●mystic アーネンエルベには様々な研究部署が存在していた。人種学や歴史学と言った学問の研究を行う部署の一つ、この世界に跋扈する『神秘』を追求する部署がある。 この世界を覆い包む『神秘』は何ものにも代えられない。 その出会いが偶然出会ったのか必然であったのかを彼女は識らない。 クリスティナはその日、ある『魔術書』と巡りあうこととなった。 「……『貴方』は――」 眩い光を放ち異質な『魔性』を纏うその書はクリスティナへと旧知の友人である様に語りかけたのだ。しかし、『彼』の言葉には悍ましさが込められていた様な気がした。 何処までも貪欲な腹を空かせた『彼』の言葉にクリスティナは唇を歪め嗤った。 ――彼女が手にしたのは『渇望の書』。アーネンエルベが掘り当てた災厄。 ●limit over 死んだ――と。 確かに、そう感じとったのだ。 『彼』が渇望をその身に蓄えた時に、いや、もっと前かもしれない。 この耳を劈く様に響き渡った戦慄き声を聞いた時に判ったのだ。 掌に掬った水は簡単に零れて行ってしまう。握りしめた砂も風に攫われる。 人間とは何故こうも呆気ない生き物なのであろうか。 あの時、渇望の果てでその手が掴んだのはまやかしであったのか。 「何時だってそうだ。『理想』は常に届きやしない。だからこその『渇望』でありましょうが」 しとしとと降る雨の中、硝煙の臭いに紛れて、敗北を一度はその身に刻んだ。 その日、その時、『渇望の書』は酷く歓喜していた。 己を満たせる『渇望』に、美しき宝をもう一度見たいと願う一人の青年の願いを喰らうが為に。 『少佐。貴方は復讐をお望みの筈だ』 何処までも、強い意志の籠った瞳がぎ、と睨みつけてきた事を覚えている。 死の淵に立った青年の生を繋ぎとめるに至ったのは紛れも無くその魔術書であった。 クリスティナが手にし続けた魔術書――『渇望の書』は今や、リヒャルトの渇望で『満腹』になりその手を離れて言ったのだ。 「『あの日』の屈辱は私にも良く分かる。貴方を突き動かす衝動が何であるかなど言わずもがな。 そうか、死んだ――のか。貴方は死んでしまわれたのか」 ぽつり、と。一瞬だけ、別の色を浮かべたように思える女の瞳は直ぐに別の気配が灯される。 「さりとて、私にも遣るべき事があるのだ。此処で止まれぬことなど判り切っている」 冷静であった女の面影は其処にはない。その気配は妄執と渇望に駆られた『人間』であった。 喧騒に喧騒を重ね、何処かで誰かが『勝利』を確信した裏側。 その『勝利』など無かったのだ。そう、そんな『夢』を誰も認められやしない。 ――我等が尽きぬ渇望。我等の祖国の野望が為。 「クリスティナ中尉?」 「ルーナ・バウムヨハン少尉。兵を集めて下さい」 「Ja!」 形の良い赤い唇がつり上がる。 そう、『親衛隊』と名乗った面々は『同じ目的を果たすべく』、その望みを胸にこの極東まで訪れているのだ。劣等の蔓延るこの場所で、満腹になった『彼』が満足そうに嗤っている。 「『貴方』が満足だと動き出した今、私は指を咥え子供の如き風貌で見ている訳にはいかない。 我等は我等の『野望』があり、果たすべき『目的』がある。その為に、何もしない等、万死に値する」 『冷静』と『情熱』は表裏一体だった。 冷静だと言う仮面の奥、女は戦争の気配に身を焦がす。 敗北など気にくわない。 そう、クリスティナはリヒャルト・ユルゲン・アウフシュナイターが亡き今、最高位に位置しているのだ。 ならば、この野望を果たすべく兵を率いるべきは誰であるか。 「中尉、残っていた兵へと通信を回しました。以後、中尉の指揮下に入る様伝達済みです!」 「判って居ますね? 我々が行うのは劣等の猿と『遊ぶ』のではありません。『本気』を見せつけよ! 我等が成すは『勝利の喝采』! 無様な敗北など、親衛隊には有り得はしない!」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:椿しいな | ||||
■難易度:HARD | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年08月23日(金)00:23 |
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●regnen 思えば何時も水の音を聞いていたように思う。 しとしとと降る雨の中、魅入られたように手にした書が誘う方へと歩みよれば、其処に彼が居た。 あの美しかった故郷の何もかもを一瞬で失った彼の瞳が復讐に燃えあがる事等容易に想像できる。 自分だってそうだ。美しかった街も、愛した場所も、全てを一瞬で奪い去られ、それで冷静で居られる人間がこの世に存在するであろうか? そんな物、答えは何時だって『Nein』なのだから。 戦乱だ、其処にある音は戦乱だ。 負けてはならぬ。祖国が為、尽きぬ『渇望』の為に。 「我等が負ける訳にはなりますまい。判ってますね? 全軍――!」 その声は、高らかに。 ●裏門Ⅰ 未だに残る戦火の気配に身を震わせて、萵苣は電子グリモアに指を滑らせる。 「まだこの命をすり減らす戦いが続くのですか」 周囲を飛ぶヒキコーモリに視線を遣り、彼女が目を向けた先にはこの大田重工埼玉工場にて戦いを繰り広げていた親衛隊達だ。生存する彼等がリベリスタに牙をむこうとするソレ。 一度終焉したように思えた命の駆け引きがもう一度起きると言う事に萵苣は嘆息せずには居られない。 「……ですが、僕は戦いを辞める訳にはいきません」 その声に反応し、顔をあげた親衛隊が一歩、彼等の元へと踏み込んだ。 きゅいん、と音を立てそのタイヤを軋ませながら前線へと走りくる自動走行型ロボットにあばたは高鳴る胸を抑えて瞳を輝かせる。 「我等エリューションに通じる人造兵器……! これを待っていた、これを見たかったのですよ! わたしは!」 シュレーディンガーとマスクウェルを構えたまま、ハイゼンベルク越しに見る機械に彼女は胸をときめかせずには居られない。あばたの往く手を支援する様にロウが大般若を振るう。 「主がご覧になりたいと言うならば、その道を切り拓いてみせましょう」 「そう、これです! 人間の英知と進歩が、神秘を開拓し、文明化する! 今までの人類の歴史と同じように、神秘が暴かれ神秘で無くなる日が来る! そう信じさせてくれる!」 輝く瞳。あばたを支援する様に踏み込んだロウが体内のギアを軋ませ、澱み無く前線で戦うロボットを切り裂いた。彼がしゃがみ込むその後ろ、あばたの弾丸が広がっていく。 「こんなの悪夢じゃない……」 小さく呟いて純鈴が踏み出した。流れる水の如き構えから一転、身体を捻り雷撃の武技を繰り出した。周囲に存在するロボットがその機械の腕で純鈴を掴む。身体を掴まれる感覚に彼女が目を開き地面を蹴った。 瞬間に仰ぐ空にぽっかりと浮いていた球体。月を想わせる様なソレに純鈴が「悪夢だわ」と再度囁く。 「本? あれが黒幕? 人の心を理解してないだろうモノに頼ってまだ夢の中に居たいって駄々をこねる」 リベリスタにとっての悪い夢、親衛隊にとっての夢。周辺に存在する親衛隊が繰り出す弾丸を受け流し、くちびるをゆがめた優衣がドレスを靡かせて恍惚に唇を釣り上げる。 「あぁ! まだ私に痛みを与えてくれるんですね、どうしましょう、これ以上続いたら可笑しくなってしまいそうです!」 剣を握りしめ、痛みに笑みを浮かべる優衣は先の戦いで負った傷に身体が火照る感覚を覚えている。痛みを早くと浮かべる笑みが戦場響き渡り、早くこちらへと手招いた。広い工場内に存在するのはロボットだけでは無い親衛隊の残党も同じだ。 前線に飛び込んで、魔術師然とした雰囲気を纏った少女は短く切りそろえた髪を靡かせて、リベリスタ後衛へ向けて放つマジックブラスト。 貫かれながらも、その足で地面を蹴って、紅い瞳に笑みを浮かべたコヨーテが革命のダイアモンドを装着した腕を『夜駆け鳥』コルドゥラへとぶっ放す。赤い炎が散り、一気に弾かれる。 「よぉ。オレはアークのコヨーテ・バッドフェロー。強ェ奴と遊びに来た。お前ェは強ェの?」 「あたしはどうだろね?」 「お前は鳥、オレはイヌ。退屈しなそォじゃんか、ふたりで楽しい夜にしようぜッ!」 告げるコヨーテが宙を舞う。彼がいままで居た位置を貫通し、コルドゥラが胸に掲げたマジックシンボル『斜捨鳥』を弾丸が狙い撃つ。 「こんちゃーっす。あー、名乗る流れっすか? まじっすか。うちっす。ケイティーっす」 名乗る流れか、と首を傾げるケイティーにコルドゥラがくすくすと笑い続ける。ルーン・シールドがその攻撃を遮り、自身を真っ直ぐに狙う二人を見詰めている。 「あたしはコルドゥラ。親衛隊のコルドゥラ。楽しい夜に、しましょうっ、ね!」 「おっと、あんまりオイタし過ぎちゃいけないよ? 失敗して良かったってやつかな」 振るわれたコルドゥラの腕を受け止めて、真澄が一歩下がる。危なっかしいと感じるコヨーテ達をサポートするために彼女もこの戦場に存在していたのだ。 「老婆心的なお節介さ。私はね、この腕で、手で護るって決めた子は護りとおす主義なのさ。一度でもそう思った子に傷は付けさせないよ」 ぎ、と睨みつけるコルドゥラ。周囲の親衛隊を掻い潜り、短い髪を揺らして翔子が前進する。ヘキサドライブを握りしめる指先に力が入る。 (あと1歩! 踏み込め! 無理やりにでも当てろ! この戦場に立ったんだ、皆が居る。私は一人じゃない!) 光るヘキサドライブが翔子の体の至るところから飛び出した、コルドゥラのバリアを弾き飛ばさんとするソレを支援する様にカシスの癒しが吹き荒れる。 「コルドゥラさん、貴女は何故戦うんですか? 自分の願いはなんですか?」 カチッ、と脳内でスイッチが切り替わる。内気で弱気なカシスと勝気で男勝りなカシス。両面を見せながら彼女が懸命に掛ける癒しを得て、翔子の周囲に近寄るロボットや親衛隊をコヨーテが殴り飛ばす。 「望み? そうだね、あたしの望みは皆と一緒さ――云わなきゃわかんない? 祖国の為!」 「止める気が無いなら、この焔の拳であたしが止めて見せる! せめて、あなたのそのアーティファクトだけでも、壊す!」 広角射光電燈が彼女の周囲を照らす。拳を真っ直ぐに突きたてようとし、前線で戦う魔術師はそれを避ける。攻防の続く中、後衛位置で指揮を執るルーナ・バウムヨハン少尉は高らかに笑っていた。 「さあ、正義狂いの皆様! 楽しいショータイムでございますことよ!」 「ショータイム? いい加減しつこいわ。もうアンタらの相手にも飽きたのよ」 溜め息交じり、シュスタイナの腕から伸びあがるのは血の鎖。溢れる血が黒き鎖に化して彼女の元へと走るロボットを捕えていく。 「……私の血で死ねるんですもの、幸せでしょう?」 彼女の背後、ワンドを翳し、赤い瞳を細めた双葉が地面をとん、と蹴りあげる。シュスタイナの鎖と重なる様に伸ばされる双葉の葬操曲・黒。重なり合う二つがロボットを翻弄し、戒め続ける。 「木漏れ日浴びて育つ清らかな新緑――魔法少女マジカル☆ふたば! 魔を以って法と為し、描く陣にて敵を打ち倒さん……本気で行くよ!」 ザザ――彼女の幻想纏いが音を立て続ける。双葉が繰り出す焔が、シュスタイナの鎖が、親衛隊やロボットを倒さんと広がり続ける。その中で、後衛の彼女たちへ向けて親衛隊や自動走行型ロボット(type:AT)は攻撃を展開せんと足を進めてくる。 「っ、ほんとしつこいわね……!」 毒づくシュスタイナの前でワンドを構え直し、その速さを武器に攻撃を繰り広げる双葉へと振り翳される切っ先。受け止めた美虎が八重歯を光らしにぃ、と笑みを浮かべる。 「わたし、固いロボは大好物! 終わりじゃ、『戦闘狂い』。あんたらがバカにしゆう劣等の猿が、あんたらの最後の敗北ばくれちゃる!!」 その声は目前の親衛隊員だけではない。その背後、オフィーリアと名のついた銃剣を構えるルーナにも向けられていた。 拳に力を入れる。フィストオブタイガーが唸り声をあげる。『正義狂い』は悪を倒す。何よりも、『戦闘狂い』を許せるわけがないから。 「とらあっっぷぁぁああああ!!」 ロボットを殴り伏せ、前線を走り抜ける美虎を狙う幾つもの攻撃にカルベロがずれるサングラスを掛け直し千里眼を駆使し、仲間達へと状況を知らせていく。 「死ぬのなら我々年長者からだろう。未来のある若者たちに世を託す為にこの戦い、勝利に導かねばな」 近付く敵を思考の濁流で押し返す。論理破綻者はカラッポな自分を満たす様に必死に他人へとその思考を伝えていく。カルベロがピクリと動き、回復を必要とする仲間を発見したと思考を流す。 咄嗟に反応したのは【援護組】の面々だ。守護結界を張り巡らせた咲夜は優哀の書を手に歌い続ける。優しい夢を見る為に。 「親衛隊相手にもうひと頑張りせねばのぅ……全員で帰る為に誰一人、欠けさせないのじゃ」 「そう……みんな全力で今を生きるのねぇ、それなら私も本気で頑張るわぁ~」 ふわりと、巻き毛を揺らしながらパルマディンは小さく告げる。咲夜とは別方向癒しを歌うパルマディンは死にたくない。全力で生きる。その為なら、頑張れるから。 「生きる気力は失っちゃだめよぉ~、さぁ、もうちょっと頑張りましょう~?」 「ああ、解ってる。相手も全力か、望むところだ。全員が本気のぶつかり合いというならば、気合い負けをすれば終わりだ!」 黒いスーツを靡かせて一海の指先が煙草を潰す。ブラックコードを握る手に力がこもった。勝気な一海の背に立つ咲夜が彼女を支援する。地面を蹴り、真っ直ぐに広げていく気糸。 一歩下がる一海の居た場所へとNagleringを握りしめたディートリッヒが踏み込んだ。目の前で戦う親衛隊達は彼の祖国と同じ生まれ。祖国のための戦争屋と己の為の喧嘩屋の剣がぶつかり合う。 「前衛ってのはな、必要なら庇う。お互いが得意とする分野で助け合う、わかるか!」 「ソレがどうしたッ!」 「俺には、三人を必ず生きて帰らせる必要がある! この身を盾にしても!」 叫びながら、己の全てを解き放ち、近寄る親衛隊員の体を吹き飛ばす。ついで、振るわれる剣を一海の切っ先が止めるが、掠める其れに腕がびりびりと痺れた。 「すまぬのぅ、わしはわしの可愛い仲間を護るためには手段は選ばぬのじゃよ」 告げて、癒す咲夜に続き、パルマディンが両手をくみあわせ、癒しを続けていく。 「ちょっと頑張って下さいねぇ~? 全力で相手逝かせてぇ、生き切りましょうねぇ~?」 パルマディンの言葉に頷いて、無銘の大剣を振り翳す有紗が前線へと飛び込んだ。長い髪が揺れ、勝気な茶の瞳に灯されるのは何としても負けないと言う意思だ。 ポジティブに、前を向け、走れ、そして、勝て――! 「ここまで押し込んだんだ。今更負けてられないよね? だったら私がやるべき事は簡単。皆のために血路を開く事! ここで全てを終わらせよう、その為に私は今、この剣を振るう。さあ、亡霊たちに鎮魂歌を!」 踏み込んで、生命力をも戦闘力に変え切って、剣を振るえば周囲の装甲の固いロボットたちへと傷を付ける。大国の亡霊へと、サヨナラを告げる為に。 「――行って!」 「鳥一匹位落としてみせな。かかってこいよ、犬っころ!」 翼を広げ、フェザーナイフを手にしたまま、足を器用に使った比翼子は一気に蹴り込んだ。前線のデュランダルを狙った攻撃は幾つもの幻を生み出し敵を翻弄する手法。 姉の作った幻を貫いて、フェザーダガーが投げられる。暗闇を纏い黒羽が一歩踏み込んだ。 「纏え、漆黒よ! ラスト・ダンスだ。これで終わりにさせてもらうぞ!」 黒ちゃん、と呼ぶ比翼子が前線をひっかきまわす。視線が逸れた所へと黒羽の暗黒が叩きこまれ、親衛隊の体力を削り続ける。 (あっちはめんどくせー事が起こってるみたいだな。だがこいつらをほっといて行けねー……!) ちらりと振り返れば、上空に浮き上がる球体。上空で戦う仲間達に視線を送る比翼子に振るわれたナイフ。頬が切り裂かれる。 有りがたい事に『ひよこ』が得た翼の加護は彼女たちの戦い方を有利にしていた。ひよこ殺法と名付けたそれを使って、跳ね上がる。羽ばたきながら真っ直ぐに刺さるフェザーナイフ。 「最強の力なんてなくても! あたしはいつだって全力全開!」 「……っ、く、残像だ! いや、今からお前を攻撃する奴の事だよ」 攻撃を喰らいながらにぃ、と笑った黒羽にその通りと上空から比翼子が蹴りを喰らわせた。 姉妹を支援する翼を渡しながら智夫は仲間が倒れないようにと木を使いながら動き続ける。重ねて与え続ける歌に、ジャベリンを手に、細腕を懸命に振るった。 ナイチンゲールフラッシュは明るく閃光を広げ続ける。負けやしないよと囁いて。勝利の翼を仲間へと与え続けた。 「不肖、夜兎守太亮。遅ればせながら加勢する!」 クローを手に、太亮は唇をかんだ。敵陣へ突っ込めればカッコイイ。そして、役に立てるだろう。まだ、経験の少ない自分は前線に飛び込む事は向いていない。 後衛へと攻撃を喰らわせ、智夫を狙う自動走行型ロボット(type:PP)を狙う暗黒が撃ち続ける。真っ直ぐに、 撃つ、撃つ、撃つ、撃て――! 「なぁ、兵隊さん、あの本そのままにしてていいの? 俺は守から出てきたばっかで事情よくしらんのだけどさ。 戦争って土地とか飯とか生きる為に欲しくて仕掛けるんじゃねぇの? 戦うために生きるなんて、目的と手段が入れ替わってるじゃん」 「我等は祖国を取り戻すため、その復讐が為に――! お前に解るか、村を焼かれ、祖国を守るために戦い続けた気持ちが! 祖国のために戦ったが為に祖国に裁かれる事になるこの思いが!」 「野望、それって本当に必要? 誰かを傷つけて、それで、誰かが得をする?」 ぎ、と睨みつける。真っ直ぐに、穿て、そのまま、止まる事は無く。 太亮が攻撃の手を緩め掛けた時、セッツァーが援護する。歌声は高らかに、ただ、想いを伝える声が朗らかに。 「さてと、これでフィナーレとしたいものだな……簡単に勝たせてくれる相手では無い…… 全力を出し切り、さらに死闘をも覚悟する」 シルバータクトを翳しながら、声(うた)を響かせ、勝利を手繰り寄せる。歌の力を何よりも信じている。 その為にはその『死闘』をも超越し、自分が信じる歌を響かせ続けるだけだ。 「聞け!私の声(うた)を! 我が奏でる派アークを勝利へ導く魂の叫び!」 回復役たる彼の元へと飛びこまんとするコルドゥラ。その往く手を遮る様に踏み込んだメリアが魔力剣を手に己が【矜持】を胸に飛び込んだ。 「さて、第二ラウンドだ。戦えるうちは休んでる暇など無いのだからな。 行くぞ。まだまだ元気はあり余ってるだろう?」 踏み込んで、コルドゥラを受け止める。彼女を追う様に飛ぶケイティーの攻撃を支援する様に翁は己が連れる【矜持】の面々へと声をかけながら撃ちだすピンポイント・スペシャリティ。 幾重も重なる気糸が集中に集中を重ねた翁によりコルドゥラの盾を打ち破る。眼を見開く彼女の元へと振り翳されるセフィリアの剣。 「ふふ、当然です。随分長い休みを戴いておりましたから……。私もメリアさんに負けていられませんね」 「良し、皆の者突撃じゃ!なんとしてもこの場を切り抜けねばならんのじゃ!」 翁の号令に合わせて、彼等は飛び込んだ。各々の『矜持』を胸に、何も違えない。速さを纏い、切り裂く剣を止める事は無い。 「……あぁ、くそ、こうなりゃヤケだ。やってやる。やってやるさ……あぁ、死に物狂いってのは伝染するってのはホントだぜ!」 ふる、と振るえる愁哉が広める守護結界。仲間達を励ます様に広げながら毒吐くそれは戦場に出ると言う意思の強さ。死物狂い。何としても勝つという強い意志。 「ここまできたら、やってやるしかないよな――全員で、必ず生きて帰るんだ、絶対に!」 愁哉の固い意志に頷いて、癒しを乞う雪菜が手を伸ばす。マジックシンボルを胸に抱き雪菜が癒しの息吹を具現化させる。仲間達を支援する様に行動する雪菜に向けて、親衛隊が狙いを定めるが、その射線を遮る様にシーザーが滑り込む。 スモールシールドが受け止めて、前線の仲間の為を思い、シーザーは牙を剥く。抗う、護る。それが誓った約束だから。 「生命線の維持は私達にお任せを。何、そう容易くは通しませんよ」 背後の雪菜が癒しを続ける手を止めない様に、後衛を撃ち狙うスターサジタリーの弾丸一つ、彼女にはかすらせはしない。 「俺が居る限り、彼女への攻撃は通させない。俺はシーザー・ランパート──友誼の盾なり!」 自分のやるべきが何か。癒しを乞う雪菜を支援するだけでは無い。彼女に対し、この身をていして盾を形成する事だ。 シーザーへ向けて攻撃する手が強められれば、雪菜が回復を強めていく。彼等を支援する様に翁の気糸が伸びあがる。 「まだ暴れる事が出来るとは思ってませんでしたよ。あぁ、面白い。この戦場を乗り越えて俺は強くなる……!」 クラッドの瞳が光る。眼鏡の奥、銀の瞳がぎらりと輝き、ブラックコードを握りしめる手に力が込められる。 掠めた弾丸が眼鏡に罅を入れて吹き飛ばせば、青年は更に荒々しく『悪鬼』としての顔を見せ、噛みつく様に前線へと飛び込んだ。 「……俺はただ、破壊し、壊す悪鬼。さあ、壊されたい奴はどいつだ?」 くい、と手招いて、敵を誘う様なクラッドの隣、とん、と地面を蹴り、セフィリアが顔を出す。優しげな笑みの向こう、覗いたのは殺意。 「さあ、銀風の舞……恐れるのなら掛かって来なさい!」 ――この世界を守る為なら、恐れる物等、なにもないのだから。 ●裏門Ⅱ 降り注ぐ涙雨、掠める弾丸の中、視線を掻い潜りながら、確実に残党兵たちを始末してやると気持ちを固めて、愁哉が声を荒げていく。 逃げたい、逃げたい、逃げ出したい。 「俺みたいな落ちこぼれでも力になれるんなら、やってやる! 誰一人として欠けさせて堪るかよォッ!」 叫ぶ声に、その意気やよしとでも云う様に嚆矢はトンファーを構える。誇りを胸に運命を引き寄せる。自身は大した打撃力が無いと嚆矢は口にしていた。 それでも、生き足掻け。例え倒れても何度でも立ちあがって見せろ。攻撃を行う奴等を嘲笑ってやれ。 己に味方をする『運命』はそう言う物だ。己は黒い幽霊だ。 「どうした、その程度で黒い幽霊を倒す事等出来んぞ? 亡霊」 「小癪な――! 劣等めッ!」 ぎ、と睨みつける親衛隊へと降り注ぐ焔の矢。水色の瞳は細められる、リアリストであるトリストラムの胸にある『矜持』は勿論、仲間達と同じだ。だが、理想論には否定的であった。 そう、勝利を理想に掲げてはいけない。己は『結果』をだす。ソレが世界の真実と鳴るのだから。 「貴様たちの執念には恐れ入るがね。生憎と執念深いのは此方も同じ事――」 ヘビーボウから発射する弓が受け止められる。序で繰り出される弾丸を避けながら、再度降らせ続ける焔。己を鼓舞しながら、真っ直ぐにその足に力を入れ続ける。 「さあ、どちらが倒れるか我慢比べだ! 我が弓、何処までお前たちは耐えられる!」 退かれる指を支援するように、雷撃が降り注ぐ、黒の戦闘服を纏った死神――イリアスは昼寝の時間を削られたとやや不機嫌そうに眼を擦った。 「しつこい連中だ、全く。だが、払う火の粉は振りはらわねばならん」 やれやれと肩を竦めて、魔力を爆発的に増大させる。雷撃は、何時までも降り注いでいた。己を『骨董品』と称するイリアスはその外見から想像もつかぬ長きを暮らしてきている。 「我がマナよ、今こそ破壊の雷となりて我が前に立ち塞がりし戒めを撃ち破れ!」 それ故に、のんびりと過ごしたいというのもバチの当たらぬ考えだろう。その考えを打ち払う親衛隊へと破滅の雷は安穏が為、降り続ける。 そうだ、何時だって、そうだった。 この世界は、酷く残酷な事だってあるかも知れない。だが、決してそれだけじゃあない。 例え、苦しい事があっても、そうでない事だって沢山ある。世界は理不尽だけじゃないと、知っていた。 護ろう。 この世界を――この愛すべき居場所を。 「私は、この世界の住民ではありません。それでも、この世界が好きです。だから、護りましょう」 あの時、命を賭して、リベリスタ達がセレーネ達を助けてくれた時の様に。 勇気無き自分たちの居場所を守ってくれた時を想いだす。戦う事は今だって怖かった。ふるり、とセレーネの指先が震える。 前線で戦う仲間達に、セレーネはふるふると首を振った。 戦わねば、失われる。大切なものが。大切な場所が。――嘗て、失われ掛けたあの『世界』の様に。 「参りましょう……。この闘いを越えて、未来へ!」 フィアキィがふわりと揺れ動く。氷精と化した妖精たちが親衛隊を翻弄した。彼等の仲間には居ぬ力を使うセレーネ。その特異な技を幾度も見た親衛隊員が「長耳めっ」と毒吐いた。 その声に、ぼんやりと紫煙を燻らせたリリスが瞬きを繰り返す。大きな瞳が捉えたのは己が先ほどまで戦っていた親衛隊員の姿だ。 「んー……結局どこにでも親衛隊は居るんだよねぇ~……帰ってゆっくりする為にも、とりあえず今を頑張らないとぉ……」 魔力銃を構えたままに、セレーネのフィアキィに合わせてリリスのフィアキィも揺れ動く。リリスが空へ向けて撃ち出す弾丸が焔の雨となって降り注ぐ。火焔弾が炸裂し、親衛隊や周囲のロボットを落としていく。 それは、彼等を支援する親衛隊員たちの付与を打ち砕く物だ。リリスのぼんやりと眠気を浮かべる瞳にうっすらと涙が堪る。欠伸を噛み砕き、和風のゴシックロリータのワンピースを揺らした。 「一人でも多くの皆と、一緒に三高平に帰らないとだね」 彼女たちに狙いを定める親衛隊員。魔力盾でその剣を受け止めて、冬弥は結ぶ手印。幾重にも展開させた其れが親衛隊の体をきつく束縛した。 「あの面妖なモノと残党、双方を撃ち倒せば――それで終わりだ、これ以上はないだろう?」 これ以上の隠し玉は無いだろうと息をつく冬弥を支援する回復。だが、前も後ろも敵だらけだ。そうタイミング良く下がれないと彼の足が縺れる。襲い来る親衛隊を狙い撃ったのはエレーナの星屑だ。 「やれやれ、我等もツキがないようじゃな。敵も正念場、なれどそれはこちらも同じじゃ」 魔弓を握りしめ、冬弥の後退を支援するエレーナは耐えず弓を引き続ける。回復手を庇う事も忘れずに、動き回る彼女の頬に付けられる傷。 「長く生きてやることが今を生きる者への腹いせか。哀れよの? 余生とはそういうものではない。命の使い道を教えてやるわ」 「劣等如きが――!」 「劣等であったとしても、死した者の力であれど、気持ちは拾ってやれんでな。 無念も、怒りも、世界への執着も人のそれを担ってやれるほど屠っておらず、自身の想いを軽んじるつもりもない」 故に、その力を以って、災厄をし止めてやればいい。誰かの気持ちを担ってはやれない。けれど、己の信念を曲げる気はない。 エレーナの弓に重なる様に、枇の重火器が火を噴いた。撃ちだされる弾丸は、己が若輩者だと位置づける枇ならではの攻撃だ。 「親衛隊諸君、戦など楽しい事もないだろうに……負けを認められないのは哀しい事だよ?」 The sky is the limitを手に約束を握りしめたアンナが戦など似合わぬ深窓の令嬢の様な顔をして笑っている。 大きな帽子に、長い銀髪を靡かせて、彼女は駆ける。前線へ飛び込み、狙うは、同じく『深窓の令嬢』の様な顔をした女であった。 長いブロンド。大きな瞳の女――ルーナ少尉にアンナはスカートを持ちあげて唇を吊り上げる。 「御機嫌よう、元第三帝国特務部隊裏円卓所属アンナ・ハイドリヒ少尉、いくよ」 「あら、素敵な『名乗り』ですこと、わたくしは親衛隊のルーナ・バウムヨハン少尉。楽しみましょう?」 くすくすと笑い続けるルーナのオフィーリアが撃ち出す音波がアンナを狙う。避け、撹乱せんとするアンナの拳を受け止めた親衛隊が一歩下がる。 「ちょっと疲れたとですが、のーぷろぶれむ。イメはまだ戦えるとですよー」 『暗き地』であれど、魔法の眼鏡(Dark Steal.)があるなら問題ない。氷精を纏わせて、癒し手を狙うイメンティが首を傾げる。 「箱舟の友達を巻き込まぬようにびーけあふりぃ」 異国の地を見回しながらイメンティは楽しげに笑い続ける。一人では長く戦えない。自身を支援する癒し手の近くで戦い続ける。発音の微妙なイメンティは首を傾げて長髪を揺らした。 「鋼の亡霊さん達、あてんしょんぷりーず?」 彼女の背後では、グレードソードを握りしめた華乃が首を振る。集中に集中を重ね、自分でもできる事があると、模索し続ける。 「おとーさんとおかーさんは後ろにいなさいって言ってた。でも、危ないって判るけど、僕にだって出来る事はあるもん!」 力を込めて、真っ直ぐに吹き飛ばす。誰も失わない様に。倒れる人がいれば、その人を助けると華乃は決めていた。 誰も失わない。小さな少女は尻尾を揺らし、地面を踏みしめる。牛の角に耳がぴくりと揺れた。 「篠塚 華乃! がんばります!」 その声に頷いて、パンツァーテュランを構えたままに仁太は親衛隊をその目で捉えている。シューターは何も見失わない様にと弾丸を繰り出した。 「わっしは有象無象をやっつけるのに専念ぜよ。いつだって、物語の主役は若者や、こういうのはおっさんに任せときや!」 そう告げる声に頷いて、アンナが拳を振るって行く。仁太の弾丸を浴びふらつく隊員の体を殴りつけ、彼女はスカートの裾をつまんだ。 「では諸君、Auf Wiedersehen」 くす、とアンナが小さく微笑む傍らで仁太が毛並みの良い頬を掠める弾丸にくつくつと笑う。 護るための暴力が散らばっていく。運命をチップして勝負を挑む人生博徒(ジャンクオブラスベガス)。 「いつだって自分の正義の押し付け合いぜよ」 正義、その言葉に帽子を深く被り直してライコウは練気刀を握りしめる。長髪を揺らし、蒼い瞳が見据える先は『鬼』だ。 「鬼と逢うては鬼を斬り、神と逢うては神を斬る」 正義と悪の分別を付け、妄執に取りつかれた相手は果たして、人と言えるのか。鬼とは人の心に住む怪物だ。妄執に取りつかれた人間は、怪物との違いが無い。 翼の加護を得たライコウの頬を掠める弾丸。超直観を駆使し、避けながら、己を援護する小鬼――アマノサクガミへと声を掛ける。 降り続ける、涙雨。ヘレブと名付けた符がふわり、と飛ぶ中、啄ばむ鴉の嘴に苛立つ様に親衛隊員が攻撃を繰り広げる。 多勢を狙い撃つ氷雨は止む所を知らぬ。その中で、平穏の灯火を探す様にコートを靡かせる無明は包帯の間から親衛隊を睨みつける。電光刃に纏わせた光りが親衛隊の体を切り裂いていく。 不自由だった瞳でも灯火を照らせる筈。その灯火ははっきりと目と胸の内に灯っているのだから。 開けない夜など無い。夜が明ければ何時もの平穏が其処には有る筈なのだ。 「いくよ亡霊。夜が明ければ君達が存在する理由は無い。ここでさよならだ」 「そうは、させるかッ!」 足掻く様に『亡霊』は無明へと剣を振るう。受け止める彩音が唇から牙を零す。何処までだって遣り続ける。 「ぶつけ合いましょ、お互いの意地を。楽しみましょ、私達はこんなにも生きてるんだから!」 笑い、緑色の瞳を細める彩音が弾きだす蹴り。仲間の体を貫く可能性もあるソレが誰かの体を切り裂いても、尽かさず癒す手が其処にはあった。 上空を見上げながらくす、と笑みを浮かべたミサはワルプルガの銀を手に仲間達を癒していく。打たれ弱い己を鑑みて立ち位置へと気を配りながらくすくすと笑みを浮かべた。 「あらあら、面白い本が関わってたのねぇ。是非捕まえて詳しく調べてみたいわぁ……」 それは研究者の意地であろうか。殺気だった周囲を見詰め、鮮やかな新緑の瞳が細められる。 癒しを乞いながら、彼女が望むのは研究に没頭できる時間だ。世界が安穏でなければ、大好きな研究だって出来やしない。 「万が一負けて世界が無くなってしまうようなことがあったらもう何も知ることが出来なくなってしまうわ。 そんなのは寂しいでしょ?」 勝ちましょう、皆さまも頑張って頂戴ねぇ、と零す言葉に頷き、前線を走る彩音の足に力が入る。 「まだやる気だっていうなら、倒れるまでやりあおうじゃない」 彩音の言葉に頷いて。視界に虚ろに入る亡霊へと無明は手を伸ばす。その名の通り明りの無い世界ではいけないのだから。 「さあ戦線を切り開こう。敵の屍で道を作ろう。その道が我々の辿り着く平穏への道行きさ」 ●正義狂いと哭く空に 騒がしくなる中で、ソウルが見据えたのはこの戦場の指揮官だった。己の体を武器に、壁にしながらも、若い戦士を護るソウルのパイルバンカーが女への道を塞ぐフィクサードを殴りつける。 「しっかし、正義が優しい言葉とはねぇ、ルーナのお嬢ちゃんはよ。どういう意味で言ってるんだ」 「さあ?」 どういう意味かしら、とルージュの塗られた唇がつり上がる。前線へ飛び込むリベリスタ達は誰もが彼女を狙っていた。 コルドゥラと相対するケイティーが撃ちこんで、彼女が振るう腕をコヨーテが受け止める。戦闘が厳しくなるにつれて数の多いリベリスタに圧倒される残党兵の中から『彼女』が顔を出したのだ。 「参りましょう。ここが正念場です!」 戦場全体に気を配り、前線を護り続ける黒乃の頬から流れる血潮。アクシオマティック・カトラスが辛うじて騒がしい稼働音を響かせるロボットを受け止める。彼女の嗜みと言えるスーツの裾も煤汚れ、所々が破れている。 それでも足は止めないままだ。イヤリング・オヴ・アストラル・シーが光を反射する。投擲された閃光弾。警戒しながら指揮官の視野を得ていたのぞみがブーステドシールドを構え、仕返しと云わんばかりに投げ入れる。 彼女の戦闘指揮を生かし、機動力を得たリベリスタ達が前線へと飛び込んだ。支援を行いながら視線を逸らした向こう『斜捨鳥』を揺らすコルドゥラが前線へと攻め入った。 「ぶっ殺す!」 「殺してみてよ、どーん」 振り被ったコヨーテの体が彼の攻撃を其の侭反転させる。輝くアーティファクトを目にして、一気にショートボウを引いたアルメリアがぎ、と睨みつける。 「まったく、いったいどれだけ出てくるのよ、あんまりしつこいと嫌われるわよ!」 ぎ、と睨みつけるアルメリアの弾丸が掠める。欠片が落ちて、少女の身体が反転する。降り注ぐ雷撃を避けながら、ティセラが己の『相棒』を撫でつける。 自身が最初に殺したノーフェイス。剣の持ち主であった――トゥリア。己がリベリスタだと教えてくれるソレ。撫でつけて巨大な銃剣を構えた侭にティセラはゆっくりと囁いた。 「トゥリア、力は貸さなくて良い。奴はたとえ力を持たないただの人間だったとしても戦うだろう」 神秘を持つ兵器が無くとも、自分が杖付く老人だったとしても、己が『野望』を胸にする。 闘いに身を投じる『戦争狂い』。 彼等は軍人だ。これは戦争だ。リベリスタという使命で戦うのではない。その為に『誓い』を使わずに。 一人の人間としてティセラは鋭い翠の眼光を細め、唇を吊り上げる。身体の至るところから翠の光が漏れだした。 「最後まで、付き合ってあげるわ」 ――この世界に生きる、一人の人間として。 ティセラの焔の矢が降り注ぐ。合わせる様にアルメリアの弾丸が降り注ぐ。二つのそれを受けながら、声を荒げ飛び込む親衛隊。 支援し、的確な指示を送るのぞみの声に応じて、ティセラがトゥリアを振るった。周辺を吹き飛ばす。近付く者は誰も触れさせない。 「このままいくっよー!」 アルメリアの号令に頷いて、冬彦が加護を与え続けた。癒しの手は伸ばされる。抱えた重火器。人間に戻りたかった少年は人ならざる者――亡霊と戦う事を諦めない。 『空白』だったページを埋めていく。役立たないと思わない、誰かの役に立たなくちゃ。 自分の為だ、知ってる人は居なくなって欲しくない。自分の為に身に付けた、自分の為の力。 「終わらせられなかったのは俺らの不手際だ。援護は任せろよ! 思いっきり攻め込んで来い!」 戦えるなら、戦えるだけ。幾らだって支援する。癒し、そして闘いに赴く力を渡す。 自分は何のためにこの力を身に付けた? 「誰も居なくならない! その為だ、その為に戦い続けるんだ!」 「――勿論だ。どんな敵であれ、そう簡単にいまの私達はやられんよ」 ふわり、とシスター服が翻る。二丁手にした魔力銃が弾丸を打ち出して、迫る親衛隊の体を吹き飛ばしていく。 「オマケにデカブツまで繰り出して来たらしいが私達は逆境に立たされれば立たされるほど、本来以上の力を発揮するみたいだからな。 面白い。――これが『燃える』というもの何だろう?」 くつくつと笑う輪廻に幼さの欠片は無い。シスターらしからぬ殺意をその瞳に滾らせて、握りしめた銃かmら一つ、そしてもう一つ。弾丸が飛び出していく。 「迷える悪魔に私が鉄槌を下してやろう――Amen!」 輪廻の弾丸の下を駆けながら鶴来は走った。模造七天八刀を握りしめ、金髪を揺らし、白い軍服を纏う鶴来の姿は正にカラーの違う親衛隊だ。 「……ああ、もう、私はなんでこういう所にばっかり顔を突っ込むんですかね。普通はこう、もう少しライトな任務で実務経験を積んでから……なんて言ってる場合じゃないですか、キャラに入りますよ!」 ぶつぶつと呟きながら、呪いを刻みこみ、剣が狙ったのは音波を撃ち出す指揮官だった。 鶴来は軍人などでは無い。普通の少女だった。鶴来は普段の『顔』を捨て去って、キャラクターへと入っていく。 「さあ! 『正義狂い』の皆様方、我々の前に跪き赦しを乞う事ですわ!」 「失笑。正義狂いとは軍人屋である君達にも言えるだろう?」 正義とは何であるか。鶴来は『己の信ずることへの行動』だと定義して居た。己の正義を真っ当出来ぬ物に勝敗を分かつ必要はない。 「此方が剣は七つの剣線を切り結び八つの剣と成す。8が表すは無限。貴様に永久の贖罪を与えてやろう」 「望むところですわ?」 くす、と笑うルーナの元へとバイクの音が鳴り響く。ブラックエミリ - 250SE - 紅蓮マーカーに跨った陣内がひゅう、と口笛一つ。 「金髪美女と聞き及びー! 麗しのプリマドンナちゃーん♪ 僕ちゃんに抱かれて下さいませーんかー★」 テンションはこの戦場では異様だった。己の集中領域を高めながら告げて前進する甚内の後ろからひょこりと顔を出すぐるぐ。二人は仲間達の支援を得ながら一気に指揮官の元へと詰め寄ったのだ。 「ハロー★ 正義狂いどぇーす★」 「看板女優。こんにちは。これも貴女にとっては素敵なショーなのですかね、ルーナさん」 アクターを握りしめ、眼鏡の奥で色違いの瞳が細められる。灯火を燻らせる女の元へと前進する彼等を受けとめながら、ルーナがぎ、と睨みつける。 彼等が行く路を支援するが為に浮き上がっていたミストラルが大業物を振り翳し、ロリータファッションを風に靡かせる。実年齢より幼くみえるかんばせに浮かべたのは笑みでは無い、戦闘意欲そのものだ。 「貴様等には正義があり理屈があるのだろうが、私にとっては世界を壊す悪に他ならない。 悪いが貴様は悪で、私の相手だ。撃たせてもらうぞ、親衛隊!」 ぎ、と睨みつけるミストラルにルーナの周囲に存在するクロスイージスがその身を盾に繰り出した。黒き瘴気が彼を狙うが、ソレを打ち払う様に真っ直ぐに飛ぶ質量。 頬を掠め、唇を噛みながら、行く手を開ける様に身体を盾に前進した。彼女を支援する様に気糸が絡みつく。エストックを片手にヒルデガルドは凛とした佇まいを崩さずにマントを揺らす。 「軍としては最早、壊滅的であろうにそれでもなお戦うか? ならば、ここでかの至上主義を完全に滅ぼすまでだ」 一騎打ちは苦手だと知っていた。ヒルデガルドはあくまで己の戦い方を突き進むのみ。 紅い瞳がじ、と見据え、敵を捉えんとする。彼女の元へと歩を進める親衛隊を堰き止めんとクローを振るうザインは髑髏の向こうで笑っていた。 己は信じる者を喪った。死せる自身が死せる侭にはいられない。 「騎士、ザイン・シュトライト。ゆくぞ」 己は弱者の盾では無い。アークではない、街の盾であり剣である。騎士たる姿では無い、その在り方そのものが己が何であるかを示している。 誇りの灯は命の灯火の様に揺れ動く。故に、誰かの誇りを砕く為、己の誇りをぶつけるのみだ。 「負ける訳には、いかんのでな」 「勿論、行くぞ――!」 真っ直ぐに前線を指し示すヒルデガルドに頷いて、ザインがクローを振るう。ミストラルとザインの黒き瘴気が交わって親衛隊の体を覆い隠すそこへと百叢薙剣が振るわれた。 「空に浮かぶあれも気になるが……結局、戦争を望むのは奴等の心だ。ならば、病巣を根本から断ち切る!」 踏み込んで、時を刻みつける。その手は所が無い。残る親衛隊が前線に踏み込んで、ナイフを振るった。 一歩、傷つけられる頬。二歩、腕から血が流れ出る。三歩、額から溢れる血が視界を曇らせる。 「だいじょうぶ、支える為にここにいるの。ゆきよしさんをまもるから」 りん、と響き渡ったゆめもりのすず。響くその音に癒されて、雪佳は踏み込み続けた。時を刻む速度で振るう切っ先は曇らない。 (これが終わったら、たのしいことがたくさん待ってるの。ゆきよしさんと海に行ったりとか! みんなみんなこれからを生きる為にがんばるの。亡霊なんかに、負けないの!) 「ゆきよしさん! もうひと頑張りなの!」 「ひより、君は、この戦場の要だ……どうか、癒しの鈴を奏で続けてくれ」 りん、と響く音に癒されて。心強い少女が後ろに居る事を知っているから進んで行ける。沢山の楽し事があると知っていた。 『これから』があるのだと、解っていた。 「あんな奴等に……これからの希望を、踏みにじらせはしない!」 行くぞ、と踏み込んだ。刻みながら、進んでいく。鳴り響く鈴の音はひよりの願いそのものだ。 彼女が癒す為の力をユイトは送りながらライフルを構え続ける。仲間達を支援する効率動作はリベリスタ達を支え続けていた。 銀髪を揺らし、しゃがみ込む。ニンジャとサムライの国に踏み込む軍人に敵意をむき出しにし、ユイトは前線のリベリスタを励まし続けた。 「行くぜ! 突っ込め!」 「OK。ほんっと騒がしい人達よね。……邪魔よ」 ユイトの投擲した閃光弾を避けながら深雪は身体を捻っていく。親衛隊の体を投げ落とし、防衛ラインを押し下げぬ様にと前線を支援し続ける。 前線で彼女の戦う動作を支援しながらユイトは広い視野でもうすぐだと叫び続ける。 正面で息を切らすコルドゥラ。ひらひらと手を振って、『良い夜』をすごし続けたコヨーテが嗤っている。ケイティーが狙う彼女の正面。 「ばかみたい」 一言、息をする様に吐き出した。 少女の頭を打ち抜く弾丸。ケイティーが目を細めて、息を吐く。倒れていく身体を飛び越える様に兎は跳ねた。 前線、焔を纏う腕を振り翳し、深雪は息を吐く。 「まァ、何とかの一つ覚え、と言うヤツだがな。効果的ではあるだろう?」 くつくつと咽喉を鳴らしグレイが真っ直ぐ進んでいく。Kresnikが撃ち抜いて。仲間の体をも巻き込むが、グレイは止まる所を知らない。 軍服を纏う彼は紫の瞳を細めて、周辺の守り手の減った狙撃主――戦場の主を見据えていた。 「『正義狂い』めっ……!」 「正義狂い? まァ、何と称しようと構わないが。少なくとも正義とか関係なく気に食わねぇな。お前たちは。時代錯誤だしな」 時代錯誤な亡霊が夜に哭く。未だだと踏み込まれ、弾丸がグレイの体を貫いた。 音波信号が身体を貫き留まるところを知らずにいる。一気呵成、攻め込む事を辞めずに痛みを堪えて彼が撃ち出す呪詛。 「もう大将も死んだんだろ? おとなしく滅んどけよ。あんまりしつこいと嫌われるぜ?」 「我等には今、クリスティナ中尉がいる。指揮官が居る以上、此処で歩みを止める訳には――!」 「……また逢ったね、ルーナさん。でもそろそろ最後にしよっか。 正義とか、悪とか難しい事わかんないけどどっちの我が強いか、決着つけに来たの」 「貴女……」 じ、と旭を見据えるルーナの視線に旭が小さく微笑んだ。周囲の仲間達に気を配り、弾き出す蹴撃。 赤いドレスが揺れ、旭の体を狙う至近距離の射撃。音波に変わるそれを受け流し、身体を捻る。一歩、切り裂かれるそれに痛みを感じ、旭の翠の瞳が細められた。 ゼロ距離。向けられるオフィーリアを受け止めて、身体に食い込む刃の感触に小さく笑う。 「覚えてくれた? わたしは旭だよ。ルーナさん」 「アサヒ、『正義狂い』のアサヒ。わたくし、貴女の事気に入ってますのよ。そうして、何時も追い掛けてくる」 貴女が男ならわたくし、惚れてましたわね、と冗談めかして告げる声。 至近距離。ゼロ距離で女は編み出した技を彼女の体へと突き刺した。神秘が、痛みを告げる。息を吐き、もう一度地面を蹴った。 「それが、貴女の生きる灯火であるというのですか? ルーナさん」 目を細め、アクターを握りしめ、ぐるぐが幻を生み出した。増殖(ふ)える。増殖(ふ)えて、そして、消える。 素晴らしい個性(かがやき)がそこにはある。存分に輝き続ければ良い。 「貴女の最後の幕になるのなら、幕引きは『ボク達』がしましょう。摘みましょう」 その、輝きを。 女が目を剥き、ぎらりと睨みつける。オフィーリアに重なった斬馬刀。身の丈に合わぬそれを振り翳し霧也が吼え続ける。 「闘いの中で今更本気だと言いだすふざけた連中に負けてやるかよ! 親衛隊? なんだか知らねーがよ! テメー等……テメーには負けてやらねぇよ! 糞女!」 「『正義狂い』? もう少し綺麗な言葉をお使い遊ばせ」 茶化すように笑うルーナへと真っ直ぐに撃ち込んだ夜の畏怖。剣がオフィーリアにぶつけられ、ぎぎ、と鈍い音を立てる。 彼女が身体を反転させる場所へと突き刺さる甚内の矛。美しい女と戦えるなんて『楽しい』ではあるまいか。 面白い、と言う様に微笑んで。 「プリマちゃんの正義って何かなー? 戦争ってもともと政治手段であってーお互いの押し付け合いよねー」 くすくすと笑って。自分たちリベリスタより正義に狂った『戦争屋』を甚内は可笑しそうに見つめている。 盾が受け止める。弾丸が寸分狂わず撃ち込まれる。痛いじゃないと笑いながら、彼はもう一度踏み込んでいく。 「狂いきれないならおぜうちゃん、さー踊りましょー? 今此処で!」 「この……ッ!」 「言ったろ? 俺が剣だってよ。――ぶち抜けェェェ!」 全力で振り翳す。黒きオーラを纏った拳が其の侭直線状にルーナに振り下ろされる。女の眼が見開かれ、ぎ、と睨みつけたまま。 「『正義』とは、わたくしには到底理解できませんわ。悪事ですもの。戦争なんて。 けれど、わたくしは曲げませんわ。『正義』なんて生温い物では無く、己の血に刻まれてますの!」 「それが貴女の灯火ですか? 貴女の輝きが失われぬうちに。ボク達が摘んでおきましょう」 見据える両眼が細められる。 身体が、抉られる感触に親衛隊の女が「『正義狂い』め」と毒吐いた。 女の視線が旭へ向けられて、ゆっくりと細められる。光りが、其処に差し込める―― ●Einsamkeit 喧騒が耳を劈く様だった。サックスを握りしめ、紫色の瞳は周囲をきょろきょろと見回して居る。 こんな騒ぎの中じゃ気持ちのいい演奏なんて出来やしない。少女にも見間違う端正なかんばせを歪めて楓は小さく毒づいた。 「逃げれたと思っただろ? これ、敵陣のど真ん中なんだぜ……」 ははっ、と淡い息を吐く。逃げ出そうと、生き残りたいと願っていた割に、今踏み入れたのは『戦場』だ。 迫りくる親衛隊の腕に竦める肩は其の侭に、「嘆いても仕方ないよな」と囁いて、吹き荒れる癒しの音色。 楓の支援を受けながら毒(あまい)爪を振るいながら七は一歩下がる。攻撃を繰り広げる親衛隊を受け止める薬(にがい)爪が擦れる音を立てた。 「リヒャルトは居ないのに……まだ続けるつもりなんだね」 紫煙の髪を靡かせて、地面を蹴って飛び込んだ。赤い淵の眼鏡の奥で七が黒い瞳を細めて踏み込むステップ。華麗とも言えるソレは呆れの色を灯す瞳からは想像つかぬ優美さだ。 「……暫くはのんびりしたいなあ」 ぽそりと零す言葉に頷く楓。周辺の親衛隊が襲い来る。身体を捻り攻撃を避け、七が息を吐く。パーカーが頭から落ち、深くかぶりなおしたままにマイペースに彼女は唇を歪めて笑った。 「攻撃は、それでおわり?」 「劣等如きが!」 毒を履く親衛隊へ毒(くすり)を与えて、七が微笑む其処へと前進するのはヴォルター・クリストフ・ブルクハルト曹長だ。 振り被られるReagenを受け止めて、魔力盾を手にしたシキを手に雅が吼える。撫子一輪が指先で小さく光る。有り触れた日常を想いだし、彼女は距離を取りながら陣を展開していく。 (――あたしは、強くなるよ。絶対に) 決めた。戦い続けると言うならば。 「最後まで付き合って、『敗北』を刻んでやろうじゃねぇか!」 「君が鼓動を刻む回数は何度か。数えてみようじゃないか。1、2……」 囁く様に、クツクツ笑う男の前で、不吉を占いながら、雅は疾風の居合い斬りを避ける。頬を掠める攻撃に、小さな舌打ち。彼女を支援する様に、降られるいろはの大戦旗。 「……怖い」 ふるり、と壱和の足が震えた。子犬はぴくりと耳を揺らして深く帽子を被り直す。 臆病は、もうやめだ。怖い、そう思っても、此処で退いたら――ボクはきっともう立てない! 「ボクの腕でどこまで通じるか判りませんが、人には引けぬ戦いがあるのです」 それが今だ! 降られる旗に支援を受けて、髪を靡かせユーディスが前進する。青い瞳は真っ直ぐに男を見据えている。 壱和の与える闘いの効率動作を受けて、戦闘指揮の元、ユーディスの槍が唸りをあげる。 「このような状況でも、戦って勝利を掴まなければ己の存在意義を証明できませんか」 「己の存在意義は勝利の元に。故に祖国が為にッ」 ぎ、と睨みつける瞳に残念です、と俯きがちに。 仰ぐ空には『魔性』が笑っていた。アウフシュタイナー少佐――リヒャルト・ユルゲン。アウフシュタイナーの許ではない、他の誰かの手にあった『魔性』が空で嗤っている。 恍惚の笑みを浮かべ、楽しげに。 何処までもこの戦場が冷静さを保っているのは何かを『知っている』からか。 背後に存在する女の玲瓏なる瞳が細められるその感覚にユーディスが目を伏せる。 「よお? 曹長さんだったか? あたしはあんたらみたいな『執着』の強い奴は嫌いじゃねえぜ! でもな! 悪いがここで止めさせてもらう! あたしが先に進む為の、強くなる為の、糧になって貰うぜ!」 雅の声に、力を込めて大きく振るわれる旗。壱和の指示は全軍突撃だ。ヴォルターの剣で『生の紋章』――生きる意志が光り輝く。 「――往きましょう」 ぎゅ、と槍を握りしめたユーディスの足が進む。光る槍の切っ先が剣とぶつけられる。 軍人の存在意義は何か。命令その物か。忠義であるか。任務であるか。 その達成こそが己の存在意義だと言うのか。 「ブルクハルト曹長、軍人なら如何思おうとも命令には忠実……ですか?」 「数を数えるより簡単な質問を投げかけるお嬢さんだ」 野望と目的があるからか、目を細め、ユーディスはその両手に力を込める。ブルクハルト曹長と呼び掛けて、彼女は真っ直ぐに槍を振るった。 「『亡霊』とは呼びません。今を生きるその野心を――貴方達を、此処で討ちます!」 込められた意志の中、周辺に布陣するリベリスタの中に異様な集団が居る。戦場を見通しながら楽しげに笑うフツに茅根が可笑しそうに笑って見せる。 「今回も素敵に行こうか」 「まさかまた『この胡散臭い方達』と一緒に戦えるなんて感動で胸が撃ち振るえますね。どっきどきですよ」 楽しげに笑う彼等、【素敵過ぎる俺ら】の面々は前線を押し上げる。 くすくすと笑うのは彼等だけではない、フツの握りしめる魔槍が楽しげに少女の声音で語りかける。 「縛!」 縛り付けられる其れの後ろ、敵の御動きを止めながら、ちらり、と後衛に存在する『美女』へと視線を送りながら茅根は一人呟いた。 「美しい花には棘がある。まさにその通りになってしまいましたね。 でも知ってますか? 綺麗な花は散るのも早いんですよ。私はその姿をせいぜい愛でさせて頂きましょう」 その、散り際を含めて。 その言葉に反応したヤム曹長。攻防どれをとっても引けなく動く彼女の前に滑り込み、最後の教えで武器を受け止めたエルヴィンが小さく笑う。 「つれねぇな、こんな熱烈にアプローチしてるってのに」 「言ったでしょ? 貴方みたいなの、いっちばん嫌いだわ」 くつくつと笑うエルヴィンにヤムのお得意の小細工は通じない。仲間を支援し、視線を全て奪い続けると言うのは酷な話ではなかろうか。 「どうした、余所見してる余裕はあるのか?」 「女を誘うのに、貴方が余所見してるじゃない」 何処までも守り抜く。回復を行いながら『我慢比べ』をする生かしたがりは今は活かしたがりとなって戦場に立ち続ける。 腕で揺れる蒼玉のブレスレット、杖を握りしめその羽根を武器にふわりと飛んだニニギアの目はじ、とヤムを見詰めていた。 「今回こそは、」 逃がしませんと囁く言葉。最後列、攻撃が届く場所での支援役のニニギアにも思う所はあるのだろう。 癒しの息吹以上に、彼女が行う攻撃は何よりも破壊力が強い。癒し手二人は倒れぬ様にと周囲を支え続ける為の力を乞うた。 「しつこい女は嫌われるわよ」 「速い女はどうかしら?」 両の手に握りしめた武器。速度こそが力だと瞑は言った。早いだけだ、とヤムに告げられた言葉に瞑は一つ頷く。 速いだけ? 速いだけ、そうね、確かにそうだ。 「認めるわ。うちは早いだけなの。だったら速いだけなら速いだけなりに戦いを変えるわ」 速さを生かして戦い続けろ。瞑には復讐は無かった。小さな体躯を活かして滑り込む。 身体を反転させ、捻じ曲げろ。運命さえも支配しろ――運命よりも、速く駆け抜けろ! 「うちって負けず嫌いなだけだから」 侵略なんて許さない。イメージできるだけの、一番の技をここで、見せつければ良いだけだ。 痺れる様に至近距離で撃ち込まれた痛みに瞑が吼える。エルヴィンが支援を施し、『我慢比べ』をする最中、影人がニニギアを庇い遊菜がにゃ、と跳ね上がる。 「つい3分前に仕える様になった影人にゃ! 知ってたか、しんえーたい! リベリスタは戦いの中で成長するニャ!」 胸を張り、自慢を行う様な遊菜に、そう、と目を細めるヤム。周囲の親衛隊が攻撃を喰らわせる中、自分を捨て駒にしても良いと遊菜は意気込んで前線を見据えている。 ここだ、この場所に『鴉』を放て! 「実は遊菜って負けず嫌いなのニャ」 リボルバーが火を噴き、ジルベルトがくつくつ笑う。『いやらしい曹長』と呼びかければ、女の視線が一度、向けられた。 「よぉ? アンタの中尉――ジャガイモは土に転がってんのが似合ってんじゃねェかァ?」 くつくつと笑いながら、告げる声。ヤムの眼が向けられる。ジルベルトは真っ向勝負を行う気はないと身体を逸らす。 マフィアのボスたる自身の今までの経験を生かし、青年は機械化した舌をべ、と出して嗤った。 「ジャガイモね、戦いにいらっしゃいよ」 「土産に刻んでやるぜ。俺様の弾丸をよ! モテモテは嬉しいがジャガイモはお断りだ!」 次の生命にラッキーを、告げる様に引かれた弾丸にヤムが身体を逸らす。其処へと真っ直ぐに刻まれたニニギアの呪言。浄化の炎が燃やされて、小さな舌打ちが響く。 「……敵が何であろうと誰であろうと構わないわ、黒鎖で溺れて貰うだけですもの」 囁いて、杏子が首を傾げて見せる。色違いの瞳は、真っ直ぐにヤムを見詰めていた。彼らはチームを組んでいるとは言い切れぬ。 同じ戦場に確かに共に居るとそう決めて。バラバラの標的の中、攻撃を続けていくだけだ。 前線に推し進めながら親衛隊を掻きわけて茅根がヤムへと接触した。リベリスタの猛攻が、真っ直ぐに飛び込んでくる。 瞑がにぃ、と唇を歪め、腹へと突き立てる一撃。 「速いならその分頑張って頑張って、間に入り込む、言ったでしょ。うちは負けず嫌いだって」 刹那、少女の体が吹き飛ばされる。与えられる回復に、至近距離での攻撃を受け止めきれず瞑が血を吐き睨みつける。 伸びる杏子の黒鎖。毒を食らわば皿まで。全て飲み干し、そして、欲しい未来が為に。 終わらせる。此処で、全て。 「負けませんわ……手を休めてはいられませんから」 睨みつけたその言葉に、ヤムがくすり、と唇を歪める。我慢合戦。競い合い。 鎖が絡み付き、弾丸が降り注ぐ。光りが、身体を焦がす事に小さな舌打ち、身体を捻り避ける攻防が激しくなっていく。 それはどこも同じであった。至近距離でユーディス、フツ、そして雅の相手を行いながら、ヴォルターは趣味の数字を数え続ける。 周辺の親衛隊対応、そして本丸である指揮官を落とさんと動くリベリスタ達にとっての前線で戦うヴォルターや攻守様々な動きを展開するヤムの存在は御しきれぬ物であったのかもしれなかった。 対応者の多いヤムが苦戦し出した頃合い、前線で戦うヴォルターが丁度数字を100数え切った時、フツが真っ直ぐに踏み込んだ。 「……確かに早い。簡単には当てられねえか。 だがな! バルタザールに比べれば隙だらけだぜ! 貫け!!! 深緋――!!」 呼び声に応える様に深緋が尽きたてられる。貪欲に、貫いたのは生の紋章。 その剣がぴしり、と罅が入る。 折れる切っ先を放り捨て、ヴォルターが睨みつける様にフツへと折れた切っ先を振るう。 剣が折れても戦うと、その意志に面白いとフツは笑う。 死ぬならば怨めばいい。念仏は今日は唱えて遣らない。その渇望が、怨念と化すならば。 「存分に怨めよ。オレが今から殺すんだから」 「ほら、もっとだ。掛かって来いよ! お前らが死ぬまでのカウントダウンをしてやるよ!」 ●Geheimnis 「うおお、さいしゅーけっせんなの!! だいじょーぶ、ミーノがいるよ! どんなぴんちでも!!」 震える手に力を込めて。リュネットを掛けたミーノが仲間を鼓舞し続ける。 『すてきなみんな』――仲間達を応援する彼女は最初から全力だ。己の力100%を出し切って。仲間達が抑える間をすり抜けて、前線へ、指揮官へ向けて歩む仲間達を応援し続ける。 ミーノが授けた翼を背に色違いの瞳を細めながらリュミエールが特攻していく。ミーノの傍を離れ、真っ直ぐに進む先にはクリスティナ。 「ヨォ? クリスティナ。 私が全部使い切ったらヤレルのはせいぜい一分程度ダ。その時間全部お前にぶつけてやるよ」 「一人でそうして飛び込んで意味があるとでも?」 嘲る様に笑う女にリュミエールがくつくつと咽喉を鳴らした。ミラージュエッジの切っ先がクリスティナの周囲に存在する精鋭たちにぶつけられる。 掠めるそれに、足が一歩下がる。身体の中を走る電気信号。もっと早くと願うそれ。 速度こそ己の力になるのだから、護りたい人が、そこにいて。護らなくちゃいけない場所が、ここにあって。 「クリスティナ、ドウシタ? ナンデそんな表情を歪めてヤガル。 ……ああ、安心シタヨ。テメェハ、化け物デモ女狐デモ何デモネェ。唯ノ有り触レタ人間ダ」 「人間が怖い、という言葉は聞いた事はありませんか」 広がる神秘の閃光に、リュミエールの足が止まる。九つの尻尾が揺れ、足の力を込め直す。 鼓舞する様にミーノが祈る。名前を呼ばれた。確かに聞こえた。 私ハ、お前ヲ護ル為ニ此処にインノニナ。 「――いこう! たいへんなたいへんなたたかいだからこそ、ミーノはみんなをげんきにおーえんするのっ!」 頑張ろうと励ます声に前を向く。未だ遠い、とそう思わせる。 それは黒も一緒だろう。鉄槌を握りしめ、ふるりと震えた身体に彼は緩く笑う。 「こんな素敵なキミ達と、また肩を並べられるのですね。わたくしは喜びに胸筋が打ち震えております」 優しく笑う、母校の印を胸に、前線へと真っ直ぐに。 指をまっすぐにのばし、全力で飛び付いた。モットーは腕力と重さ。そして一番大事なのは履いていない事だと黒はそう自負している。何故それがいちばん大事であるのかは当人ならではの拘りなのだろう。 「鎖蓮黒、万年厄年。紳士として、母校の名に恥じぬよう。精一杯参ります」 彼の頬を撫でる優しい風。それを感じた気がして――彼だけかもしれないが――そっと顔をあげる。 (……エフィカさん……) そっと呼んだ敏腕マスコットの名前。言葉にせずに浮かべた微笑に何処かで彼女がぞわりと背を震わせた気もする。 全力で振るう鉄槌。力を込めて、振るった其れが雷撃を纏い親衛隊の体を吹き飛ばす。 背後に存在する女に向けて、視線を送り、ハイ・グリモアールを抱き締めたソラが小さく欠伸を噛み殺す。 何時もは眠たげなソラの眼に浮かんだのはやる気だ。攻勢に徹する。踏み込んで、時を切り刻むそれを止める事は無い。 「クリスティナ……だったかしら? 討たせて貰おうじゃないの」 「中尉の元へ往かせるか!」 振るわれた剣を邪魔よ、と避け指さを滑らせ、攻撃を繰り出した。マグミラージュ。素早さを手に入れた魔術師は白衣を揺らし、幼さの残るかんばせに笑みを浮かべる。 「劣等? 本気? ……獅子は兎を狩るにも全力で尽くす精神的な? この期に及んでそんな考えを持っているなら私達は狩れないわね」 何度だって立っている。癒しを送る事が出来る、仲間達が攻撃を続ける事が出来る様に、立って居られるように。 「何度も獅子を撃退するために足掻いてきた兎がそう簡単に狩られると思う?」 負けない、と踏み込んだ足。小さな体躯を捻り、攻撃を避けるソラを支援する様に、不吉の赤い月が昇りくる。 グリモアールを抱きしめて、レンは息を吐く。前線で戦うソラの背中、全力で走るリュミエール。 「ここで踏ん張らなければ俺達に明日はない。全てを取り戻すため。俺は前に進む!」 兄が言っていた。此処が、境界線(ボーダーライン)だと。 敵陣全体を見渡して、翠の瞳が揺らぎだす。弾丸を避け、金糸が舞う。祖母のブレスレットが力をくれる。 dear my brotherを握りしめ、震えながら想いを紡ぐ。 「血がモノを云うんじゃない。人は、心で言葉を紡ぐんだ」 一人じゃない、と知っているから。 「ソレが分からないお前たちは、俺達には勝てない! 全て、破壊し、全て、返してもらう!」 「破壊だと!?」 「――なら、支援しないといけませんね?」 ワンドがとん、と地面を叩く。マジシャンは笑顔の為に戦うのだから、ラージシールドを突き出して、アンコールを求める様にくすくすと笑いだす。 シルクハットを抑え、仮面の向こう、加護を与えた男は弾丸をラージシールドで受け止めた。 仲間達へと癒しを送り、『アンコール』というハードなステージに楽しげに目を細める。 「さてさて、今宵のショーは満足していただけたでしょうか? 間も無く終演となりますが、最後までお楽しみください」 そう告げる楽の声にアンコールだと両手を叩く。英霊聖遺物を手に、『素敵過ぎる』彼は顔を出しくす、と笑った。 「すまない、またなんだ。さあ、皆、頼りにしてるよ。共に運命を切り開いてくれ」 え、エンジェルちゃんと笑ったイシュフェーン。彼の周囲に飛ぶ『エンジェルちゃん』に彼は喜ばしいと笑みを浮かべる。 空から降り注ぐ火焔弾。目指す敵は一人だけ。あの時、水の音の中、見据えた玲瓏なる美女の顔。 歪む顔が見たい。あの時、冷静だった彼女の顔。かわっているだろうか。 「やあ、クリスティナ君。僕だよ。つい先程と違って、今のキミの顔、真剣味溢れてて大変に愉快なことになってるね」 「……どういう意味ですか」 楽しげに、エンジェルちゃんを見守るイシュフェーン。あくまで己は戦わず、エンジェルちゃんに全てを任せ切った戦闘スタイルは彼ならではと言えよう。 馬鹿にする様な笑みは前と変わらない。唯、その目が見据えたのはクリスティナ中尉その一人だ。 「どうだい、渇望を妄執を執着を再び取り戻した感覚は?」 「この胸には渇望は元から沸き上がっていた。それが判りますまい」 その言葉に、満足したようにイシュフェーンが小さく笑う。そうだ、強敵なのだ。彼等は強敵なのだから。 だからこそ、続くのか、この戦いは。そう思うたびにアガーテの小さな胸が締め付けられる。 知らなかった人の渇望。その感情さえも不思議な物に思えるのだから。 「……まだ、戦いは続くのですか? それとも全てはこの為だったのでしょうか?」 不安だけ、目の前で戦う仲間の背中を見詰めるたびにアガーテの胸が締め付けられる。イシュフェーンの連れるエンジェルちゃん――フィアキィが舞い踊るのを見据え、小さな両手に力を込めた。 朱を握りしめる手に力を込める。氷精はふわり、と揺れ動き、周辺を飛び交った。 「折角頂いたこの力。今使わないで、何時使うと言うのでしょう。一緒に戦う皆様と、今度こそ嗤って終わりを迎えられます様に」 そう囁き、彼女は全力で戦い続ける。倒れた仲間は誰だって救いに行く。アガーテはそう決めていた。 アガーテの支援を受けながら影を纏った麗がショットガンを構えて黒き瘴気を打ち出した。 痛む傷を抑えながら、やれるだけでもやってやると仲間達を庇い続ける。回復手を狙う攻撃があれば一番に救いに行く。 「俺は……自分が望むままに生きるだけだ」 囁き、色違いの瞳が捉えたのは襲い来る親衛隊だ。攻撃を受けながらも、彼は真っ直ぐに戦い続ける。 弾丸で舞う髪など構っていられなかった。眼鏡の奥で瞳がゆっくりと笑っている。彼の隣でくつくつと笑みを零しゆっくりと前進するアーゼルハイド。 ファイアのほんを抱きしめて、「本気の攻防」という言葉に楽しげに唇と吊り上げる。 本気になる。超越者を気どり劣等と見下した結果が現状であると言うのに、今から本気だというのか。 「今更本気などと。逆境を打破する『人間』の英雄達に対してだ。最高の笑い話じゃないか、なあ?」 同意を求める様に呟く言葉に『素敵過ぎる』彼の仲間達が頷いた。囁く青年の顔を見据えながら親衛隊が前進する。 その腕を黒き鎖が絡み付き、それ以上動く事を防いでいく。 「『少しだけ本気』を出してやろう。 それが人間の可能性を捨て、今人間の可能性に追い詰められている君への餞別だ。是非受け取ってくれたまえ?」 「小癪な……!」 送り出す、と『少々本気』を出したアーゼルハイドが笑えば、ブロウ・ヒュムネⅡを握りしめたイセリアが前線へと繰り出さん勢いでぎ、と敵陣を睨みつける。 「ふっ……似ているな。戦場と言うのは何処であっても渇望に満ちている……。 クリスティナ中尉と言ったな。剣姫にして剣鬼イセリア・イシュター。 冥途の土産に覚えておけ。その渇望……すぐに絶望へと変えてやろう」 「……貴女はお強いのですか?」 あたりまえだと言う様に、剣を抜いた『剣一筋』なイセリアのとった行動は仲間達とは少しばかり変わっていた。 仲間を庇い、攻撃力や命中力の高いリベリスタを敵陣へ往かす事を一番に考える 「私が下手に攻撃するよりそういう奴に一撃でも多くダメージを入れて貰った方がいいからな!」 ドヤ顔を浮かべるイセリアに頷くアーゼルハイドも少々の本気を出して居るだけだと仲間を送りだす事を一番に考えていた。 渇望、その言葉に「一杯のビールが欲しい」と零すイセリアに終わったらそれも良いんじゃないかと頷いた幸蓮が戦闘の効率動作を与えていく。 マジックガントレットを付けた両手を組み合わせ、仲間達を回復する彼女を狙う攻撃を麗が受け止めた。 「成程、素敵な名前に、良い顔をした面子が集まった様だな。 渇望の書は鬼札、ならば添える札もぬかりは無いだろう」 だからと言って負けて張られないと、幸蓮が告げるその傍らで震えながら小五郎が周辺を見回した。拡声器を手にしながら、心臓に悪いと思わしき程に声を荒げる。 死なないでと気を配る幸蓮に若い者には負けられませんのぅと緩く返す小五郎。 「もう一息ですじゃ……。皆で箱舟の力を示しましょうぞ……!」 もう一息だ。あと少し。不幸なあの日を思い出すたびに胸が痛む。 得た翼。この年老いた身体でも役に立つと言うならば―― 「一人でも多く未来ある若者達を救えるならば、じじぃ一人の命等安いもの……」 生き残る、とそう告げて、小五郎が降らす雨。その合間を縫って回復を与えていく幸蓮が前線を見詰めた。 踏み込む足は止まらない。仕掛け暗器を手にアメリアはバイクに乗りながら、周辺の親衛隊へと殴り掛かる。 戦場を引っかき回す。今は運転に苛む者は何もないのだから。戦い尽くす。 真っ直ぐ、自分が出来る事を一つでも、アメリアは声を荒げ、魔力銃から弾丸を打ち出した。 「あたしは鉄砲玉! 戦場を飛び交うのがお似合いなんだよ!」 その言葉に『先の大戦』を思い出す芙蓉の瞳が曇る。臥龍桜花「宵霞」をぎゅ、と握りしめる手に力がこもった。 余り気が進まない、けれど、最後の最後まで若者に任せるのは芙蓉とて納得いかない。 「……二度とあの悲劇を繰り返させないよう、微力ながらお手伝いさせて貰いましょう」 宜しいですね、と微笑んで、芙蓉が行う癒しの息。攻撃手段は自分には少ないと芙蓉は言った。 だが、抵抗の意志はある。『おばあちゃん』であっても強く生きて歩むとそう決めているから。 「皆さんが全力を出せる様、精一杯頑張りますね」 ぎゅ、と手に力がこもる。負けない様、先の戦いを知っているから。もう繰り返さないように。 「戦いとは愛しい者達の未来の為に……」 だからこそ、戦うと、アメリアが告げ、小五郎が祈る様に囁いた。 その声に頷いて侠治の手が散華を握りしめる。クリスティナの元へと向かう仲間の支援を行い、回復を行っていく。 前線で戦い、傷つく仲間を癒す手を止めやしない。 何故戦うか――愚問だった。『世界』より大切な物があった。それは親衛隊達と一緒であろう。 彼等は大切な物を胸に抱いていた。彼等は、何よりも大事な物を手にしていた。 「君達は確かに祖国のために戦った、護っていたのかもしれない。だが、今は恨みと無念を晴らすために戦っている」 一声。感情が真っ直ぐに飛びだした。侠治の感情が真っ直ぐに親衛隊へと響いていく。 何よりも、護りたい物が侠治にはあった。世界を壊しても良いと思えるほどに大切な物がそこにはあった。 何時からだろうか、それ以外に目を向けれる様になったのは。彼等と同じであった自分を捨てたのは。 「ならその道を捨てた物として『俺』は、お前達を止めるッ!」 クリスティナの瞳が向けられ、視線が逸れた傍ら、飛び込んだのは四色の光であった。 「いい加減終わらせようや、こんな下らん戦争は」 呆れる顔で、囁いて、音羽は弟の支援をする。前線へと飛び込む弟を支援する様に重なり合う光りを見詰め、万葉は周辺の親衛隊へと気糸を重ねていく。 「さって、いきましょうか」 眼鏡の奥で瞳が嗤う。音羽を支援して、与えていく攻撃への力の源。背後で祈る様に指を組みあわせたアゼルは前線に進む仲間へと癒しを送っていく。 「皆さんを無事に帰すのがあたいのお仕事なのですよー」 クロスを握りしめる。戦闘の優位性を求めるアゼルの手元でアクセサリーが揺れ動く。回復を貰いながら、音羽が前線へと赴けば、【雪】の面々はその足を俄然前へと進んでいく。 「ごく普通のか弱い吸血鬼、セレアでーっす☆」 笑いながらセレアの髪が靡く。遣る事は単純だ。黒き鎖が真っ直ぐに絡みつく。クリスティナの周囲の親衛隊員を狙うそれは嫌がらせだ。 「雪白さんが死ぬと困るのよ。たらしって罪よね? 可愛い女の子泣かす訳にはいかないから」 くすくすと笑う。頬を掠める攻撃にセレスは困った子だわ、と小さく零す。攻撃を行う彼女を支援する万葉に礼を零し真っ直ぐに扇子を向けた。 「戦術とは嫌がらせの最上級だ、って、誰の言葉だっけ?」 「さあ? 判りませんが。そうですね、無理をなさると中々そそる殿方ではありますが、心配ではあります」 くす、と笑い、和服を纏った佳乃が銘刀「冬椿」で弾丸を受け止める。アゼルの身を守りながら、髪を揺らす。 噛みつかんとばかりに親衛隊が襲い来るソレに真っ直ぐに振るう切っ先は揺るぎない。 その体を吹き飛ばし、佳乃は懸命に受け止める。攻撃を喰らい続ける親衛隊の精鋭部隊を見詰めて、イシュフェーンが小さく笑った。 「君はとても強敵だった。どうしようもないくらいね。だから、僕は、君を…殺すよ」 「改めて御機嫌よう、超越者。『人間』に突き立てられる牙はなかなかに痛く、快感で、最高に素晴らしいと思わないかね?」 だん、と地面を踏みしめる。目の前に現れる桐をクリスティナが受け止める。 アーゼルハイドの言葉に周辺の親衛隊に指示を送る彼女の指先が小さく揺れ動いた。まんぼう君が受け止められて、くすと笑った桐は止まる所を知らない。 「前回二人で突っ込んだからお前達は愚かだ、ですか。 少なくとも貴女はそれに対応して私達に攻撃を向けた。他への攻撃が減った時点で十分だったんですよ?」 「私の攻撃は支援を行うものが中心だった。故に、貴方に攻撃を行う手を緩めても、私に届く手が少ない以上」 「いいえ、今回は二人じゃない。だからこうして、届く」 真っ直ぐに、生と死を分かつ勢いを込めて。振るったソレ。受け止めるクリスティナが一歩下がった所へと、『創作物』が滑り込んだ。 「キサが創ってあげるよ。勝利って奴をね」 綺沙羅ボードⅡの上に走る指先。氷雨が降り注ぎ、レンの赤い月と重なり合った。 負けやしないと言う強い意志のレンの周りで影が舞う。綺沙羅の周囲で支援する式神が来るべき時を待っていた。 超直観で見通す視界。近寄って、見てみたい。 クリスティナの前で全部が全部の攻撃を。彼女が編み出した『情熱』を手に入れたい。 「非効率的だけど特等席で見せてくれる? キサは創り出す者」 影人が彼女を守る。極限まで集中を行う式神の姿。クリスティナの至近距離に近寄る彼女を攻撃する手は多く、彼女を傷つける。 「――式が庇い手や唯のブロッカーだなんて誰が決めた?」 一気呵成。一気に攻撃を繰り出した。女へと至近距離で浴びされる攻撃に、一歩下がる。 ぎ、と睨みつける視線に目を付けてくす、と唇を歪めた杏香。 後衛位置でリーディングでクリスティナの意志を読み解こうとする杏香。嫌がらせだと、思考を読み解き、大声で云おうとした傍ら、流れ込むのは『嫌がらせ』には程遠い情報だ。 (――……何をしているのですか?) 囁く様に、女の凍てつく声が響き渡る。戦闘の意欲なく、嫌がらせの為に戦場に残っていた杏香の行動にクリスティナが一つ、手招いた。 幾ら後衛に存在しても、幾ら自身が戦わずとも、相手は戦闘意欲に満ち溢れこれは乱戦だ。 弾丸が飛ぶ、杏香の体を貫いていく。危機に足を一歩引く。ヘルガがハイ・グリモアールを手に癒しを行いながら、じ、とクリスティナを見詰めていた。 平和な時間が欲しい。誰かと安らげる時間が欲しい。その為には―― 私は、強くなりたい。 貪欲だと笑われるかもしれない、強欲だと罵られるかもしれない、それでも、求めたいから。 「回復だけが皆を支えられる手段じゃないって気付いたから……似合わないのは重々承知だけど、私は」 力が、欲しい――! 手を伸ばす。だが、その手を払う様に神秘の閃光が投擲される。指揮官の女の掌は未だ返されぬ。ぎり、と唇を噛み、ヘルガは祈る様に両手を組み合わせた。 (護るための、力が欲しい――! 支えるだけの、力が!) 「思い立ったが吉日じゃあないけどさ、ヤりたいからヤる。人間ってそんなモンでしょ。 なんつーかさ、なんで此処で命張るの? ってカンジだけどね」 笑いながら、宵子の覚悟は燃えあがる。 周囲の人間が護ると、そう言っていた。運命を燃やし上げる。自分が此処で死ぬかもしれないと、知っていた。 誰よりも、手負いの獅子はそれを実感して居たのだろう。 「私が、私である為にッ!!!」 牙なき獣? 劣等の猿とでもいうのか。笑わせる。どちらの渇望が深いのか。 牙を突き立ててやる。己が勝つ意思は強いのだ。矜持を込めた一発。 「冥土の土産に覚えておいてよね。私の本当の名前―――って言うんだ」 意志は、強かった。そうだ――あの街が、三高平が、好きだから。 「アリアもリベリスタの一人だ。みんなが頑張ってる時に頑張らないのはバッテンベルグ家の名に泥を塗る」 長い髪を靡かせて、宵子の拳の下をすり抜ける。アリアの力が込められた拳。 自分だってできるから、年若い少女はそう思う。たった一撃でも、かすり傷でも、それで敵を倒す力にできる。 渾身の力を込めて、踏み込んで、敵を撃て――! 「アリア・オブ・バッテンベルグ! お前に一撃喰らわせたリベリスタの名だ! 墓まで持っていくがいいのだ!」 全力で、踏み込んだ。身体を投げる様に近寄って、強くない自分でも立って居られなくても。 たった一撃でも良いから。 「この拳が動かなくなるまで、アリアは戦い続ける!」 桐の切っ先を、アリアの拳を、真っ直ぐに牙を突き立てる宵子を、受けとめながらクリスティナが放つ真空刃。 ぴくり、と綺沙羅の肩が揺れる。解析するにはデータが足りぬ。もう一度と乞う指先を弾く刃に小さな舌打ち。 それを避けながら、真っ直ぐに踏み込みながら笑ったのは朔であった。葬刀魔喰が魔的な光りを放つ。 彼女が抱えていた魔術書の如き光は、『彼』と同じ席に並ぶ魔女の作った物だからであろうか。 「『閃刃斬魔』、推して参る」 言葉少な。真っ直ぐに振るう切っ先。攻撃を受け止める電鞘抜刀。 息など付かせない。余裕など与えない。間など必要ない。無限のの剣閃で斬り刻む――! 推せ、其の侭真っ直ぐに。 桐の渾身の力を込めた攻撃が、クリスティナに受け止められた。ぎ、と睨みつけるその眸に体が凍る。 隙間をついて、朔が真っ直ぐに潜り込む。光の飛沫をあげながら、その足を止めないままに。 「――良い顔だ。勝利を求める闘争者の顔をしている。そう言う相手と戦ってこそ、戦には価値がある」 踏み込んだ、指揮官を守る様に踏み込む親衛隊など構いやしない。再度彼女が放つGeheimnis(ひみつ)。 まるで、クリスティナの渇望を表す様に、研ぎ澄まされたソレ。 負けるわけにはいかないと親衛隊の声が響き渡る。 「私は蜂須賀朔。名乗れ猟犬」 「……クリスティナ。アーネンエルベ特務機関付き中尉、クリスティナ。覚えておきなさい」 至近距離で投擲される神秘の閃光。朔の足が止まる。 これを人は悪足掻きと呼ぶのだろうか。 「我々は負けてはならない。祖国が為に! この思い、解りますまい!」 「リヒャルトが死んで、本も手から離れて、後に何が残るっていうの? キサは何もないと思うけど」 小さく囁かれる言葉に唇を噛み締める。負けてられないと指先が指示を出す。 言葉を浪費していく。冷静であった女の顔は最早その『仮面』を脱ぎ捨てていた。 普通の人間だった、とそう告げた。その言葉に一番驚いたのは誰であろうか。感情を表さぬ鉄の亡霊であったのは誰であろうか。 時に、クリスティナの事を『Eiserne Jungfrau』と称する物も居たらしい。 彼女がその名を自称するかはさて置いて、感情を灯さぬ彼女を称するに相応しい言葉でだったのかもしれなかった。 ――それが、このザマか。 降り注ぐ綺沙羅の氷雨に、鼓膜が擽られる。 思えば、『何時』だって、水の音を聞いていた。 あの日、彼が復讐に燃えあがった硝煙の臭いがやけに鼻につ居た時。 あの時、水の音を聞きながら渇望を食った『彼』が満足したと嗤いだした時。 耳を劈く声を聞いた時、冷静に思ったのだ、『死んだ』のだと。彼が死んだのだと。 「これが、終わりだと簡単に諦められる人がおりますまい」 「それでこそ、だ。親衛隊!」 踏み込んで、朔が吼える。真っ直ぐに、力も心も込めながら振り下ろす一閃。 切り裂くソレに、掌が痺れる。足が一歩振るえる。それでも朔は止まらない。 「ッ――これで、終る筈が!」 負けるわけにはいかないと吼えたのは誰か。 声が響き渡る。切り裂く音が、肉を絶つ音が。呼び声がする。折れた剣を握りしめ、未だ戦う青年の声が。 ふと、見上げれば空にはまだ『彼』が居た。浮かび上がる『彼』の魔性に女の唇がつり上がる。 ひゅ――と、一閃。 さあ、と血の気が引いていく。段々と、音が少なくなっていく。 もう水の音も聞こえやしない。 どこかで、誰かの声が響く、歓声か。それとも。ひたひたと近付く死の足音しか、聞こえやしない。 遠ざかっていく、まだ、と声を発するソレに静かに返すのは朔の一声のみだった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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