● きぃ―― 静かに音を立てたブランコを仰ぎ見ても、其処には何も居なかった。 伸びる影は自分一人だけのもの。其処に誰も居やしない。 驚くほどに色付く陽光が、一日の長さを錯覚させる。冬であればもうどっぷりと沈んでしまっている筈の太陽が少しだけ顔を出して笑っているのだから。 耳を劈く様な蝉の声に、風も吹かぬ人気のなくなった公園で一人立ちつくして居た少年は気の所為だと、その場を後にしようとして。 きぃ―― 小さく、もう一度音が聞こえた。 ● 瞬きを幾つか繰り返し、『恋色エストント』月鍵・世恋(nBNE000234)は妙に青ざめた顔で机を叩く。 「お、お化け、って信じる?」 無論、『事件』な訳だが、世恋に言わせれば『悪い夢』でしかない予知にギロチンさんやお姉様は居ないのかしらとおろおろとブリーフィングルームを行ったり来たりしている。 「ンンッ、いいえ、お化けではなくて、アザーバイドなんですけれども。 幽霊退治……ではなく、アザーバイド退治を皆にお願いしたいの」 よろしいかしら、と首を傾げる世恋は何処か憂いを浮かべる表情で微笑みリベリスタを見回した。 夏の夜は背筋が凍るような怪談が好ましいと言う。だが、怪談が苦手な世恋や――怖がりなリベリスタからすれば余計な御世話だと言いたくなる様な風習ではなかろうか。 「ちょとドッキリしちゃったんだけど、誰も居ない夕暮れの公園で一人で座っている子がいるわ。 よくある怪談話よね? 一人でブランコを漕いでる女の子がいて、話しかけたら『一緒に遊んでくれる?』って微笑んでくる。そのあと――………みたいなの。 つまりはそう言うことなのだけど、一人で居る人間に声を掛けて、自分に取り込もうとするらしいわ」 正に怪談だわと告げる世恋にリベリスタも苦笑を浮かべるしかない。 アザーバイドの姿は少女。一人で居る事が寂しくて、自分の『中』に人々を取り込んでしまうらしい。 ある意味では捕食と言う意味でも捉えられるのであろう。42時間は彼女の中で仮死状態を保てるという。 「今、彼女の中には高校生の男の子と小学生の女の子が捕らわれてるわ。彼等は其々タイムリミットが近い。 詰まる所、『彼女』に捕らわれて42時間が経ってしまうというわけ。其の侭食べられるのをじっとみてはいけないわ。ので、助けてほしいの」 助ける方法はいろいろあるけれど、とリベリスタを見回した世恋は資料をリベリスタに差し出し優しく笑う。 「助け方は色々。簡単にいえ少女を撃破することよ。ああ、バグホールの場所は判ってるから、戦闘不能状態にして、一般人を助け出し、彼女を還しても良い訳で」 その他選択肢は様々よ、と微笑んで、世恋はいってらっしゃい、と手を振った。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:椿しいな | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年08月10日(土)23:01 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● きぃ―― 静かに聞こえる音に耳を澄ませながら茂みに隠れ、持ち前の超直観を駆使して見守っていた『陰陽狂』宵咲 瑠琵(BNE000129)は現れると言われている『まぼろし』の事を想い、手にしていた天元・七星公主を握りしめる。 「一人ぼっちを寂しいと感じる点はわらわ達と同じなのじゃな。遊び方自体も割と無害じゃが……」 「遊ぶと言うのは構わないのだが、消化(た)べてしまうと言うのは頂けないのだ」 こくん、と頷いた『百の獣』朱鷺島・雷音(BNE000003)。友達が少ない事を気にする傾向にある彼女だが、確りと所持する異界共感やタワー・オブ・バベルは新たな友達への期待を抱いているのであろうか。 これは児戯だ。小さな子供が起こした事件だ。それによって誰かが『夏の幻』に消え去ってしまう可能性がある。 それを許せるかと掌にぎゅ、と力を入れて、雷音はハイ・グリモアールを抱きしめる。 彼女ら二人がしゃがみ込むとは別方向。浮かんだ欠伸を噛み砕き、カマを握りしめたまましゃがみ込んで頬杖を付く緋塚・陽子(BNE003359)には『まぼろし』と遊ぶという選択肢は無かった。 そもそもアザーバイドは他のチャンネルから訪れた隣人だ。愛すべき隣人と呼ばれる事もある彼らだが、状況によっては唯の害悪でしかないことだってある。思考嗜好エトセトラ、その他諸々の物が一般的な人間とは違うのだと『Brave Hero』祭雅・疾風(BNE001656)は良く知っていた。 「価値観の違いが悲劇を生みだすのは遣る瀬ないことだよ」 結界を広げ、背の高い木々の中、必死に攀じ上った疾風がARK・ENVGⅢでじっと目を凝らす向こう側。何処か落ち着かない様にスカートの裾を弄る『愛を求める少女』アンジェリカ・ミスティオラ(BNE000759)はそんな『隣人』と理解しあえないものかと策を講じていた。 寂しがりの少女、自分の傍に大切だった人が居なくなった時寂しさの埋め方が分からなかった自分と、寂しがって『凶行』を行う彼女は似ていると――そう感じたから。 「言いたい事は、手短にですねえ」 緊張した様に呟いて『水睡羊』鮎川 小町(BNE004558)がElfenschuheを履いた足先をすり合わせる。お友達と遊びたい、その気持ちが強かったのは無垢な小町ならではなのだろう。 彼女の隣、深く帽子を被り動向を見守る『LowGear』フラウ・リード(BNE003909)が木の上に居る疾風を見上げる。 「怪談っすか?」 「ああ、怪談の様な話しじゃないか。でも、一般人を見棄てる訳にもいかないからね」 両手を打ち合わせた疾風に小さく悩む様にフラウが唇に指先を当てる。会談は会談でも話しが通じるならばまだ『マシ』の部類に入るのではなかろうか。 世の中には話の通じない『連中』が多くて仕方が無いのだが、果たして彼女はどちらであろうか―― きぃ―― ● 夏の夕暮れ。子供達の帰っていく声を聞きながら『クール&マイペース』月姫・彩香(BNE003815)は揺れるブランコを見詰めている。 そこには、誰も居ない。 蝉の鳴き声に、鳥の鳴き声、虫の羽音。緊張を浮かべながら、彼女はくるり、とブランコから背を向けた。 きぃ―― 「……君、か」 じゃり、と靴底が砂に触れる。ブランコをじっと見つめていた彩香の背筋がぞわり、と震えた。自分一人であった筈の場所に静かに音が聞こえたからだろう。 「……やあ、君と話をしにきたよ」 ゆっくりと振り仰ぎ、彩香は困った様に眉を下げる。 一言、彩香は彼女にそう語りかける。歳は10歳程度、黒い髪に白いワンピースと言った風貌の少女は首を傾げて見詰めている。 「いろいろ聞きたいこと、聞いて欲しい事はあるのだけど……まず急ぎたい事があって、それを先に聞いて欲しい」 タワー・オブ・バベルを介して掛けられた言葉に『まぼろし』は小さく頷く。髪を揺らし、首を傾げる少女に彩香は緊張した様に言葉を紡いだ。 「……このチャンネルの生き物は壊れやすい存在が多くてね、休憩も無しにずっと『一緒に遊ぶ』と壊れてしまう」 『……?』 彼女には彩香の云う『壊れる』という概念が理解できないのであろう。困った様に銀掛かる灰色の髪を指先で弄びながら彩香は「だから」と彼女に続けた。 長い髪が緩く風に遊ばれる。少女は首を傾げて『初めてボトムで喋った人間』の言葉を理解しようと眉を顰めて彩香の整ったかんばせを見詰めていた。 「今、先に君と『一緒に遊んでいる』二人も外に出して休ませてあげて欲しい。 壊れて消えてしまったら、それは寂しい事だから……私はそれが嫌なんだ」 判って貰えるだろうか、と告げる彩香に「先に?」とぱぁ、と目を輝かす少女。自分と遊んでくれると言う事を言いに来たのだろうかともじもじと体を揺らす彼女に彩香は背に隠したままのオートマチックを緩くいじる。 「二人を外に出したら、その後は私が相手になろう。情けない面白忍者や、ダメ人間が集まる巣窟、不幸に愛された少女、からあげを研究販売している教会など、『おもしろい』話しには自信があるよ」 どうだろうか、と異界共感を通した彩香の言葉に興味を示した『まぼろし』ではあるが、未だに彩香の本質的に伝えたい『二人を出してやって欲しい』という部分は伝わらない。彼女にとって遊び方はソレしかした無いのだろう。教える事は出来ても、先ずその二人を出さなくちゃいけない理由と言うのが『壊れる』と称されても少女にはその概念すら理解できないのだ。 超直観を使用して茂みから覗いている瑠琵は「無知は罪なり、知は空虚なり」と小さく囁いた。 「異文化コミュニケーションじゃの。……さて、遊んでやるとしようかぇ?」 その呟きに反応してか、茂みの中からがさり、と顔を出した雷音がゆっくりと歩みよる。彩香の言葉で『身代わり』に自身が遊ぶと言う事を理解できなかったのだろう。『まぼろし』は新たな存在にびくりと肩を揺らす。 「そ、そんなに怯えないでくれ。こんばんは、異界の迷子さん。僕はライオン。君の名前を教えてほしい」 告げられた言葉に『なまえ』と『まぼろし』が小さく囁いた。彼女には名前が無いのかと気付きフラウは隣に存在する小町と顔を見合わせる。 「ま、まほろちゃん……?」 敢えて『名前』らしく呼ぶ声が聞こえる物の、少女は増える人に怯えて首を嫌々と振る。瑠琵の思惑通り臆病な性質であったアザーバイドは更に閉じこもる様に蹲った。 「あ、あの……君は遊んでいて、取り込んだ人が笑ったり、嬉しそうにしたりした事を感じた事がある?」 『……?』 「誰かと繋がるっていう事は、その人と共に笑ったり、悲しんだり、怒ったり。そう言う事が出来る事だと思う」 アンジェリカが首から下げた十字を握りしめる。幻想纏いとして使う其れの中心で赤い宝石が静かに煌めいた。 丸い瞳を向ける『まぼろし』へと言葉を翻訳しながら、彩香は「一緒に遊ぼう」と告げる。もう一度強く、その言葉を発した彩香へと『まぼろし』が静かに口を開いた。 『……どう、やって?』 「君は二人を出してくれ。そして私と遊ぼう。良いだろう?」 そう告げれば、嬉しそうに笑う『まぼろし』が手を伸ばす。 瞬時に振り仰ぎ彩香は瑠琵と雷音の顔を見る。ぐるりと仲間を見回して、彩香の唇が静かに動く。 ――後は、任せた。 別に怖くないと言う訳では無かった。興味が無い訳でもない。 だが、知的探究心の強い彩香だからといって知的探究心だけで、アザーバイドに飲み込まれようなどと出来る筈が無い。 仲間達を信頼しているからだ、と告げる彼女は目を閉じる。『まぼろし』が嬉しそうに手を伸ばし口を開く。 彩香の体を飲み込みながら、今まで胎内に居た二人の一般人の体がずるり、と少女から吐き出される。グロテスクな光景とも言い難い奇妙なソレに雷音が視線を逸らした。 吐き出された一般人の体を抱きとめた陽子が視線を送れば雷音がその二人の体を公園の外――あまり目立たない茂みへと横たえた。 意識もあまりない彼等を開放する様に、日陰に横たえたその隙に、瑠琵は『まぼろし』に「のぅ」と声を掛ける。 「うむ、先ずはこうして互いの話を聞く。んで、皆で楽しめる遊びをするのじゃ」 一緒に身代わりになるには瑠琵からのアプローチも少なかったのだろう。遊ぼう、と伸ばした手。少女は戸惑った様に攻撃態勢へと入った。 ● 胎内以外で遊ぶ方法を知らぬ『まぼろし』が怯えた様に降らす炎を掻い潜り陽子が大鎌を振るった。 「おい、お前さ、寂しいから人をとっ捕まえるとか子供かってんだ。 ……あ、外見はモロ子供か。でも、そんな子供騙し、こんな所じゃ誰も望んじゃいねーんだよ! 何にせよ、オレは手加減しねーぜ? 戦うってならヤってやろーじゃねえか!」 辺りを舞う恐るべきカードの嵐が『まぼろし』の運命を占い続ける。手に取ったのは紛れもなく『死』を予告するカードだ。其れを放ちながら、少女が首を振れば『影幻』が顔を出す。 「此方側の遊び方を楽しいと思ってくれるなら遊びに付き合ってもいいんだけどな」 手にしたアークフォンⅢ。変身を経て戦闘態勢を整えた疾風の体が滑り込む。VDアームブレードを使用して真っ直ぐに殴りつける様に影幻を叩きつける雷撃の武技。 殴りつける様にその影を振るう影幻。避ける様に体を捻る陽子が打撲痕を拭い唇を釣り上げる。赤い翼を揺らし、真っ直ぐに飛びあがる。一歩、二歩と踏み込んだステップは切り裂く様に与えられていく。 「オレは純粋にシバき倒しに来ただけなんだ。さっさと倒れちまいな!」 戦闘が開始され、怯えの表情を浮かべる『まぼろし』へと真っ直ぐに接触しに行ったのは瑠琵だった。 「まぼろし、こっちを見るのじゃ。わらわと友達にならんかぇ?」 どこか楽しげな笑みを浮かべた彼女は大凡幼い子供が浮かべる事が無いであろう笑みを浮かべて「まぼろし」と声を掛ける。ただ、彼女に興味があった。『友達』が欲しいのなら己がなってやればいい、ただそれで解決する話しなのだから。 瑠琵が天元・七星公主を構えたまま、妖光を纏わりつかせ、狙い続ける。トドメは誰にだって刺させない。いざとなったら己の身を呈してでも庇うという意志が瑠琵にはあった。 「のぅ、わかるかぇ? かくれんぼやおにごっこ。何でも良いから試しにやってみるかぇ?」 『……それ、なに!』 怖い怖いと首を振る臆病者。きっと自分本位な性格が災いして友達を作れずに流れ込んだのだろうと瑠琵は考察して居た。自分の知る以外の方法で『遊ぶ』などと考えられないと涙を浮かべる『まぼろし』に瑠琵は語りかけながら、彼女をの往く手を阻み続ける。 「友達の作り方を教えるとしよう。友人として、のぅ?」 「……仲良くできないのは残念なのだ。でも、今からだって、まだ、仲良くできるとそう思うんだ」 『で、も……』 今から、こうして戦闘行為を行った自分でも友達になってくれるのかと丸い瞳を向ける少女に唇をかみしめた雷音が手を伸ばす。 少女の怯える表情にアンジェリカが戸惑った様にLa regina infernaleの切っ先を向ける。 赤く輝く月が周囲の影幻を照らし、不幸を呼び続ける。続く様に殴りつけた疾風が一歩引いた所へと入れ替わり陽子が大鎌を振るった。 「ソッチに悪気が無いってのは判ってる。 それでも自分の遊びに付き合わせるだけ付き合わせて顔も合わせず、ハイサヨナラってのはあんまりじゃないっすか?」 告げながら、光りの飛沫をあげる切っ先で『まぼろし』の肩を掠める。少女が怯えたようにその手を振るえば、少女の柔肌だとは思えない質量がぶつけられる。 「いたいことしてごめんなさいです……っ! 一緒に遊んだお友達をないないしたらもう居なくて、遊べなくて、また一人ぼっちで……! そんなの寂しいってこまちおもう!」 ガントレットに包まれた拳が真っ直ぐに叩きつけられる。実年齢よりも幼い口調で一生懸命に云うこまちの紫の瞳が潤み出し、『まほらちゃん』と彼女が決めた『まぼろし』の名前を呼ぶ。 「お友達は一生ものだから、だいじにしなさいって、こまちのおかーさんも言ってたです。 そのこ達をないないしないで欲しいのです。こまちもあなたと、そんなお友達になりたいのですようっ」 懇願する様に告げる小町に瑠琵が再び笑みを見せる。雷音だってそうだ。攻撃の手を緩める『まぼろし』に二人は再度手を伸ばした。 臆病ものは、何時まで経っても臆病で。自身が無くて、分かり合えなくて、怖がりのままなのだ。 「ほら、こうやって手を繋ごう? お腹の中に居るとこうやって手を繋ぐ事も出来ない」 ぎゅ、と握りられた掌に少女は俯いて、『うん』と小さく囁く。きっとこういう子なのだ。そう感じとった雷音がその掌をぎゅ、と握りしめる。 「もっとたのしいことをしよう。それはお腹の中じゃできないことなんだ。 いっぱい遊ぼう。鬼ごっこだってかくれんぼだって、一人ではできないのだ」 「ま、まほらちゃん! 一緒にあそびませんか? こまち遊ぶのにはちょっと自信あるです」 雷音の言葉に続き、小町がおずおずと呟いた。少女が腕を降ろす。彼女からの直接的な攻撃は無い。 ただ、生み出されていた影幻がふわり、と周囲へと浮き上がっていた。周辺に存在する影幻を切り裂く腕を止めずに只管に陽子は攻撃を続けていく。 最後、その攻撃を伝えようと伸ばしてきた攻撃を受け流し、疾風は小さく息を吐いた。 ● 戦闘がひと段落し、髪を掻き上げて息を吐いた陽子。その装甲を解いた疾風の向こう側。ブランコの前でずっと俯いて立っている少女に「アンタ」とフラウが声を掛ける。 「遊ぶ前に、一つ言っておくっすけど。アンタもアンタで一人ぼっちっていやっすよね?」 返して貰わなきゃならないっすよね、と囁いてフラウがふと首を傾げる。 名前が、ない。雷音が聞いた時にソレに対して首を傾げた少女。彼女には名前が無いのだろう。 その名前が無い事を考えて、小町は『まほらちゃん』と名前の様に呼んでいた。だが、彼女の本当の名前が無い事に気付いたフラウは、ん、と首を捻った後に手を打ち合わせる。 「何時までもアンタじゃ流石に呼び難いっすから。もし名前がないなら……んー……夏映とかどうっすかね? 夏に移るまぼろし、かえ。かえっすよ。夏映。まぁ、安直っすけど」 どうっすか、と告げるフラウにこくこくと頷いた少女。ほっとしたようにまほらちゃん、改めかえちゃんと小町が楽しそうに呼んだ。 「そういえば、まぼろしさんてアークのひとがつけたお名前でした。かえちゃんでいいですか?」 『……!』 こく、と頷いて小町は夏映の手を握る。一緒に遊びましょうと沢山の事をしましょうと色々な遊びを提案しながら小町が幸せそうな隣、はっとした様に雷音が顔をあげた。 「彩香を帰して貰えないだろうか? 彼女も一緒に遊んだ方が絶対に楽しいぞ」 そう告げる雷音に『まぼろし』――夏映は頷いてまたも体の中から人間を吐き出した。夏映の中から彩香がずるり、と顔を出す。矢張り、グロテスクとまでは云わないが、酷い状況だなと瑠琵が頬を掻いた。 「さて、何をして遊ぶかの? 鬼ごっこかぇ? かくれんぼかぇ?」 何でも楽しい事をしようと告げる瑠琵に夏映は楽しげにこくこくと頷いた。その様子を見てほっと一息を付いたアンジェリカは安心した様に胸を撫で下ろす。 まぼろしのする事を否定して、嫌われたらどうしようとそう思った。けれど、嫌われたとしても本当にまぼろしの事を想うなら、それを正してあげなければならない。そう思っていた。 「あの、まぼろ……夏映、ボクとも友達になってくれる?」 よければ、とおずおずと差し出す手に、本当に臆病なのはどちらだろうとアンジェリカは小さく苦笑を漏らす。頷き、手を取る夏映が『お友達』と小さく囁いた。 「うむ、お友達だ。だから、沢山何かして遊ぼう。時間は……あまりないのだが、時間が出来たらまた沢山遊べばいいだろう?」 小さく笑った雷音に頷きながら夏映はぎゅ、と彼女の手を握る。運命を得ていない以上、還らせなければならない彼女。 せめてもの時間を確認しながら、救いだした彩香を横たえて、一寸した事で遊ぼうと振り仰げば小町が楽しげに両手を振り回した。 淡々と過ぎていく時間の中、還り時間だと告げ、『帰り道』の前で、フラウは少女に視線を合わせる。 細く、幼く見える少女は日本人形の様な外見で首を傾げて小さく笑う。そうして居れば本当に唯の『人間』であるというのに、別のチャンネルから来た『異邦人』は言葉が通じず、表情で色々と表すのみだ。 「サヨナラ……っすね。ああ、夏映。一つだけいいっすか? 遊んでもらったらこういうッすよ?」 そう告げて、手を振って元の世界へと戻っていく『まぼろし』に雷音は「また」と小さく告げる。 ばいばいと一生懸命に手を振る小町が「かえちゃん!」と呼べば楽しげに振り向いた少女の姿は穴の中へと消えていく。傷を負った小さな子が元の世界に返っても友達が出来ます様に、と祈りアンジェリカは俯く。 音を立てて破壊された出入り口を見詰めて、疾風は振り返る。救出した一般人の手当てをしなくてはと雷音と共に公園の外へ行く中、フラウは振り向いて、夏映に言った言葉をもう一度告げた。 ――ありがとう、またあそぼう? ……て。一回だけだなんて寂しいじゃないっすか。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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