●英雄の槍 俺は英雄になりたかった。 幼い頃、ブラウン管の向こうに見た正義の英雄<ヒーロー>のような。悪の秘密結社から人々を救う孤高の戦士のような。 だが実際はどうだ。 大学受験に失敗して三浪もした挙句に引きこもって、今は小遣い稼ぎのバイト以外には自分の部屋からすら出ない。深夜のバイトを選んだのは、この時間帯なら他人との接触を最小限に抑えられると思ったからだ。 かつて人々を守る正義の味方に憧れた少年が、見事他人に怯える引きこもりに成長するとは、神様というのは随分ジョークのセンスがあるらしい。 ああ、英雄になりたい。 英雄になれば、俺はもう馬鹿にされない。 英雄になれば、俺はもう怯えないで済む。 英雄になれば、俺は誰よりも強くなれる。 英雄になれば、英雄にさえなれれば。 男は家路を急いでいた。 時刻はとうに深夜零時をまわり、道に人通りは無い。家々の灯りも消え、町は静まり返っている。コンビニエンスストアの遅番という仕事柄、男は暗闇の中を帰宅することには慣れていた。しかし今夜は貴重な光源である月が無い。新月の夜、もとより街灯の少ない帰り道は完全な闇に包まれていた。 そして唐突に彼の運命は変わる。 そこに彼の意志は無く、ただ一閃の光がその身体を貫いた。 その事実ひとつが、彼を尋常のものならざる世界へとひきずりこんだ。 新月の闇の中、一人の男が立っている。 身にまとう黄ばんだティーシャツも擦り切れたジーンズも、みぞおちから溢れ出す赤い液体で鮮やかに染め上げられている。剥き出しの腕にもたっぷりと赤が塗りたくられていて、穏やかなほほ笑みを浮かべる顔だけが、白く浮かび上がって見えた。 男の身の丈ほどもある槍を誇らしげに掲げるその姿は、悪の組織と戦う赤いスーツの正義の英雄<ヒーロー>、そのものであった。 ● 「今回の任務はE・ゴーレム『英雄の槍』の討伐よ」 血まみれの男が映し出されたスクリーンを背に、『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は告げる。 「『英雄の槍』は宿主に選んだ人間を突き刺すの。刺された人間は傷口から力を注ぎ込まれて、常人とは比べ物にならないほどの筋力・膂力を得る。それこそ、お伽話に出てくる英雄のような、ね」 未来を映すスクリーンの中で、男は楽しそうにくるくる回っている。まるではしゃぐ幼児のようだ。しかし男の手や槍に触れたものはブロック塀も、電柱も、すべて紙細工のように裂けひしゃげ崩れ落ちた。 「そして、宿主は槍に操られる。宿主は槍にささやかれるまま、破壊の限りを尽くす。どれだけ血を失っても、身体が欠けても。槍を破壊するか、身体が完全に壊れてしまうまでは彼はもう止まらない」 ふとともった暖かな灯りに、男は目を向ける。暗い道を抜け、住宅街へ。騒音で目が覚めたのだろうか、十歳くらいの男の子が、目をこすりこすり窓を開けていた。 「今はまだ、宿主は生きている。会話もできるかもしれない。でも、説得は期待しない方がいいわ」 一歩、一歩、赤い線を引きながら男は歩く。ぽかんとした顔で自分を見つめる子どもへ向かって。まるで我が子を見るような優しい笑みを浮かべて。 「お願い。彼を止めて」 そして男は、槍を振りかぶる。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:どくどく | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年09月02日(月)23:26 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「よう、英雄メイカー。舞台はこっちだぜ」 「力を得られなきゃ勇気すら出せないお前なんて怖くねーぜ!」 『覇界闘士<アンブレイカブル>』御厨・夏栖斗(BNE000004)との『刹那の刻』浅葱 琥珀(BNE004276)の言葉が男を引き寄せる。その挑発にのった男が河川敷までやってくれば、そこには準備万端のリベリスタたちが待ち構えていた。 「英雄希望さんいらっしゃーい。イメはお待ちしていたとです」 男を迎え入れるように『永遠を旅する人』イメンティ・ローズ(BNE004622)が手を上げる。ふわふわとつかみどころのない口調で手を振りながら、フィアキィを呼び出し戦闘態勢に入る。 「英雄になりたいとか言って手にいれた力に溺れてるなら……頭を冷やさせてやらんとな」 大戦斧を手に『抜けば玉散る氷の刃』五郎 入道 正宗(BNE001087)が立ち上がる。防御の構えを取りながら槍を持つ男の顔を見た。得た力に喜ぶ顔。望んだ英雄になれた喜び。正宗はため息を一つついて歩を進めた。 「英雄、ヒーローになりたかったか。……解らない話じゃない」 ナイフを構えながら深崎 冬弥(BNE004620)が髪を手で押さえる。一族がナイトメアダウンで壊滅状態にあり、力を求めた冬弥にとって、英雄を求める気持ちは理解できなくもない。もっとも、それはそんないいものでないことも知っている。 「そうだな。英雄なんて耳に聞こえる響きほどいいものじゃない」 背中の翼を広げて結界を張りながら、ミカエル・ベルトラム(BNE001459)が暗澹な口調で言う。少なくとも男が手に入れたのは英雄の力ではない。ただ暴力を振るう姿は、破壊の権化だ。英雄などとは程遠い。 「英雄症候群ってやつだねぇ。若い、若い」 「英雄など必要ないのですよ」 『足らずの』晦 烏(BNE002858)が紫煙と共に口にすれば、『痛みを分かち合う者』街多米 生佐目(BNE004013)が静かに英雄を不要と断ずる。英雄とは何か。それを教えるべく二人は破界器を手にする。 「俺は、俺はヒーローなんだぁ!」 英雄になることを求めた男は、槍を手にリベリスタに挑む。『英雄の槍』により強化された肉体は強く、また高揚した精神は引くことを知らない。能力だけで言えば、並の革醒者を圧倒するだろう。 槍の穂先は鋭く、敵を穿つためにリベリスタに向けられた。 ● エリューション・ゴーレムの与えた力は単純なパワーだけではない。それに伴う速度と、そしてその速度に耐えうるだけの頑強さが男に備わっていた。英雄を夢見た男の願望も含んでいるのだろう、槍を回転させて地面を破壊し、突き出される槍がリベリスタを次々と傷つけていく。 英雄の槍に支配されているとはいえ、男の行動は許されるものではない。『万華鏡』の予知がなければ、幼き命を奪っていたかもしれないのだ。 そんな状況なのに、リベリスタは英雄の槍に支配された男を救おうとしていた。槍のみに攻撃を加え、男から手放させようとする。敢えて不利な戦い方を挑み、全てを救おうとしていた。 「痛みを知ることから逃げてるお前は英雄にはなれない」 琥珀が大型の破界器を手に槍と切り結ぶ。魔術的な処置により液状化して形を変える刃が、不意をつくように槍と交差する。槍が深く突き出された隙を突いて、液状化した刃が蛇のように男の足に絡まり、その動きを封じる。 「今怯えているもの全てに立ち向かえ! 強くなれよ!」 琥珀は思う。現実はいつだって残酷で、英雄だって結果としてそう呼ばれるだけの存在に過ぎないのだと。力があるから英雄なのではなく、立ち向かうから英雄なのだ。リベリスタも非革醒者も、違いは力の有無でしかないのだ。 「この力があればなんにだって立ち向えるんだ!」 「横暴に浸る君の『英雄』の力とはひどく独善的じゃあないか……」 ミカエルがメイジスタッフを手に意識を研ぎ澄ます。杖の先に集まるのは四種類の魔力。それぞれ違いのある魔力を抑え、束ね、そして解き放つ。時間をかけて狙った甲斐があったか、魔力が男を縛る枷となる。 「僕は、他人のコンプレックスを後押しするのは嫌いなのでね……」 人見知りをこじらせて三十三年。人との接触を拒む男の気持ちを、ミカエルは理解できる。それでもミカエルはエリューションの力で暴力を振るうような事はしない。革醒した力に溺れず、崩界を塞ぐために使う。 「彼自身の耐久は、多少強化されていても攻撃に余り耐えられるほどではないだろうな」 ナイフを手に冬弥が男に迫る。槍の攻撃範囲に比べて、ナイフの攻撃範囲は狭い。だがそんなことは意に介さず冬弥は速度を落さす男に迫った。突き出される槍を深く体を沈めて交わし、そのまま跳ね上げるようにナイフを振るう。 「狙いは……『槍』」 ナイフが狙うのは男の持つ槍。長年繰り返し体に染み付いた動きは死と背中合わせのときでも裏切ることはない。金属と金属のぶつかりあう音が響き、そのまま冬弥と男はにらみ合う。 「その槍を他人に向けて、傷つけるのは楽しいか?」 「ああ、楽しいさ! この力があれば英雄になれるんだから!」 「何ゆえ英雄を希望でっしゃろ?」 イメンティは首をかしげて男に問いかける。異世界出身のイメンティだが、言葉の意味は理解できる。そしてその言葉に合う人たちも知っている。才智・武勇にすぐれ、常人にできないことを成し遂げた人達。 「イメは本物の英雄さんを見た事があるとです。彼等は怯えや苦悩と無縁の存在ではなかったとです。むしろ苦悩多き存在でした」 イメンティは呼び出したフィアキィに命じて、光の弾丸を生み出す。それを槍に放ちながら男に言葉をぶつけた。悩み、苦しみ、そして血を吐きながら前に進む。イメンティが見たのはそんな英雄。他人と少しも違わない、ただ他人よりも前に進もうとする者たち。 「貴方に必要なのは、ままならぬ世界と向き合う勇気です」 「そのための強さが、今俺にあるんだ! この英雄の力が!」 「わかっとらんな。どうれ、お前に足りないものを教えてやろう」 正宗が男の真正面に立ち構える。槍の攻撃を掴んで止めることができればいいが、さすがに剛力で振るわれる槍をつかむのは難しい。斧をふるって槍の軌道を逸らし、致命傷を避けながら正宗は言葉を続ける。 「英雄ってのはな、英雄だから強いんじゃないし強いから英雄なんでもない。強いだけならヤクザなんかでもなれるわい。弱くたって英雄になれるんじゃぞ?」 大戦斧を振るい、槍に受け止めさせる。そのまま力押ししながら機械化していない瞳で正宗は男の瞳を覗き込んだ。説得は通じないと聞いている。だが、言葉が届くなら宿主の男には言うことがあった。弱いから英雄になれないのではない、と。 「弱くても……?」 「ええ、弱くてもいいのです。もっといえば英雄など必要ない」 生佐目が自らのオーラで黒の箱を作り出す。六の不調を与える立方体が男の動きを止める。英雄が求められるのは乱世のときのみ。平穏な世界に生きるにあたり、英雄などは不要なのだ。 「どうか、平穏に過ごす事を諦めないでください。個人の平穏を目指す事こそが、いつの時代でも一番に為すべき事なのです」 英雄は確かにあこがれる存在なのだろう。だが、平和に生活することこそが重要なのだと生佐目は告げる。明日のパンを作るものがいなければ、英雄も飢えて死んでしまう。戦争による破壊よりも、平和による創造が尊ばれるのだ。 「英雄になったって、何も変わらないんだ。もし英雄ってのが存在するなら誰かを守りたい『心』なんだとおもう」 夏栖斗は男の間合を計りながら言葉を投げかける。回転する槍は突如直線的に突き出される。その間合を計り、そして隙を見出す。突き出される槍をトンファーで受け流しながら、じりじりと間合を詰めていく。 「僕だって子供の頃正義の味方のヒーローをみて、頑張れば正義の味方になれるんだって思っていた」 だけど夏栖斗が革醒したのは母が殺された直後だった。激しい後悔と怒り。それが夏栖斗の原点。誰かを助けたくて誰かが傷つくのがいやで仕方ない。そんな英雄未満だが、それでも手を伸ばすことをやめはしない。 「確かに神様ってぇのは随分とジョークのセンスがあるらしい」 英雄であろう努力する夏栖斗と、英雄にあこがれただけの男を見て烏が皮肉げにつぶやいた。烏は手にした銃で槍を狙う。先ほどまで吸っていたタバコのせいか、頭の中はひどくさえわたっている。 「力に酔い、振り回されるのが英雄として焦がれた姿なのなら嘆かわしいもんだ。英雄となって何がしたかったか、思い出してみると良い」 烏の銃から弾丸が放たれたのは、言葉の途中。会話に意識を向けていた男にとって見れば、まるで時間を止められたかのような早撃ちだった。度重なるリベリスタの攻撃で持ち手が緩んでいた槍が、ゆっくりと回転して宙を舞い地面に突き刺さる。 これで終りか、と持っていたリベリスタに声が掛かる。 『汝、英雄の力を欲するか? 悪事悪行を絶ち、万古不易の名声を得、天下無双の力を欲するか? 求めよ、さらば与えられん。 尋ねよ、さらば見出さん。 門を叩け、さらば開かれん』 エリューション・ゴーレム『英雄の槍』。その声が神秘の力をもってリベリスタの心を揺らす。 ● 槍の言葉は静かに心に染み入る。 何かを為そうとするもの。何かを求めるものは多い。神秘の世界において己の無力を嘆かないことなどない。 愛する者を守りたいた者。 理想を追う者。 己の正義を追求する者。 組織の長として部下を守りたい者。 そして、英雄になりたい者。 それは力の有無など関係ない。 現実に生き、他人と接している以上必ず生じる事。価値観の違いから生じる礫圧が、他人を超える何かを求めてしまう。力を求めるということ自体は、純粋な欲求なのだ。 手を伸ばせばそれが手に入る。未革醒の男は失敗したが、革醒しているリベリスタなら力を得ることができる。 誰もが『英雄』となった自分自身を思い描き、 「断るよ。お前が見せるのはただの幻想だ」 最初に拒絶したのはミカエルだった。魔力の矢を練り、槍に向かって放つ。ミカエルには『崩界を止める』という目的がある。仮に力を得ても、崩壊を促すエリューションの力を借りたのでは本末転倒だ。 「力を得れば英雄なのではありません。試練を乗り越えた者が英雄なのです」 普通の家に生まれた普通の価値観を持つ生佐目からすれば、英雄など不要だった。何かを乗り越えたものにこそ賞賛は与えられるべきだ。力があるということ自体に何の価値もない。 「小癪な。借り物の力など不要」 正宗が唇をゆがめる。強くなりたい気持ちはよく理解できる。だがそれは自分自身が得た力でなければ何の意味もない。山寺で禅を組んでいたときのように心を落ち着かせ、鉄の心で誘惑を撥ね退けた。 「力だけでは何の意味もない。本当になりたいものになるには、力以外のモノが必要なのだ」 ナイトメアダウンで一族が壊滅状態になった冬弥は、確かに一族を支えるために力が必要だ。だが力だけでは何も為しえない。アークでの交流が、力以外のものの重要さを教えてくれた。 「力などは得ても英雄にはなれない。英雄として奮われるのは力では無く、人々の笑顔を守る為の勇気なんだよ」 タバコに火をつけながら烏が槍に答える。アークの中にいて何人もの戦士を見てきた。その中でも英雄と呼んでいいのは、やはりそういう人たちだった。力があってもそういった心のないフィクサードも、烏は何人も見てきたのだ。 「英雄ってのは何かのために一生懸命走り続けた存在だ。力があればなれるなんてものじゃない」 琥珀は笑顔で槍の言葉に応じる。英雄というのは結果論の存在で、例えば自分だっていつか世界を救い英雄になるかもしれない。だが英雄になりたいから戦うのではない。戦った結果、誰かを救って英雄になる。 「手を汚してもヒーローになりたかったんだ。だけど魂までは汚れない」 夏栖斗が槍を睨むようにして口にする。リベリスタとして手を汚し、世界を守るために何かを切り捨てた。守りたい者だって守れなかったこともある。それでも英雄を目指す心までは汚させない。だから槍の与える力は不要だ。大事なものは、既に心にある。 「英雄を望むなら、覚悟をもって。イメはその言葉はのーなのです」 異世界で実際に英雄を見て、勇気というものの意味を知ったフュリエ。イメンティもその一人だ。だからこそ英雄というものがどういうものかを知り、覚悟ということがどれだけ重いかを知っている。槍の力で得られるような、軽いものではないことを。 リベリスタは槍の誘惑を跳ね除ける。 力は欲しい。その欲望があることは否定しない。 だけどそれはエリューションの力により、安易に手に入れるべきものではないのだ。 ある者は努力し、ある者は茨の道を行き、ある者は血を吐き、ある者は手を汚し。 そうやって得た力だからこそ意味があるのだ。 いつか挫折して英雄になれないかもしれない。ここで槍を掴むことが本当に英雄になれるかもしれない。 そんな未来が待っていたとしても、彼らはけしてこの槍を掴まない。 長さ三メートル近くの太く鋭い槍。それよりも強い信念が心の中に通っているのだから。 ならば強引にでもと、槍はその穂先をリベリスタに向けて飛ぶ。 だけどすべて手遅れ。既にリベリスタはエリューションに向けて破界器を向けている。 勝負を決めたのは誰の一撃か。 『英雄の槍』と呼ばれたエリューション・ゴーレムは、誰も貫くことなく木っ端微塵に砕け散った。 ● ああ、英雄になりたい。 英雄になれば、俺はもう馬鹿にされない。 英雄になれば、俺はもう怯えないで済む。 英雄になれば、俺は誰よりも強くなれる。 英雄になれば、英雄にさえなれれば。 だけど英雄とは……。 倒れていた男は、控えていたアークの職員達により病院に送られる。 リベリスタたちが男のほうではなく槍のほうに攻撃の矛先を向けたこともあり、命の危険はないようだ。 「小市民達はいつも挑戦者を笑う。だが歩み続けた先には見えてくるものもあるものさな」 烏が紫煙を吐きながら運ばれてゆく男に告げる。我ながら説教くさいと思い苦笑する。自分も年を取ったと自分の半分も生きていない男を送り出した。 救急車に乗せられる男を見ながら安堵の息を吐くリベリスタたち。 「やれやれ、これで一件落着かな。……わずかだけど崩界を防げてよかったよ」 杖を幻想纏いに直しながら、ミカエルが呟く。崩界を止めるということに執着するミカエル。小さな一歩だが、その目的を達して心に達成感が生まれていた。 「怪我が治ったあと、彼が立ち直れればいいのですが」 「それこそ、彼の英雄物語だ」 生佐目の心配に冬弥が応える。ここから先は彼の物語。神秘が関わらぬ以上、リベリスタの役割はもはやない。 「見事に砕けたのぅ。崩界に問題なければわしが使ってやろうと思ったのじゃが」 正宗がエリューションの残骸を手にしながら呟く。『英雄の槍』はもはや修復不可能なぐらいに砕けていた。ため息をついてその欠片を回収する。 「英雄さんはどこにでもいるとです。ただそれに気づいていないだけで」 イメンティがフィアキィに話しかけるように言う。アークの環境下では言うに及ばず、普通の生活でも歴史にこそ残らないが褒め称えられるべき人間はいる。それに気づくか気づかないかだ。 「苛めから人を守る。それができれば英雄さ」 琥珀が誰にとはなく呟いた。笑顔で全てを受け流すように見えて。琥珀というリベリスタの心に流れる情熱は激しい。弱いものを守ることができる人が沢山いれば。そんな世界を願い、そして琥珀自身もそのために身を削る。 「英雄(ヒーロー)か……」 夏栖斗は子供のころに憧れた英雄を思い出していた。物語の英雄は強くてかっこよく、子供の笑顔を絶やさない存在だった。そんな英雄に僕はなれるのだろうか。それともそんな英雄は幻想なのだろうか。答えは遥か未来。歩んでいった先にある。 神秘の残滓を回収し、リベリスタは河川敷を去る。 『万華鏡』が予知した少年は、まだ夢の中。破壊の槍がなくなれば、夜は静かな帳のよう。 その静けさを壊さぬように、英雄達は日常へと戻っていった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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