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新茶と、カエルと、かき氷

●和服少女とかき氷
「きゅんっ!!」
 ぶち撒けられたかき氷(練乳イチゴ味)。白くてらてらとしたシロップは会議室に入ってきた一同に、主に男性陣に浴びせかけられる。
 何事かと驚く一同が視線を落とすと、足元にはかき氷の容器を被った和服少女が倒れていた。
「だっ、大丈夫か?」
「うぅん、なんとか」
 和服少女を引っ張り起こすと、彼女は頭に乗った容器を取り払う。その表情はどこか恥ずかしげだ。
「えぇと。申し遅れました、わたしは本件を担当させていただくフォーチュナー。『望月 利休(もちづき りきゅう)』です。以後おみしりおきを」
 『ようかん系』望月 利休(nBNE000269)。
 ウグイス色の和服。黒髪に咲く髪飾り。この季節には似つかわしくない赤マフラーが特徴的な女性だ。
 利休は一同にかき氷を配り、紙芝居屋に扮してベルをちりんちりんと鳴らした。
「みんなあつまれー、たのしいたのしい紙芝居がはじまるよ~」
「わーい」
 利休はボードに挟まれた『今回のエリューション』という紙を引き抜く。
「今回のエリューションは、名付けて『夏の思い出 ケロンパのかき氷作ろう!』。自動でかき氷を生成し、そのかき氷を食べさせる事を目的に行動します。エリューションが満足するまでかき氷を食べ続ければ――」
 ビリッ。
 利休が紙芝居風にクリップボードの紙を引き抜いていると、引き抜き方が悪かったのか途中で一枚破けてしまった。
 しょげる利休。なだめる一同。
「よしよし、次は紙芝居用の額縁を用意してくればいいさ」
「すんすん……。ひとまず、みなさまにはE・フォースを安全に処理するため、ケロンパの作るかき氷を食べ尽くしてもらいたいのです」
 手元の資料によると、ケロンパとはカエルのキャラクターらしい。『ケロンパのかき氷作ろう!』はそのケロンパを模した家庭用かき氷機であると記されている。
「ケロンパはかき氷を食べてくれる相手を逃がそうとはしません。一度食べたらダメです。なのでエリューションを刺激しないために、当日は作戦を行う倉庫内から出られません。備品の用意と、倉庫外とのやり取りはこちらで行います。必要な物があればご連絡ください」
 身の回りの世話をしてくれるならさほど不自由はないだろう。一同はそう思いながらかき氷を食べていたが、ふと気になる言葉に手を止めた。
『一度食べたらダメです』
「……。いっ、いま食べているコレはなんです?」
 A.かき氷。
 彼女はなにも言わず、どこか遠くを見つめていた。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:コント  
■難易度:EASY ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年08月15日(木)22:36
●任務達成条件
・全エリューションの処理が完了する。

●あらすじ
・かき氷食べてください。

●作戦の流れ
・昼、集合。
・以後、エリューションの処理が完了するまで作戦活動を続ける。
・任務が完了次第、撤収。
・終わるまで帰れません。

●メモ
・頭痛や腹痛に効くお薬は各自持参すること。
・シロップなどの味付けはアークに頼むか持参すること。

●戦場
・倉庫(昼・夜)
 偶然空いていたので使わせてもらう事になった倉庫。広い。
 倉庫内中央のテーブルにケロンパが設置されているが、倉庫外に持ち出さない限りは自由に移動させても良い。
 ケロンパを処理し終えるまで原則帰れない。出前はとってもいいらしい。

●エリューション
・夏の思い出『ケロンパのかき氷作ろう!』
 フェーズ2のE・フォース。「ケロンパのかき氷作ろう!」という手回し式の家庭用かき氷機の無念を原型に持つ。
 ケロンパの元となったかき氷機は長年使われる事もなく、倉庫に押し込まれていた。そのため何よりも使われる事を望んでおり、半無尽蔵にかき氷を自動生成する。
 戦闘時の能力はそれなりに高く、相手にすると面倒。こちらから攻撃しない限りは安全。
 対処法は、とにかく生成されたかき氷を食べること。ケロンパは満足すれば消滅する。
 かき氷の性質から考えて、作戦には頭痛や腹痛といった危険を伴うだろう。またケロンパはシロップを用意してはくれない。
 
 
●フォーチュナー
・望月利休
 新しくアークに入ってきた新人フォーチュナー。縁側でお茶の似合う和服少女。
 今回は作戦説明などを任されていた。好きなかき氷の味は霙。

今回の依頼はとにかくぽんぽんを冷やさないようにしてください。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
インヤンマスター
朱鷺島・雷音(BNE000003)
デュランダル
鬼蔭 虎鐵(BNE000034)
ホーリーメイガス
霧島 俊介(BNE000082)
デュランダル
新城・拓真(BNE000644)
インヤンマスター
焦燥院 ”Buddha” フツ(BNE001054)
インヤンマスター
ユーヌ・結城・プロメース(BNE001086)
クリミナルスタア
晦 烏(BNE002858)
スターサジタリー
衣通姫・霧音(BNE004298)

●氷の部屋
 ガリガリ。
 ガリガリガリ。
 暗い暗澹とした倉庫内に響く氷砕音。殺風景な空間にぽつんと置かれたテーブル、その上に孤独な緑のEフォースが鎮座していた。
 E・フォース「夏の思い出『ケロンパのかき氷作ろう!』」は淡々と氷を削っている。ひとりでに頭のハンドルがまわり、強烈な冷気が生じる。人恋しくて招く寒気が、孤立を招くとは皮肉だ。
 一同が扉を開くと、重たげに白靄が外へ這い出した。
「寒いな……、まるで冷凍庫だ」
「あぁ。……今まで誰とも触れ合うことのなかった孤独。この倉庫は奴の心の中なんだろうな」
 『誠の双剣』新城・拓真(BNE000644)、『てるてる坊主』焦燥院 ”Buddha” フツ(BNE001054)。
 両名は息を白くしながらケロンパに近づく。すでにケロンパには氷の器がセットされている。フツはケロンパのそばに魔槍深緋を立てかけ、自前のガラスの小鉢を差し出す。
 「その器じゃ、食べたくても手に取れないだろ」

●ちべたーい!
「ヒャッハー! カキ氷だぁー!」
 ファーストコンタクトがうまく行き、ケロンパは気を許してくれた。しかし仕事はこれからである。今回の任務はかき氷を食べて、穏便にE・フォースを成仏させること。とにかくおいしくかき氷を食べることが重要だ。
「うぐぐ……、この頭が痛くなるのはやはり慣れないでござるな……」
 『家族想いの破壊者』鬼蔭 虎鐵(BNE000034)が第一関門に引っかかる。かき氷を急いで食べた時の「キーンッ」は革醒したリベリスタにも有効らしい。
「あぁあぁ、そんなに急いで食べるから」
 『百の獣』朱鷺島・雷音(BNE000003) はほこほこ微笑み、ケロンパのハンドルを陽気にまわす。
 ケロンパとのスキンシップも任務の内だ。決して雷音がカエル好きで、カエルと戯れたかったからだけではない。
「羽休めもたまにはいいものね」
 衣通姫・霧音(BNE004298) は持参したシロップ各種をテーブルに置いて準備に取り掛かる。
『どうですか? そちらの調子は』
 利休のAF通信だ。立体映像が宙空に映される。
「前の依頼の時はどうも、ね」
『はい、そのせつはお世話になりました』
「こちらは至って順調よ。そもそもかき氷を食べるだけ、だしね。貴女もどうかしら。折角だし、一緒にかき氷を楽しみましょうよ……ね?」
 霧音の笑顔、妖しさ満天。
『い、いえ、万が一のこともあるので。それより、その様子をみて安心しました。イヴさんから「変なことをして怒りを買う恐れもあるから注意……」と脅されていたので』
 ビクッ。
「お、おじさんまだなにもしてないよ?」
 『足らずの』晦 烏(BNE002858)は一同の視線が集中する中、弁解をはじめた。
「その手にある牛乳はなんだ?」
「台湾にゃ雪綿氷って言う牛乳を凍らせて造るカキ氷があってな、おじさん、一度食べてみたかったわけだ。それでケロンパにお願いできないかなと……」
「どうだろうな。少し聞いてみよう」
 すると雷音はケロンパの前に立ち、視線を合わせる。クリクリとした愛らしい瞳で見つめてくるケロンパ。しばらくして雷音は安心した様子で微笑んだ。
「うん。サイレントメモリーと異界共感じゃ意志の疎通なんてできなかったよ」
「出来なかったのかよ!」
 サイレントメモリーは無機物の『記憶を読み取る』能力。異界共感は『アザーバイド』の共感を得易くなる能力。どちらもエリューションとコミュニケーションを取る際に役に立つものではない。
「だが今のでけろんぱ君の記憶は読めた。みなさんにも内容を伝えておこう」

●休憩かねて
 暗い。倉い。cry。
 途方もない時間、暗闇の中に埋もれていた。ただ、それだけの生涯だ。
 光明が注ぐ。箱の外へ逃れ出でる。
 そこもまた倉庫という大きくて暗い箱の中、うずたかく積まれたダンボールの山の上だ。
 暗転。
 また小さな箱の中にいる。外へ出よう。
 眩い光、人の影。
 そして誰かのか細い腕が――。

 雷音はシャリシャリちべたいかき氷を食べる手を止める。
「そう――、それは他でもない。貴女ですね、望月利休さん」
「お前かよ?!」 
 雷音がスプーンを利休へドンと突きつけると利休は切々、語りはじめた。
『あれはあつい夜の事でした。わたしは滴るような汗の煩わしさに耐えかね、望月堂の倉庫にかき氷機が入っていたのを思い出して――』
 中略。
 要約、ぜんぶ利休のせい。
『……てへっ』
 てへぺろ☆。
 ――許されざるよ!
「災い転じて福となす、思い出しただけ偉いものだと思うよおじさんは」
 いただきます。
 シャリシャリと真っ白なかき氷を食べる烏。どうやら話の最中にさっさと雪綿氷を作ってしまったらしい。おじさんできる人です。
「甘い氷と練乳に対して酸味のあるフルーツ……。んんん~たまらんっ!」
 晦 烏、四十七歳。かき氷の食べっぷりに定評のある男である。
 普通のかき氷に飽きてきた一同はいよいよ本番とばかりに創意工夫ある盛り付けを披露する。
 『パラサイト以下』霧島 俊介(BNE000082)は抹茶シロップに、小豆と白玉を乗せて宇治金時に。
「うんうん、豪勢に見える。抹茶の苦味がアクセントになって、まだ、食え、るは、ず……」
 顔面蒼白。
 スイーツ男子には程遠い。冷たくて甘い。あれこれ工夫してもその一点に変化はなく、甘党ではない俊介は早くも雲行きが怪しい。
 『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)は一方、なんだか楽しげにトッピングしていた。
「うーぬはなんのシロップだー?」
「私もただのシロップ味に飽きてきたところだ。パフェ風味、一緒に作るか」
「作る作る!」

●あまーい!
 段々と一同のスプーンを置いている時間が増えてきた。拓真もまた手を止め、空になった小鉢を眺める。
「ほう……。これは中々趣があって良いな、流石だ」
 わずかに青みがかった器には、螺旋模様が掘られていた。このくぼみがすべり止めの役割をしているのだろう。拓真が小鉢を眺めているのに気づくと、琢真の隣に腰掛ける。
「この日の為に購買部で買ってきたガラスの小鉢だ。職人の手作りらしい」
「そうなのか? 結構いろんなモノを売ってるもんだな、購買部」
「これでも結構高かったからなぁ。こうして活用できてよかったぜ」
 日用雑貨をお求めの方はどうぞアーク購買部へ。

 拓真とフツはボーイズトークに花咲かせ。ユーヌと俊介はパフェ盛りかき氷作り。烏はどこかへ電話。霧音はなにやらAF越しに利休とお話中である。
 出来るリベリスタはその隙を見逃さない。虎鐵はケロンパと戯れる雷音に迫る。
「雷音! 雷音!! 拙者にあーんするでござる!!」
「こら! 人前だぞ! おとなしく! ステイ!!」
「せっかく有給同然の任務で羽を伸ばせるというのに、今あーんしなくて何時あーんするでござる!! 一回だけ! 一回だけ!!」
 鬼蔭 虎鐵三十四才、甘え盛りの食いしん坊である。余り騒がれると注目が集まる。雷音は仕方なしとため息をつき、こほんと咳払いした。
 片目をつぶり、気恥ずかしさを堪えて檻の中の猛獣に生肉を与える。
「ほら、あーん」
 ぱくり。
「ああ……、美味いでござぅ! 美味でごーざーるーっ!」
 どっかーん。
 背景では火山が大噴火、マグマの弾雨が降り注ぎ、ティラノサウルスやヴェロキラプトルが太古の森を逃げ惑う中、氷河期が到来してマンモスが跋扈、原始人間コテツが雄たけびをあげる。
「ぶっかけ練乳イチゴ味のどぎつい甘さと、198円の桃缶が織り成すハーモニー。例えるならば酸味の強い林檎を使った、アップルパイのようでござる……」
「うぅ、いい大人が、恥ずかしいっ!」
 公衆の面前で電信柱に粗相する犬の飼い主の羞恥心にも似た雷音の赤面など露知らず、原始人間コテツはマンモスのてっぺんでかき氷を手に歓喜感涙する。
 が、虎鐵はすぐに真顔に戻り、キリッと雷音にナイスマイルで頼む。
「では拙者もお返しにあーんでござるよ」
「えっ?!」
「ほらほら、溶ける前に早く」
「う、うぅっ」
 雷音は唸る。あのリアクション芸を見せ付けられた後では何をやってもプレッシャー大だ。
「あ、あーんっ……」
 渋々と小鳥のようにかき氷を啄ばむ。
 無論、味そのものはとっくに飽きてるわけで、虎鐵のように大げさに喜べる筈もなく。
「ははは、こうして見ると親子が逆の様だな、朱鷺島」
 拓真はまるで削りたてのカキ氷のようなふわっとした笑顔をみせた。ユーヌに至ってはなにも言わず、ただ無言で二人の様子を微笑ましそうに眺めている。
 万事休す。哀れ雷音、千尋の谷へゴートゥヘル。

 子犬だ。
 俊介の「どうする愛する?」な瞳のおねだりにユーヌは折れる。
「……物欲しそうだな、ほら」
「あーん!! ん! うーぬのかき氷もデリシャス! これなら甘ったるくても何杯でもいける」
 傍目には甘ったるい光景なのだが。
「なんだ、甘いモノに飽きていたのか? なら……」
 ユーヌは氷の上にどっさり塩を降らせた。スイカに塩は定番だけど、塩かき氷はつちのこ味だ。
「しょっぱくしてみた」
「……」
 どうする、俊介。
 A:食べる。
 B:食べて。
「Cで!」
 C:食べろ。
「あーんして」
 ユーヌに差し出された以上、男・俊介に選択肢はないのだ。マーライオンになる他ない。
「あ、あーん」
 ずぶっ。
「!」
 塩だ。適当に作って塩が一箇所に固まりまくったおにぎりよりしょっぱい。海水をまるごと氷付けにしたような深海のミネラルが愛というスパイスの幻を徹底的に打ち砕く。
 青春って甘くてしょっぱいネ。

「本官もあーんしてくれる彼氏が欲しいです、わふっ!」
「!? だれ?!」
 警察犬。
 否、ビーストハーフ:イヌの婦警さん、犬沢 巴だ。くりんとカールした柴犬っぽい尻尾をはたはた揺らして、ユーヌと俊介の甘しょっぱい食べさせっこを見守っていた。
「ズヴァリ、おふたりは恋人同士?」
 ユーヌと俊介は顔を見合わせ、以心伝心、愛コンタクトをかわす。
 俊介は想い人が他に居るわけで、ユーヌとは友人関係に他ならない。婦警の勘違いなわけだ。
「はは、参ったなぁ! うーぬ、俺たち恋人にみえ」
「親友だ」
 1カメ。横顔で。
「親友だ」
 2カメ。正面アングルで。
「親友だ」
 3カメ。口許だけにクローズアップして。
 たった一言が体感三倍の迫力で轟く。俊介の頬を、冷たい汗が伝い落ちた。

●シロップソムリエ
「おぉ、早かったね犬沢さん。呼んどいてなんだけどおじさんビックリ」
「ごぶさたしてます、わふ」
 恭しく頭を下げる犬沢さん。
『もしもし、犬沢君? 最近暑いよなぁ。かき氷食べ放題のイベントがあるんだが来るかい?』
『はい、よろこんで!』
 チョロっと一本釣りしたら巴は初カツオのように豪快に食いついてきてくれたわけだ。
「可哀想に、何も知らないで」
「わふっ?」
 保健所に連れていかれる野良犬を見るような憐憫の眼差しが注がれる。
 せめて早く解放してやろう、一同は〆の利きシロップ大会を行う事にした。

 半々の四人ずつ、はじめに挑戦するのは雷音、フツ、ユーヌ、烏だ。
『シロップは実は味は全部同じなのだぞ』
 事の発端は、雷音の発言。
『色で、味が付いていると錯覚するのだ』
 目隠しをしたら本当に味がわからなくなるのか? 今回それを試してみようというわけだ。
 いざ実食。
 ほむっ。
「……、自分でいっておきながらなかなか難しい……」
「うおお、マジだ! 判りづらっ」
 悩む雷音、驚愕のフツ。
「ふむ、目隠しで色が判らないと全然判らないな」
「色や匂いで味覚が誤魔化されるんだから、人間ってのは不思議だわな。さっぱりわからん」
 ユーヌ、烏も同じく検討がつかないらしい。
 いざ回答。
「メロン、かな?」
「ストルォォォォベリッ」(巻き舌)
「適当に勘で……バナナ?」
「おじさんはブルーハワイで」
 正解はいちご味。
 回答を示そうと巴は手にしたイチゴシロップを高々と掲げる。
「正解は……! ふぁ、くしゅん!!」
 ぐしゃっ、ぷしゃーっ。
 シロップ液が宙を舞い、霧音を襲う。
「きゃっ?!」
「さーて正解は……」
 四人が目隠しを外すと、至るところを真っ赤に染めた霧音がぺたんと床に八の字座りしていた。
「ひぃ?! 鮮血味!?」
「正解はイチゴシロップ……よ!」
 逆襲の霧音。
 練乳のチューブを握り締め、魔弾の射手たる正確無比な狙いで犬沢 巴に白濁をぶっかける。
「わっふ!」
 超反射神経で不意打ちをギリギリかわす。所詮は練乳、正確であっても弾速は遅い。
「危ないでござる!」
「わ」
 どさっ。雷音の身代わりになった男の中の男、虎鐵の練乳がけの出来上がり。
 この絵面、もはや犯罪だ――!
「うう、汚されてしまったでござる……」
「あーうん、これが本当のホワイトタイガー」
「……」
 拓真の何か言わんとする鋭利な視線が、死ぬほど中年ふたりに突き刺さった。

 今度は虎鐵、拓真、霧音の三人が挑戦する番だ。トッピングは俊介である。
 席につき目隠しをして正体不明のかき氷Xを食べてみるがやはり難題だ。
「ふむ、色として味覚が錯覚するっていうのは……人間は面白いでござるな」
「いちご、いや、レモンか?」
「これは……レモン?」
 俊介はニヤニヤ笑い、前半挑戦した四人は戦々恐々とする。なにせ、俊介が悪ノリしてアレコレ混ぜた結果できたキメラかき氷というべき代物である。
 それは悪夢の産物だ。
 烏のカルパス(カル○スってこれのこと?)とユーヌの塩、雷音持参の桃缶ダイス切り、虎鐵のレモン、コーラ、メロン、拓真の巨峰、オレンジ、パイン、霧音のコーヒーと黒蜜、マンゴーシロップ、俊介のいちご。それらをゴテゴテにデコ盛り、器はフツのあつらえたものを用いた。
 ケミカルな七色に輝くキメラかき氷は、いちごでもありレモンでもある。一であり全。全であり一。それはもはや神秘の領域に達していた。
 というか、E化してた。
 けど実食。
「ござぐぼぁ!」
 虎鐵、殉職。
「ごほ、けほっ」
 拓真は熱いお茶をすぐさま呑み、腹痛薬を飲んで事なきを得る。
「……一気に食べたせいかしら、頭が痛く……」
 霧音、撃沈。
『マンゴォー! いちーごー!』
 三つのキメラかき氷がトロピカルな叫び声をあげて合体、凶暴化した。完全に革醒してる。
 断罪の視線が俊介に集う。
「……てへぺろ☆」
 火に油。
 凍てつく怒りを刃に宿して、拓真は二対の剣を閃かせた。
「正解は――」
 激烈な衝撃。メガクラッシュ。
「自分で確かめてみろ!」
 そして特盛りキメラかき氷を、俊介の口というゴールポストにシュートした。
 俊介、自滅。

●「ごちそうさまでした」
「あっ! 本官はそろそろ戻らないと。今日はパーティーに呼んでくださってありがとうございました! しゅた!」
 巴はキメラかき氷との戦いで死屍累々の一同に礼を言うと、足早に出入り口へと走っていく。
 マズい。今ケロンパを刺激して、万が一にも交戦することにでもなったら、今の一同では苦戦必死だ。
「犬沢さん待った!」
「それではまた合いましょう~! わふっ!」
 開門。巴はそのまま炎天下の外へと出て行ってしまった。
 妙だ。「ケロンパは捕らえた獲物を逃がさない」、利休からはそう教えられている。だが、ケロンパは微動だにせず、巴の背中を何もせず見送っていた。
「……そういうことか」
 雷音はつぶやく。一同ははじめその意味がわからなかったが、雷音がケロンパに手を合わせるとようやく理解できた。
 ケロンパは既に成仏していたのだ。
 「ごちそうさまでした」。
 一同はそろって手を合わせると、静かにE・フォースの最期を見取った。

●おまけ
「みなさま、お勤めごくろうさまでした」
 一同が戻ると、利休はあったかいお茶や毛布を用意して待っていた。とはいえもっとも衰弱している俊介は、すでに自前の布団に伏せっている。
「ふぅ……。ありがとう、おかげでだいぶよくなったわ」
「いえいえ、わたしにできるのはこれくらいですから」
 霧音は薬を忘れていたので、利休から薬と毛布を貰って医務室で横になった。冷たい倉庫内でも時折眠気を感じる事があったが、霧音が今感じている眠気とは別モノだろう。
「……あのかき氷機、これからどうなるの?」
「みなさんの希望もあり、とりあえずアークの備品として置いておく事になりました。少なくともこちらで使えば、あんな理由で革醒する事もないでしょう」
「そう、それはよかった……」
 霧音はそれだけ聞くと、すぐに眠ってしまった。利休はそっと霧音の毛布をかけ直すと、医務室を後にする。
「あの二人、もう寝ちゃった?」
「えっ?」
 利休は振り返ると、そこには見舞いにやってきた一同の姿があった。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
おかえりなさいませ。

今回は今回で、一同は思ったよりも苦労させられていたようですね。
とはいえ任務は無事完遂され、目的は達せられました。

今回の依頼が【成功】です。

ケロンパは元通りに普通のかき氷機に戻り、アークの食堂に時折顔を出す事しょう。
はじめの利用者になるのは一体誰でしょうね。
忙しくてお揃いのかき氷を食べ損なったあの人?
それとも志半ばで倒れ、利休に効きシロップをさせられなかったあの人でしょうか。

そういえば、今回はとても斬新なかき氷の味が出てきましたね。
塩かき氷を筆頭に、カルパス、キメラ。
現実的に試す事ができるのは塩かき氷くらいでしょうか、少なくともカルパス入りを食べる勇気は私にはありません。

医務室にわざわざお見舞いに来てくれる仲間がいるというのはいいことです。
それでは次回の依頼でお会いしましょう。
次の機会がありましたら、どうぞよろしくお願いします。