●GenomArisierung 炎がリベリスタの侵攻を止める。摂氏200℃を超える熱波はそれだけで勢いを止め、紅蓮の壁がその注目を留める。 足を止めたところに高所から放たれる銃弾。高所を確保しての射撃はいつの時代でも変わらぬ戦法だ。射程が同じ銃であっても『俯瞰』による戦場視認はかなりのアドバンテージになる。うかつに空を飛べば、それだけで的になる。 炎で足を止め、銃でダメージを与える。単純だがその効果は絶大だ。 もっとも、炎の乱用は危険を伴う。火器・火薬倉庫の近くでは誘爆の恐れがあり使用できず、また施設に火が燃え移る可能性を考えると重要施設の近くでも使用できない。限定的な場所でしか利用できない戦法なのだ。 「これ以上は危険です、エーゼルシュタイン曹長! 工場に火が燃え移る可能性があります!」 「分かってる! ……くそ、せっかくの神秘兵器もこの状況では満足に使えん!」 「こういうときこそアスペルマイヤー兵長のような個人戦闘力が発揮できるのですが……!」 「全くだ。あの不完全なアーリア人種こそ、捨て駒として有用なのだがな」 「…………!」 仲間であっても差別するエーゼルシュタインの発言に、押し黙る兵士達。 優生学の知識が深く、それに傾倒している曹長。いつもはそのはけ口を今ここにいない兵長が受けていた。だがその兵長がいない今、それを受ける兵士たちのストレスは静かに蓄積している。 いつか捨てられる。その疑念が兵士達にまとわりついていた。 だが、それは間違いだとすぐに気づくことになる。 「リベリスタ、来ます! 炎の壁を突破されました!」 「仕方あるまい。完全なるアーリア人種世界のために秘していたが……!」 エーゼルシュタインは懐から紅色の石を取り出す。鈍く光る石を地面に置き、銃座で砕いた。砕けた石が熱波に舞い戦場に広がる。 「覚悟しろ『親衛隊』――」 「曹長、指示を――」 乱入したリベリスタと武器を構える『親衛隊』たちはその微粒子を吸い込み、肉体の異常に体が震えた。体内から湧き上がる強烈な痛み。ちりちりと響く頭痛のなか、エーゼルシュタインの声が響く。 「劣等種など死んでしまえ! これが我が理想『GenomArisierung(遺伝的なアーリア化)』だ! 滅び去れ劣等種!」 ああ、勘違いしていた。鋭い痛みの中で兵士たちは理解する。 この男はアーリア人種以外の者を、いつでも捨てることのできる準備をしていたのだ。その証拠に純粋なアーリア人種の曹長と兵士は、何の影響も受けていない。 「さぁ、劣等種たちを焼き払え! 頭を砕け! 命を奪え! 優良種のみに許された圧倒的な駆逐の時間だ!」 『GenomArisierung』の影響を受けていない兵士たちは戸惑いこそあれど選ばれた血統の恩恵に感謝し、己の軍務を思い出す。 リベリスタを、排斥するのだ。 ●アーク 「この男を放置すれば被害は拡大する」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は集まったリベリスタたちに向けて淡々と説明を開始する。 「場所は大田重工埼玉工場。『親衛隊』がここで神秘兵器を生み出している。これを潰し、リヒャルトを初めとした『親衛隊』を一網打尽にするのが作戦の概要」 リヒャルト・ユルゲン・アウフシュナイター。歪夜十三使徒の第八位。肩書きだけでその強さはしれよう。そして彼の率いる『親衛隊』は、訓練された革醒者の軍隊なのだ。 それを倒すために、先日三ッ池公園に大軍を向かわせた。決死の覚悟を持つ仲間達こそ囮。本命はこれから放つ第二の矢――即ち自分たちなのだ。それを再確認し、拳を握る。 「あの男の生み出した鉱石は体内に入れば内部から人体を破壊する。彼はこの鉱石を何粒か持っており、このままだと多くのリベリスタが犠牲になる。 なので少数精鋭。あえてこの数で攻めることになった」 失敗してもダメージは少なく。リスク管理からの選抜だ。 「で、具体的にはどうなるんだ? アーリア人種には効かないとか言ってるみたいだけど」 「五分後に死ぬ」 イヴの簡潔な説明に二の句も告げないリベリスタたち。 「吸い込んだ段階で激しい痛みが体中を走り、三分半もすれば高熱で動けなくなる。そのまま衰弱し、死に至る」 「容赦ねぇな。しかもそれ味方も巻き込むんだろう?」 「あの男にとってアーリア人種以外は味方じゃない。……ううん、人間と思ってない」 「徹底的な人種差別主義者か」 当人の弁を取れば『これこそが優生学。最上の種以外は人類には不要!』である。 「解除薬はあの男が持ってる。倒したらすぐに投与して」 「簡単に倒させてはくれないんだろうけどね」 幻想纏の中に送られてきたデータに目を通し、呻きをあげる。この男の性格もあるのだろうが、アーリア人種をかき集めている。つまり向こうはハンデなしなのだ。 「この戦いに負ければ公園で戦っているみんなの苦労が無駄になる。ラ・ル・カーナで心配するフュリエたちもいずれ危機にさらされるかもしれない」 イヴのオッドアイがリベリスタを見る。死地に送り出すことしかできない自分の苦悩を隠し、努めて平坦な声を出していた。 「無理強いはしない。だけど皆ならできると信じてる」 だけどこの信頼に嘘はない。だから死の未来が怖くても、打ち勝ってくれると信じて話すことができる。 リベリスタたちはその言葉を受け止め、戦場に足を踏み入れた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:どくどく | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年08月07日(水)22:48 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「下らないわ」 『GenomArisierung』が与える痛みの中、実にくだらないとばかりに『告死の蝶』斬風 糾華(BNE000390)が口を開く。冷酷な瞳が『親衛隊』を貫き、クロスイージスの足止めをする。夜を思わせるドレスを翻すように回転し、戦場にナイフをばら撒いた。刃の蝶が戦場に降り注ぐ。 「お姉様までこんな危険な所に来なくてもよかったのですが……」 その糾華を横目で見ながら、『鏡操り人形』リンシード・フラックス(BNE002684)が駆ける。透き通るような刀剣を持ち、『親衛隊』のソードミラージュと刃を交わす。二本のナイフと透明の長剣が交差し、火花を散らした。 「任務を開始する」 耐熱装備に身を包み『T-34』ウラジミール・ヴォロシロフ(BNE000680)が戦場を走る。けして素早いとはいえないが、鍛え上げられた肉体と数多くの経験則でソードミラージュの一人を足止めし、ナイフを交わす。仲間の死角を塞ぐように立ちまわり、ナイフを振るう。 「遺伝的にアーリア人以外を判別して抹殺する兵器など……」 リベリスタ陣営の中で唯一『GenomArisierung』の効果を受けていない『騎士の末裔』ユーディス・エーレンフェルト(BNE003247)は、その兵器のおぞましさに身震いした。同じアーリア人種として、許されざる行為だ。 「ブリッツクリークは君たちの専売特許ではないぞ」 『閃刃斬魔』蜂須賀 朔(BNE004313)が抜刀し、戦場を駆ける。右手には魔を斬り呑み喰らう不吉な刀。左手には電磁コイルが仕込まれている鞘。抜刀の動作さえも冴の攻撃動作。光り輝く武技が、ワーゲンのシャーシに傷を入れる。 「劣等だの優良だのいい加減聞き飽きたぜ」 自分の背丈ほどある斧を掲げ、『墓掘』ランディ・益母(BNE001403)が歩き出す。体内の気を爆発させるように燃焼し、自らの筋力を挙げる。その爆発力を殺さぬように斧を振り回し『親衛隊』に叩きつけた。 「ははっ、たんのしぃ~。奇襲され過ぎじゃねぇのぉ?」 小馬鹿にするように――実際小馬鹿にしているのだろう――『消せない炎』宮部乃宮 火車(BNE001845)が手に炎を宿す。大仰に腕を回転させながらエーゼルシュタインのほうに歩を進めた。口調こそ軽いが、その瞳はここで倒すという意思をこめた獣の如く。 「任務開始。さぁ、戦場を奏でましょう」 指揮者のようにリベリスタ全員の動きを『戦奏者』ミリィ・トムソン(BNE003772)がコントロールする。言葉、目線、そんなわずかな動作と深い信頼。それによりミリィは仲間に最善の動きを与える。二重の奏でがリベリスタを強化する。 「来たか劣等共が。どれだけ強がろうが、この状況は覆るまい」 エーゼルシュタインは確実に体力を減じているリベリスタの姿を見て勝利を確信する。加えて高所からの射撃に神秘兵器。純粋な戦力としても申し分ない。 「行くぞ! この戦いをもってアーリア人種優勢の証明とせよ!」 遺伝的に劣るものを『間引く』為、エーゼルシュタインは号令をかけた。 ● リベリスタには時間がない。文字通り命がかかっているのだ。助かるにはまずエーゼルシュタインを倒さなければならない。彼の持つ薬を使わなければ、力尽きてしまう。 糾華、ウラジミール、リンシード、ミリィが前衛を押さえこむ。そしてランディ、火車、ユーディス、朔がエーゼルシュタインを含めた後衛に迫る。庇からの銃弾を浴びながら、リベリスタはそれぞれ破界器を握り締める。 「自分と違うモノを受け入れ、変化していく事で人は成長していくものだと思うんです……」 リンシードが自分の身長ほどある長剣を振るう。月光と業火の光を反射し、相対している者と糾華の目の前の『親衛隊』の気を引きながら、ソードミラージュのナイフを見る。交互に繰り出されるナイフがリンシードの肌を浅く凪いだ。痛みに耐えながら言葉を続ける。 「過去にしがみ付く亡霊達には解らないんでしょうね……私も最近まで知りませんでしたけど」 実験体だったリンシードは、かつて命じられるままに悪事を働いていた。それを正してくれたのが、アークで出会った人たちであり自分の周りにいる者だ。その変化を『成長』と受け止めることが出来るようになったのは、リンシード自身の成長だろう。 (ああ、これは嬉しいわね) その言葉を耳にして糾華は笑みを浮かべる。暗闇から立ち上がった少女を見ながら、今だ歴史の暗闇に留まる者たちを見る。服の袖から蝶を模したナイフが滑り出る。糾華が破界器を投擲するたびに、白銀の髪が流れるように舞う。 「一つの思考に凝り固まると、人は柔軟性を失って先への道程すら見失うわ」 糾華も夢を追う事は否定しない。諦めきれずに抗うことを悪いとは思わない。だがそこに執着すればそれは怪物となる。糾華の舞は止まらない。彼女が腕を振るうたびにナイフが戦場に降り注ぐ。死を告げる蝶の如く、ナイフは『親衛隊』を傷つけていく。 「行きましょうリンシード。亡霊狩りよ」 糾華の言葉に、リンシードが頷く。 「さすがに味方を巻き込みますね」 ミリィはワーゲンに閃光弾を放とうとして、その手を止める。今放てば味方も書き込んでしまう。已む無く威力は減衰するが。神聖なる光で『親衛隊』に衝撃を与える。問題ない。味方への付与は終わっている。今の役割は神秘兵器の押さえだ。 「私達を信じて送り出した彼女と今も戦う仲間達の為に、貴方には……絶対に負けませんっ!」 死の未来を見ながら信頼して送り出してくれたフォーチュナ。今必死に戦う仲間達。ミリィにとって戦場は変わらず恐怖だけど、それでも戦場に立つことができる勇気を与えてくれる。さぁ胸を張り、戦場を奏でよう。 その声が、知識が、笑顔が、皆に勇気を与えるのだから。 「自分たちがいる間は好きにできると思うな、ボッシュよ」 ウラジミールのナイフと『親衛隊』のナイフが交差する。頚動脈を守るように立つウラジミールと、正中線を中心にナイフを構える『親衛隊』。その立ち様から防御の構えと攻撃の構えに分かれている。 「その余裕がどれだけ持つかね。数十秒後には動けなくなってるだろうぜ」 「自分たちを焦らせようとしても無駄だ」 自分の命に王手がかかっていても、このロシヤーネは変わらずに言葉を返す。あと数十秒はある。残り時間をポジティブに受け取り、ウラジミールはナイフを振るった。鋼刃と鋼刃が交差し、互いに至近距離でにらみ合う。硬直は刹那。その距離でナイフの攻防が始まる。 「『閃刃斬魔』、推して参る」 朔が蜂須賀示現流の歩法で戦場を進む。滑るような足取りは、相手の遠近感を狂わせるほどの素早い動き。そのまま刀の柄に手をかける。大事なのは刀の間合を理解すること。柄を握ると同時に抜刀し、『親衛隊』に切りかかる。 「さて、君たちの指揮官は守るにふさわしい相手なのかね?」 刃で傷つけながら朔は『親衛隊』に揺さぶりをかける。効果があるとは彼女自身も思っていないのだろう。そういう意味では純粋な疑問でしかなかったし、答えを待つつもりもない。抜刀の軌跡のままに光が走る。刀の動きを追う様に光の残渣が夜を照らす。 「口で言う分にはいい。思想だけなら捨て置きましょう」 ユーディスが槍を構えて『親衛隊』に突撃する。鋭い突撃と堅牢な盾術。これもまたアーリア人種である先祖から受け継いだ技法だ。その穂先が『親衛隊』のホーリーメイガスに叩き込まれる。 「けれど、その所業は遥か一線を越えています。貴方のような者こそがアーリアの名を、我ら父母の祖先の誇りを薄汚く穢す者」 その言葉はエーゼルシュタインに向けられた言葉。アーリア人種のみを優遇し、それ以外を滅ぼす鉱石を生み出したもの。 「何を言う。これこそがアーリア人種を優性と認めさせる最高の手段だ」 「それ以上囀るな下郎。貴方は此処で終わりです――私達が終わらせる」 言葉を交わすことなどない、とばかりにユーディスは会話を打ち切る。槍を振るい、拒絶を示すように穂先を突きつけた。 「そんだけ優良を証明したいなら、今、この場で力を示せ」 ランディが『グレイヴディガー・ツヴァイ』を振りかぶり、『親衛隊』に振る下ろす。鍛え上げられた筋肉と魔力。それが融合し、高エネルギーを矢として放つ。二重の弾丸はランディの努力の結果を示すように強い衝撃を『親衛隊』に与える。もんどりうって転がる『親衛隊』。 「俺の理屈から言わせて貰えば弱いから負けたんだよ」 「ああ、そうだな。だからお前達は公園を取られたんだよな……!」 『親衛隊』の挑発を鼻で笑って、ランディは指で挑発する。気性こそ荒いがランディはアークの中でも経験の深いリベリスタだ。その程度の挑発に乗るほどではない。むしろそれが冷静さを取り戻させた。 (なんだ? 他のやつらは庇いにこねぇ。それにこの挑発。こいつはマズイか?) 「今だ、燃やせ!」 「Ja!」 紅色のシュビムワーゲンが火を噴く。『親衛隊』のホーリーメイガスに集まっていたリベリスタは、その業火に包まれる。炎に体力を奪われて、朔とランディが運命を削る。『GenomArisierung』の効果を受けていなかったユーディスも熱で呼吸困難となって激しく咳き込んだ。 戦闘の基本は如何に相手の体力を削りきるかである。そのためにホーリーメイガスを真っ先に叩く戦略は鉄板である。 だが逆にそう来るとわかれば、回復役を囮にすることもできる。当たり前の戦略を、回復役を失うリスクを犯して利用したのだ。 「劣等種が。頭脳の違いを思い知るがいい!」 「ああ、思い知ったぜ優良種様! お前らの間抜け加減はなぁ!」 「何っ!?」 唯一、ホーリーメイガスに向かわずエーゼルシュタインのほうに向かった火車が炎の拳を振り上げる。胸元で拳を引き絞り、筋肉の開放と共に叩きつける。エーゼルシュタインに有利な間合を取らせない足捌きで、炎拳を振るう。 「毎度ぉ! なんか言う事あっか? 優良種ぅ。ほれほれ狙ってみろ?」 わざとガードを解き、エーゼルシュタインに狙えとばかりに挑発する火車。 エーゼルシュタインの最善手は『相手が動かなくなるまで逃げる』ことである。防御に徹すればそれでいい。だが相手は火車一人で、しかも死に体である。このまま延々と殴られるのなら、一気に攻撃したほうがいい。 「劣等種は地べたにはいつくばってるがいい!」 貫く気糸が火車を襲う。炎の拳との幾度かの攻防の後、先に倒れたのは火車だった。運命を燃やし、火車の炎がさらに赤く熱くなる。 「はっはぁ! 流石優良種! じゃあここから本番と行きますかぁ!」 追い詰められて初めてエンジンがかかる革醒者。エーゼルシュタインの鉱石は、そんな革醒者との相性が最悪だった。手負いの獅子をあえて作ってしまうからだ。 「曹長!」 「問題ない。奴等は確実に疲弊している! このまま攻め続けろ!」 炎のダメージに汗を流しながらエーゼルシュタインが檄を飛ばす。事実、総合戦力では勝っている。 だが、『親衛隊』は一抹の不安を拭い去れないでいた。より正確に言えば、この優生学傾倒の曹長への不安が。 その不安は少しずつ響いてくる。 ● 高所からの射撃がリベリスタを穿つ。 「……っ! まだよ」 「この程度、では……!」 糾華とミリィが弾丸の雨で力尽きる。運命を燃やして意識を保ち『親衛隊』を見る。 「確かに力及ばず味方を捨て駒に、と言う事はあるでしょう」 ミリィはエーゼルシュタインとそれに従う『親衛隊』たちに向かって口を開く。戦場において犠牲なく勝利するなど理想だ。 「ですが、志を同じくする者すらも劣等と蔑み、意味も無く傷つける彼を私は許さない!」 「貴方も、貴方達も、種の優劣を信じているのかしら? 心の底から? 先程まで一緒に戦列に居た人たちは仲間ではなかったの?」 ミリィの怒りに糾華が言葉をかぶせる。共に戦った仲間を蔑ろにするエーゼルシュタインのやり方に、不満がないものはいない。 「遺伝的にアーリア人以外を判別して抹殺する兵器など、人類史を紐解いてもそう無いのではないですか」 それこそアーリア人種の誇りを汚すものではないのか。ユーディスはアーリアの血統として同胞に語りかける。敵味方ではあるが、同じ血が流れているものとして。 「この鉱石が完成した時に、君たち『親衛隊』の何割が生き残るのだろうな」 朔の言葉に『親衛隊』の表情が確かに曇る。彼等も純粋なアーリア人種だけで構成されているわけではない。もちろん使いどころを誤らなければ有効な道具なのだが、 「はっ! 劣等種がどれだけ死のうが構うものか! 人類の未来のために穢れた血統は滅びされ!」 エーゼルシュタインが使えばどうなるか。それは火を見るより明らかだ。 「まだ……負けません!」 リンシードが『親衛隊』の攻撃を受けて膝を突く。敵の気を引き、攻撃を避け続けてきたがそれでも限界はある。運命を燃やして息を整え、日常を守るために剣を構える。 「焦りは禁物だ、この程度の相手に遅れを取ることはない!」 ウラジミールは持ち前の頑強さで耐えながら、仲間達の不調を癒していた。目の前の『親衛隊』のナイフを捌きながら、味方の背中を押すことに専念する。確かに目に見えて『親衛隊』とエーゼルシュタインの命令との齟齬が生まれていた。 「良くまぁ調子クレやがったなぁ! 最早笑いも出ねぇぞ毒ガスヘタレ野郎がぁあ!」 逆境において火車の動きは鋭くなる。幾度となく戦火を潜り抜けた肉体、幾度となく燃やしてきた炎。それが歪んだ優生学者の腹を燃やす。 「黙れ劣等種! その血をすべて根絶してくれるわ!」 「喚くより小細工でも戦術でも何でも使いな。優良を証明する為に」 回復役の『親衛隊』を潰したランディが斧を振るう。その小細工も戦術も全て叩き潰してやるとばかりに至近距離から砲撃のようなエネルギー波を放った。 倒れるか。しかしエーゼルシュタインもまた革醒者。運命を削り、優性を示す。 「穢れた者どもが! このアーリア人種の血を流させた罪は重いぞ!」 貫くような糸の一撃が、火車とその後ろにいたユーディスを貫く。ユーディスはその一撃で運命を燃やす。火車も腹を押さえながら、痛みの中で笑みを浮かべた。もってあと一撃か。 リベリスタに焦りが募る。血統を狩る死神の鎌は、少しずつ近づいてきていた。 ● ヨーゼフ・エーゼルシュタインは基本防御よりの革醒者である。火力よりも指揮能力、そして防御力に力を裂いている。つまり矢面に立つタイプではないのだ。四人の革醒者の猛攻を長時間受けきれる実力はない。 「WW2ですっかり負け犬癖がついたか」 ウラジミールの挑発が耳に痛い。しかしここで防御の構えを解けば押し切られるだろう。防御に徹し、時間を待つ。 「リン……シード」 「あなたには……負け、ません……」 「ここまで、か」 糾華とミリィ、そして朔が弾丸の雨で倒れ伏す。 「お姉さま!」 リンシードが感情を露にして体を震わせる。愛する者の喪失。その可能性が色濃くなってくる。呼吸が乱れ、剣先が震える。 「焦ることはない。生きていれば巻き返しは可能だ」 そんな不安を払拭するようにウラジミールが声を出す。戦略上の不利はある。だが、希望はまだ繋がっている。 このパーティは回復が少ない攻撃特化チームだ。その矛先がエーゼルシュタインに向くのは当然のことだ。だがエーゼルシュタインに向かない矛先が庇の上の射手か、あるいは神秘兵器に向いていればここまでの劣勢はなかっただろう。 「くそがァ……!」 「そのツラ、叩き潰したかったぜ」 火車とランディが神秘兵器の炎にまかれて力尽きる。だがランディは力尽きる寸前に、ある場所を指差す。 「まぁその役は……くれてやるよ」 指差す先に神秘兵器の生んだの熱波に舞う金髪があった。それはアーリア人種の証明である長く美しいユーディスの金髪。 「覚悟なさい。下郎!」 ユーディスの槍が翻る。彼女の血統同様、脈々と受け継がれる騎士槍の一撃。その精神に似て、曲がりのない真っ直ぐな一撃。 岩を穿つ水滴の如くエーゼルシュタインに向けられた攻撃が、優性の守りを打ち砕く。 「まだだ。まだアーリアは負けてはいない……!」 狂った執着の中、エーゼルシュタインはユーディスの槍を受けて力尽きた。 ユーディスが倒れたエーゼルシュタインの懐から解除薬を取り出し、リンシードとウラジミールが素早く倒れているものを回収する。 リベリスタとの交戦で数名が倒れているが『親衛隊』はまだ戦力を有している。交戦を続ければリベリスタの敗北は必至だ。 「退避したというアーリア人ではない親衛隊兵は無事なのかしら」 ユーディスが解除薬を見せながら『親衛隊』に問う。解除薬がほしければ停戦しよう。暗にそう問いかけていた。仲間の必要分は既に確保してある。あとは不要なものだ。 残った『親衛隊』は、その条件を受け入れる。リベリスタが行った戦闘中のゆさぶりが背中を押したようだ。 リベリスタたちは負傷者を抱えてこの場を離れる。 戦果としては小さいが、それでも歪んだ優生学者の最悪の発明を止めることができた。それが生み出すであろう悲劇を止めることができたのだから、戦果以外の結果がある。 亡霊は哭く夜は、まだ終わらない。だが明けぬ夜も、ない。 朝日はどちらに輝くのだろうか? 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■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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