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英雄の残滓


 熱されたアスファルトに手を付いた時、砂利が食い込む感覚と、傷口に入り込む砂に『痛い』と感じたのは自分の意識を引きとめるのに十分に役立った。
 リベリスタと言う物が命懸けだと言う事を自分だって知っていた。
 勿論、死ぬのが怖くないだとか、正義だとか言う英雄思想を持っていなかった訳でもない。
「でも、それってさ」
 小さく、本当に小さく呟いた声が余りにも広い空に飲み込まれて行く。
 砂利に染み込む雫が何かを自分は知っていた。ただ、それが何であるかを分かりたくなかった。
「世界ってさ、本当に理不尽で、よくできてないって理解できるよ」
 膝をついて、震えながら立ち上がり、傍らに落ちていた弓を握り直す。

 ――死を覚悟してた? そう聞かれると、嘘になるけれど。

「でも、僕の終わりが『コレ』だなんて、思いたくないんだ。
 ……だから、ちょっとだけ、無理しようかな、なんて」
 弓を引く指先は、ただ、静かに震えていた。


 運命に愛される事がどれ程素晴らしいかを『恋色エストント』月鍵・世恋(nBNE000234)は知っていた。それはどのリベリスタでも同じ事だろう。その愛が失われる事もまた、知っていなければならない事実だった。
「とあるフィクサードを追っていたリベリスタグループ。勿論、アークが派遣した面々ね。
 交戦状況は苦戦。まだ戦い慣れて無かった3人組のうち一人が戦闘不能。もう一人はフェイトを喪ってノーフェイスになったわ。残る一人が交戦中。状況は……まあ、最悪ね」
 其処まで告げてから溜め息交じりに、増援として行って頂けるかしら、とリベリスタを見回す世恋。
「まだノーフェイスには自我がある。このまま放っておいたら、どうなるかは分からないの。
 そこで皆にお願いしたいのは――」
「フィクサードの討伐?」
「……と、そのノーフェイスの討伐。運命を喪ったリベリスタの最期を与えて欲しい、というわけ」
 酷いお願いをする事になるとは分かっているけれど、と瞳を伏せ、溜め息交じりに吐き出す世恋に何かを言う声はない。小さく震える掌に力を込めて、「お願いできるかしら」とリベリスタを見回した。
「相手にして貰うフィクサードは所謂『連続殺人鬼』。二人組よ。
 対して、リベリスタは交戦している彼――安村朱鷺と、ノーフェイスになった谷津田ナナ。それから、戦闘不能になった回復手のリューイの三人よ。
 彼等の援軍としてフィクサードを撃退し、それから、ナナへの対処をお願いする事になるわ」
 先にナナを倒してしまえば、と告げようとするリベリスタの声を制して、世恋は苦笑を浮かべる。
「現在のナナはフェーズ1。2分後にフェーズが進行して、自我が喪われるわ。それまでは彼には自我がある。自分の手でフィクサードを倒したいと言う意思がある」
 戦う意思があり、『正義の味方』として強い意志を胸にした一人のリベリスタ。
 その末路が悲しみだらけだとしても――
「……よければいいの。よければ、彼と一緒にフィクサードを倒してほしい。どうか、お願いね?」

 ――小さな英雄の残滓が未だ『正義』を胸に抱いているのだとしたら。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:椿しいな  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年08月10日(土)23:00
こんにちは、椿です。

●成功条件
・フィクサード『殺人鬼』の撃退
・ノーフェイス『谷津田ナナ』の討伐

●場所情報
時刻は夜。やけに気温が高い日です。人気のなくなった公園の一角。
足場は確りしており、電灯等も存在しているので光源の心配はありません。

●フィクサード『殺人鬼』×2
デュランダルとソードミラージュの二人組。其々が多種多様の攻撃を使用。他職スキルも取得済。
片方は集音装置、もう片方はハイバランサーを所有し、意志の疎通も小さなサインで行えます。
どちらか片方はアーティファクトを所有しエリューションを使役する事が可能。所有者は代償として右側の視野が狭くなっています。

●エリューション『残り滓』×6
白い靄の様なエリューション。殺人気が殺した対象を象ったものであり、殺意に敏感に反応します。耐久力はあまりありませんが素早く動く事が特徴です。

●リベリスタ『安村朱鷺』『リューイ』
少女・朱鷺はナイトクリークであり、間もなく戦闘不能になる事が見込まれます。
自身の片想いの相手・谷津田ナナの安否を心配し、無理にでも殺人鬼を倒し切り、ナナの最期を自分の手で与えたいと考えています。
戦闘は可能ですが、近接スキルのみしか所有していません。又、あまり耐久力も高くない為、一人で戦わせると自滅する可能性もあります。
少年・リューイはホーリーメイガスであり、戦闘不能の意識不明。

●ノーフェイス『谷津田ナナ』
少年。元はアークのリベリスタであり、能力はスターサジタリー。
フェイトを喪いノーフェイスになりました。2分間は自我が存在し、殺人鬼を倒す事を考えています。
年の頃は十代。何よりも任務に忠実であり、フィクサードを討伐したいと考えています。
フェーズ1:自我があり、己の意思で行動します。意思疎通は可能。
フェーズ2:2分後にフェーズが進行します。自我はなく本能が侭に行動します。

どうぞ、宜しくお願い致します。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ナイトクリーク
斬風 糾華(BNE000390)
覇界闘士
大御堂 彩花(BNE000609)
ホーリーメイガス
シエル・ハルモニア・若月(BNE000650)
クロスイージス
ウラジミール・ヴォロシロフ(BNE000680)
マグメイガス
シルフィア・イアリティッケ・カレード(BNE001082)
クリミナルスタア
遠野 結唯(BNE003604)
プロアデプト
鳩目・ラプラース・あばた(BNE004018)
ホーリーメイガス
レディ ヘル(BNE004562)


 曰く、誰かを救うのには代償が必要だと言う。
 その局面で『代償』が世界だとしても自分は成したいと願う日が来るのであろうか――
 その代償が何処にあるか、何であるのかを『告死の蝶』斬風 糾華(BNE000390)は知っていた。
「不条理な世界に何かを遺したい。その意志だけは理解できる……でも」
 その言葉にぎゅ、と両手を組み合わせた『紫苑』シエル・ハルモニア・若月(BNE000650)は俯いて目を伏せる。
「……私達が来たからには、もう犠牲はだしませんとも、そう決めております故」
 けれど、と誰かが呟いた。その声に、シエルが小さく息を吐く。

 ――けれど、こんな不条理、あんまりじゃない?


 じりじりと熱される『異常』に暑さを感じる夜。交戦の気配が耳を付き、アスファルトを蹴り現場へと急行する『T-34』ウラジミール・ヴォロシロフ(BNE000680)は戦況を確認して居る。
 こんな夜では人気が無いのも十分に頷ける。公園内を照らすライトを反射しながら、走り赴く彼が浮かべたのは何とも情けなく思える表情であった。実直であるロシヤーネが赴く任務は一人の少年の生死を分かつ物語である。
 一人黙し考察を行う『アヴァルナ』遠野 結唯(BNE003604)の脳内で回想されるのは『人でなし』の事だった。少年はウラジミールや結唯と同じリベリスタである。その彼が真っ当したいと願うのは『人でなし』を倒し切る事だった。
 結唯が沈黙し、考えるのは殺人鬼とは何たるかというかということだ。人と言えるのか。鬼だと称されるその風貌。自然災害と同じではないかとそう思う。人と言う枠から外れた存在であると自分の事を称する結唯の心中を読みとってか、黒き翼を広げたレディ ヘル(BNE004562)は己の胸に手を当てる。Masked Enforcer.で隠した表情。俯き気味に破界の戦斧を握りしめた風貌は何処かアニメーションの登場人物の様でもあった。
(あらゆる崩壊因子を排除し、やがて訪れるであろう混沌を退ける力を持つ者を護る――それが宿命)
 されとて、その宿命は何時までも科される訳ではない。ヘルが例える所の『定め』に選ばれし者が崩界を促す要素になりえる事もあるのだ。正義があれど、平穏を揺らがすソレに果たして満足が出来るか――
「判らないわね。私も、何時かそうなるのかしら?」
 ぼそりと呟いた糾華がアスファルトをとん、と蹴る。幻想纏い・Ⅲ「夜光蝶」が彼女の周りをひらりと舞った。
 其れを皮切りに雷牙を装備した『ライトニング・フェミニーヌ』大御堂 彩花(BNE000609)は前線へと踊り出す。殺人鬼と相対するリベリスタを護る様に立った彩花のスカートがふわりと揺れ、髪が舞い上がった。
「……貴女」
 よくアークでは耳にする『大御堂』の令嬢の姿を目にし、少女は小さく「大御堂のお嬢さん」と呟いた。
 告げる声に振り仰ぎ、蒼い瞳を細める彩花に続き、後衛位置から回復を施すシエルが傷寒論-写本-を指でなぞる。糾華が周囲に展開した『賭け事』は死神と呼ばれる彼女の命を掛けたルーレットだ。
「世恋様から聞いております。助太刀させて下さいませんか? 『同じ箱舟の仲間』で御座いましょう」
 静かに告げるシエルに座り込んでいた安村朱鷺は一つ瞬き、シエルや糾華の顔を見詰める。アークの中でも良く耳にする名前である歴戦の彼女等に安心感が浮かんだのであろう。
 前線に重い足を進めたウラジミールがサルダート・ラドーニで剣を振るうフィクサードを受け止めた。
「任務を開始する」
「任務、っと。多分、向かって右側の奴がアーティファクト持ってるんじゃないかな。右目側の視力をカヴァーして貰えるから」
 推測と共にカマをかける『クオンタムデーモン』鳩目・ラプラース・あばた(BNE004018)の目の前で殺人鬼と名乗る二人組が唇を釣り上げる。
 二人のうちの一人が振るった切っ先を受け止めて糾華が振り仰ぐ。意識を喪ったリューイを庇い彩花が座り込む朱鷺に「命お預かりします」と囁いた。
「最後の瞬間まで戦う事を選ぶ、口では簡単ですが実際には困難な事でしょう。その二分間だけはお守りしましょう。お仲間の命も勿論」
 ぐったりとした体を彼女の細腕が持ちあげられるか――実のところ機械化した体内により、見た目は華奢な美少女であっても、その体はメタルイヴと称されるだけはある。
 そっと朱鷺の隣に立った『虚実之車輪(おっぱいてんし)』シルフィア・イアリティッケ・カレード(BNE001082)が彼女に視線をおくった後、彼女を守る様に立っている少年、谷津田ナナに向けられる。
「……慣れないものね」
 仕事は仕事であろうけれど、こうして、己の意志を持って動く『人間』を『人外』として殺すだなんて、なれる事のない所業だった。
「けど、私と面識ない人だものね……フィクサードを相手にしてるのと、同じ、か」
 小さな溜め息。『谷津田ナナ』という存在を否定する様な言葉を吐き出してシルフィアは小さく頭を振った。
 今は戦うのみ。これは、仕事で。これは、任務なのだから。


「ナナ様、リューイ様は彩花様が安全域へお連れ致します故、朱鷺様の体力回復までは、彼女を庇って下さいまし」
 両手を組み合わせるシエルに小さく頷いたナナは銃を構えたまま、俯く朱鷺を見詰めた。ギリギリまで戦い続けた彼の友人の余力も僅かだからだろう。
「判った。けど、あいつ等は……」
「あの者は此方に任せて頂こう」
 余りに距離の無い場所で、回復手としての能力を発揮させようとしたシエルに向かい、一歩踏み出すフィクサード。
「ナナ様、優れた射手は部位狙いでも命中が下がらないそうでございますね。殺人鬼二人其々の右側へ攻撃を放ち、反応の鈍い方を割り出せませんか?」
「朱鷺の回復が終わったら、試してみる……!」
 その声に良い返事だと頷きながらウラジミールはКАРАТЕЛЬを振るう。両手剣を握りしめる彼は速さに特化したようには見えない――故に、ウラジミールが抑えに付こうと考えていたデュランダルである事が容易に認可できる。
 速度を生かし飛び込んでくるソードミラージュに、視線を合わせ、グリモアールを指先でなぞったシルフィアは色違いの瞳を細めてぎ、と睨みつける。
 最後列でへたり込む朱鷺と其れを守るナナの前に立っていたシルフィアの雷撃が空から降り注ぐが、その攻撃では残り滓の動きを止めるには叶わない。
「滓はとっとと消え去るがいい。現し世は貴様達の存在するべき場所ではない!」
 すり抜け、刃がシルフィアの柔肌を掠める。咄嗟に避ける様に体をくねらせるシルフィア。二人の革醒者を仲間に加えた物の、前線で戦えぬ以上、後衛ばかりの布陣になってしまう――リューイを抱えて避難を行っている彩花がこの場に居ない事も痛手であったのだろうが、何よりも前線が足りていない事が問題だった。
 地面を蹴り、ソードミラージュの目の前へと接敵する糾華は彼の往く手を阻む。戦場全体にバラまかれた蝶々。羽を広げ飛び交う蝶が狂った様に射し続ける。しかし、その視線は前線で剣を構えウラジミールと接敵するデュランダルへと向けられていた。
「貴方――持ってるの?」
 その言葉にデュランダルの目が細められた。ウラジミールがその往く手を阻んだ彼を見詰めながら、糾華が手をひらひらと仲間達へと向けた。
 シエルからの回復を終えある程度は自由に動けるようになったナナが微力ながら、とシエルの指示に従って弾丸を繰り出した。その弾丸はフィクサードの右手を撃ち抜くが、まだ『アーティファクト』の効果で右目の視界が狭くなっている事の証拠には繋がらない。
 続く様に反応したのはあばただ。照準は合わされる。真っ直ぐにデュランダルの『左目』を狙った弾丸が撃ち込まれる。痛みに蹲り、戦慄き声をあげるデュランダルが血まみれの右目で睨みつけるが、右側に立つ糾華を探し求めるのに時間がかかる。
「貴方、『視』えないのね?」
 端的に零された言葉。未だにアーティファクトを懐に入れたフィクサードは『所持者』が割り出された事に苛立ちを覚えていたのだろうか。血まみれの左目を抑えながら、睨みつける様に糾華を見詰め切っ先を向ける。攻撃せんと彼女に近寄ろうとする足を遮る様にウラジミールが剣を振るった。
 周辺に沸き上がる残り滓を撃ち抜きながらも、以前、その力が足りぬ中、シエルを狙おうとする攻撃をウラジミールが遮る。
 戦場の要として配置したシエルを庇う事を第一とした時、デュランダルの往く手まで遮ると言うのは不可能に近い。後衛に居るシエルを庇うために外れたブロック。
 後衛で、じ、と立ち、考察を行う結唯を狙って振るわれた攻撃に、彼女は抵抗する事も無い。攻撃を行う意思のない結唯が攻撃を受け続けると一たまりも無い。
 だが、彼女の考察は続く。生きているうえで痛みを感じる事は無数にある。神秘と戦う覚悟を決めたなら尚のこと全てを受け入れなければならない。
 黒い瞳は感情を灯さず、ただ無表情に、『必要最低限』の動きを見せる。避ける様に、身体を捻るが、攻撃の手段を整えていない結唯に狙いを定めた攻撃にヘルが彼女へと癒しを齎す。
 しかし、回復が間に合わぬソレが運命を支払うことなく意識を喪う彼女を救う事が叶わない。
「ほんっと、面倒ねッ」
 唇を噛み、仕込み杖を握りしめる。豊かな胸元で揺れる幻想纏いの宝石が光を反射して優しく輝く。
 彼女が放つ雷撃をすり抜ける様に残り滓が放つ攻撃が後衛としての彼女の体を傷つける。前線で戦う事を得意としない彼女の一寸した抵抗にフィクサードがけらけらと笑いだす。
 その横面を殴り飛ばす様にあばたの弾丸が降り注いだ。シュレーディンガーと名付けられたピストルが放つのは神速の早撃ちだ。往く手を遮られるデュランダルの左側を狙った攻撃に、彼の体が揺らぐ。
 糾華が蝶々を撒き散らせながら小さく舌打ちを漏らした。回復を行うシエルとヘル。その両者が回復を行っていたとしても前衛の少ないリベリスタ陣に置いて、避ける能力が特化した者は少なかった。
 しかし、装甲を固め、出来うる限りを整えたシエルに、前線で戦う事も辞さない糾華。何よりも護るために戦い続けるウラジミールといった面々に加え、命中力の高いあばたが戦場を支えていたのだろう。
「なんと、まあ。人を殺める事しかできない貴方達の様な存在を私は赦さないわ」
 時間が無いと飛ばす蝶々が残り滓と撃ち飛ばし、その攻撃を遮っていく。糾華の蝶々に翻弄される中、あばたが撃ち込む弾丸が滓を吹き飛ばす。
 靄の様に消えていく『残り滓』を見据えながら、破界の戦斧を握りしめたヘルがその意志を言語では無く思考を通して伝えてくる。
『――戦士に迷いは要らない。成すべき事を成せ、英雄よ』
 その言葉に励まされる様に朱鷺を庇うナナの手に力が籠る。癒しを続けるシエルが視線を送れば、それに応える様にヘルも癒しを与え続けた。
 全体回復を行うシエルに単体回復を行うヘル。体力の底を知り、地に伏せる結唯を背後に糾華が地面を蹴りあげる。
 ぴくり、とソードミラージュが体を揺らす。遠くから駆けてくる音が響いたからだ。
「お待たせしました。戦闘圏外まで離脱させ、彼を避難させておきましたよ」
 そう告げて、雷撃の武技を放つ彩花の目に灯された戦意。流れる様な攻撃の中、ほっと一息ついた糾華がもう一度、とダガーを握りしめた。


 目を喪い、攻撃を避ける事が出来なくなっていたデュランダルの胸元から飛び出す宝石。ソレに目を付けたあばたが声をあげる。
 瞬時に反応したウラジミールが其れを打ち砕かんを刃を振り翳した。瞬時に反応し、デュランダルが最後の最期だと振るう切っ先を受け止める。
「成程、その程度の痛みは経験済みなのでな」
「それに、私が癒す事が出来ますから」
 両手を組み合わす。シエルは最大火力での癒しを捨て去り、装甲を固めてきた。癒し尽くす。それが彼女にとっての矜持――ちっぽけだと自称してもそれが何時しか花開く時がある――であっても、彼女は自身が一度で倒れぬ様にとしっかりとその足で地面を踏みしめていたのだ。
「捨て駒になる覚悟もてお相手致します」
 目を細めて笑う彼女を狙いを定め様と狙うソードミラージュへと糾華が真っ直ぐに接近する。赤い瞳と交わって、蝶々の弾丸が至近距離で打ち抜いた。
 ふらつく足をとどめようと、霞が如き『滓』が覆う様に現れる。あばたの銃は素早く動きまわる靄を捉えて離さない。その弾丸を辛うじて避けた滓を真っ直ぐに殴りつけた彩花は回復無き今でも、戦い続けたソードミラージュへと一気に詰め寄った。
「我々の仕事は貴方を倒す事です。理由など、愚問でしょう? 我々が『リベリスタ』で貴方が『フィクサード』だった、ただ、其れだけの話です」
 ただ、真っ直ぐに告げる言葉に、フィクサードが切れた唇から流れる血を拭いじ、と見据える。
 流れる様な攻撃を続ける彩花は『リベリスタ』である以上に自分の誓いを違えない。
 意識を喪ったリューイを安全区域まで運ぶ。戦意はあるもののその能力も高くない朱鷺を護ることだって彼女の口にした『お守りする』に当てはまっていたのだ。口約束であれど、最後まで忠実なリベリスタである彼の為に自分が出来る事を懸命に考えた、ただ、其れだけだ。
 彩花に続き、一生懸命に銃を構えていたナナの弾丸が牽制の様に撃ち込まれる。『英雄』になりたがった子供を支える様に、ウラジミールは彼の背を押した。
「それで……?」
「言ったでしょ? 時間が無いの」
 糾華が続ける様にフィクサードへとダガーの先を向ける。踊り狂う蝶々の中、糾華が一歩避けるとあばたの弾丸がフィクサードの胸を貫いた。
「弔いが欲しいなら言ってて下さいね。破格でやってあげますから」
 その言葉にソードミラージュが吼える様に刃を振るう。彩花の体へと突き刺さる刃に、彼女は何時も通りの優しい笑みを浮かべて「それだけですか?」と首を傾げて見詰めている。
「残念ですね。さて、さようならのお時間です」
 その体を持ち上げ、地面へと叩きつける。威風を駆使した彩花へとソードミラージュの視線が注がれる。
 大御堂彩花はその家柄に、その育ちにあった落ち着き払った『令嬢』の風貌に似合わぬ渾身の力を注ぎフィクサードを投げ捨てた。
「……あ」
 小さく、何処からか声が漏れる。その声の主であるシエルの瞳が大きく見開かれたのだ。
 ふらり、と立ちあがったのはナナだった。目を見張る朱鷺が「ナナ」と小さく呼び掛けるがその声は届かない。
 傷つき、倒れたシルフィアと結唯を見下ろす彩花は唇を噛み彼を見詰めた。庇われ続けていたシエルは兎も角しても、攻撃を喰らう事になったヘルも己の回復を施しながら浅い息を吐いている。
(いつもなら、崩壊因子など捨て置く存在。だが、今回はそれができない。
 判らない、その理由が分からない。何故だ――?今まで使命に疑問など持った事が無いと言うのに)
 ヘルが見詰めるナナの姿は先ほどまでと変わりが無い。ただの『崩壊因子』でしかない筈なのに、彼女の戦闘の手を鈍らせるのだ。
 己が正義の信念を持っているからか。その身に宿る使命を全うすべきであると判っていても――
(……正義に殉じる、似てるということか)
 戸惑いを浮かべるヘルの前に立ち、頬についた傷を拭い糾華は残念ね、と小さく囁いた。
「夏休み明けから、貴方の席が空席になってしまう事が堪らなくかなしいわ……」
 そう告げながら、前線での攻防を終えた糾華が静かに告げる。
 タイムリミットが近いから、言葉を交させてあげたいと思った。けれどそれも叶わぬ夢か――
 頭の中で浮かべた水色の少女。自分がもしも彼女を守るためにこの身を神秘に委ねる事になったら、その時はどの様に生きながらえるのか。
 運命が尽きても叶えたい事が彼にはあった。それを、判っていたけれど。拳に力が籠り、爪が掌に食い込んだ。
 二人のフィクサードと六体のエリューション。全体攻撃だけで全てを打ち払うには多少なりと苦戦を強いる事になったのだろう。
 前衛陣が足りない中で、庇うと言う手番の消費が後衛に痛手を与えた事も否めない。
 悔やんでも、タイムリミットが其処にはあった。
 ナナの目が殺意を込めて見詰めている。それに攻撃を行おうと、前線へ飛び込んだ彩花。撃ち放たれる弾丸を避ける様に体を捻り、彩花は再度、踏み込んだ。
「最後まで忠実にリベリスタらしくあろうとした。ならば我々がリベリスタらしくノーフェイスである彼を葬って差し上げます」
 反応する様にナナが動く。その行動を阻害せんと前線で戦うウラジミールが刃を構えるが、少年はくつくつと笑い続ける。
「約束通り、終わらせる。元から英雄などいなかった。ただ、精一杯生きた少年がいたというだけだ」
 言葉に、首を傾げる。最早届かぬ言葉に、シエルの回復を得て、ある程度は戦える領域に――それでも傷の多い朱鷺が立ちあがる。待って、と掛ける言葉にも反応しない。
 背を向けて走り出す少年を止める手立てをリベリスタは有して居なかった。
「ナナさん! 止まって!」
 飛び込もうとした糾華が目を見開きその背を追い続ける。
「……弔いが必要だったでしょう?」
 最後、手を上げたあばたが追いかける様に撃ちだした銃弾が少年の背中に食い込むがけらけらと笑った彼は其の侭、やけに生温く感じる夜空の下に姿を消した。

■シナリオ結果■
失敗
■あとがき■
お疲れ様でした。
戦闘に関して少しばらつきが見られる部分などもありました。
『庇う』は手番消費です。庇いながら攻撃などはできません事をご確認くださいませ。
心情面はとても素晴らしいものばかりでした。しかし、想うだけでは成せぬ事もあると言うのもまた一つ。気になりましたので、少しだけ。

ご参加有難うございました。また、別のお話しでお会いできる事をお祈りして。