●モテない異世界人は斯く語る 誰しもモテたいという願望があるものだ。そうだろう? 男でも女でも、そりゃあ無条件でヨイショしてくれたらこんなに素晴らしいことはない。 無論、何かしら目立つ利点があれば別だ。 ずば抜けた美形だとか、一晩に湯水のように金を使える大金持ちだとか。 だが、そんな素晴らしいモノを持たない場合はどうしたらいい? 金もない、地位もない、名誉もない、美貌なんて十人並みもあれば上々吉だ。 それでもモテたい。 一度で良いから持て囃されたい。 『キャー素敵ぃー』だとか『流石アナタだわっ』とかキラキラ輝くお目々で擦り寄られてみたい。 それだって立派な夢だ。希望だ。憧れだ。別になんら爛れちゃ居ない筈だ。 かといって、金もなければ美形でもないこの身には、その手の店に行く余裕もなければ顔に寄ってきてくれる人もない。 だがしかし、思ったのだ。 世の中、ヒトが本気で願って願って願い倒したら、それを簡単に無碍に出来るものだろうかと。 ――案外、必死に頼んでみたらどうにかなるんじゃないか? あ、女の子でも男でもどっちでも良いです。両刀なので。 ●お目付け役は斯く述べる 申し上げておきますが、アレはただのモテたい願望丸出しのどうしようもない変態です。 無防備に近付くと汚染されても知りませんから、アレの欲求に応じる場合は飽くまで自己責任でお願いします。 くれぐれも酒は飲ませないように。酔っ払うと単なるスケベ野郎に早変わりですから。女性も男性も区別しませんよ。 私に警告出来るのはこの程度ですね。 ――私ですか? 私はアレのしがない付き添いです。放っておくとあの男、持て囃されるまま勘違いして、いつまでも帰って来そうにありませんから。 嫁とか恋人とか、薄ら寒い勘違いはしないで下さいね。あ、想像するだけで鳥肌が……。 ああそうそう、別に無理に持て囃して、良い気分にさせる必要はありませんからね? 一発蹴りなり拳なりを叩き込んで、現実に目覚めさせてあげるのも良い薬かもしれませんし。 まぁ、その辺りの結論をどうするかは皆さんにお任せするとして…………。 ●白のフォーチュナは斯く告げる 「そんな訳だから、適当に接待して良い気分にさせるか、一発現実を見せてから早いところ送還しちゃって」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)の説明は、いつも通りに簡潔だった。 髪にポシェットに、あしらわれたうさぎデザインの耳が動くたびにぴこぴこ揺れる。 「適当にって、随分投げ遣りな……大体、頼まれた程度で持て囃せって言われても」 当然といえば当然かもしれない困惑の声にしかし、そちらを向いたイヴが無表情で告げた。 「土下座されたから」 「………………」 「……でも。正直、あれを土下座と呼んで良いのか分からないけど」 悩むように言葉を彷徨わせるイヴだったが、それ以前にリベリスタ達からは言葉もない。 微妙な沈黙が漂う中で些か妙な呟きを零したイヴは、しかしすぐに首を振って、何かしら浮かんでいたらしい思考を振り払ってしまう。 「とにかくそういうことだから。あ、彼らなら駅前の喫茶店に居るらしいわ」 モニターにピッと地図だけを表示して。 後はよろしく、と言い置きさっさと身を翻した白い少女に、呼び止める声をかける者は誰も居なかった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:猫弥七 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年09月26日(木)22:26 |
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■メイン参加者 7人■ | |||||
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● 「猫カフェは知ってたけど、今時うさぎカフェもあるのね。通っちゃおうかなぁ」 店内を見回して『薄明』東雲 未明(BNE000340)が呟いた。 幻視で普段の紫色を黒に変えた双眸が眺める内装は、そこかしこに描かれたイラストや細かな装飾も、兎を模ったものが殆どだ。 「異界からのお客様……フィクサードだったときは気にも留めなかったけれど、最近多いなぁ……」 これも崩壊度が上がったせいだろうか、と『黒魔女』霧島 深紅(BNE004297)も呟く中、対照的に顔を輝かせたのは『アークのお荷物』メイ・リィ・ルゥ(BNE003539)と『陽だまりの小さな花』アガーテ・イェルダール(BNE004397)だ。 「うさぎさんだぁー!」 「う、うさぎさんがいっぱいいます……! ふわふわ、もこもこですわ!」 早速傍を跳ねていた兎の毛並みに指を滑らせて、アガーテが表情を綻ばせる。 「今日の依頼は、戦わなくていいんだよね?」 声を弾ませて近くに居た兎を抱き上げたメイが、喜色満面に振り返って尋ねた。 「誰も死んだり、傷ついたりしないんだよね? うさぎさんを『可愛がる』のでいいんだよね?」 「噛み付かれたりしない限りは、そうですね」 不安定な中空に宙ぶらりんにされた兎の、動物ながらに迷惑そうな顔を見て『ヴァルプルギスナハト』海依音・レヒニッツ・神裂(BNE004230)が苦笑する。 その一方で、『本屋』六・七(BNE003009)が心なしかうっとりとした顔で店内を見回していた。 「ちょっと大きめのうさぎと一緒にうさぎカフェ……なんて素晴らしいんだ」 その視線が眼鏡越しに、鼻先に同じく小さな眼鏡を乗せた茶色の兎と視線を合わせて、一層表情を綻ばせる。 「合法的にもふもふをもふもふするチャンスは逃さないよ」 急いで毛並みを整えて眼鏡の位置を直し、身繕いを始めた兎姿を見て、『鏡操り人形』リンシード・フラックス(BNE002684)が静かに頷いた。 「今回は……あの兎さんを、おもてなしすればいいんですね……」 小さな尻尾を目一杯振っている大柄な兎を見詰めて、小さな呟きは店の陽気に溶けていく。 ● 顔を合わせるなり早速メイの腕に抱き上げられて、茶色い兎は大層ご満悦だった。 「初めましてグラインさん、リンシードと申します……よろしくお願いしますね」 「リンシードちゃんだね! こっちこそよろしくお願いするよ!」 リンシードに毛皮を撫でられても気にした様子はなく、寧ろでれでれと締りのない顔だ。 「……うさぎ顔でも表情って分かるものなのね」 メイの腕に抱き上げられたまま、短い尻尾を感情そのままに思い切り振る姿を苦笑交じりに見下ろして、海依音が呟く。 「それにしても、うさぎ型アザーバイドにもモテたいっていう欲望はあるんだねぇ……」 「勿論あるとも!」 七の呟きに力一杯頷いたグラインが、鼻先の眼鏡を落とさないようにそちらを見る。 「異性であれ同性であれ、評価されたい、認められたいという意思はあるものだろう?」 「成る程ね。わたしで良ければ思いっきり持て囃してあげよう……ふふふ。二足歩行のもふもふうさぎっていうだけで既にわたしにはモテモテだよ……」 「あ、有難う、嬉しいよ……」 その言葉に目を輝かせたグラインだったが、七の密やかな笑い方にびくりとして不安そうに疑問符を浮かべる。 「向こうの世界では不細工だったとしても、ボクらにはウサギの顔の違いなんてわかんない。どの子を見ても可愛いとしか思えないもの」 「君、不細工と平凡は違うんだからね……?」 容赦なく断言された所為か、なんとも複雑な顔をしたグラインがそっと口を挟む。 けれど聞いているのかいないのか、毛並みを立たせるように逆撫でするメイの掌から逃れる気はないらしく、益々もこもこの姿にされながらもグラインは幸せそうになすがままだ。 「グラインさん……無理にもてはやす必要ないくらい、可愛いと思うんですが……」 呟くようなリンシードの言葉に、グラインの目が輝いた。 「特にこの鼻先に乗った眼鏡がチャーミングだと思います……」 「うん、すごく似合ってて格好良いよ。インテリジェンスを感じるよね」 「そ、そうかな?」 茶色い兎が照れたように前足で顔を隠す。 「それに垂れた耳が可愛いね、ちょっと触ってみても良い?」 「勿論だとも! いやはや、君達みたいに可愛い娘に褒められると照れてしまうね」 七に耳を撫でられながら、上機嫌に鼻をひくひくさせる茶色い兎を膝に下ろして、メイがオレンジ色の野菜を手に小首を傾げた。 「確かうさぎは人参大好きなんだよね? はい、あーん♪」 「あーん――もがっ」 メイの口調に釣られて口を開けたグラインが、人参を丸ごと突っ込まれて目を白黒させた。彼女が横を向いた隙にこっそり吐き出してゲホゲホ咽る背中を、リンシードが宥めるように撫でる。 そんな兎もどきの様子に何の疑問も抱いていない様子で、次にメイが取り出したのは青々とした葉野菜だ。 「あと、菜っ葉もたべるんだよね? あーん」 「はは、はははは……あーん」 可愛らしく差し出された実に新鮮そうな、言い換えるときちんと洗浄されているのかどうかも怪しいほど取れたて感満載の菜っ葉を前に、美少女を突っぱねられないアザーバイドが涙目だった。 一体何処から取り出されたのかも分からないそれを口に押し込まれても、抵抗せずに、尚且つ出来るだけ噛まないようにして丸ごと飲み下す。 「どうかな、おいしい?」 「…………、……うん。美味しいよ……」 メイが笑顔を浮かべる横で、必死に本音を押し隠したグラインがよろよろとリンシードの膝に突っ伏す。 「セクハラはめっ、と思いましたけど……」 耐え忍ぶようにぷるぷる震える茶色い毛皮を見て、海依音は苦笑するとその先の言葉を飲み込んだ。 「貴方程の可愛さがあれば、たくさんのもふもふ好きを魅了できると思います。きっと私のお姉様も気に入ると思います」 海依音に手ずからパフェを食べさせてもらい、漸くまともな味覚と調子を取り戻したグラインが、今度はリンシードの膝の上で顔を上げた。 「君のお姉さんなら、さぞかし綺麗な方なんだろうね!」 「はい、とっても綺麗で……魅力的な人です……」 今日は一緒にこれなかったのが残念です、と呟いたリンシードが、グラインの耳を擽るように撫でながら少し首を傾げる。 「写真とかとってもいいですか……お姉様に自慢したいので……」 「いいともいいとも、僕で良ければ幾らでも撮りたまえ!」 慌てて毛並みを整え眼鏡の位置を調整したグラインが、兎らしからぬ姿勢でぴっと背筋を伸ばす。 「リンシード君も意外に……でもないかしら、可愛いものが好きなのね」 アザーバイドの撮影会を見て、海依音が表情を和ませた。 「小さい子もいるんだね、可愛いなあ」 一方、傍で丸まっていた仔兎を抱き上げた七が、ピンク色の鼻先をちょんと突付く。 「うさぎってこの、お鼻のあたりがひくひくしてるのが最高だよね……ずっと膝に乗せて観察してたいなー……」 それぞれに兎達を可愛がっている中で、リンシードがアザーバイドを撫でながら疑問符を向けた。 「グラインさんは、普段何をしていらっしゃるんですか……」 「うん? 僕かい?」 「お仕事、とか……夢とか、ありますか……?」 「僕はしがない物書きだよ。君は何か夢があるのかい?」 「お姉様との日常が……永遠に続く事、ですかね」 「永遠か。……うんうん、それだけ素敵な時間を過ごしているんだね」 小さく呟いたアザーバイドは、けれど。否定せずに目を細め、笑顔で頷いたのだった。 ● 対して、今一方。 「エリアールさんだね」 「こんにちは。少しお疲れのようにも見えますが、大丈夫ですか?」 「あら……貴女方、アークの方ね? あちらの方達と一緒にいらした……」 深紅とアガーテが声をかけると、膝に仔兎を抱えていたエリアールが戸惑ったように顔を上げた。 幸せそうにもふられているグラインをちらりと見る様子に微笑んで、深紅がアザーバイドの傍らに腰を下ろす。 「僕は霧島深紅。仲間が君のご主人さまに現実を見せている間に暇潰しの相手をと思ってね」 「わたしはアガーテと申します。初めましてではありますが、良かったらご一緒にお話などしませんか?」 茶目っ気でもって戯れめいた口調の深紅に対し、アガーテがにこやかに言葉の意味するところを付け加える。 「私で良いのなら喜んで。ただし貴女――深紅さんね」 「ん?」 「あれのことを、冗談でも主人扱いは止めて下さいな」 「随分はっきりとしたものだね」 やんわりと微笑みながらも厳とした口振りに、深紅がやはり惚けたように笑う。 「グラインとは単なる腐れ縁ですもの」 「付き添いというのも中々大変ね」 傍を飛び跳ねていた兎を膝に抱き上げて、未明が苦笑を交えて頷いた。 「それより折角のカフェなんだし、お茶にケーキ、うさぎ達用のおやつもあれば話も弾むんじゃないかしら」 「美味しいお茶や甘いものを食べながら、癒しの時間になれば嬉しいですわね」 未明の言葉に賛同するようにアガーテが頷き、深紅がメニュー表へと手を伸ばす。 「紅茶菓子とかも頼んで一緒に食べよう。エリアールさんはなんの飲み物が好きかな?」 「飲み物ですか?」 「僕は紅茶が好きだよ、あったかいやつでダージリンだといいな。落ち着くよ」 聞き慣れないのかぽかんとしているエリアールに微笑みかけて、深紅がメニューを捲る。 「飲んだことないのかな?」 「ええ……こちらにはどんなものがあるのか、良く知らないものですから」 「じゃあ、ケーキについて、なんかも分からないか。僕はモンブランが好きだよ」 納得したように一つ頷いて、深紅が写真付きのメニューをエリアールの前に広げた。 その中の一つを指差すと、興味深げにアザーバイドが覗き込む。 「これ、ですか?」 「うん。この世界には四季があってね、これから秋っていう季節なんだけど、モンブランのメインの栗はこれからが美味しい季節なんだ。どうか君も好きになってくれるとうれしいな」 「ダージリンと、モンブラン……」 「栗が旬の季節だものね。……私はどうしようかしら」 茶色い菓子は初めて見る者にとっては、必ずしも食欲を誘う色合いとは限らない。 アザーバイドが戸惑いを見せる横で、未明が手元のメニューのページを捲る。アガーテもメニューを眺めてはいるものの、意識はどちらかといえばもこもこした兎達に引き寄せられているようだ。 「可愛いですわ……!」 「本当、うさぎ達の可愛さといったら。思わず連れて帰りたくなるわ」 表情を綻ばせたアガーテが兎を膝に乗せ、未明もまた兎を撫でながら頷く。 「こういうふわふわした毛並みを撫でてると落ち着くのよねぇ」 「ふわふわが落ち着く、ですか」 視線を茶色い兎もどきへと移したエリアールが、物言いたげな視線を未明へと戻した。 「……ふわふわなら何でも良いって話でもないけど」 「そうでしょうね」 深く頷いたアザーバイドに苦笑して、未明が少女達に構われている兎もどきに目を向ける。 「下心は別にあっていいんだけど、言葉が通じると流石にアレだわ」 「あら、そういうものかしら」 「エリアールさんは、そうは思われませんの?」 納得しかねる様子のエリアールに、アガーテが首を傾げて尋ねる。 「小さな仔は一様に愛らしいと思いますが……」 「近い間柄だとそういうものかもしれないね」 迷ったように答えるエリアールへと頷いて、深紅は穏やかに微笑んだ。 「ところで、モテる……って、何でしょう。素敵ですねとかお話すればよいのでしょうか」 「さぁ……正直分かりません」 グラインを見詰めて疑問を呈したアガーテに、同意の意味で頷いたエリアールが溜息を吐く。 「それにしても、エリアールは人型、グラインは兎型なのね」 「変でしょうか……私達の世界では、それが普通ですよ?」 未明の言葉に少し考えて、エリアールが答える。 「姿形だけなら、此方の世界のような一貫性は少ないかもしれません」 「そう……変身でもしてるのか元々そういうものなのか、ちょっと不思議だったのよ」 「私も不思議です。貴女方がどうしてそんなに寛容なのか」 「ボトムにはこういう動物が好きな人は多いのよ。あたしもだし」 膝に抱いた兎を撫でて微笑む未明に対して、アザーバイドはやはり、釈然としない顔で首を傾げたのだった。 ● 時計の針は刻々と進む。 別れの刻限が近付く中で、海依音はふとグラインを見た。 「グライン君は誰かを好きになったことはあるのかしら」 「ふむ?」 丸っこい前足で器用に眼鏡の位置を直し、グラインが少しばかり目を細める。 「もっとあなたがモテたいと思うのなら、自分からも誰かを好きになれば、自ずと愛されるはずよ」 「うーん、それは中々難しい問題だね。僕は殊、恋愛云々に関しては否定的なんだ」 「あら、どうしてかしら」 疑問を返す海依音へと、茶色い兎が肩を竦める。 「恋愛は惚れたが負け。イーヴンどころか返ってくるとも分からないゲームに注ぎ込むほど、僕は夢見がちな性格じゃないのさ」 「随分と打算的ですね」 「それに、だ、海依音ちゃん」 口元に笑みを描いたアザーバイドが、器用にぱちんと片目を瞑った。 「こんなにも沢山の美女に囲まれてるのに、誰か一人に決めてしまうなんて、あんまり勿体無いじゃないか」 「……あらあら」 七の服を引っ張りながら抱き上げてくれるように甘えているアザーバイドを見下ろして、海依音は微かに苦笑した。 場所を移し、D・ホールの開く公園へと到着したところで漸く、茶色い兎が二足歩行で立ち上がった。 「いやいや君達、今回は実に素敵な時間を有難う!」 もこもこした前足で眼鏡を押し上げ、実に幸せそうに礼を告げる。 「貴方がフェイトを得ていれば、直にでも持ち帰ってお姉様と永遠に可愛がってあげるのですが……」 「それは嬉しいなぁ――永遠!?」 リンシードの呟きにのほほんと答えかけたグラインが、じっと見詰めてくる視線に気付いてぶわっと毛を逆立てた。 こそこそと後ろに隠れようとした茶色い兎の襟首を引っ掴んで、エリアールが心持ち首を傾げる。 「あら、なんて素敵なご提案。……グライン、貴方、どうにかしてこの世界に居座ってみたらどうかしら」 「本気かい、というか本気だね!? 君今、本気で僕を売り渡そうとしているね!?」 酷薄な提案に震えるグラインを他所に、兎姿を引っ掴んだままのエリアールがリベリスタ達へと深く頭を下げる。 「皆様、この度はこれの無茶な願いを聞き入れて頂いて、本当に有難うございました」 「僕はこの無茶な体勢に抗議したい!」 「これが皆様に与えたご不快は、全てわたくしが謝罪致します」 「君は僕の方にこそ謝罪すべきことが積もり積もっていないかな!」 短い手足をじたばたさせる茶色い兎の訴えを無視し、エリアールがD・ホールへと一歩踏み出す。 「あ、そうだ」 と、不意に声を上げてそれを遮ったのは深紅だ。 店からずっと手にしていた紙の箱をエリアールに差し出すと、アザーバイドが戸惑った顔で箱と深紅とを見比べる。 「さっきのカフェで買ったケーキだよ。お土産に持たせてあげようと思って」 「まぁ……有難うございます、深紅さん」 ほんのりと頬を染めたエリアールが、腐れ縁の兎姿を放り出して大切そうに紙の箱を受け取った。 地面にべちょっと放り出されたグラインがその様子をじっと見て、やれやれと首を振りながら起き上がる。 「気を付けたまえよ、君。エリアールはこう見えて女好き――ぎゃっ!」 言い終わる前に幼馴染のヒールで軽く蹴飛ばされて、茶色い兎が悲鳴を上げた。 そのまま一目散に傍に居たアガーテの背後に隠れると、ビクビクしながら幼馴染の様子を窺う。 そんなアザーバイドの態度に苦笑してもこもこした身体を抱き上げ、アガーテがグラインへと穏やかに微笑みかけた。 「お会いできて嬉しかったです。またいつかどこかで巡り逢えたらいいですわね」 「そうだね。その時は君とも沢山お話してみたいよ」 途端に怯えた顔は何処へやら、うっとりとした顔でコクコクと頷く。 「グラインさんも、エリアールさんも元気でね……またいつかどこかで会えたら嬉しいなぁ」 「うん、またあそぼーねー」 七の言葉にメイがはしゃいだ声を上げた。 「また、モテたいならいらっしゃいな、接待はしてさしあげますので」 「おや、そいつは嬉しいね」 アザーバイドへと声をかけ、海依音が僅かに首を傾げる。 「ワタシはあなたのことが好きよ。あなたはどうかしら。――少しでも『好きになる』ということを考えてみてくれたらうれしいわ」 「ふむふむ、僕も君達のことは好きだよ」 「恋愛はしないけれど?」 「そういうことだ」 惚けたように笑ったグラインがアガーテの手から飛び降りて、D・ホールの中へと飛び込む。 「引っ張り回されるのは大変ですけど、異世界のうさぎは楽しめましたか?」 「ええ、余計なことを喋らない生き物は可愛らしいですね」 「そう。貴女も楽しかったのなら嬉しいわ」 うっとりと同意するエリアールの言葉を否定せず、海依音は小さく笑って頷いた。 「さよならは言わないさ、だってまた会えるだろうしね」 「――ええ、きっと」 たぶん、と軽く目を細めた深紅に対してしっかりと頷き。 そうしてエリアールもまた、最後にもう一度リベリスタ達へと頭を深く下げてから、D・ホールを潜っていったのだった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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