●ばくはつしろ 道を行く男女が、憎い。 手を組み、言葉を交わし、幸せの絶頂にあるそれらが憎い。 家族連れが憎い、交友を深めるグループが憎い、いっそ世界すべてが憎い。 憎くて仕方がない。世界を呪ってまだ足りない。 言葉が真実になるように、言葉を紡ぎ続けよう。 「爆発、しろ」 呟く程度の独り言。直後、男の足元の石畳が小さな音を立てて爆ぜたことに気付いた者はいても、その理由について理解できた人間は居らず―― 彼の言葉は、文字通り「言霊」となって、夕暮れの街を火の海へ変えた。 ●それもどうなのか 「『リア充爆発しろ』……実にアクティブでスタイリッシュな恨み言だと思わないかい?」 普通思いません。白い目で自らを見返すリベリスタ達を前に、『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)は「音楽性の違いってやつかな」、と肩を竦めた。ちげぇよ、音楽性どこに関係あるんだよ。 「まあ、何にせよ仕事だ。敵はフェーズ2のノーフェイス1体、E・エレメント5体。後者は何れもフェーズ1だが、ノーフェイスに従う形で動くから連携に関しての性能は高いだろうな。そして、肝心の能力だが――特性はエクスプロシヴ、つまり爆発だ」 うわー、すっごい分かりやすい。 「メインになるノーフェイスの爆発は、威力こそ弱いが範囲が広く、着火し易い特性がある。よりアンハッピーなペインを与えたいって気持ちが強いんだろうな。大して、エレメントは彼の言霊とでも言うべき存在だから、存在自体がアンノウンに近いし、場合によっては攻撃1回で消滅する。その分、威力は異常に高い……もしかしたら、こいつの方が厄介かもしれないな」 明らか嫉妬の炎じゃないスか。配下のが強いって本末転倒ですけど。 「まあ、どちらが主でどちらが副かなんて、倒されるべき相手にはタイニー・プロブレムってヤツだ。下らないヘイト・フレーズはスルーしちまってくれ」 伸暁は本当に相変わらずな台詞で、リベリスタ達を送り出すのだった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:風見鶏 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年07月21日(木)00:28 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●醸成される熱気 つまらない人生を送っていたと思う。下らない末路が待っているとも思う。別に、それでいいとも思う。ただ、そんなふうに諦観できる俺の裏で、人生と運命に愛されて青春を謳歌して恥じるところのない奴らが蔓延るのか。人生いいことなんて無かったけど、無かったからこそ、そういう人種が妬ましい。 失敗ばかりする傍らで成功して笑っていられるその立場に妬み、怒り、果ては呪う。そういう生き方を出来る自分というのもどうかと思わないことも無い、が―― 「どうする?これから皆でカラオケにでも行くか」 「いいねー! 最近歌いにいってなかったから!」 「はは、僕は歌うのは苦手ですけど、聞いてるのは楽しいんで歓迎ですね」 「次は何処に遊びに行こうか、もうすぐ夏休みだし海もいいよね!」 楽しそうに往来を行く男女6人……その誰もが見目麗しい人物ばかりなのも、目を引く。男性たちは誰もが「それらしい」雰囲気を持っているし、こと金髪の青年などスケボーまで抱えてカジュアルな雰囲気全開だ。さぞやモテるのだろう。女性陣は何と言うか、どちらも控え目なのが素晴らしい。言っておくが、決してそういう趣味ではない。しかし、それでも魅力は十分にわかる。日本人離れした美しさというか、恐らくはガイジンさんなのだろう。ああ、妬ましい。 「そういえば、祭雅は……彼女とはどうなっているんだ?」 「はは、どう言ったものでしょうかねぇ。彼女はいい子ですよ、とても」 「いいねぇ、順調なんじゃないの? うりうり」 サイガ、と呼ばれた年長らしき男性が恥ずかしそうに頬を掻く。彼女持ち……か、と胸の奥がちりと燃える。 「爆発しろ」 聞こえぬように小さく呟くと、パチン、と空気が爆ぜる。そうそう、最近起こるようになった変事だが、これが意識してできるのならばそれでいい。それがいい。 「なぁなぁ、今度は二人でデートでもいかねぇか?」 グループ内、殊更雰囲気が軽そうな青髪の男が緑髪の少女へ語りかけている。少女の方も殊更に嫌がる様子もなく、悩むように感じるのが憎々しい。 ああ、世界はこんなに幸福で満ち満ちているのに、それが一部のリア充にしか行き届かないなんて―― 「リア充、爆発しろぉぉぉぉぉォオ!!」 苛立ちがピークに達し、喉奥から迸る叫びが地面を穿つ。商店街ごとすべて吹き飛ばしてしまえ――そう思った瞬間、周囲の空気の張り詰め方に疑問を覚え。 「後ろ向きだなぁ。そんなんじゃ幸せになれないぜ?」 突如踏み込んできた警官(らしき)男に、横合いから吹き飛ばされた。 ――と、まあそんな感じで。 『墓守』アンデッタ・ヴェールダンス(BNE000309)、『誰が為の力』新城・拓真(BNE000644)、『臆病強靭』設楽 悠里(BNE001610)、『正義の味方を目指す者』祭雅・疾風(BNE001656)、『小さき太陽の騎士』ヴァージニア・ガウェイン(BNE002682)、『ドアキッカー』ブルー・マックス(BNE002685)の6名による華麗なるリア充劇場により、ダウナーボマーさんはまんまと商店街から誘導されて包囲されていたわけで。それもこれも、彼らが装うために始めたリア充会話が思いの外盛り上がり、誘導の意図を超えてそぞろ歩き(指向性はあったが)をしているうちに、意識をそっちに向け続けたボマーさんがついていっていた……冗談のようでマジである。こと、疾風は冗談抜きでリア充であるし、拓真とて好意を持つ相手は居る。男女の関係性すべてをリア充とは呼べないが――ブルーは、明らかに口説く気だった。十分リア充である。 さて、こうもド派手に爆発しろだの爆発しましただのショットガン乱れ殴りだの、明らかにE能力がない人には異常事態でしかないわけだが、何でこうもあっさり事態が進んでいるのだろうか。……事態は、少し遡る。 ●(非) 非常にどうでもいい話だが、『バーンドアウト行者』一任 想重(BNE002516)もまたリア充に対して思うところのある人間である。そも、リア充の定義からして色々と問題がある気もするが、そこまで説明せずロックで済ませてしまうのがアークのフォーチュナである。無情甚だしい。 「え~、爆発物が存在する旨の通報があった為、危険ですので、付近の人は避難してください……と、こんなもんかのぅ」 「お疲れさん、こっちも大体終わってる……あとは誘導が何とかやってくれるだろ」 警官姿の想重をそう労うのは、自身もまた警官姿に扮した『終極粉砕機構』富永・喜平(BNE000939)だ。彼らは、予め警官の衣装を調達し、事態に及んでいた。と言っても本物ではなく、飽くまで『変装』。彼らなりに装備は整えられたかも知れないが、そこまで装えというのも酷な話だろう。尤も、一般人でそこまで見る人間は居ないし、彼らの常ならざる雰囲気は却って治安の維持を確固たるものとして認識させるに足るものだったと言える。存在感の勝利というやつだ。 「案外簡単に行ったもんじゃのぉ……」 「人柄っつーか、心理じゃないかな? わざわざこんな時間に騒ぎに巻き込まれて帰宅時間遅れたら、洒落にならんし」 「ふむ。何というか無情じゃな」 喜平の推察に、想重がやれやれといった風で溜息をつく。修行の日々が長かった彼にとってみれば、そんな単純な人間心理でも思うところは少なからずあるのだろう……結局、やることは一緒だし、と。 「じゃぁ、やるとするか……手執利剣 聞鍔鳴聲 十方一切 法界囲繞!!」 想重の裂帛の気合のもと、人を寄せ付けない強度の結界が四方を包む。接近者が居るとすれば、彼らとその仲間、そしてこれから倒すべき――ダウナーボマー、その人である。 そして、事態は序盤に戻り。喜平がその全力をしてショットガンで殴り飛ばした後。 「貴、様、リア充か……!」 「――ワカる。ひじょーに良く解る話じゃ」 先制をモロに浴びてもんどりうったボマーは、続いて堂々と近づいてくる想重、そして伸ばされた手に目を白黒させた。だが、相手の視線に宿る同族相憐れむ雰囲気満載の視線に、直感から手を伸ばし返した。こんなところで、非リア充同士親交を深めてしまうのはまあ、ほら直感ってヤツ? 「しかし……言っとくがな、顔の作りが良くてもモテる訳ではないぞ!」 切々とその一言を紡ぎ出す想重、その背後で――小爆発が吹き上がる。瞬間、ボマーは察知する。自らの恨み言ごと切り取られたこの不快感。確実に、彼らは戦うために現れ、自分の目的を潰すために騙し討ちを画策したのだと。想重にそんな意図はなかったのだが、結局のところ、悠里の一撃が不意をつく形になったのは否めない。 「ドッカンされちゃあ困るからね!」 ボマーの周囲数メートルを徘徊する、都合五つの光球。明らかに存在感に欠如し、今にも消え入りそうなそれらは、悠里の面前で小爆発を起こし、僅かにその勢いを削ぐ。しかし、未だ気勢高いそれらは、ボマーが視線を向けた先、疾風へ向けて前進する。 「ん? 何だか狙われてる?」 爽やかな青年姿から一変、巷のヒーロー姿へと変じた疾風に殺到するボイス達に、彼の頬を冷や汗が伝う。構えをとって対抗姿勢を整えたものの、その一斉攻撃の姿勢には驚きを禁じ得ない。 「それでいい、そのままそいつを爆、っ!?」 光球の正体を薄々ながら理解していたボマーは、それらと共に疾風へと攻撃を仕掛けようとし、しかし横合いから仕掛けられた鴉にその頭部を強かに打ち据えられる。継戦を度外視した、先手必勝の誘導技――メンバーの多くが自己強化を優先する中、彼女は先手先手を見据えた上で誘導を試みたのだ。ともすれば疾風が開始早々に膝を付きかねない窮地を、彼女がカバーした形になる。 「お前、からか……!」 当然の如く、ボマーの狙いはそちらに向く。振り下ろした指先がそのまま炎を巻き上げ、アンデッタを中心として数名をその渦に呑みこんで行く。恨み言を攻撃に昇華したその実力を鑑みれば、決して御し易い一撃ではなかったはずだ。 「……お前は、幸せな相手が憎いといった! が、お前は幸せになる努力をしたのか!」 爆風を尚吹き飛ばす様に、拓真の全身から気が吹き荒れる。準備行動に過ぎない気の流れは、彼自身の気迫、そしてヴァージニアのブレイクフィアーが火炎を吹き飛ばしていく情景をして、その姿を殊更に目立たせる。 「努力でどうにかなるなら、こんなことになるものか!」 どかーん。 疾風の傍らに近づいていたエレメントが小爆発を引き起こす。行動を残した幾つかが、アンデッタへとその攻撃を差し向ける。 「トロくさいなぁ……そんなんじゃ何時まで経っても充実しないんじゃないかい?」 「こいつが、爆発してぇとよ!」 ギアを引き上げたブルー、そしてショットガンを担ぎ上げた喜平がそれらの前に立ちはだかり、一気呵成と集中攻撃を仕掛けていく。極めつけは悠里が放つかまいたちだが、それがヒットした瞬間――さらなる衝撃が一同を襲う。 どうっ―― 先程までの爆発とは比較にならない轟音と、連鎖と衝撃。その場に居た二名……アンデッタとブルーが一様に爆風を身に浴び、全身を炎に巻かれて上体をぐらつかせる。爆発の特性を持ち、存在を揺らがせるエレメント。つまりは、爆発を伴って消失する技能があるなら、それが直接、通常消滅にも当て嵌まるわけであり。 一気に吹き飛ばすということは、つまるところがそのリスクを覚悟するということ。爆発という特性は、そう御し易いものではないのだ。 「……なんて、言わせるとでも思ったか? 甘いんじゃよ、お前」 しかし、ボマーの手を握りこんだまま離していない想重は、それでも立ちはだかる二名を脇目に小さく笑う。ほんの僅かの足しではあったが、彼が初手に放った護りの光は、総合的な猶予を与えるには十分な効果をもたらしていたと言える。同時に、ボマーの行動を制限することにも。 「でも、まだ僕はねらわれっぱなしなんですね……!?」 二体のエレメントが爆散しても、未だ三体が疾風へと迫る。爆発半径ぎりぎりで斬風脚をヒットさせ、先ず一発を爆散させはしたものの、それでも二体。タイニープロウズを受けている身で連鎖爆発を受け止めるのは、かなり厳しいか。 「幸福を得られない者はごまんといる――幸せになる権利を放棄したのはお前じゃないのか!」 しかし、横合いからの拓真の一撃がエレメントを弾き飛ばし、範囲外で爆散させた。 「そんなもの、そんなもの、あってたまるか……!」 「じゃあ、君の言葉は僕が覚えていてあげるよ、君の痛みもね」 ボマーの捻り出すような呪いが全体を反響し、すべてを飲み込んで痛みを孕む。が、そこをするりと抜けて、残されたエレメントを爆散させたのはアンデッタの式符の姿。一瞬膝を付いた者達は、その意思を踏み台に再び戦場の土を踏み、戦えと自身に命じる。 「こんなトコで倒れちゃいられねえよ! ノーフェイス、てめぇが爆発しろッ!」 ブルーが吠える。まだだ、彼はまだ自身の意思で飛翔していない。その足で飛べる限り、彼は倒れられないのだ。 喜平も、また戦闘の煽りを受けて相応の痛みを背負ってはいるが、倒れるには至らない。 「かなりのものだったね……でも、だからどうした、ってね!」 「それに、どんな理由があったって人を傷付けていい正当化にはならないんだ!」 「お前の行為は許されるものでは無いからな!」 「人を羨ましがるばかりで、自分で努力しようとしない人に、幸せなんてくるはずない!」 ヴァージニアが十字の光を顕現させ、想重が双衝須斗雷駆(※ツインストライク)を叩き込む。悠里の放つ斬風脚もその鋭さをいやまして、次々とボマーへと接近していく。 「まだまだ……っ、リア充一人くらい道連れに死んでやる――!」 「だがその権利すら、やり直しの機会すらなく俺達に奪われるんだ。俺達が奪うんだ。……謝りはしない、存分に恨んで」 「爆発、しちまいな!」 ぶすん、と情けない煙を上げ、ボマーはその存在を焼失させていく。 末期に響いた拓真の言葉は、どこまで彼に響いたものか。 きっと、聞き入れる耳などなかったのだろうけど。 ●リアルな悩み 「ミッション・コンプリート。お疲れさんだな」 やれやれといった様子で、ブルーが労いの言葉をかける。ボマー本人も焼失してしまったこともあり、幸いにして血なまぐさい情景をその場に残すことはなく依頼は終了した形になる。 「なんだか、相当酷い戦いだった気がしますねえ……」 疾風に至っては、終始追い回されたり迎撃したり止めにさりげなく関わったり――何というか非常に、申し訳ない立場だった気もしないでもない。自分の役割を全うしたという点では賞賛されるべきだが。 静かにボマーへと追悼を祈るアンデッタの傍ら、想重が重々しく口を開く。 「なあ、疾風君……」 「どうしたんです、急に?」 余りに深刻そうな姿に気になって疾風は応じるが、何か聞かなければよかった気もしてならず。 「リア充って、どうやってなるんじゃろうか?」 「――努力、じゃないですかねぇ」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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