● 敵が居るから戦うのか、戦うから敵が居るのか。 ●任務:戦え 「鉄十字猟犬に魔神王に猛暑に夏休みと慌ただしい昨今……皆々様、いつも任務お疲れ様ですぞ」 言葉と共に事務椅子をくるんと回し。振り返った『歪曲芸師』名古屋・T・メルクリィ(nBNE000209)がニコヤカにメカ凶相を笑ませてそう言った。 「しかし本日とて任務でございます。バロックナイツとの死闘からご近所神秘事件対応までこなさねばならぬのが皆々様リベリスタでございますからな! 任務内容は『Eフォースの討伐』。なんでも、かつて何処かのリベリスタが繰り広げた『戦いの残留思念』が革醒してしまったようで。数は3、いずれもフェーズは2。連携の取れた戦闘を繰り広げてくると予想されます。決して雑魚ではございませんのでお気を付け下さいね。 戦場もひとけのない場所ですので、神秘秘匿やその辺は気にせずとも大丈夫でしょう。つまり、ただ、戦えば良いのです。全身全霊でね」 因縁や陰謀やそういった思惑の無い、本当に、どこにでもある、よくある、ステレオタイプの、『純粋な戦闘任務』だ。 与えられた使命は『敵を倒せ、話はそれからだ』。実に、実にシンプルである。 「シンプルだからこそ全力で! 私はリベリスタの皆々様をいつも応援しとりますぞ」 どうかお気をつけていってらっしゃいませ。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ガンマ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年08月11日(日)22:45 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●はじめに光ありき 階段を上る足音。夜の中。喧騒は無く、それだけが響く。 「戦いの残留思念……か」 「正義を成さんとした思いが形になる、と言えば聞こえはよいで御座るが……」 蒼みのかかった銀の髪を靡かせて、呟いた『蒼銀』リセリア・フォルン(BNE002511)の言葉に闇に溶け込む『影刃』黒部 幸成(BNE002032)が応えた。次いで言葉を発したのは『黒犬』鴻上 聖(BNE004512)である。 「かつての英雄の成れの果て。正義の味方の残滓。正義のために戦ったというのに、後世になってその思いが世界に仇をなすと言うのはなかなか皮肉なものです」 「然しそれが世を乱すエリューションとなれば、殲滅する他なしに御座る」 「えぇ。フェーズ2ともなれば戦闘力は相当なもの。気を引き締めて臨みましょうか」 そう頷いた幸成とリセリアに、「私ではまだまだ役不足だとは思いますが」と皮肉めいて肩を竦める聖が溜息の様に言った。 「かつての正義にケチが付かないよう、出来る限りのことはさせてもらうとしましょうか?」 「隙のねえ強敵だが、一角を崩せば勝てる!」 仲間を鼓舞するように、力強く『男一匹』貴志 正太郎(BNE004285)は己の拳を掌に打ち付けた。戦え、全身全霊で。ただ眼前の敵を薙ぎ倒せ。 「最近微妙に疲れる依頼ばっかりだったから、たまには腕試し、みたいなのもいいのかしらね」 「色々な要素が絡み合う任務を厭う訳ではないが、たまにはこう言った分かり易い任務も良い」 『尽きせぬ祈り』シュスタイナ・ショーゼット(BNE001683)と『八咫烏』雑賀 龍治(BNE002797)の意見は同様。古びた階段の果てを見澄ましながら。 「とはいえ、負ける気なんてさらさら無いから、キッチリ頑張りましょうか」 「折角の機会、楽しまねばな」 「……難しい事は必要無し。そう、唯刃を振るい力を示せば良い」 これほどわかり易い事も無いわね、と二人に衣通姫・霧音(BNE004298)が同意を重ねる。相手は戦士の残留思念。悪とも正義とも言えず、唯戦うだけの存在。相手にとって不足なし。只、『応えれば』良い。 「『衣通姫』の霧音が御相手仕りましょう」 抜き放つ妖刀・櫻嵐。ひゅるりとヒトキリの風が渦巻き、銀の刃が夜に浮かんだ。 包帯に包まれ、片方だけの目玉で捉える果てに在るのは――3つの胡乱な影だった。 ●ボウリキ 銃口から放たれた弾丸の如く。いの一番に飛び出だしたのはリセリアだった。視線の先の『敵』。剣士、重戦士、魔法使い。或いは、複数の思念が混ざったものかもしれないけれど。どれもこれも。過去のもの。かつての戦い。思念の残滓。先達のリベリスタ達の。 「もう、『貴方達』の戦いは終わっています」 未だ消えやらぬは戦の念か。終わっているなら、終わらせよう。散り行く安息を齎す為に。打ち滅ぼそう。跡形も無く。 「――貴方達を、倒します!」 魔法使いへ鋭く詰める間合い。踏み込んだ刹那。居合で抜き放つのは蒼剣セインディール。蒼銀の軌跡が澱み無き剣閃を繰り出し、魔法使いの動きを牽制する。 「さあ、このまま一気に倒してしまいましょう!」 その声に応と答え。霧音と聖は完全狙撃の集中状態となり、シュスタイナはその周囲に魔法陣を展開し。 「最後まで、手は緩めないわ」 被害者も護衛対象も居ないからこそ。普段は何かと考えを抱えてしまうし、スッキリしない出来事もあったし。 見遣る視線。その先では、重戦士に立ち向かう忍と神父の姿が見えた。 「誰の為に戦った? 何の為の正義だった? 何を信じてた? そんな姿になってまで、戦いを求めるの?」 無原罪の法衣を翻し。問いかけるのは『ピジョンブラッド』ロアン・シュヴァイヤー(BNE003963)。視界に捉えた思念の影。かつての英雄の行き着いた先、とでも言えようか。嗚呼。正義だの、英雄だの。そういうのを聞くとムシャクシャする。尤も、『彼等』が正義がどうだの我々は英雄だの言う事は無いけれど。 未練でもあるのか、戦う事自体が目的になってしまったのか。そもそも目的や意味などない、世界の歪みが生んだ存在なのか。それを知る術はロアンには無いけれど、知ったとしても関係も無いけれど。 「やる事はいつも通り。さくっと掃除してしまおう。さあ、懺悔の時間だよ」 「それが自分の忍務なれば、ただ成すのみ」 展開する左右。躍り掛かる同時。ロアンが幸成が重戦士へ繰り出すのは絡め捕る気糸。月光に淡くキラリと輝いたそれが標的に喰らい尽く。絡め捕る。獲ったか。否。ぶんと振るわれる巨躯。ぶちぶちぶちりと幾つもの糸が解かれ千切られ。そうしてそれが行ったのは、何かの声に従った何かの加護だ。 目玉は無いけれど、分かる。こっちを見て居る。 「こっから先には進ませねえ!」 拳を構えた正太郎の青空の眼差しが剣士を真っ向から捉えていた。破壊の気を纏った異形が強く地を蹴る。振り上げられた剣。しかし少年は逃げる事をしない。死んでも剣士を抑えきる。構える全力防御。臨戦態勢。 「さぁ、来い――!」 迫る、暴力。ずどん。重い重い重い一撃が正太郎の身体を無慈悲に切り裂く。その髪よりも赤い色が生温いコンクリートに飛び散った。身体を巡る激痛は、ふーッと歯列の隙間より吐いた息で耐え忍ぶ。 格上相手の喧嘩上等タイマン勝負。己の実力は己が一番分かっている。百も承知。それを言い訳になどするものか。だからこそ、出来る事の150%をやりきってみせる。 「男一匹貴志正太郎、売った喧嘩は最後までやってやらぁ!」 張り上げる声は、茹だる様な夏夜の風に乗って。 ひゅるり、戦いのにおいを孕んだ風が龍治の狼耳の傍を吹き抜けた。構えられた銃口がブレる事は無く、鈍く光を跳ね返す兵器が鋼の様な静けさで獲物を狙い澄ましている。 良い夜だ。余計な喧噪も無い。戦いにのみ精神を研ぎ澄ませる事が出来る。 「さあ、狩りを始めよう」 押し込んだ引き金。カチンと火打ち。ぱーんと銃声。火縄銃弍式より放たれる弾丸が戦場を高速で駆け――『雑賀龍治』という男の名を知らしめるその精度を以て剣士の身体を撃ち抜き、その強化術をも撃ち砕く。硝煙。 しかし、直後。戦場を塗り替えたのは魔法使いが放った魔術の嵐。稲妻が、炎か、氷が、リベリスタ達の身体を焼いて引き裂き痛みで包む。 生憎、そのワープめいた動きを聖が幻想殺しで看破する事は出来なかったが何であろうと『異端』は撃滅一択迷いはない。 「何処に現れようと、射程内に居るのであれば同じことだ。Amen」 サングラスの奥の眼差し。聖なるかな、聖なるかな、聖なるかな。組み合わせるは白刃『Heaven』、黒刃『vengeance』。天罰と相成るモノクロの十字架が鋭い殺意と信仰心を帯びて飛んだ。お返しだと言わんばかりに魔法使いを目指して。 その刃に並走するのは霧音だった。白黒の刃に映る、少女の横顔。黒い髪を靡かせて。 ラxナロx。それは自分達が使うものとよく似ている。故に、その威力は身を以て知っているから。 「……断たせて貰うわ」 強引に踏み込んで、一閃。絶ち切るは魔法使いに施されたエンチャント。 構える刃が翻る。 曇りなき刃に切り裂かれ、幸成とロアンが纏う黒い服が鉄臭さを帯びた。ぽたり、垂れる、赤、一雫。 彼等の姿は、いつかの大切な誰かの姿か、はたまた僕の末路か。頬を伝う赤を拭い、ロアンは重戦士に緩く目を細める。 正義や自己犠牲なんて、くだらない。 大切な人の笑顔の前では、どうでもいい。 奇麗事には唾を吐こう。赦されようが赦されまいがどちらでも良い。穢れていくのはこの手で良い。 「君達みたいなのには、殴り負けたくなくてね」 アイコンタクト。頷く幸成。飛び出だして今度こそ、何重にも、縛り上げる。 敵を殺す為の暴力が戦場を飛び交った。 或いは戦い続ける為の癒しが。 魔法使いを優先に倒す作戦だが、状況によっては更に分散する戦力に想定よりも戦いは続いているが、想定外とは戦場の常連客。それが求めているのは、より一層の戦いだ。流れる血潮だ。剣戟と銃声と鬨声と断末魔だ。 「ううーん。あまり得意じゃないんだけれど、四の五の言ってられないわね」 私の分まで、皆がキッチリ戦ってくれるでしょうし。素っ気無く言うも、痛みを運命で焼き変えたシュスタイナの言葉に滲むは仲間への信頼。そんな彼女を、パーティ唯一の癒し手を、手分けして堅固に護るは霧音と聖。 流石に二周りも歳が離れてる少女よりも先に倒れるのは。男ってのは意地を張りたい生物でして。剣士から飛ばされた斬撃で鮮血を噴き出しつつ、聖はその運命を代価に踏み留まる。 「――終わりです」 直後の刹那。リセリアの振るった速度を纏うセインディールが魔法使いを深く切り裂き、その紫瞳に終焉を見届けさせた。霧散し、跡形も無く消え失せる。何も残らない。けれどそれに感想を抱いている暇はない。次だ。さぁ、次だ。 息を整え、身体のギアを引き上げ。振り返る先。血だらけの正太郎と、それへ剣を振り上げる剣士。思念の残滓に理性や知能は無く、『絶対者ではないと見せかける』といった正太郎の細工は通じなかったけれど。根性でカバー。出し惜しみ無し。全身全霊、知恵も力も運命も、有りっ丈を出し尽くす! 「オレはまだ倒れてねぇぞ!」 張り上げた声。そんな彼を援護するように、「待たせた」と、或いは「良く耐えてくれた」と言うように。ひゅう。風が駆けて。それは距離も硬度も問わずに断ち斬る居合の奥義。霧音が振るった妖刀の一閃。命を無慈悲に刈り取る死神の如く、剣士の身体に驚異的な一撃を叩き込む。 そこから更に剣士の身体を立て続けに穿ったのは龍治が放った呪いの魔弾だった。静かな毒の如く、蝕む呪い。けれどその痛みを返す様に振るわれたのは剣士の刃だった。空を裂く暴力的な刃が二度に渡って鋭く鋭く、リベリスタ達に襲い掛かる。鮮血がぱっと散る。呻き声、或いは舌打ち。 が。その痛みがすぐに和らいでゆくのは展開される神聖魔法。それを護るエクソシスト一人。 さっきは『タイマン』だなんて言ったけれど。正太郎は、リベリスタは一人ではない。個々の力が集まってこそ、彼等の力は2倍にも3倍にも膨れ上がるのだ。 「援護する!」 正太郎が構えた銃指より吐き出される、ばらまかれる、弾丸々々。早撃ちの射撃。剣士が防御に構えた剣に当たり、ぎんっと刃と弾がぶつかる火花が散った。そのまま振り上げられる剣が、殺意を以て轟と振り下ろされる。それは正太郎と交代して剣士の眼前に立ちはだかっていたリセリアの華奢な身体を悍ましいまでに切り裂いた。 「う、ぐあっ……!」 白い肌に咲く紅い華。ブレる視界。気付けば堅いコンクリートの床に叩きつけられていた。冷たい背中。血の抜ける感覚。視界が黒に閉じるのは、火花を散らす運命の光で拒絶して。鋭く素早く立ち上がり、剣を構えて。 「まだまだ……!」 地面を蹴って、躍り掛かる。 血を散らして。霧音が纏う緋色の『仕事着』もまた血に汚れているけれど。未だ戦える。戦える。そう。戦う為に。只々、戦う為に刀を振るう。守るでも殺すでもなく、相手を倒す為に。相手に勝つ為に。 (嗚呼――何故かしら) じわじわ、脳を焼く痛みも傷もあるけれど。死神が常にぎらぎら見張っている戦場に居るのだけれども。そこには、心なしか、愉しんでいる自分が居た。 「ふふ、そうね。力の、技のやり取りは……嫌いじゃないわ」 口元に密やかな笑みを浮かべて。 ヒトキリ『衣通姫』、罷り通る。 「――はっ!」 一閃。飛び行く斬撃。間合いを飛び越えたそれが、剣士の首を鮮やかに刎ね飛ばす。落とされた首は地面に落ちる前に、身体ごと靄となって消え果てた。 残るは重戦士のみ。戦況は明らかなるリベリスタの優勢。けれど、幸成が気を緩める事は無い。いつもの様に一切の油断なく、ロアンと共に無慈悲なる気糸で重戦士がその猛威を振るう事を極力防いでいた。 何度目か。気糸を振り解いた重戦士が十字の光のようなものを一直線に撃ち出した。幸成を半身を焼き、後方にまで届く砲撃。 それでもリベリスタ達は脚に力をぐっと込めて、踏み止まった。再度、龍治の弾丸が重戦士の加護を打ち破る。 「英雄さん、君達は幸せだった? 自分の死に満足して逝けた? 愛する人、大切な人は居た?」 終わりの見え始めた戦い。それが終わる前に、赤く濡らした口唇を手の甲で拭ったロアンが重戦士に問いかけた。返事はない。モヤモヤとしたその人型には口なんて無いし耳も無いのだから。そも、言葉を理解しているかも分からない。きっと何を問いかけても無駄なのだろう。嗚呼、柄じゃないか。こんな事を考えるなんて。 殺す事に特化した鋼糸クレッセントと舞いながら、ロアンの血色の眼差しは重戦士を見据えたまま。かつての英雄、或いは未来の誰かの姿に思うのは、憐憫か軽蔑か。どうだろう。何だろう。分からない。けれど。 「さあ、2度目の死だよ。最近身に着けたとっておきだ」 英雄に敬意を。全力を以て。 きらり。冷たい光を放つクレッセント。終わりにしよう。この技で。閃かせるは神速の細断。血と終焉。血の終焉。英雄相手に不足は無い。徹底的に切り刻もう。らしくない自分ごと。 「今度は安らかに――Amen、だ」 静かな声が凛と響き。 ――そして、静寂が訪れる。 ●いつもの様に、夜は更けてゆく 「良い経験であった」 火縄銃を下ろした龍治が、未だ硝煙のかおりが残る戦場を見渡し一つ呟いた。やれやれ。重傷者も出ず何より。任務完了。誰も彼も、武器を下ろし息を吐き。何度も見てきた光景。戦闘後の、この、疲労感と高揚感と安堵感がひしめきあう、何とも言えぬ倦怠感。 その最中、ロアンは十字架をその手に握った。神様は何一つ救ってくれやしないけど、無性に祈りたくなって。目を閉じて。妹がよくするように。神の愛とやらは不平等だ。彼らや僕ら、あの娘には与えられない。 それでも―― 「Amen」 まことに、かくあれかし。 『了』 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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