●最早猶予はない アークの本部は緊張した空気に包まれていた。 重要拠点である三ッ池公園を制圧した『親衛隊』は、特異点である『穴』を利用して革醒新兵器を強化しているということだった。 さらに、彼らは新たな動きも見せている。 時間を与えれば脅威はただ増していくばかりだろう。 無論、キース・ソロモンによる宣戦布告の時刻が迫っているのもその1つだった。 しかし三ッ池公園という第二の重要拠点を得たことで、彼らにも荷物が増えたと言える。 アークが立案したのは三ッ池公園と太田重工、2つの拠点を同時に攻める作戦だった。 公園奪還の作戦を陽動として、手薄になった本拠を陥落させるのが目的である。 太田重工と主流七派の兼ね合いについては時村沙織が<逆凪>に働きかけて、静観の構えを取らせることに成功したという。 この決戦はアークのみならず、世界平和にも影響を及ぼすものになるだろう……。 ●ブリーフィング アークのブリーフィングルームに集められたリベリスタに、『ファントム・オブ・アーク』塀無 虹乃(nBNE000222)は落ち着いて説明を始めた。 「皆さんには太田工場の一般倉庫を制圧していただくことになります」 サイズ自体は隣にある大型倉庫のほうが広いだろうが、製造ラインのある工場からコンベアでつながっている倉庫には、作成されたばかりの製品が置かれている可能性が高い。 守っているのは、『親衛隊』のギルベルト・ホーデンシャッツなるスターサジタリーだ。 過去に交戦した際、『アイゼンフランメ』なる重火器を所持していることがわかっている。 アーティファクトではあるが、特別な効果はない。ただ単に威力と精度が非常に高い、それだけの代物である。 「とはいっても、当人の実力も高い以上、脅威であることは間違いありません」 その他に、レイザータクトのグスタフとホーリーメイガスのゲープハルトは彼の配下の中でも高い実力を誇っている。 グスタフは『切り札』なるEXスキルを持っており、ダメージはないものの広域に作用して攻撃力や防御力、速度を大きく削ってくる。 ギルベルトと腹心2人は実験研究室側の壁際中央付近に作られたブースにいる。倉庫内外を観察できる監視カメラの映像を映すテレビがそこに並んでいるからだ。 もちろんその他にも護衛のフィクサードは配置されている。 「手薄になったとはいっても、拠点ですからそれなりの戦力が残っています。楽な戦いになることはないでしょう」 大型倉庫とつながる出入り口と、コンベアの出入り口にはそれぞれ2人ずつ配置されている。 どちらもクロスイージスとインヤンマスターの組み合わせだ。敵方としてはクロスイージスを2人ずつ配置したかっただろうが、ここに割けるイージスは2人だけだったらしい。 四囲の壁際に張り巡らされたキャットウォークの上には、狙撃役のクリミナルスタアが2人配置されている。 窓はそう簡単に壊せる素材ではないようだが、外からの狙撃を受けにくいよう対角線上の角に1人ずつ、倉庫全体を見下ろしているようだ。 後はダークナイトが2人、倉庫内を巡回している。 「気をつける点として、敵はすべて飛び道具を装備しているということです。倉庫内のどこに敵が襲撃してきても、戦闘に参加できるようにする意図でしょう」 リーダー格の3人を除けば、実力的にはアークのリベリスタとほとんど変わらない。 楽な戦いではないが、油断しなければ十分に勝てる戦いのはずだ。 ●倉庫にて ギルベルトは精悍な顔で油断なく倉庫内を見回していた。 「あまり気を張ることもないのでは? 敵は三ッ池公園側でしょう」 「油断するな。奴らはアークだ」 眼鏡をかけた丸顔の青年……グスタフの言葉に、ギルベルトは応じる。 「それに、アーク以外の敵がこの機に仕掛けてくる可能性もありえる。この国の主流七派とやらは、とても信用には値せん連中だ」 抜き身で持った武器はいつでも射撃に移れるよう準備をしている。 重量級の火器である『アイゼンフランメ』だが、長身のギルベルトが持つとまるでただのライフルのようにしか見えなかった。 「全員、油断せずいつも通りに、なにが起きようと反応できるように心がけておけ」 倉庫内全体に響くような声でギルベルトは告げる。 「忘れるな。地味で基本どおりのやり方こそが最終的にもっとも成果をあげる。小細工を弄する必要はない。敵の小細工に対処する方法だけ考えろ。すべては我らの勝利のために!」 檄を飛ばすギルベルトに、フィクサードたちは声もなく気を張り詰める。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:青葉桂都 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年08月08日(木)23:42 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 太田工場へと突入したリベリスタたちは、それぞれの作戦目標へと進入し、交戦を繰り返していた。 一般倉庫の制圧を任されたチームは、工場と結ばれたコンベアが流れ込んできているほうの入り口へと向かっている。 「て、敵の基地に進撃って……。わ、私そんなの……」 「伏見、大丈夫か?」 ヒツジの角を持ったビーストハーフの女性を仲間たちが気遣うが、それは不要な心配だった。 眼鏡の奥で『二つで一人』伏見・H・カシス(BNE001678)の目の色が変わる。 「う~~あーもう! 来ちゃったら仕方ないでしょ! 行くわよー!」 二重人格に近いレベルで雰囲気を変えて、全力で駆け出したカシスに仲間たちは遅れぬようについていく。 背後から、周囲から、戦火を交える音が聞こえる。 倉庫前では、別のチームが『親衛隊』の革醒兵器を撃破すべく戦いを開始しているようだった。 戦況は現時点ではわからないが、ともあれ目的は倉庫内部の制圧だ。これ以上、余計な兵器が出てくる前に始末をつけなければならない。 「最終的に最も成果を上げる一手とは何か――それは定石と奇策を織り交ぜた柔軟な一手じゃよ。定石しか打てぬようでは面白味に欠けるしつまらん」 紫の髪を持つ少女が不敵に笑う。 「それを今から証明してやろうかぇ?」 外見に反し、かの敵が潜んでいた時間とさして変わらぬ時を生きる『陰陽狂』宵咲 瑠琵(BNE000129)は、七つ星が刻まれた銃の撃鉄を起こす。 「ああ。任せてもらうぜ。せいぜい驚かせてやるさ」 力のタロットの形をしたアクセス・ファンタズムよりいつでも武器を抜けるように準備して、『影の継承者』斜堂・影継(BNE000955)が地中へと沈んでいく。 「こんなところで俺らもやられるわけにはいかないしな。さっくりとは行かないかもしれないけれども。……速攻で終わらせて弾みにさせて貰うぜ」 『パニッシュメント』神城・涼(BNE001343)の茶色い瞳が、張り詰めた空気の中にたたずむ倉庫を見据える。 「優良気取りの軍人どもに、狩られる側の想いを再認識させてやる」 『Spritzenpferd』カルラ・シュトロゼック(BNE003655)の視線には仲間たちの誰よりも強い殺意……いや、憎悪がこもっていた。 「それじゃあ仕掛けるとしようぜ。もたもたしてると斜堂の奴が酸欠になっちまうからな」 僧職にふさわしく、綺麗に頭を剃りあげた『てるてる坊主』焦燥院 ”Buddha” フツ(BNE001054)もまた不敵に笑った。 入り口には事前に聞いていた情報の通り、2人のフィクサードたちが詰めている。 コンベアの両側でそれぞれにライフルを手にしていた。 「右がクロスイージス、左がインヤンマスターです」 視界に入った敵を『振り返らずに歩む者』シィン・アーパーウィル(BNE004479)が見切る。 実力もおよそ聞いていた通り。 この場に揃ったアークの精兵たちに劣らぬ実力者だ。 カシスは式神を先行して送り込んでいたが、拠点に襲撃が行われている最中に隙を見せるほど敵が甘くないということがわかった程度だった。 必要なら監視カメラを破壊しろとも指示していたが、そもそもどういう状況だと『必要』なのか使い手のカシスが考えていなければ式神も判断しようがない。 人間並の知能があるので、目安程度でも判断基準を与えていれば別だっただろうが。 「こんな形で再戦とは、巡り合わせってヤツかな。けど、これで最後にしよう」 先陣を切って飛び込んだのは、『デイアフタートゥモロー』新田・快(BNE000439)だ。 戦後半世紀のこの世界に、もう亡霊などいてはいけない。 蛇の刻印が刻まれたナイフを右手に、そして決意を左手に。 亡霊たちとの戦いがはじまった。 ● 涼はインヤンマスターへと見えない刃を構える。 敵は最初に飛び込んだ快に気を取られているようだった。 いや、それが彼のクロスイージスとしての技か。 「射撃攻撃主体の敵なら、陣形よりも如何に距離を詰めるかが勝負になる!」 動きの早いカルラに続いて、敵を抑えている快の横をすり抜ける。 「ああ、速攻で吹き飛ばしてやるぜ!」 高速で鉄甲を叩きつけるカルラの横に並び、涼は魔力のダイスを作り出す。 必ずしも狙った敵に当たるとは限らない神秘の爆裂は、幸運にも狙った通りにインヤンマスターのところで炸裂した。 インヤンを援護しようとしたイージスの前に、影継が床から顔を出した。 抜き放った大剣斧がイージスを吹き飛ばす。 入口が大きく開いた。 せめてもの仕事を果たそうとしたのだろう。イージスは輝きを放って快の技から仲間を回復させていた。 仲間たちが倉庫内へと駆け込んでくる。 通りすがりざまの攻撃を受けて、インヤンマスターがその場に倒れた。 中央のブースで巨大な重火器を構える敵を、涼は視界に捕らえる。 配下はどうか知らないが、少なくとも指揮官のギルベルトに焦った様子はない。 「速攻で終わらせて弾みにさせて貰うぜ。好きにやられた八つ当たりを含まない、ってこともないけどな……!」 迎撃に走ってくるのは、おそらく2人いるというダークナイト。 「まぁ、ともかくやらせてもらう!」 敵に負けぬよう、涼とカルラも走り出した。 目指すは、指揮官たちのいる中央のブースだ。 カシスはちらりと反対側の入口に目をやる。 目立った異変は起こっていない。 侵入前にネズミに頼んではみたものの、戦闘の最中に気を引くほどの音を小動物に出せというのがそもそも無理難題である。 式神ほどの知能も持たない動物ではなおさらのことだ。 うまく行かなかった策にこだわっていても仕方のないことだ。 普段のカシスならばともかく、今のカシスはすぐにそう割り切った。 ダークナイトたちが放つ漆黒のオーラがリベリスタたちに襲い掛かってくる。 進撃していた前衛たちはもちろんのこと、後衛にさえ闇は届いた。 もっとも、瑠琵の作り出した影人にかばわれていたおかげでカシスとシィンは闇に貫かれることはなかったが。 闇が去った跡に放たれた輝きが影を貫き、消し去る。 「小細工なしで飛び込んでくるとは、良い度胸とまずは褒めておこう!」 ギルベルトの持つ大口径の砲から放たれた銃火が光線へ姿を変えていた。 ダークナイトたちとは比べ物にならない火力がリベリスタたちを傷つける。 「負けたくない。私/あたしたちは、劣ってなんかいない」 手の甲から指先が緑色に染まった手甲に左手を添えて、カシスは静かに祈りを捧げる。 いずこかにいる清らかなる存在は、いつものように彼女の詠唱に応えてくれた。 静かに届いた福音が、シィンの生み出したものと重なって響き渡る。 「諦めて、黙ってしまったら、きっと変われないから。負けてしまったのに黙っていたら、きっとそのままだから!」 倉庫の荷物をすり抜けた影継が横合いからダークナイトを吹き飛ばす。 カルラと涼、一歩遅れて快が中央のブースにたどり着いた。 敵は準備万端整えて待ち構えていたようだった。 周囲で戦闘が始まっていたからそうしたのか、あるいは監視カメラでこちらの行動を読まれていたか。 いずれにしろやるべきことは変わらない。 フツは壁沿いに張り渡されたキャットウォークを見上げる。 そこにはライフルを構えるクリミナルスタアたちが中央付近へと移動していた。 1人が撃ち下ろす銃弾が神速でリベリスタたちを狙う。 さらにもう1人が引き金にかけた指に力を入れた。 「おっと、お前は遠慮してもらおうか」 数珠を鳴らすと呪印がクリミナルの周囲に展開する。 捕らわれたフィクサードが暴れまわるが、逃れることはできないようだった。 「どうやら効くらしいな。だったら、もう1人にも黙っていてもらうぜ」 狙わなかったほうのクリミナルが放つ追撃の銃弾は仲間たちはもちろんのこと、フツの法衣も貫いてダメージを与えてくる。 けれども、再びフツが呪印を展開すると、もう1人も動きを止めた。 グスタフとゲープハルトをかばうようにわずかに前進したギルベルトを、涼が避けようと試みている。 カルラは素早い動きで残像を生み出し、敵をまとめて殴りつけていた。 影継がブースの壁をすり抜けて飛び込んでいく。 快はギルベルトを抑えるべく、彼らに続こうとした。 「やらせるか!」 反対側の入り口を守っていたイージスが、その前に立ちはだかる。 インヤンマスターも式神の鴉を放って彼の怒りを誘おうとしていたが、それで快を止めることはもちろんできなかった。 (もう1人のイージスも来るか?) 一瞬だけ侵入口の様子をうかがった。 ちょうど、イージスは瑠琵が生み出した不吉の影に覆い尽くされて無力化されたところだった。 「吹き飛ばせ、深緋!」 フツの振るう長槍が、進路を妨げるイージスを吹き飛ばす。 謝意を込めて一瞬だけ目を向けると、重火器を構えた軍人へ快は接近する。 「かかってこいよ弱兵諸君。『島国の黄色い猿』一人倒せない精兵なんざお笑いだぜ」 「見た顔だな。前回も今回も、厄介なことをしてくれる!」 至近距離から向けた重火器を、しかし敵はすぐには放たなかった。 代わりに軽く腕を動かして背後のグスタフに合図を送る。 指先で奇妙な図形を描く。 前回の戦いでも覚えた圧力を快は感じた。無論、快自身にその効果は及ばされない。だが、仲間たちは別だ。 いや、もう1人、影継のまとう戦気もそれを無効化している。 「これがアンタの『切り札』か? 生憎、俺には効きやしないぜ!」 それでも2人。 攻防両面で弱体化させてくるグスタフの『切り札』に合わせて、ギルベルトは銃口を向けてくる。 快の予想通りの動きだった。 ギルベルトの光柱が放たれるのはさすがに防げないが、ほかのフィクサードたちが動き出すのには間に合う。 「その切り札、俺の前ではもう切らせない」 全身から放った神の光が、強い圧力を弾き返す。 グスタフへと影継の大剣斧が振るわれる。 ゲープハルトが回復しようとするが、爆発的な一撃は癒すことさえできない傷をフィクサードに与えていた。 「正義って自覚なんてないんだろ? あえて言うが、俺による正義を執行する」 涼の袖口が一閃する。 快によって圧力から解放された瞬間に、彼は死角へ回り込んだのだ。断罪の一撃を受けたグスタフが倒れるのは、もはや時間の問題だった。 ● フィクサードたちは、指揮官を守るために前衛に攻撃を集中することはしなかった。 接敵された時点でインヤンマスターとダークナイトたちは支援役の後衛へと攻撃を加え始めたのだ。 おそらくはクリミナルスタアたちもそうするつもりだったのだろう。 フツによって呪縛されていなければ。 シィンは後衛に近づいてくる敵へ火炎弾を降り注がせた。 だが、本人たちは後退させられたとしても、彼らの放つ攻撃まで止められるわけではない。 相次いで放たれる攻撃によって、シィンとカシスをかばっていた影人は幾度も消滅させられており、再作成も追いつかなくなってきた。 快が挑発して攻撃を自分に向けさせているが、ゲープハルトやイージスが都度正気に戻しているのだった。 影人を打ち砕いたのと同じ闇の気が、別のダークナイトから放たれる。 「……倒れるわけには、いかないんです」 鎖付きの魔本を抱えた腕に力を入れて、シィンはどうにかその一撃をしのぐ。 運命は、まだ彼女に力を与えてくれていた。 「とっくに覚悟は決めているのよ! 諦めないって!」 カシスも必死に倒れそうになるのをこらえている。 ギルベルトが放った光の弾が再び2人を襲おうとした。 だが、シィンに届こうとしたそれを、瑠琵がかばう。 「……気にするな。おぬしらに倒れられては困るのじゃよ」 「わかってます。一分一秒が惜しい状況ですが、だからこそ仕損じの無いようにいきましょう」 仲間たちの体力を維持できるように、 「ところで話は変わりますが。大富豪というトランプのゲームでは、札の強弱をひっくり返す『革命』というのがあります。今の状況とそっくりだとは思いませんか?」 「さて……どうかのう。おぬしが似ておると思うなら、そうなのかもしれんな」 シィンの魔本が術式へと変じて仲間たちを癒す福音を響かせた。 弱い札が重要になることもある。 仲間たちの体力を維持すべく、シィンは回復を繰り返す。 敵と味方が1人ずつ倒れたのはほどなくしてのことだった。 グスタフとカシス。 支援役が倒れたことで有利になったはずだが、癒し手の1人が倒れた以上リベリスタ側にももう時間はない。 カルラは憎悪の視線をホーリーメイガスに向ける。 ゲープハルトは小さな翼を生やすと、ブースのしきいを飛び越えてリベリスタたちから距離を取ろうとした。 ブースにあった機材の上にカルラは足を踏み出す。 不安定な足場だが、壁や天井さえ移動できる力を彼は持っていた。 影がフィクサードを覆い、翼を奪う。 「定石しか打てぬようでは面白味に欠けるしつまらん」 瑠琵がゲープハルトの不吉を占ったのだ。 機材を蹴って、カルラは高速の飛び蹴りを彼に叩き込む。 どこか壊れた音が聞こえたが、どうせ敵の装備。気にすることはない。 透過移動で影継も彼に続いてきた。 「仲間のところまで行くつもりなんだろ。できるものなら、やってみろよ」 移動しながら癒しの技を使い続けるゲープハルトをカルラは追い詰めていく。 彼らが戦争の亡霊……彼と国籍を同じくするドイツ軍の残党であることが、少年の憎悪をいつもよりも強いものにしているのかもしれない。 心の中で燃え滾るものを、冷たく鋭い刃に変えて、魔力を秘めたカルラの手甲がホーリーメイガスをえぐる。 イージスが攻撃をひきつけるべく十字光を放ってきたが、皮肉にもついで放たれたギルベルトの攻撃がカルラの頭を冷やしてくれた。 倒れそうな体を憎悪で支えて、カルラはゲープハルトに高速の拳で止めを刺した。 影継はゲープハルトがもう動かないことを確認する。 「戦闘は火力! そうだなオッサン! だったら俺とアンタで火力勝負と行こうぜ!」 真紅の刃を持つ大剣斧を振り上げて、快と対峙する長身の軍人へ挑みかかる。 辰砂灰燼――しんしゃかいじんではなく、しなばーとぅあっしゅと読む。 爆裂する一撃に、ギルベルトがたたらを踏む。 「言葉には同意しよう! だが、個人の力を比べあうことに興味はない!」 あくまでリベリスタたち全員に向けて放たれる敵の光柱。 超重武器の扱いに通じた影継は取り回しを見切ろうとしたが、精度を高めたという武器を避けきれるほど甘くはなかった。 瑠琵が一瞬だけ苦しげなうめきをもらすのが聞こえた。 倒れる音は聞こえなかった。 最前線にいながら影継にまだ余裕があるのは、体力の高さもあるが、グスタフやゲープハルトを狙っていたおかげで視界から外れていることが多かったからだろう。 それに、いくら実力者といっても無限に力を使えるはずもない。 全体攻撃を連発するのもそろそろ限界のはずだ。 倉庫の中に冷たい雨が降り始める。 回復役が倒れたことで余裕のできたフツが降らせ始めたのだ。 次いで敵が放ったのはフツを打ち倒す精密な射撃だった。運命の力で彼は立ち上がる。 「勝負する気はないか! だが、こっちは付き合ってもらわなきゃ困るんだよ!」 再び振るう、凶暴な一撃がギルベルトを一歩後退させる。 加速するカルラの一撃や、涼の生み出す魔力のダイスも敵の体力を削っていく。 「……総員撤退! 無駄に命を落とすな!」 三度振り上げた大剣斧を前に叫んだのが、ギルベルトの最後の言葉になった。 彼が倒れるのと同時に、手にしていた『アイゼンフランメ』が爆発する。 それを合図に、敵は撤退を始めた。 「隊長が倒れた! 撤退するぞ!」 イージスが仲間たちに叫ぶ。 瑠琵は敵が撤退の動きを見せた瞬間、走り出した。 後衛に近づいていたダークナイトを避けて、快が大型倉庫側の入り口をふさぐ。 「逃がさない。俺達は勝利に対して貪欲で無ければならないんだ」 「そういうことじゃ。おぬしらの誰一人、ここから帰す気はないぞ」 ダークナイトの1人に指先を向ける。 精神力を奪い去ると、消耗していた魔力が体内に戻ってくる。 シィンのフィアキィがカルラを回復する。 分身を生み出しながらの少年の攻撃が、ダークナイトたちとイージスをさらに追い詰め、影継や涼が止めを刺す。 フツの呪縛から逃れたクリミナルスタアが窓を開けようとしているのを、瑠琵は目ざとく見つけていた。 「逃がさんと言ったじゃろう?」 ゲープハルトが付与していた翼は、不吉の占いによって霧散する。 残った敵を征圧するのに、さして時間はかからなかった。 ギルベルトが爆発した付近へ、瑠琵は近づいた。 彼が持っていた『アイゼンフランメ』はもはや残骸となっている。 「アイゼンフランメ。鉄の炎、かぇ? 威力と精度が高いだけとは寧ろ潔くて良いのぅ。自爆せなんだら、持って帰りたかったがの」 太田工場の敷地内では、各所でまだまだ戦闘が継続しているようだった。 休む間もなくリベリスタたちは倉庫を飛び出した。 決戦は、まだ終わっていない。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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