●恋は花火のように 夜空に大きな花火が舞い上がる。 隆明は土手で一緒に菜月ともにお祭りを楽しんでいた。 他にも離れた所には同じように花火を楽しむカップルの姿が目に付いた。 傍らには見なれた彼女の顔があった。色鮮やかな花柄の浴衣を着て手にはかき氷を持っている。今日一日お祭りを見て歩いてすっかり疲れていた。 こうして彼女と花火を見ているとそんな疲れも吹き飛んでしまいそうだ。 いつまでもこうしていたい。 あとどれくらい一緒にいられるだろうとずっと思っていた。 人の出会いには必ず別れがある。たとえそれが恋人であっても家族であっても友人であってもそうだ。人はひとりで生まれて死んでいく。当たり前のことだ。 「君たちはいつまでそうやって一緒にいられるかな?」 その時後ろから声を掛けられた。 そこにいたのは無表情の黒づくめの男だった。オールバックで真夏だというのに漆黒のマントで身を包んでいた。片手にはなにか大きな分厚い本を持っている。 そのページがちらりと目に入った。 男は呪文を唱えると巨大な黒い龍のようなオーラーが出現して菜月を絡め取った。 「隆明くんたすけて、いやよ、やめて離して!」 「なにするんだ! やめろ菜月を返せ」 頭に激痛が走った。何か鈍器のようなもので殴られる。 気がついた時にはもう遅かった。 「恋は幻想、移ろい変わるもの。だがそれゆえに美しいとは思わんかね?」 男の声とともに隆明は目を再び覚ました。 そこにいたのは菜月だった。 「隆明くん私は貴方がとても憎いの。殺したいほどに」 そこにいたのは菜月だった。間違いない。 だが、先ほどまでの彼女ではなかった。表情がこわばり怒りで目がつり上がっていた。いつの間にか手にはバタフライナイフを持っている。 おそらく隆明自身も同じような表情をしていただろう。なぜなら隆明も先ほどまであれほど愛していた菜月のことを殺したくて堪らなかったからだ。 「菜月、安心しろ俺もだ。お前のことが憎い。この手でお前を――殺す」 そう言いながら隆明はいつの間にか手に持ったバッドを振り上げていた。傍らで背の高い黒づくめの男がその瞬間にやりと口元を歪ませた。 ●恋を盗む男 「気をつけろ、奴は他人の恋を盗む――」 『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)がそう口にした。ブリーフィングルームに集まっていたリベリスタ達は思わず顔をしかめる。説明を聞くにしたがってやがてその顔は怒りへと代わっていた。他人の恋を盗むとは断じて許せないと。 真夏の花火大会にノーフェイスが出現した。土手で花火を楽しんでいたカップルに真田裕仁という名の男が襲いかかった。アーティファクトの『魔道書』を持っており、その能力を生かして恋人たちから互いの恋心を奪い取った。 奪い取られた恋心は裕仁が持つ『魔道書』へ吸い取られる。代わりに恋心を吸い取られたカップルには憎しみが互いに付与される。 怒りを貰ったカップルは裕仁から武器を渡されて互いに殺し合う。恋人たちは目の前にいる人物がただ殺したくて堪らない憎い相手に見える。 「真田はそうやって恋人たちから恋心を奪い取ってそれを魔力にしているようだ。魔道書のエネルギーの元にして彼自身の戦闘能力を高めている。それに奴はそうやって憎しみを付与されて互いに殺し合う恋人達を見るのが趣味という性癖をもっている」 さっきまで恋人同士だった人間がいとも簡単に殺し合うところがたまらないという。あまりの裕仁のおぞましい趣味に聞いていたリベリスタ達も戦慄した。このままでは隆明と菜月のカップルも無残に殺し合うだろう。それまでに救わなければならない。 「奴は他人の恋を盗む――それは相手がリベリスタであってもだ。今誰かのことを好きだったり恋人がいる奴は十分に気をつけてほしい。奴に恋心を奪われる危険性がある。もちろん奴を倒せば元通りになる。しかし、その間恋人への憎しみから頭が混乱してまともに戦闘行為が行えなくなるから注意が必要だ」 敵よりも好きな人が憎くて堪らなくなり殺したくなる衝動から戦場から逃げ出してしまいたくなるという。もちろん好きな人や恋人がいない人は問題ない。だが、奴はもうひとつの厄介な能力である――恋心を任意の二人に同時に付与することができる。 「この能力も厄介だ。味方同士が戦闘中に激しい恋に襲われたら、それこそ戦闘行為が困難になるだろう。二人で戦闘そっちのけでどこかへ逃亡することも考えられる。そうなっては奴の思うつぼだ。くれぐれも真田の罠に引っ掛からないよう気を付けてくれ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:凸一 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年08月10日(土)23:00 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●人の恋路を邪魔する愚物 夜空に無数の花火が舞い上がる。土手に座ったカップル達が、お喋りをしながら真夏の夜の祭典を楽しんでいた。自分たちが別れるかもしれないとは夢にも思っていない。 みんな幸せな表情をしていた。二人の関係をぶち壊しにする輩が、すぐ傍で暴れ出そうとしていることに全く気が付いていなかった。 「リア充爆発しろ、なんて冗談で言う事もあるけど、本当に爆発したり、殺し合いし始めるのを見て両手叩いて笑ったりするほど外道じゃないわ」 『箱舟まぐみら水着部隊!』ソラ・ヴァイスハイト(BNE000329)が幸せそうに笑うカップル達を見ながら呟いた。恋は与えられるものではなく自力で得るもの。たとえどこかのシスターのように行き遅れたとしてもその信念は捨てない。 「今回のノーフェイスはあれか、リア充に爆発してほしい口か。何のためにこんなことやってるのか知らないが、ちょっとやりすぎだな」 『輝く蜜色の毛並』虎 牙緑(BNE002333)もソラ先生に頷いた。とくに真田の持つ魔道書だけは絶対に破壊すると意気込みをみせる。 「恋心デハナク愛情はドウナルンダロウナ。マァそこらへんハドウデモイイヤ。人間の心ッテノハ、心ト魂ト誠意ト甲斐甲斐しさト愛情デウバッテミセロ」 『黒耀瞬神光九尾』リュミエール・ノルティア・ユーティライネン(BNE000659)はすでにシュターンシュターンと飛び跳ねている。 「殺し合うように無理やり原因を作っておいて、『恋は幻想』とか言っちゃってんだから、そーとーいい性格してるよね」 『ムエタイ戦士』滝沢 美虎(BNE003973)も憤慨する。 「とらーいアングルからの――パニッシュ☆ みんなで恋の邪魔者をやっつけよー。とらチームは絶対に負けないんだよん、ね? 王様」 『箱庭のクローバー』月杜・とら(BNE002285)は、牙緑と美虎に向かって、パニッシュ☆を決めつけた。おなじトラが三人もいて一人テンションが高かった。 「我はライオンだ。それはともかく古くからの言葉に『人の恋路を邪魔する愚物は、馬に蹴られて死に絶えよ』と言うだろう。恋を盗み幸せを奪う凶賊、無粋の極み。故に……我が斯様な痴れ者に罰を与えてやる」 『百獣百魔の王』降魔 刃紅郎(BNE002093)が憤然と答えた。周りをとら達に囲まれているが気にしない。一人だけ仲間外れだが、やはり王者は孤高が似合う。 「全く……恋心を奪うだけでなく、恋人同士が争う様を好むとは悪趣味なことじゃ。少々キツイ灸をすえねばのぅ」 『嘘つきピーターパン』冷泉・咲夜(BNE003164)も同じ気持ちだった。翼の加護を皆に付与して戦闘準備に取り掛かる。 「恋人同士を殺し合わせるとか、クソみてぇな野郎だぜ。にしても強制的に恋心を刷り込むことが出来るとか……。妹分、小さいの、色物……男もって事はねぇよな? 嫌な想像しちまった。どっちにしても、冗談じゃねぇなぁオイ」 『悪童』藤倉 隆明(BNE003933)は身震いした。今回はとくに自分と同じ名前の町村隆明が事件に巻き込まれている。さすがに放っておけなかった。 自分と同名の一般人が犠牲になるのだけは見たくない。 必ず助けてやると拳を握りしめた。 ●恋とは人を慕う気持ち 異変に気がついたカップル達が騒ぎ始めた。様子を見るために立ちあがった何人かが真田達がいる方へ近づいていてくる。真田の魔道書や地雷に巻き込まれる危険性があった。このままでは一般人に大量に犠牲が出てしまう。 「あ、あそこにいるのは……だれだ?」 その時だった。カップルの一人が土手に向かって叫んだ。 豪華に着飾ったビロードの白馬に乗った男がいた。浴衣姿に身を包んだ刃紅郎が馬に乗りながら花火を見ている。 「な、なんて気品な佇まいだ。もしやどこぞこかの高貴なお方では――」 カップル達は一斉に騒ぎ始めた。刃紅郎の圧倒的な存在感を放つオーラに魅了されてしまい我を忘れてしまう。すでに騒ぎや花火すらも頭から消し飛んでいた。 「皆、もう少し上がってくるがいい。この高さが一番よく見える」 刃紅郎は庶民に向かって命令した。三高平の公道でも馬を走らせる刃紅郎のその姿はあまりに様になっていた。人々も現れた白馬に乗った王子様――ならぬ王様の登場に歓喜する。すぐに刃紅郎にむかって土手を駆けあがる。 マント姿のとらがその隙に強結界を施して戦場から人払いを行う。 「その本ぶっ壊してやるから、こっちによこせよ。もちろんオマエもその本と一緒にぶっ壊してやるけどな!」 牙緑が真田に向かって挑発した。 「せっかく今いいところだったのに。貴方たちはいったい誰ですか? 私の邪魔をする者は容赦しませんよ」 真田は現れた牙緑に言い放った。ちょうど町村隆明と相沢菜月がすぐ傍で互いに金属バットとバタフライナイフで殺し合っている。 真田は二人が殺し合うのを見ながら不気味な笑みを浮かべていた。だが突然邪魔ものが入ったせいで不機嫌になる。すぐに懐から魔道書を取りだした。 「全く……恋とは人を慕う気持ちであって、強制的に刷り込まれるものでも、ましてや盗むものではあるまいに」 咲夜が結界を展開して真田の動きを封じ込めにかかる。だが、野犬の群れが真田の代わりにブロックに入ってきた。 その隙に真田が魔力銃でリベリスタ達に容赦なく弾丸を浴びせる。攻撃を食らった咲夜がうめいて後退した。さらに真田はオーラーで黒龍を召喚する。 「我が魔道書の力を思う存分見せつけてやる!」 黒龍が隆明と美虎に襲い掛かる。火炎をはなってくる敵に隆明と美虎は防戦一方となって苦しんだ。自在に動いてくる敵にこれ以上近づけない。 その陰から別の野犬達が隆明達にむかって飛び跳ねてくる。 「わんこたちは大人しくしててね、あっちいけっ☆」 とらが翼で魔力の舞う風の渦を作り上げた。野犬の群れに向かって渦を撒き散らす。呑みこまれた野犬は悲鳴をあげた。 「お前ら、全員爆発しろ!」 真田は魔道書を取り出して呪文を唱えようとした。 牙緑がそうはさせまいと五感を研ぎ澄ました。目を瞑っても相手の動きは手に取るようにわかる。すぐに相手の動きを読んでアッパーユアハートを放つ。 「貴様! 何をする……!」 真田は怒りを付与されて自棄になった。すぐに牙緑を倒そうとリベリスタがいる方に向かってきた。そのすきにソラが喧嘩する隆明と菜月に迫る。 「本を開くのより早く、起爆より早く、E・ビーストが飛び出すのより早く動けばいいんでしょう。こういう状況に活かしてこその速さよね」 ソラは真田達の動きに注意しながらも二人の懐に飛び込んだ。スタンガンを取り出してふたりの戦闘を止めに入る。菜月がバタフライナイフを振り回してくる。素人とはいえ神秘の影響力を受けて動きは俊敏だ。 斬りつけられながらもソラは腕でバタフライナイフを止めた。その隙にスタンガンで首元を狙って気絶させる。 「速度二狂エ世界スラ私ノ為ニ加速スルノダカラ」 リュミエールが目にもと止まらぬ速さで先回りした。金属バットを振り回す隆明の背後をつく。もちろん隆明はそこにリュミエールがいるなど全く気がつかない。 後ろから羽交い絞めにして隆明の動きを止める。菜月を寝かせたソラがすぐに向き直ってスタンガンを食らわせた。二人は意識を失って地面に倒れた。地雷や戦闘に巻き込まれないように安全な場所へと移動させる。 ●世界のヘイワのために 「神秘半減とは小癪な玩具を用いよる。ならばまず我は野犬共を屠ろう」 土手を駆け降りてきた刃紅郎は頭上で刀を振りまわした。辺りに地雷の爆発が巻き起こり激しい戦闘が始まった。ダメージを食らいながら歯を食いしばる。 刃紅郎は得物を旋回させて野犬たちを巻き込む。 不意打ちを狙ってくる野犬は刃紅郎に襲い掛かるがすべて防がれた。刃紅郎は野犬の動きをすべて見切った。 次々に斬られて野犬は倒れた。刃紅郎は襲われていた美虎と隆明を援護するためさらに黒龍に立ち向かう。刀で黒龍をノックバックして追い払う。 「お前たちモテないだろう? これでは恋を奪い取ることもできないじゃないか、ならば仕方ない。お前らに素敵な恋をプレゼントしよう」 真田は魔道書を開いて見せた。リベリスタ達は一斉に目を伏せた。その瞬間を狙って真田が魔力銃をぶっ放す。 「ラブはあれども……あれだ、真田サンは世界を崩界させる存在になっちゃってるから、かわいそうだけどさ、生かしておけないんだよ」 とらが攻撃されて息を切らしながら言った。真田がにやりと笑みを浮かべる。 「私はこの世の全ての恋を奪うまでは死なない」 「アレだろ? 好きになったオトコを、他の女に取られて泣いたクチとかなんだろ? うんうん、何も言わなくてもわかってるからー!」 とらは有無を言わさずにデッドリー・ギャロップで真田の身体を縛りにかかる。 「夏場に最適な氷像にしてあげるわ……凍りなさい」 ソラもスピードを生かして真田に斬りかかった。氷漬けにして真田の動きを封じ込めにかかる。さらにリュミエールがソラに負けじと走り抜けた。 爆発する地雷を避けながら真田の懐に飛び込む。真田は魔力銃を向けるがそれよりもはやくリュミエールは駆け抜けた。 「たとえあっても近くだとドウシヨウモナイダロウ? 本ヲそっちに構えたところで私ハココダ。脅えろ狂え私を捉エレナイママ反省シロ」 釘づけにされた真田はリュミエールの尻尾に捲きつかれた。動きを封じられた真田は銃を突きつけることができない。 変則的に動き回るリュミエールについて行けずに切り裂かれる。 それでも黒龍が真田を援護してリュミエールを追い払う。炎に捲かれたリュミエールにソラがすぐに回復を施した。 「神秘を防ぐ? 俺にゃ関係ねぇなぁ! その気に喰わねぇ面殴り潰してやるぜぇえええ!!」 隆明は拳銃で黒龍を追い払って真田に真っ直ぐに突っ込んだ。思いっきり拳を振り上げると顔面に渾身の拳を叩きこむ。 目を瞑りながらの攻撃でポイントから外れたが、それでも真田は苦しんだ。横顔を殴られて真田は苦痛にもがいた。 「喰らえ、必殺! とらぁ……アッパー!」 美虎も続けて真田に鉄拳を叩きこむ。急所を腕でなんとかブロックしにかかるがそれでも腕をやられて真田はさらに深手を負った。 だが、真田も負けてばかりいるわけではなかった。美虎の腕をそのまま掴むと強引に魔道書のページを顔面に押しつけた。まともに見てしまった美虎はその瞬間、激しい胸のときめきに襲われてしまった。 「ぬおー、なんだこのキュンキュン……これが……このきもちが恋なんか……」 美虎の中で激しい感情が巻き起こった。襲われた美虎を助けるために隆明が魔道書を払いのけてすぐに美虎を助け出す。 「大丈夫か? 怪我はないか」 「隆明……わたし……」 濡れた瞳で美虎が隆明を覗きこんだ。 隆明はその瞬間、美虎が自分に並々ならぬ感情を寄せていることに気づいた。あわてて美虎を突き離そうとする。 「目を覚ますんだ。俺は妹分と恋なんか」 「隆明……妹分は愛せない?」 「あああああっ、ダメだ。このままでは頭がおかしくなってしまう……!」 隆明は迫りくる美虎から意識を離そうとした。自分も美虎を助ける時にちらっと魔道書を見てしまったのだろう。このままでは戦闘に集中できない。 真田は解放されると魔力銃で二人を攻撃した。その間に真田は逃げようとする。 「そうはさせんのじゃ。恋を弄ぶ輩は生かしておけん」 咲夜は背を向けた真田に呪符を取りだした。呪文を唱えると式神が真っ直ぐに真田に向かって突き刺さる。その瞬間に真田が魔道書を落とした。 「魔道書は必ず破壊する」 刃紅郎がすかさず切り裂いた。堪らず真田は逃げ出す。 牙緑が川の上で立ちはだかっていた。向かってくる真田に対して剣を頭上に振り上げる。重心を低くして足を開きつつ腕を後ろに引いた。 「世界のヘイワのためにさ、オマエは逃がせないんだよ。残念だったな」 「ぐはああああああああああ――――――」 牙緑の刀に突かれて真田は川へと崩れ落ちた。 ●素敵な思い出 真田を倒すとすぐに咲夜たちは気絶した二人を起こしに行った。 「こんな悪夢を見るなんて災難だったね、おにーさん達。でも、もう大丈夫……悪夢は終わったよ? だから、キレイに忘れて……また二人で、素敵な思い出作らないと、ね?」 咲夜は魔眼を使って町村隆明と相沢菜月に催眠をかけた。真田を倒して互いへの憎しみ効果はなくなっているはずだが、争っていた記憶までは消えていない。 二人が仲良くなるためには必要なことだった。嫌な過去は忘れさせてなんとか未来へと向き直さなければならない。咲夜は夜空を示した。 「わあ、きれい。ねえ隆明君」 まだ花火が上がっていた。最後の連続的に放たれるフィナーレのショーが夜空を美しく彩っていた。すでに二人だけの世界に入っていた。 もう大丈夫だろう。これから先二人が喧嘩したり、別れの危機に陥ることもあるかもしれない。だが、それはまた別の話だ。リベリスタの出る幕ではない。きっと二人なら乗り越えてくれるだろうと咲夜は思った。 「ねえ、隆明やっぱ嫌だった?」 「いや、別に。ちょっと慌てただけだ。まさか妹分をそんな目で意識したことなかったからな……」 隆明と美虎は互いに気を遣った。さっきから妙に気まずい。見なれた顔なのになぜか恥ずかしくてまともに正面から見れない。もうとっくに先ほどの効果がきえていたとはいえ記憶は残っている。それでもお互いへの信頼感が薄れるということはなかった。そのうちまた慣れたら普通に接することができるだろう。 「隆明君にゃ厄日だったな。ま、悪い夢でも見たって感じかねぇ……」 「あんちゃんもね」 隆明が苦笑して美虎も頷いた。 「そういえば、これさ、ラブラブカップルじゃなくて、前にフラれて引きずってる奴はどうなるんだろう。イヤ、大分前の話だし、引きずってるつもりはないんだけどな。もう手は届かないってわかってるし」 牙緑は誰に言うでもなく呟いた。胸の内にかつて想いを寄せた人の姿がいた。もし真田の魔道書を見たら完全に忘れることができたのだろうか。 だが、結局魔道書をみることはなかった。 その結果としてまだあの人のことを覚えている。それできっとよかったのではないかとふと考えた。恋をしたことまで否定したくない。 大きな音がして牙緑が思い出から顔を上げる。 夜空に最後の満開の立花が大きく咲き誇っていた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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