●青春を込めた弾丸 手に持った弾丸に青春を込める。 あの時代人々は生き生きと輝いていた。 溢れる希望と未来に向かってその日一日を楽しく過ごしていた。 親しい友達と一緒に馬鹿をやったりはしゃいだり。 放課後は永遠だった。 大人になった人々は皆疲れ切った顔をしていた。 駅から降りてくるサラリーマンやOLの表情は暗い。毎日仕事に追われてその日を生きることに精一杯で何も希望や未来に楽しみを持っているようにはみえなかった。 もちろん人それぞれの楽しみや目的というものがあるのだろう。 疲れた表情をしたサラリーマンの中には愛する家族たちが家で帰りを待っているのかもしれなかった。それでも彼らには何か情熱という熱い衝動がないように見えた。 ただ繰り返すだけの毎日。生きていくために同じ場所を往復する生活。やる気のない単調な生活に追われるばかりだ。立ち止まってもう一度自己を見つめ直す。 もっと違う未来がありえたかもしれない。 もっと幸せな生き方がありえたかもしれない。 彼らはそういった負の感情を心のどこかに隠しているように思えてならなかった。 私はそんな大人にはなりたくなかった。 だからこの世界に銃を突きつける。 すべてのやる気のない大人たちを排除するために。 この青春を込めた弾丸で。 ●漠然とした不安 「駅前の商店街にノーフェイスの少女が現れた。彼女の名はアリアドネ・テンニエス。帰宅途中のサラリーマンやOLに向かってマシンガンを乱射している。すでに犠牲者が出ていて現場にはE・アンデッドになった一般人がいるわ。このままにしておけば、さらに被害が増えて大変なことになる。そうなるまでにアリアドネたちを討伐してきてほしい」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は重い口を開いた。ブリーフィングルームに集まったリベリスタ達も一刻を争う状況に唾を飲み込む。 アリアドネ・テンニエスはまだ可愛らしい容姿をした少女だった。東欧の血が混じったハーフで身寄りがなくて孤児院で育った覚醒者だった。 漠然とした不安がアリアドネに襲い掛かっていた。自分は一体何者なのか。これから孤児院を出てどうやって生きて行けばいいのか分からずに苦悩していた。 アリアドネは漠然とした不安に襲われて世界を壊すことにした。少なくともはっきりしていることは大人たちが嫌いであるという感情だった。 アリアドネはそうして運命を失ってしまった。その代わりに増強した力を用いて彼女は道行く大人たちを無差別に銃で乱射し始めたのだという。 「アリアドネは大人たちにとても怒りを覚えている。これ以上彼女に戦闘させないためにはやはり説得が必要よ。だけど中途半端な説得では逆効果。彼女の気持ちを害さないように慎重に接してきて。話をもちかけて彼女の気を引いたうえで、戦闘に持ち込むことができれば言うことはないわ。くれぐれも周囲には気を付けて行ってきてね」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:凸一 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年08月20日(火)22:32 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●世界に銃口を突きつける 商店街は大混乱が起きていた。帰宅途中で巻き込まれたサラリーマンやOL達が必死になって逃げ惑う。突然現れたトリガーハッピーの少女は怒っていた。 マシンガンを乱射して犠牲者を次々に作り出していく。無残にも殺されたサラリーマンたちが今度は敵になって人々を襲った。まるでこの世の生き地獄のようだ。 「青春かー。盗んだバイクで走り出しちゃったり、夜中に校舎の窓ガラス叩き割ったり? 灯璃の青春は復讐オンリーだからフィクサード打ち殺して発散してたけど、そーゆーのは何か違うと思うんだよねぇ」 『断罪狂』宵咲 灯璃(BNE004317)は双剣を弄びながら自身を振り返る。もっと青春らしいことをしておけばよかったかなと思う。 「不思議なことに、他人とは思えません。世界に銃口を突き付ける――格好いいですね。ならば――そんなあなたに切先を突き付ける私は、それ以上に、いや最高に格好いいはず……です!」 『痛みを分かち合う者』街多米 生佐目(BNE004013)は遠くからアリアドネに刀の先を突きつける。あまりの自分の格好よさに思わず口元が歪んだ。 「ああ、将来への漠然とした不安っていうのは確かに……恐いよな。だけどよっぽど誰かに決めてもらうようなもんじゃないし。独りよがりの青春なんて、他人に当たり散らすようなもんじゃないぜ」 虚木 蓮司(BNE004489)はまだ幼い少女を思い遣る。自分もこの先どうなるかはわからない。他人任せでは生きて行けるほどこの世は甘くない。 「思春期ですか、馬鹿ですか? 馬鹿ですね。勝手に自分を投影して八つ当たり、いい迷惑です」 『落ち零れ』赤禰 諭(BNE004571)は強い口調で言い切る。警官姿に同じく身を纏ったレディ ヘル(BNE004562)も心の中で諭に頷いた。 (おめでたく幸福であり、不幸な頭だ。古の大戦を知らぬ、今の平穏を得るために絶望の中、どれだけ命が未来を打ち捨てたかその幼稚で純情な不幸も幸福も全て摘み取ってやろう。“絶望を前に屈した幼き者よ”) 「今回問題となってるのは彼女ですね。まだ若いのに先走って基調な余生を費やしてしまって……。主役事はアークのエース方に任せましょう。私は地味かつ平凡にこの仕事を全うするだけです」 OLのスーツ姿の『研修中』渡辺 佳奈(BNE004470)が決意を告げる。過去に新入社員だったことを思い出して改めて身が引き締まる思いがした。 「自分の感性を他人に押し付けるなど……生き様は人其々で、何より自由であるべきです。そうですよね、櫻霞様?」 「むろんだ。これだからエリューションは嫌いだ。他人の迷惑も顧みずにこの世界に害をなす奴は俺がすべて片付ける」 『ODD EYE LOVERS』二階堂 櫻子(BNE000438)の問いかけに『アウィスラパクス』天城・櫻霞(BNE000469)が即座に自信を持って頷く。 「櫻子、どうした何か顔についているか?」 「いいえ……な、なんでもありませんわ。そ、その……」 櫻霞は警官姿に身を纏まっていた。いつもとは違う雰囲気の櫻霞の姿に思わず櫻子は頬を赤くして顔を逸らしてしまう。下手すればいつまでもその凛々しい横顔をずっと見つめていてしまいそうだった。 リベリスタの一行はすぐに商店街の騒ぎに割り込んだ。逆行する人の波に押し戻されそうになりながらもアリアドネのいる場所に向かう。 もはや一刻の猶予もなかった。はやく彼女の青春に終止符をうつために。 ●理想の未来像 「中央で爆発があったの! 危険だから皆、此処から後に急いで逃げてっ!」 花柄のフリルのワンピースを纏った元気な女の子が悲鳴をあげた。走り回りながら周りのサラリーマンやOLに訴えかける。 櫻子はダブルキャストで活発な少女に性格を変えていた。 「また爆発するかも! 早く逃げて!」 あたふたと走る櫻子を見てようやくサラリーマンとたちも我に返る。前方では断続的に銃声が響いていた。異常を知った人たちがすぐに踵を返し始める。 「これで収まるとも思えん、急いで全員避難しろ!」 櫻霞も一緒になって声をかける。途中でなおも動かない腰を抜かした一般人に語気を強めて叫んだ。 「何時まで呆けている! 巻き込まれたいのか!」 怯えていたサラリーマンも櫻霞の言葉に立ちあがった。急いでその場をあとにする。警官姿のレディがホイッスルとジェスチャーで巧みに一般人の誘導を手助けした。混乱がこれ以上起きないように交通整理を行う。 「みんな! こっちに来るな! 引き返せ!」 蓮司が大声を上げる。これ以上アリアドネの方に人々が近づかないように必死に声を張り上げ続けた。 「凶悪犯が銃を乱射して危険です、逃げてください!」 諭も一緒になって誘導する。ファミリアーで小鳥を支配して上空から安全な場所を探らせた。情報を得た諭はすぐに人々に指示を出す。 より危険が少なく早く逃げられる道に誘導を行った。野次馬には影人を使ってこれ以上入ってこないように商店街の入り口で邪魔をさせた。 佳奈も一般人が攻撃されないように自らが盾になって踏ん張る。パニックになった群衆に押されそうになりながら歯を食いしばって耐えてみせた。 他のメンバーが避難誘導をする間に生佐目と灯璃がアリアドネに迫る。生佐目はすぐ傍の店の二階によじ登った。気配遮断を使用して接近する。 「ハーイ、アリアドネ。青春してる?」 灯璃がアリアドネの前に立ちふさがった。低空飛行で人波を飛び越えていち早く現場に辿りつく。人々に突きつけられた銃口の先に立った。 「あんた誰なの? 邪魔しないで! 早くそこをどけないと撃つわよ」 アリアドネはマシンガンの照準を灯璃に合わせた。トリガーに指をかけて狙いをすませて威嚇する。これ以上動くと容赦なく撃つ姿勢を見せた。 「先ずは始めまして灯璃の名前は宵咲灯璃。よろしくねっ! ちょっと灯璃とお話しようよ。自分が何者か知りたくなぁい?」 灯璃の自己紹介にアリアドネが眉をひそめた。突然現れた敵ともつかぬ者に親しげに話しかけられて戸惑う。それでも警戒して語気を強めた。 「私はアリアドネ・テンニエスよ。それ以外の何物でもないわ」 当たり前のこと何を言ってるのよという口調でアリアドネは答える。その返答を聞いて灯璃は笑みを零した。まるで何も分かっていないというように。 「アナタは灯璃と同じ革醒者。フライエンジェのスターサジタリー“だった”んだけど、今は違う存在だよ。今のアナタはノーフェイス。運命の寵愛を失った世界の敵アナタは存在するだけで世界を傷付ける。でも、そんな事は如何でも良いかな?」 アリアドネは歯ぎしりした。自分がこの世の害をもたらす存在であると言われて頭に血が上った。むしろ世界の方が壊すに値する存在だと怒りを露わにする。 「それじゃあ、今度は灯璃の番ね。アナタの夢を教えてよ。アナタは将来、何になりたかった? 孤児院から出たかった? 居たかった? 過去ばかり見てる無気力な大人は嫌い?」 灯璃の言葉にアリアドネは動揺した。少なくとも目の前にいる奴は自分の話を真摯に聞こうとしていた。これまで散々自分を馬鹿にしてきた大人とは違う。 だがアリアドネは素直になることができなかった。 「あんたに私の何が分かるっていうの? そんなの当たり前じゃない。こんなくだらない世の中は壊してしまえ。正しいのは大人の世界ではなくて私の方なのよ」 「そんなの皆一緒だよ。好き好んであんな大人になった訳じゃない。灯璃が聞きたいのはアナタの理想の未来像。理想の大人になる為にアナタは何をしたのかな? そこに意味はあるのかな?」 灯璃に言われてアリアドネは気がついた。自分自身がこれまで何も努力をしてこなかったことを。ただ大人やこの世界が嫌いで反発してばかりだった。 そんなアリアドネに周りの大人や友人も愛想をつかした。いつの間にか誰も周りからいなくなって結果としてアリアドネは一人ぼっちになった。 ●尽きぬ銃弾 「死体は死体らしく灰になっておけ! 火葬の時間だ!」 櫻霞が迫りくるE・アンデッドたちに魔力で作られた業火の矢を降らせる。避難誘導がひと段落して周りには敵しかいなかった。 「そちらには逃がしませんわ!」 櫻子も魔弓を構えて魔弾を逃げる敵に放つ。櫻霞の攻撃を避けた敵に対して積極的に攻めた。絶対に一人も逃さないという気迫を込める。 「一枚二枚……符も只ではないのですけどね」 諭も影人で援護射撃を行う。E・アンデッド達はすぐに散った。リベリスタ達から苛烈な攻撃を仕掛けられて逃げ惑う。 続いて佳奈が消火器で傍の敵を殴りつける。アリアドネに狙われないように細心の注意を払いながら地味に攻撃をしかける。 集中に集中を重ねたレディの神気閃光が敵を全て焼き尽くした。 E・アンデッド達が次々に倒されてアリアドネも我に返る。相手にしていた灯璃や他のリベリスタにハニーコムガトリングをぶっ放す。 「ぐはあああっ!!」 蓮司と諭が狙われた。レディが諭をかばって代わりに傷を負う。諭はレディに庇われて何とか無傷だった。代わりにやられたレディを介抱する。敵の怒りの籠った激しい攻撃に逃げる場所がない。深手を負った蓮司もその場に釘づけになる。 近距離で銃弾の雨に晒されて灯璃もさすがに顔をしかめた。 「さぁ、痛みを癒し……その枷を外しましょう……」 櫻子が回復の息吹を施す。その隙に今度は生佐目が迫る。 「さあ――まだ銃弾は尽きていません。貴方の怒りは貴方に更なる力を与えているはず。私が貴方を彩ります。痛苦の中でも、世界に銃口を向け続ける貴方は、きっと、格好いい。そのはずです!」 生佐目は静かに宣告した。刀を振りかざして跳躍すると背後から狙う。 振り向きざまに銃口を突きつけたが、それよりも早く刀の切っ先がアリアドネの背中を掻き斬った。血しぶきを撒き散らしながらアリアドネは苦悶する。 「そうやって何も考えず青春とやらで過ごした結果、貴女は取り返しの付かない事態を爆走してしまった。もはや間違いを正す術もない。貴女の笑顔は大人に守られたものだという事を知っていたはずでしょうに。その希望をもったまま社会を生き抜けたならそれは誰がみても理想像でしょう。けれども現実は甘くない。貴女のとった行動は革命にしては至極ナンセンス。家計簿見てなきゃ生きるのも難しいというのに――」 佳奈が倒れたアリアドネに向かって現実の言葉を突きつける。その瞬間、アリアドネの頬から熱い雫が込みあげてきた。痛くて苦しくて堪らない。それに容赦のない言葉を浴びせられてしまった。 「私は死にたくない――絶対に死にたくない。まだまだ人生これからなのよ」 アリアドネは影に潜んで攻撃を試みようとした。諭がそうはせまいと広角射光電燈で辺りを照らし出す。影を消されてアリアドネは潜れなくなる。その隙を諭につかれてアリアドネは砲撃を食らった。 「羞恥心でもあったんですか? 恥じて隠れて、驚きですね」 「くっ……余計な真似をしないでよ!」 「満足ですか? ああ、不満足でも満足でも行くところは一つですが」 アリアドネはそれでも立ち上がろうとした。マシンガンを世界に向けてすべてを撃ち壊そうとする。そのとき蓮司が銃で狙い撃った。 「この八つ当たりが、アンタの"輝かしい青春"の結果なのかよ! 自分の手で誰かを不安ごと殺して、そうして誰かの手で自分の不安ごと殺されるのか。手の込んだ自殺もいいところだぜ!」 一瞬の不意を突かれてアリアドネは武器を落としてしまう。その隙に生佐目がペインキラーで落ちたマシンガンを撃ち抜いた。 破壊されたマシンガンを前にアリアドネは絶望に打ちひしがれる。頼みの武器を失った以上もうどうすることもできなかった。 「唯悪戯に情熱を振り回すだけじゃ夢は叶わないよ」 逃げようとするアリアドネに灯璃が先回りしていた。狙いを澄まして死神の魔弾を撃ち放つ。命中した瞬間、アリアドネは苦悶の表情を浮かべた。 「きゃあああああああ―――――――――」 断末魔とともにアリアドネは地面に墜落した。 ●青空の果てに アリアドネはまだ息をしていた。すでに重傷を負って動けない。櫻霞はアリアドネの傍に寄って銃口を突きつけた。 「大人に絶望するのは勝手だがな……貴様がやったことは、ただの子供の癇癪だ」 櫻霞は煙草を咥えて火をつける。 一つの命を終わらせる銃声が辺りに響いた。 「――そしてその程度では、世界は何も変わらない」 櫻霞は銃を仕舞いながら言った。横で心配そうに見つめていた櫻子もすべての事が終わって安堵の表情を見せた。緊張で張り詰めていた尻尾と耳がぺたんと垂れ下がってパタパタと揺れ動く。櫻霞の元に近寄るとすぐに抱き留められた。 「ゆく川の流れは絶えず、而して、元の流れに非ず。昨日の貴方は既に遠く、明日の貴方は既に先を歩んでいる。この意味をどう捉えますか――――?」 生佐目は全て終わってアリアドネに近づいて問いかけた。先ほど言おうと思っていて結局聞くことができなかった想いを告げる。 すでに動かなくなったアリアドネは一体どの場所を流れているのだろう。歩みを止めてしまった彼女はもうどこに行くことも叶わない。せめてこれからの世界の未来を思って今は静かに眠ってほしい。 (生きるのに必要なものは、確固たる確信と目標) レディは心に信念を宿して飛び立つ。諭がどこかに飛んでいく傷ついた鳥に振り返りながらその先に広がる青空をいつまでも眺めていた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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