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花束を、君に

●守護者たちへ捧げられたもの
 ナイトメアダウンによって、たくさんのリベリスタ達が命を落とした。
 それでも、本来失われるのに比べれば……被害は信じられない程に少ないと聞いている。
 この三高平市も、ナイトメアダウンによって破壊された土地を再建するように建てられたのだそうだ。
 この街を見ていると……とてもそうは見えない。
 ……以前は、そうだった。
 最近は……少し、分かるようになってきた。
 そんな気がする。
 何も変わっていないようなのに、何かが失われていく。
 そんな感じが……分かるようになったのだ。
 ナイトメアダウンの凄さというものを、私はきっと分かりはしない。
 けれど……何かを守るために人知れず命を落としていく人たちがいるという事を……私は少しだけ理解できたように思う。

 私がアークに所属してからも、何人ものリベリスタさん達が……命を落とした。
 幾つかの任務で、強力なフィクサードやアザーバイドとの戦いで。
 一般人を含め、たくさんの犠牲者が出た。
 親しかった人や面識のあった人も、何人も故人となった。
 私はそれで……日常の中から、何かが失われていくという事を肌で感じたのだと思う。
 悲しかったし、寂しいとも感じた。
 同時に……私なんかが悲しんでも良いのだろうかとも考えた。
 私よりも、ずっと辛くて悲しむべき人が……それを堪え、乗り越えようとしている。
 それなのに、私なんかが悲しんでも良いのだろうか?
 そう思ったのだ。

 ……自分は情けないなと思う。
 みな、覚悟をしてリベリスタとしての任務に臨んでいるのに。
 ……私は怖いのだ。
 誰かが帰って来ないのが。誰かが居なくなるのが。

「……自分が傷付きたくないってだけか? 最悪だね、僕は」
 だんだん情けなくなって自虐で思考を終了させると、私は買った花束を手に三高平市の郊外に向かった。

 誰に聞いたのかは、ハッキリとは覚えていない。
 何人かの人たちに聞いたように思う。
 ナイトメアダウンで命を落としたリベリスタ達への感謝と、皆が守ったものを自分たちが守るという誓を篭めて。
 幾人かのリベリスタ達が、碑を建てた。
 そのリベリスタ達が祈る側から祈られる側へと変わったのち、知り合いたちが傷んでいたそれを立て直したのだそうだ。
 その時から碑は、命を落とした全てのアークのリベリスタ達に捧げられた存在にもなった。
 もちろん、その人達の心の中で……という事なのだろう。
 でも、同じように感じた者たちがいたからこそ、其処を訪れる者が今もいるのだと思う。
 同じように、命を落としたアークの全ての者たちへと別の場所に碑が建てられたのだと思う。

 ……私が……何となく分かる気がする、などと言うのは、おこがましいだろうか?
 そんな事を考えながら……私は花束を持って、そこに向かった。
 碑の前に立つと、思うのだ。
 もう会えない人と会えたような気になる。
 話しができない人と、話しているような気持ちになれる。
 振り返る事ができて、だから……また……前を向けるような、そんな気持ちになれる。

「……弱いだけなのかな」
 呟きながら、私は汗をハンカチで拭いた。
 空は晴れて、夏の太陽が三高平を照らしている。
「1999年、8月の……13日だったっけ?」
 ナイトメアダウンの起こったとされている日を想いながら。
 知人の姿を目に留めて挨拶を交わすと、私は公園に足を踏み入れた。



■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:メロス  
■難易度:VERY EASY ■ イベントシナリオ
■参加人数制限: なし ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年09月01日(日)23:28
●このシナリオはイベントシナリオになります。
イベントシナリオについては本部利用マニュアルなどを御参照下さい。

オープニングを読んで頂きありがとうございます。
メロスと申します。
かつて三高平のあった場所で、ナイトメアダウンと呼ばれる出来事が起こりました。
それから今日まで、幾人ものリベリスタ達が、命を落としました。
今回は、彼ら彼女らの事を想い、あるいはそれを通して自分自身や未来に想いを馳せてみませんか?
というお誘いとなります。


●守護者たちの碑
三高平郊外の自然公園のような場所の隅に建てられた石碑。
正式なものではなく、幾人かの有志が建てたとされていますが詳細は分かりません。
ナイトメアダウンの生き残りだとか、アークの設立に貢献したリベリスタだとか色々と言われていますが、真実は不明です。
ただ、その人物達は既に亡くなっているようです。
一画に石畳が敷き詰められ、一段高くなった場所に大きな碑が建てられています。
碑の前には石の台座が設えられており、花束や供え物等が供されています。


●備考
・多数の方が参加された場合、内容を絞ったプレイングをかける事をお勧めします。
・特定の誰かと絡みたい場合は『時村沙織 (nBNE000500)』といった風にIDと名前を全て表記するようにして下さい。
・グループでの参加の場合(絡みたい場合)は参加者全員【グループ名】というタグをプレイングに用意するようにして下さい。
(タグで括っている場合は個別のフルネームをIDつきで書く必要はありません)
・NPCに話しかける場合、ID等は必要ありません。

マルガレーテは花を供えしばし黙祷したのち、少し周囲を散策して退散します。
トニオ他、幾人かのアークのリベリスタたちが供え物をしたり故人を懐かしんだりしています。
御希望の方はそういった参加者と絡む描写をさせて頂きます。
特に何事もなければ、登場しません。


それでは、興味を持って頂けましたら。
宜しくお願いします。

参加NPC
マルガレーテ・マクスウェル (nBNE000216)
 
参加NPC
トニオ・ロッソ (nBNE000267)


■メイン参加者 16人■
インヤンマスター
朱鷺島・雷音(BNE000003)
覇界闘士
御厨・夏栖斗(BNE000004)
ホーリーメイガス
悠木 そあら(BNE000020)
デュランダル
結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)
ホーリーメイガス
アリステア・ショーゼット(BNE000313)
ホーリーメイガス
天城 櫻子(BNE000438)
クロスイージス
新田・快(BNE000439)
スターサジタリー
天城・櫻霞(BNE000469)
デュランダル
新城・拓真(BNE000644)
デュランダル
遠野 御龍(BNE000865)
マグメイガス
風宮 悠月(BNE001450)
覇界闘士
設楽 悠里(BNE001610)
マグメイガス
シュスタイナ・ショーゼット(BNE001683)
クリミナルスタア
曳馬野・涼子(BNE003471)
クリミナルスタア
遠野 結唯(BNE003604)
ナイトクリーク
浅葱 琥珀(BNE004276)


●あの日から続いた、今日という日
「櫻霞様は詳細を知っていますよね、知りたくて知ったわけでは無いのでしょうけれど……」
 石碑に花を供えたあと……少し離れた場所で。
 おそるおそる、という感じで……櫻子は櫻霞に声をかけた。
(私はリベリスタですけれど……ナイトメアダウンは資料でしか知らないから…)
「出来れば櫻子も知りたいのです……」
 そう言葉を紡げば……青年の表情が一瞬だけ、険しいものへと変わる。
「ナイトメアダウン、いい記憶じゃないな」
 正直なことを言えば思い出したくない……最悪の、記憶。
「どうしても聞きたいのか?」
 櫻霞の問いに、櫻子は黙って頷いてみせた。
 ……今でも覚えている。
 現実とは思えない、それでも信じるしかない……あの光景。
 自分が見たのはおそらく、ほんの一欠片だけだ。
 だが、それだけでも……
「あれこそをまさに地獄と言うべきだな」
 青年は、重くなる唇を無理に動かすように……語り始めた。
 誰も彼もが血塗れで倒れていた。
 いや、それでも倒れている者はまだ……ましだったのかも知れない。
 跡形もなく、という者もいた筈だ。
「目をやられたのもその時だった」
 両親も……帰ってこなかった。
「生き残ったと理解した後の絶望感は、出来れば二度と経験したくない」
 再起する為に復讐に縋った……それが、あの日からの自分。
 結果は見ての通りだ。
 碌でもない人生……だが。
「お前に会えたことだけは、幸運だったのかもしれないな?」
 そう言って無理やりに苦笑いの表情を浮かべ……櫻子の頭を撫でる。
 黙って聞いていた櫻子は、自分を撫でるその手に……両の手を、伸ばした。
「……櫻霞様がナイトメアダウンから生き残って……」
 ぎゅっと押さえて俯きながら……言葉を紡ぐ。
「今、一緒に生きてくれている事が…櫻子にとっての幸運です……」
 返事は無い。
 それ以上は言葉が、思い浮かばない。
 それでも……何かを伝えたくて。
 櫻子は俯いたまま……青年の手を。
 強く……つよく、握り締めた。


●続き繋がる路、進みゆく誓
 今でも……祖父が屋敷を出て行く時の後ろ姿は覚えている。
 その時、自分に言い残した言葉も。
 全てを知って居れば引き止められた……そう、思っていた事もあった。
 無理だっただろうと、今では思う。
(俺が戦う理由が有る様に、祖父にも戦う理由が有ったのだ)
 今となっては知る由も無いが……大切な何かを守る為に戦ったのだろう、と思う。
「……そういえば、今迄礼の一つも言っていませんでした」
 石碑の前に跪き、花を添えて。
 拓真は語り掛けた。
 姿は見えず、声も聞こえはしない。
 それでも……向かい合えているように思えるのだ。
 だから、想いを言葉にして……紡ぐ。
「俺達の未来を守ってくれて、有難う御座いました」
(まだ、貴方達の様にとはいかないけれど)
 鍛えれば鍛えるほど、磨けば磨くほど……実感する。
 目指す背は、もうその場に留まり進みはしないのに……何と遠いことか……
 それでも。
(何れその背中を追い抜いて見せましょう、それが俺の恩返しです)
「それじゃあ、また来ます」
 そう言って立ち上がると、拓真は静かに礼を取る。

「過ぎてしまえば、早いと感じるものですね」
 あれから……今年でもう14年になる。
 見かけたマルガレーテに軽く会釈し、碑へと献花しながら。
 悠月は呟いた。
 三高平に来てから3年目……つまりは『あの日』を三高平で迎えたのも3度目になる。
「……ようやく此処に立てると、そう思えました」
 碑に向かって語り掛けるように彼女は続ける。
 昨年……異世界ラ・ル・カーナにて見た――R-TYPE
 ずっと見据えてきた『敵』を直に見て。
(3年も近くに居て唯の言い訳かもしれないけれど)
「ようやく――です」
 先代クェーサー夫妻。
 イヴさんの御母様。
 拓真さんの御祖父様。
 ……御父様と御母様、それに皆……
(あの日、往って帰る事の無かった全ての先達よ)
「私達も此処まで来ました」
 皆に向かって、報告する。
(何時かまた『その時』が来たならば……今度は私達が)
 守り抜いてくれた人々の為に。
 命を費やしてくれた皆の為に。
「――必ず」
 悠月は誓うように、言葉を紡いだ。


●約束
「ちゃんとお話してなくてゴメンナサイです」
 そあらは雷音に……どこかいつもと違う微笑みを浮かべながら、そう言った。
 ナイトメアダウン。
 14年前の悲劇。
(ボクは直接その被害を被ったわけではないが……)
 そうではない人は、たくさんいる。
 雷音はそれを実感した。
 今、三高平のある場所にかつてあったものは……ほとんど総て、失われたのだそうだ。
 生き物も、物も、ほぼ全て。
 この三高平市を見て、それを想像するのは難しいかもしれない。
 だが逆に言えば、多くの人々が時を費やし想いを注ぎ込んだからこそ……今、こうして三高平が存在しているのだ。
「三高平にいる住人さんも沢山被害にあっているようなのです」
 住民たちの中には、かつてのこの土地で何かを失った者は多い。
「あたしのパパもママもそのせいでいなくなったですけれど、同じ境遇の人は一杯いるみたいですから」
 不幸なお話合戦になって空気が悲しくなるのが苦手なのですよ。
 そう言って、そあらは微笑んでみせた。
 いつも明るくて何も言わない親友の……いつもと違う、何かが滲んだ微笑みを見て。
 彼女もまた、被害者なのだと実感する。

 だから。
 親友の手を、ぎゅっと握って。
 ヤミィとマルガレーテと一緒に作った花束を手に。
「ボクは、いなくならないから」
 雷音は、誓いと希望の入り混じった言葉をおくる。
「ありがとう、らいよんちゃん」
 そあらは笑顔でお礼を言うと……雷音と一緒に碑に花を供えた。
 アークが設立され、活動を開始してから……僅かな、短い期間で、崩界は進んでいる。

 だから。
「ボクらは悲劇をもう起こしたくないから、危険な場所にも向かう」
 マルガレーテとヤミィ、ふたりに向かって雷音は言葉を紡いだ。
 不安げな、心配そうな顔に、申し訳なさが募る。

 だから。
「君達のおかえりなさいが、ボクらの勇気になると覚えていてほしい」
 素直な気持ちも形にして、ふたりにおくる。
「『おかえり』って言ってくれる、言える場所があるのはとても嬉しいのです」
 少女の言葉に、そあらも頷いた。
(悲しい思いをする人は少ない方がいいのです)
「あたしも一緒にがんばるです」
 そう言って、そあらも二人に微笑んでみせる。
「……分かりました」
「約束します。だから……」
 不安げで、それでも笑顔を浮かべて見せるふたりに。
 ふたりも強く、頷いてみせた。


●生命の意味
「こういう所があるんだねぇ」
 大きな花束を供えながら、御龍は先人たちへと想いを馳せた。
「あたしも腐ってもリベリスタの一員だからねぇ。まぁ先人達には敬意を評さないとねぇ」
 それにしてもひどい事件だったよねぇ?
 マルガレーテにそう語りながら、彼女は過去を振り返った。
「おかげであたしの人生も変わっちゃったしぃ……まぁ過去の話はよそう。うん」
 あんまりいい思い出がないからと口にすると、御龍はそのまま切り出した話題を終えるように口を閉ざす。
(昔はこういう人たちのために鎮魂の巫女舞とか踊ってたんだけどねぇ)
「さてこの先はどうなることやらぁ」
 そう言って彼女は、過去から未来へと話題を転じた。
(くたばりたいけど生憎そう簡単には死ねない身分だからねぇ)
「死んだら贖罪ができなくなるからさぁ」
 何も言わず自分の言葉に耳を傾ける少女に、向かって。
「せいぜいあがいてあがいて暴れまくる、それがあたしの生き方だなぁ」
 御龍はそう言って、冗談めかすように微笑んでみせる。

「お前、なぜアークへ来た? 誰かを守る為か?」
 結唯はマルガレーテに問い掛けた。
 自分は神秘を得た事により戦う力を得た。
 それを使って戦う事を決めたのだ。
「フォーチュナのお前も探査系超能力を使う事にしたのだろう?」
 そう問えば、少女は真剣な顔で肯定を返した。
 直接敵と戦う事だけが戦いではない。
 彼女も覚悟を決め、自分たちも……皆、覚悟を決めたのだ。
「誰かがいなくなるのを慣れろとは言わん。だが決して、私達がいなくなる事を怖いと思ってくれるな」
 結唯はそう断言した。
「お前も覚悟を決めたのだろう? 私達はお前の、フォーチュナ達の覚悟に応えたのだ」
 つまりは自分たちが望んだ道なのだ。
「その私達の想いに背く様な真似はしてくれるな。戦う理由はなんであれ、な」
 そう言って、サングラスの奥に瞳を隠したまま。
 結唯は自分を見上げるフォーチュナの少女に頷いてみせた。


●一緒に
「……いつアークに来たの? 気がついたら普通にお仕事してて、わたしびっくりしたんだよ?」
「ん? アークに来たのは、あんたがアークに放り込まれてすぐよ?」
「お父さんたちは?」
「お父さん? さぁ? 翼生えたら私も捨てられたもの」
「……そっか」
 そこで、ふたりの会話は一旦途切れた。
 供えた花に少しの間、目を向けて……
「わたしね、いつか戦いの中で死んじゃうんだろうなってずっと思ってたの」
 アリステアが口を開く。
「あー……いつかは死ぬんじゃない? あんたも私も」
 姉の言葉に、シュスタイナをそう返した。
 戦ってる最中なのか、別の所かなんてわからないけれど。
 だれだって、いつかは死ぬのだ。
 けれど……
「それでもいいかな? って思ってた」
 アリステアは、そう続けた。
 沢山の存在を今まで殺めてきたわけだから、いつかその順番はわたしにも回って来る。
(そう思ってたのに……)
「でもま、あんた死んだら悲しむ人いるでしょ? 簡単にそういう事いうんじゃないわよ」
 彼女の想いを知っているのか、知らず……それでも何かを感じたのか。
 シュスタイナが口にする。
「シュスカ置いて死ねないじゃない。もー」
 何か複雑で、でも決して不愉快ではない……不思議な想いがこみあげてくるのを感じながら、少女は不器用に微笑んでみせた。
「何かあったら、絶対におねーちゃんが守るからね?」
「あ、アリステアに守られるほど私、弱くないわよ?」
 どこか慌てたような感情的な態度で、シュスタイナは口早に説明する。
「……おねーちゃんだもん、分かるよ」
「こんな時だけ、おねーちゃんぶるの、やめてくれる……?」
 優しいものを自分に向けてくれるのを感じつつ、自分の口から出るのは否定の言葉だ。
「血とかそんなのももう、見慣れちゃったし平気……平気だってば! そんな、気にしないでよ」
「……たまに泣きそうな顔してるのも、知ってる」
 驚いたような表情を浮かべる妹に、アリステアは語り掛けた。
「……分かるよ」
 それが同じものとは断言できない。でも……
「戦う事に慣れてきた自分が怖いとか、そういう気持ち」
 自分の感じたものと同じ気持ちなのかも知れない。そんな気がするのだ。
「……ばか」
 しぼり出すようにそれだけ口にしたシュスタナの背を、そっと撫でるようにぽんと叩いて。
「さ、お祈りしよっか」
 そう言った姉に、何かを隠すように、堪えるように俯いたまま……妹は頷いた。
「……そうね、祈りましょうか」


●リベリスタの逕
「世界を守ってくれて有難う」
 これからは俺も俺のできることをする。
 持参した花束を供えて祈ると、琥珀は顔を上げ……近くにいたマルガレーテに話しかけた。
 何かを守る為に戦って、命を落とした人たちがいる。
 そして、こうやって亡くなった人たちを思い尊ぶことで……その人達は自分達の心の中に生き続ける。
 戦いでも日常でも。
 日々人々が必死で生きて、歴史を作り、次の世代へ繋げていく
「この過去から積み上げられてきた世界自体が、貴いものなんだなって思うよ」
 そう言ってから。
「……だからさ、私なんか、なんて言うなよ」
 琥珀はマルガレーテにそう語りかけた。
「悲しいのも怖いのも当たり前さ」
 沢山思いを抱えて、それをバネにして。
「これ以上の不幸を跳ね返せるよう、これから頑張っていけばいいさ」
 青年がそう言えば、フォーチュナの少女は真面目な顔で頷きを返した。
「君の事、頼りにしてる! ヨロシクなっ!」
 あまり深刻になり過ぎないようにと、琥珀は明るく笑顔で少女を元気づける。

「……うむ……ナイトメアダウンで……えーっと……1999年だから、6歳か? 俺」
(それで死んでた可能性も十分にあるんだよなあ)
 花と落雁をお供えして、手を合わせた後……竜一は考え込んだ。
(かつての英霊たちに、俺の生き方は報いていられているんだろうか?)
「まあどうあろうとも、俺は俺として生きるしかなく、俺として死ぬしかないけどね」
 呟いて気持ちを切り替えて。

(というわけで! マルたんに絡みに行こう!)
 さすがにしんみりしているところを邪魔しちゃ悪いので、散策中を狙うことにする。
「きっとさみしがっていることだろう!」
(大丈夫さ、俺がいる! もふもふ抱きしめてあげるよ!)
「甘えてくれていいんだよ! 弱さも強さも受け止めるよ!」
 いつもと変わらぬ調子で呟きながら、青年はフォーチュナの少女を探し始める。

 誰かが定期的に掃除しているのか、碑の周りはあまり汚れてはいなかった。
 軽く周囲を掃くと、涼子は持ってきた花束を供えて……祈る。
(……そりゃ、ガラでもないけど)
「ごろつきだって頭は下げる。手も合わせるさ」
 ここに立ったって、何か誓えるような立派な人間じゃないけれど……
(でも、生きるつもりではいる)
 だれでもない、わたしとして。
 あらゆる気に食わないものとたたかって。
 生きている。
 そして、いつか……
「だから、そのうち会おう。センパイ」
(できるだけ遠い将来、わたしが力尽きた後にでも)
 そう挨拶を済ませると、少女は先輩たちへと背を向けた。


●想い
 悲しい気持ちを、寂しい気持ちを……大丈夫だ、平気だって嘘で塗り固めても。
「本当のきもちは、悲鳴をあげてるんだ」

「君はフォーチュナだ。僕らより悲惨な『未来』を見てるんだ」
 碑に献花したあと、夏栖斗はマルガレーテと話していた。
「君が悲しむことは何もおかしくないよ? 悲しいって気持ちを麻痺させちゃダメだよ」
 真剣な表情で自分の話を聞く少女に、素直な気持ちを真っ直ぐに伝える。
「君達フォーチュナがどれだけ傷ついてるかなんて僕にはわからないかもだけど、誰かが命を失くすのは僕だってこわいよ」
 リベリスタだってフォーチュナだって人間だ。
「同じだよ。だからさ?」
 自分なんかっていわないでよ。
 そう言えば、少女は申し訳なさそうにうつむきつつ、しっかりとした声で返事をした。
「僕はちゃんと、いつも帰ってくるよ」
 表情を変えながら夏栖斗は話題を変え、だから安心してよと笑顔を見せる。
「お帰りって迎えてくれたら嬉しいよ」
「はい、先輩。約束します。だから、先輩も……約束です」
 真剣な表情で両拳をつくり頷く後輩にちょっと苦笑しつつ、青年は再び頷いてみせる。


「今回も、大勢逝っちまった……」
 マルガレーテと共に花を供え、祈りを捧げてから。
 快は言葉を絞りだした。

 決死隊。
 幾人もの勇者がそれに名乗りを上げて。
 そして、命を捨てて。
(そう、捨てて、だ)
 賭けて、ではない。
 死ぬと判って盾となり、囮となった。
 大学の教室で挨拶を交わした顔が、商店街ですれ違う顔が、本部で業務連絡を交わし合う顔が……
 一人、また一人と……居なくなって往く。
「特攻と変わらないじゃないか、こんなの」
 ……言っても仕方ない事だ。そう思っても……言葉はこぼれ、想いが湧きあがる。
 もっと俺達が強ければ。
 もっと俺達に力があれば。
「『犠牲前提の作戦』なんて無くたって、奴らに勝つことができるのに」

 こんな犠牲を出さずに勝てるようになるには。
(もっと多くの人を守れるようになるには?)
「……どうしたらいいんだろうな」
 どうしよもない想いを吐きだすように零しながら……快は呟いた。

 青年の問いに答える者は無い。
 発された呟きは、セミたちの鳴き声にかき消されるようにして。
 晴れ渡った空に、吸い込まれた。


「なんだかお話するのは久しぶりな感じがするね」
「そうですね。確か……前にお会いしたのは……」
 悠里の言葉にマルガレーテが考え込む。
 碑に祈った後で園を散策している最中にマルガレーテの姿を見かけ、青年は少女に声をかけた。
 近くのベンチに腰を下ろして……少しだけ昔の事を振り返る。
(マルガレーテちゃんとは……カイくんが経営するコーヒーショップで顔を合わせる事が多かったから)
 もう会えなくなった、いなくなった青年の事を束の間……思い浮かべる。
 彼だけではない。
 幾人もの知己が、旅立ったのだ。
 皆、あの碑で祈りを捧げられる者たちのように……・もう逢えない場所へと往ってしまった。
「前に言ってたよね。アークのみんなが好きって」
「……はい」
「好きな人が傷ついたり、居なくなったりするのが悲しいのは普通の事だよ」
 それを否定する必要なんてない。
 穏やかな口調で、青年は少女に語りかけた。
「みんなも、きっとマルガレーテちゃんのそういう優しいところは好きだから」
「……ありがとう、ございます……」
 少しうつむき気味になって礼を口にする少女から、目を逸らす。
きっと見られたくはないと思うから……自分も、同じだから。
「みんな信念と覚悟を持って生きた……でも」

 そこで悠里も……言葉を詰まらせた。
「みんなで一緒に生きて行きたかった……」
 語尾が震えてしまいそうになるのを必死に堪えて、涙がこぼれないように空を見上げながら。
 青空を……滲ませながら。
 青年は呟いた。
「強くなりたいなぁ……」



■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
御参加ありがとうございました。
みなさまの其々の想い、少しでも形に出来たのであれば嬉しく思います。
それが、みなさまがリベリスタとして歩む力になれば……何よりかと。

それでは、また。
どこかで御縁ありましたら。