●今更ですが、紳護さんは16歳。高校生ですよ 「……」 スカイウォーカー作戦室。 というよりは隊員の詰め所のような場所だ。 並べられた事務机、地図と写真が貼り付けられたホワイトボード。 無機質な金属性ロッカー、その傍には一応女性用と区切られたカーテンの更衣室。 他にも金網に囲まれた武器庫だったり、無線装置だったりといろんな物がある。 しかし、必ずなくてはならないものが無かった。 彼以外の隊員の姿だ。 「ノエル」 「なぁに?おにいちゃん」 スカイウォーカー部隊長、『SW01・Eagle Eye』紳護・S・アテニャン(nBNE000246)は傍にいた妹、『なちゅらる・ぷろふぇっと』ノエル・S・アテニャン(nBNE000223)の名を呼ぶ。 愛くるしい笑顔を浮かべるノエルは、彼が作った自分専用のスペースでお絵かきをしていた様だ。 「ホーク・アイはどうした?」 「みてないよ~?」 「バンテ・アイは?」 「みてないよ~?」 「オウル・アイは?」 「おじちゃんもみてないの」 「スワン・アイは……?」 「ぁ、お姉ちゃんもいないね!」 のほほんとした返答が帰ると、紳護は盛大にため息を吐いた。 (「皆で溜まった仕事を片付けると約束したというのに」) 足取りは重く、自分の席に腰を下ろすと、溜まった事務作業との睨めっこが始まる。 数時間が経過。 「おにいちゃん、おなかすいた~」 ノエルの声に気付き、空を見れば既に日が暮れていた。 しかし仕事は山の様にある。 「夕食時だな。すまないが、今日は外食で許してくれるか?」 「うん! ノエル、グラタンがおいしかったお店がいいな~」 紳護は鞄に書類を詰めると、ノエルの手を引き、部屋を後にした。 サイドカー付自動二輪でのドライブを経て、食事を終えると直ぐにノエルを住まいへと送り届ける。 何時もの御世話をした後、再び自室での書類業務。勿論一夜漬けで終わる量ではない。 こうして夜も更けて朝を迎えれば、一睡もしなかった紳護は制服に身を包んで登校準備を済ませる。 眠そうにするノエルの準備を手伝うと、再びバイクに跨り、妹を学校まで届けると自身も学校へと向かう。 「……」 授業もそつなくこなし、昼食を食べながらの仕事。 日が傾けば再び作戦室へと向かい――。 数日後、アーク本部へ書類を届ける途中で倒れたところを、某女子大生フォーチュナーに見つかり今に至る。 ● 「他の隊員は長期任務に出たらしい、丁度俺が学業についている間に……らしい」 ブリーフィングルームにやってきたリベリスタ達を紳護が出迎えるが、珍しくオフィスチェアに座ったまま語っていた。 顔色は悪いし、腕には点滴まで繋がっている。 気になったリベリスタが、その理由を問う。 「……過労といわれた。暫く安静にしろとのことらしい、しかし途中の仕事をこのままにするわけにもいかない、書類仕事はともかく銃器のメンテや装備搬入作業だの、やる必要のある仕事もある」 そんなものをぶっ続けでやろうものなら、紳護は冷たい土のベッドで寝る事になりそうだ。 流石にやめろと制止の言葉を掛ける彼らに苦笑いを零す。 「そうするつもりだ。そこですまないが、俺の仕事を手伝って欲しい。事務仕事、武器メンテナンス、倉庫作業の三つだ。事務仕事は何をどうやるかは書類ごとに指示書を添えてあるから、それを参考に進めてくれ。武器のメンテナンスは分解して清掃、各パーツのチェック、組み上げてからの試射テストを頼む。倉庫作業は装備を運び込む車両の誘導や、フォークリフトでの荷物整理等を頼みたい」 書類はテーブルに山の様に詰まれており、銃器はスクリーンに映っているだけでも数多くある。全部使うわけではないが、いざというときの予備であったり、各任務に合わせて武器を変えたりしている様だ。 続いて映し出された倉庫は、それほど大きくないが長期任務に使う携帯食料だったり、予備弾薬や各種装備品のスペア等が保管されている。一箱の重さはかなりあるので人力での作業は困難だろう。 ざっくりと説明を終えると、次は作業場に関しての説明に移る。 「事務仕事はここで頼む、必要なものはそろえたつもりだが、何か必要なら教えてくれ。銃器メンテナンスはここを出て直ぐのところにある試射場と整備室を借りてあるから、そこで頼む。倉庫作業は運び込む車両の誘導や荷物の積み下ろし、現在保管されている物資の総数チェック等を頼む」 幾ら仕事とはいえ、この量を紳護一人に任せて出て行った仲間も酷いものだ。 積み上げられた業務にリベリスタ達に苦笑いが浮かぶ。 「分からない事があれば呼んでくれれば直ぐに教えに行く、すまないが後は頼む」 戦うとは刃を振るうだけで済む世界ではないようだ。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:常陸岐路 | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年08月10日(土)22:57 |
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■メイン参加者 23人■ | |||||
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「まず言わせてもらうことがある」 説明が終わったところで、一番に紳護へ声を掛けたのは無敵 九凪だ。 「仕事を後回しとか大変になるのはわかりきっていることじゃないか」 尤もという言葉に紳護からはぐうの音も出ない。 「人手が足りないなら増やしてもらえ、それと他のメンバーがお前を置いていったのは勉強に専念させたいからではないのか?」 どうだろうか? それだけは直ぐに頷く様子は無い。 「でも、今回の事でアークや君の仲間がブラック過ぎだって思われちまう可能性もあるんだぜ?」 九凪に続き、エルヴィン・ガーネットも頷きながら言葉を重ねる。 「自分のキャパを見極めるのも仕事の内だ、次からは気をつけてな」 悪戯な笑みを浮かべ、紳護の手に差し入れの甘味が詰まった袋を渡す。 「明らかに働きすぎです。少しはご自愛してくださいね、ノエルさんが悲しみますよ?」 同じ妹としてのレイチェル・ガーネットの言葉は、一番痛いところに刺さったか紳護は苦笑いを浮かべる。 「どんな生き方しても構わんが……もうちょっと飴でも舐めてろと言うんだ。全く」 司馬 鷲祐もぶっきらぼうながら労う言葉を掛ける。 思っていた以上に人に心配される身であった事を実感した紳護は、叱られた筈なのに少しだけ口角が上がってしまう。 「ひと休みさせてもらうとする……苦労掛けてしまうが、よろしく頼む」 任せろと頼もしい返事がリベリスタ達から返る。 が、しかし。紳護は気付かなかっただろう、皆の心中を。 『紳護さん、16歳だったんだな……』(新田・快) 『紳護さん、16歳だったんですか……』(リンシード・フラックス) 『えっ、紳護が年下!? 5歳ぐらい年上だと思ってたんだがそうだったのか』(白崎・晃) 『16歳かあ……ん? あれ、私と同い年?』(纏向 瑞樹) 気付かない方が良いのかもしれない、きっと彼でもショックを受けるだろうから。 ●男4人奮戦 「過労で倒れるって、ご愁傷様ですね」 しっかり休んでくださいと陽渡・守夜は言葉をつなげる。 メンバーと各々の作業を確認した後、早速倉庫へと向かった。 「まさかこの車両用の引き戸、人力じゃないだろうな……」 倉庫を閉ざす大扉、それを見上げ鷲祐が呟いた。 早速一台のトラックが敷地内へと入り込み、鷲祐が誘導につく。 「オーラーイ オーラーイ オーラーイ ハンドルちょい右でーす」 この手の仕事をしたことがあるのか、妙に手馴れた誘導だ。 「オーラーイ オーラーイ オラーイはい一旦止めましょう!」 急いで裏口から入り、開閉用スイッチを見つければ一安心というところだが。 中の熱気にジトッと汗が浮かぶ 「はいどうぞー」 あとの誘導も丁寧に終え、丁度いい場所に停車完了だ。 「道路のところにいるトラック、全部そうか?」 焦燥院 ”Buddha” フツ が指差す先には既に数台のトラックが待機していた。 紳護からは纏めてやってくる事もあるので、その場合は敷地内の駐車エリアに誘導して待ってもらう様にとの話も聞いている。 鷲祐と晃は早速トラックの方へ、パワーウィンドが下がれば予想通り何処に止めればよいか?との質問が届く。 「こっちに誘導するんでお願いします」 フツが返事を返し、割り当てられた駐車スペースというのもかなり狭い。 誘導なしでは簡単にぶつかりそうでもある。 「さあ、オーライオーライ! こっちこっち! もうちょい! おっけ、ストップ!」 フツも問題なく誘導を終え。 「はい、オーライ、オーライ……ストォォップっ!!」」 晃も同じく無事完了。下げすぎたかとヒヤッとしたのは内緒である。 ここからは守夜の独断場だ。 「よっと……」 屈強な体を生かした力仕事はまさに適材適所。 弾薬が詰まった木箱を持ち上げ、フォークリフトなしで搬入していく。 トラックの運転手がサイドミラー越しに二度見する程だ。 「フォーク壊れてるのか?」 運転手の問いに首を振りつつ、守夜は運び続ける。 「運転できる人がいないんですよ」 「そりゃ災難だな、どれ、手伝おう」 運転席から降りると、近くにあったリフトに乗り込む運転手。 これならば順調に進みそうだ。 「なあ、ところで、オーライオーライって、『往来往来』から来たって知ってるかい? 『ここは車が通ってもいい往来だ』ってことでサ」 お昼休みに入り、フツがちょっとした雑学を披露する。 そうなんだと頷く晃と同じく、筆者も初めて知りました。勉強になります。 「よし、休憩はこんくらいにして、ペース上げてくか!」 そろそろ次のトラックが来る頃だろう。もっと忙しくなるだろうと4人は後半戦に挑む。 ●何処かでサンライズが流れる 時は遡り、紳護がお叱りを受けた後の事。 「雇われ遊撃隊がお手伝いに来たわよ、こっちは助手の瀬恋。よろしくね」 宮代・久嶺に引っ張られ、坂本 瀬恋が顔を見せる。 「過労でぶっ倒れるとか根性足りてねぇんじゃねえのか?」 一言多いと叱られながら久嶺が引きずっていく様子を紳護は薄っすらと笑みながら見送った。 「……いつもお疲れ様です。お大事になさって下さい」 からあげサンドの差し入れと労いの言葉を掛け、リリ・シュヴァイヤーと兄のロアン・シュヴァイヤーも試射場へと向かう。 倉庫班、整備班と見送ると、残ったのは事務処理班の面々だ。 「よーし! 頑張ってお手伝いするぞー!」 気合十分な鴉魔・終ではあるが、消去法で事務処理となったとは口にし辛い。 「大船に乗ったつもりで任せておいて、バイトで似たことやってたから!」 頼もしい言葉をくれたのはサタナチア・ベテルエルだ。 腕まくりしてPCに向かう彼女の後姿に安心感を覚えながら、事務仕事という大掃除が始まる。 「で、紳護。ノエルたんはいないの?」 結城 ”Dragon” 竜一が真面目に仕事をしながら問いかける。 いつも活気溢れる印象を受けていた紳護からすると、大人しく仕事する様というのは不思議に感じるのだが。 「俺のモチベーションを維持するには、やはりノエルたんの力と応援が必要だと思うんだ」 何故ノエルの力が要るのか? 検討がつかず頭から疑問符が浮かびそうだ。 「お前一人だけお兄ちゃんとか呼ばれてズルイぞ。俺もノエルたんにお兄ちゃんとか呼ばれたいし」 「君にも妹はいるだろ」 以前見た情報で妹がいるのを確認している。 「それとこれは別だ。まぁいいや、これが終わったら、ノエルたんとの食事って事で手を打ってやるぜ」 「その時は私も……」 紳護の傍で仕事を教えられていたリンシードが静かに便乗。 「そのつもりだ、安心してくれ」 何故か先読みしたような返答をする紳護、それはともかく唐突にリンシードの手が止まる。 「よし、諦めました……!」 色々と教授されつつ事務仕事に取り掛かった彼女であったが、予想以上に難しかったらしい。 潔く諦めるリンシードに紳護が少しばかり目を見開いた。 「紳護さんの看病をする事にします」 「そ、そうか……」 これが後で人生初の気まずいという気持ちを知るきっかけになるとは知る由も無い。 PCに向かいながら作業を続ける焔 優希は、隣の席にいた瑞樹へ視線を向ける。 書類と睨めっこ中の瑞樹が顔を上げると、軽く首を傾げた。 「こうしていると、学校に通っていた頃を思い出してな……覚醒前と今の生活は、落差が激しい物だろう?」 戦いばかりで疲れてはいないだろうか、気遣う様子を見れば、瑞樹は暫し考え。 「……落差かあ、来たばかりの時は違和感と疲労感を覚えることがあったね。でも、今は大分感じなくなったよ? ふふ、鍛えられたのかも」 クスッと微笑む彼女に吊られ、薄っすらと優希にも笑みが浮かぶ。 「俺は……今よりは普通であったかな。覚醒して良かったことと言えば、運動音痴が治った位か」 意外な過去に、瑞樹は思わず噴出す様に笑ってしまう。 「あははっ、優希さんが運動音痴? それは見てみたかったかも!」 これが彼の背を押し、二人の距離を縮める事となるならば嬉しい限りである。 昼休み。看病すると宣言したリンシードは有限実行中である。 点滴に繋がった腕を補う様に、必要なものを差し出していく。 「あんまり無茶しちゃ駄目ですよ? 貴方だけの体じゃないんですから……」 「善処する」 勿論、その理由は重々理解させられているので大人しく頷いていた。 「このお仕事が終わっても、しばらくは休養をとるべきなのです……」 微笑むリンシードへ分かったと頷く紳護は、妙な違和感を感じる。 (「視線……?」) 西洋人形の様な子に甲斐甲斐しく世話されているのだ、当たり前である。 気付かぬ辺りが少しズレている証拠だろう。 後半戦、しかしながら作業はまだまだある。 (「まだこんだけしか終わって無い……」) 終の前には書類の山、そして早々と失われていく時間。 夏休み最後の日に手を出した宿題の様だ。 (「成せば成る……成せば成る……なるんだもん!」) 悲しきかな、気合だけでは面倒な書類作業は進まない。 アークのアルバイトで手馴れていた筈の快に関しては、更に酷かった。 「通常なら入り口の防御重点だけど……神秘戦なら物質透過の警戒も必要だから……」 真面目に仕事をしている様に見えて、作戦練習用の机上演習にのめり込んでいる。 キーボードを叩き、マウスでクリックし、デジタルマップに流れを刻み込んでと、全く仕事に関係ない。 「いい場所ですねここは……」 電卓操作も軽やかに、会計関連の作業をスピーディにこなす灰森 佳乃に訝しげな視線が向かう。 何処からとも無く、どの辺りが? 問われれば 角の隅 という意味不明な返答を返す。 内心はいつか支配しようとしているアークの全体の感想を口走ったのかもしれない。 言葉とは関係なく彼女の手際を観察していた街野・イドは、手元の書類へと視線を落とす。 「分析完了」 そして本領発揮、演算処理の如き速度で書類に数値を印字していく。 それが終れば続けてキーボード入力、画面に浮かぶ文字に残像すら感じそうな速度である。 「そんなに飛ばして大丈夫……?」 尋常ではない速度を叩き出すイドに、エイプリル・バリントンが顔を覗き込みながら問う。 『I、私は対神秘戦を前提としてプログラムされていますが一般的な事務作業、及び家事等の知識も保有しています。また、学習機能により事務作業の効率化、アップデートが可能です』 つまり? と言いたげに首をかしげたエイプリルに目もくれず、再びハイテレパスで意思を飛ばす。 『その結果の作業効率です、例えるならば家電やコンピュータと同じ物であり、問題ありません』 機械的な外見とはいえ、もとは人の筈。心配するエイプリルを気にせず突き進んでいく。 「カレー臭がする? 恐らく携帯用のカレー粉があった筈だ。破損しているのがないか調べておいてくれ」 「そのような臭いなんてここでするはずがありませんよアハハ」 倉庫からのAF通信の返事に過剰に反応する佳乃に、紳護が視線を向けるも反応も無く電卓を叩いている。 日も傾き始めた頃、全ての事務作業は終了した。 「うう……終わった……冷えぴたと冷たい麦茶下さい……」 精根尽き果てた終が机に突っ伏す。 「お疲れ様、コーヒー入れてきたよ」 しかし彼の傍に差し出されたのは砂糖とミルクがいっぱい入ったコーヒーであった。 疲れた体と脳にはいい補給になりそうではある。 「わかった、直ぐ行く」 AFの通信に返事を返すと紳護が立ち上がる。 先程から声をかけるタイミングを逃していたサタナチアが、今こそと紳護に詰め寄った。 「私が付き添うわっ」 勢いに流され、頷いてしまうリンシード。 紳護に肩を貸しながら、サタナチアはブリーフィングルームを後にした。 ●信頼 「ねえ、ほんとに寝てなくて大丈夫なの……? そのテンテキって弱っている人がするものなんでしょう」 「大丈夫だ。安静にしろとは言われたが、動くなとは言われてない」 相変わらずの落ち着いた様子に、不安げに彼の顔を見上げた。 「……あまり無茶はしないで。心ぱ」 口から出掛かった言葉を何故か閉ざし、視線を逸らす。 「どうかしたか?」 「……ノ、ノエルが悲しむんだからね!」 どうして、何時もの気丈な振る舞いをしてしまう。 「すまない」 彼女自身理解できない理由に、紳護は気付くことなく苦笑いで応える。 「そ、それに、そんなふらふらで強がるんじゃないわよ。こういう時は素直が一番なんだから、一人で何でもしようとするからガタがくるの」 「重々理解した、以後気をつける」 素直に頷く紳護、それ以上の言葉は無く、彼女に笑みが戻る。 だが、もしかしたら、ここで一番素直ではないのは彼女かもしれない。 「懐かしいね。あの教会を思い出すね」 「はい、懐かしいです。皆様お元気でしょうか」 ロアン・シュヴァイヤーの呟き、リリが頷く。 机の上には小銃から拳銃まで色々と並んでおり、妹のフォローをもらいながらロアンも整備を手伝う。 「……OK、OK、こっちもOK。よし、問題なし。はい兄さん、これ点検終了のトコに置いといてね」 その傍でレイチェルも銃のメンテナンスを行っている。 触れた事のない得物故、何時もより丁寧に整備した小銃をエルヴィンに手渡す。 整備済みと書かれたエリアに運ばれた銃も多く、順調なペースだ。 「そろそろ試射を手伝おうか、リリ、これはもう大丈夫?」 「はい、こちらのは大丈夫です。試射をお願いします」 過去との決別の為銃を手放した身ではあるが、ここは昔取った杵柄。 イヤープロテクターを当て、シューティンググラスを掛けると奥にあるマンターゲットを狙う。 指切りの精密射撃はターゲットの中央だけを貫いた。 「こういうのは最低限でいいんだよ。昔の武器じゃねーんだからそう簡単に」 「駄目、武器の能力を最大限に発揮させる為にも、手入れは大事なんだからね!」 瀬恋を叱りつけながら久嶺は整備を終えた銃を組みなおす。 給弾不良(ジャム)を起こす可能性もあるというが、瀬恋は納得いかぬ様子だ。 そんな貴方には東側の銃をお勧めしておこう、きっと仲良くなれる。 「言っておくけど、貴女にだって共通してるのよ? 最近無茶ばっかりしてるみたいだけど、少しは自分を労わりなさい!」 彼女の形振りかまわぬ戦い方を心配しているのだろう。しかし自覚が無いのか、本人は最近の戦闘記録を脳内で振り返る。 「無茶……無茶ねぇ……そう見えるならそうなんだろうけど。生憎、やり方を変えるつもりはねぇな。アタシのやり方を変えたら『アタシ』は死んじまう」 考える後など無い、進まねば先も無い。 成さねばならぬ想い故に、その言葉に頷けない。 しかし、その心遣いに何も感じわけでもなく。 「ま、話だけは覚えておくよ」 久嶺の頭をポンポンと撫でる。心配する人がいる、それが彼女の後ろになるかは分からないが嬉しく思うだろう。 「こないだは騒がせてスマン……! これ遅くなったがお詫びの品な、いっぱい食って体力戻してくれ」 「ぁ、あぁ、ありがとう」 呼び出し主は草臥 木蓮であった。 何かあったか? と考えつつも差し出された包みを受け取る。見た目よりも重たく、何故か下の箱が冷たい。 「下のは……何だ? 冷気があるが」 「……か、カニだ、な。うむ。美味いもの食えば元気出るぜ! 上は菓子折りな!」 やっと理由を察した紳護は笑みを見せる。 その様子に一安心する木蓮だが、これはまだ探り。 一番絡んだ張本人である雑賀 龍治は彼女の後ろで落ち着かぬ様子でウロウロしていた。 木蓮に引っ張られ、紳護の前に引きずり出されると無言のまま時間が過ぎる。 「………こ、この間は、すまなかった」 再びの静寂――そして。 「気にしてない、大丈夫だ。あんな風に絡まれるのは仕事柄、偶にある」 心の痞えも取れたところで、本来の仕事に戻ることに。 二人の知識の穴を埋める様に整備の補足を行い、完了させれば早速試射へ移る。 「酒が入るとああなるけどさ、どんな時でも必中させる射手なのは俺様が保障するぜ。だからいつでも頼ってくれよ?」 試射場に鳴り響く狙撃銃の鳴き声、掻き消されぬ様に木蓮が紳護の耳元へ囁く。 「あぁ。あの命中力は類稀な実力だ。最高の狙撃手だと思う、だからこそ……偶にはハメを外すのも、ストレスを抜く仕事の一つだ」 同じ精密射撃を求められる選抜射手として、彼に期待しているのはあれ以降も変わらない。 龍治の撃ち抜いたターゲットは、期待に応える様に全て急所に穴を空けていた。 こうして事務作業に続き、倉庫、整備の作業も全て完了。 後日、食事会というお礼をする辺りまだ性格は直りそうにないが。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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