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君にまつわる言葉について

●こいのおはなし
 陽が落ちて、昇って。落ちて、昇って。
 繰り返して、繰り返す。単調な一日に『色』なんてなかった。
 時計の針が時を刻む中、心に刻まれ続ける傷は何だろう?
 この『色』の無い空間に、色を差し入れてくれたのは誰だろう。

 世界は残酷で、私の存在を是認してくれはしないらしい。
 愛してしまったのが悪いと言うのですか。
 ソレさえ罪だと言うならば、いっそこの身を燃やしてしまえばいい。
 全て燃やして燃え滓になればいい。
 灰になって貴方に会いに行ければ良いのに。
「―――――」
 上手く紡げなくなった言葉を発する。
 5文字の貴方へ送る、私の――

●『恋色エストント』月鍵・世恋(nBNE000234)は恋愛小説を嗜む
「全てが幸せで満ち溢れれば良い。そう思うわ。けれど、世界は残酷なのよ」
 何処か寂しげに瞳を細めた世恋は手にしていた小説を机に置いて、リベリスタを見回した。
 普段ならば騒がしく両手を振りまわし騒ぎ立てている世恋も今は静かに俯いている。
「エリューション。思念体であったソレにちょっとした要素(スパイス)が加わった時、不幸が起きました。
『彼女』は人の恋心が蓄積した唯の思念であったはず。けれど、そのフェーズが進行して自我を持ったわ。
 ――倒さなくちゃならない、存在なのに、恋をした」
 淡々と、物語を騙る様に告げる世恋の桃色の瞳は伏せられる。
 小さな溜め息の後、吐き出した言葉は「それで」とあくまで依頼内容を続ける言葉だ。
「その恋に落ちた相手は普通とはちょっと違う一般人。要するに神秘に興味を持った青年だったのね。
 彼は彼女を『識』っている。彼女を認識して居るけど、彼女の想いには答えられない」
 オカルトの一種だと思っているから、応える事はないでしょうけど、と首を振りながら溜め息を零した。
「私がお願いしたいのは、そんな『彼女』を倒す事。『彼』を護ること。簡単でしょ? ただそれだけ。
 彼女は『あってはならない』能力をもっている。それで最後に一目見たい『彼』を傷つけてしまう。いいえ、もっと酷い事になってしまう――そうなっては、ただ、恋しただけの彼女はどれ程苦しむのでしょうね。
 どちらも救えると思う。まだ、間に合うわ。『彼女』から『彼』を救って?」
 それ以上の事は皆に任せるわ、とそう告げる。
 
 きっと、見ているだけで良かった。伝えられなくても良いと知っていた。
 けれど、その身に宿した力を知らないから――『傷つけて』しまう事も知らなくて。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:椿しいな  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年08月16日(金)23:38
STを始めた頃はこのような依頼が多かった気がします。
こんにちは、椿です。心情しませんか。

●成功条件
・『彼女』及び敵性エリューション撃破
・『彼』の保護

●場所情報
人通りの少ない住宅街。時刻は夕方。ある程度一般人への考慮を必要とします。

●エリューション・フォース『彼女』
フェーズ2。増殖性革醒現象を備えており、周囲の対象を覚醒させてしまう。
思念でありながら自我を持ち、恋に落ちてしまっています。外見は黒髪の少女。対話は可能。
名前は無い為、世恋は識別名を付けず、『彼女』と呼んでいます。彼女の思考回路はOP参照。最後に思い人を見に行く為に現場を訪れています。
>攻撃方法
アル・シャンパーニュ、呪刻剣、暗黒、神気閃光に似たスキルを使用します。

●エリューション・フォース『言ノ葉蝶』×10
『彼女』が生み出したエリューションです。新緑の羽を持つ蝶々であり、基本的には切り裂くなどの攻撃を行います。
フェーズ1。その個体が長く(約2-3T)『彼女』と接触することでフェーズが進行します。

●一般人『彼』
一般人の青年。オカルト好きであり『彼女』を幾度か目にした事があります。
ただし、彼女の事を幽霊と認識して居る為に積極手に話しかけたりする事はありません。
現場急行から10Tが経過すると彼女の『増殖性革醒現象』の影響を受けノーフェイス化してしまいます。

どうぞ、宜しくお願いします。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
インヤンマスター
朱鷺島・雷音(BNE000003)
クロスイージス
アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)
ナイトクリーク
斬風 糾華(BNE000390)
プロアデプト
氷雨・那雪(BNE000463)
スターサジタリー
結城・ハマリエル・虎美(BNE002216)
ホーリーメイガス
エルヴィン・ガーネット(BNE002792)
スターサジタリー
蛇目 愛美(BNE003231)
マグメイガス
フィリス・エウレア・ドラクリア(BNE004456)


「―――――」
 その言葉はまるで呪詛の様だと、そう思う。
 重たく押し潰されそうになる胸からやっとのことで吐き出した言葉は伝えてはいけない物だと『百の獣』朱鷺島・雷音(BNE000003)は知っていた。
 たった5文字。五つの文字すら伝えられない、伝えさせてはいけない。
 世界は何と残酷だったのだろうか。その『恋心』を伝えられないだなんて。
「私ね、失恋って怖いと思うわ。でも、何より一番怖い事は……」
 迷う様に指先で蝶々を揺らして、『告死の蝶』斬風 糾華(BNE000390)はぼんやりと語る。
 少女たちの他愛もない会話では終わらない。人通りの少ない住宅街。『祈りに応じるもの』アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)は直ぐに強結界を張り巡らし、小さく息を吐く。
 恋愛事というのは良く判らない。騎士としてその道を真っ直ぐに歩むアラストールには理解し難い『概念』であるのかもしれない。多くの場合は――ロミオとジュリエットの様に――立場が違う者同士のそれ悲劇的に終るのが常だとアラストールは知っていた。
 偉ぶれる程にこの世の理を知る訳ではない。唯、此度もまた、変わる事は、ないのだと知っていた。
「願わくば、『彼』と『彼女』にとって救いの在る結末であればいいと、思います」
 その言葉にぎゅ、とスカートを握りしめた『狂気的な妹』結城・ハマリエル・虎美(BNE002216)は手段は猟奇的であれど恋する乙女には違いない。恋心が集合した思念。そのエリューション。
「……私のも少しくらいは混じってるのかな? だったら、傷つけちゃうってのもなんとなく頷けるね」
 大好きな兄の名前を口にして、Alcatrazzを握りしめる指先に力が籠る。自分の愛は何時だって猟奇的だった。
(……止めるよ。自分勝手でも、なんでも、ね)
 耳を澄ませ、彼女はゆっくりと歩く少年の足音を聞く。ふわりと揺れ動く思念に足音は無い、ただ、何処かざわつく風を感じた虎美がゆっくりと視線を送る。
 視線を受けて頷いた『ディフェンシブハーフ』エルヴィン・ガーネット(BNE002792)が仲間達から背を向ける。曲がり角、丁度そこに顔を出した『彼』を見た時、青年の赤い瞳が細められた。
 オカルトが好きだと言う『彼』は『彼女』の事を知っていた。悲劇的な恋物語。もしも、彼へと彼女が思いを伝えれるなら――
『彼』と出逢って、見詰めて、その想いを言葉にして。
 ……そうさせてあげれたなら良かったんだけど、な。

 囁く言葉に『微睡みの眠り姫』氷雨・那雪(BNE000463)が小さく息を吐く。自身の頭の中で組み立てて、眼鏡を掛けたまま夢見る乙女は小さくため息を漏らす。
「……あら、まぁ。恋心が自我を持つなんて、ね」
 ソレが幸せだと云えないと那雪は小さく息を吐く。彼女にとっては理不尽なこの状況。
 最後に恋しい人に一目会いたい。この体を燃やして灰になって、燃え滓になって風に乗って貴方へ逢いにいきたい。
「そう思える存在が居るのは、それは、とても羨ましい事なのだと思う、わ……」
「妬ましい。けど、何で自我なんて得たのかしら? なんで恋なんてしたのかしら?
 気付けば苦しいだけなのに、焦がれ辛いだけなのに」
 呟く言葉。魔弓を握りしめ、黒い羽を揺らす『以心断心嫉妬心』蛇目 愛美(BNE003231)のほっそりとした指先が己の眼帯を握りしめる。彼女の視界がコマ送りに変わっていく。
 視界に入るまでゼロコンマ。ぼんやりとした黒髪の少女。薄らと透けて見えるそれが彼女が人ならざる物だと認識させた。
『紅蓮姫』フィリス・エウレア・ドラクリア(BNE004456)が周囲の魔力をその体に受け入れながらぎゅ、と盾を握りしめる。
「……叶わない恋、か。恋が必ず叶わないものとはいえ、女の身として物思う所があるな」
 彼女の赤く色づく唇が疑問を口にする。きっと、自分ではそう思えない、言葉を。

 最後に一目、か。邂逅するのは、僅か数瞬。その数瞬で君は満足できるのだろうか?


『彼』が『彼女』を目にしたのは偶然だったのだろう。飛び交う言ノ葉蝶から『彼』を庇うようにエルヴィンは立ち、マイナスイオンを発しながら汗を拭う。
「何とか間に合ったみたいだな。状況説明するから聞いてくれるか?」
「う、うん」
 最後の教えを構えたままのエルヴィンに目を丸くした『彼』は何処かオカルト染みた光景を目にし首を傾げる。
「ま、手短に説明すると、あの女の子のお陰で君に危険が迫っていると分かった、んで俺達が助けに来た訳だ」
「幽霊が? お兄さんたち霊媒師かなんか?」
 凄いと瞳を輝かせる『彼』がオカルト好きで良かったとほっと胸を撫で下ろす。幽霊が語りかけ、彼等が自分を守りにきた。それが視界に入る少女だったのだろうかと少年は瞳を輝かせる。
「ほら、彼女が何であろうと、命の恩人に対して言うべき言葉があるんじゃねぇか?」
 それは真実ではない、でも嘘でもない。一寸した戯言。
『彼』から『彼女』に向ける、ちょっとした一言。
「ありがと」
 よし、と少年の頭に手を置いて、エルヴィンの赤い瞳が『彼』と合わされる。魔的な光りを灯す赤が克ち合って、少年がぼんやりし、一つ瞬いた。
「彼女も今日の出来事も、結局のところ幻みたいなもんだ。……忘れちまう事をオススメするぜ」
 さ、行こう、と背中を押した。帰ろう、家でも友達の所でも良い、日常に帰ろう。
 ゆっくりと歩く、去りゆく背中に「忘れちまえ」と呟いて、エルヴィンは彼を安全圏まで送りゆく。
 ぐ、と拳が強く、握りしめられた。

 増殖革醒化現象をその身に持つ『彼女』と『彼』を接触させてはいけないと最初からリベリスタは知っていた。虎美が二丁の銃を握りしめ、飛び交う蝶を撃ち落とす。魔弾の射手とまでも呼ばれる彼女の射撃の腕前を見せつけるかのように破壊的な光柱が真っ直ぐに伸びあがった。
「いきなり手荒な真似してごめんね、でも、その蝶は彼にとって危害にしかならないからさ」
 彼女と言葉をかわそうと思っていた。彼女が見えた途端に有無も言わさず攻撃動作に転じる。彼女から見れば虎美の印象は最悪か、と自分で小さく溜め息をつくが、仲間達も其れに続いた。
「來來氷雨!」
 ハイ・グリモアールをなぞる指先。雷音が戦い続けた軌跡の本。その軌跡を辿る様に指先は頁を撫でた。
 降り注ぐ涙雨。背後でエルヴィンが護る『彼』への射線を防ぎながら、降らすそれ。翡翠の瞳は真っ直ぐに彼女を見据えて、切なげに歪められる。

 世界は何時だって残酷で、大切なもの程遠ざけてしまうけど。
 ほんの少し、運命が優しければ、世界は優しくなれたのだろうか?
 ほんの少し、世界が優しければ、彼と彼女に優しくなれたのだろうか?

「ボクは恋心を判らない。誰かに恋した事が無い。けれど、きっと素敵なことなのだろうと思う」
 その言葉に頷いて、糾華の蝶々が舞い踊る。穿つ様に飛び交うソレの中、糾華の銀の髪が揺れ動く。前線で彼女の前に立った彼女の赤い瞳は哀しげに細められた。
「『貴女』を『彼』の所には行かせない」
 そう、一番怖いのは恋心より生まれた恋する心。数多の想いから生まれた『彼女』は恋を知っていた。それなのにその想いを伝える事はできない。伝えさせてはいけない。
 失恋が怖い事を知っていた。けれど、伝える事が出来て、失った物であれど、そこにあったことは確かなのに。
「御免なさいね。私は貴女の想いをただ消えていく物にしようとしている。……怨んでくれても良いわ」
 囁く言葉に彼女が糾華へとその手を振るう。煌めく光りを発しながら振るわれる指先を受けとめながら糾華は白い頬に入る一筋を受け流す。
「……その想いはただ、其処に在るだけなら美しいと言うのに。残念だな」
 そう言いながら、普段の眠り娘の表情を忘れた那雪は紫の瞳に理知的な光りを灯す。髪を飾るwistariaが緩く揺れ動き、刹華氷月は蝶々の翅を突き刺した。
 自分にも居るのか。会いたいと思える人が。居れば良い、羨ましい。素敵な、恋だと思う。
 普段と打って変わった戦闘モードの那雪の唇がきゅ、と引き結ばれる。彼女の背後から真っ直ぐに飛び交う星。
「恋する乙女だなんて……妬ましい。そんな彼女が素敵に見えるだなんて……本当に妬ましい」
 嫉妬に生きる愛美が口にし続ける。失った左目の赤い義眼がぎらりと光る。嫉妬深い少女は目の前の彼女に向けての呪詛を履き続けた。
 言ノ葉蝶を彼女ごと打ち抜いて、ぶつぶつと紡ぎ続ける言葉のあて先は行き場のない己の嫉妬心。そこに薄らと浮かんだのは彼女への懺悔。
「……そんな彼女の秘めていた思いを、伝えさせることすらできないなんて……酷い事だと私は思うわ」
 謝る事も無く、妬ましいと口にする。彼女の前をすり抜けて、蝶々を切り裂く切っ先を止めることなくアラストールは地面を蹴った。
 纏う白銀の鎧がアラストールを勇気づける。光るブロードソード。蝶を受け止める祈りの鞘に行く当てない想いをこめて。
「馬に蹴られる行いとは思いますが、それで彼を殺す羽目に為るのは御免蒙ります」
『彼が?』
 名前も知らない思い人。自分が殺す事になると少女の指先が震える。彼女の手を受け止めて、糾華が一歩下がった所へ、アラストールが彼女の肩を切り裂いた。黒髪がはらりと散って、涙にぬれる彼女がぎ、と睨みつける。
 紡がれる詠唱。鮮やかなドレスの裾がひらりと揺れて、舞う蝶を撃ち落とす様な雷光は何処かフィリスの迷いを想わせた。
「破壊の雷よ、その怒りを以て我が目の前に立ち塞がりし敵を討ち払え!」
 どうしてだろう、その力が意志に関係なく誰かを傷つけてしまうのは。
 どうしてだろう、それが想い人だなんて。
 それに、どうして、耐えられようか。そんな事をする位なら、叶わなくて良いと思ってしまうのに。
「あぁ……」
 唇を、噛み締める。グリモアールをなぞる指先に力が込められた。

 ――君の恋が、叶えば良かったのに。何て、馬鹿な事を。


「――!」
 小さく、呼んだ。心の中で、君には名前が無かったから。
 雷音がエルヴィンに代わり癒し続けていた手を止める。戦線に復帰したエルヴィンの回復を得て、少女の瞳は真っ直ぐに『彼女』を見詰めていた。
 飛び交う蝶々の数は少なくなっていく。言ノ葉蝶は彼女のことば。ひとつずつ打ち消される言葉。
 伝えてあげたい、でもそうすることはきっと運命より残酷な事なのだと、そう思う。
「君の恋心は、君の言ノ葉は届く事は無いけれど、少しでも理解出来たら君は楽になれるのだろうか?」
『何時か、貴女にも判る筈』
 澱になっていく。落ちていく。心の中に、ストン、と。落ちる彼女の想い。尊いソレ。
「愛する事も生まれた事も悪ではないと思います。ただ、貴女の恋は結びついて芽吹く事無い叶わぬ願いだ」
 アラストールの言葉に、彼女は寂しげに目を細める。落ちる肩は落胆し、恋心を求める様に手を伸ばす。
 その手を取った糾華は掌をそっと撫でた。彼女を切り刻む痛み。きっと体よりその心が痛むだろう。
 伝えたい言葉があった、届けたい言葉があった。糾華には其れが分かる。
 恋より生まれた想いの塊が、伝える事さえも許されない。その辛さが糾華には判る。
 己の胸の中にある想いを想いだし、ごめんなさいと小さく告げた。
「貴女を止める事は私達の身勝手よ。神秘を感覚で知る彼を此方の世界へ踏み入れる一線を留まらせる為。
 彼を怪物へと落ちるのを止める為。彼を、殺さなければいけない可能性を減らす為」
 彼女の手が糾華のゴシックロリータのワンピースを切り裂いていく。想いが、胸にじんわりと伝わる様な痛みに目を細める。
 どうしたらいいのと惑う様な少女の前で、虎美は銃を構えたまま、真っ直ぐに足を打ち抜いた。
 どうしようもなかった、想いの欠片を、届けてあげたいと思っていた。
「私は恋は叶うべきだと思ってる。だからって、貴女のお願いは聞けないんだ。
 だって私は人の恋がそうであるべきだとは思ってないもん。特に思い人が同じだった場合は、ね。
 私ね、お兄ちゃんが好き。私のお兄ちゃんを、誰かに素直に渡せる訳ないじゃない」
『あなた……』
 同じ人が好きなら、その想いが暴走することだってある。
 叶って欲しい、けど、叶えたくない。叶えたくない、けど、幸せになって欲しい。
 二律背反が胸を締め付け続けた。どうしようもなかった、自分は、幸せになりたい。
「私は、自分勝手だけどッ、でも……」

 好きだから、仕方ないじゃない――!

 叫ぶように告げる虎美の攻撃に霞の様な思念の『彼女』が揺らいでいく。喰らい続ける攻撃にエルヴィンは受け止めて、仲間達を支援していく。
 前線に立つ彼の背後、那雪がぽつりと零した。個人的には逢わせてやりたかった、と。
 千切れる蝶々の翅の向こう、『彼女』の体を打ち抜いて、那雪の紫が静かに揺らぐ。
「『彼』にこれ以上重荷を背負わせる訳にはいかない。だから……代わりにキミの恋しい気持ちだけ受け取ろう」
 己を貫く攻撃に、これが想いの重さならと耐え凌ぐ。割り切れない気持ちを堪えて、足を踏ん張らす。
「仕方ないわ、仕方ないじゃない。貴女の想いに関係なく思いの結果に関係なく私達は貴女を殺すわ。
 言葉と想いを告げられた、そしたら彼の目の前で貴女は死ぬの? そんなの、辛いだけじゃない。
 もしも彼まで人の道を外れたら? 私達は彼まで殺す。彼は貴女の想いに気付かず人として生きるのよ」
 耐えず言葉を吐き出し続ける。妬ましい。妬ましい。謝るつもりはない。それが正しいから。
 もしも聞けるなら彼女の五文字を聞こう。そして、誰かが言っていたと彼にこっそり伝えよう。
『霊媒師』が『幽霊』の言葉を伝える、そうすれば『彼』ならきっと笑ってくれる事だろう。
 弓が引かれる。真っ直ぐ貫かれる。それに『彼女』が涙を零す。愛美は赤い義眼で見詰めながらぽつりと「ああ、妬ましいわね」と零した。
 誰かに思って貰える彼も、思える彼女も。何だって妬ましい。
 フィリスの四色の光が貫いて、涙に濡れた『彼女』が広げる神秘の閃光。
「世界に満ちし、四元素の力よ。今こそ、その力を示せ!」
 負けじと声を張り弾け飛ぶ四色に乗せた感情は何色だろう。前のめりに救いを求める様に剣を振るったアラストールの色違いの瞳が『彼女』と合わされる。
 感情の灯された瞳は涙に濡れ、戸惑いを浮かべてアラストールを見詰めている。手を取る、振り払う、首を振る。
「心あるなら魂ありと私は思う、今生叶わぬ願いなら、来世で叶えると良い……それとも、諦めましたか?」
『諦める……』
「貴女は祈ればいい。望めばいい。さすれば救われん。曖昧な次の世でも貴女の恋はきっと叶う」
 だから、と差し伸べる指先に、少女は涙を浮かべて、それでも、と手を振るう。
 彼女の想いにアラストールの頬が傷ついた。拭い、前進し、剣を振るう。支援を行う様に雷音がそっと手を翳した。
 彼女の元から飛び出す鴉。啄ばむそれはまるで死を宣告する様に重い。
「三千世界の鴉よ此処にあれ」
 君よ、幸せであれ。そう告げて、同情を浮かべる自身の心を無視する様に眼を伏せた。
 涙がじんわりと浮かぶ。きっと伝えたい思い。優しい百獣の王はそれでも、と牙を剥く。
 踏み出す糾華がごめんなさいと再度告げた。結ばれる事無いそれに、結果の知れぬ思いに。
「失恋は怖いわ。でも、何より一番怖い事は……好きな人が世界より永遠に失われてしまう事。
 私は貴女にそんな思いをして欲しくない。貴女の好きな人が、幸せで有ります様に」
 どうしたら、と囁く彼女の胸を打ち抜いて。虎美が色違いの瞳でゆっくりと微笑んだ。
 叶わず、叶えず。少女の揺らぐ気持ちの中で、虎美はゆっくりと紡いでいく。
「お兄ちゃんは私が幸せにするから、だから」
 そう、と囁く少女の体がゆっくりと倒れていく。エルヴィンの瞳が彼女に合わされる。
 先ほどまで彼女の思い人を見詰めていた瞳を見詰め、彼女が優しく微笑んだ。
「ごめんな……伝えたい言葉は、彼にとって呪いにしかなんないからさ」
 いいの、貴方の眼の中で『彼』が笑っていた、そんな気がするから。
 彼が自分に行ってくれた言葉。幽霊だと、向けられなかった言葉が嬉しかったと、倒れていく。
 静まり返る路地に倒れ込む少女の細い指先をきゅ、と握る。フィリスは震える手で「君」と呼んだ。
「……辛かっただろう、良く頑張った。私が言うのもあれだが、君は、いい女だ」
 抱き締めて、溶けていく体へを見詰めている。ぼんやりと、ただ、消えていく其れを眺めながら唇を動かした。
「ねえ、あの五文字、どういう意味だったの? リベリスタ?それとも……なぁに?」
『―――――』
 掠れる声で吐き出して。
 ごめんなさい、ありがとう、あいしてる、さようなら。
 紡ぐ事も出来ない沢山の五文字にぽたりと雫が落ちていく。
「これで、よかったのよね……?」
 情を覚えたからかしら、とぎゅ、と自分を抱きしめて、いい事か分からないけれど己に募る何かに首を振る。
 きっと自分は変わってる。ここで消える彼女と違って、歩み続ける事ができるから。
 フィリスの胸が、小さく痛む。如何してだろうか。君の笑顔が見たい、とても。
 
 もし、君に次があるなら幸せを掴んで欲しい。

 名も無い君に名前を送ろう。きっと、君に似合う名前だ。
 また君がこの世界に産まれ落ちる時は、素敵な恋をして欲しいんだ、恋日。

■シナリオ結果■
大成功
■あとがき■
 お疲れ様でした。
 心情依頼です。それぞれ、名前のない『彼』と『彼女』に様々なアプローチを有難うございます。
 名前が無いからこそ沢山のアプローチがあるのだろう、と感じさせて頂きました。
 恋日(こいび)という名前や、自分を重ねた考え方、当事者の想いをきちんと伝える。
 椿は言葉は魔法の様な物だと何時も思っています。一つの言葉が様々な影響を及ぼすのだと思います。素敵な魔法を有難うございました。

 ご参加有難うございました。また、別のお話しでお会いできます事をお祈りして。