが、リベリスタがその動きを封じていて庇う事はできない。 「こいつで終わりだ! 斜堂流・運命両断剣!」 札ごと、切り裂く影継の刃――辰砂灰燼。刃は完全にインマスの胴に刺さり、そのまま上へと刃を上げれば彼は綺麗に半分になった。そこから噴き出す血が影継の顔面を染めていく。 「う、うわあああああああああああ!?」 「こ、こここ殺したー!!?」 「お前等も殺す予定だっただろうが、何驚いてんだ?」 久は的確な言葉を送った。 ひとつの命が消えた時、驚いたフィクサード達が一斉にギョっとした顔をした。これが超過激派アークだというのだろうか。殺される、と心底解った彼等の攻撃の手つきは一変するのだ。死にたくない、殺されたくない――と。 「ちっきしょ!!」 ダクナイの刃が再び影継を小さな箱へと押し込めた。影継ならば閉じ込められると確信したダクナイはそのまま彼を封じ込めていく。その隣で刃を構成し、リベリスタへ突き刺すタクト――彼に佐里の気糸が放たれた。瞳を穿たれ、タクトは眼前を片手で抑えながら刃を佐里へと投げ返した。 「いつまで持つのかな、お安い友情」 タクトの刃と入れ替わるようにして、ロアンは両腕の糸をタクトの首に巻き付けたのだった。 「か……ぁ、ぁっ」 段々と絞められていくそれに、タクトの顔は青ざめていく。締まれば締まる程、極細の糸は首の皮を食い、肉を抉っていく。もし、彼等がロアンの仲間であるのなら気が合ったかもしれない。しかしそんな事はあり得なくて、敵には何処までも無情な彼の糸は拒絶するように締まっていく――。 今日で、永遠にサヨウナラ。 ぶつり、と嫌な音が響いた瞬間だった。タクトの首から上がごとりとコンクリートに落ちたのだった。その首を苛立つままに蹴り飛ばしたロアン。妹の前ではこうでは無いだろうが、今は神事服を纏った死神だ。 「ここがお前達の墓場だ。悪として生きた事をあの世で後悔すると良い」 久の言葉に残ったフィクサード達の顔面が目に見えて解る程に白くなっていく。神罰――空を裂いて飛んでいく久の手裏剣。それはフィクサード全員の胴やら腕やらに突き刺さっていく。 己達がやろうとしていた事を、やられている気分はどうかと久は顔を斜めに傾けて問う。それに対してフィクサードたちからは暴言しか返って来ない訳だが、更に久の攻撃は精密さを増した。――人と人と思わない奴は大嫌いだ、と。 ノリと勢いで人を殺せる彼等が憎くて、気持ち悪くて――羨ましくて。 レイチェル自身の手も血で汚れているのだろう、その事は一番自分が解っている。だからこそ、人を殺す他の誰かが気に食わない。『殺したがり』はレイチェル自身1人で十分なのだ。 「だから、もう逃げられませんよ。それは私が保障しましょう」 優しく笑ったレイチェルの表情に逆上したデュラとクリミナが得物を振り上げてレイチェルを狙っていく。見るからに効果は抜群といった所なのだろう。レイチェルの手前、盾を持った和人が位置を取った。 「こーいう事しちゃう単純脳なだけあって、効きが良いみたいねえ?」 「……ですね」 交わした言葉は一瞬。レイチェルと和人の目線があったのも一瞬。すぐに表情を険しいものへと変えた和人は盾を持つ腕に力を込めた。 別にレイチェルを護るために其処に盾を敷くわけでは無い。これはより効率的な掃討の方法だと和人は踏んだから――いつでも攻めの感情を忘れない和人なりの攻撃でもあるのだ。 攻撃は全て盾に吸収されている。刃を受けても受けても、その身体に傷はひとつも着かなかった。その程度で強靭的な和人の肉体。 そして、そのデュラとクリミナ後方――。 「お前等さ、戦う者なら後ろくらい取られないようにしろよな」 ――影継の声。 「まあ、やり過ぎたな……お前等は」 ――義弘の声。人様に迷惑をかけるというのは、人としてはよくある事だろう。しかしだ、人を殺すという事で迷惑をかけるというのはレベルが違うだろう。そこを弁えられなかったのは暑さのせいか、それともフィクサード達の元々の思考がおかしいのかは義弘には解らないが。 ハッとした。盾に攻撃する手を止めて、恐る恐るフィクサード達は後ろを向いたのだ。しかし、その頃には遅かった。レイチェルはそっと目を閉じ、「さようなら」と呟く。どうしようもない、どうにもできない。 「う、う、うあああああああああああああああああああ!!」 リベリスタの攻撃の山が彼等を襲ったのだった――。 ● やばいやばいやばいやばい。こんな所に居られるか――と。 残った1人、ダークナイトの男は全身から噴き出す汗の軌跡を残しながら来た道を引き返していた。しかし行く所まで行けば、何も見えない空間に存在するのは『壁』。 「鳥籠の中の鳥って、どうすれば外に出られるのかしらねぇ」 「う、ぎゃわ!!?」 右手を頬にあてたセレアが問いかけるように男に言ってみた。答えは返って来ないが……。 「模範解答があるとしたら、はい祭さん答えて!」 セレアから振られた突然に問に、義弘は間髪入れずに答えた。 「鳥籠を壊すとかか? 鍵とか……な」 ――陣地。 「正解! ま……」 ――やれれば、の話だけれどね。 討伐される、という事は解っているのか、男の顔からは不敵な笑みが漏れていた。もはや諦めか、それとも暑さに頭がおかしくなったかは知らずだが。 「たった1人でも、逃す訳にはいかないのです」 佐里は男へ一歩一歩近づいていく。その足音が近づく度に震える度が増す男に、容赦はできなくて。佐里の気糸が男の足を射抜いて、その骨と肉、アキレス腱を切り離して動けないように仕立て上げた。 さあ、覚悟の時間だ。 飛び出してきたセレアの葬送の鎖が男の四肢を貫いて、空中にぶら下げた。血がぽたりと滴るのを見ながら、ロアンはぼやく。 「こんなの、バーベキューの肉にもなりやしないじゃないか」 家畜として食われる牛や豚よりも役に立たない。この後死体を処理する自分らの身にも成って欲しいと男の身体に糸が巻き付いていく。死体処理が楽になるよう、肉体は細かく切断したほうがきっと良いのだ。 「あーらら、さらし首」 怖い怖いと首を振った和人。もう数十秒も無いうちに男の命は無いのだろう。煙草を取り出し、火を点けて。少しばかり血臭のする空気を肺の中に入れながら、煙を吐いた。 昇っていく、昇っていく、煙。 久は此処は墓場だと言っていたが、実際本当に墓場と成った。もはや正義を語る事はしないが、彼等の所業は許せるものではない。それでも小さな慈悲があった。 「最後に言い残す事が有るなら、聞くだけ聞いておいてやるが」 問う。その頃にはリベリスタの攻撃は始まっていたが――。久の背中から飛ぶ、攻撃の群に対し彼は。 ――くそったれ、もうちょっと遊びたかったなぁ。 と、呟いた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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