●貴女の笑顔が見たいから 美しい人には美しいものが良く似合う。 蓋し、美しいものは美しい人が持ってこそなのである。 と言う訳で。 それは暗い夜の森だった。照らしているのは、『電球一つ』。 「フシミ画家。貴方を雇いたいのダワー」 「私を……ですか?」 電球頭を光らせたフィクサードに振り返ったのは、頭部が複眼の塊となった男だった。正しくは『男だった者』。ずらずらずらりとカンバスに囲まれ、体中から生えた手で絵を描き続けている『異形』。 「貴方の絵は実に、実に実に素晴らしいのダワー! こんな美しい絵が誰にも見られず、尚且つその作者にパトロンが一人も居ないなんて勿体無い事この上ないのダワー。より整った環境でもっともっと絵が描ける。それは貴方にも、そして我々にも素晴らしい事なのダワー!」 「私の絵を売り物にするんですか……?」 「いいえ、売り払うだなんてとんでもない! こんな素晴らしい絵に値段を付けるなんぞ美への冒涜なのダワー。貴方の描いた素晴らしい絵は、素晴らしい人を喜ばせるのダワー。それはとっても! 素晴らしい事なのダワ~」 だからほら、私達とおいで。 損する人なんて誰もいない、なんて幸せな契約! ●びびび 「さて、『美しい』の基準って何なのでしょうね? 見た目が『良い』事? ではその『良い』の基準は? 『良い』とは?」 事務椅子をくるんと回し、『歪曲芸師』名古屋・T・メルクリィ(nBNE000209)が一同に振り返りそんな事を口にした。それは古来から議論され、未だに確固として普遍的な結論の出ていない謎の一つだ。 「その話はさておき。ノーフェイスの出現を察知致しましたぞ! フェーズは2、『彼』は元々、しがない画家だったのですが……革醒した事で『見える世界』が変わってしまったようで」 なんでも彼はとてもとても美しい世界をその目に映しているのだという。そして彼はそれを絵にする事に使命感と歓びを覚えている。実際、その絵はとてもとても――この上なく、美しいのだという。言葉で形容する事が出来ない程に。 「皆々様に課せられたオーダーはこのノーフェイスの討伐と増殖性覚醒現象で革醒してしまった絵のEゴーレムの討伐なのです……が!」 一つ、問題点。 「三尋木フィクサードがこのノーフェイスに接触しております」 三尋木――日本において活動するフィクサード集団の内、最も大きな七つの組織『主流七派』の穏健派。といっても、『穏健』という文字を辞書で引かせてやりたくなるような集団だが。 「ノーフェイスを保護し、その絵を首領に献上したい……といったところでしょうな。彼女が受け取るかどうかまでは知ったこっちゃないですが、犯人のフィクサードは随分と三尋木首領が好きらしく。 うぅむ、神秘が絡まない案件ならばご自由にどうぞと言いたいのですが。仕方ないですね……。誰かを殺すとかそんな物騒な話ではない、『穏健派』のいかにも三尋木らしい内容なのですが」 リベリスタ達は知っている。ノーフェイスは、この世界に愛されなかった者は、それだけで罪なのだ。倒さねばならない。リベリスタとして。 「止めろとただ言ってもどうせ『ノーフェイスとEゴーレムの対応をお前達の代わりにしているだけで悪用のつもりなんてないのダワー』と返って来るでしょうね……。彼等の対応は皆々様に一任致しますぞ」 そして画家が倒されるのを良しとしないだろう。尤も、過激派裏野部や気狂い黄泉ヶ辻と違って話が出来る存在という事が唯一の救いか。 「兎角、お気を付けて! 私はいつもリベリスタの皆々様を応援しとりますぞ!」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ガンマ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年08月18日(日)22:53 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●刮目せよ 夜の森。暗い森。葉擦れの音と共に駆ける。 「三尋木に先越されなければいいけど」 「せやなぁ……しかし同さんとはえらい久しぶりやなぁ、今回は敵同士やけど、また生きて会えて良かったわぁ」 闇を見通す視線で彼方を見、『ピンクの害獣』ウーニャ・タランテラ(BNE000010)の言葉に『グレさん』依代 椿(BNE000728)が何処か暢気な物言いで答えた。 「ただのノーフェイス退治がややこしい事になったもんだ」 言葉を付け加えるのは『燻る灰』御津代 鉅(BNE001657)。面倒臭いしどうでもいいがやるしかないのでとっとと片付けるに限る。 今回のターゲットは画家のノーフェイス――世界の見え方が変わる瞬間は色々あるだろうが、彼:フシミの目に見える世界はもっと根本的に違うらしい。ふぅん、と『K2』小雪・綺沙羅(BNE003284)が呟く。 「一体どんな世界を見ているんだろう?」 「絵はよくわからんが、革醒してまで書き続けるのはきっと本物の証なんだろうな」 それが世界にとって害なのが、世界を愛している彼には気の毒に思えるけれど――『パラサイト以下』霧島 俊介(BNE000082)は溜息を飲み込む。リベリスタが『やる事』は変わらない。いつだって変わらない。無慈悲なまでに。 「人という生き物は『天才』という芸術品を生み出す。素晴らしい担い手だ。天才が運命を得ることが出来なかったのは遺憾に思うのだ」 「彼の描く世界は美しすぎて現実の世界に嫉妬されたのかも――なんてね」 天才眼鏡を押し上げる『ジーニアス』神葬 陸駆(BNE004022)が真っ直ぐ往く先を見澄ましながら言葉を放ち、それにウーニャが口元を微かに笑ませながら嘯いて。けれど警戒は緩めない。 そうして幾許も無く、見えてきたのは一つの灯りだった。電球頭に照らされて。三尋木フィクサード三人と、一人の異形。 「……! ちっ。方舟の皆さんはホントに『目敏い』のダワー」 至極嫌そうに阮高同が吐き捨てる。片手を掲げ、フシミを護る様に部下を下がらせ、己は一歩前へ。リベリスタの行く手を阻む様に。用心深くしているがあちらから仕掛けてくる様子は感じられない。丁度良い。『剣』獅子吼・高原・鶴来(BNE004503)が応える様に前へ。 「交渉。残っている革醒していない絵画は渡そう。それで引き下がって貰えぬだろうか。 引き下がらぬと言うのであれば、残りの絵も全て焼き尽くすが……貴様らが母に褒められたいというのであれば、少しであろうと確実に『成果』を持ち帰る方が利口かと思われる」 駄目ならこちらも譲らぬまで。凛と言い放つ言葉に、けれど同は呆れかえって態とらしく肩を竦めた。今の言葉で大凡の状況は理解したらしい。 「あ~、お嬢ちゃん? それね、『交渉』じゃなくて『脅迫』なのダワー。ホント、アークって正義正義言う癖には裏野部よりタチの悪い暴力集団なのダワー」 「早逝した画家の遺作って方が、味が出るんじゃないか?」 「そうね。でも、頼み事にはそれ相応の『やり方』ってのがあるんじゃないのダワー?」 鉅の言葉を否定はしないが。「エサをやるから退け、さもなくば殺す」に近い言葉を言われてはいそうですかと頷けるような彼らではなかった。 「協力して。私達はエリューションを放置できない」 空気の凍り付いた最中、ウーニャが怖気ず前に出ながらその声を響かせる。 「……でも彼の作品をこの世界に残してあげたいの。世界が彼を愛さなくても、彼は世界をこんなにも愛した証にね。 私は誰が持ち主でも絵の価値は変わらないと思うし、存在してくれるだけで満足。絵単体で革醒しないなら好きなだけ持って帰って」 「アンタラはノーフェイスを倒したい。うちらは絵が欲しい。成程。うちらは三尋木、『穏健派』。戦い合うなんて野蛮なのダワー」 つまり考えてやってもいい、と電球頭が答える。相手はリベリスタ8人。戦闘をあまり想定していなかった同達は3人。そりゃ戦い合う事は避けたい。『手を出されない限り』は。 しかし。 炸裂した閃光弾が、ボカンの意識を眩ませて。更に、フシミを中心に――彼を護る様に立っていたドカンとボカンを巻き込んで、不可視なる刃の嵐が荒れ狂った。 「フシミの絵は確かに凄いけど、動き回るような美術品を三尋木首領が喜ぶとは思えないんだけど……どうせなら、細工のいい姿見でも贈ったら? あんた達にとって最も素晴らしいのは三尋木凛子。なら、その姿を写し堪能できる鏡が一番いいんじゃない?」 「息災だったかドカン、ボカンに阮高同。前回は共闘できたが今回は済まないが僕らの仕事とかち合ったようだな。お互い引けない立場というのもまた、人生のひとつだ。貴様らがビッグマムならアークはビッグダディだな!!」 綺沙羅と陸駆。一瞬にして言葉を飲み込んだ同が、ゆるりと二人に意識を向けた。 「……アンタラがやったそれ、説得カッコ物理なのダワー? あのさ『因果応報』って知ってるのダワー? ほんと、何しに来たのダワー? 交渉したいのか戦いたいのか。悪いけど殴られて笑って許すうちらじゃないのダワー」 嫌悪感と殺気と。戦闘態勢を取った同――の前に、立ち塞がるのは椿。 「お久し振りやね、また会えて嬉しいわぁ」 言いながら、指先でコンコン。指し示すのは己の頭。思考を読む術を持っているならどうぞ。他意も嘘も無く、話も早い。フム、と『お気に入りの顔見知り』に一先ず攻撃を繰り出す事は止め、同は椿にリーディングを試みた。 ――今回の件は、同さんが凛子さんの為に自発的に行動しとる部分が大事やね。つまり、失敗しても怒られへんし、何かしら得るものがあればプレゼントって言える訳や。せやから、もう話は出たと思うけど、戦闘後の絵画だけ持って帰ってもろてもええやろか? 『綺麗な絵を描くノーフェイスが居たけど、見つけた時点でリベリスタが討伐しとった』 『いくつか無事な絵もあって、余りに綺麗だから残ったものだけでもプレゼントにした』 ……とかなんとか凛子さんには言うてやね。うちら止めるにしたって、同さんらも無傷とはいかんやろうし……無事な絵確保するんやったら、うちも手伝うけどどないやろ? あ。それから、同さん良かったらうちにメアド教えてくれてもえぇんよ? 「……フム。成程なのダワー」 「どうやろか。あかんかなぁ?」 「二発」 丁度Vサイン。同が立てた指。 「二発殴らせるのダワー。先にうちらに手出ししたのはアンタらなのダワー。椿ちゃんに免じて『3倍返し』じゃなくって『それで許してやる』んだから有難く思うのダワー? それをさせてくれるなら条件を飲むのダワー。うちらは絵は頂く、そして『戦闘行為を一切行わない』。アンタラがまた手出ししてこない限りね。尤も、その状況でアンタラがノーフェイスに敗れたら画家も絵も頂くけれど」 「……。『NO』は受け付けへんってか」 「嘘は吐かない主義なのダワー。ドカン、ボカン!」 「「合点了解」」 そして放たれるのはセイクリッドアローとマジックブラスト。それぞれ綺沙羅と陸駆へ。そして本当に三尋木の戦闘行為は『それっきり』だった。同達三人が椿を伴い飛び下がる。増殖性覚醒現象に巻き込まれぬよう、絵を成る可く手中に収めつ遠くへ運ぶ心算だ。 「そういえば、ビッグマムって凛子さんの事やったんやな……てっきり、ビッグマムって名前の人が三尋木に居るんやとばっかり。なんで凛子親衛隊って名前にせぇへんの?」 「ビッグマムの方がなんかカッコイイからなのダワー! あ、メアドは後で教えるのダワー」 「あ~、どうも」 椿と同はそんな遣り取りをしながら、絵画集めに奔走を始める。 さぁ、ならば後は戦うだけ。 ざん、とブーツが地面を踏み締める。『ライトニング・フェミニーヌ』大御堂 彩花(BNE000609)の視線の先、フシミはリベリスタとフィクサードの交渉中も一心不乱に絵を描いていた。己が殺されるだのそんな話が間近で行われていたのに。 世界とは、見る者によってその姿を変える。平凡なドラマや小説にありがちな言葉だけれども、彩花はそれもひとつの真実であると思っている。実際、物理的にも心理的にも一個人に見える『世界』は限られているのだから。 「貴方の瞳に貴方の世界が映るのは当然。けれども私の瞳に貴方の世界は映りません。仮に映ったとしても私にとっては何の意味も無い世界です、私には私の世界だけが重要ですから」 そして、私の見る世界に、どうやら貴方の存在は不要なようですので――否定と共に踏み出した脚。滑る様に。画家は挑発にも乗らず、或いはそれをも美しい世界の一つと見ているのか、視線もやらずに絵を描き続けていた。構うものか。白亜の格闘篭手『雷牙』で武装した掌を広げ、その頭部を引っ掴んだ。 「そんなに描きたいなら一生描いてなさい。あの世でね」 轟、砕け散れとそのまま叩きつけるは地面へと。衝撃に土が跳ねる。ぎょろりと複眼が彩花を捉えた。モデルは動かないで。その眼差しが、彼女を呪縛する。 「突然だけど、貴方の存在はこの世界を壊してしまうの。私達はそれを止めに来たわ」 襲いかかる怪画に、防御した腕と肩を切り裂かれながら。ウーニャは立ち上がったフシミを見遣った。尚も喰らい付こうとして来る怪画を蹴り飛ばし。 「貴方の作品はこうやって人を傷つけるためのもの? これが楽園? 違うよね」 「分かって頂けなくても構いません。私は画家、ただ絵を描くのみ。貴方達がどのようなお話をしようとも」 そして危害を加えられるなら抵抗する。この、手に入れた異形の力で。 「……そう。なら、私達も『やるべき事』をやらせて貰うわ」 フシミが放つ色の衝撃波が痛みを刻む最中。ウーニャが指先にて掲げるはFOOL the Joker。 「混沌の美よ――紅蓮の月光に燃え上がれ」 嗤う道化師が光を帯びて。撃ち放つのは真っ赤な滅び。360度を多い尽くす赤月がフシミと怪画を薙ぎ払う。 それと重なるのは「天才的伐採作業ー!」と陸駆が放つファントムレイザーに、鉄よりも冷たい雨。カタタタタ、と綺沙羅が手に持つ綺沙羅ボードⅡが軽快なタイプ音を響かせて。 凍り朽ちた怪画を見つつ。深淵を垣間見る力は、怪画の革醒はフシミの影響である事を綺沙羅に知らせる。絵自体は三尋木と椿がせっせと遠くに運んでいるのでEゴーレムがあまり増える事はないだろうが。 (キサも一枚欲しい……) エンターキー。 「よお、天才画家。悪いけど……いや、言うまい」 世界のために死ねなんて言えるもんか。俊介の視線の先、爆発を引き起こし周囲のリベリスタを薙ぎ払ったフシミ。肉を焼かれ運命を使う事無く倒れた鉅。これ以上やらせるものかと俊介は癒しの呪文をその唇で紡ぎ出す。少年の指を飾る一対の指輪『終焉世界』が力を帯びた。それは祝福であり呪いであり、愛であり裏切りであり――二律背反を纏い、『やさしい息吹』は仲間達を癒してゆく。 否定はしない。世界を愛するフシミの考えも、その基準も。けれど。 「俺の目線からは、世界ってそんなきれいに見えないんだよなあ……」 嗚呼、くそみたいな世界。 戦いは続く。 フシミの動くなの眼差しと容赦の無い攻撃は致命性が高く、襲い来る怪画と共にリベリスタ達を傷つける。けれどその傷は俊介が治し、ウーニャ、綺沙羅、陸駆が広範囲を薙ぎ払い、彩花と鶴来が己が武術でフシミを追い詰める。 剣閃。 それは怪画が全て滅ぼされた頃だった。鶴来が振るった模造七天八刀は禍々しい呪いを帯びて、フシミの身体を浅く裂いた。暗がりの中、明かりも無く攻めるは厳しいか。直後に返って来るのは氷の封印。既に運命を燃やしていた身体に冷たく響き、全身がズキリと痛む。既に纏う軍服は血に染まっていて。 それでも、彼女は閉じた目の眼差しをフシミに向けた。 「願望。絵描き、君の見る世界を此方にも見せてくれはしないだろうか」 「良いですよ」 二つ返事だった。そして世界が煌いて。光が溢れて。抵抗するリベリスタは居なかった。 広がる光景。 蓋し、これが『イデア』なのだろうか。 美しい。けれど、人知の範疇を超えていた。深淵を覗いても、幻想を殺しても。 きっと『知ってはならない事』の一つなのだろう。 (この風景はフシミの心象世界なのか、それとも別のチャンネルの風景?) 現世では見られぬ常世の美。綺沙羅は瞬間記憶の力で脳裏にその光景を刻み込む。言い尽せぬ程の色の輝き。これが世界の本質なのだろうか。今の彼女には、分からない。 「おお! 素晴らしいな! 貴様の世界はこのように見えているのか。天才とは奥が深いものだな!」 陸駆が放つ称賛は心からのものだ。本当に、フシミは天才なのだろうと。だからこそ。天才である彼の作品は覚えておこう。脳に刻もう。決して忘れぬ。 「このIQ53万の頭脳のなかの一つに大切にしまっておくのだ。僕というパーソナルが失われない限りは一生残るのだ」 言いながらも。この幻想の様な現実を撃ち倒す為にも。ひゅるり、ふわり、舞う風に灰色の髪を揺らして。制圧の風刃が縦横無尽に駆け回る。 暴風。鶴来の長い金の髪も揺らいだ。 「得心。この世界は美しすぎる。分かるだろうか、綺麗過ぎる水には魚は住めぬ。同様。この世界は此方が眼と同じだ」 即ち。刃を突き付け、彼女は下す。結論を。『無機質』と。 蓋し。美し過ぎるものは、それはもう魔性を孕む。そして人は魔性を恐れる。 故に。人は己が処理し切れぬ美を『造り物』と呼ぶのだ。 「この世界はそれと同じに此方は見える」 故か。彼の絵が、魔性を孕んでしまったのは。 然し。もう、後戻りは出来ぬのだ。突き付けた宣戦布告<剣>を下げる事は出来ぬのだ。 「宣告。君の絵はもう、絵ではない。絵画とは人に認識される事により始めて絵画となる。君の絵を見て無事で居られる人間は居らず、そして君自身も既に人ではない」 踏み出した一歩は二つ。 振り上げられたのは刃とカード。 揃う声は凛として。 「究竟。此方は君を、『斬らねばならない』」 「貴方の愛した世界を、貴方自身が壊していく――残酷な運命ね」 告死。ウーニャが繰り出す気糸がフシミを縛り、鶴来が構える模造七天八刀が鋭く振るわれた。 飛び散る血、は、赤い色。血の色。俊介が嫌いなものの色。 動じるなと自己暗示。事実は変わらない。何も変わらない。フシミにとって幾ら美しい世界が見えていようと、その目線が『世界の理に反している』事は。変われない。それでも否定はしないと、俊介はその手を翳すのだ。 「……美しさってなんよ。この、血みどろな世界は美しいのかな。略奪に、弱いものが死に、強いものは甘い汁を吸うのは美しいのか。殺したくもないのに殺さないといけない世界は美しいのかな」 美しいモノ。ハッキリ『これ!』とは分からないけれど。『彼女が美人だひゃっほー!』てのは解る。うむ。 構えた掌に光が灯る。光が増してゆく。とてもじゃないけれど、俊介はフシミに「シネ」だなんて言えなかった。 光が、増してゆく。 煌々と。 「殺されそうになっても、世界は輝いて見えんのかフシミ……」 目が合った。――ような気がした刹那だった。神聖なる裁きの光がイデアの世界を焼き変えて。焼き尽くして。 ノーフェイスが灰になって頽れる。後はもう、何も無い。 ●世界色 「終わったんか? お疲れさん」 戦闘後から幾許か、椿が戻ってきた。フィクサード達は、と訊ねれば「革醒してない絵ぇだけ持って帰らはったよ」と。 それでも僅かだけ、正しくは革醒した絵の『死体』である切れ端だけ。ウーニャと綺沙羅はその手に拾い上げる。 「やっぱり芸術は護られるべきだよ」 専門家なら修復できるだろうか。思いながら。綺沙羅はフシミが遺したそれを夜空に透かした。芸術家は魂を削り出す様にして作品を作るのだから。目を閉じれば思い返せる光景。帰ったらCGであの世界を表現してみよう。 「貴方の世界、見せてくれてありがとう。……さよなら」 「永久。闇に眠れ、見る事の叶わぬ亡霊達よ」 温い風がウーニャと鶴来の頬を撫でた。 別れの言葉は夜の闇に掻き消えて、静寂を連れてくる。 『了』 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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