● 「くそ! 放せ! 放せ!」 抑え込まれた状態で男は必死に手足をばたつかせてもがく。しかし、彼を押さえつける「人ではないもの」達の力は遥かに強い。しかも、本気で傷つけるような動きも取れない。彼らはほんの数日前まで、同じように笑い合っていた隣人だったのだから。 『フフ……ハハハ、良い目付きだ。気に入ったぞ、野蛮人よ』 男の目の前でその「化け物」が笑う。 この「化け物」のせいで、自分達の村は無茶苦茶にされてしまった。全身つるつるで灰色の肌に身を包み、巨大なぎょろりとした瞳を持つ、漫画の「宇宙人」のような「化け物」。こいつのせいで村人はみんなおかしくされてしまった。外に伝えようとしても電話などは繋がらず、逃げ出そうとした自分は……こうして捕まってしまった。 『その勇気に免じて、貴様にも「啓蒙」を行おう』 「や、やめろ! 俺も他のみんなみたいにする気か……!?」 心が恐怖で充たされる。 あの目が光ったら、まずいんだ。みんな、それでおかしくされてしまった。 『貴様ならば良き臣民となるだろう』 「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」 化け物の目が光る。 その光が頭の中を塗り替えて行く。 すると、世界の真理が理解出来た。 おお、自分は今までなんと愚かだったのだろうか。このお方の偉大さが理解できていなかったなんて。あまつさえ、この美しい御姿を化け物呼ばわりするなどと! 『気分はどうだ? 我が臣民よ』 『はっ、目が覚めました。世界はこんなにも素晴らしかったのですね』 男は目を輝かせて感謝の言葉を口にする。 それを見て「化け物」、いや、皇帝陛下は満足げに頷くと押さえつけていた男達に場を離れるように指示する。すると、すぐに彼らは部屋の隅に控えた。 皇帝陛下もまた自身の椅子に座ると、高らかに宣言する。 『着々と朕の帝国は再興に向かっている。我らの頭上に栄光が輝く日は近いぞ!』 ● 相変わらず暑苦しい8月のある日。リベリスタ達はアークのブリーフィングルームに集められる。そして、リベリスタ達に対して、『運命嫌いのフォーチュナ』高城・守生(nBNE000219)は事件の説明を始めた。 「これで全員だな。それじゃ、説明を始めるか。あんたらにお願いしたいのは、アザーバイドの討伐だ」 守生が端末を操作すると、「巨人」が画面に姿を見せた。全長は3m程。もっとも、その外見は「宇宙人」と評した方が良いかもしれない。つるつるした肌にぎょろっと覗く瞳。大きさこそ違えど、メディアに登場する「宇宙人」そのものだ。 「便宜上、識別名『インペリアル』って呼んでいる。元はどこぞのチャンネルを支配していた種族の王だったらしいんだがな。別の種族と戦争して、偶然出来たD・ホールからボトム・チャンネルに逃げ込んできたようだ」 幸か不幸か、そのD・ホールは消失し、敵種族とやらがこの世界に現れることは無い。しかし、フェイトを持たないアザーバイド――『インペリアル』がこの世界に留まっているということでもある。 「そして、性質の悪いことにこいつはかなりの野心家だ。奪われた領土を取り戻すために、戦力を集めている……ボトム・チャンネルでな」 『インペリアル』は強力なカリスマの持ち主ということだ。当人曰く、「その素晴らしさを知れば、自ずと従うことを選んでしまう」程に。彼はそれをして『啓蒙』と呼んでいるが、洗脳と言っていい。ボトムの住人としては、迷惑も良い所だ。 そして、この地で部下を増やし、再びD・ホールを開いて国の奪還に乗り出すのだという。 「こいつは、瞬く間に小さな村を支配下においた。増殖性革醒現象の影響でノーフェイス化してしまった人間もいるし、放っておくわけには行かない」 ここで守生は一拍置いて、村の写真を表示させる。 「ノーフェイス化したした人間と、単に洗脳されているだけの人間。それと、恐怖から従っている人間の3種類がいる。真っ向から『インペリアル』に挑んだ場合、敵の数も多いから勝ちを拾うのは不可能じゃないが、簡単でもない」 『インペリアル』は村の集会場を一時的な居城としていて、ノーフェイスは建物の周囲を警護している。そして、外へ出る者への警戒は厳しいようだが、中に入る者への警戒は緩い。そこに付け入る隙がある。 ノーフェイスの警備もすり抜け建物の中に入れば、『インペリアル』を討つこともそう難しくは無い。 何かしらの非戦スキルを用いれば、潜入は難しくあるまい。また、建物内部の清掃は一般人がやらされているのだという。上手く一般人とコンタクトを取れば、それを隠れ蓑に出来るだろう。 あるいは、もっと大胆なペテンや陽動作戦でもやりようはあろう。 「説明はこんな所だ。作戦の細部はあんた達に任せる。その方が上手く行くだろうしな」 そこで守生の説明は終わる。 この作戦の成功失敗に関わらず、村の住人には事件を「忘れてもらう」ことになるのだろう。それでも、ここでアザーバイドを止めなくては、より多くの人々が犠牲になるはずだ。 だから、少年は、その鋭い瞳で睨むように、リベリスタ達に送り出しの声をかける。 「あんた達に任せる。無事に帰って来いよ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:KSK | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年08月18日(日)22:48 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 『お前達、そこから動くな。そして、何者かを述べろ』 無機質な声で男が銃を突き付ける。レトロSFにでも出てきそうな、怪しいデザインをした不思議な銃だ。ボトム・チャンネルの常識で考えれば、子供の玩具にしか見えないだろう。しかし、神秘の常識で考えれば、世界を侵食する危険な破界器に相違無い。 「すいません、こちらの代表さんの所まで案内してほしいのですが……」 「こちらに偉大な王がいるという話を伺い、お目にかかりたいと馳せ参じました」 しかし、その事実を知ってなお、『シャドーストライカー』レイチェル・ガーネット(BNE002439)の声に恐れは無い。アザーバイドと接する機会が多い彼女は分かっているのだ。世界の「位置」に上下はあれど、そこに貴賤は存在しない。 だから、堂々と接する。 一方、『悪木盗泉』霧島・撫那(BNE003666)の方は怯えているようにすら見える。この村人達の対応の裏に潜むものを理解しているが故に、自分も同じような状態にされかねないと分かっているのだ。 その嫋やかな雰囲気を与える顔に、一瞬期待に潤んだ瞳が見えたのはきっと気のせいだろう。 2人の言葉に、見張りの男達はこそこそと話し始める。判断を下しかねているようだ。 「世界は素晴らしいと教えてくれる、素晴らしい王が居るのだと聞いたのでお目通りを!」 『パラサイト以下』霧島・俊介(BNE000082)がメガホンを片手に大声でがなり立てる。そこでようやく、見張りの男達も納得したようだ。リベリスタ達を村の中へと引き入れる。 (ってのは侵入するための嘘だけど) 村の中へと進んでいく男達の背中に向かって、俊介は心の中でぺろりと舌を出した。 ● 『Dr.Tricks』オーウェン・ロザイク(BNE000638)はつぶさに観察する。 相手を謀るのには情報が必要だ。 ただ見るのではない、聞くのでも無い。 対象を『観て』『聴く』。 それこそが、彼を戦闘論理の使い手足らしめているのだ。 「ふむ、なるほど」 オーウェンが見た所、敵も決して無能ではない。ちゃちな特殊能力に頼るだけでは無く、人を操る術の基本位は抑えている。加えて、降り立った地に敵がいる可能性も理解しているのか、防衛の仕組みも確かなものだ。 しかし。 オーウェン・ロザイクに言わせれば、そう言う相手こそがもっともやりやすい。 「偽装と撹乱は、俺の十八番ではある故な。……団体故の脆さと言う物を、突くとしよう」 欺く者、Dr.Tricksは不敵に笑うと、闇の中に姿を消すのだった。 ● (要するにこれってアザーバイド発の新手の新興宗教じゃん!) 素直な怒りの気持ちを『メイガス』ウェスティア・ウォルカニス(BNE000360)はこっそりと仲間達に伝える。 ボトム・チャンネルを手にしようというアザーバイドの支配下にある村。そこにリベリスタ達は潜入した。潜入任務と言うこともあって、彼女は自分の翼をスキルで隠匿している。 そして、実際に中を見た感想が先のものである。外界と隔離し、無理矢理に自分が正しいと教え込む。たちの悪い宗教のやり口そのものだ。 無機質な目でリベリスタ達を監視するもの、恐々とした表情で見守る者。様々なものがいるが、いずれも意に沿わぬ形で従わされているのは間違いない。 「って、おどけてみたけど状況は割と面倒くさいね」 「えぇ、思ったよりも警戒されています」 そう言って肩を竦めるウェスティアに対して、『風詠み』ファウナ・エイフェル(BNE004332)が頷く。彼女も同じように、フュリエの特徴である長い耳を隠している。 6人のリベリスタ達は、フォーチュナからの情報を元に、真正面からの立ち向かうことを選んだ。無策な突撃ではない。服従を装うことで、相手の油断を誘ったのだ。相手の傲岸な態度を逆手に取った上手い作戦である。 もっとも、敵の警戒も決してザルでは無かった。レイチェルの期待よりも、リベリスタ達を監視するノーフェイスは多い。裏を返せば、それだけ力を蓄えるために必死なのだろう。 「力を蓄えるにしても、この世界でさせる訳には行きません、ね」 「うん、この世界で好き勝手なんてさせないんだから!」 ファウナの言葉に力強く拳を握り締めるウェスティア。 『如何なさいましたか?』 「いえいえ、ウチの国の幸運を呼ぶおまじないでゴザイマス。皆様に幸あれ」 仲間内で何か話しているリベリスタの様子を見て、ノーフェイスがぬっと顔を突っ込んでくる。それに対して、『攻勢ジェネラル』アンドレイ・ポポフキン(BNE004296)は作り笑顔を浮かべて応じる。ノーフェイスは納得したのか、再び道案内に戻る。そっと胸を撫で下ろすリベリスタ達。 もっとも、アンドレイの心中はその笑顔程に穏やかなものではない。 (皇帝、か……宜しい。敵が実力的にも権力的にも強ければ強いほど、革命し甲斐がアルとイウモノ) 彼の「生まれ」と、今この村を支配する「皇帝」は相容れることは無い。 アザーバイドに支配された村を解放するため、理不尽な支配を強いる皇帝に対して『革命』を行うため、アンドレイは密やかに無限機関の炎を熱くするのだった。 ● 「頃合いか……」 小高い丘の上で『百獣百魔の王』降魔・刃紅郎(BNE002093)は馬に乗ったまま、村の様子を見下ろしていた。そろそろ他の仲間達は、上手いこと敵に取り言った所であろう。作戦としては妥当な所であり、それをどうこう言うつもりは無い。 ただ、自分の生き様ではない、それだけの話だ。 「わが民をペテンにかけその心を支配するか、それが啓蒙とは片腹痛い。真の王たる我が一つ帝王学を学ばせてやる」 手綱を軽く引くと、馬は走り出す。 刃紅郎の、獅子の鬣を思わせる髪が大きく風に揺れる。同時に、圧倒的な気が周囲を支配していく。 世界は我がものだと言わんばかりの傲岸不遜な、それでいて、暖かさを感じさせる、太陽のような気だ。 「今は耐えよ……いずれ解放の刻は来る」 ● 巨人は話を聞いて深々と頷いた。怪物そのものにしか見えない外見だが、その姿からは不思議と知性を感じさせる。曲がりなりにも、かつて皇帝だっただけのことはあるのだろう。 『なるほど、朕の存在を知って来たと。蛮人にしては中々の慧眼を持っているようだ。褒めてつかわそう』 リベリスタとアザーバイドの接触は予想通り、それ程難しくは無かった。しかし、それなりに警戒はされてしまっているようだ。ノーフェイスらしい、人で無くなってしまった者達がちらほらと建物の中に見受けられた。 「あの……従えば、世界の素晴らしさを教えていただけると聞いたのですが……」 『よかろう、前に出るが良い』 おずおずとしおらしい様子で、撫那が前に進み出る。その際にそっと仲間達に目配せをする。 一歩一歩ゆっくりと歩を進める撫那。 出来た隙を利用して、後ろで俊介はスキルを用いて、周囲の気配を感じる。 (……チッ) 思わず内心舌を打つ。 恐怖と陶酔、この村から感じられる感情は大別するとこの2つだけだ。このアザーバイドがどのような振る舞いをしてきたのか、フォーチュナの情報と照らし合わせれば、大体想像がついてしまう。 必要な情報は得たし、スキルで仲間達にも伝えた。 時間的にもそろそろ頃合いだ。 何よりも、もう既に自分を抑えきれる自信がなくなって来た。 『そこの赤いの、どうした?』 すっくと立ち上がった俊介にアザーバイドが詰問をする。それに対して、俊介は堂々と答える。 「ボトムはただでさえ荒れてる世界、これ以上傷口をこじ開けられる前に……死んでくれ、インペリアル!」 俊介がその体から放った清冽な輝きが合図となった。 リベリスタ達は一斉にアクセス・ファンタズムを起動する。 「ураааа! さぁ戦争でゴザイマス、大胆不敵痛快素敵超常識的且つ超衝撃的に勝利シマショウ! サァ、待ち侘びたぞ。我が愛しの戦場よ!」 『フン、やはり偽りか。だが、その意気や良し。そうした知恵と勇気を持つ者こそ、朕が求めるものだ。我が臣民よ、かかれ!』 アザーバイドが合図を行うと、ノーフェイス達はリベリスタ達に銃を向ける。 しかしその時、アザーバイドの顔に異なる生き物でも分かるほどはっきりと、当惑の表情が現れた。 『馬鹿な、何故外の者達がやって来ない!?』 ● 『インペリアル』とて、零落したとは言え決して無能な王では無かった。しかし、彼にとって不幸なことはボトムに決して出会ってはいけない男(キング)が存在したことだ。 「笑止、貴様等が語るその素晴らしき世界。本当に貴様らの両の眼で「王」のその背に見たものなのか?」 『啓蒙』を受けた人間達の真っ只中で、刃紅郎は口元を吊り上げて嗤う。 刃紅郎から発せられるカリスマに、人々は目を惹き付けられて止まない。アークの研究機関であればこの現象を、Eスキルによるものと解析するだろう。だが、それは誤りである。この場にいる者の魂が感じてしまったのだ。彼こそが本当の王であると。王としての階梯(レベル)が、アザーバイドのそれとは比較にならないと。 それは人々と刃紅郎の対話からも明らかだ。彼らの言葉は具体性を欠いたものばかり。中見の無い、上っ面ばかりの称賛であることを王は看破した。そして、王の言葉に返せるものはいなかった。 「久々に戯言を楽しませてもらった。さて、後は一つ「王」の器を図る為にその顔を拝ませて貰おうか」 そう言って刃紅郎は愛刀を抜き放つ。邪魔するならば容赦はしないとばかりに紫水晶が光り輝いた。 ● 「この世界の王は1人で十分だぜ。我等が王、降魔サマだけでオッケーだ!! いえええーい王様、かっこいいぞー強いぞー! 腹筋すげえ割れてるぞー!」 つまりはそう言うことである。 刃紅郎の見せた王としての矜持が、作戦において囮として機能した形になった。キングが戦場に降り立てば、兵が向かうのは道理。それをしても、ノーフェイスの数は「本来いるべき数」より少なくある訳だが、それに関しては説明を後に譲ろう。 ともあれ、アザーバイド側の士気は高い。号令一下、リベリスタ達を狙ってくる。 それに対して、ウェスティアは幻に隠していた翼を大きく広げた。やはりこうでないと調子が出ない。 素早く紡ぎ上げられた詠唱の下、現れた黒鎖がノーフェイス達を捕えて行く。 「それじゃあ、お仕置きしてあげないとね」 「……何処かの世界の王だった者、敗れて逃げ延びてきたのがこの世界、という事ですか。自分達の世界を取り戻したいのは解りますけれど……」 それでも、この世界を護るため戦うのが自分の誓いだから。自分の中に生まれた『変化』だから。 ファウナが白魚のような指を動かすと、現れた火炎がアザーバイド諸共ノーフェイスを吹き飛ばす。 『インペリアル』も決して戦闘力の低いアザーバイドではないが、その本分は相手を支配する能力にある。そのため、こうした高火力は極めて効果的に働いた。ましてや、敵の数が多いのならなおさらである。だから、相応に傷付きながらも、リベリスタ達は優勢に戦いを進めて行った。 そして、相手を「支配する能力」の行使に対しては、また別の対策が為されていた。 「嫌だけど従っちゃう、この敗北感! たまらないですわあ!」 先ほどまでのおしとやかな雰囲気は何処へやら。撫那は存分にもう1つの顔をさらけ出し、状況を楽しんでいた。 事前に聞いた通り、必死で抗っているのに、アザーバイドに対するどうしようもない思慕の念が湧いてくる。並みの精神を持った人間がこれを受けたのなら、自我など失われてしまうかも知れない。 だ が そ れ が 良 い 自我を蹂躙されていく感覚がたまらない。 自分が自分でなくなっていくのが心地良い。 しかし、それでも撫那はリベリスタであった。度重なる戦い(主に敗北の)で練磨された彼女の精神は、精神を侵されたまま戦うという離れ業を可能としていた。ある意味この戦闘においてはうってつけの才能である。人間として思う所は色々とあるが。アザーバイドもさすがに混乱の表情を浮かべるしかない。 そして、混乱から回復する時間はそう多く与えられなかった。 『こ、これは……!』 護るべき部下を失ったアザーバイドを、いつの間にやら気糸が絡め取っていたのだ。 「敗北して、別の世界に逃げ込んで。そこで静かに暮らそうというなら、まだ良かったのですけどね」 ダガーとハンドガンを手に、気糸を繰るのはレイチェルだ。 表情を動かさない彼女の目にありありと浮かぶのは嫌悪感。比較的『甘いリベリスタ』の部類に属する彼女ではあるが、相手が人を人とも思わない怪物なら話は別だ。 「その能力と目的、悪いけど許す訳にはいきません……排除させていただきます」 『ぐ、ぐぬっ……そうか、汝の仕業か。よし、そこのお前! 奴を殺せ!』 アザーバイドが残った部下の1人に指示を飛ばす。レイチェルに痛打を与えれば、この状況を打破することは可能だ。しかし、リベリスタ達に慌てる様子は無い。 そして、命令を受けたノーフェイスは、銃を撃つ代わりにアザーバイドへ気糸を放った。 「かしこまりました……なんてな。仲間に襲撃される感覚はどうかな?」 その時、ノーフェイスの顔が崩れていく。 崩れていく中から覗く顔は誰であろう、オーウェンのものだ。 そう、彼は他の仲間達よりも先に村の中に潜入していた。そして、ノーフェイスの姿を映しとり、この場に潜んでいたのだ。ノーフェイスの数を減ったのも、同じく彼の仕業だ。スキルで敵陣に潜み、彼らの中に不和をもたらしたのである。 アザーバイドへの忠誠で支えられているものの、この場にいるノーフェイスはほとんどただの人間と差異が見られないタイプだ。判断するメンタリティもまた然り。Dr.Tricksにかかれば、それは容易く砦を崩す穴になり得る。彼らにとっては、感知能力に乏しいのも災いした。 「往々にして、王と言う物……『偽装した』暗殺者の凶刃に倒れる物だ」 『まだだ……まだ!』 芝居がかった口調で優雅に礼をしてみせるオーウェン。 アザーバイドは死力を振り絞り、気糸の拘束からの脱出を図る。しかし、そこへ電撃のようにアンドレイは突撃を敢行した。 「Здравствуйте、皇帝よ。我が名はアンドレイ・ポポフキン。覚悟するがイイ。王の首を刎ねる事こそ断頭台の誉れナリ!」 自身すら赤く染め、機械の身体を持つ蛮人が王へと迫る。 蛮人と呼ぶのなら呼ぶと良い。 だが、死んでも屈服などするものか。 願うのはただ、ただ勝利のみ。勝利無くば、生命無し! 「その首ココに置いて逝け、『赤く』染まれ! ураааа!!!!」 雄叫びを上げてアンドレイは大戦斧を振り下ろす。 戦士の瞳を見た王は、自らに支配できないものの存在を、叛逆し続ける存在を知った。 ● 「臣民だがなんだか知らねーが、王様なら民を戦いに巻き込ませるなや!」 しゅうしゅうと煙を上げて溶けて行くアザーバイドの死体に、俊介は悪態をつく。 俊介に言わせれば、民を平和に導くのが王なのだ。我欲のために民を戦火に晒すお前だから、元のチャンネルでもやっていけないのだ。 「民主主義舐めんな!」 叫ぶ俊介の横で、刃紅郎もまたアザーバイドを眺めていた。曲がりなりにも、「王」を名乗る存在だっただけに、顔を合わせたかったというのはあるのだろう。 「所詮は玉座を暖めるだけの虚飾の王、か。『王』と言う存在が臣民の心を掴むのは、その苛烈なる生き様を見せ付けてこそと知れ」 そして、その死体が塵すら残さず消えたのを確認すると、マントを翻して刃紅郎は部屋を後にする。 まるで、自分に言い聞かせるような、そんな言葉と共に。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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