下記よりログインしてください。
ログインID(メールアドレス)

パスワード
















リンクについて
二次創作/画像・文章の
二次使用について
BNE利用規約
課金利用規約
お問い合わせ

ツイッターでも情報公開中です。
follow Chocolop_PBW at http://twitter.com






生存は罪である

●その罪忘るるなかれ
 『目』が、俺を見る。紫に染まった顔、見開かれた目蓋、そして恐怖と命乞いの目。
 そいつは縊られた喉から掠れた声を出して、助けを求めている。
「誰も来やしない。そういう場所だ」
 俺を見る目から光が失われていく。絶望してなのか、単なる酸素と血液の不足なのかは分からない。
 汗のにじむ手に力を入れる。親指がぬるりと喉へ入り込んだ。
 
「……終わった?」
「ああ、春昭……終わったよ」
 少し驚きかけながら、春昭の存在を思い出す。俺の友人。今となっては、唯一の。
「捨ててくるよ」
 春昭はただの荷物のように死体を抱える。
「……すまない」
 喪失感、罪悪感、疲労感。運ぶ気力は、起きなかった。
 夜の暗闇の中に春昭が消えて行く。少しして、大きな物が水に沈む音。それが3回。
「帰ろう、将仁」
 全てを終えた春昭が呼びかける。
 将仁……俺の名前だ。春昭が呼ぶのだから、そうだ。
「そうだな、帰ろう」
 
「――なあ、春昭」
 帰り道、どうしても思い出せない事を春昭に聞こうとする。
「今日は3人、トータルで41人だよ」
 答えはすぐに返ってきた。まるで最初から答えを用意していたかのように。いや、もしかして――
「俺、昨日も聞いたのか?」
「うん」
「その前も?」
「うん」
 俺が思っていたよりずっと、俺の記憶は深刻な状態らしい。
「……いつからか、分かるか」
「先週くらい。もしかしてと思ったんだけど、将仁……」
「いや、言わないでくれ、分かってる。おかしいとは思ってたんだ」
 『あの日』から、俺の記憶はゆっくりと抜け落ちている。
 
●運命の愛し方
「今回の仕事はエリューションの討伐、フィクサードの討伐、アーティファクトの破壊、または回収、の3つだ」
 『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)は話を始めるなりそんな事を言い出した。
「……生憎と全部セットなんでな。少々大変だろうが……全部やって貰う」
 いまいち話の掴めないリベリスタに、伸暁は要件を説明する。
「先月から発生している連続殺人事件。既に犠牲者は40を超えている。
 で、これの犯人がノーフェイスと化した元一般人、勝城将仁。加えてアーティファクトの所持者だ。
 殺害には直接関わってないものの、共謀者の比芽春昭。こいつはフィクサードだ。
 2人は友人であり、多くの場合共に行動している」
 ここまで分かったか? と伸暁は一度リベリスタを見回す。リベリスタが返事をする前に伸暁は話を続けた。
「先月までは2人共普通の人間だったんだが、ちょっとしたエリューションの事件があってな。そいつらは『あの日』なんて呼んでるようだが……
 それに巻き込まれ死の淵を彷徨った結果、革醒したようだ。……1人はフェイトを得て、もう1人はフェイトを得ずに」
 伸暁は思い出したように手元の端末を操作して、少し思案した後その操作を取り消した。
「他に知りたい事があれば渡してある資料を確認してくれ。見ない方が楽にこなせるかもしれないしな。
 ……やる事自体は簡単だ。全部倒せばいい」
 あまり難しく考えるなよ、と伸暁は最後に付け足した。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:源氏衛門  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年08月09日(金)22:05
 ご無沙汰しております。源氏衛門です。
 これ以上の犠牲者を出さないために。
 
●成功条件
 敵の全滅。
 アーティファクトの破壊、または回収。

●場所
 人気のない路地裏です。彼らの活動時間を考えると、時間もまた夜になるでしょう。
 そのまま戦うには若干暗いかもしれません。

●敵
 
 勝城将仁(カツシロマサヒト)
 ノーフェイスの男です。武器として鉄パイプを所持。
 非常に正義感が強く、誠実な人柄ですが、エリューション化の影響で生まれた殺人衝動に苛まれています。
 最初はその衝動を抑え込んでいたものの、それが限界を超えた結果ノーフェイスとしての『勝城将仁』が一時的に精神の主導権を奪取し10名を殺害。
 その後は衝動が限界を迎える前に『必要最小限』の人間を殺害しています。しかしその数と頻度は時間と共に増える一方です。
 更に記憶も失われ始めているため、春昭を友人としてだけでなく唯一の過去との繋がりとしても大事にしています。
 
 スキル
 ・殴打(物近単、ブレイク)
 ・絞首(物近単、麻痺)
 ・追憶(神自、物攻物防上昇、BS回復50%)
 
 比芽春昭(ヒガハルアキ)
 フィクサードの男、ジーニアスのナイトクリークです。武器としてサバイバルナイフを所持。
 その性格は将仁の影響を大きく受けており、比較的まともな性格です。
 しかし道徳観などが若干歪んでおり、大体の場合においてルールよりも将仁が優先されます。
 原因としては過去に命を将仁に救われた事に加え『あの日』において将仁を救えなかった事、などがあるようです。
 神秘について多少の知識があり、将仁がフェイトを得られなかった事も理解しているようです。
 将仁を止める気は一切無く、最期まで見守り、協力するつもりでいます。

●アーティファクト
 『背徳者の権利』
 歯車を模したペンダントです。将仁の首にかかっています。
 『背徳者の権利』は所有者の罪悪感を糧として所有者に力を与えます。
 その他自死の抑制などアーティファクトにとって都合の良いように所有者を操る細かな効果があるようです。

●if
 もし、先に将仁が倒れれば、春昭はアーティファクトを手にするでしょう。
 もし、春昭が先に倒れれば、将仁は過去……つまり自分自身を失います。


 彼らは生きる事、というより自らを証明する事に頑固です。
 勿論会話は可能ですが、彼らには彼らの矜持があります。
 仕方のない事です。事件に終止符を打ちましょう。
 皆様よろしくお願いします。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
マグメイガス
シルフィア・イアリティッケ・カレード(BNE001082)
デュランダル
歪崎 行方(BNE001422)
クリミナルスタア
晦 烏(BNE002858)
ダークナイト
熾喜多 葬識(BNE003492)
クリミナルスタア
遠野 結唯(BNE003604)
スターサジタリー
三影 久(BNE004524)
クリミナルスタア
篠ヶ瀬 杏香(BNE004601)
インヤンマスター
深崎 冬弥(BNE004620)


●闇の中へ
 ぽつぽつと立っている街灯の明かりが、路地を薄く照らす。
 噂話か報道か。先月からの殺人事件を耳にしたのだろう、通りを歩く人々は皆早足だ。
(未来無き存在が、他者の未来を奪う事は許される事じゃないが……奴なりに殺める人数を減らす努力はしている、か)
「……やれやれ、面倒くせぇな……」
 三影 久(BNE004524)はため息をつく。
 街を彷徨う半端者の殺人者を止める。そのためにリベリスタはここにいる。
「ノーフェイスか……これ以上放置しておけば、もっと多くの犠牲が出る。
 ……という事でもある。討つしかない、な」
 仕方なし、と深崎 冬弥(BNE004620)が見上げた黒い空を白い煙が薄っすらと染める。
「叶うならば二人とも救い出してやりてぇがな」
 やんぬるかな、ままならぬが世の中か。
 ならば、志しだけでも継いでくれるなら良いんだがな、と『足らずの』晦 烏(BNE002858)が煙草でもう一度空を白く染める。
 革醒し運命に愛された者と、愛されなかった者。こういった手合いは実によくいる。だが……。
「記憶がなくなっている、か」
 つまり、記憶の四大機能と成る内の保存が出来ていない筈だ。
 心が死につつある……滅ぼしてやる。身も心も。『アヴァルナ』遠野 結唯(BNE003604)は沈黙の中思考する。
「生存が罪なら殺しは悪、二つ合わせて罪悪。
 罪悪の彼岸なんてすぐそこで手を拱いて待っているようなものだよね」
 殺人衝動なんて、どんな生き物でも持っている生存本能だって思ってるけどね、と『殺人鬼』熾喜多 葬識(BNE003492)は付け加えた。
「終わってしまった現実と。逃避の為に重ねる殺害数と。
 ただ一ついえるのは。終わってしまったものの延長をいつまでもやられても困ると、いうことデスネ。
 さあ終わらせるデス。路地の裏にて人知れずひっそりと」
 『飛常識』歪崎 行方(BNE001422)の見据えた先で、二つの影が蠢く。彼らと事件の幕を閉じなければならない。


 『あの日』――。
 彼ら、勝城将仁と比芽春昭がエリューションに襲われた日。
 フォーチュナから烏が受け取った資料には、その日の事が記録されていた。
 地下鉄にいた二人はトレンチコートの男に襲われ、重症を負う。
 とどめを刺される直前で今度はトレンチコートの男が襲撃を受け逃走。
 トレンチコートの男は恐らくノーフェイス。男を襲撃したのは恨みか何かを持つフィクサード。それ以上の事は資料には残っていなかった。
 
「こんばんはー☆こんな夜に散歩なんてなかよしだねぇ」
 葬識が彼らに向け挨拶してみるも、小さなやり取りが聞こえただけで返答はない。
 リベリスタが包囲の確認をもう一度終えてから、烏が再び影に潜む二人に呼びかけた。
「勝城君、比芽君、二人共ちょっといいかな」
 少しの間をおいて、ゆっくりと将仁と春昭が出てくる。
「あんたら……」
 少しだけ将仁は考えたような顔をして、すぐに春昭の方を見る。春昭は首を横に振った。
「……誰だ?」
「一応は正義の味方さ」
 烏は肩をすくめて嘯く。正義の味方という言葉を聞いて、将仁は眉をひそめた。
「……既に気がついていると思うが、もう勝城君の残された時間は限りなく少ない。
 完全に記憶を失っちまったら、二人を襲ったあいつと同じ存在になっちまう」
「……」
「その有様は勝城将仁の信じる正義と言えるのか」
「……違うだろうな」
 将仁はそれだけ言って口を噤んだ。何か言おうとする様子はない。烏はもう一人の方に顔を向ける。
「比芽君もだ、勝城君がこのまま自我を失ってしまって良いのか。
 二人の身の上に降りかかった悲惨な出来事を、よりによって勝城君自身の手で引き起こさせるのか」
 春昭はその表情に敵意を浮かべつつも答えない。
「友達であるならばこそだ、勝城将仁として生を終わらせる事で彼を救ってやってはくれないか。
 その役目はおじさん達より比芽君こそが相応しい、友であり、彼を一番良く理解している相方である君がな。
 そして、彼の志しを生きた証を継いでやってやれ」
「――できない相談だ」
 素っ気なく答えた春昭が将仁をそっと見ると、将仁が口を開いた。
「これは決して正義じゃない。だが、既に俺は自らの意志で人を殺めてしまった。もう、遅い。遅いんだ」
 戻れないのなら、進むだけ。将仁は戦う構えを取る。春昭もそれに合わせた。
「説教しに来たわけじゃないんだろ? 俺は生きるつもりだ。どうなろうとも」
 将仁の言葉と共に、胸のアーティファクトが淡く輝いた。


「殺人衝動に耐え切れぬノーフェイスか。フッ……これならば良心の呵責など無い」
 いざ始まらんとする戦いに、『虚実之車輪(おっぱいてんし)』シルフィア・イアリティッケ・カレード(BNE001082)が『切り替わる』。
「勝城将仁……もうそろそろ、気付いているんじゃないか」
 記憶の欠損、強くなる衝動。
「自分が自分では無くなっていく。……そう遠からず、完全に駄目になると」
 それだけじゃない、衝動を抑える為だけの殺人……精神的にも限界だろう。
 ――最後に残った彼さえも手にかける日は、そう遠く無い筈。
「だから――君を殺す。君がそうなる前に、これ以上の犠牲を出さない為に」
 冬弥は覚悟を決める。
「ノーフェイス、勝城将仁……お前に残された時間は長くない……。
 だから、今ここで……人として殺してやる」
「別に何の恨みもないけどさ、あたしゃアンタを殺さなきゃいけないのよ。
 わかってくれなんて言わないさ、それこそ偽善ってやつだしね」
 作業灯を点ける久と、暗視ゴーグルを弄ぶ篠ヶ瀬 杏香(BNE004601)が告げる。
「アンタが一般人を手に掛けなきゃ、あたしも少しは同情ってヤツを感じたかもしれないけど。そうじゃないからね。
 後悔やら自己嫌悪があるなら犬にでも喰わせな、何の役にも立たないよ。
 ま、やっちゃったことをどうこう言っても仕方ない。
 とりあえず、殺し合おうか。
 あたしゃアンタを殺すつもりだけど、アンタがあたしを殺すかもしれないし。なるようになるさ」
 自分と相手の命で賭け事をするかのように。杏香は事も無げにそう言った。
「ああ。行くぞ」
 走り近付く将仁。その眼に籠められた明確な殺意にリベリスタは応戦を開始する。
(外部から受ける暴力的なまでの欲求、それが衝動。
 それが殺人に向くとは、まさに暴力的な欲望だな。
 しかも己の存在の証明とは……それ自体を否定するつもりはない)
「私は異常者を狩る事で、己の存在を証明しよう」
 後方から結唯がアーティファクトを射撃する。烏もまた狙いを同じに銃弾を放った。
 不断の十字砲火が突っ込んでくる標的を交差した。掠めた射線が彼の衣服や皮膚を小さく弾き飛ばす。
「頭でも心臓でもなく首、とは変わってるな」
 将仁は訝しげに防いだ一部の弾丸を投げ捨てる。
 攻撃が来る前に。冬弥は素早く印を結ぶ。リベリスタを護りの結界が覆った。
「安心しろ。私達は『正義の味方』だ。貴様の殺人衝動……今日此処で止めてやろう!」
 思ってもいない『正義の味方』なんて単語をシルフィアは混ぜ入れ、煽るように言う。
 詠唱を開始し四種四色の魔光を生み出し、放つ。それらは夜の闇を貫いて、将仁を襲う。
 その魔光に貼り付くようにして突っ込んだ行方はその手の肉斬リと骨断チに力を漲らせ、一切の遠慮無く将仁に叩き付ける。
「すでに終わり、世界からはみ出した存在が。世界に許され存在していた者を切る、と。
 ああおこがましい、そして図々しい。さあさあ世界の一部、街の夜。それに飲まれて消え去る時がきたデスヨ。アハ」
「将仁!」
 叫ぶ春昭。骨の軋む音と共に将仁は叩き飛ばされ、彼らが引き離される。
 すぐさま助けに行こうとする春昭の行く手には杏香が立ち塞がった。
 向かってくる葬識に将仁が鉄パイプを大きく振り下ろす。体の芯を貫くような衝撃が葬識を通る。葬識は怯む事なく一撃を返す。
 昏い魔力の秘められた歪な大鋏でその魂ごと切断するように。大きく開いて、閉じる。
 ――人を殺す罪悪感。
 普通はあるんだろうね。俺様ちゃんは生き様が殺すことだ。と目の前のノーフェイスを葬識は見る。
 お互いの矜持がぶつかれば、より強い矜持のほうが勝つことができる。葬識は笑みを浮かべた。
「楽しそうじゃ、ねえか」
 忌々しげに声を絞り出す将仁の右腕が伸び、左腕が伸びる。両手を行方の首に添え、右膝で突き飛ばす。
 細い首を、その白い肌を握り潰すように。痛苦から逃れるべく行方はもがく。
 覆い被さった将仁の首にアーティファクトがぶら下がり、宙を振れている。
 狙いを定めていた久は逡巡する。勝城将仁とアーティファクト。今狙うべきは……
 決断。久の放った刃は放った刃は小さなコインを射抜くようにして、アーティファクトの鎖を吹き飛ばした。
「――狙いはペンダントか! 道理で……」
 咄嗟に将仁は行方から手を離し、千切れ飛ぶペンダントを掴もうとする。
 刹那、ペンダントがもう一度吹き飛ぶ。――烏の二五式・改から排出された薬莢がからんと地面に転がった。
 ほぼ同時に放たれた結唯の弾は将仁を行方の上から突き飛ばす。
 飛んで行くアーティファクトを葬識がキャッチ。
「いえーい☆げっとー! まかせた☆」
 アンドリリース。放物線を描いて、将仁から遠い後衛の元へ。
「全く、こんな厄介な代物……どこで手に入れやがった……」
 その記憶も、恐らくもう残ってはいない。回収されたアーティファクトを見て久はぼやいた。


「将仁!! クソッ、どけよっ!」
 がむしゃらに振り回されるナイフ。春昭は明らかに苛立っていた。
 杏香のブロックで将仁を助ける事もできず、杏香が攻撃をして来ないため本格的な攻撃もし難く。
 自ら仕掛ける事に躊躇する。……それは春昭の戦闘経験の浅さから来る甘さだった。
 脅すように軽く斬り付けても杏香が退くはずもなく。
「……恨むなよ」
 散々迷った後、やっと苛立ちが迷いを屈従させた。
 縦横無尽に広がる気糸が杏香をターゲットした。
 

 将仁の息は荒い。流れる血液、奪われる体力。そして彼にはもうアーティファクトが無い。
「勝城将仁、やがてお前は意思を失い無差別に人を殺戮する存在になるだろう。
 お前は……お前達は自分が味わった理不尽な事件を、他の誰かに味わわせてはいけないんだ」
 限界が近いのだろうか、久に将仁が素直に応答する。
「そう、なのかもしれない」
「ねえ、勝城ちゃん、君はもうこの世界に見放されてる、殺すしかないんだ。で、比芽ちゃんに伝えたいことがあるなら今しかないよ。
 伝えたい矜持は伝えなよ。ソレくらい覚えてるでしょ? 君からじゃないと無意味だ」
 葬識が将仁の目を見る。彼は沈黙し、自らの手のひらを眺める。赤。……彼は何かを覚悟したように見えた。
「……春昭」
 春昭の動きがぴたりと止まる。遅れて、顔がそちらを向く。
「罪を重ねてしまった俺に言える事なんて少ない。だから一言だけだ。いいか」
「……」
「死ぬなよ、春昭」
「分かった」
 それ以上は交わさない。
 ――きっと、彼らにはそれで十分なのだろう。
 
「比芽春昭……お前にも罪は有る。
 お前がしたかった恩返しは、殺戮の助長じゃない筈だ。お前を救った勝城が、お前にして欲しかった事はこんな事じゃない筈だ。
 人としての勝城の意思を継ぎ、人を助ける存在になる……それこそが、勝城に出来る本当の恩返しじゃないのか?」
「比芽ちゃん、見守るとかいってもフェーズがあがったらそのこにもう意思はなくなって、君が餌になるんだよ。
 正義感の強い『ほんとう』のそのこはソレを是とするの?」
 久と葬識が問う。春昭は表情を動かさない。
「時間が無い、選べ。
 勝城将仁を人として終わらせ、魔を狩る道に歩むか。
 勝城将仁に救われた命を、魔と化した勝城将仁の手によって奪われるかを」
「僕はやらない。それだけだ」
 久に返ってきたのはぶっきらぼうな答えだけだった。

●闇の中へ・2
「お互いを信頼するのは構わないのデスガ、相互依存は良い事にならないデスネ。
 ここで断ち切ってしまって、新たな道を歩き出して欲しいものデス」
(別に彼の為なんて思ってないデスケドネ)
 行方が嘲るようにして二振りの包丁を最大限の力で叩き付ける。受け止めた鉄パイプはぐにゃりと曲がってしまった。
 シルフィアが造り出した魔力の塊が、隙間なく連なり炸裂する。その衝撃に将仁は膝をつく。
 風前の灯火。辛うじて立ち上がる将仁に冬弥が斬りかかる。
「君は『勝城将仁』だ。絶対に忘れるな。――『私は忘れない』」
 ナイフから放たれる連続された斬撃を耐える力はもはや彼には無い。
 ズッ……と滑り込む刃。それは心の臓を貫いて。『勝城将仁』の意識は闇へと沈んで行く。
 くずおれるノーフェイス。……勝城将仁はもう居ない。
(……すまない、とは言えんな)
 冬弥は心の中で呟いた。
 
 ――ぼうっとしている春昭に、シルフィアが聞く。
「そこの男。ノーフェイスは死んだ。この後、貴様はなにをする?」
「……どうすればいいんだろうな」
「何もすることがないのなら、どうだ? そこのノーフェイスが成し得なかった正義とやらを、お前が引き継ぐのだ。
 勝城将仁という人間が居たとお前が証明してみせろ。
 貴様のように歪んだ常識を持った奴など、私達の中には山程居る」
「遠慮しておくよ」
 間をおいて春昭は話しだす。
「――ただ『生きれば』いいのなら、あいつは生きろと言う。
 でも、僕は『死ぬな』と言われた。僕はその意味をよく理解している。
 生きる事はできる。今日の事を仕方がないと諦めて、あんたらと一緒に行くのなら。
 だが……あんたらが『勝城将仁』を奪ったのを仕方がない事なんだと諦めたら。諦めてしまったなら。
 それは屈服だ。屈服は精神の『死』だ。
 僕はあんたらの仲間になる事はできない。そこに僕の『正義』はない」
「フン。フィクサードとして生きるならそれも善し。私達が貴様を殺しに征くだろう」
 それを聞いて春昭は笑った。
「待ってるよ」
 どろりと溶けて影の中へ。追うにはもう遅い。
 『友人』を失い『正義』を手に入れて。フィクサードは夜の闇へと消え去った。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 お疲れ様でした。
 将仁君は無慈悲に滅多打ちのフクロにされてしまいました。ボコボコです。素敵。
 春昭君は敵でも味方でもない者としてどこかへ行ってしまいました。放置プレイ。
 アーティファクトが真っ先に回収された事で能力ブーストを奪われてしまった将仁君。
 おかげで多分春昭君が輝けるはずだった見せ場も没収。でも、こういう容赦の無さ好きです。
 またお会いしましょう。