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オーラリーとバンシー。あるいは、水辺で歌う、何処かの誰か。

●水辺で誰かの声がする
 夏である。海水浴や、川遊びの季節だ。水難事故も多いが、しかしそれでも、水辺で遊ぼうと言う輩は
後を絶たない。
 特に、知る人ぞ知る、といった風な山奥の水辺など人気のスポットだ。この日も、山奥の涼しい川で遊ぶ地元の少年少女達の姿があった。
 キャッキャと騒ぎながら、水をかけ合う。
 全部で7人ほどだろうか。保護者の姿は無い。川の深さもさほど深くはないので、大人たちも安心して少年たちを送りだしたのだろう。
 運が悪かった、と言おうか。
 遊ぶ少年たちを眺める、1人の少女の姿があったのだ。
 青い髪に、薄い衣を纏った少女だ。細い体に、枝のような手足。か弱い印象を拭えない。
 だが、その眼だけは爛々と光っているように見えた。
 まるで、悪戯を思いついた猫のような眼だ。
「~♪」
 少女は歌を口ずさむ。美しい歌だ。一度耳にすれば、二度と忘れることも出来ないような、美しい歌。
 ずっと、いつまででも聞いていたくなるような優雅な戦慄。
 流れる川の音をバックミュージックに、少女は歌う。
 するとどうだろう。
 先ほどまで、キャッキャと騒ぎ倒していた少年たちがいつの間にか静かになっているではないか。
 それだけではない。
 皆、虚ろな目をして、ぼーっと少女の歌に耳を傾けている。
『…………ちょろいものだわ』
 歌う少女の背後から、ハスキーな誰かの声が聞こえた。少女のものではない。そこに居たのは、全身ずぶぬれの女性であった。足元まで届く長い髪に、死体のような肌の色。真っ黒な瞳を子供たちに向けて、にたりと笑う。
 歌う少女の瞳から、涙が一筋、零れ落ちた。

●オーラリーとバンシー
「今回のターゲットは、アザ―バイドが2体。それぞれ、(オーラリー)と(バンシー)という名称で、水辺での活動を好むよう」
 どちらも異世界から来た水の妖精であるようだ。しかし、その性質は間逆と言っても過言ではない。『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は、モニターに映る少女に目をやり、溜め息を零す。
「歌を歌っているのがオーラリー。他者を魅了する歌声を持つ妖精。一方、その背後でオーラリーを操っているのがバンシー。他者の弱みに付け込み、心を支配する妖精」
 前者は善意で、後者は悪意で行動するようだ。
「オーラリーの能力を、バンシーが利用している。そういう状況みたいね」
 その結果が、虚ろな目をした少年、少女達だ。
 ぼんやりと水辺に漂う彼らは、意思のない餌そのものである。
「バンシーは、子供の魂を喰らう。今はまだ、子供たちの意識が途切れ切ってしまっていないからなんとかなっているけど、それも持ってあと数十分が限度」
 つまり、タイムリミットは40分ほど、といった所か。
 小細工を弄せば弄すほどに、子供たちの身に危険が迫る。
「オーラリー、バンシー共に水を使った攻撃を得意としているわ。また、現在バンシーは、オーラリーに取付いている状態にあるみたい。まずは、オーラリーの無力化が最優先」
 オーラリーを無力化、或いは行動を封じてしまえばバンシーが現れる。
 子供たちを魅了しているのはオーラリーだが、危険なのはあくまでバンシーの方だ。
「Dホールの破壊も忘れないで。送還、殲滅は任せるから」
 犠牲者の数が如何ほどのものになるか。
 それはまだ、分からない。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:病み月  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年08月21日(水)23:53
お疲れ様です、病み月です。
皆さん、いかがお過ごしでしょうか?
暑い季節に、水辺の物語はいかがでしょう?
というわけで、以下詳細。

●場所
川の上流。岩場や森林などに囲まれた、奥まった区画。水の流れが速い。水深は比較的浅い方だろう。
決して広いとは言い難い戦場である。基本的には川辺での作戦決行となるだろうが、状況次第では森林や、近くの道路に出ることにもなりかねない。
岩が多く、視界が良好とは言い難いようだ。
また、川辺には子供たちが残っているので、戦闘に巻き込む可能性も十分ある。
 

●ターゲット
アザ―バイド(オーラリー)
歌を愛する水の妖精。本来は、穏やかな性格ではあるが、現在半ばバンシーに操られている状態にある。
彼女の歌には、他者を魅了する能力がある。
バンシーの半支配下にあるが、意識はまだ残っている模様。
【水辺の歌】→神遠範[魅了][鈍化]
その場に留まり、静かに歌う。
【歓喜の歌】→神遠複[石化][連]
周囲を飛びまわりながら、楽しげに歌う。

アザ―バイド(バンシー)
子供の魂を喰らう水の妖精。効率よく魂を喰らう為に、現在オーラリーに取付いている。
オーラリーの討伐、オーラリーの行動不能などにより実体を顕わにするようだ。
魂を喰らうのは習性であり、決して邪悪な存在ではない。
【マインドクラッシュ】→神近単[混乱][弱体]
相手の頭部を掴み、意識に直接攻撃をしかける。
【深い嘆き】→物近複[弱点][必殺][流血]
濡れたバンシーの髪が、鞭のように周囲の対象を切り刻む。


以上になります。
皆さんのご参加お待ちしています。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ナイトクリーク
星川・天乃(BNE000016)
クロスイージス
アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)
ソードミラージュ
須賀 義衛郎(BNE000465)
ミステラン
風宮 紫月(BNE003411)
スターサジタリー
我妻 湊(BNE004567)
インヤンマスター
赤禰 諭(BNE004571)
ホーリーメイガス
福澤 千円(BNE004572)
デュランダル
守屋・黒夫(BNE004580)

●水にたゆたう
 水は流れる。留まる事なく、下へ、海へと。川の上流ともなれば、流れの速さも、水の冷たさもそれなりのものだ。季節は夏。冷たい水は気持ちいい。とはいえ、聊か異様な光景ではあるだろうか。
 なにしろ、川辺の子供たちは皆、ぼーっとした目で、水に使ってぷかぷかとたゆたっていたのだから。
 そして、それを眺める美しい少女の姿もまた、現実離れした光景である。
 綺麗な歌を口ずさみ。
 辛そうな目を伏せ、ぽろぽろと涙を零すのだから。

●オーラリー
「さてさて子供たちを助けるために頑張ろうかな。まぁ、俺っちもまだ子供だけどそこはそれ」
 そんなことを嘯きながら、ぶらぶらと川へ降りて来る少年が1人。『落とし子』我妻 湊(BNE004567)がそう呟いた。突然の来訪者にも関わらず、しかし子供たちは皆無表情。唯一、オーラリーだけが、その悲しそうな目をこちらに向けている。
「夏休みの楽しい一日になる筈だったろうに。せめて子供達の命だけは救いたいもんだ」
 7人か、と子供たちの数を数える『ファントムアップリカート』須賀 義衛郎(BNE000465)。腰の刀に手をかけて、しかし抜く事は辞める。彼の役目はオーラリーの相手ではない。
 湊と共に、少年少女達を避難させることこそが、その役割であった。

「夏場にぴたり、な水遊び……なんて、冗談、だけど。相応しい相手、ではあるね」
 一足飛びで水上を駆け抜け、鉄甲に覆われた拳でオーラリーに殴りかかる『無軌道の戦姫(ゼログラヴィティ』星川・天乃(BNE000016)。無表情のまま、淡々と拳を叩きつける。
『……』
 オーラリーは無言。否、細く小さく何かの歌を口ずさんでいる。音波による攻撃が天乃を襲う。精神無効により混乱などの影響は受けないものの、ダメージまでは消せないでいた。
 ドクン、と心臓が跳ねる。口の端から血が零れた。鈍った動作。オーラリーの腕が振り下ろされる。手刀に巻き付く川の水。まるで刀剣のような形状へ変化する。
「幼き命を害するならばそれを払うが騎士の務め。世界を侵すならばそれらを防ぐがリベリスタの務め」
 水の刀を受け止めたのは、『祈りに応じるもの』アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)であった。ブロードソードとオーラリーの手刀が交差。甲高い音を響かせる。
「……手筈の通りに。子供達への対応は皆さんにお任せ致します」
 川辺に立って、弓を構える『朔ノ月』風宮 紫月(BNE003411)。視線はオーラリーに固定したまま、子供達を避難させるべく行動する湊と義衛郎に声をかける。応、とだけ返し駆ける2人。義衛郎が、傍にいた子供に手を伸ばしたその瞬間、その手を不可視の衝撃波が襲う。
 オーラリーの歌による攻撃だろう。腕が裂け、血が滴る。
 牽制目的で撃った紫月の矢すらも、オーラリーの歌に阻まれ届かない。あまり派手な攻撃を繰りだすと、子供達を撒きこむ危険もある。故に、リベリスタ達は後手に回っているのである。
「音色は綺麗ですね。寄生虫に奏でさせるのは勿体無い程度に」
 そう呟いたのは『落ち零れ』赤禰 諭(BNE004571)であった。影人を召喚し、子供を避難させるための人手を増やす。諭の指示に従って、影人達は水の中へと飛び込んだ。
 まずは子供達の確実な避難を優先すべきである。

「毎日暑いからほんと涼みたいよな。だからこの依頼を選んだって訳じゃないんだけどさ。こっちの世界で人を襲うっていうのはダメだよねー、いやほんとダメ。おかしーわ。でもなんとなく、バンシーも返したかったなあってのは、ちょっと思うよ。俺もおかしーのかな」
 子供達の避難を誘導しながら『超合金コントラバス』福澤 千円(BNE004572)がそう呟いている。何かしら、思う所があるのだろう。視界の端にオーラリーを捉えたまま、どんな顔をしていいか分からないように、弱ったような笑顔を浮かべた。

天乃の拳を回避するオーラリー。水上歩行を有する天乃ではあるが、オーラリーに至っては水中をも自在に動く事ができるようだ。追撃の為に、水中へ剣を突き刺すアラストール。歌を口ずさみながら、オーラリーが水上へ飛びだした。
 その眼前に、1人の男が立ちはだかる。
「たとえそれが習性だとしても、子供の魂を狙うなんて許せないっす! パパとして許せないっす!!」
 手にした缶ビールを握りつぶし、大剣を振り下ろす『狂気の肉屋』守屋・黒夫(BNE004580)。憤りに任せ、大上段から剣を叩き付けた。オーラリーの歌が止まる。回避の為に後ろへ跳んだオーラリー。回避しきれず、その胸を黒夫の剣が切り裂いた。
 鮮血の代わりに水が零れる。びんやりと、オーラリーの背後に髪の長い女性の影が浮かび上がった。オーラリーを操っているバンシーというアザーバイドだろう。
『誰か知らないけど、邪魔しないでほしいなぁ……』
 呟くようにそう告げて。
 次の瞬間、オーラリー諸共、その姿が見えなくなった。

 視界の端を何かが舞っている。それに気付いた直後、耳に届く小さな歌声。楽しげな声だ。気付いた時には既に遅い。諭の体を衝撃が襲う。ぐらり、と頭が揺れた感覚。
 楽しげに歌いながら、オーラリーは宙を駆け抜けて行った。
「まだ新米リベリスタだけどさぁ、ちょっとした力にはなりたいじゃんね! 全力で!」
 口の端から血を零す千円。飛び散る燐光が、仲間達の傷を癒す。子供達の避難がまだ完了していないのだ。誰かが倒れてしまっては、子供達の安全が保障できない。
 義衛郎が、湊が、諭の召喚した影人達が駆け抜ける。子供達を誘導し、危険な水辺から遠ざける為に。
 しかし、子供連れで山道を逃げるのは手間なのか。オーラリーと、彼らの距離は次第に縮まっていく。紫月が弓を構えるが、子供達を巻き込む可能性を考慮すると、攻勢には出られないようだ。
「任せた」
 抱えていた子供を、千円に向かって投げ渡す義衛郎。慌てて子供を受け止めた千円の傍を、義衛郎は駆け抜けて行った。両手に刀を構え、ひらりひらりと飛びまわるオーラリーに迫った。
 大上段から振り下ろされる2刀。凄まじいスピードで斬り刻むのは『時』という概念。時間が止まったような奇妙な感覚。氷刃の霧はどこから現れたものだろうか。
「オレ達も君を元の世界に帰したいんでね。できるだけバンシーの支配に抵抗してみてくれないか」
 果たして、義衛郎の声は届いただろうか。水滴が飛び散る。地面に倒れるオーラリー。苦しげに眉を潜め、義衛郎を睨みつけた。
 オーラリーの瞳の端から、ぽろりと涙が零れ落ちる。
 直後、オーラリーの口から囁くような静かな歌が紡がれる……。

 動作の鈍る感覚。まるで、時の流れがおかしくなったみたいだ。手足が思ったように動かない。舌打ちを零し、諭は影人へ指示を出す。
「歌の合いの手に砲火はどうですか? お似合いでしょう、搾取用に成り果ててれば」
 オーラリーへと飛びかかる影人。砲身を突きつけるが、間に合わない。影人が掻き消え、オーラリーの姿が消えた。水の刃が突き出された先には、子供を抱えて逃げる湊の姿。
「近くで熊が出たから、とか言うつもりだったんだけどな」
 そんな嘘が通る状況では、すでにない。幸い、子供達の意識が朦朧とした状態であることが唯一の救いか。翼を広げ、宙へと舞い上がる湊。背や翼に水の刃が突き刺さる。
「っぐ……」
 痛みによろけ、しかしそれでも子供達を護る事は止めない。身体を張って、オーラリーから子供達を護る。血に濡れた翼をそのままに、湊は全速力でその場から逃げる。
 追走しようとするオーラリーの足元に、1体の影人が滑り込んだ。オーラリーの動きが止まった一瞬の隙を突いて、義衛郎と千円が子供を連れてその場を離脱。
『………』

 歌を歌うべく、オーラリーが口を開いた。
 それと同時に、無数の火炎弾が降り注ぐ。水を蒸発させ、木の枝を焼きながら、火炎弾はオーラリーの体を弾き飛ばした。火炎弾に遮られ、子供達の姿は見えなくなる。
「その苦しみから、解放して差し上げます。今しばらくの御辛抱を」
 エル・バーストブレイク。火炎弾を放ったのは紫月であった。
 弾き飛ばされたオーラリーを、紫月の矢が追撃する。体勢を崩されたオーラリーは後退しか出来ない。前進を阻むのは紫月だけではなかった。同じように、諭もまた重火器を構えてオーラリーを牽制している。
 結局、川まで押し戻されたオーラリー。
 待ち構えていたのは、大剣を構えた巨大な黒いトカゲであった。

●バンシー
 オーラリーが歌う。空気を震わせる衝撃にダメージを受けながらも、黒夫は大きく1歩、踏み出した。大上段から振り下ろされる黒夫の剣。ハイバランサーを活性化させているため、多少の足場の悪さなど気にもならない。
「子供達には近づけさせないっす!」
 一閃。オーラリーの胴を袈裟がけに切り裂く。大きくよろけ、その場に倒れるオーラリー。剣を振り下ろしたままの姿勢で、黒夫はオーラリーを睨みつけた。ギョロリとした爬虫類の瞳。その瞳に映る黒い影は、オーラリーを操っていたバンシーの影だ。
 そう気付いた瞬間、黒夫の脳裏に衝撃が走った。黒夫の頭を掴むバンシー。精神に直接、攻撃をしかけてきたのだ。グルン、と黒夫が白目を剥いた。
 地面に倒れるオーラリーと、それから黒夫。水飛沫を浴びながら、バンシーは水上を歩いていった。長い黒髪がゆらりと揺れる。それ自体が意識を持っているように、ふらりふらりと触手のように蠢いた。
「まったく、陰気臭い……」
「生まれながらにして、他者を害さなければ生きて行けない存在……。それは、人間と何がどう違うのでしょうね……」
 背後から放たれる砲弾と、矢。まっすぐバンシーを襲うが、振り回されたバンシーの髪がそれらを受け止め、叩き落す。盛大に上がる水飛沫を突き抜け、アラストールがバンシーに迫る。
 アラストールの剣が眩く輝く。迷いなく、バンシーの胸目がけ、アラストールは剣を突き出した。

「邪心無くとも、己の都合で他者に涙を流させるなら、そは無邪気也」
 バンシーの髪が縦横無尽に蠢いた。ひゅんひゅんと、空気を切り裂く音がする。輝く剣に巻き付く頭髪。剣先がバンシーの胸を貫いた。
 だが、浅い。鞭のようにしなる濡れ髪が、アラストールの全身を打つ。飛び散る鮮血。降り注ぐ赤い雨。川の水を茶色く濁す。
 一瞬の膠着。同時に飛び退く、バンシーとアラストール。入れ替わるように、水上を駆け抜ける影が1つ。拳を振りあげた、天乃であった。
「……爆ぜろ」

「おいおい……。彼女には命を落として欲しくないのだが」
 頭を掻いて、唸る義衛郎。視線の先には、半身を水に溶かし、今にも息絶えそうになっているオーラリーの姿があった。美しい少女の姿。胴体に走る深い裂傷を初めとし、全身に無数の傷を負っていた。
『う……ァぁ』
 涙を零し、か細い吐息を漏らすオーラリー。今にも消えてしまいそうな彼女に、そっと湊は近づいていく。翳した手。淡い燐光が飛び散って、オーラリーの傷を癒す。
「素直に帰ってくれたらいいなぁ……」
 万が一、オーラリーが元の世界への帰還を渋るようなら、討伐せねばならなくなる。1度は救った命を、自分たちの手で奪うなど、後味が悪いにも程があるではないか。
 大人しく帰って貰いたい。そう願いながら、湊はオーラリーの治療を続けた。
 
 降り注ぐ砲弾と、疾走する矢がバンシーの動きを阻害する。更に、開いた空間に駆けこむアラストールと天乃が、着実にバンシーへダメージを与えていくのである。
 ギリ、と歯を喰い縛るバンシー。食事の邪魔をされて、苛立っているのだろう。長い長髪が暴れまわる。激しい攻防は、お互いの身を傷つけあうのだ。
 降り注ぐ鮮血。飛び散る水飛沫。
 バンシーの腕が突き出された。アラストールの頭部を掴む。先ほど黒夫を戦闘不能にしたマインドクラッシュだ。アラストールの表情が強張った。
 その瞬間。
「カーっ!!」
 奇声と共に、水中から飛び出してきた黒夫。太い両腕で、バンシーの体を掴みあげる。
『……ァ!?』
 驚きに目を見開くバンシー。口の端から血を零しながら、黒夫はバンシーの体を空中へと放り投げた。
 
「此処は人の世界、我等の世界、異界の者の理が通じる場所と思わない事だ」
 翼の加護で得た羽で、アラストールは宙を舞う。後を追うように、天乃も水を蹴って跳び上がった。
 アラストールは、天乃の体を空中でキャッチ。重力に引かれ、落下してくるバンシー目がけ、天乃の体を放り投げた。
 バンシーの髪が暴れ狂う。縦横無尽に空気を切り裂き、天乃の体を打ちのめす。
 黒い竜巻のようだ。竜巻の中へ、天乃は突っ込む。握りしめた拳が、空中を走る。まっすぐ、バンシーの額を打った。
 一瞬だ。一瞬で間合いを詰め、天乃はバンシーの額に刻印を刻む。
「遠慮なく、やらせてもらう。動く、な……」
 メルティーキス。死の刻印が、バンシーの命を刈り取った。
『あ……。なんで、邪魔……する、の?』
 理解できない、という風にそう呟いて。
 バンシーは、力を失って天乃の体にもたれかかった。
 
 バンシーの体は、あの後すぐに溶けて消えた。後に残ったのは、髪の毛が数本。天乃の鉄甲に絡みついていた物だ。
 バンシーは、ただ必死に生きただけである。食事をしなければ、生きていけないから。人が、牛や豚を殺して喰うのと同じ理由。
 ただ、運が悪かっただけなのだ。
「運がよければ、生き残る。戦いとは、そういうもの」
 バンシーの髪を川に流し、天乃はひとこと、そう呟いた。

「勝利の1杯をいただくっすよ!」
 缶ビール片手に、空を仰ぐ黒夫。その後ろでは、オーラリーがDホールから帰還しようとしている所だった。
『どんな顔をしていいか分からないけど……。ありがとう、と言っておく。それからさようなら』
 胸の傷を押さえ、オーラリーはDホールへと足を踏み入れた。
 彼女はただ、巻き込まれただけだ。
 その結果、多くの人を危険に晒し、多くの者を傷つけた。
 そして傷を負い、治療を受け、元の世界へと帰っていくのだ。複雑な心境なのだろう。素直に喜ぶ気にもなれず、死んでいったバンシーの事を想うと、気分も晴れない。
「ごめんな。また会お……。君の歌だけなら、ゆっくり聞きたかったなぁ」
 コントラバスを弾きながら、千円は言う。
 心地いい音色に背中を押され、オーラリーは元の世界へ帰っていった。


■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
こんばんわ、お疲れ様でした。
オーラリーは元の世界へ帰還。バンシーは討伐されました。
依頼は成功です。
子供たちは、事の顛末を覚えてはいないでしょう。
単なる白昼夢程度にしか、認識していません。

水辺での戦闘、いかがでしたでしょうか?
お楽しみいただけたなら幸いです。
それではそろそろ失礼します。
縁がありましたら、また別の依頼でお会いしましょう。

このたびはご参加ありがとうございました。