● 「此処ら辺だったか? 通報にあった、変な奴等がたむろしているっていう所は」 「そーなんだがよ……特に何も……あ!」 警官の男が二人、明りの乏しい夜道を懐中電灯で辿りながら歩いていた。少し前に、『裏路地で怖い人たちが集まっているからどうにかしてくれ』という通報が入ったばかりに、二人はこんなお化け屋敷の様な場所に来なくてはいけなくなったのだ。 それが運の尽きだとは、思う事は無かっただろう。いつも通りの日常なのだ。どうせまた、家に帰っていない悪い子が集まって馬鹿しているのだろう、と。 「君たち、何時だと思っているんだ。帰りなさい」 「通報があってね、困ってる人が居るみたいなんだ。今なら補導しないであげるから」 ほら、やっぱりだ。派手な服装に、派手なアクセサリして。中には近い学校の制服の子まで居る。仕方無い子たちだ、暴力沙汰にはなりたくないがこれも警官として見逃す訳には――。 ボッ。 「は?」 「へ?」 何故、自分は地面に倒れたのだろう。何故、己の下半身が見えるのだろう。 そのまま下半身から分裂した上半身はびくんびくんと痙攣しながら、切り目から真っ赤な絨毯を引いていく。 「ひ、ひ、ひぃいいいいいいいいいいいいいいい!!!!」 迷わず、生き残った警官は拳銃を抜こうとする。だが慌てているのか、それとも手が震えるのか、最早どっちでも良いが拳銃が上手く抜けない。 「おまわりさん、知ってるかー? ここらへんって、ちょーど、防犯カメラとかねー場所なんスよーだからこうやって通報して、呼び寄せて、狩ってるんだよね」 「うわあああああああああ!!!」 遂に走り出した警官。右足を出して、次左足を出す。そんな当たり前の動作ができない。足が縺れて転んで、地面に頭からダイブして。それでも鮮明に逃げろと信号を送る脳だったが、次の瞬間――!! 「殺しちまいなー」 「「「「「「ぎゃははははははは!!!」」」」」」 「うわああああああああああああああああああ―――――――ッ」 ● 「皆さんこんにちは、今日もおひとつ依頼をお願いします」 『未来日記』牧野 杏理(nBNE000211)は集まったリベリスタ達へ資料を配りながら切り出した。 「依頼内容は極めてシンプル。ノーフェイスの討伐です」 曰く、なんらかの影響で革醒した15人の不良達が、己の力に慢心し、夜な夜なとある場所に集まっては通り過ぎていく人達を殺したり、呼び寄せた警官を殺したりし始めるという。 「万華鏡に見つかったのが早かったので、まだ彼等の犠牲者は居ません。ですが、今夜から犠牲が出てしまうのです。どうにかして止めてください」 彼等は裏路地に居て、影のかかったビルとビルの間や、障害物の後ろ等を利用して獲物が来るのをじっと待っているのだ。 「つまり、裏路地を通った時に戦闘開始かと思います。まだ彼等はE能力者と一般人を見分ける事さえできない程度に、裏の世界を知りません。皆さんが路地を通っても、なんか普通とは違う人間だな、まあいっか!みたいなノリで殺しに来るかと思います。まあ、お気を付けて。 できれば、一般人対策をしておいた方が無難かと思います。気にしてみて下さい。 それでは、宜しくお願いしますね!」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:夕影 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年08月05日(月)22:37 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「は、はぁ、はあああ、はう、うぐっっ!!」 吐き気を抱えながら『Le Penseur』椎名 真昼(BNE004591)は血濡れた現場から走り続ける。だが、愉快だと大笑いしながら追いかけてくる足音が追いかけてくるのだ。遂に、真昼は行き止まりに到達。壁に手を着き、無い道を探し、焦りながら背後を振り返れば。 「椎名ちゃん」 「う、うあ、うぁぁ!!?」 目隠しの下で怯えた瞳を悟られている様な気がして。鬼ごっこの鬼である『殺人鬼』熾喜多 葬識(BNE003492)は少年へと近づく。 「ニンゲンの要素ってさ、22対の常染色体、1対の性染色体でできている生き物だ」 『質問』の答えが終えるまで、逃げ場を失くす様に葬識の片手が真昼の首のすぐ横を通過して壁に触れる。もう片方の手で、逃げる真昼の目線を、顎を持って強制的に己の目を見せるように仕向けた。 「あ……くっ、ごめんなさいごめんなさい!!」 「俺様ちゃん達だって他者と交わり子を為せる。それって、人間と何がちがうの?」 ただ好奇心で聞いてしまった事を後悔した真昼。 「化け物でありニンゲン、ソレが俺様ちゃん達エリューションだよ」 「んっ」 反論を言いかけた口に葬識の顎を持っていた指がくちゅりと入れられた。まだ話は此処で終わりでは無いのだ。 「俺様ちゃんも君も、ニンゲンだよ。人殺しだ」 その答えを受け入れると言うように、葬識の言葉に真昼はただ頭を上下に振り続けた。 ● 真夜中、二対の瞳が晦冥の世界をなぞった。 「はぁ……ごめんなさい」 ぽつりと呟いた真昼。それはこれから始まる小さなホロコーストへの懺悔で有り、役割を果たせない事の仲間への謝罪の言葉でもあった。 本来、暗闇がある遠巻きの世界を見るのであれば、暗視と千里眼を使用しなければ不可能なのだ。それでも現場には小さな明りは有る。見つけられた敵はほんの僅かだが……。 『いいよいいよ、俺様ちゃんが全部視るからさ☆』 「すいません……」 AFから響いた声。彼の言葉から割り当てられるフィクサードの位置は全てリベリスタへ伝わりきった。 「よし、誰が一番ぶち殺せるか競争だな! へへッ、20人くらいぶち殺すぜッ!」 「相手は15人ですわ。5人増えてますわよ」 待て、をされて我慢できなくなってきた『きょうけん』コヨーテ・バッドフェロー(BNE004561)は両腕の鉄鋼を急かす様に鳴らし始める。 そんな姿を見て『粉砕者』有栖川 氷花(BNE004287)はやれやれと頭を振った。 「ボトムのノーフェイスとやらは何を考えているのでしょうか……」 「さあ。でも極悪非道な方々ですわ。赦免の余地は一片たりともありませんわ」 ぼそぼそと、敵に聞こえない声でシェラザード・ミストール(BNE004427)は弓を握った。此方の準備は完璧か、周囲の3人を見た氷花はAFにて連絡をする。 『まだかよッ! もう行ってオッケーかよオッ!!』 『こっちの狂犬が我慢できなくなる前に、いくべきですわ』 「そりゃあ大変だなぁ! まあ俺も今すぐに殴り込みにいきてえところだ」 彼方からの通信に『悪童』藤倉 隆明(BNE003933)は真っ先に答えた。周囲からチリチリと漏れ出て止まらない殺伐に、『戦ぎ莨』雑賀 真澄(BNE003818)は煙草の煙混じりのため息を吐いた。 「どいつもこいつも兎狩りの気分だ」 ぼそっと呟いた葬識。その声は誰かに言った訳でも無く。 「あんたら殺意が高すぎるんだよ。ちょっとは抑えるとか、我慢とか……知らんのかい?」 真澄はビルの壁で煙草を潰し、そして結界を張った。そのまま真澄は赤いコーンなどなどを置きに、歩を進める。だが、ん? 思ってみれば。 「葬識は良いとしてもだ、あんたらも働かんかい。男手の仕事だろーが」 ぶん、と投げた赤いコーンが隆明と『やる気のない男』上沢 翔太(BNE000943)の頭に直撃した。 しばらくして。 「時間か」 翔太は後頭部の痛みを擦りながら、ビルの壁に足を置き、剣を抜く。 「キッチリ片づけようぜ。この仕事に感情はいらん」 誰かは楽しそうに、誰かは心に重たいものを抱えて。 天には頼れない月と、闇を打ち消す瞳を持ち、小さな明りを頼りに。コンクリートに囲まれた鳥籠の中を、リベリスタ達は走った――。 「よう馬鹿共! アークのリベリスタが来たぜ! ……っつっても知らねぇよなぁ!?」 ● 氷花が駆ける、その横の暗がりから若い男が2人出て来た。 「ハッハァァ!! 女ァ!! 此処から先は通行止めだぜ」 「俺等の姿怖いだろ? 叫べ、叫べえええ!!」 足を止め、氷花が見据えたその男の両手は刃に成っていた。もはやフェイトを得る事も無いのだろう、人外が過ぎていた事にクスッと氷花は笑った。 「何言ってるんですの? 化け物の言葉はよく解りませんの」 「「あぁ?!」」 男2人の頭にハテナマークが浮かんだ瞬間だった。突如、風に乗って大量の矢が降り注ぐ。シェラザードが弓を構え、次の弓を弧にかけていた。 「討伐しますっ!!」 「な、なんだぁ?!」 男達が驚いたのはシェラザードの耳にであって、そして弓を構える姿にエルフを思わせた事は疑う事でも無く。 しかしだ、2人に余所見をしている暇は無かったようだ。既に氷花が禍々しき両手斧を振り上げ、1人の頭の上に落している最中であった。ひとつ、弾けた音がした後だった、血相を変えたもう一人がシェラザードの身体に傷を入れ込む。 「女の身体ァァ、ハハァァ!!!」 「熱烈歓迎じゃんか、血気盛んですっげェヨロシイこって」 ビクリと男の身体が揺れた。すぐ頭上から落ちて来ているコヨーテ。炎を腕に巻き上げて、それを振り上げていた。おそらくビルの間を駆け、そしてそのまま跳躍してきたのだろう――。 「でもよォ、ケンカ売る相手は見極めなきゃダメだよなァ!!」 「う、うあ、うあああああああああああッ」 そしてまた弾けた音が響く。ぱちぱちと燃え上がり、人体が焼ける臭いが漂う。しかしだ、その炎に巻かれた男はまだ生きていた。この場から逃げようと足を絡ませながら無様に。 ぐすっ。けして泣いてはいなけれど、鼻を啜る音がひとつ。 「殺すんだ」 これから、人を。真昼は虚空に呟いていた。覚悟はしてきたつもりだったが、何故だろう、こんなにも胸が苦しい。 暗がりから伸ばした手に白蛇が絡んでいた。どうか、君だけはこんな事をする自分を許してくれるだろうかと問いかけつつ――光り輝く気糸が命をひとつ破壊した。 班分けはしたものの、此方の班の方が圧倒的に戦力オーバーフローなんだがどうした事か。 「あ!? 動かなくなんのはえーよ!!」 隆明が男の寝首を持ち上げながら生きていますか?と叩いてみるが、顎は砕けて目玉が飛び出ているソレからは反応は無く。そのまま何処かへポーイと投げて次の獲物を探す。 「まったく度し難い阿呆どもだなぁオイ。殺してれば殺されもするって事を知らんような連中は一匹残らず、だ」 それでいて、自分が危険と解れば逃げ出すような連中である。もはや阿保が極まって、笑いさえ出てきてしまう。次に隆明の目に映ったのは、目に留まらない速さで駆け抜けて氷像を作り上げた翔太の姿だった。 「磔の刑かぁ? 随分なぶり殺し向きだなぁ」 「これなら変に逃げられる心配も無いだろ」 力の使い方を知らないで慢心すれば、こうなるのだろうと素直に思った翔太。氷の陣に身体を拘束されて動けない4人の男が、これでもかと無駄な足掻きをしているのを目の端で見ていた。 「この化け物ォォ!! 放せ、放せぇえええ!!」 「俺達もお前達を遠慮なく殺してはいくが、お前達もそうするつもりだったんだろ」 「ひ、ぃぃいいいいいやだああああああああああ!!!」 「そう言われてもなぁ」 因果応報か。ジュウウウと人体が焼ける音が響いた。 「そーら、タバコ押し付けられる方が好みかい?」 もう押し付けている。真澄は煙草の吸殻を放った後、空いた掌に己の力を込めた。見れば、氷像がひとつじたばた暴れて拘束を抜け出しそうだ。 「何しやがるウウウウ!!」 「何って、ただのゴミ掃除さね」 容赦はしない。ただ、殲滅のためだけに、其処に慈悲も無く。真澄の掌は男の胴を穿った。びくんと揺れてから口から血を流して良き途絶えた一人を見て、他の氷像が悲鳴を上げていく。 「フェイトを得ても、フィクサードだろうしさ。まあ、そういう事だ」 翔太はため息交じりに息をした。手に持ったブロードソードを上げ、再びのグラスフォックにて命を摘む。 血に塗れた鋏の先端を地面に引きずって来た葬識が、グラスフォックを免れた一人を壁に追い詰めていた。脅えながら刃を向けている男が見たのは、フードの中から煌めいた蛇の様な赤い瞳。 「兎狩りが虎狩りになったみたいだね。知ってる? 人はね、案外あっという間に死んでしまうんだよ。狙うならここ」 蟀谷、頸動脈、心臓を順番に長細い指が辿った。言葉にならない言葉を叫びながら、男の長く伸びた爪は葬識の心臓を狙う。だがそんな攻撃は彼が避けられない事は無く、身体を捻って爪を回避し、男の耳元に唇を寄せた。 「ほらほら黄泉路は君のすぐそばに、案内料金はいらないよ」 次の瞬間。 「へ?」 男の首は、鋏の刃の中心に在った。 此処までの死者はざっと8人。 ● 「オイオイ、なんで誰とも連絡がつかねーんだよ、リーダーちょっとこれやばくね?!!」 「おい、変に慌ててんじゃーよ。電波が悪いとかそんなもんだろうよ。再起動してあげろよなー」 此方はリーダーとその部下達。ずっとこさ獲物を待っているわけだが、予想外の展開は此処からであって。 「リイイイイダアアアアアア!!! なんか、へ、変な奴等が、挟み撃ちで、囲まれテャギャッ!!?」 慌てて駆けて来た男の背に、一斉に刺さったのは矢であった。 「な、なんだ!!? ドッキリかな!!? カメラ何処だーーーッ!!」 「違うんですリーダー!! これマジもんですぁあ!!!」 「なんだと! げきおこぷんぷんだぞコラァ!!」 矢が刺さった男の背後、その更に奥を見ればシェラザードが弓を構えていた。次の瞬間には彼女のすぐ隣にフィアキィが目を覚ます。 「リーダー格とお見受けしました。少しの間だけ、その身体を拘束させて頂きます」 シェラザードが指を男へと向けた。その腕に触れたフィアキィが光り輝いた瞬間、ノーフェイス達が居る一帯が絶対零度に凍りついたのだ。 しかしリーダー格は氷に塗れなかった。キレた瞳でシェラザードを捕えた直後、彼女へ攻撃をしかけんと腕を振るう。 「大人しくしとけって言ってるだろ」 背後だった。翔太が己の足に力を込め、最速でリーダー格の男へと突っ込んで行く。剣にて敵の背中に斬り込みを入れた後、シェラザードを背にして翔太は立った。 「賢いよね、呼んで殺すなんて……そんなに賢いのにどうしてこんな事」 理解できないと真昼は吐いた。疑問を抱えていたままだったが、矢が刺さってびくびくと動くだけのノーフェイスへ気糸を放つ。命を摘む瞬間は見なかった、見れなかった。これでも胸には罪悪感がぐるぐると廻っているもので。 「やっべェ! オレまだ誰も殺してねェッ!!」 それは大変だ。コヨーテはあえて元気よく動いている男を相手にした。つまらない命乞いも、適当な懺悔も聞きたくない。欲しいのは、死線すれすれの命の賭け合いだ!! 「こっち、くんじゃねぇ!!」 男の手が斧に成っていた。振られた刃はコヨーテの腕を切り裂いて血が舞う。そう、これだ、これこそだ!! 笑ったコヨーテ、愛らしいピンクの瞳に闘志を燃やした。 「そンなら、どっちかがおっ死ぬまで遊ぼうぜッ……後悔すんなよォ!」 拳に炎を携え、そしてそれを目の前の男へと流すのだった。 「人の手足を●ぐのはお好き? では●がれるのはいかがかしら?」 小さな身体に似合わない斧を振り上げ、落とし、それを繰り返しながら氷像を壊していた氷花。斬り落とした腕、足、頭。勿論血が舞った、ソレらは彼女の水色の髪を綺麗な赤に染め上げていく。 「じゃあ次は……――ッ」 しかし男もやられているばかりでは無いのだ。氷像を抜け出してから、力任せに伸びた牙で氷花の肩を抉った。その痛みに悶える事も無く、氷花の瞳は更に珠玉へと光るのだ。 「ウフフ、やりますわね。こんな痛みも悪くなくってよ」 やられたら、やり返すのだ。数倍返しで――振り上げた斧、氷花の肉の味を噛みしめた男の顎はふたつに別れた。 「う、うわぁあああ!!!」 逃げ出す阿保も居るもので。やはり己の命が一番か。逃げたのは2人だった。そのすぐ後ろを翔太は追う。もっとも、彼の速度に敵う事は無い。 「鬼ごっこにもならないな……」 背中を追いながら、壁を走り、壁を蹴り、宙に舞った翔太の剣に月明かりが差した。ボンッ、四肢が弾けた1人を置いて逃げる哀れな後を姿を見ながら、翔太がAFに連絡した。 「そっちいったぞ、消してくれ」 『はいはい』 ――だって。 美味しい思いができるとか、人間離れした力での楽しめるとか聞いて来ただけなのに、これって話が違う――。 せめて防犯カメラや、人気がある所まで行ければこっちのものだ。馬鹿め、人質にしてしまえば手は出せないだろう。かろうじて見えて来た光、だが。 「……よォ、1人も逃がすなって言われてるからよ。まあ、そうじゃなくても逃がさねぇけど」 しかし逃げる事叶わず。 路地の間から出て来たのは隆明だ。男は立ち止まりながら、冷や汗を大量に流した。ボキボキと指を鳴らしながら近づいてくる隆明の姿は今こそ恐怖そのものであっただろう。 「は、はははは」 渇いた笑いしか出なかった。次の瞬間には――風船が弾けるような音が響いた。 『逃げたの処理完了ー』 「そうかい。ご苦労さんなこったね……にしても血生臭いねぇ」 真澄は現場の惨状を見回しながら煙草に火を点けた。リーダー格と言われている男の頭を足で踏みながら、其処へ吸殻を落とす。 「ほら、あんた達こういう風に他人を痛めつけるのが好きなんだろう。喜んでみちゃどうだい?」 「う、ぎぎ……!!」 ハイヒールの踵部分を男の頬に突き刺し、回しながら愉しむ。そんな事をしたからといって真澄の心が晴れる事は無いが、仲間が配下の屑共を倒し切るまではこの男を逃がす訳にはいかなくて。 「吐きな。何がきっかけで革醒した」 「言わねーよ、ブス」 足に力を込めてみれば、ゴギギィと顎が砕けるを奏でた。胸糞悪いと煙草を噛み潰した真澄はそのまま、男の髪の毛を掴む。 「私はね、私の子供達の為に安全な未来を作んなきゃいけないんだよ」 その為なら修羅にでもなろうと、そのまま男の顔を回し蹴っては弾き飛ばす。男は上手く着地したもので、血走った目で逃げ道を探すが。 「ねぇ、逃げちゃう? 逃がすつもりはないけど! リーダーぶってケツ撒いて逃げるとか、笑い草だよねぇ☆」 葬識が男の足を足でかけて、転倒を促した。倒れた男の背に腰を下ろし、鋏の開いた口を首に噛ませ、饒舌に口は動いていく。 「狩るほうから狩られる方に回る気分はどんなものかな?」 しかし顎が割れている彼に一括りの言語を話す事は叶わない。少し残念そうに葬識は天を見上げた。 弱ければ、強い者にやられるまで。無知共にくれてやれ、力を向けるという事はどういう事かというのを! 「後悔は地獄でしなァッ!!」 逃げる背中、なんて情けないとコヨーテは憤りを感じた。それでも殲滅する事に変わりは無いのだ。己の拳を再三握り締めてから炎を解き放った。敵は非常階段を伝って上へと逃げようとするが意味なんて無い。 「ハッハァ!!」 壁に足をかけ、登るコヨーテ。その姿に獲物はぎょっとした顔で悲鳴をあげた。 「逃がすわきャァ、ねーだろッ!!」 そして――またひとつ命が燃えた。 「ラスト一匹、仕留めましたわよ」 シェラザードの矢が心臓に食い込み、コヨーテに燃やされた動かないソレを氷花が掴んで投げた。それで犠牲は14人。最後は葬識が腰に引いている彼だけだ。瞬時、彼が体勢を回転させつつ、腕の刃が葬識を狙った。 「狩られる方に回るのはまっぴらごめん」 「は、はっ、はぁぁ、は……はは」 しかし無駄か。彼の顔面すれすれを刃は走り去っただけ。 ぞろりと集まったリベリスタ達はリーダー格の男を見下ろした。見下ろされていた彼には、月明かりの逆光に誰一人として顔は見えなかったものの。 「屍の海の中、恐れおののき自らの業を顧みて。反省と後悔と懺悔の念に囚われながら、現世での最期をお迎えなさい!」 振り上げられた氷花の斧が光ったのはよく覚えている。 そして――真っ暗闇だ。 カラン、武器を落とした真昼は一歩、二歩と後退する。ころんと転がった頭と目が合って――見据えた殺人鬼がにこっと笑った。びくりと震えた肩を隠すように、真昼は真横の壁を拳で叩いた。 「熾喜多さん、君は本当に人間なの? だって殺人鬼なんてまるで化け物じゃないか!!」 殺しはしたくなくて。でも――そうして蛇足な鬼ごっこは始まった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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