●なくしちゃったかも 配島は孤独だった。三尋木凛子から預かっているアーティファクと『孤独』を発動していないのに、随分と前から誰からも電話がかかってこないのだ。 「はー、ボク徹底的に嫌われちゃったかな」 随分と大きな声で呟くと――ねぇ、どう思う?――と、浅場に問いかける。空気を読まない配島は書類の山に埋もれて忙しそうな浅場の執務室の中にある高価そうなソファに土足のまま寝転がっているのだ。 「……いい加減にしろ、配島。お前にもわずかばかりだが仕事があるだろう」 銀の眼鏡フレームの位置を微調整しつつ浅場が言う。 「でもさー携帯、ないんだよね。あ、そっか。だから電話かかってこないんだ」 ソファをかすめて銀色の刃が飛んだ。浅場が投げた短刀が配島の頬と髪を薙ぎ、千切れた髪であらわになった頬から血が伝う。 「すぐに探せ」 「すぐは無理~だって、これから大田重工に行くんだから」 配島はひょいとソファの背側に廻ると短刀を拾ってクルクルと投げ上げ、キャッチする。 「大丈夫。様子をおとなしく見学したら探してくる。多分、谷中の里のどっかにあるよ」 配島が短刀を返さずに部屋と出ると浅場はポケットからスマートフォンを取り出す。 「……浅場です。配島の事でご報告があります」 表情も変えず声音も乱れず浅場は語った。 ●敗北にも意味はある 「負けてもいいの。意味はあるから」 髪を指に巻きつけながら『ディディウスモルフォ』シビル・ジンデル(nBNE000265)は言った。 「これは大切な戦い。三ツ池公園に行ってくれた人達のために絶対に戦果をあげなくっちゃダメ。だから……みんなには正面から敵を突破してもらいたいの」 シビルはそう『無茶振り』を言う。 つまりはこれ以上三ツ池を占拠した『親衛隊』と呼ばれる輩を放置しておけないということ。彼等に神秘特異点である『穴』を自由に使わせしまっては、何をしでかすかわからない。武器を強化するだけでは済まず、更なる一手を打ってくるかもしれないのだ。だから……敵である『親衛隊』が採ったのと同じ方法で意趣返しをする。三ツ池にアークの陽動部隊を派遣しつつ、本拠土地であるはずの大田重工の工場を叩く。 「三ツ池公園も重工も守るのは敵だってきっと大変。せっかく手に入れた三ツ池を手放すなんて出来ないから、きっと重工を落とせると思うの……ううん」 シビルは首を横に振る。淡くウェーブのかかった髪が揺れた。 「絶対に成功させないといけないから……だから、みんなには真っ先に派手に目立って攻撃を仕掛けて欲しい。きっと最初は沢山の敵がワラワラ出てきて大変だと思う。でも……それが大田重工の工場攻撃部隊の陽動になると思う」 時刻は夜だが、如何に派手に人目を惹いて闘い、どれだけ多くの敵を自分達の近くに引き寄せていられるか……それがひいては作戦全体の難易度を下げ、工場の完全制圧への布石となるはずだ。 「でもね、死んだらダメ。アークはみんなが居なくなってしまうような大きな損失はダメなの。だって敵は『親衛隊』だけじゃない。キースって人もいるし、今回はじっとしててくれるけど七派だっている。だからぎりぎりまで闘って撤退するの。とっても危険な役割だけど、お願いしてもいいのかな?」 シビルはリベリスタ達の覚悟を伺うように小首を傾げ、それぞれの表情を見つめてきた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:深紅蒼 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年08月06日(火)23:24 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●夜襲前はお静かに 濃密な夜だった。静寂と暗闇に時間と空間を支配されているはずの巨大な大田重工の埼玉工場……その広大な敷地と建物。だが、今夜は何かが違っていた。静寂は微かに空気を振動させる淡い『音』を忍ばせ、暗闇は全ての秘められた企みを覆い隠す。 何かが起こる予感だけが重苦しくのしかかる闇のきざはしに彼等はいた。 「陽動ね……むずかしい言葉は知らないけど、ぜんぶぶっ飛ばして、ボスまでぶち抜くつもりで戦えばいいんでしょう?」 今夜、この場所で為すべき事柄を『ならず』曳馬野・涼子(BNE003471)はごく短い平易な言葉であっさりと表現した。絶対の正義などどこにもない。今夜の行為も広義で言えば罪かもしれない。それでも……涼子の清雅なる瞳は暗闇だけが横たわる前方を見据える。 「あたしもあたしも! 難しい事はわからないけど、全力で暴れさせてもらおうと思うです」 無音で挙手の姿勢をとった『ぴゅあわんこ』悠木 そあら(BNE000020)が気持ちだけは高らかに、ごくごく低い声で言う。15歳の涼子と立派な成人女性のそあらが同じ語彙を駆使しているが、今夜に限っては問題ない。作戦の意義を理解し、全力で派手に戦って死なない事……それだけが求められず全ての事だ。 「シビルさんに負けても良いって言われると、負けたくないって、気持ちになるじゃないですか」 小柄で華奢な、まるで繊細で高級な人形の様に愛らしい容姿を持つ『戦奏者』ミリィ・トムソン(BNE003772)は全てを見通す様な理知的な黄金の瞳にごくわずか、年相応の愛らしい光を湛える。おそらくは意地の問題なのだ。どうせ戦果を望むのなら可能な限り勝ち続けたい。損得を考慮した上で最大を望んで悪い事があるはずがない。 「これはあれですかね? 別に時間を稼ぐのはいいがという、あれ……?」 それ以上言ってはイケナイだろうと『弓引く者』桐月院・七海(BNE001250)は口をつぐむ。長い黒の前髪で表情が見えない七海がどの様な心情でいるのか推し量るのは難しいが、日本には古来より言霊が信じられている……らしい。そうではなくても生死に関わる重要なフラグとなりえる台詞に慎重となるのはゲーマーならば当たり前だ。こういう場面、簡単に口にしていい台詞とダメな台詞があるのは間違いない。 「ともかくシンプルで誤解のない作戦だな。だが、まぁこういう趣向も嫌いではない」 とりあえず誰よりも早く正門に突っ込んで派手に戦えというのは、むしろ潔い。黄金と紫暗のオッドアイに物騒な光を湛えながら『アウィスラパクス』天城・櫻霞(BNE000469)は淡い笑みを浮かべる。 「楽しそうですのね、櫻霞様」 声を潜めて笑うのは『ODD EYE LOVERS』二階堂 櫻子(BNE000438)だ。櫻霞の表情はあまりバリエーションが豊富ではないが、櫻子にはハッキリと喜怒哀楽はわかる……と、思っている。 「櫻子には隠せないか」 「私自身のやれる事なんて地味ですけれど、代わりに櫻霞が派手にやって下さいますよね?」 断られると微塵も思わない絶対の信頼を乗せた言葉だ。 「つまり四、五百年前と同じで一番槍は戦場の誉れ……ってか?」 琥珀の色をした『パニッシュメント』神城・涼(BNE001343)の瞳が妖しく燃える。この静寂を破り、強襲して開戦を敵味方に告げる。最初に三ツ池公園を攻めたのは『親衛隊』なのだから、攻められる立場に転ずる覚悟もあるだろう。なかったとしても、アーク側が責められるいわれはない。 「ここで敵さんの目を惹きつけたら、他のみんなが動きやすくなるんだもんね。だから敵さんが沢山でも持ちこたえなきゃ」 本当ならもっと恐怖を感じたかもしれないけど、いつも通り黒く長いコート姿の涼は『尽きせぬ想い』アリステア・ショーゼット(BNE000313)を落ち着かせてくれる。何もイレギュラーな事はない。作戦通り気力を振り絞り、一生懸命戦う仲間達を癒していけばいい。 「では少しばかり力比べと行こうか」 ちょっと散歩へ的な風に言うと、櫻霞は金色の翼を持つ漆黒の銃身を握り直した。 ●夜襲は作戦通りに粛々と その夜、大田重工の正門警備の者達は不審な集団が歩み寄って来るのに合わせて警棒を持ち、身構えた。だが、彼等はそのまま漫然と歩み寄るなどしなかった。 「先に行く。思いっきり派手に戦う」 涼子が走り出す。革手袋越しに握る愛銃を警備員達に見えるように振りかざし狙いを付けずに発砲する。その音に正門は騒然とし始めた。 「命懸けで守るつもりもないなら引っ込んでいろ。這いつくばって降参するなら素通りしてやる! 時間の無駄だ」 猛然と突っ込んでくる涼子の言葉に数人の警備員達に怒りが灯る。だが、半数以上はまだ驚愕から醒めやらない。 「さおりんが『ぶっ潰せ』っていうんですもの。しょうがないですよね」 無敵の恋する乙女モードそのままにそあらはペロリと小さく舌を出し、すぐに 「あたしの愛の裁きをうけるといいです」 その言葉が終わるよりも早く、そあらの身体は強烈な閃光に包まれた。野太い悲鳴をあげて警備員達が両目を押さえてのたうち回る。 「め、目がぁぁ!」 「目が痛い!」 「ぐあああぁ」 「ぞ、増援をぉぉ……」 最も詰め所の近くにいた警備員が手探りでドアを開ける。 「私は戦奏者。戦場を奏で、紡ぐ者。任務開始。さぁ、戦場を奏でましょう」 今、攻撃を放ったばかりのそあらへの射線を遮る様に前へと出たミリィは、その強固で揺るぎない意志の力を穢れなき光に変えて敵へと放った。光に焼かれた者達を再び聖なる光が襲う。そこに何時の間にか間合いを詰めた涼がいた。黒鴉が翼を広げたかのようにコートの袖と裾をなびかせ刃を閃かせた。 「悪いけれども、俺と一緒に踊ってもらおうか」 涼の立ち位置が瞬時に変化しその度毎に血しぶきが夜陰に乱れ飛ぶ。涼という名の死鳥の翼の下、連続攻撃が2人の敵を地面に沈める。 「初手から相手で選り好みはしないさ。してる余裕もなくなりそうでね」 ここまでの動きだけでも警備員達の実力が低レベルだと判断した櫻霞は、手傷を負った敵全てへ雲霞の如く襲う蜂の攻撃の様に苛烈で間断ない連射を仕掛ける。 「頑張らなくっちゃ、頑張らなくっちゃ」 仲間の傷を癒す手段を持つホーリーメイガスは戦闘の要であり、敵からの集中攻撃を受ける事もある。役目を全うし生き残るためには戦場での立ち位置は勝敗を決する事にもなる重要な因子だ。アリステアは前衛達を助けられるギリギリの距離を自分の場所とするべく目測し、移動する。その間も視線は周囲へと投げ、思わぬ場所からの敵の奇襲に用心する。 「念の為ですけれど……小さき翼を皆様の背に……」 大切な櫻霞のすぐ側で櫻子は力を使う。戦場であってもどこであっても、自分の居るべき場所は櫻霞の隣なのだと櫻子は決めていた。大切な人の側で大切な人を守るために力を使う。その溢れるような恍惚とした幸福の瞬間を知ったその時から、櫻子は櫻霞の側から離れられない。櫻霞が、そして仲間達皆の背に翼が出現しふわりと浮かんだ。 「さあ再戦と行こうぜ、親衛隊。あの時の借りは利子まで付けてきっちり払ってやる」 七海の猛禽の目が更に強化される。もはや全ての事象は七海の見分けられる速度を凌駕することはなく、全てが停止した画像の連続という風に認識される。 「立てる者だけでいい。ここで足止めするんだ」 「すぐに増援が来るぞ」 詰め所で連絡をしてきたらしい警備員が激励とも報告ともとれる言葉を叫ぶ。 「ここを通すな!」 「押し戻せ!」 かろうじて戦闘不能をまぬかれた5人は満身創痍ながらも警棒の長さを伸ばして応戦してくる。 「絶対に押さえてみせる」 攪乱を狙って走る涼子はこの任務を必ずやり遂げる事を強く強く胸に刻む。想いの強さは力となり、運命さえも味方となり敗北さえ事象をねじ曲げ勝利へと変革させてゆくだろう。世界の愛し子である存在だから許される『力』の発露だ。 「さおりんの為に、あたし頑張るのです!」 宿命ほどに強い『乙女の恋心』パワーがそあらにはある。再度放たれた聖なる裁きの閃光が警備員達を焼き、重ねてミリィが繰り出す清浄なる光の攻撃が戦闘不能へと追い込んでゆく。 「そあらさん、良い攻撃だ」 「は~い、ミリィさんもナイスなのです。でも……」 「来たようですね」 動かなくなった警備員達の様子を確かめる暇もない。そあらとミリィの視線は正門の更に奥へと向かう。 「増援が来たよ。予測通りの……5人!」 アリステアの愛らしい声が警告を響かせる。新手の5人は簡素ながらも親衛隊らしい黒に銀をあしらった軍装を身に着けており、明らかにこれまでの警備員達とは動きが違う。 「気を付けて」 アリステアは皆へ、そして自分への攻撃を常に留意しているのか、射線を遮るように前衛として立つ涼へと言葉を紡ぐ。 「ホリメかどうかはわからないが……!」 敵に戦況を把握する猶予を与える気はさらさらない。涼は更に突っ込んだ。 「なに?」 「これは一体……」 「て、敵襲があぁぁぁぁ」 最後の言葉は悲鳴に変わる。黒服の中に突っ込んだ涼が華麗に回転するのに合わせ、黒く長いコートが再度翻り、仕込んだ凶刃が周囲を薙ぎ、更にもう1度全周囲の敵へと斬りつけてゆく。 「立て直せ。アインとツヴァイは前へ残りは集中!」 5人の中ではリーダー格らしい黒服が回復の力を使いつつ指示を出す。それを見た櫻霞が動いた。今宵、死の翼を持つ怪鳥は涼だけではない。神秘なる魔力を帯びた攻撃が美術品の様に美しい夜色の銃器から放たれた。キーンと甲高く鋭い音が響き、リーダー格の敵が反転して地面に転がる。それでもすぐに立ち上がったのは何かの装飾に当たり、肉体を損なうには至らなかったからだろう。 「なるほど、そこそこの幸運には恵まれているということか」 狙い澄ました攻撃を弾かれてもそれほど悔しいそうな様子ではなく櫻霞が言う。だが、味方の攻撃は続いている。 「頑張るって決めたんです!」 必死になって激しいはばたきを続けるアリステアが大きな魔力を帯びた竜巻を放つ。 「まだです」 姿勢を立て直そうと風に抗うリーダー格の敵へ櫻子の魔弾が左肩を貫いた。荒れ狂う風に代わって魔的な炎を帯びた矢は全ての敵へと紅蓮の炎を振る舞ってゆく。 「どうした。その程度か親衛隊。随分手加減してくれるじゃないですか!」 神の業火を放った七海は挑発するように揶揄と侮蔑と嘲笑を込め、聞いた者の神経を逆撫でするよう言い放つ。 「砲撃と共に前で出て敵の後衛から狙っていけ! この大田重工をお前等如きがどうにか出来ると思ったら大間違いだ。貴様等の命で勉強料を支払わせてやるから覚悟しろ!」 2人が放つ重火器からの範囲攻撃、それらは確実にホーリーメイガスである櫻子とアリステア、そしてそららを意図的に狙っていた。だが、それぞれ櫻霞と涼、ミリィが射線を遮り痛烈なダメージを被るには至らない。だが、その間隙に敵2人の接近を許してしまうのは防ぎようがない。アインとツヴァイと呼ばれた者達は銃剣を巧みに使い、僅かな時間差を仕掛けつつ全周攻撃を放ってくる。それは致命傷とはならないまでも確実に痛手となる。 「このまま好き勝手はさせない」 更に回復の要になるホーリーメイガスを狙われないよう涼がアインのマークに着き、ツヴァイへはミリィと涼子が進路を塞ぐ。 「涼子さん、なんとしてもここは防ぐましょう」 「わかった。地獄までつきあってやる」 走り廻っていた涼子はツヴァイに向かって突撃する。門も塀も巻き込んで戦う気満々だ。 たった5人の親衛隊は劣勢であったが、しぶとく回復技を重ね戦闘不能を出さなかった。その間に敵の連絡や物音などで更なる増援が敷地の奥から5人、また5人と現れるに至り、ついに彼我の戦力差は逆転した。劣勢を跳ね返しリベリスタ達のほぼ倍の人数へと膨れあがった親衛隊達は攻勢を強め……しかし戦略も戦術もない力押しの戦いへは先の見えない消耗戦へと移行してゆく。そうなれば、EPの尽きた方が敗北に近づく。 「やれやれ、ガス欠とはな……」 美しく繊細な指先でそっと指し示し、櫻霞は親衛隊から心の力を奪い取る。 「櫻霞様にご不自由はお掛けしませんわ」 櫻子は精緻な細工を施された華奢な銀のブレスレットに飾られた腕を伸ばし、櫻霞の背に触れる。暖かな体温に触れた瞬間、意識の一部がシンクロし自分の力が流れてゆくのがハッキリと分かる。 そんな時だった。緊迫した戦場の脳天気な声がぼそぼそと伝わって来たのだ。 「ねー涼ちゃん、ボクの携帯見なかった?」 哀しいかな、振り向かなくてもそれが顔見知りのフィクサードのものであることを涼は判ってしまう。 「ひょっとしたら工場の中にあるんじゃね?」 アインの銃剣と剣舞の様に立ち位置を入れ替えつつ戦う涼は視線も変えずに配島へと返答する。そう、近くの木陰からひょっこりと顔だけだして覗いているのは三尋木のフィクサード、配島だった。 「探し物? 後でお手伝いするから一緒に戦ってくれると嬉しいなぁ」 混戦で手も目も離せない涼に代わってアリステアが大胆にお願いする。 「申し訳ありませんが重工も私たちも現状取り込み中です。携帯を探すと言うのであれば後日付き合うので今は大人しくしておいて下さいね」 丁寧に伝えるミリィに配島は首を傾げる。 「急いで探してこいっていわれちゃってさー」 のらりくらりと話す配島に櫻子と櫻霞は留意せず、そあらも基本的に関知しない派だ。 「さおりんに何かしろって言われてないから基本的に放置しておくです」 「大切なものなら奪い返さないと」 「……自分の好きにするといい。わたしは邪魔はしない」 七海と涼子は協力しないまでも配島の邪魔はしないと言外に表明する。 「じゃ、ちょっと行ってくるね~」 あっさりと手を振って配島は正門から工場の敷地内へとずけずけ入っていく。その配島とすれ違う様に更なる親衛隊5人が増援される。 「リベリスタどもを生きて返すな!」 やや立派そうな肩章をつけた親衛隊員が部下達を突入させる。 戦闘不能者こそ出ていないが、リベリスタ達の劣勢は覆しようもない。すぐに戦えなくなる者が続出するのは明らかだ。 「さぁ、痛みを癒し……その枷を外しましょう……」 櫻子の清雅なる声が紡ぐ力ある言葉がいと高き者の力を喚び、仲間の傷を癒し櫻霞の放った魔の炎を帯びた矢が敵の身体を火だるまにしてゆく。 「容赦はしない、焼き尽くす」 数人が転げ回って燃えてゆくが、大多数は致命傷とはならずに持ちこたえている。 「頃合いでしょうか」 櫻子、そしてそあらとアリステアの精一杯の回復行動でも仲間達の傷が癒しきれないのを見て取ると、ミリィは決断した。そう、戦奏者ならば戦場の全てを見通し見極め決断しなくてはならない。 「退きましょう」 ハッキリと意思表示すると、ミリィは閃光弾を敵へと投げつけアリステアを敵から庇いながら後退する。 「さすがにヤバそうか」 涼はすぐ目の前の親衛隊から鮮やかに間合いを奪い、消えない死の印を刻み込む。更に並び立つもう1人にも刻印をつけ僅かばかりの回復を得る。 「戻って来て! 絶対に全員で帰るよ」 「わかった」 後退する涼を負う親衛隊へとアリステアの翼が巻き起こす獰猛な突風がピンポイントで襲いかかり、吹き荒れた風に代わって放たれた矢が燎原の炎を出現させる。 「まだ浴びたいなら追って来い」 七海はフォルムの美しい弓を手に身をひねって言うと、華麗な足捌きで後退してゆく。 「これが最後なのです」 そあらの聖なる詠唱は高位存在へと働きかけ、わずかな力を具現化させて仲間達全員の癒しとなる。けれど、これが限界だった。崩れそうになる身体を涼子が支える。 「撤退だ。わたしが絶対に連れて帰る」 「……うん、ありがとう」 いつしか広大な工場のあちらこちらで戦いは始まり、そこここで鬨の声が響いていた。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|