● アンネマリーという女性にとって愛する祖国の為に戦うのは、当然の事であった。 女性である彼女にとって軍隊は決して居心地が良いと言える場所ではなかったが……。 それでも身を削り、心を削り、鉄(はがね)の意思と武器を手に戦場を巡り、祖国を脅かす敵国と戦った。 だが、ある時戦場で誤って地雷を踏みつけた彼女は足を失ってしまう。 硝煙の香り漂う戦場の真っ只中。 愚かな一兵の悲鳴など、飛び交う銃声や怒号にかき消されてしまう。 あって当然だと思っていた足を失い、戸惑う内に武器を失い、文字通りに足手まといとなったアンネマリーは当時所属していた部隊の仲間達に見捨てられ。 押し迫る死の絶望と、恐怖に支配されたアンネマリーは生き延びる為に地を這い、そして彼と出逢った。 彼女が、旧国の特殊部隊――親衛隊へと転属され……命の恩人の下に着いたのは、その少し後の出来事である。 「報いなければならない。恩は返さなくてはならない。汚名は、返上しなくてはならない」 二度、敗北を喫してしまった。 誇り高き親衛隊の顔に泥を塗ってしまったのだ。 無論、其れは彼女――アンネマリーひとりだけの責任ではなく、三ツ池公園における交戦に関しても彼女が居た部隊はともかく親衛隊全体としては勝利を上げているのだ。 「少尉の元に居る為には、戦果をあげなくてはならない……」 その為なら、何だってするだろう。 だからこそ、自分が嫌う相手とだって手を組んでみせるのだ。 「そ、れ、で、ワタシの所に泣きついてきたんだ。アンネマリーちゃんったらかっわいいー! もー、カルメンちゃん何でも協力しちゃう!」 「……かつての上官として最低限の敬意は払いますが、貴女が私を置いて撤退した事はしっかりと覚えていますよ」 「昔の事じゃない。それに、こうしてもう一度一緒に戦えるんだヨ? 仲良くしなきゃね…………しっかりと、働いて貰うよ」 おちゃらけた声から一転、カルメンと呼ばれた女性は低く、重い、冷徹な口調でアンネマリーの耳元で呟いた。 ● 「意趣返し?」 ブリーフィングルームに招集されたリベリスタの一人が、目の前で説明を続けるフォーチュナ――鈴ヶ森・優衣 (nBNE00026)へと問うた。 「うん。えっと、三ツ池公園が陥落して今も親衛隊の手にある事はみんな知ってるでしょ? で、そんな状況を何時までも放置しておく訳にも行かないし、何より……時間が無いから」 彼女の言う時間、とは先日訪れたキース・ソロモンの宣戦布告した日付までの時間である。 確かに、これ以上親衛隊相手に手をこまねいていては、いざキースが三高平市に攻撃を開始した際に恐らくは、甚大な支障が生じる事になる筈だ。 それに、仮にキースの宣戦布告が無かったとしても時間を与えれば与える程、親衛隊は強力な革醒兵器を次々と生み出して行くだろう。 彼等が手にしたのは、そういう事を行うには都合のいい場所なのだから。 「あの時、私達は七派の首領の人達や三ツ池公園といった複数の場所をほぼ同時に守る事を強要された」 個々人の思想は多様なれど、広義には世界の崩界を食い止めんとする正義の味方たるアークには、守るべきものが多々存在する。 それでいてアークは如何せん『エースに頼りすぎる』部分もあり……そうした泣き所を狙った彼等の作戦の前に、アークは敗退を喫してしまったのだ。 「つまり、今度は此方が複数の場所を攻撃する……と。一つは三ツ池公園として、もう一つは?」 「大田重工埼玉工場。親衛隊に協力してる、大田重工の拠点だよ。三ツ池公園に敵の動きを陽動しながら襲撃する、二重作戦だって聞いてる」 三ツ池公園は言わずもがな。 大田重工の抱える工場もまた、彼等親衛隊やそれに協力する大田の関係者達からすれば、決して失いたくはない重要な拠点だ。 陽動からの本丸突撃に関してもまた。 成程、これは確かに意趣返しと成りうるものである。 「待った。其処へ七派が介入してくる可能性は? 奴ら、前の時みたいに邪魔したり、そうでなくても何らかの形で関わってくるんじゃないのか?」 当然の懸念だ。 元より、親衛隊がここまで日本で活動出来ている訳には大田重工のバックアップの他に、主流七派との繋がりも少なからず存在するのである。 「多分、今回は大丈夫だと思う。えっとね、時村さん……室長が逆凪の首領に『楔』を打ち込んだって」 楔。 戦略司令室長・時村沙織が主流七派で筆頭たる逆凪黒覇に対し打ち込んだものは、正に乾坤一擲と呼ぶに相応しい楔である。 彼は、もしもこの場でアークが敗退する様な事があればキース・ソロモンが次に狙うのは『勝利した』日本の神秘勢力だと嘯いたのだ。 無論それはキース・ソロモン本人の確認を取ったものではなく、実際そういった状況でどうなるかは彼本人以外誰にも解らない事ではあるが……彼が、『計算の立たない最強の腹ぺこ』である事を考えればその推測は容易い。 そして、其れは何より損得勘定を重視する合理主義者たる黒覇にとって、正に最悪のジョーカーなのだ。 「……皆には、大田重工側への攻撃をお願いしたいの。敵の拠点に乗り込むのって凄く危険だと思うけど、でも……皆なら大丈夫だって私は信じてるから」 優衣の一瞬、躊躇うような表情は目の前に集まったリベリスタ達の強い意思を秘めた瞳にかき消えた。 そう、この強襲作戦は 気合を入れなおす様に一度その場で頷いたあと、優衣は司令室のモニターに埼玉工場の施設を表示する。 「工場の中で、皆に目指して貰うのは『大型倉庫』だよ」 大型倉庫。 もう使われなくなった重機や大型の機械の類などが置かれていると推測できる場所だ。 大型、とつくだけあって敷地自体もかなり大きいほうだろう。 「警護しているのは、三ツ池公園にも居たアンネマリー軍曹と、カルメンっていうフライエンジェの女性の准尉の二人が指揮する部隊。普段アンネマリー軍曹と一緒に居た少尉は今回はいないよ」 アンネマリーという女性の軍曹は、過去二度に渡る交戦においてディートハルトという少尉の副官として行動していた筈だ。 その少尉が不在という事は即ち、階級を考えれば今回の部隊指揮はカルメンという准尉が取るのだろう。 「カルメン准尉は伸縮剣(ワイアードソード)とも言えばいいのかな。そういう武器を使うみたい」 この武器は革醒兵器としての特徴として使用者の攻撃の射程を拡張する力もあるようだ。 「何度でも言うけど、凄く危険な任務だよ。でも、陽動に参加してくれてる皆のためにも……親衛隊にこれ以上好き勝手させないためにも、此処が踏ん張りどきだから」 頑張って、と優衣は精一杯の激励と共にリベリスタ達を送り出した。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ゆうきひろ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年08月09日(金)23:19 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「来るなら来るってちゃんと言ってヨ! 女性はお化粧に時間かかるんだから!」 目標である大型倉庫に辿り着くや否や、そんな声がリベリスタ達を出迎えた。 声の主は銀髪にビスクドールを彷彿とさせる黒羽のフライエンジェ――カルメン准尉だ。 彼女の周囲には、何処か居心地の悪そうな表情のアンネマリー軍曹と、カルメン配下の兵士達。 「暫くぶりね、アンネマリー。今日はあのふざけたドリル男は一緒じゃないのね?」 「ええ、少尉にはあなた達二流民族に構う暇はありませんから」 『鋼脚のマスケティア』ミュゼーヌ・三条寺(BNE000589)の問いに、アンネマリーが答える。 「なら、此処が私達にとってもアンネマリー、あなたにとっても正念場のようね……勝つのは――」 「ええ、この戦いを制するのは――」 「私達よ!」 「我々、親衛隊です」 金髪碧眼、義足を持つ二人が互いに信じる正義の為に勝利を誓うと同時に武器を手に取る。 「貴女達の様な連中に、負けるつもりはありません。レイザータクトの末席として……この戦場、勝利に導いてみせる!」 強い意思と共に、開戦のゴングを鳴らす『番拳』伊呂波 壱和(BNE003773)のタクトが振り下ろされる。 親衛隊もまた、部隊を指揮するカルメンの指示で戦闘態勢に入り、両者の激突が始まった! ● 戦場を、流れるような銀髪に黒い羽根を携えた戦女神――カルメンが華麗に舞う。 彼女自身は、指揮官だけあって最初から最前線には立っていない。 けれども革醒兵器シュバルツビュートの特性により、射程の不利を克服したソードミラージュの業は、容赦なくリベリスタ達を襲うのだ。 「あはっ♪ もひとつおまけだよ~!」 伸縮剣を手元に引き寄せたそのままに、カルメンがディフェンサードクトリンで仲間の兵士達を鼓舞する。 「貴女のその剣、見た目と色合いが灯璃好みで素敵だよ? 殺して奪うね、灯璃に頂戴っ!」 狙われたのは、『断罪狂』宵咲 灯璃(BNE004317)を含む最前線に立った四人のリベリスタ達だ。 運良く自らの時を斬り刻まんと迫ったグラスフォッグを唯一躱した灯璃がカルメンのシュバルツビュートを指さし、物欲しそうに言う。 「うふふふ、痛いっ! そんな事する腐れ猟犬共は必ず皆殺しに致しましょう」 両の手の義手で何かを握り潰す様に、『ヴァイオレット・クラウン』烏頭森・ハガル・エーデルワイス(BNE002939)が嗤う。 必ず皆殺しにするという絶対的な自負。 その精神に、自身を縛る世界法則さえもが一時的、部分的に捻じ曲げられる! (数の上では此方が不利……ならば) カルメン本人の力は、先程受けてしまった攻撃から言わずもがな。 残るアンネマリーや、親衛隊の兵士達も激しい戦いを生き延びた歴戦の軍人、まともに力押しで敵う相手ではない。 「条件は見えました。ボクが道を切り開きます」 手にしたフラッシュバンを、兵士達へ向けて投げ込む。 其れが何であるかを察知した一部の兵士以外の兵士達が戦場に巻き起こった閃光に、怯む。 「新しい靴を買って貰ってご機嫌かしら? それも無惨に砕かれたくなければ、大人しくしていなさい。駄犬」 ミュゼーヌがマグナムリボルバーマスケットからハニーコムガトリングを放つ。 放たれた蜂の猛襲が、等しく親衛隊に浴びせられる。 「残念ですが、戦果を上げる為そうしている訳には行きませんので。全軍、敵を踏みにじるのです!」 銃撃には怯まず、アンネマリーが返しの刃にラグナロクを発動する。軍神の加護を得た兵士達は、正に水を得た魚の様に力が湧き上がるのを感じた。 「これが、しんえいたい……けれどもヨワネははけません!」 この埼玉工場に自分たちが奇襲をかけられるように、危険な三ツ池公園の陽動役を買って出たアークの仲間達の為にも、負けられないと『不倒の人』ルシュディー サハル アースィム(BNE004550)は思う。 「クロスジハード、ボクのちからをミンナへ!」 ルシュディーが十字の加護――クロスジハードで仲間の力を高める。 その加護をも畏れぬ親衛隊の兵士達が、手にした漆黒のナイフを手に一気にリベリスタ達へと襲いかかる。 「やはり近接戦闘で乱戦に持ち込んで来るつもりですか」 乱戦になればおいそれと先程の様にフラッシュバンを多用することは出来ない。 神秘の閃光弾は時に味方にもその効果を発揮してしまう。 迫るデュランダルの剛剣や、破界闘士の鋭い格闘技を始めとした容赦ない猛攻がリベリスタ達へ浴びせられた。 彼等は知恵を持たないエリューションではないのだと壱和が痛感する。 「だったら纏めて撃ちぬくだけ! 神秘特化のアタシに物理特化のミュゼーヌさんと灯璃さん、アタシ達サジタリーズの殲滅力を前に立っていられるかなー!」 乱戦結構。 お構いなし、と『三高平の悪戯姫』白雪 陽菜(BNE002652)がサジタリアスブレードを構える。 彼女の武器は一見すれば、近接戦闘用の西洋剣だがその真実はそうではない。 「のこのこ前に出てきた事、後悔させてあげる!」 サジタリアスブレードが左右に分かれ、可視化された魔力の発射口からスターダストブレイカーが飛び出した。 反撃など物ともしない。光柱とも呼ぶべき大質量の魔力光が乱戦を目論む兵士達を纏めて呑み干して行く。 (それにしても、カルメン准尉は酷い人ですね。部下をけしかけて自分は後方の安全な場所で指示と戦闘だなんて) 部下の兵士達を、任務遂行のコマとしか考えていないのだろうと『アカイエカ』鰻川 萵苣(BNE004539)は感じた。 そして、そんな彼女の下についているアンネマリーは引き際を知らない軍人だ。 「此処が死地になりかねない……って、戦闘中に僕は何を考えているのですか」 ぶんぶんと頭を振り、思考を切り替える。 敵の事を思う余裕は無い、無いが気にはなるのだ。 高位存在へアクセスし、その力の一端を以って仲間達の傷を癒す萵苣の心境は複雑なものであった。 「やられたらやり返さなきゃね? そう! 何倍にもして返してあげなきゃ! あははははっ!」 魔女の様に、狂った笑い声を上げながら戦場をもう一人の銀髪のフライエンジェ、灯璃が舞う。 「ねぇ? その黒塗りの鉄みたいなのも革醒兵器? まぁどっちにしても、狙い撃ちさせて貰うね?」 灯璃の両手に鎖で繋がれた双剣が構えられる。 赤男爵(ベリアル)、黒男爵(ネビロス)が乱戦に入った兵士達を回復する後衛のホーリーメイガスの兵士目掛けて一直線に飛び――瞬く間に敵の腕を貫いた。 「祖国と恩人の為に、例え仲間に見捨てられても戦い続ける……ですか」 健気な女性だ。 例え年上でも、私はそういう子大好きですよと笑顔で呟きながら『変態紳士-紳士=』廿楽 恭弥(BNE004565)が全身から漆黒の闇を生み出す。 生み出された闇は、漆黒の武具となりて恭弥の力を増幅させる。 「さて、これで萵苣さんを庇う準備は整いましたね……自付って隙でもあるから二度は使いたくないですね」 ● 「准尉、前に出ますが……構いませんね?」 激化の一途を辿っている戦場。 乱戦となった現在、後方に控えているよりも最前線で囮を買って出た方がいいだろう。 「勿論♪ アンネマリーちゃんすっごく硬いしネ」 「Ja!」 言葉の上では、最前線へ赴いていくアンネマリーを信頼しているかのようなカルメンの言葉。 けれど、自らの(一時的とは言え)副官を激しい戦闘の行われる最前線へ平気で送り込む様は、やはり部下を駒としか考えていない。 「回復なんてさせてあげないヨ~♪」 シュバルツビュートが戦場を切り裂いて飛ぶ。 狙うは、リベリスタ達の傷を先程癒していた後衛の萵苣だ。 「あはっ♪ イメージが足りないヨ~? そんな所に居たって攻撃は飛んでくるんだから!」 悪夢めいた幻影の様にシュバルツビュートが幾重にも分たれ、それに翻弄された萵苣をいともたやすく貫いた。 「ッ……これくらいでは、倒れません。その為に僕は少しでも成長を続けていったんですから」 倒れてしまいたい程の鋭い一撃。 けれど、此処で倒れてしまったら仲間の回復を誰が行うというのか。 何より、アークという組織に入ってからのこの数ヶ月……その中で磨きあげた自分の力はこんなものじゃないと満身創痍になりながら、萵苣が踏みとどまる。 「うふふふ、嬉しいわね突っ込んで来てくれるなんて!」 突撃してきたアンネマリーを喜んで出迎える様にエーデルワイスが笑みをこぼす。 「可笑しな思考回路を持っているようですね。そんなに私が前線に立つのが嬉しいのですか? 踏みますよ?」 「うふふ、其れは――」 エーデルワイスの両の義手に、漆黒と真紅のカード――ノアールカルトとルージュカルトが現れる。 「私のグリードが貴方を求めてヤマヌノデス☆ 義足だけ残して死ね! アンネマリー!」 「そういう考えでしたか。ですが、そう上手くは行かないと思いますよ」 自身に飛来する漆黒と真紅のカードをアンネマリーが難なく躱す、が。 ジャラリ、ジャラリ。 その不吉な金属音は、不意にアンネマリーの背後からした音だ。 一瞬、腹に何を抱えているのか解らない上官に背中を撃たれかけているのかとアンネマリーは思ったが、違う。 「そっちはフェイク。聞こえないかしら? 貴方を吊るす鎖の音が……聞こえた時はもう……!」 絶対絞首。 鎖が締め上げるのは、アンネマリーの首だけではない。エーデルワイスもまた鋭い反動に締め上げられる。 「ッ……ハァ、残念ですが絞首刑が執行されても私は生きているようですよ?」 「だったら貴方は銃殺刑よ。他の兵士共々、此処で死になさい! アンネマリー!」 金髪碧眼の義足の誇り高き少女が跳ぶ。 乱雑に捨て置かれた工業用の重機も、極めて高いバランス感覚を得た彼女には戦闘を有利に進める為の足場のようなものだ。 アクロバティックに空中で銃弾をマスケットにセットし。ハニーコムガトリングが豪雨の様に敵に降り注ぐ。 「敵がどんどん前に出てくる。これじゃ、どう使ってもフラッシュバンに味方が巻き込まれる!」 ならば、と壱和が冷たい視線で敵の兵士を睨みつける。 「ヒッ……!? カ、カルメン准尉。助け……ッ」 冷徹無比なその視線。透明な殺意の塊に射抜かれたホーリーメイガスが恐怖の顔に染まりながら、発狂し崩れ落ちる。 「やってくれましたね? 先ずは貴方から踏み抜いて差し上げましょう」 ホーリーメイガスの兵士を落とした刹那。 僅かに安堵した壱和の隙をついたアンネマリーのファイナルスマッシュが壱和に叩き込まれる。 革醒兵器ヤクトハーケンの力によって、相手を切り刻み失血させる強大な一撃に最前線に立つ仲間の中では耐久力の低い壱和は積もり重なったダメージも相まって耐え切れない。 「こんな事くらいで負けられない! 例え貴方が有能で優秀な軍人だとしても、ボクは倒れるわけにはいかないんだ!」 運命が廻る。 フェイトに愛された壱和が強い意思と共に立ち上がる。 「そうです! ミンナ、かならずかちましょう!」 ルシュディーが立ち上がった壱和や、他の仲間達を鼓舞する様に叫ぶ。 彼自身、前衛のブロックが間に合わず後衛にも徐々に及び始めた兵士達の猛撃に晒され、体力万全とは言い切れなかった。 「必ず、なんてもんはな! 戦場にはないんだよ!」 漆黒のナイフを構えたダークナイトが自身の反動も厭わず放ったペインキラーがルシュディーの全身を襲う。 亡霊達の悍ましい執念や呪いを刻みつけられたルシュディーが倒れこむ。 「まだです! じぶんたちのできるかぎりのチカラをもって、このタタカイにしょうりを!」 運命は諦めない者を見捨てない。 ルシュディーもまたフェイトを燃やし、立ち上がり……皆の勝利の為に天使の歌を紡ぐ。 「知りません? 諦めないって、僕達アークの得意分野ですよ。しつこい事で有名なんです」 「ええ、それと……萵苣さんはやらせませんよ?」 続けざまに萵苣を落とそうとする敵の攻撃を、前に立ちふさがった恭弥が防ぐ。 「ふっ……この双の手は守るために有るのです。私は紳士ですから。ねぇ、惚れます? 良いんですよ、惚れて」 「有難うございます。そうそう、恭弥さん最近いろんな人庇ってるみたいですけど何か上級者向けのフェチですか? あと、惚れません」 「何で!? これ、とてもかっこいい流れで惚れるところでしょう! 後フェチじゃないですから!」 「はいはい。僕そういうの聞き流すの得意で良かったですね」 言いつつも、恭弥のお陰で難を逃れた萵苣は少し楽しげだ。 張り詰めた空気の戦場の中で、そんな冗談交じりのやり取りが出来て少し気持ちが楽になったのかも知れない。 「これ庇って貰ったお礼です、深い意味ないですから」 直ぐに萵苣が恭弥や仲間達の傷を聖神の息吹で癒す。 「銀髪で、ビスクドールで、フライエンジェだなんて」 『アイツ』みたいで気に入らないと灯璃がカルメンを睨みつけた。 「だったら灯璃さん! サジタリーズの力を、カルメンさんに魅せつけてあげよう!」 「うん! あいつ、殺しちゃおう!」 数歩下がったスターサジタリ―の二人が、背中合わせに息を重ねる。 赤男爵、黒男爵とサジタリアスブレードがカルメンへ向けられる。 「革醒兵器ってどんなものかと思ってたけど、案外たいしたことないね。カルメンさんには悪いけど、その程度の射程じゃ全然届かないよ?」 精々、カルメンの革醒兵器で届くのは20mがいい所だろう。 けれども此方は違う。 「嘘ッ!? その距離から!?」 「その翼、狙い撃ってあげる!」 逃れる暇すら与えず瞬時に敵を射抜く瞬撃の魔弾と、比肩する者無き最高の精度で放たれる死神の魔弾。 二つの魔弾は、地に足をつけた愚かな黒翼を決して外しはしない。 「痛ッたあああああああいッ!?」 両翼に致命的な風穴を穿たれたカルメンが、苦悶に歪んだ顔で叫ぶ。 彼女達が穿てたのは、カルメンの翼だけではない。 その一撃は確実に、戦局をも大きく左右する一撃だったのだ。 ● 部隊の指揮官が受けた大打撃は、戦場で戦う兵士達の士気を明確に低下させる。 徐々に数を減らされ、回復手をも失った彼等にとって長期戦になればなる程不利なのは明確だ。 「全軍突撃! フザけた連中をぶち殺すんだよ!」 カルメンが怒り狂った顔で叫びながら閃光弾をその手に取る。 「正気ですか!? 敵味方入り乱れた状況でそれを使うなんて!」 完全にキレている、壱和が冷静な判断とは思えないカルメンの暴挙に目を見開いた。 「皆さん! 気をつけ……くぅっ!?」 仲間達に危険を知らせたその刹那、閃光弾が戦場のど真ん中で炸裂し敵も味方も関係なく逃げ遅れた者が身動きが取れなくなる。 「アハハッ! お前ら全員、皆殺しだ! 全軍、私の為に死んでもそいつ等をぶち殺せェェェッ!」 「貴方、本当に正気なの!? 味方巻き込んで部隊の指揮官が聞いて呆れるわよ!」 仲間を平気で犠牲にするカルメンに怒りを爆発させたミュゼーヌがカルメン諸共ハニーコムガトリングで動けない敵兵を撃ちぬく。 「うふふhhhh、貴方気に入らないのよ。だから絞首刑になるべきじゃないかしら? 鎖に括られた無様な素顔、悲鳴と共に吐露しなさい」 我を忘れて突撃命令を繰り返すカルメンを、エーデルワイスが絶対絞首で吊り上げる。 「准尉!」 「いい加減、堕ちなさいな!」 執行された刑に、カルメンが怒りの形相のまま片膝をつく。 クロスイージスたるアンネマリーと違って、ソードミラージュのカルメン自身は彼女程の耐久をもっていないのだ。 故に、前線に出ず遠くから敵を斬り刻む事を彼女は選択していた。 「こ、の……クソ二流民族がァ……」 「准尉、下がって下さい! 後は私が!」 エーデルワイスの懐に潜り込んだアンネマリーが、彼女をファイナルスマッシュで蹴り飛ばす。 「ッ!」 絶対絞首の反動からの身体を斬り刻む蹴撃に、エーデルワイスが思わず苦虫を噛み締めた様な顔になる。 「私が攻撃しなくてはならないなんて、紳士的に仕留めさせて頂きましょう」 残りの前衛が麻痺している中、攻撃役に転じた恭弥が暗黒を放ち満身創痍の兵士達を呑み込んで行く。 が、流石にカルメンには躱されてしまう。 しかして、その攻撃で状況的にリベリスタ側が優勢になったのは日を見るより明らかだ。 「クソックソックソッ! 撤退だ、殿はアンネマリー! お前が努めろ!」 殺意の視線はリベリスタに向けたまま、カルメンが撤退の指示を出し……部隊が後退していく。 「そ、そんな! 俺達はッ!? ぐあ!?」 カルメンの放った閃光弾によって身動きが取れないまま、戦場に残されつつある兵士達をリベリスタが逃がすまいと仕留めていく。 残された兵士達はいわば囮だ。 カルメン本人が離脱する為の、時間稼ぎに使われているのだ。 だが、リベリスタ側も深追いは出来ない。 既に二人が一度フェイトによって立ち上がり、残った者達も万全とは言えない状況だ。 「……退きたくはないですが、退かねばなりませんか」 「ええ、降伏をお勧めしますよ。貴方の『少尉』の為にも」 恭弥の言葉に、無言で踵を返したアンネマリーが負傷しつつもまだ息のある兵を抱えその場を後にする。 リベリスタ達は激闘の末にこの戦場での戦いに勝利した。 別の戦場で戦う仲間達の安否を気遣いながら、彼等はその場を後にするのだった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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