●略奪者達の失策 店の明かりが落とされて、ドアの閉まる重苦しい音が閉店後の店内に響く。 通路を反響する足音が闇に響きながら遠ざかり、やがてそれさえも消えて静寂が戻った商品陳列棚で――丸いボタンがキラリと光った。 否、ボタンに見えたそれは、とあるアザーバイドの目だ。 犬や猫、鳥やアザラシ――一般に『可愛らしい』と称される縫い包みを蹴飛ばして、その中から現れたテディ・ベアが、右目に嵌った眼帯を持ち上げて真っ暗な店内を見回す。 そして大きく息を吸い込む――少なくとも吸い込むような素振りをすると、年端もいかない子供のような大声を夜中の玩具屋に響かせた。 「準備は良いか、野郎共っ!」 その甲高い声が響くや否や、商品陳列棚のそこかしこ――プラスチックや風船で出来た玩具の棚や、大小様々な縫い包みの並んだ棚、果ては大きなドールハウスといった玩具の中から、青っぽいテディ・ベア達が飛び出してくる。 『アイアイ、キャプテン!』 「バカヤロー、ボスと呼べ!」 『合点、ボス!』 何がどう違うのか分からないがそう大声でのたまって、リーダー格のテディ・ベアが棚の上で仁王立ちになると、広い玩具屋の店内を見回した。 他のテディ・ベア達と異なり、ピンクの無地に赤いパッチワークがなんとも少女的なセンスだ。ただし背中に担いだ大きな斧と、右目を覆う海賊めいた眼帯が、可愛らしいイメージを台無しにしていたが。 「良いか野郎共、異世界での強奪ともなれば、俺達『くまくま盗賊団』の名前にも箔がつくってもんだ! 遠慮は要らねぇ、価値のありそうなものは手当たり次第に掻っ攫え!」 『おー!!』 ……果たしておもちゃ屋にどれだけ価値の高い品があるのかは不明だが、当の本人達は真面目も真面目、大真面目だ。 けれどそんな略奪計画の最中、キリンの縫い包みを引き摺って出口へと向かっていた青い縫い包みの一体が、唐突に大声を上げた。 「大変です、ボス!」 「どうした一号!」 棚の天辺から眼帯テディ・ベアが目を凝らすと、一号と呼ばれたテディ・ベアがもふもふの手でドアをぺしぺし叩いている。 「扉が開きません! 閉じ込められたようです!」 「なんだと!?」 「ボス、こっちも駄目です!」 眼帯テディ・ベアが慌てた声で応じる所へ、今度は別のフロアに通じる通路の前で、玩具の車に跨った別の青いテディ・ベアが高い声を張り上げる。見ればやっぱりもふもふの手が、透明な硝子戸の表面を、無力につるつる引っ掻いていた。 慌てて屋内を見回しても、手の届きそうな位置には窓の一つも開いていない。 「ぐぬぬぬ……か、斯くなる上は……!」 悔しげに歯軋り――しようにも歯がないものだから、もふもふの口を無意味にもそもそ擦り合わせて、眼帯テディ・ベアは忌々しげにボタン製の目を眇めた。 ●犯行声明≠救出依頼 リベリスタ達が呼び出されたのは、日付が変わってすぐの刻限だった。 例え空を統べる存在が月と星だけだとしても、夏の暑さがじっとりと纏わり付く中で、『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)が一枚の紙を、集うリベリスタの前に差し出す。 「さっき、こんな手紙が届いたの」 小さな白い手が握るのは、皺の寄ったチラシ――正確には、その裏面だった。 真っ白でつるつるした紙面の上に、小さな子供が思いつくまま殴り書きにしましたというような、歪な文字が並んでいる。 「『われわれはくまくま盗ぞく団である。こんや、中央ち区のおもちゃ屋にてごうだつ作戦を行っている。止めたければいつでも来い。くま頭りょう』……ちなみにこれを届けにきたのは、この『くまくま盗賊団』とかいうグループの一味を名乗る緑色のテディ・ベアだったわ」 棒読みで読み上げたイヴが、なんともいえない無表情のままで居並ぶ面々を一瞥する。 答えようがないのはリベリスタ達も同様のようで、微妙な沈黙がブリーフィングルームに漂った。 けれど流石にこのままでは埒が明かないと思ったのか、肩を竦めたイヴが予告状を折り畳みながら口を開く。 「玩具屋に忍び込んだまでは良かったけど、店が施錠されて出るに出られなくなったみたい」 捕獲や回収というよりも、単なる救出依頼のような口振りだったが、今更突っ込む者は居なかった。 「フェイトは持っているようだけどD・ホールは幸いまだ閉じていないし、この世界に来た目的が目的だから、ホールが閉じる前に送り返した方が無難だと思うの。……このまま放っておいても一般人の目に触れて騒ぎになるだけだろうから、朝が来るまでにどうにかして送り返しちゃって」 少女には夜更かしに過ぎる刻限に小さく欠伸を零したイヴが、話を纏めるように「よろしく」とだけ告げたのだった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:猫弥七 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年08月20日(火)22:36 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 『良いかお前ら、予定では間もなく敵が襲来する筈だ!』 『おおー!』 『我々は奴らがやってくる前に上手く隠れて、奴らの先手を打つのだ!』 『合点、ボス!』 『おれ首長の奴の上に乗る!』 『あ、だったらオレはさっきのちっさい家に入ってる!』 『でも真っ暗で良く見えないなー?』 『お前ら、隠れろって言ってるだろー!!』 暗い店内。 硝子戸の外で耳を済ませていた夜兎守 太亮(BNE004631)は何ともいえない顔で瞑っていた目を開けた。 「中はどんな様子だ、太亮」 「平和な声がする」 『百の獣』朱鷺島・雷音(BNE000003)の質問に返す口調も、やはり何ともいえないものだ。 「うん、暗いからあんまり良く判らないけど、中でバタバタしてる感じは伝わってくるよ」 「バタバタ……どういう状況でしょうね」 千里眼を用いて中の様子を窺っていた『Le Penseur』椎名 真昼(BNE004591)の口許も微かに綻び、暗視で店内を窺っていた『境界の戦女医』氷河・凛子(BNE003330)が小さく呟く。 「次元を駆けるのは珍しくもないことだが冒険心は大いに評価しようじゃないか。もっとも、彼ら自身にどれだけ盗賊団としての自覚があるのかは分からないがね」 芝居がかった言い回しで笑みを宿す『自称アカシャ年代記』アーゼルハイド・R・ウラジミア(BNE002018)の言葉に、リベリスタ達の表情に戦闘を前にした緊迫感というものは皆無だ。 「どうせ深夜に潜入するなら学校に潜入して音楽室とか理科室とか回ってみたいのですよー」 「ボクもさんせー! 夏だもん、きもだめしとかも楽しそう!」 「七不思議探求、なんかも楽しそうなのです」 子供らしい意見を上げているのはボンボンを抱えたキンバレイ・ハルゼー(BNE004455)と『くくく…我はこの中で一番の雑魚』文無・飛火・りん(BNE002619)だ。ちなみに集合時の服装では色々と社会的な問題が発生しそうだった小学生は、現在強制的に凛子の白衣を着せ掛けられている。 「おや、人形や縫い包みには興味がないのかね?」 丁度その年頃だろうに、と言葉を足しながら視線を向けた『「Sir」の称号を持つ美声紳士』セッツァー・D・ハリーハウゼン(BNE002276)へと、キンバレイが明らかにサイズの大きな白衣の下で、年不相応に豊かな胸を張る。 「きんばれいもうお人形は卒業したのです! 今はおとーさんに買って貰ったおとなの……あっ……言っちゃ駄目って言われてたのでなしで」 スタイルは抜群でも、何しろ年齢は小学生だ。暗い中でもぽっと頬を赤らめた少女を前に太亮やりんは首を捻り、誤魔化された言葉の先を読み取ってしまった大人達は冷静にあらぬほうを向く。 と、その時――ぱっ、と店内に明かりが灯った。 不意を衝かれたのはリベリスタ達も同様たが、それ以上に泡を食ったのは硝子戸の向こう側らしい。 玩具の山を引っ掻き回すような音がして、少ししてから漸く静けさが店内に戻る。 「む、どうかしたのか?」 「あ、いま明かりつけたのってらいおんちゃんだったんだ?」 「ああ、そこでスイッチを見付けたからな。真っ暗な店内で暴れて、何か壊したら大変だろう? くまくま盗賊団も暗い中だと良く見えてないみたいだったし」 りんの言葉に頷く雷音へと、相変わらず底の窺えない笑みを湛えたアーゼルハイドが伊達眼鏡の奥で目を細める。 「ふむ……まぁ我々が来たという合図にもなったようだし、何、子供の世話のようなものだ。心構えをする余裕を与えた方が、彼らにとってもより愉快な冒険になるだろうよ」 「おや、子供の面倒が慣れていそうな口振りだが、根拠でもあるのかね?」 「根拠? そんなものはないが?」 興味深げに視線を移ろわせたセッツァーへと、唇の端を持ち上げるように笑った赤毛の男の言葉は、やはり曖昧と擦り抜ける響きを帯びている。 「そうか。ともかく、中に入ってからは適当に別れた方が良いだろうな」 「皆一緒にいると出てきてくれないかもですからね」 あっさりと疑問を手放したセッツァーの言葉にキンバレイが頷いて。 それぞれの用意を確認するように仲間達を見回して、小さな手が硝子戸を押し開いた。 ● 「問題は、どうやって誘き出すかだな」 「そうだな……『お宝があるぞー』と言った所で簡単には」 「お宝ー!?」 「あ、馬鹿!」 「…………、出てきたな」 太亮の疑問に考え考えで口にした雷音の言葉が終わるより早く、棚の縫い包みの間から青いテディ・ベアが二体顔を出した。 「馬鹿! お前が飛び出すから見付かっただろ!?」 「でも、あいつらお宝って言ってた!」 肩に『03』の刺繍を入れた仲間にぽかりとされながら、『02』の刺繍の入ったテディ・ベアが雷音達をふかふかの手で指す。 「02、03か。二号と三号ってことか?」 「そうだと思うのだ。――うむ、此方には君達が集めたものより、良い品があるのだぞ。このお宝はそんじょそこらのものじゃないぞ!」 そんな縫い包み達の遣り取りを前に言葉を交わしてから、雷音が声を張り上げる。 「こうなったら武器を取れ、二号!」 「おー! 強奪だー!」 そう大声を上げた二号と三号がそれぞれトンファーと刀――を模した、プラスチック製の玩具を掲げた。 「弱そうな奴から狙うぞ! 左右から挟み撃ちだ!」 「おっと、そうはさせないのだ」 「わー!?」 あっさりと捕まった二号が、雷音に抱き締められて手にした武器を振り回す。 「ていていてい!」 「いたいいたい、けど可愛い。もふもふだな!」 プラスチックのトンファーでぺちぺちと叩かれつつも笑顔を崩さない雷音の言葉に、ふと手を止めた二号が首を捻る。 「女の子?」 「うむ、そうだぞ?」 「……女の子だー」 途端に二号の頬の辺りがポッとピンク色――もとい、濃い青色に変わった。赤みはないが、どうやらそれが頬を染めた時の特徴らしい。 「こらー、二号ー! ぼーっとしてないで戦えー!」 「でも三号、女の子には優しくしなさいっておばあちゃん言ってた!」 「む。そうか、おばあちゃんか……それなら仕方ないな」 仕方ないらしい。渋々といった態度で納得してしまった三号は、背後に近付く気配に気付いた様子がない。 「待ってろ二号、今オレが助け――ってわぷー!?」 びしゃーっと至近距離から後頭部に浴びせられた水鉄砲の射撃に、勢いに負けた三号が正面からつんのめった。 「うぐぐぐ、身体が重い……! 水を使うとは卑怯者ー!」 「宝物ったって、簡単に手に入るようじゃつまんねえだろ?」 ニヤリと笑う太亮を睨み付けた三号が、なんとか立ち上がると敵――ではなく、棚を目掛けて刀を振るう。 「って、待て待て待て棚のもの投げ散らかすな! 箱の角凹んだら店の人泣いちゃうだろ!」 「ふはははは、我々くまくま盗賊団に同情など、」 「三号ー」 玩具を受け止める太亮に縫い包みが刀を振り上げた――所で口を挟んだのは、雷音に抱き締められたままの二号だ。 「物は大切にしなさいっておばあちゃんがー」 「む、おばあちゃんが言うなら仕方ない」 やっぱり仕方ないらしい。 「お前ら、何で盗賊団なんかやってんだ……?」 無事に受け止めた玩具を棚に戻しながら尋ねる太亮へと、三号が首を傾げる。 「ボスが言ったから?」 「…………。参った、降参だ。でも店の売り物は勘弁してくれ、代わりに俺の武器をやるからよ」 「お? おお、勝ったぞ二号!」 「わーい」 能天気に喜ぶ青いテディ・ベアを前にして、雷音と太亮は顔を見合わせ小さく笑ったのだった。 ● 「よくきたな、くまくま盗賊団。ここは『でぱーと』というこの世界の宝物庫のようなものだ。だが諸君にも心当たりはないかね? そう、財宝には守護者がいるというのが定石だ。宝物庫にガーディアン。財宝の山にドラゴン。そしてデパートには我々だ。さあ見事打ち倒してみるがいい! そして財宝を奪ってみせたまえ!」 大袈裟なポーズと共に滔々と述べられたラスボスのような台詞回しに、青いテディ・ベア達は他の縫い包みに混じって棚に座ったまま顔を見合わせる。 「バレてるな?」 「バレてるバレてる」 一言ずつ言葉を交わして確かめ合うと、揃って棚から飛び降りた。肩にそれぞれ『04』『05』と縫い込まれた二体が、店内で手に入れたハンマーとフリスビーを構える。 「正確には、デパートじゃなくて玩具屋だと思うけどね」 「あ、もう一人居た!」 背後から聞こえた声に四号がぱっと振り返れば、白夜を絡ませた真昼の姿にビクッと飛び跳ねる。 「強奪というからには、やはり金銀財宝が定番だよ」 「でも、だからデパートっていうのも無理がない?」 肝心のくま団員をそっちのけで言葉を交わすアーゼルハイドと真昼に対し、此方も二人をそっちのけで鼻先をつき合わせているのが二体の団員だ。 「なんか、黒い方がボスっぽいな」 「黒いしな」 「こらこら、黒だからボスというのは偏見だよ」 縫い包みの会話を聞き付けたアーゼルハイドが少しばかり顔を顰める前へ、緑のフリスビーを構えた五号が飛び出す。 「先手必勝!」 「良いだろう、来たまえ団員君」 敵は二人、自分達も二人。一対一を選んだのか、五号が赤毛の男へと挑みかかった。 ――一方、取り残された四号はといえば。 「さあ、おいたする悪い子にはお仕置きだよ」 「あ! おい、この、何をするっ」 しゃがみ込んだ真昼にお腹をぺしりとチョップされた四号が、手にしたハンマーで叩く。途端、ぴこっと懐かしい音が響く。 「いたっ――っていうかこれ、ピコピコハンマー?」 「どうだ、ハンマーの形が変わるほどの威力だ! 今更後悔しても遅いんだからな!」 「あ……あー、うん。そっか、そういう使い方か……」 真昼の口許が零れそうな笑みを堪えて微かに歪む。 それを苦痛によるものと判断したのか、そこかしこに当てられるハンマーがぴこんぴこんと深夜の店内に連続的に響き渡った。 「いたた、痛い痛い、痛い……いや、ちょっと待ちたまえ」 「む、なんだ?」 手抜きがばれないように戦って、適当な所でやられ役に回っていたアーゼルハイドだったが、耐えかねたように口を開いた。 ばしばしばし、と叩き付けられるフリスビーを一旦押さえて、眼鏡のブリッジを押し上げる。 「これはそう使うものではないよ。貸してみたまえ――まずはこう持つのだよ。こう持って、この角度で投げる!」 五号が言われるがままにフリスビーを差し出すのを受け取って、アーゼルハイドは身体を起こした。 それを正しい角度で投げやれば、緑の円盤が店内を遠く飛び去っていく。 「おおー!」 「見たまえ、これがフリスビーの本来の使い方なのだよ」 「今の見たか四号、こいつ――あれ、おれの武器は?」 「む、しまった」 仲間に報告しようとして漸く気付いた五号が、空っぽになった手を見て首を捻った。 思わず口を滑らせたアーゼルハイドを見上げれば、ハッとしたように一歩飛び退く。 「しまった、武器を奪われた! おのれ策士め!」 「ふむ、これは些か予想外の展開――おっと」 言葉が終わるよりも早く、床に崩れてきた黒装束のマントに、金の双眸が軽く瞬いてからはっとする。 「いや、参った。仲間がやられてはこれ以上戦っても勝てる気がしない」 「へ? …………ふ」 「うん?」 「ふふふ。ふははは、我らくまくま盗賊団、宝の門番を討ち取ったりー!」 「負けを認めたからには財宝を出せー!」 状況が動く前に隙をつき、この機とばかりに降参を告げたアーゼルハイドにぽかんとしたように見えた団員達だったが、どうやら勝利を噛み締めていただけらしい。 「見事だ、くまくま盗賊団。持って行くがいい……これがここで最高の宝だ」 差し出された『宝物』を受け取ったくま団員達の目が、心なしかきらきらと光る。 「ボスー! ボースー! 良い匂いのする戦利品を手に入れたー!」 「怪物の目玉もー!」 戦利品を抱えて走る青い背中を見ていた真昼が、ふと傍らのアーゼルハイドを見上げた。 「適当に負けるって言ってなかった?」 「結果良ければ全て良しという奴さ」 ● 的中しても、すこっと空振りのような音だった。 「とりゃー!」 「ぐわ~! やられた~!」 大袈裟に床へと倒れ込むりんの上に格好をつけて仁王立ちになった赤いテディ・ベアが、空気で膨らませたビニールの斧を肩に担ぐ。 「ふふん、どうだ! これがくま頭領の実力だ!」 「命だけはお助けを! ざつようでも何でもやります、ボクをトーゾク団の子分にしてください~」 「おおっ、見込みのある奴だ! 良いだろう、俺達の仲間に加えてやる!」 芝居がかった土下座にも疑問を抱かないのか、りんの懇願にくま頭領のご機嫌は急上昇だ。 「今のを聞いたか一号!」 「聞きましたー。良かったですね、ボス」 にこにこしながら応じているのは、肩に『01』と刺繍の入った青いくま団員だ。 それに対してくま頭領は、新たに現れた敵、もといセッツァーを前にして再び斧を構え直している。 「はっはっはっは! さぁどこからでもかかってきなさい! かわいらしいぬいぐるみのだんいんたちよ! このセッツァー・D・ハリハウゼンが存分にお相手仕ろう」 「ふんっ、大男が何するものぞ! 今の俺様に敵はないっ」 そんな一人と一体の向こう側では、大きな白衣を身に纏ったキンバレイがボンボンを手にして飛び跳ねている。 「ふれーふれー! みんな!」 「おお、乙女の応援か!」 「ボスー、その子が応援してるのって俺達じゃ……、……えーと、やっぱりなんでもないや」 「まぁ黙って見ていろ、一号! 部下の手前、俺様が恥を晒すことはせん!」 「……うん。ファイトー、ボス」 戦場へと身を投じるボスを見送った一号が、身体の上に掛かった影に気付いて顔を上げた。 「あなただけ随分と冷静ですね」 「んー、緑の連絡係も共犯ですよー」 いつの間にか傍に来ていた凛子へと対峙しながらも、一号の態度に変化はない。 すこっ、ぱしっという音が立て続けに聞こえ、やがてセッツァーの「ぐわっ! む、むねん……やーらーれーたー」と若干棒読みの台詞が聞こえてくれば、そちらに目を向けながらも一号は言葉を続ける。 「うちのボス、いっつもあんな感じですからね。誰かが舵取りしないと危ないんです」 「それは……襲撃場所にこの店を選んだのも故意ということですか?」 「だってそうでもしないと、もっと危ない店に突っ込みそうですし」 流石に窓がないのは予想外でしたけどね、と答える声もおっとりとしたものだ。 ボタンのような目が追いかけるのは、キンバレイに抱きかかえられたくま頭領だ。 「かわいいのですよー! はぐはぐなのです!」 「え、ええーい放せー! 俺様をそこらの連中と一緒にするなー!」 不意打ちでもされたのか、むぎゅむぎゅと抱き締められて赤いパッチワークの手足が暴れているが、一向に抜け出せる様子がない。 「それじゃーそろそろ、ボスの手前もありますし。よろしくお願いします」 ぺこり、と、ふかふかテディ・ベアが一礼すれば。 「――全力で参ります」 「いえ、あの、お手柔らかだとうれしいです」 凛子の言葉に、ボタンに似た目がぱちりと瞬いた。 ● 店の裏口のすぐ近く。 植え込みの影から、緑色のパッチワークが覗いていた。 「……あ。終わった?」 集団の気配に気付いたのか、それとも会話で目が覚めたのか。 むくっと起き上がった緑色のテディ・ベアが、目許を擦りながら暢気に首を捻る。 「うむ、戦利品がっぽりだ!」 「戦利品……。あ、うん。そう。良かった良かった」 ご機嫌でボスの抱える『戦利品』とやらをじーっと見ていた連絡係だったが、その後ろでお口チャック、のジェスチャーをする青い1号テディ・ベアを見て慌てて頷いた。 「新しい部下も出来たぞ、連絡係!」 「えへへ、よろしくねー」 「…………。れっつ、ファイト」 ボスの報告を聞きながら、笑顔のりんをぽかんと見上げていた連絡係だったが、深く頷いてボスとも新入りとも仲間達とも、誰にともつかない応援の言葉を発する。 新入りにくまくま盗賊団心得とやらを語り始めるボスの背後で、しゃがみ込んだ凛子が緑のテディ・ベアに指を伸ばした。 「葉っぱがついていますよ。良く眠れましたか?」 「ん、おかげさま、で?」 頷いた連絡係は他の仲間達を見回して、それぞれに心得を説いたりもふられているのを確認してからリベリスタ達を見上げる。 「えと。今日、ありがと。皆、悪い奴じゃ、ない。これ、本当」 「うん、それはなんとなく伝わったぞ」 笑顔で頷く雷音にホッとしたように溜息を吐いた連絡係が大きく頷いた。 「よし、そろそろ引き上げだ!」 くま頭領の言葉を合図に、沢山の『宝物』と仲間達とがD・ホールをぞろぞろと潜る。 最後にホールの前に立った連絡係がリベリスタ達を改めて見上げた。 「お世話に、なりました」 ぺこり。緑色が頭を下げた所へ。 『今度は海賊やるぞ、海賊!』 『おー!』 D・ホールの向こうから聞こえてきたその言葉に、暫しの沈黙が場を満たす。 「…………、また来るかも。その時、よろしく?」 次は端から当てにする気らしい。 いかにも無邪気そうに首を捻った緑の縫い包みが、D・ホールへと姿を消す。 「ちゃっかりと……」 そう呟いたのが誰かはさておき。 散らかし切った店内の片付けを、善良な救助者達に押し付けて。 騒ぐだけ騒いだ略奪者達を飲み込んで、異界との出入り口はリベリスタの手で静かに閉ざされたのだった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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