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Campanile


 鳴り響く音に耳を澄ませ、展望台で少女は一人で歌い続ける。
 死を尊ぶ歌を。誰かの不幸せを願う歌を。
 少女の声をかき消す様に鐘が音を立て続けていた。近くから聞こえる潮騒が夏の騒々しさを伝えてくると言うのに、この場所には最早誰も近付かない。
 夏に似合う『都市伝説』が彼女と鐘楼をこの場所に取り残したように思えた。
 鳴り響く鐘が錆ついてギギ、と擦れる音を立てる。其れさえも何処かの誰かの金切り声の様に聞こえた。

「……どうぞ、しあわせにね」
 囁く言葉に応える声はない。
 只管に響き渡る鐘の音は少女の言葉をかき消していく。
 その音色に乗せる様に口ずさむ声は次第に広がって、知らぬうちに耳に入る事だろう。
 何度だって聞かせよう。
 
 曰く、この声を聞けば人は不幸になるらしい。けれど、彼等はその『声』に魅了され、訪れ――
 殺すつもりなんてなかったんだ、ただ、聞けば不幸になるらしいんだ。
 私は、ただ、遊んで欲しかっただけ。
 
 そうだ――私は、ただ。

「……どうぞ、しあわせにね?」
 繰り返し、繰り返し。
 訪れた男を目の前に少女は優しく瞳を細めて手を伸ばす。
 誘われる様にその手を取った男の掌から段々と力が失われて行く。
 本音と裏返しの能力を備えては、少女は只、歌い続ける。
 誰かの不幸を願う歌は鐘の音に紛れて響き渡る。
 
 何処かの噂、人を殺める悪魔がその鐘楼には巣食っているらしい。
 その歌声は魅惑の歌声。
 誘われる様に鐘楼に迷いこめば忽ち、その物は姿を消すらしい。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:椿しいな  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年08月15日(木)22:39
こんにちは、椿です。

●成功条件
 アザーバイド『カンパニーレ』の撃破

●場所情報
 時刻は夕方。沈みかける夕陽が綺麗な海の見える場所です。市街地郊外に存在する鐘楼。
 最近では『悪魔が巣食っている』という噂があり、肝試し等にも使われています。
 高さは大凡40m。鐘楼内にらせん階段が存在し、一番上の階層は展望台をかねた鐘のスペースになっています。
 また、鐘のある最上階は余り広くなく、横に並べるのは4人までとなって居ます。

●アザーバイド『カンパニーレ』
 薄幸の少女。蜜色の髪に硝子玉の様な瞳をした少女。
 鐘の音に紛れて人を喰らうと言われています。
 ひょんなことでボトムに現れ、帰り路を喪った自分の不幸を憂いています。
 他人の幸せを願いながら、『人を不幸せにする歌声』を歌い続けています。
 他人の生命力を吸い取る体をしており触れ合うことで一般人を死に至らしめる。
 咽喉がつぶれても彼女は歌い続ける事が出来るという特殊能力を持っています。

 ・薄幸の歌声(P):一般人(非覚醒)を魅了し、操作できる。革醒者にはBS不吉、不運付与
 ・死者の体(P):接触することで接触した対象のHPを削り取る。ダメージ60
 ・蜜蜂の鐘(神遠域:BS麻痺) ・死の歌声(神近複:BS魅了)
 +マグメイガスに類似したスキルを使用可能

●アザーバイド『破片』×10
 時刻経過と共に数ターンに一度、生み出される破片です。初期は10体。
 カンパニーレが生み出す音が実体を持った物。ホーリーメイガスに類似したスキルを使用する他、カンパニーレの『死の歌声』の弱体化版を使用します。

どうぞ、よろしくお願いいたします。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
プロアデプト
オーウェン・ロザイク(BNE000638)
インヤンマスター
焦燥院 ”Buddha” フツ(BNE001054)
デュランダル
ランディ・益母(BNE001403)
スターサジタリー
百舌鳥 九十九(BNE001407)
プロアデプト
レイチェル・ガーネット(BNE002439)
クリミナルスタア
禍原 福松(BNE003517)
ホーリーメイガス
宇賀神・遥紀(BNE003750)
クリミナルスタア
鮎川 小町(BNE004558)

●Campanile
 沈む夕日を見詰めながら。響く鐘楼の音を耳にして。
 浮かんだ涙を堪えたまま『水睡羊』鮎川 小町(BNE004558)はスカートの裾を握りしめる。小さな少女の頬に伝う筋が増えていく。
「……ごめんなさい」
 繰り返して、呟くたびに雫が鐘楼の床へとぽたりと零れていく。
「ごめんなさい……ッ」
 棒付きキャンディを口内で弄びながら『ラック・アンラック』禍原 福松(BNE003517)は溜め息交じりに吐き出した。
 未だ年若いながらも背伸びした様な少年は割り切ってるんだがと小さく呟いて帽子を目深にかぶり直す。
「……オレもまだまだハードボイルドには遠い」
 彼の言葉に重なり響く鐘楼の音に耳を澄ませ、『Dr.Tricks』オーウェン・ロザイク(BNE000638)は最後まで希望を捨てずに辺りを捜索していた。『彼女』の帰り路が何処かに無いか。手探りで探し続けてもそのようなものは何処にもない。
 もう一度、大きく響く鐘の音に手を合わせ、数珠を鳴らした『てるてる坊主』焦燥院 ”Buddha” フツ(BNE001054)の念仏が重なり響く。潮騒の音が鼓膜を擽り、静かなその場所に残る奇妙な感覚に『祈花の導鴉』宇賀神・遥紀(BNE003750)は逸らし掛けた視線で真っ直ぐに夕陽を見詰めている。

 せめて、君の魂が元の世界に在れる様に祈るよ。
 夕焼けに染まる空も、何処までも雄大な海も目に焼き付けて、輪廻の陛へと――

 言葉を耳にしながら殺したがり――『シャドーストライカー』レイチェル・ガーネット(BNE002439)の赤い瞳に浮かんだのはその性質ではない、まだ年若い少女としての感情であろうか。
 幾ら考察したってその存在が『不幸』なものであることには違いはない。
 結局、これが『正しい選択』なのだから。
 手を伸ばし、『怪人Q』百舌鳥 九十九(BNE001407)が鳴らし続ける弔いの音の中で、『墓掘』ランディ・益母(BNE001403)はその唇をゆっくりと歪めていく。

 どうか、幸せに――

●鐘楼の音
『悪魔が巣食っている』とまで噂される鐘楼。沈みかける夕陽が美しい場所で、人気を確認しながら、オーウェンはゆっくりと鐘楼の扉を開く。ぎぃ、と重たい音をさせる其れをくぐれば、外の蒸し暑さを感じさせない冷やかな空気が漂っていた。
「ふむ。……『彼女』はこの上か」
 眼鏡を指先で弄る彼の思考回路が組み立てられていく。組み合わされる超演算。脳内の伝達を高速化する彼の背後で、結界を広げつつランディはグレイヴディガー・ドライを床につく、階段を上る足は一歩、踏み出す度にやけに重たく感じた。
「此処には受け入れられず、訪れる死を待つだけ、か」
「うーむ、願いに合わない能力が持ったのが不幸なのか、能力に合わない願いを持ったのが不幸なのか」
 何れにしても『人を不幸にする』歌声を止ませなければならないと九十九は呟きワイヤーをぐるぐると鐘楼のドアノブへと巻き続ける。何をしているのかと目を丸くして首を傾げる小町に気付き九十九は「人対策ですな」と小さく告げる。
 歩むたびに、かん、と音を立てる階段を踏みしめながら銀髪を揺らして小町は拳をきゅ、ときつく握り締める。彼女のふんわりと雰囲気からは想像のつかない掟を刻みつける。
「あ、きれぇなおうた……」
 小さく呟きながら、少女が刻んだ血の掟。決して違えぬ其れを刻みつけながら一歩一歩踏み出す中、フツが最上階に踏み入れた時に歌が、止んだ。
 今まで響き渡っていた少女の歌声が止まり、少女が一歩踏み込む。
「……あなた、幸せ?」
「ああ、幸せだよ。それから、お前を幸せにしにきた」
 そう、と囁くフツの手元で少女が笑い声をあげ続ける。魔槍深緋は語りかけるようにフツへと言葉を掛け続ける。幸せ、幸せ、と口にする深緋。その言葉にそうかと囁いて。
 彼に視線が逸れた向こう、赤い瞳が光りを灯して光る。レイチェルの指先からWryneckが飛ばされる。ついで赤から放たれる気糸。
 眼鏡の奥で細めた赤に切ない感情など乗って居なかった。ただ、其処にあるのは『彼女が駆逐すべき』であるということのみ。
「他者の幸せを願いながら不幸を撒き散らす事しか出来ない存在、か」
 囁いて、彼女の気糸が周囲を飛ぶ破片を捕まえる。カンパニーレの周囲を飛び交う其れが彼女の願う『幸せ』が――叶う事のない願いの欠片の様に夕陽に照らされて輝いた。
(この場合、誰より不幸せなのは彼女本人なのかもしれませんね)
 レイチェルの思惑の通り、蜜色の髪を揺らし、硝子玉の様な瞳を細めたカンパニーレはその外見からも幸福を感じられはしなかった。少女の顔色は悪く、整ったかんばせであってもお世辞にも美しいとは言えない。
 まるで、その身その物で不幸だと言う事を表すかのような少女。彼女の背後に回り込み、オーウェンは物質を通り過ぎて、反応の遅れた少女の体を振り仰ぐ。
「――不幸を嘆きても。他者を自身と同じ所まで貶めても。自らの不幸が無くなる訳でもなかろうに」
 ぴくり、と少女の肩が揺れた。オーウェンの言葉に、丸い瞳に薄らと感情が灯る。
「まぁ、思考パターンが違うアザーバイドだ。その理屈も通じぬのだろうな」
「なら、私はどうすれば、『だれか』をしあわせにできるの?」
 囁く様に、少女が言葉を発する。その疑問は答えの見つからないまま『都市伝説』が如き扱いを受けた少女の本心だったのであろう。
 彼女がぐ、と足に力を入れたその体を吹き飛ばさんと炸裂脚甲「LaplaseRage」を使用したオーウェンが瞬時に近寄った。その姿を目に映せないままのカンパニーレが息を吐く。体が味方側に飛ぶと共に、触れたそこからオーウェンの体へと痛みが走った。
「おっと、お嬢さん、落ちないように気を付けてくれ」
 深緋が彼女の体を吹き飛ばす。柱へとカンパニーレがぶつかると共に、フツは出来る限り味方に少女が触れ合わぬ様にと気遣う様に布陣した。
「なあ、こうして誰かに殺されそうになるって、幸せか?」
 問うランディが周辺に飛ぶ欠片を巻き込み斧を振るう。グレイヴディガー・ドライ(こわすもの)は破壊衝動を其の侭に、赤黒く染まった刀身をその欠片で汚していく。
「こうして、誰かがきてくれるだけで、しあわせ」
 少女の言葉にレイチェルの瞳が歪む。誰かの幸せを願って、不幸せな少女。誰よりも心優しく思える少女。
 このような時、兄は如何したのだろうか? その細い背を抱きしめて、止めを刺すのだろうか。
 ――けど、私は。
「悪いけど、速やかに排除させて頂きます」
 レイチェルの宣言に合わさる様に九十九の弾丸が飛び交った。不幸な事故を防ぐようにと対策には対策を講じた彼が仮面の奥、どの様な表情を浮かべているのかは誰にもわからない。
「さて、今晩は。歌い手のお嬢さん。人の幸せを願いながら不幸せにする歌声を出すとは、何とも矛盾していますが」
 何か理由でも、と問う言葉にカンパニーレは切なげに目を細めて判らないわと囁いた。

●幸福論
 誰かを幸せにしたかったの。
 この歌で誰かを幸せに。
 でも、宿したのは不幸だって知っていたから――わたし、それでも、幸せよ?

「きれい。きれいなおうた。お家に帰れなくなっちゃったのは、とてもとても哀しいです……」
 囁いて、涙を貯めて。破片を殴り飛ばしながら、小町が呟いた。歌が大好きな小町にとってカンパニーレの歌声はとても素晴らしいものだったのだろう。不幸を告げる其れが自身の攻撃を外れさせたとしても。
 憧れた母と同じ『ピアノ奏者』になりたい小町にとっては、その歌声をピアノに乗せて歌いあげてくれるなら、と夢見ずにはいられない。
「わるいこも倒さなくちゃならない……っ、こまち、えらいから、ちゃんとお仕事、できるのよう」
「アグレッシブな娘さんの歌、俺は聞くよ。俺が護るべきものの為に戦わなくても良い未来のため神秘を根絶やしにするまでのその一時は、君の声を」
 ハイ・グリモアールをなぞる指先。超直観を使用して、破片の出現パターンに気を使いながら遥紀は詩的に紡ぐ。
『鐘楼の乙女』と少女の事を称し、彼女の歌声を遮る様に癒しを送る。ランディの結界に重ねる様に張り巡らせた強結界。
 遥紀が仲間達へと与えた翼が効率的に動き易く彼等を支援して居た。
「いい歌だな。遊び相手は必要会? ……帰りたいんだろ? お前」
「……ええ」
 オーバーナイト・ミリオネアの照準が合わせられている。破片を更に打ち砕く弾丸の雨の下を潜り抜けフツがカンパニーレへと接触する。
 帰り道を探す少女。それは、まるで成仏出来なかった霊魂の様である。支え、助けてやれやしない。
「お前を帰す手立てが無い。そして、お前はこの世界には毒ということらしい。全力で抵抗していいぞ」
 お前にはその権利がある。
 そう告げた福松が地面を蹴る。ふわり、浮き上がった侭に弾丸が降り注ぐ。歌い続ける彼女の声を何時もより発達した耳が捉えるが、それを彼は厭う事は無い。
『見知らぬ』自分たちが問答無用で殺しにかかる。歌くらい聞いてやればいい。それが礼儀なのだから。
「ええ、抵抗してくれたって構いません。その代わり、私は貴女への攻撃を辞めない!」
 全てを解析する。オーウェンとレイチェル。二人のプロアデプトがイレギュラー(てき)を解析し、状況を改善していく。
 レイチェルが広める閃光が周囲を包み込む。燃やし尽くす神秘。黒猫はその速度を生かし、効率的な戦いを展開していく。
 組み立てた計算式。答えを探す様に、少女はもがく様にその引き金を引いた。気糸が広まり続け、超直観を使用しカンパニーレの次の攻撃を予測する。
 行動パターンは確認しきった。次の行動は何か。オーウェンも同じく少女の行動を予測して行動を行う。彼女を決して動かさないと云わんばかりにその体を押しとどめ、ズレる眼鏡を直して、周囲を確認し続ける。
 帰せるなら帰したいと思うのは九十九も同じだった。出来ない事は仕方ない。
「女子供を打つのは好きではないんですけどなー。まあ、撃ちますけどな。仕事に私情は挟まない事にしてるんです」
 弾丸は真っ直ぐにカンパニーレを貫いた。少女の眼が大きく見開かれる。
 ぜえ、と息を吐き歌う彼女に遥紀は切なげに目を細め、唇を噛み締める。
「カンパニーレか。鐘楼の名前は最初からキミがもっていたのだろうか。それとも誰かからの贈り物なのかな?」
 少女は首を振る。判らない。けれど、この名前を得たから。彼女は『カンパニーレ』なのだという。
 蜜色の髪が風に揺れ、攻撃を翳す掌が伸ばされる。誰かのためにと縋る様に伸ばされたその腕が。攻撃を受け流せず、一歩下がるフツ。交代する様に福松が前進し、攻撃を与える。
「遊び相手にオレは不足か? そうじゃないなら、コッチ向けよ。別にドラマを求めてるわけじゃねぇんだ」
 口の中で遊ぶキャンディ。オレンジ味が口内を支配する。橙の瞳がカンパニーレを見据えれば、少女は遊び相手という言葉に何処か嬉しそうに微笑むが、切なげに小さく息を吐く。
 後衛に下がるフツを支援する様に回復を施しながら、遥紀はカンパニーレの姿をそのしかに収め続ける。
 薄幸の少女、幸せを望む、不幸せな少女。
(高らかな鐘の音の様に海原に響く聲は、すがる様に伸ばされた腕は、破滅を誘う魔女か、愛しものを願う祈りなのか。
 泡の様に浮かぶそれは、唯の憶測。君は、何を想うのだろうな――?)
 回復を得て前線に飛び出すフツ。攻撃の嵐の中でも凛とした歌声は響いていた。
 ただ、その存在を知らしめたいと言わんばかりに、高らかに、のびやかに少女が歌い続け、蜜蜂を飛ばすかのように音波を吹き荒れさせる。それが小町の体を貫くが、少女は強く足で踏み締めて、立っていた。
「こまちにだって、できることだって、きっとあるのっ。
 いつか、おかーさんみたいな立派なリベリスタさんになるです……っ! こまち、まけないの!」
 痛みを回復されながら、こまちが拳を振るう。弱くったって、何だってできる。足手まといにはなりたくないから。
 自分のできる事を、全力でやりつくせばいい。自分は、その為に此処に居るのだから――!
 力を込めて、其の侭一気に破片を砕く。きらきらと光りながら砕ける其れを見詰めて、少女が小さく瞬いた。
 減り続ける破片の中、ランディがその斧を振り翳す。生まれるエネルギーの弾丸は強烈に少女の体を貫いた。
 熱量に、物量に、推し負けた少女が目を見開いて歌うのを辞めやしない。フツが前線で突き刺す槍から赤い液体がぽたぽたと滴り続ける。
 攻撃が続く中、欠片を増やそうと少女が目を開いた其処へと、オーウェンの行動が目に入る。
 吊り下げられた鐘へと触れた指先が簡単に離れる。唇が歪み、彼が行おうとする行動に福松が耳を塞ぐ。
「ふむ、耳を塞いでおきたまえ」
 オーウェンの言葉に小町が続いて耳を塞いだ。一気に振り仰ぐ、そして続けざまに響くのは、

 ゴォン――

 重い音が響き、鐘が鳴る中でも少女の歌声は中和できない。それ以上に響く彼女の声が只管にその存在をアピールし続けていた。
 誰かを不幸にする歌声は彼女にとっては『幸せ』を乞う歌声で会ったのかもしれない。
 音楽が好きな小町が哀しげに目を細め、支援する遥紀が「カンパニーレ」とその名前を呼ぶ。
「なあ、お前、歌が好きなんだよな?」
「好きよ」
「もし生まれ変わって、その歌がただの歌になったとしたら、そんときゃ聞かせてくれよ。オレもさ、歌は得意なんだ」
 その言葉に少女がそうね、と小さく瞳を細める。共に歌えれば、いいなあと零された言葉はアザーバイドとは思えぬ、唯の『一人の少女』の様に思えた。
 突き刺さった槍が抜かれ、少女の足が、ゆっくりと後退していく。
 さっと小町の顔が青ざめていく。あ、と小町が声をあげ、手を伸ばした。
 ぐらり、と少女の体が傾いた。柵の無い鐘楼。彼女の体が地面へと向けて落ちていく。
 空を仰ぎ、沈む夕日が瞳を濡らす。まぶしい、と空に向けて伸ばした腕が、ぐい、と誰かに掴まれる。
「……?」
 落ち掛ける其れに手を伸ばしランディが「なあ」と少女の丸い瞳を見詰める。
 もしも少女が落ちた時はフツが彼女を追った事だろう。ぶらり、と鐘楼の上、少女の短い脚は落ち着くところが無いままに投げだされている。
「……死んじゃうわ」
 己の体は、触れる者を死に至らしめると少女は首を振る。小さく、『不幸』を厭う様に少女が告げる。帰り路を喪った自分が不幸だと憂いて歌っていた。けれど、幸せを奪っている事は知っていた。
 革醒者を死に陥れる事がない歌声であれど、彼女は誰かの生命力を蝕み続ける。触れる掌から、その命を吸い取る様な気がしてふるふると首を振った。
「……別に、この程度吸われたって何て事は無ぇ」
 少女の体をぐ、と引き摺り上げる。丸い瞳はただ、じ、っと見詰めていた。不幸になるわ、と唇が静かに動く。
 アザーバイド、別の種である筈の少女は何処か人間の様に哀しげに目を細めて、告げた。
「わたし、本当は幸せだったわ。歌を聞いてくれて、こうして、誰かが、来てくれる」
 小町の耳がぴくり、と揺れる。その体は鐘楼の下に戻された。ただ、座り込んだままの彼女の近くに福松は座り、ゆっくりと笑った。
「なあ、お前の歌、嫌いじゃないぜ。お前は幸せを願ってくれたんだろう? なら十分だ、受け取った」
 聞くのが礼儀だろう、と囁いた少年の言葉に少女のなみだがぽとぽとと落ち続ける。
 いい歌だと褒められる其れに喜んで。一度も攻撃されなかった自身の頬に触れて、カンパニーレは眼を開く。
 福松はなるべく首も顔も殴らないと決めていた。彼女は『少女』なのだから。わざわざ殴る意味は無い。
 少女の体が傷だらけ、人間と同じように流れる血を気にする様な仕草を見せた後、ゆっくりとランディを見上げた。
「幸せにか。幸せに、皆そうなるなら最高さ。だが、生きる為には他を喰らわなきゃならん」
 例えば、自分の幸せのために少女の命を此処で立たなければならないというソレだってそうだ。
 押し付けられた死に抗っただけ。幸せも不幸も押し付けられるのは勘弁だ。
「……ねえ、あなた、幸せ?」
 首を傾げ、硝子の瞳からぽたぽたと雫が落ちる。其れが涙なのか、別の物なのか、彼女がこの世界の存在ではない以上判らない。
 さあ、と囁いて。小さな苦笑と共に「お互いにさ、在る様に、望む様に生きたかったな」と零した言葉にカンパニーレは立ち上がる。
 ゆっくりと立ち上がりぽたぽたと血が滴り落ちた。彼女に向き合って、レイチェルが息を吐き、しっかりとその眸を合わせる。
「貴女が此処に居る事で幸せになれる存在は誰一人としていない。この不幸の螺旋は、貴女で終わりにしましょう」
 向けられる銃口。リベリスタ達が一斉に彼女へ与える攻撃を整える。その様子を見て、最後の最期、薄幸の少女は、今までにない以上に幸せそうに微笑んだ。

 ああ、もう、これで、私、救われるのね……?

 レイチェルにむけて、少女の唇がゆっくりと動く。レイチェルの大きな赤い瞳が細められ、小さく指先が震えた。
 最後、一つの言葉が彼女の鼓膜に反響した後。鐘が大きく響いた。
 鐘の音に誘われる様に少女の体が倒れていく。溶ける様にこの世界の物ではない体が消えていく。欠片になって、そして空に紛れるなか、小町の掌に残ったのは誰かの残滓。
「……ばいばい、です」

 ――どうか、幸せに。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 お疲れさまでした。アザーバイドなのでした。
 少女に対して様々な思いをかけてくださり有難うございました。
 皆さんがそれぞれ思う事ぶつけ、そして、どの様に動くか。カンパニーレの特性を生かした行動が出来ていたように思います。
 みなさんがしあわせであれば、いいなあ。

 ご参加有難うございました。また別のお話しでお会いできる事をお祈りして。