● 「忘我の棘……なるほど、使い勝手はまちまちか」 洞窟の奥、深くフードを被った男がぽつりと呟く。 「使いにくい部類ではあるだろう。相手の毛髪と血を薬液に浸し、3日3晩かけて生成した溶液が必要なのだから」 「しかし必要な物と時間さえあれば、大概の生物は支配できるんだ。要はその機会を如何に得るかだよ」 同じくフードを被った2人の男はそう言い、ちらりと向こうに佇む影に視線を移した。 そこにいたのは1匹の獅子。 名はレグルス。 次元の穴を通ってこの世界に迷い込んできた、アザーバイドである。 「まぁ……確かにな。怪我をしたコイツを介抱するフリをして、必要な物と時間を得られたのは幸運だ」 この言葉を聞く限り、どうやらレグルスは迷い込んできた時には既に怪我を負っていたらしい。 アーティファクト『忘我の棘』は、刺した者が刺された者を支配し隷従させる特殊なアーティファクト。 本来ならばレグルスは、この3人如きに支配されるような弱い存在ではない。 しかし怪我を負い、弱ったところに付け込まれれば話は別だ。 「残る棘は2つ。配下を増やしきったところで、暴れるとするか」 そして会話を続ける3人のフードの男はフィクサードであり、『忘我の棘』を用いて従順な配下を増やした後、何らかの悪事を働こうと考えている。 「まぁ……そうだな。この獅子がいる限り、多少我々より強かろうとも、抑える事は可能なはずだ」 「まずは金か」 「その後は正義の味方面してる連中でも屠りにいくかね?」 洞窟の奥で、3人の悪人の狂った笑みが静かに響く。 『グルルル……』 その会話に軽く聞き耳を立てていたレグルスは、今は彼等の尖兵。 失った心を取り戻す方法は、たった1つ――。 ● 「まぁ、その1つだけの方法は……棘を刺したフィクサードを倒すことよ」 とてもシンプルな条件だと桜花 美咲 (nBNE000239)は言った。 問題があるとするならば洞窟が戦場になる事と、3人が使うアーティファクトか。 「3人がいる場所は広くなっているんだけど、そこに至るまでの道は狭いわ。それに、そこにはレグルスが配置されてるの」 当然ながら、長物の武器を振り回して戦える程に洞窟は広くもなく、高さもない。 加えて4人が並んで戦うのが精一杯であり、レグルスは3人を同時に足止めすることが出来る。 「じゃあ……レグルスを突破して3人に接近戦を仕掛けるなら、4人以上で行く必要があるってこと?」 美咲の傍らに立っていた『白銀の魔術師』ルーナ・アスライト(nBNE000259)が問う。 「そうね。でもこのフィクサード達は全員がマグメイガスだから、突破する時は砲火を受けると思ったほうが良いわ」 「なるほど。レグルスを前衛に、3人ともが後衛か……」 加えてレグルスの戦闘力はフィクサード3人ではおそらく負けるであろうレベルであり、不用意に突破すれば思わぬ被害を受けるかもしれない。 そしてもう1つの問題が、3人が1つずつ持っているアーティファクトの存在。 鉄柵を作り上げる『鉄の防壁』は、指定した箇所を通行させなくする。 己の体をガスへと変化させる『ミストボディ』は、発動している間は物理的な攻撃を受け付けない。 最後の1つ、『シールボム』は直撃すれば、相手のスキルを封じる厄介なもの。 「レグルスを倒してしまうなら、事はそう難しい問題ではないわ。でも、助けるとなると……」 「ボク達なら、出来るはずだよ。……そうだよね」 操られるレグルスを救うか否か。 救う事は難しいと美咲は言うが、集まったリベリスタ達ならば出来るはずだとルーナは自信のある顔で応えた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:雪乃静流 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年08月22日(木)23:43 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●洞窟の奥で悪は笑う しし座。 ギリシャ神話ではネメアーの谷に住み、ヘラクレスに討ち取られた獅子が星座となった。 今、操られたレグルスがフィクサードのアジトである洞窟を棲家としている事は、神話を彷彿とさせる。 だが討伐するべきはネメアライオン――もといレグルスではない。 「ん、調子に乗ってる匂いがします。降って沸いた力に慢心してる匂いがしますよ」 倒すべきはフィクサード。レグルスという本来ならば手に入らないだろう力を得、『残念な』山田・珍粘(ID:BNE002078)が慢心していると言い放った3人だ。 彼等はリベリスタ達が向かっている今も、『忘我の棘』を用いて如何に強い者を支配するかを考えているのだろう。 「刺したものを支配出来る忘我の棘、か。小物にはお似合いのアーティファクトだね」 と『断罪狂』宵咲 灯璃(ID:BNE004317)が言うように、フィクサード達はレグルスという手駒が手に入ったからこそ、妙な考えを持つに至ったのかもしれない。 「なるほど、コトワザの虎の威を借る狐とはこの事だね。虎じゃなくてライオンだけど……」 故に、エイプリル・バリントン(ID:BNE004611)が口にした諺は正論と言えよう。 開いた穴を通って、この世界に降り立っていなければ。 傷ついた状態でなければ。 そして、フィクサード達が忘我の棘を持っていなければ。 不幸な偶然が3つも重なった結果、レグルスは見知らぬ土地で悪の支配下に収まってしまった。 「レグルスは望んで支配されてる訳じゃない。騙して心を操るなんて、絶対許さないよ」 「そうですね。敵意の無い異世界からの来訪者を、無理やり操るなんて許せません」 頷きあう『愛を求める少女』アンジェリカ・ミスティオラ(ID:BNE000759)と『勇者を目指す少女』真雁 光(ID:BNE002532)は、そんなフィクサードの非道が許せない。 あまつさえ、その力を持って悪事を働くつもりなのだ。 「そんな人達を叩き潰して泣かせられたら最高ですよね」 囚われた獅子を救出し、悪を倒す。アークとしては最も力を振るいやすいシチュエーションであり、那由他の言葉通りの結果が得られたならば最高である事は間違いない。 「後、ルーナさんを抱き締めて良いですか?」 「確かに最高だね。……でも、そういうのは後でしようね?」 戦意を高揚させるに十分な言葉の後に、気が抜ける言葉を続けてしまうのは那由他ならではのスキルか。『後で』と制した『白銀の魔術師』ルーナ・アスライト (nBNE000259)は、その様子にため息を隠せない。 ともあれ、来訪者を拒むような暗闇を携えた目的の洞窟は、リベリスタ達の視界に納まっている。 「敵が気付いているか気付いていないか、そこが問題ではあるが……考えるより行動か」 おそらくヒルデガルド・クレセント・アークセント(BNE003356)の懸念は、『気付いている』と判断した方が良いだろう。 門番として配置されているレグルスの嗅覚は、きっとリベリスタ達の匂いを感じているからだ。 「……じゃあ、作戦の通りにいくね」 行動するならば、迅速に。その身を影に溶け込ませていく『エンジェルナイト』セラフィーナ・ハーシェル(BNE003738)の狙いは、影に潜んでレグルスをやり過ごす事。 洞窟では4人が並んで動くのが精一杯だ。天井もあまり高くなく、長物の武器を扱うには不向き。 加えてレグルスは文字通り『門番』として、3人までを足止めする強固な壁。 もしも影に潜んだセラフィーナがフィクサード達に肉薄できれば、より撃破しやすくなるだろう。 「上手くいくように援護するわね」 己の体を光源とし、発光する来栖・小夜香(BNE000038)の光がどこまで影を伸ばす事が出来るかが、鍵となるはずだ。 『グルルル……』 洞窟の奥から響くレグルスのうなり声は、操られている自身を呪う声か、それとも操るフィクサードへの怒りの声か――。 ●獅子の心を奪う忘我の棘 暗闇の中、奥から漏れる光を背に、獣の眼光が訪れたリベリスタ達を向く。 光を放つ小夜香がその場所を照らした時、現れたのはレグルスだ。 「コイツが唸るから何かと思えば……」 「その格好を見る限り、俺達を倒しにきたリベリスタってとこか」 獅子の後ろから聞こえる声はフィクサードのもの。既にレグルスによって異変を察知していたのだろう、その口調はさも『よく来たな』と言わんばかりである。 「そうね。でも、目的はそれだけじゃないの」 とはいえ小夜香の言葉の通り、リベリスタ達の目的はフィクサードの撃破だけではない。 「難しくても皆できっとレグルスを解放する。絶対元の世界へ帰してあげるんだ!」 瞳に強い意志を込めたアンジェリカの言葉が正にそれであり、それは3人の悪人を倒す事とも密接に関係する事象。 彼女の言葉で忘我の棘を使用した者を特定出来れば上々だったが、簡単に素振りを見せない様子を見れば、彼等もある程度の場数を踏んだベテランの域にはいるのだろう。 「そうか。ならば――」 アンジェリカに対しての返答としてフィクサードが用意したのは、レグルスに続く2枚目の壁。 アーティファクト『鉄の防壁』の鉄柵が、リベリスタ達のそれ以上の侵入を拒むように立ち塞がる。 それでも全員が似たような格好をしている中、この鉄柵を作り上げた男が『大竹』だとは判明した。 「まずは撃ち合いから始めようか?」 自らの布陣によほどの自信があるのだろうか。最も得意とする砲撃戦を望む彼等は、気付いていない。 ――否、知らない。 (なんとか影を伸ばさないといけないわね) ちらりと奥の方へと視線を移した小夜香が、影の道を作ろうとしている事を。 (挟撃するためには、何とか近づかないと……) その影を利用し、セラフィーナが一気に突破しようと考えている事を。 「ごめんね。少しだけ動かないでおいてもらえるかな……?」 鉄柵が道を阻む中、真っ先にレグルスの動きを止めようと気糸を放ったのはアンジェリカだ。 絡み付く気糸はレグルスの実力もあってか引きちぎられ、軽く傷を負わせるだけに留まったものの、 (此方の人間が非礼を働いた事、ごめんなさいね。私達はあなたを助けに来たの。だから……頑張って) ハイテレパスを用いて小夜香が話しかけるだけの隙を作る事は出来た。 (助けに来た? なぜだ。俺がここにいる理由もわからん。わかるのは……奴等の指示に従う事だけだ) 対して『奴等』と固有名詞を出さず、複数形で答えたレグルスの様子を見れば、どうやら自身も誰に操られているかは理解しきれていないらしい。 それが忘我の棘に操られるという事だろうか? 「まったく……お金儲けだの正義の味方への報復だの、フィクサードの癖にやる事が小さいんだよ」 頭を振った事で望んだ答が得られなかったと感じた灯璃は、ならばとガトリングの弾を鉄柵越しにばら撒きながらフィクサード達の匂いを嗅ぐ。 「そうか? 悪人然としているとは思うんだがな」 「そんなのは、どうでも良いんだけどね。使った棘には溶液が塗ってあるんでしょ?」 挑発するような言葉を受け流された事を気にも留めず、棘の使用者の特定を急ぐ灯璃ではあったが、匂いはレグルスからもフィクサードからも染み出ている。 「……わかるか?」 「ダメ、わからない」 道を阻むレグルスではなく、フィクサードの動きを止めようと気糸の罠を張り巡らせ大竹の動きを止めたヒルデガルドの問いに、灯璃はそう答えるしかなかった。 「当たり前だ。溶液は3人で作り上げている。そして棘は……ソイツに刺さっている」 望む回答が得られないままのリベリスタをせせら笑う大竹がわざわざ解答を出す辺り、棘の使用者が特定される事はないと考えているのだろう。 自分が動けなくとも、まだ他の仲間が動けるならばたいした問題でもないと感じているのだろう。 「レグルスに聞いてもわからない。匂いでもわからない。……なら、やる事は1つ、だよね?」 「そうですね。でもレグルスは攻撃に巻き込まないようお願いしますね」 とすれば、成すべき事は1つ。 大体の状況を理解しきったルーナにそう告げた那由他は、確実にレグルスの動きを止めるべく気を張り巡らせているらしい。 『グガァァァァ!』 「この程度なら……まだ捌けますよ!」 そのレグルスは爪牙を持って光に襲い掛かるものの、見事な剣捌きで受け流した彼女の腕を軽く掠めたのみ。 「じゃあ、行くよ」 「確かに、その方が早いですか」 受け流すと同時に攻撃の態勢に転じた光が、ルーナとほぼ同時に洞窟内に激しい雷を迸らせていく。 狙うは3人のフィクサード、そして道を阻む鉄柵。 一時的な壁としてなら十分に機能する鉄の壁も、彼女達の放つ激しい雷の前では柔らかい壁に過ぎなかった。 「そっか、わからないなら全員まとめて倒してしまえば良いって事だね」 早い話が、エイプリルの言うように忘我の棘を誰が使用していたとしても、全員倒してしまえば話は済むのだ。 彼女の投げた閃光弾が運良くフィクサードの1人の動きを止め、先のヒルデガルドの罠にかかった大竹も含めればフィクサードは2人が動けなくなっている。 (道が出来た……!) 加えて、鉄柵は既に壊れた。影はフィクサードの直近にまで及び、仲間を信じて待ったセラフィーナを進ませる道となる。 「やれやれ、しっかりしてくれよ……」 動きを止められた2人が動けるように邪気を祓う光を放ったフィクサードは、まさかそんなところにまで敵が迫っている事など知る由もない。 故に彼は、ただの的に近かった。 「貴方達の悪事もここまでです! 覚悟しなさい!」 「……突破された!?」 影から飛び出すと同時、そのフィクサード目掛けて鋭い突きを何度も打ち込んだセラフィーナが吼える。 当のフィクサードが傷を負いながらも、慌てて体を霧のように変化させる様を見れば、この男が大野である事は間違いなく、残る1人が大内だともわかった。 だがリベリスタ達はレグルスを操る者を探す事だけを考えるあまり、誰が厄介かで誰から倒すかまでを考慮してはいない。 「面倒だ、これでも食らえ!」 激しい攻撃の応酬の中、投げ放たれたのは相手の力を封じるシールボム。 このシールボムを所持している大内を先に黙らせる事を考えていれば、もしかしたらこのシールボムは防げていたはずだ。 「当てるのは苦手だけど、避けるのは得意なんだよねっ!」 運良くエイプリルがシールボムから難を逃れる一方、那由他とアンジェリカ――果てはレグルスに至るまでがその影響を受けるに至る。 「レグルスは……今はそっちの味方じゃないの……!?」 「敵も味方も問わず……そのやり方は、気に入らんな」 放たれるレグルスの攻撃を受け止めながら、出来る限り彼に傷をつけないようにと努めていたアンジェリカやヒルデガルドにとって、フィクサードの行動は決して許せるものではない。 が、逆に言えばリベリスタ達にとってはこの状況はピンチでもあり、チャンスでもある。 「異世界に来て操られるのみならず、支配者からも攻撃を受けるなんて……その不運っぷりは、私好みなので助けて上げます」 単調な攻撃しか行えなくなったレグルスの爪がアンジェリカに手傷を負わせた横で、不敵に笑う那由他がフィクサード達に仕掛けるだけの隙が出来たからだ。 「ちぃ、戻れ!」 考えなしにやってしまった事を後悔したのだろう、その大内が不意にレグルスへと指示を飛ばす。 「あ、馬鹿……」 「それを言ったら……!」 残る2人が注意しても、時は既に遅し。 「ようやくわかったよ。あなたが――操っている支配者だね!」 遂に得られた解答を、セラフィーナが見逃すはずはなかった。彼女の刃が大内を捉え、 「化けの皮が剥がれるっていうのは、こういうことだね!」 僅かに遅れてエイプリルの式符が飛ぶ。 ついでに言えば後悔先に立たず、もついてはくるか。 「一気に攻めますよ!」 「……わかった」 この機を逃すつもりはないと、光とルーナの雷が激しく洞窟の中で輝き、フィクサード達を裁く。 「レグルスを取り戻すチャンスよ、皆。――癒しよ、あれ」 受けた傷はシールボムの爆風に巻き込まれなかった小夜香がいる限り、大して気にするものでもない。 天使の息吹と同時に告げられた言葉に鼓舞され、リベリスタ達の火線が『忘我の棘』の支配者へと集中する。 「うふふ、もうちょっと待っててね。レグルス。もう直ぐ身の程知らず共を屠らせてあげるから」 『グルル……ウ……!』 それでも支配者達を守ろうと戦い続けるレグルスに灯璃がそう告げ、 「今の君が心を支配されてる事は解ってるよ。傷ついたのはボクが弱いから。君のせいじゃないよ。ごめんね、君に哀しい思いをさせてしまって」 爪牙を受けたアンジェリカは『気にしないで』と囚われの獅子に微笑みかけた。 (あやつ等を守るのが使命だ。しかしあやつ等は俺を攻撃する。お前達は俺を助けるという。気にするなという。何が正しいんだ? 何が――) (その答は、すぐに分かるわよ) 支配されながらも葛藤するレグルスに対し、さらに小夜香が言う。 「くそ、お前が妙な事を言うからだ――」 大内が倒されれば、支配しているはずの獅子すら敵に回る現実に慌てふためく2人のフィクサード。 彼等の必死の支援は、リベリスタの数が彼等と同じ程度ならば、或いは持ちこたえられていたかもしれない。 「策士、策におぼれる。まさにこの事だな」 どう頑張ったとしても力を得たとしても、当の本人が精神的に未熟であれば結局は過ぎた力。 ヒルデガルドの言葉が、意識を失う直前に大内が聞いた最後の言葉だった。 『……全てを思い出した』 それまで唸り声だけを発していたレグルスが、初めて口にした言葉。 突き刺さっていた忘我の棘は、支配者が倒れたせいだろう、その足元に抜け落ち転がっていた。 「……大丈夫なの?」 『問題はない。すまなかったな、傷つけて』 心配するアンジェリカに、それまで攻撃してきた事を謝罪し、静かにフィクサード達をにらみつけるレグルス。 その目には、『よくも支配してくれたな』という怒りが込められており、2人のフィクサードは『ヤバイ!』と慌てふためいている様子だ。 「おはよーっ、レグルス。気分は如何? ねぇねぇ、背中に乗って戦っても良ーい?」 『別に構わないが……奴等も更正できぬわけでもあるまい。殺すなよ』 明るく声をかけた灯璃を背に乗せたレグルスは、フィクサード達が『まだ更正できる』と考えているのか、もしくは彼女の殺気を感じ取ったのか。 お仕置きだけに留めるようにという点を考えると、元から誰かに害悪を成すアザーバイドではないらしい。 (よかった。友好的なアザーバイドのようね) その様子に、正気に戻ったとしても極悪なアザーバイドの可能性も考慮していた小夜香が、静かに胸を撫で下ろした。 『……では彼等にお仕置きと行こうか? この世界の戦士達よ』 「ええ、一緒に敵を討ちましょう!」 決して殺さず、しかし報いは相応に。力強く頷いた光と、助けてくれたリベリスタ達と足並みをそろえ、レグルスが地を蹴る。 フィクサード達の後悔の声が、しばらく洞窟に響き渡った――。 ●獅子は再び戦いへ舞い戻る 「――ところで、何故怪我をしていたんですか?」 通ってきた穴から再び元の世界へとレグルスを返そうとする道すがら、那由他が問うた。 『あぁ……我々の世界でも争いはあってな。その戦いの中で負傷して下がっていた時に……』 「毛並みがいい感じだよ~!」 『く、くすぐったいぞ』 説明しようとする言葉を遮るかのような灯璃のもふもふ攻撃に口を尖らせるレグルスではあるが、背中に彼女やアンジェリカ、ルーナを乗せてのんびり歩いている様子からは、そういった事をされても悪い気はしないようだ。 ともあれ、彼は元の世界での戦いで負傷し、撤退する最中に偶然にも穴を通ってしまったという。 この世界でもフェイトを得ているため、帰らない選択肢もあるにはあるのだが――、 『向こうではまだ仲間が戦っている。俺も早く仲間の援護をしないとな』 それでも仲間のために、彼は戻るのだと言った。 「……厄介事が片付いたらまた遊びに来て。歓迎するわ」 「元気でね」 見送る小夜香に頷いて返し、抱きついてきたアンジェリカの頬を優しく舐めた獅子は、ゆっくりと穴を通って元の世界へと帰っていく。 操られ、しばらくの間であれ悪に堕ちた獅子が、正しき心を取り戻した姿をしっかりと目に焼きつけ、リベリスタ達は穴を破壊する。 もしかしたら、来年の今頃にまたレグルスはやってくるかもしれない。 「また来るかな……」 「さぁ、な。次に来る時は、平和な時を過ごしたいものだが」 その時が訪れる事を期待するルーナの横で、ヒルデガルドは僅かな時間であれ共に過ごす平穏を願う。 「この調子で魚座まで行くのかしら……」 報告書によれば、おひつじ座からしし座までが現れたのだからうお座も来るのではと考える小夜香。 穴を通ってやってきたうお座のアザーバイドが、大地でのたうつ魚だったら――? 「――そうならないよう、祈っておくわ」 「シュールですしね、あまりにも」 せめて、うお座が陸上でも動けるアザーバイドであらん事を。 祈る小夜香と光が空を見上げた時、星空の中を駆けるレグルスの如く一筋の流星が流れた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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