● 今日も今日とて道見て歩く。 もしかしたらお宝が落ちているかもしれないだろ? そうさ、100円玉の銀色の輝き、500円玉の金色の輝きとかな。 時々お大尽なことに、紙切れが落ちていることもある。 まったくすばらしいじゃないか、この世界は!! ● 「タイム・イズ・マネー。 だが、働く時間を全て宝探しに向けた男ってのは、現代のトレジャーハンターかもしれないね」 ふっと口の端に笑みを浮かべ、『駆ける黒猫』将門伸暁(BNE000006)がポケットからコインを取り出す。 「今回のアーティファクトは、コイツだ。――ああ、これそのものってわけじゃない。 道端でコインのふりをして、自分を手に入れる人間を探しているんだ」 伸暁がぱちんと指を鳴らすと、モニターにはひとりの男の姿が浮かび上がる。 「野宿者、ヴァガボンド……ま、いろんな言い方があるけどね。 とりあえず彼のことはマツギくんと呼ぼうじゃないか」 マツギ・コウタロウ。それが彼の名前のようだったが――既に名前に意味はないのだろう。 薄汚い服装に、油が浮いた髪。ダンボールを引きずり、定住する場所を持たない彼が、今回のターゲット。 「彼がゲットしたのは、本物のトレジャーだ。 一気に金運が良くなる。その分、周囲の運を削っていくだけで、ね。 ……ほら、この後ろを見てみな」 お札を拾ってニヤけた顔を浮かべるマツギの背後。 通り魔が刃物を振り回し、道行く少女がその凶刃に背を向けて―― 「2秒後のことは考えたくないね」 伸暁がやれやれと首を振る。 「とにかく、このコインを回収してきてくれ。 この映像は明日の夕方。死者を出したくないならそれがリミットだ。 他のことは全て任せる。 ――頼んだぜ、ヒーローたち」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ももんが | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年07月21日(木)23:05 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「これ、王様つくってくれたの? かわいい」 炊き出しの準備をしながら、『原罪の羊』ルカルカ・アンダーテイカー(BNE002495)は目を輝かせる。 ついでに幻視の裏側では羊の耳が全力でぴるぴるしている。彼女がその視線を注ぎっぱなしなのは、一枚のエプロンの胸元。スリムタイプエプロンという、ホルターとウエストの二箇所をリボンで結ぶデザインなのだが――その胸元のワンポイントは、ピンクのヒツジのアップリケ。 「そのアップリケは我の手作りだ。使うが良い」 そう言って自分もエプロンを身につける『百獣百魔の王』降魔 刃紅郎(BNE002093)。彼のものは胸当て付きの、体の前面で結び目を作るタイプであり――そしてやはり、ワンポイントのアップリケ(自作)。こちらは銀のたてがみの獅子である。がおー。 ルカルカはいそいそといつものパーカーを脱いで、青い水着の上にそのエプロンを――ってちょっとお嬢さん。水着エプロンとはいささかキケンな装いなのですが? 「だって暑いもん」 じゃあ仕方ないね! 現代の夢追い人、もしくは世捨て人たちには、独自のネットワークが存在する。 たとえるならソレは主婦のクチコミ情報の様に曖昧に、しかし確実に世界の裏側を走っているのだ。 ネットワークの中でも優先順位が高いのは、あたり前のことではあるが、食の話題。 着るモノと住む場所は、なければないでどうとでもなるが、食い物だけはどうしようもない。 だから、それが突然の炊き出しであっても、人はあっという間に集まった。 ところで夏場の炊き出しとなれば、結構イケるのはカレーうどんである。 辛味に呼び覚まされる食欲と、麺類独特の食べやすさが生む抜群のハーモニーは夏バテの特効薬。 「王様らいおん印のごはんの炊き出し、くるといいよ。 理不尽なくらいおいしい。こっそりつまみ食いしてたから知ってる」 「いつの間に……」 もぐもぐ羊を軽く諌めつつカレーうどんをプラスチックの皿に盛る刃紅郎(の、アップリケ付きエプロン)を見て『おっぱい天使』シルフィア・イアリティッケ・カレード(BNE001082)は、ふ、と息を吐いた。 「……シュールね」 「我は割烹着を着るつもりだったのだが」 さらりとそんなことを言ってのける刃紅郎に求人チラシを押し付け、シルフィアは肩をすくめた。 「夢を追うのも悪くはないが……人生、引き際が肝心ね。 引き際を間違えた者の末路程、憐れなものは無いわ」 炊き出しの場を離れたシルフィアは少し路地を入ったところに向かう。そこには『死神狩り』棺ノ宮 緋色(BNE001100)が少し疲れた様子で大きな棺に腰掛けていた。 「硬貨はもう落ちていないと思うわ」 普段は気にもとめない1グラムのアルミでさえ、立ち上がり歯向かってくるおそれがあるのだと万華鏡は告げていた。挟撃をするつもりが、自分たちが囲まれていたなどとあっては話にならない。だからこそ緋色はゴシックな服の裾が汚れることも厭わずに硬貨を徹底的に排除しておいたのだ。 「夢は美しいわ。それを追う人も、悪夢も全て等しく。 ――彼の夢は何かしら。それは、他人の幸運を代価にするほど、価値のある悪夢なのかしらね」 呟く緋色に、シルフィアはひとつ頷くと周囲を見回した。 「山田は?」 その疑問を受けて緋色が指さした頭上には、壁に対して垂直、地に対し水平に歩む姿があった。 「どうぞ、那由他とお呼びください。なゆなゆでも結構ですよ」 水平の人物は、己の名を何故か偽名に訂正した『残念な』山田・珍粘(BNE002078)である。 「囮用に安物の宝石のついた指輪を置いておく、のも考えたのですが。 そう人は誰しもが夢追い人。心の宝を探して日夜歩き続けるのです」 購買部で準備したならまだしもその辺の店で手頃な物を、とは簡単にいかなかったらしい。 「……ここに強結界を張るわ。あとは本命の、本条たちの作戦が成功するのを待つわよ」 シルフィアの言葉に、緋色と珍粘が頷く。 「それと、私の名前は那由他ですから、お間違えのないよう」 ってカメラ目線で何を言い出すんですか、珍粘さ――じゃなかった、那由他さん。 水着エプロンのルカルカがカレーうどんを配ってまわる。時折、銭湯の無料チケットや求人チラシ等も渡して人を呼びながら――なので、あっという間に長い列が出来ていた。 「ね、最近羽振りがいいっていう人いない?」 腹の具合がいい感じになった男を捕まえて、ルカルカがカレーうどんをまたもぐもぐしながら問う。 「羽振りっつったって、みんな今は同じようなもんだろう」 「そうそう、どこも不景気だのなんだのって、なあ」 「ああ、でもあれだ、マツが最近、ちょっといいもん食ったりしてるよな」 「あいつなあ。最近付き合い悪くなっちまって……」 ぐちゃらべちゃらと話す中に探していた情報を見つけて、水着エプロンの少女は男達に聞き返した。 「そのマツなんたらっていうひと普段どこにいるの?」 ● マツギのねぐらは、ビルの裏口である。 もっとも、寝に帰るのはもっぱら深夜。それ以外の時間はどうしているかと言えば、だらだら無目的に地面を見て歩いているわけだ。 ただし、それにもルートがある。 野良犬と同じだ。他の『同業者』とぶつかって生きるわけにもいかず、ここの自販機はあいつの領分、あっちの水路はおいらの領分と、わけあってなんとかやっていけてるわけで。 たまに、これじゃあ昔働いてた時とあんま違わねえな、なんて自己嫌悪に陥ったりもするのである。 とはいえ今日は珍しく炊き出しなんかにありつけたうえに、最近は特にいい感じで小金が貯まってきてるのだ。もしかしたら、昨日拾った宝くじがどかーんと当たってたりするかもしれない。押し付けられた風呂の券やら求人チラシやらは、他の奴らの馬券と交換してもらった。これも面白いことに万馬券だ。 全部あたったら、とか想像したら、もう笑いがとまらない。 そしたら汗水流して働いてたオレをクビにした上司とか、馬鹿にしやがった別れた女房とかも見返せる。ツキとか運とか、そういう物は、賭け事に全部を預けられる人間にしか来ないっていうオレの哲学を、理解もせずに切って捨てやがった奴ら。 「へ、へへ、うへへ……」 そんな気分だったからだろうか、マツギの注意が酷く散漫としていたのは。 「おじょーさま余り急がれますと危のうございますですよー?」 べしゃり。 「ああっ、大変申し訳ありません!」 「おほほほっ、あらたいへん」 「え、あ、おい……」 なんとも不可思議な3人娘にソフトクリームをべったりとくっつけられ、マツギは怒るにも怒れない。 何せメイド服とかお嬢様風とか金髪碧眼少女とか。何これハーレム? もちろん実際には、メイド服を着ているのは『きまぐれキャット』譲葉 桜(BNE002312)だし、世間知らずなお嬢様を演じているのは『プラグマティック』本条 沙由理(BNE000078)だし、金髪の、妙に似合わない口調でしゃべっているのは『あほの子』イーリス・イシュター(BNE002051)なのである。イーリス以外の二人はテンプテーションまで使って、ばっちり気を惹く準備は万端。イーリスはせめて『かねめのにおい』をさせるためか、南の島別荘二週間管理三食昼寝付時給三万円で任せられる人探してる的アイスを食べて……ってそれどんなアイスなんですか。 「あらあら、大変。 この様な事故を放っておいたと有っては本条財閥の名に傷が付いてしまいますですよ。 せめて弁償とお詫びをさせて頂けませんとー」 あらあらうふふ風味で桜が誘い。 「おやしきに来ていただかないと謝罪もできないのです。 普段は、お金とか持ちあるかない主義なのです。 セバスチャンがあとでどうにかしてくれるのですもの」 歳に似合わぬ威風堂々とした態度のイーリスがにこにことお金持ち設定を説明し。 「せめて弁償させてもらえないでしょうか。よろしければ、こちらに」 沙由理は誠意たっぷりに、申し訳なさそうに頭を下げて何度も謝って。 「まあまあ、お嬢様もこう仰ってらっしゃる事ですし、どうぞお屋敷までいらして下さいませ。御もてなしさせて頂くのですよー」 世間知らずっぽく腕を捕まえながら胸を押し当てたりとかする桜ちゃん超ノリノリ。 かなりオイリーな服に、イーリスは小声で気合を入れる。 「ゆーしゃといえど! 時に手を汚さねばならぬ! のです」 それは例えば民家のタンスやツボを漁る時ということでしょうか。 これぞ名づけて『本条さん、イーリスちゃんと桜ちゃんで、不注意でマツギさんと衝突した本条財閥のお嬢様が、それを気に病んで衣類を弁償しようとするも世間知らずなお嬢様はその為にまずお屋敷へお招きして持て成さなくてはと考えたりそれにお嬢様のお友達やお付のメイドまで絡んで来て僕どうなっちゃうの!? 的ありがち棚ぼた物語、第一話っ☆』作戦。 ……名前そのまますぎとか言わない! ● 「そう、ほんとうにごめんなさいね。 折角つかんだチャンスだろうけど、わたしたちは見逃してあげられないの」 路地裏、しかも不自然なまでに誰もいない場所で沙由理は本条財閥のお嬢様ごっこをやめた。前門の虎後門の狼状態に、マツギのポケットの中ではお守りにしてたコインがちりちりと嫌な音を立てている。突然7人の人間に囲まれて不穏に感じるなという方が、難しい。 「先のチラシは……なくしたようだな。腹が減っては戦は出来ぬ、そして働かざる者食うべからずだ」 刃紅郎はマツギの手の中に何の紙もないのを見咎め、眉間にしわを寄せる。 カレーうどんをもぐもぐしながら、ルカルカが一歩前に出る。暢気な風情には見えるが、彼女がスピードを上げてかかれば追いつける者はそうそういない。 ところでお嬢さんあなたまだ水着エプロンなんですが。 「え? パーカーどこかにいっちゃったし、エプロン気に入ったから」 じゃあ仕方ないね! 「だめなのです! あのコインは危険なのですっ! いくらボヘミアンなフリーマンでも、そいつぁいけねえ! なのです!」 事態が未だ飲み込めていないマツギに、イーリスがびしり、と宣言する。 「あ、あのコインって……」 マツギ自身、ほとんど無意識のままに右手をよれよれのズボンの、ポケットに突っ込んだ。 そこにアーティファクト――ビューティフル・ドリーマーがあることは、間違いないのだろう。 それでも、無意識に過ぎた彼の動きはリベリスタからすればなんとも隙に満ちたものだった。 「こうして、また一人の夢追い人の夢が儚く散ったのでした。めでたしめでたし」 「ふふ、色と欲に溺れて骨抜きになった男の人ってちょろいでっす」 「へぶっ!?」 マツギの頭上と真横から声がした。 それは珍粘こと那由他が、面接着を駆使して壁を駆け下りながらマツギにかけた声であり、口をぽかんと開けて見上げた男の腹に一撃を――当身で最も効率良く相手を気絶させることが出来る方法は、横隔膜への打撃による痙攣で誘発される呼吸困難である――与えたことの報告。 そして、ここに来るまで腕を絡ませていた桜が、気糸を生じさせてマツギの全身を縛り上げた報告。 ごき、がきというどことなくコミカルにさえ聞こえる音がして、実にあっけなく彼は意識を失った。 ただし、相当に苦しそうである。いかんせん、相手の動きを絡めとることにも使われるギャロッププレイという技術には相手を殺傷する能力はないのだが――マツギはエリューション能力など持っていない。意識を保てとか、骨の一本も折ることなく耐えろとか、フィクサードでも痛いのに無茶な要望である。 そして――小さな音がした。 ぼひゅ。ばしゅ。 「え?」 「おや?」 マツギをひん向いてコインを探そうとする那由他と桜の目の前で、妙な音がする。 やがてマツギのズボンに小さな穴が空き、そこからころりと転がり出る、小銭。 総額3217円。 それだけの小銭が細い手足を生やし、マツギの服を破って飛び出してくる。 「あれ? もしかしておっちゃん、幸運続きでイイ気になってた、です?」 なんとなく数えていたイーリスは、少々引きつった声を上げる。 金額にするとたいしたことないように思えても、目にしてみると結構な数の『こびとたち』がリベリスタたちの方を向いてざり、と整列してみせる。 『こびとたち』の目的は、すぐにわかった。 ――時間稼ぎ。 「なんてこと……!」 イーリスが捨て身覚悟で雷気を放ち、緋色が魔力の矢を召喚し、『こびとたち』を叩き落す。 刃紅郎たちも『こびとたち』を攻撃するにも、圧倒的に手が足らなかった。沙由理が意志の光でかなりの数を怯ませたが、倒すことのできない光ではそれが精一杯である。 「ちまちま狙うのは性に合わん!」 先程までとは全く違う高圧的な態度で嬉々として叫んだシルフィアの、呼び出した雷は激しく荒れ狂う。 「一時的な物とは言え暴力程効率の良い指導はこの世に存在しない…… フフフッ……ハハハハッ……ハァーッハッハッハッハッハッハ!」 神気閃光とチェインライトニングのおかげで、残ったこびとたちは一掃できたものの。 「……逃がした」 足の速さを活かして追ってみせても、側溝の中に駆け込まれてはルカルカもそこまでである。 ● マツギはうっすらと目を開ける。全身がひどく痛い。 若い頃、無茶をして単車でこけたときにもこんな感じだった気がする。 というか、確実に何本か折れてる。 「おお、目が覚めたのです! おっちゃんは運がよかったです。幸運なうちに危険を手放せたです」 結構心配そうな表情を浮かべてま次の顔を覗き込んでいたイーリスが、ほっとした様子で笑う。 「何が起きたか、覚えている?」 あっさりと意識を手放していたマツギには何が何だか、問いかける緋色に対し、力なく左右に首を振る。彼が気絶する前に見たものといえば真上から人が降ってくるとかいう謎の記憶程度である。 「どう足掻こうと、死んだ人間には夢を叶えられないのよ。 人の落とした幸運を拾い集め、下だけを見てきたのでしょう。 本当に夢を見るなら、それは上を向けない人間には見れないものだわ」 緋色は沙由理と顔を見合わせて頷き、呟く。 ほとんど何も見なかった彼に、神秘はまだ隠匿しておいたほうが良さそうだ。 「服を汚してしまったのは、ほんとうにごめんなさい。 頑張って下さいとはいえないけれど、真っ当なチャンスに巡り会えること、祈っています」 そう言うと、沙由理はこざっぱりしたサマージャケットをマツギの腕にかける。 刃紅郎は腕を組んだまま真剣な面持ちで眼を閉じていた。 漂う異様な緊迫感にマツギが逃げたくなり始めた頃、刃紅郎がようやく口を開いた。 「二度は言わん……よく聞け。「夢」は寝て見るもの、真に男が胸に抱くべきは「志」よ。 偶然などに与えられる事を待ちながら、美しいだけの夢に溺れていてはたとえ望みを叶えようと、すぐに儚く消え行くものだ。富であろうが名声であろうが、どれだけ俗物的なものでも構わぬ。それを絶対に己の力で得てやろうという気概を持て」 「え、いや、そんな気概とか」 気弱な反論を、くわと見開いた視線で封殺して王様は続ける。 「もう40? だからどうした! 少年、青年、中年、壮年、老人問わず、志が胸にある限り人は光り輝く! 己の力で掴み取り、離すまいと強くその拳を握り締めろ。 その時胸に去来する物が、貴様にとって最高のトレジャーとなろう! ……いつでも相談には乗ってやる。 我の言う事が理解できぬなら……貴様はずっと其処にいろ」 「え、えー?」 理解出来ないわけではないにしても、あっけに取られた顔をするしかないマツギ。 ――ちなみに、ギャンブル依存から彼が抜け出せるのは、なんだかんだで2年は先の話である。 「ところで王様」 カレーうどんをまたもやもぐもぐしながら、ルカルカが挙手した。 「ね、このエプロンもってかえっていい?」 <了> |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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