●E・アント 「E・ビーストの集団が出現します。皆さんにはその撃破をお願いしたいんです」 マルガレーテ・マクスウェル(nBNE000216)は端的に告げると、スクリーンに画像を表示させた。 起伏は殆どなく、膝の半分くらいの背丈の雑草が一面を覆う平原に、無数のアリたちが群れを作るようにして集まっている。 「このエリューションと化した蟻の群が、今回の撃破対象となります」 フェーズは1だが、その数は100体にもなるという。 その数が告げられると、集まっていたリベリスタ達の幾人かは表情を変化させた。 それだけの個体数があれば、個々の戦闘力が低くとも脅威といえる。 「体長は2m程になっていて、高い耐久力を持ちます」 防御力も低くないし、動きも機敏だ。 「攻撃手段は強靭な顎による咬みつきと、蟻酸らしきものを飛ばす遠距離攻撃になります」 何より一番大事なのは、知性が低くとも統率のとれた集団行動が可能という点だろう。 「群れにボス等は居ませんので全体的な統率は取れていませんが、小集団としての 個々の連携や、近くの小集団との連携などは確りと行ってくるようです」 それがどれだけの力を発揮するか? リベリスタ達はその事を、よく知っている。 ●集団戦 表情を引きしめた皆を見回すとフォーチュナの少女は、今回の作戦には皆さんに加えて新人のアークリベリスタ達が戦力として加わりますと説明した。 戦力として加わるのは、実戦に加わる為の一通りの訓練は終えたものの、実戦経験を積めなかったという新米リベリスタ達である。 「今迄ですと実戦経験を積ませる際には、新人同士の少数チームかそれに経験者を加えた編成で、エース部隊……アークの実戦部隊である皆さんの事ですね? とにかく皆さんを投入する必要の無さそうな比較的容易な任務で経験を積んでもらうという形が多かったらしいのです……ただ、最近は親衛隊の動きなどで少人数のチームを動かす事が難しかったみたいで……」 マルガレーテがそう話すと、幾人かは納得して頷いた。 リヒャルト率いる親衛隊フィクサード達は、アークのリベリスタが任務に赴いた時を狙って襲撃を行ってきていたのである。 襲撃を避けるために、そういった任務で実戦経験を積む機会は……皆無と言えるかは分からないが、激減していたのだろう。 「現状で親衛隊が動くことは無いと思いますが、念の為と……そして任務上多数のリベリスタが必要という事で、今回は皆さんに新人リベリスタ達を率いる形で任務に参加して頂きたいんです」 そう言ってマルガレーテは、今回の任務に加わる新米リベリスタたちについて説明した。 人数は、全員で40名。 全員が実戦に参加する為の訓練は終えているが、経験のある者は1人もいない。 「今回は、皆さん1人ずつにそれぞれ4人が加わる形の5人チームで動いて頂きます。チームリーダーは勿論皆さん……といいますか全員実戦経験はありませんし、今回は部下だと思って仕切って下さって構いません。参加するリベリスタの皆さんも、その辺りは了解しています」 彼ら彼女らはできるだけ指示や命令通りに行動しようとするが、初めての実戦という事もあり、複雑な事や難しい事は……出来る限りは実行しようとするだろうが、成功させるのは難しいかも知れない。 「その辺りの指示等は皆さんにお任せします。ただ、指示に気を配り過ぎて自身を疎かにしないように注意してください」 ちなみにメンバーとなる4人の構成も、それぞれのチームリーダーが選ぶ形になる。 「今回のメンバーには、クリミナルスタア、ダークナイト、レイザータクト、ミステランの方はいないみたいですね。それ以外の10職の方は万遍なくいらっしゃるみたいです」 自分のジョブや戦い方を考慮するのは勿論として、場合によっては他のチームの編成なども考えるべきかもしれない。 「あくまで目安程度ですが……新人1名とE・アント1体が、大体同じくらいの戦力だと思います」 もちろん職業による差は大きい。 ホーリーメイガスであれば一対一では勝てないだろうし、前衛職でなければ攻撃に耐えられないだろう。 だが、異なる力の持主がそれを上手に組み合わせる事ができれば、発揮される力は本来以上のものとなる筈だ。 「……とはいえ皆さん個人の戦闘能力というが正直、一番大きいとは思いますが……」 それでも、できれば新人たちに戦いを経験させられるように、そして被害をできるだけ少なくできるように。 「……普段は考えないような事にまで気を遣わせてしまって申し訳ありませんが……アークの為に、ということで。宜しくお願いします」 マルガレーテはそう言って、集まったリベリスタ達へと頭を下げた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:メロス | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ EXタイプ | |||
■参加人数制限: 10人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年08月28日(水)23:25 |
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■メイン参加者 10人■ | |||||
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●小隊員たち 「さいしょっていうと、わたしで言えば一年半前か」 小さな声で呟きながら、『ならず』曳馬野・涼子(BNE003471)は今日までの自分を振り返ってみた。 色々な事があった。 根無し草の一匹狼……あの頃の自分はそう思ってはいたけれど……振り返れば、そうでは無かった。そんな風に思える。 「まあ、だれかに世話になったぶんは返すよ」 誰に言うでもなく、少女は小さく呟いた。 近くには、今回彼女の指揮下で戦う4人のリベリスタ達が待機している。 覇界闘士が2人、そしてクロスイージスとホーリーメイガスが1人ずつ。 その4人に、涼子は既に今回の作戦について説明していた。 それぞれのチームを横に並べて戦い、うまくいけば半包囲に持ちこむ。 つまりは横一列陣形から場合によってVやUの字型の陣形に変化させ、敵を引き込み集中攻撃によって殲滅するという作戦である。 個々の戦い方などについてもそれぞれに説明してはいたが、涼子としては戦闘中も声をかけていくつもりだった。 リベリスタとはいえ、今回が初陣の新米なのである。 緊張や不安で力を発揮できなくなる者も出るかも知れない。 「新人込みで倍数相手とか、マルガレーテさんも無茶を言うよね」 そう口にはしたものの、四条・理央(BNE000319)の口調にも態度にも、気負いや怯えといった類のものは欠片も含まれてはいなかった。 緊張はしているものの、彼女の瞳には状況を冷静に確認する為の落ち着きも存在している。 そのまま理央が視線を自班の4人に転じようとしたとき、笑い声らしきものが近くから響いてきた。 彼女はそのまま視線を、声の主の方へと向ける。 そこには『三高平最響』結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)と、彼に従う事になる4人のリベリスタ達の姿があった。 「流石に無理でしょう。それは結城先輩だけの物ですので」 「でも、せっかく竜一お兄ちゃんが言ってくれてるのに……」 「……そもそも初対面でお兄ちゃんとか……ま、まあ、どうしてもって言うなら私も……」 「何、勝手にお兄ちゃんとか呼んでるの? お兄ちゃんて呼んでいいのは私だけよ! この泥棒猫共っ!」 「…………」 そこまで見て、理央は別の方へと視線を転じた。 本来とは異なる無駄が緊張感が漂っていたような気もするが、その辺りは戦闘開始前には何とかするのだろう。 遠くまで響かぬようにと多少抑えられた声が、冷静さが残っている事を感じさせる。 「はい、みんなりらぁっくす、りらぁっくすぅ」 そんな声に視線を向ければ、『外道龍』遠野 御龍(BNE000865)が麾下の4人に話しかけていた。 「己の力を存分に出せば問題ないよぉ」 御龍がのんびりした態度でそう言えば、リベリスタ達は緊張した様子で頷いてみせる。 (新人さんの研修かぁ~あんまり人を使うのは苦手なんだよねぃ実はぁ) 落ち着いた態度で話しかけつつも、御龍は内心でそんな事を考えていた。 もちろんそれは口に出さない。 彼女たちに余計な心配をさせることになるからだ。 (あたし一匹狼だからなぁ……まぁでも狼は群れで行動するからねぇ) 「我についてまえれ!」 ちょっとふざけつつも気合を込めた言葉で口にすれば、4人の少女は身を強張らせながらも力強く返事をする。 彼女の部下となる4名は、デュランダルとホーリーメイガス、それぞれ2名ずつという内訳だった。 攻撃役と回復役。 シンプルな編成で戦法は限られるが、だからこそ間違いのない編成ともいえる。 『デイアフタートゥモロー』新田・快(BNE000439)の指揮に従う事になる4人は更に特化していて、クロスイージス4名という編成だった。 「それじゃ、クロスイージス実践編といこうか」 青年がそう声をかけると、4人はそれぞれ緊張した様子で返事をする。 4人の緊張は初の実戦に対してのものは勿論あったが、快に対してのものも多分に存在していた。 4人の新米クロスイージスたちの目の前にいるのは、アークのクロスイージスの中で最も有名な人物なのである。 雲の上の存在……大袈裟かもしれないが、彼ら彼女らにとっては文字通りLivinglegend(生ける伝説)的な存在なのだ。 とはいえ職が異なっていれば緊張しないという訳でもない。 『誠の双剣』新城・拓真(BNE000644)の部下となった4人も、緊張の度合いでいえば快の指揮下の4人とそれほど大差のない緊張を味わっていた。 こちらはデュランダルの拓真に対して、ソードミラージュ、クロスイージス、ホーリーメイガスにマグメイガスという構成である。 「今回、此方の班を任される事になった。新城だ、宜しく頼む」 そう言って気さくに握手を求められた4人は、あからさまに表情を変えたりしつつも宜しくお願いしますと拓真に順に手を差し出し改めて挨拶をする。 前述した他班、涼子や理央、御龍らの指揮下のリベリスタ達も、リーダーの知名度という点で緊張している様子だった。 ちなみに竜一の班に関しては、何か別の緊張というか張り詰めた物がチーム内に漂っている感じである。 アークの実働部隊で最も有名なリベリスタと言っても過言ではない彼の班のその様子に、他の班のリベリスタ達は……何か不思議なものでも見たような表情で顔を見合わせあったりしていた。 とはいえ完全に張り詰め切るのに比べれば良い雰囲気をかもし出していると言えるかも知れない。 極度の緊張は判断を鈍らせ、知覚を変に過敏にしたり鈍くしたりすることもあるのだ。 独特の、あるいはアークらしいとでも言うべき空気の中で、新人リベリスタ達は10人から話を聞き指示を受け、戦闘準備を整えようとしていた。 ●任務の前 「何かを護るため戦う仕事ってのは、時として自分の命を捨てるしかないことは確かにある。でもまぁ、だからこそ今は死ぬなよ。死んでも何かをするべき時以外は死なずに経験を重ね続けるのが強い奴だ」 『遊び人』鹿島 剛(BNE004534)は4人の部下たちに話しかけた。 そして、こう続けた。 「だから死にそうになったら逃げろ」 その言葉に4人は、ちょっと驚いたような顔をする。 そのまま剛は言葉を続けた。 「あと仲間が死にそうなら連れて逃げろ。仲間が逃げるのを見たら一緒に行け。できれば全員で戦い抜きたいが、誰か1人でも帰れなくなるぐらいなら失敗する方がマシだ」 飾りではなく、それは彼の本心だった。 任務の前に言っておかねばならない。 そう思うからこそハッキリと、彼は4人に話したのである。 マグメイガスとホーリーメイガスに続くようにして、デュランダルとクロスイージスの2人も頷いてみせる。 その隣では…… 「始めまして、今日一緒の班で戦う事になる、ルーメリアなの!」 よろしくお願いするの! と挨拶して『なのなのお嬢様なの』ルーメリア・ブラン・リュミエール(BNE001611)も、拓真と同じように握手を求め手を差し出した。 「えーと……これでも一応、そこそこ経験を積んでるホーリーメイガスなの。こんな見た目と歳じゃ信じて貰えそうにないけど……逆に言えば、この歳でも出来るんだから、貴方達もきっと大丈夫なの!」 ちょっと不安げにそう口にするものの、彼女とて実戦部隊の中で名の通っている熟練のホーリーメイガスである。 加えて4人も新米とはいえリベリスタである以上、外見が若くて実力者という存在に一般人よりは慣れているというのもあった。 4人は当然のように敬意と緊張を抱いて、ルーメリアの握手に応じる。 「油断は大怪我に繋がるからね? 危ない、と思ったら他の人に任せるのも大事なの」 ルメ達は仲間だからね! そう言って彼女はもう一度4人を見回した。 彼女自身が充分な実力を持つホーリーメイガスというのもあって、この班はデュランダルと覇界闘士、クロスイージス、マグメイガスという前衛3人と攻撃系後衛1人という編成になっている。 もっとも実力でいえば、前衛の3人と言えどもルーメリアに一対一では敵わないという実力差があるのだ。 4人を支えながら、どれだけの実力を発揮させられるか? いつも仲間を支える側にいる彼女ではあるが、今回はそれとは異なる支え方というものを要求される事になる。 そういう点で見ると、『きょうけん』コヨーテ・バッドフェロー(BNE004561)の立ち位置は、皆よりも新人リベリスタたちに近いところにあると言えた。 「有名人じゃなくて悪ィな……でも、オレと組んだコト、後悔させねェぜッ!」 そう言いながら彼も、自分の下に集った4人を見回した。 彼自身も、自分が新人リベリスタに近い立ち位置にいる事を自覚している。 だからこそ。 「お前らの気持ち……初陣でテンション上がってたり緊張してたりってのが分かる」 (実際、すげェ面子と一緒で興奮してるしな) 一人一人の顔を見ながら声をかけると、コヨーテは断言した。 「力合わせりゃ絶対勝てる、オレたちはアークだろッ!」 そう言えば4人は、顔を強張らせながらもそれぞれの形で肯定を返す。 見た目でシンプルなあだ名を付けると、少年はもう一度声をかけた。 「コヨーテ隊、行くかッ!」 今度は先刻よりも元気な感じで、力の篭った4つの声が返る。 皆の様子を見ながら……『八咫烏』雑賀 龍治(BNE002797)は、ふと……自分の生きてきた道を、振り返った。 もし故郷に留まっていたなら、師匠より受け継いだ技を次に伝える立場となっていただろう。 (その真似事と言う訳ではないが……) 「たまにはこう言う任務も、良い」 小さく呟く。 彼の傍らには、4人のリベリスタ達が静かに控えていた。 私語は慎ませている。 「緊張を呼ぶかも知れんが、戦場とはそういうものだ」 今回の任務について話した際に、そう説明してあった。 作戦や各自の動きについても、基本的な事は話してある。 もっともその上で、彼は現場での行動や対象の選択は各自判断に任せるとも話していた。 どうしても覚束ぬという様なら指示を出すが、そうでなければ出来る限りは本人が経験を重ねるべきなのだ。 無論、いきなり全てが出来るとは思っていない。 「……俺も、そうであったからな」 不安げな部下たちに龍治は唯、短く言葉を紡いだ。 「今はただ、経験をその身に刻み込め」 ●布陣 妨害を避けるため、リベリスタたちはE・アントの群からある程度離れた場所で陣形を整えた。 何しろ全員で50人である。 単純な横一列陣形であっても、数分は掛かる。 事前に説明をしていなかったり、基本の動きを班毎にしていなければ、もっと掛かっていた事だろう。 他の班を数えながら、ルーメリアは左から4番目の位置に、部下たちと共に陣取った。 拓真は自班の者たちと共に横一列陣形の左端を担当すべく位置を取る。 アクセスファンタズムは常に連絡を取れる状態にセットしてあった。 戦況に応じてL字、或いはU字型の陣形へと変化する為である。 右側にと意識していた御龍は、そのまま拓真班の右を固めるように位置に付いた。 剛の班が御龍とルーメリアの間にと位置を取る形になるためである。 そのまま御龍は自分たちの位置を押さえる為、自班の陣形を整えた。 自分が先頭で左右をデュランダル2人が固め、その後方にホーリーメイガスの2人が付くという楔形に近い陣形である。 剛はホーリーメイガスに仲間の回復を任せ、クロスイージスにはその護衛を、マグメイガスには範囲攻撃の扱いに注意しての支援攻撃を指示していた。 デュランダルには突出にないようにと注意しつつの迎撃を命じる。 あとは出来る範囲内での仲間のカバーと、スキル使用が限界に近付いた場合の自己申告を指示しておく。 (細かいこと言っても仕方がない) 「最低限をしっかりやるところからってね」 実際、危険な状態になれば自身の事すら覚束なくなるだろう。 もっとも、逆に決めておくことで頼りにできる物があるという考え方もある。 正解は1つでは無いというのは、この場合は真理かもしれなかった。 それぞれが其々の考えの基、左翼側の陣形が整えられてゆく。 もちろん右翼側の陣形も、時を同じくして整えられていた。 陣形の右端、最右翼を担当するのは竜一の班である。 前衛3名の後衛2名。 竜一が先頭で、その少し後ろ左右をデュランダルとナイトクリークの2人が守る。 後衛は、スターサジタリーとホーリーメイガスの2人。 装備の方は色々無理だったが、4人中3人は彼の事を……一応が付く者もいたが、お兄ちゃんとは呼んでくれた。 表現が素直でない者もいるが、多分全員が……慕ったり憧れたりはしてくれている事だろう。 もふもふもまあ……許されているようには思う。 そこに至るまでに、時間は短いが密度的には短編小説1作品分ぐらいのいざこざがあったが。 初対面なのにホーリーメイガスの子が『昔はもっと優しかったのに』とか危ない目つきで言い始めたあたりからが危険だったように思うが……とりあえず戦闘中は問題ないだろう。きっと。 連携を確実にするためにアクセスファンタズムによる通信を準備すれば、後は戦いを待つだけとなる。 その隣の班で涼子は、皆に声をかけ役割や作戦の確認を繰り返していた。 敵の回り込みをふせぐ事、そして左右のチームと作る戦線を切らないように動く事。 前者は自分が気を配るので、皆には後者を意識して目の前の敵と戦ってほしい。 涼子は新人たちに幾度か繰り返して言い聞かせていたのである。 「どこかで味方の戦線が切れてもあわてないように」 どのチームも単体で戦えるのだから、逆に囲んでやればいい。 彼女がそう説明すれば、4人は緊張しながらも頷いて見せた。 既に説明してあることでも、いざ戦いとなれば……特に初陣となれば、焦りや緊張で忘れてしまったりする事もあるかも知れない。 だからこそ声かけを適時行っていこうというのが涼子の考えだ。 逆にその隣、最右翼から3番目に位置した龍治の班は、緊張に耐えながら静かに戦いの開始を待っていた。 4番目を固めるコヨーテの隊も、どちらかといえば賑やかな雰囲気を漂わせていたので、その差はいっそう際立つように見える。 それでも……表情を強張らせながらも、深呼吸をしたり何かを考えたりしながら……龍治班の4人は……クロスイージスの2人は前衛として、ホーリーメイガスとスターサジタリーの2人は後衛として。武器を構え、開戦を待つ。 「楽しく戦えるとイイなッ」 龍治の班と理央の班の間に位置したコヨーテは、いつもと変わらぬ調子で新人たちに声を掛けていた。 涼子の指揮は、できる限り新人たちが力を発揮できるように気を配る……という形。 龍治の指揮は、できるだけ自分は干渉せず新人たちに自分で考え行動する経験を積ませる、という形。 だとすると……コヨーテの場合は、指揮するというよりは共に戦うという形になるのかも知れない。 あだ名を呼び合い、隊列を組んで、少年は覇界闘士の2人と前衛に立つ。 そして……横一列陣形の中央で、両翼に挟まれるようにして。 理央の班、インヤンマスター、プロアデプト、覇界闘士、ホーリーメイガスの4名。 快の班の4名。 理央と快を含めた10名が、陣形中央を支えるように位置に付いていた。 快の班が中央とはなっているが10班が横一列に並んでいるので、配置としては中央の左側を快班が、右側を理央班が押さえる形になっている。 理央自身も、受け止め役を支えるという形で自分たちの役割を認識していた。 実際、クロスイージスが4人の快班と比べれば、理央班は総合的な耐久力で劣っている。 彼女たちの班が敵の攻撃を押さえ切れるかは、快の班がどれだけ敵を引き付けられるかに掛かっているとも言えるのだ。 敵の攻撃を引き付け、受け止める事ができれば……耐える事ができれば、敵を挟撃、あるいは半包囲することができる。 今回の作戦は中央班が耐えきれるかと、両翼班がどれだけ敵を撃破していけるかに掛かっているのだ。 快は自分を中心に、左右に2人ずつ小隊員を配置した。 自分がやや突出して敵を集め、両翼各2名が敵の突破を防ぐ。 後は……どれだけ耐えられるか、だけだ。 「クロスイージスに一番必要な資質ってなんだと思う?」 そんな快の言葉に、4人は不安げな表情を浮かべたまま視線を向ける。 「それは、仲間を信じる心だ」 此処を守れば、此処を支えれば、後は仲間の攻撃が勝利を掴んでくれる。 「そう信じる心だ」 彼らに、彼女らに向かって、快は穏やかに……断言した。 ●対峙する両集団 布陣を終えたリベリスタ部隊は、そのまま戦場へと移動した。 リベリスタ達の出現を確認したE・アント達の大群は、すぐに一向に向かって動き出す。 拓真は皆に声を掛けつつ全身に力を見たし、破壊の戦気を身に纏った。 理央は前衛たちに物理防御の付術を施し、彼女の指示を受けたインヤンマスターも守護の結界を展開する。 ルーメリアは周囲の力を取り込んで自らの魔力を高め、コヨーテは気の制御によって柔軟性を失わせる事なく肉体を物理的に硬化させた。 快は神の加護をクロスイージスたちへと施しながら、敵の動きを確認する。 できれば敵集団の右翼か左翼の端と近い方と当たれるようにと考えていたが、敵集団は大きくまとまった群れという形……円陣に近いような纏まり方だった。 もちろん正確な円陣ではなく楕円型なのだろうが、端に当たる箇所を正確に見つけるのは難しい。 逆に言えば、本能的にどこから攻められてもあまりに不利にならないように纏まっているという事なのかもしれない。 内側が存在する円陣というのは歴史上で幾度か用いられた陣形だった。 劣勢の側が優勢な敵からの攻撃を耐え抜くための陣形で、円陣の外側で戦う者が定期的に内側の者と交代する事で疲労を軽減し、負傷者の入れ替えで戦線を維持し続けるという長期戦向きの陣形である。 もちろんE・アントたちにそういった知性は無い以上、それに近しい陣形に見えるというだけのことだ。 エリューションたちは損害や消耗など気にもしない事だろう。 そもそも数において劣勢なのは、リベリスタたちの側である。 質においても5分の4、つまり80%はE・アントと同程度の戦力だ。 とはいえ逆に言えば、残りの20%はこの戦いを引っくり返せるだけの実力と潜在力を持っている。 そのリベリスタ達の陣形は、左翼端から以下のようになっていた。 拓真小隊 御龍小隊 剛小隊 ルーメリア小隊 快小隊 理央小隊 コヨーテ小隊 龍治小隊 涼子小隊 竜一小隊 リベリスタ部隊に突撃するE・アント集団は、さながら網に向かって放たれた巨大な球のようなものだった。 網が紙のように破られれば、そこから陣形は乱れ集団の統制は失われることだろう。 だが網が破られさえしなければ、敵集団の勢いを殺した上での包み込み、包囲殲滅戦が可能となる。 両者の距離が詰まり、お互いが射程に入ったのと同時に。 リベリスタ達は攻撃を開始し、E・アント達の先頭も一斉に蟻酸を発射した。 両集団はこうして戦いを開始したのである。 ●開戦 中央の快と理央の班は勿論、その両脇を固めるルーメリアとコヨーテの班も、密集したE・アントたちの攻撃を真面に受ける形になった。 その分、そこから外側の班は接敵がやや遅れていくのと同時に敵の密度……数も減少していく形になる。 特に両端の班はタイミングが遅れて敵とぶつかった為、中央よりも前進する形となっていた。 結果としてリベリスタの隊は、弧を描く弓状の陣形となってE・アントの集団を包囲し始める。 とはいえ時間が掛かれば、包囲の前に中央が突破される事になるだろう。 突破されるか、その前に包囲しながら敵を漸減できるのか? 速度だけでなく、攻撃力も大事な任務といえる。 そして、その点において両翼端を担うリベリスタ側の人選は相応しかった。 拓真の銃撃がエリューション化によって硬化したアントたちの外殻を貫き、味方を巻き込まぬように狙って放たれた魔炎がE・アントたちを包み込む。 青年の隣ではギアを切り替えたソードミラージュの少女が懸命にレイピアを振るい、クロスイージスの少年はエリューションたちの動きを観察しながら進路を遮るように移動し続けた。 癒しの力は主に前衛の少女と少年に向けられる。 拓真の攻撃によって傷付いたE・アントに出来る限り攻撃を集中させることで数を減らしていくというのが、最左翼の班の戦法だ。 最右翼班の戦法もそれとよく似ていた。 こちらの班の主力は竜一である。 味方を巻き込まぬようにとやや突出した青年は、二刀を振るって生み出した烈風でエリューションたちを薙ぎ払った。 追撃のように無数の光弾が放たれ、それでも前進してくるE・アント達にデュランダルの斬撃が放たれ、ナイトクリークの少女が伸ばした黒いオーラを叩き付ける。 竜一も事前に作戦を説明したうえで、後は各自の意思で行動させていた。 もっとも『俺より前に出るな』だけは厳守させている。 実際、彼が前進している事で他の4人への攻撃は減少しているのだ。 それでも元々の回避技術や防御力の違いというものがあり、彼のやや後方の2人は度々負傷を負っている。 「……本当は嫌だけど……でも、お兄ちゃんが悲しむのはもっと嫌だから」 ぶつぶつ言ってからホーリーメイガスの少女は詠唱によって癒しの微風を生み出し、その力をデュランダルとナイトクリークの少女に向けた。 隣では涼子の班が、攻撃を集中させながらE・アントたちの数を減らしている。 涼子自身は攻撃も担当しつつ挑発によって敵の一部を引き付け、部下たちの負担をある程度軽減できるようにと気を配りながら戦闘を行っていた。 覇界闘士の2人が攻撃を担当し、涼子も攻撃時は出来るだけ同じ目標にと攻撃を集中させる。 ホーリーメイガスは彼女の後ろで回復を担当し、クロスイージスには負傷が蓄積した者のフォローを頼む。 「最後まで立ってるのが、わたしとアンタの仕事」 涼子がそう言った時、少年は真剣な表情で頷いてみせた。 彼は今、攻撃よりも守りを固める事を優先しつつ、仲間たちと敵の動きを観察している。 流石に目の前の状況でいっぱいいっぱいな感じはあるが、それほど焦ってはいないようにも見えた。 とはいえ落ち着いていたとしても全体を見回せるほど視界は良くない。 味方の声を聞いて、両隣の班を確認しながら。 涼子は小隊員たちに声を掛け、連携する。 左隣の龍治の班は、2人のクロスイージスが前衛としてエリューション達をブロックしながら、武器を振るって攻撃を行っていた。 E・アントたちはある程度中央側に引き付けられてはいたが、龍治班も中央からそれほど離れていない為、2人が対峙しているE・アントたちの数は3体である。 それでも、後衛のホーリーメイガスの癒しを受けながら2人は攻撃に耐え続けた。 もう1人の後衛であるスターサジタリーの少女の方は、敵の動きを見ながら精密射撃と光弾による連続攻撃を使い分け攻撃を行っている。 命中させることを重視させている為に攻撃速度はやや遅かったが、その分だけ彼女の攻撃は正確で、ある程度ではあるものの周囲も見えているようだった。 中衛に位置を取った龍治は集音能力も活用して4人の動きを把握し、陣形を崩さぬように注意しながら銃弾に魔力を篭める。 火縄銃弍式の銃口から発射された無数の弾丸が次の瞬間、業火を帯び、直撃したE・アントたちの体を炎で包み込んだ。 極めて精度の高い彼の攻撃は本来以上の破壊力をもたらす。 数度の銃撃を受け、スターサジタリーの攻撃も受けたE・アントたちは炎を振り払いながらもダメージによって、あるいは炎に包まれたまま倒れ、徐々にだが確実に数を減らし始めた。 左翼側でも同じように、リベリスタ達の攻撃でE・アントたちの数は減ってゆく。 破壊の闘気を全身に漲らせた御龍は、震動破砕刀の間合内の敵には闘気を爆発させた一撃を叩き込み、離れた敵には斬撃によって生み出した真空波で対応するという戦い方でエリューションたちの数を減らしていた。 4人の新人たちも声を掛け合いながら、それぞれの武器でE・アントたちを攻撃し、あるいは味方を支える為に回復を行っていた。 声かけは徹底するようにと彼女は陣形を組む時に説明していたのである。 2人の新人デュランダルには基本的にメガクラッシュ中心で戦うようにと指示をだし、ホーリーメイガスの2人は早めの回復を心掛けるようにと話してあった。 回復が足りている場合は攻撃も考えていたが、現在は2人共ほぼ回復に専念する形となっている。 回復は当然という感じで、自分よりも新人2人を優先してもらっていた。 「我が体を張らねばな」 陣形を崩さぬようにと注意しながら、彼女は全身の闘気を爆発させ、巨大な鉄塊をエリューションに叩き付ける。 直撃せずとも並のリベリスタを上回る強烈な一撃を受け、傷付いていたE・アントは爆発するように引き裂かれた。 強力なスキルを使用する故に消耗も激しいが、彼女の班も確実に敵を撃破していく。 その右隣を守る剛は、無理はさせず堅実な戦いを心掛けていた。 クロスイージスはホーリーメイガスの護衛に付き、デュランダルには突出しないように注意させながらの迎撃を行わせる。 マグメイガスは攻撃範囲に注意させながら支援攻撃を指示し、同じく後衛のホーリーメイガスには仲間たちの回復を行わせる。 出来る範囲で仲間をカバーするようにとも指示し、加えて状況の報告、特に消耗でスキルが使えなくなりそうになった場合の申告は重ねて指示しておいた。 剛自身はカスタマイズした十二式魔力小銃を使用して敵を後退させる事で、前衛が接触する敵数を各1体に抑えるのを狙って射撃を行っていく。 もっとも敵の数はすぐに増加し、彼はすぐに消耗を厭わぬ掃射攻撃を行う事となった。 錬気を行っても消耗速度を遅くすることしかできない程の攻撃となるものの、それでもE・アントたちの数は簡単には減らない。 だが、守りを充分に考えた作戦のお陰で4人のリベリスタたちは敵の攻撃を何とか耐え抜いていた。 隣に位置するルーメリアからの援護も大きかったといえる。 剛は射撃を行いながら敵の動きを観察し、4人に随時指示を与え指揮を執る事で戦線を支え、少しずつではあっても確実にE・アントたちへのダメージを蓄積させていった。 ●中央部隊の激戦 「ここが瓶の底だ! 抜けるなよ」 そんな快の呼びかけに、4つの声が返る。 挑発の成功によって中央付近には、かなりの数のE・アントたちが集結しつつあった。 可能な限り多数の敵を巻き込めるように、大多数を引き付けるまではと、快がスキルを使用しての挑発を試みた結果である。 彼自身が誘き寄せを行う一方で、4人のクロスイージスたちは戦列維持を最優先とし、敵をブロックしながら防御に専念していた。 余裕があるなら攻撃も許可していたが、その余裕は無さそうである。 挑発された個体だけではなく、それ以外のE・アントたちも集まってきた為、4人はそれぞれが2体、時にはそれ以上のエリューションから攻撃を受ける事となっていた。 快の方も直接対峙する個体数はともかく、離れた場所からも複数体が蟻酸を発射してくるため、徐々に負傷が蓄積していく。 もっとも、蓄積していても彼にはまだまだ余裕があった。 だからこそ、他の者たちの負担を少しでも減らせるようにと、彼はE・アントたちを自分自身に引き付けていたのである。 実際、その引き付けが中断されるような事があれば、隣の理央班が危険な状態となってしまうのだ。 覇界闘士の少年と共に前衛に立った彼女は、敵の前進を押し止めるように戦いつつ攻撃の指示を行っていた。 加えてエル・バリアの効果中のみインヤンマスターとプロアデプトの2人にも前衛に出てもらい、経験を積んでもらえるようにとも配慮して戦闘を行っていたのである。 もちろんそれが戦線維持に役立つと考えての事だ。 後衛的なイメージもあるが、その2職が前衛をこなす可能性は低くないと理央は考えていた。 今の内にいつ前に出て、いつ下がるかの呼吸を覚えて貰いたい。 そう考えた理央は、戦況を確認しながら前衛後衛切り替えの指示も出してゆく。 攻撃に関しては遠距離攻撃を主体に対象を合わせ、集中攻撃による各個撃破を目標としていた。 ホーリーメイガスに関しては自班優先で余裕がある場合には両脇の班への支援もと考えていたが……現状は予想通りというべきか、ほぼ自班の回復に専念する形になっている。 理央自身も攻撃を行ってはいたものの、戦線を維持する為にと回復を多用する形となっているのだ。 快の班に向かう途中で注意がそれて自分たちの班に向かってくるE・アントたちもいたし、そもそも味方の動きに連れられるようにして移動してきた個体もいる。 そういったE・アント達がひしめき合い、中央の戦場は混乱に近い状況に達していた。 理央の班から快班を挟んで反対側に位置するルーメリアの班も、快班の隣という事で同じ様相を呈している。 もっとも、この班に関してはルーメリアの存在もあって所属する4人は……かなり緊張はしていたものの、安心感からか幾何かの冷静さを保っていた。 ルーメリアの持つ、強力な癒しの力ゆえである。 新人の4人であれば、倒れてさえいなければどんな傷も完治させるだけの力をルーメリアは持っていたのだ。 その力を存分に振るって、彼女は自分の班だけでなく両隣の班の回復も行っていた。 敵の攻撃が集中する快班には、特に注意して状態を確認する。 届かない場合は陣形が壊れない程度の移動も考えていたが、今のところはその必要は無さそうだった。 前衛と突破してくる敵がいた場合のブロックも想定していたものの、幸いE・アントたちは目の前の敵に集中するようで、前衛がブロックし切れない数が押し寄せてきた際も攻撃は前衛に集中し、後衛までは移動してこない。 とはいえ移動せずとも蟻酸を飛ばしてくる可能性はあるので油断は禁物だった。 前衛たちには敵を抑えつつスキルを使用しての攻撃を行わせ、後衛のマグメイガスには攻撃範囲に充分に注意しての攻撃を指示し、彼女は戦闘を続けていく。 前衛に関してはブロックを優先させ、敵の攻撃が激しい場合は防御に専念するようにとの指示を既に出してあった。 マグメイガスのフレアバーストに関しては、可能なら快班に集まる敵を、難しい場合は自班に接近してくる敵を狙うようにと指示してある。 ルーメリアは戦況を窺いながら周囲の魔力を取り込み、体内で強大な気を練り上げ、それを詠唱によって癒しの息吹へと具現化させる事で周囲の戦線を支え続けた。 こと回復という点において彼女の力は極めて大きい。 快の班はこの援護がなければ戦線を維持することは不可能だったと言えるだろう。 もっとも、だからこそ快班はE・アントたちをそれだけ誘き寄せたともいえるし、そもそもそれを見越してルーメリアと理央の班の2つを両隣に配置したとも言える。 そういう意味では中央班の左翼側は防御と回復重視の編成だった。 対して右翼側は、攻撃を重視した編成だったと言える。 理央の班はリーダーを含め攻撃と回復の両方を考えた編成だったが、その隣のコヨーテの班はリーダーを含めて攻撃を重視した組み合わせだった。 コヨーテ本人と覇界闘士2人の3人は確実に敵を減らすために業炎撃で同じターゲットを狙い、後衛のスターサジタリーは同じ目標を範囲に入れるようにしながら射程内のエリューションたちを狙い撃つという戦い方で戦線を支えていたのである。 同じく後衛のホーリ-メイガスは、自分が倒れない事を最優先に考えつつ自班の回復に専念する。 回復が追い付かずに負傷が蓄積した場合はある程度回復するまで一時的に後退させ、その間は斬風脚で攻撃を行う。 「仲間撃つなよッ?」 「はい、もちろんです!」 冗談めかした言葉に真剣そうな返事が後ろから響いてきて、少年は口元を僅かに変化させながら腕全体に纏わせた。 拳撃と共に炎が周囲を薙ぎ払い、E・アントたちを包み込もうとする。 対するE・アント達も意外に思えるほどの機敏な動きで直撃を回避しようとする。 回復を終えた1人が前衛へと復帰し、再び拳に炎を纏わせた。 エリューションたちは後衛までは近寄ろうとせず、前衛に攻撃を集中させてくる。 回復役が狙われない為にスターサジタリーの少女は攻撃に専念できていた。 回復を受けるもう一人の覇界闘士も鋭い蹴りでカマイタチを作りだし、コヨーテたちと同じE・アントを狙って叩き付ける。 実力では大きく劣っていても……緊張し、周りが見えなくなっていたとしても。 40人のリベリスタたちは、10人の先輩に従い懸命に戦っていた。 敵は徐々に数を減らしていくのに対し、今のところ倒れた者はいない。 もっとも、いつ前衛の誰かが倒れても不思議ではない戦況であるのも事実だった。 何より夢中になって自分の力を揮う新人たちは、力を大きく消耗していったのである。 とはいえ、だからこそエリューション達の数がそれだけ減少していたとも言えるので……それが間違いとも言い切れない。 中央が耐えている間に両翼が回り込み撃破するというのが当初の作戦なのである。 間に合えば成功なのだ。 両翼は急ぎ、中央はひたすら耐え忍ぶ。 全体を見渡すのは不可能なほどに激化した戦場で……10個の小隊は各々の任を果たすべく、それぞれ一丸となって奮闘していた。 ●それぞれの戦局 横一列陣形の中間……中央部分では、変わらぬ戦いが続いていた。 理央は守護結界を維持しつつ消耗した力を僅かずつ蓄積させ回復を行い、ルーメリアは何とか位置を調整して、理央班まで回復を届かせようと画策する。 快の班は理央班とルーメリア班からの回復や、快自身のラグナロクの力によって、防御を重視した方針によって、懸命に攻撃を耐え抜いていた。 敵の数は多く、相変わらず1人の前衛に2体、場合によっては3体のE・アント達が攻撃を行ってくるという状況である。 コヨーテの班も負傷が蓄積し、理央の回復が無ければ戦線離脱者が出かねないという厳しい状態となっていた。 だが両翼側……特に両端の拓真や竜一の担当する方面では、中央とは逆の事態が発生していたのである。 1体のE・アントに2人が対峙できるほどに敵の数が減少していたのだ。 それを確認した竜一は、戦線を押し上げるべく前進していた。 突出しないように隣の班に声を掛け、回り込まれぬようにと敵の動きに警戒する。 涼子も皆に声を掛け、両隣の位置に注意しながら攻撃を続けていった。 敵の数が減ったということもあり、今はある程度周囲を見回す余裕がある。 消耗が比較的少なかったというのもあって、4人も少し落ち着いている様子だった。 その為、竜一の班が前進し龍治の班も陣形を移行するように動き始めた際に問題なく合わせる事ができたのである。 対して龍治班は龍治本人を含めて消耗が激しかったが、複数のE・アント達を撃破していた事で周囲の確認や移動が行い易くなっていた。 とはいえ隣のコヨーテ班の方は、理央班から流れてきたE・アントたちへの対処で大きくは動けない状態のようである。 全体の陣形を崩さぬようにと注意しながら、龍治は4人に指示を出した。 Vの字というよりは、Uや凹に近しい陣形と言えるだろうか? 龍治の班と隣のコヨーテの班が、結果としてその角を担当する形となる。 反対側の左翼でも、拓真の班が隣の班と足並みをそろえるように移動していた。 「無理にフォローに回ろうとは思うな。俺達は俺達の仕事をする、良いな?」 如何に敵を後ろに回らせる事無く、陣形を維持するか? 如何に敵を殲滅するか? 指揮下の4人に声を掛けながら、拓真は状況を確認する。 右翼側も動けているようで、敵は中央にかなりの数が集まっているようだった。 拓真はUの字型を意識するようにして、4人と共に移動してゆく。 御龍もアクセスファンタズムを利用して両隣以外の班とも連絡を取りながら、陣形を変化させるために突出に注意して移動を行っていた。 御龍自身の負傷は蓄積し消耗も激しいものの、回復を部下たちに優先させていたお陰で前衛の負傷は重くない。 痛覚遮断で無視した彼女は、戦いとはこういうものだと心配そうな4人に伝え、戦線維持を優先して戦闘を行っていた。 敵と味方の対比で、味方の方が優勢なのは此処までである。 剛の班は2つ隣が快の班という事もあって、前衛が対峙するE・アントの数はほぼ同数という状況だった。 もっとも、ルーメリア班からの回復もあって戦況は決して厳しくは無い。 無理をさせないように指揮を執りながら、剛は御龍班の動きに合わせて陣形を調整した。 敵の動きがある為、大きく動けば今度はルーメリア班との間に隙が生じかねない。 U字を意識しつつ、班の間に隙を作らないように。 剛は慎重に攻撃を行ってゆく。 そこから内側……中央部の班では、変わらず激しい戦いが続いていた。 ●決着、初陣の終わり 快の班に集まった敵を横から叩こうと考えていたものの、流れてくる敵によってコヨーテの班は前進が難しい状況にあった。 それでも、連絡を受けた事により他の戦場……特に中央から離れた両端では戦いが有利に進んでいるという事を全員が知っている。 「死ぬのはイイけどさッ、こんな雑魚相手は勿体ねェだろッ!」 攻撃が集中した覇界闘士の少女を庇いながら、コヨーテは変わらぬ態度で口にした。 先の見えない状況で不安になっていた者たちも、今は戦意を取り戻している。 むしろ逆に、気持ちが前のめりになって注意しなければならない程だ。 残る3班、ルーメリア、快、理央の班のリベリスタたちも持ち直してはいたが、そこまでの元気はないようだった。 破邪の光を宿した刃を振るいながら、快は攻撃に耐える4人の様子を覗う。 4人は守りを固めた姿勢のまま、ひたすら攻撃に耐えていた。 もっとも今は4人共、その表情には不安や恐怖とは異なる何かが浮かんでいる。 此処を守れば、此処を支えれば。 後は仲間の攻撃が勝利を掴んでくれる。 そう信じて。 身を固め、盾に縋るようにして、4人のクロスイージスたちは攻撃に耐え続ける。 それを援護するために、ルーメリアが詠唱によって癒しの息吹を具現化させた。 力の蓄積を終えた理央も、詠唱によって癒しの福音を響かせる。 消耗によって攻撃力は減少していたものの、回復によって中央班は変わることなく戦線を維持していた。 その援護の為にと快はE・アントたちの集団に向かって踏み込み、輝く刃でエリューションの外殻を切り裂いてゆく。 集中攻撃を受けることになってもその一部は反射され、E・アント達へとダメージを与える事になるのだ。 ラグナロクの効果を受けた4人のクロスイージスたちも同じだった。 ルーメリアは癒しによって4つの班を支え、理央は力を蓄える間は唯、前衛として戦線を維持し続ける。 そして……中央班に攻撃を続けていたE・アント達に向かって、両側面と背面からの攻撃が届き始めた。 6つの班が押し潰すかのようにして攻撃を行い、エリューション達を打ち倒してゆく。 敵の動きが分散されたのちに回復も行われ、限界近かった中央班は態勢を立て直す事に成功した。 撤退の場合も想定していた剛は内心安堵しつつも表情には出さず、慎重に指示を出し攻撃を続けてゆく。 竜一はいつでも援護できるように敵の動きに注意しながら、4人での戦闘を行わせてみた。 スキルを使用できなくなるほど消耗した者も多かったが、それゆえの慎重さもあったのだろう。 新人リベリスタたちは攻撃を集中させ、確実に敵の数を減らしてゆく。 力の尽きた龍治は後方から射撃によって援護を行いながら、そのようすを見守った。 やがて……最後の1体が攻撃によって倒れ、動かなくなる。 戦いは決着した……ものの……実感の伴わない様子で、リベリスタたちは何処か不安げに、自分たちの隊長に視線を向けた。 「お疲れ様ぁ! ほいぃジュースだよぉ」 そう言って御龍の放ったジュースを受け取った少女が、呆気に取られたような表情を浮かべる。 「皆よく頑張ったねぃ」 「勝ったな。実入りの良い訓練にはなったか?」 続くように拓真が言って微笑めば、若者たちの顔に、次第に何かが浮かび始めた。 竜一は自分なりのやり方で4人を誉め、他の者たちもそれぞれ、後輩たちに声を掛ける。 実感が湧きはじめたのか……安堵し、脱力して座り込む者たちも多かった。 それでも、皆の顔には……思い出したように怯える者もいたとしても、満たされたような何かが浮かんでいる。 「お疲れ様なの、協力するってすごいでしょ?」 あんなに居た敵が纏めて片付いちゃうんだから! 笑顔でそう言うルーメリアに、安堵で座り込んだ4人は……顔に疲れを滲ませながらも、嬉しそうにお礼を述べた。 先輩たちの指導の下で初陣を勝利で飾った彼ら彼女らは、それぞれの任務に就くことになるだろう。 ……いずれ命を落とす者も出るかも知れない。 それでも。 せめて、好き未来があるように。 そう祈りながら先輩たちは、初陣を終えた後輩たちを帰還させる為にと声をかけた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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