●傷の癒えたあとの痛み 「ユングフラウ少尉はもう傷の方は大丈夫ですか?」 『アイアンメイデン』アイゼルネ・ユングフラウ少尉の部下を務めているハンス・ローゼンバーグ曹長が作戦室から出てきた彼女に問いかけた。 「大丈夫だ、問題はない――それより三ツ池公園の現場の方はどうなっている?」 「すでに我々部隊が拠点としている大砂場にトーチカが幾つか建設されています。これでもし敵がいつ襲ってきてもすぐには崩されないでしょう」 「そうか――」 アイゼルネはふと憂いを帯びた表情を見せた。もっとも傷が癒えてからというものアイゼルネはあまりよい表情を見せていない。それは無理もなかった。 前回の三ツ池公園でアークのリベリスタ達に重傷を負わされた。 もっとも『親衛隊』全体としては公園を奪取するという大戦果をあげた。 全体の作戦成功によってアイゼルネは特にお咎めなしだったが、もし『親衛隊』が作戦に失敗していたらアイゼルネの降格がありえたかもしれない。 「どうかしましたか?」 「ハンス――どうしてあの時私を助けた?」 アイゼルネは屈辱に塗れるならあのまま死んでいた方がましだと思っていた。個人の失態は許されない。それほどまでにアイゼルネは自分を追い詰めていた。結局部隊に帰って見ると何のお咎めもなかったがそれは結果論にすぎない。 「ユングフラウ少尉は十分よくやりました。少しでも相手の戦力を削ぎ、その結果が我々の作戦成功を導いたのです」 「しかし私は今回――」 「少尉らしくないですね。いつもの気が強い貴女はどこへ行ったのです? いいですか。少尉である貴女のやるべきことは個人としてのプライドを守ることではない。あくまで『親衛隊』という組織が勝つために必要な任務をこなすことです。私は貴女の力が『親衛隊』にとってこれからも必要な戦力だと思ったからこそ助けたのです」 ハンスの言葉にアイゼルネはしばらく黙ったままだった。こうしてみるとアイゼルネもまだあどけない少女の顔をしていた。まだ二十歳になったばかりだった。 「本当にそれだけで私を助けたのか――?」 アイゼルネが上目遣いにハンスの顔を覗き込んでいた。碧眼の瞳がいつになく濡れていた。ハンスは自分よりも一回りも年下の上司の頭に手をぽんと置いた。 「もちろん――それだけじゃない」 ハンスはそれだけを言ってアイゼルネに背を向けて去って行った。 ●失われた場所を奪い返す 「ぜひともお前たちの力を貸してほしい。三ツ池公園を――取り戻す」 『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)が机に両手を叩いた。ブリーフィングルームに集まったリベリスタの誰もが息を呑んだ。伸暁は真剣に前を見据えていた。 もはや『親衛隊』のこれ以上の横暴を許すわけにはいかなかった。三ツ池公園を手に入れた彼らは神秘的特異点である「穴」を利用して次々に神秘兵器の開発を進めている。このまま何もしなければ時間の経過とともにアークが不利になる一方だった。 『親衛隊』はアークがエースに頼りきりになっているという弱点をついてきた。だから今回アークが立案したのは作戦の意趣返しだった。簡単には言えば、公園の奪還の大作戦を陽動にしてその間に手薄になった敵の本拠を制圧することが狙いだ。 守るべき場所が二箇所になった彼らは以前にもまして守る荷物を増やしているということができる。公園の奪還作戦に敵の戦力を費やさせて、その裏で敵の本拠であると思われる大田重工埼玉工場への攻撃を同時に進行させる。 今回の相手になるユングフラウ小隊もすでに拠点としている大砂場でいくつかのトーチカを築いて防御態勢を整えている。それに加えて新型の大型兵器も投入していた。 決して油断のならない相手だった。これまでの戦いでアークのリベリスタ達も散々彼らに手を焼いてきた。おそらく今回も苛烈な反撃を繰り出してくるだろう。 もちろん、陽動作戦だからといって公園を取り戻す必要がないというのではない。むしろ司令部は『親衛隊』をあわよくば三ツ池公園から叩きだす重要な作戦だと考えていた。 陽動作戦の手前として数を揃えるために他にもリベリスタ達が今回10人ほど同行することになっている。彼らはエース級に比べて能力は劣るが士気は極めて高かった。 「この作戦はアークの浮枕だけではなく、世界平和まで影響を及ぼすことになるだろう。もう予断は許されない。アークの万全なる力をいまこそ見せつけて『親衛隊』を恐れるに足らんところを見せつけるんだ。お前たちの健闘と勝利を確信しているぞ!」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:凸一 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 4人 |
■シナリオ終了日時 2013年08月08日(木)23:27 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 4人■ | |||||
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●好まれざる客 大砂場にトーチカが三基建造されていた。 周りには警備するユングフラウ小隊のフライエンジェ達が蜂のように飛び回る。さらに特殊装甲小型戦車が縦横無尽に砂場を走っていた。 「これはまた随分と物々しい出迎えですね。ロケーションも埃っぽい砂地ですし客人を迎え入れる気配では到底なさそうです」 『ライトニング・フェミニーヌ』大御堂 彩花(BNE000609)が防御施設を実際に目の当たりにして思わず呟いた。 「第三帝国軍のトーチカといえば戦時の大西洋の壁を思い出しますね。連合国軍の侵略を阻止するために構築された2685kmに及ぶ超広域の海岸防衛線です。もっとも、あまりに現実離れしたスケールの所為か実際はろくに完成しないままだったそうですけど――」 『デストロイド・メイド』モニカ・アウステルハム・大御堂(BNE001150)が傍らに立つ彩花の言葉に即座に反応する。 「……そういう無駄な知識だけは豊富にあるわね」 彩花が思わずため息を漏らす。 「まあ、そもそも『トーチカ』って言葉は元はロシア語なんですが……彼らにとっての仇敵の国が語源というのも皮肉なお話ですね」 「その辺にしておいたら? 皆も困ってるじゃないの」 彩花がなんとかモニカの話を終わらせた。同行リベリスタ達が出撃の時を待って目を強張らせていた。士気は高くやる気を全身に漲らせていた。 モニカが不敵に嗤うと自動砲を軽々と担ぎあげる。 「この砂場の上のショボいトーチカは大西洋の時より随分マシですね。自分達の身の程度を弁えた現実的で実にショボくれた壁ですから」 そう言うが否やモニカは戦狼煙をあげるハニーコムガトリングを敵のトーチカに向かってぶっ放した。圧倒的な火力で同時に二基のトーチカを攻め立てる。 それを合図にしてリベリスタ達が一斉に突入した。 「回復はワタシたちにまかせてください。絶対に勝ちましょう!」 『青い目のヤマトナデシコ』リサリサ・J・丸田(BNE002558)が翼の加護を味方に付与した。凛々しい顔でリベリスタたちを鼓舞する。 「さぁ行こうじゃないか諸君、晴れの舞台へ!」 『「Sir」の称号を持つ美声紳士』セッツァー・D・ハリーハウゼン(BNE002276)が同行リベリスタ達に指示を出した。 待っていたとばかりに勇ましく出撃する。セッツアーの牽引するリベリスタ達が先陣を切って敵のホリメとタクトに襲い掛かった。 「また貴様らか! 今度は返り討ちにしてくれる! いくぞハンス!」 戦車の蓋から顔を出しているアイゼルネが傍らに立つハンスに叫んだ。すぐに『ファントムアップリカート』須賀 義衛郎(BNE000465)と彩花がそれぞれ攻撃に向かう。 「それじゃあ、さっさと荷物を纏めて帰ってもらいましょうかね」 義衛郎は刀を振り上げてアイゼルネに迫って行った。 だが、義衛郎が辿り着く前に戦車は砂場に潜り込んでしまった。 ●盾によって守るもの 正面からぶつかる激しい戦闘が始まった。味方敵が目まぐるしく戦場で入り混じる。 十人のリベリスタ達を指揮しながら勝利に向かう戦慄を奏で上げる。セッツァーに任された仕事は重要なものだった。適宜回復を行いながら戦況を見定めた。 「さて、がっつり皆さんのアシストと行きますかね。めんどくせーですが、何もしないのはもっとめんどくせーことになるのでしょうね、はあ」 『働きたくない』日暮 小路(BNE003778)も後ろからオフェンサーやディフェンサードクトリンを使用して強力なサポートをする。口ではそう言いながらもいざやるとなると小路は精力的に動いた。まるで今日一日で一カ月分の働きをするかのように。 『おとなこども』石動 麻衣(BNE003692)も他のメンバーから付かず離れずの距離を保ち後ろから回復支援を積極的に行う。とくに消耗の激しい前衛のリベリスタたちに即座に回復できるように位置を取る。 「気をつけろ! うしろから戦車がやってくる!」 『侠気の盾』祭 義弘(BNE000763)は味方に叫んだ。戦車が砂場から顔を出して義弘たちに砲撃を加えてくる。 「防御陣地に足場の悪い戦場。それに戦車までとは、豪勢ですね。それでも、私たちはその戦場を戦う必要が有るのですから、戦うまでです!」 『無何有』ジョン・ドー(BNE002836)が直ちに支援のピンポイントスペシャリティを放った。 「さあ、まずはあなた達からですね。覚悟してください!」 縮地法とハイバランサーを使用した『大雪崩霧姫』鈴宮・慧架(BNE000666)が一基のトーチカに攻め入った。 猛烈な斬風脚を食らわしてトーチカを破壊しにかかる。続いて後ろから『薄明』東雲 未明(BNE000340)がメガクラッシュをぶっ放してヒビをつけた。 「さすがに堅いわね!」 四方八方から飛んでくる銃弾に味方も激しく消耗する。機動力を生かしてリサリサが回復のサポートをして回った。長髪の凛とした佇まいで華麗に動き回る。 「同行されたリベリスタの皆様も士気が高い……その士気を存分に活かせるように頑張らないといけません!!」 リサリサの奮闘する姿を見て同行リベリスタ達の歓声があがった。戦場で舞い踊る天使の活躍に自分達も死ぬ気で頑張ることを決意する。 「日野原! トーチカを狙って!」 未明が『蜜月』日野原 M 祥子(BNE003389)に叫ぶ。トーチカ戦に当たっていた味方戦力が苦戦していた。未明の言葉を受けて直ちに祥子はトーチカを撃破しにかかる。渾身のギガントスマッシュを叩きこんだ。 「絶対に今度は負けない。この間の借りはきっちり返させてもらう!」 戦車に搭乗して戦うアイゼルネが叫んだ。義衛郎が懸命になって後ろから戦車の動きを止める。だが義衛郎もアイアンメイデンから放たれる刺に身体中を刺された。圧倒的な火力を前にして膝をついてしまう。 「くっ! まだまだこれから、ですよ……」 義衛郎も斬りかかって奮戦する。 前方で義弘も一緒に身体を張った。 「この公園で、どれだけの血が流れたか分からない。しかし、それらに報いるためにも――盾を名乗るだけの働きはさせてもらう!」 戦車の動きを身体で止めようとするが、まともに正面から攻撃を浴びた。 義弘はアイゼルネに刺で突き刺される。 戦車に押し倒される。義弘はうめき声をあげた。義弘は身動きが取れなくなり、義衛郎一人で戦車とアイゼルネを対応するのはさすがに不可能だった。 義衛郎はむろん攻防に気を取られ仲間の義弘を助けられない。 「大丈夫ですか! つかまってください」 代わりにジョンが手を差し伸べて義弘は救い出される。他のトーチカからのガトリングが苛烈を帯びた。ジョンも狙われて傷を負って動けなくなる。 四方八方からの敵射撃に孤立無援状態になった。 「さあ、こっちに来て!」 リサリサがまるで戦場の天使のように舞い降りた。傷ついた祥子たちに回復を施してすぐに安全な方へ先導した。 「私が引き付けている間に逃げてください!」 モニカが射撃で敵を引き付ける。 さらに同行リベリスタたちが義弘達を助け出そうと駆けつける。リベリスタ達が捨て身で盾になったお陰でその場を脱出できた。 ●為しえない余分な何か 「貴方がたは以前にもお会いしましたね。勿論きちんと覚えていますよ? もっとも今日限りで忘れる事になるでしょうけれど――ここで貴方がたとは永遠のお別れですから」 彩花はハンスの前に立った。両手を広げて一歩も前には進ませない。気迫の籠る彩花の表情を見てハンスも拳を突き出す。 「さあ、勘違いじゃねえのか? 今まで俺と戦闘して生きて帰ったのはいないはずだからな。俺はお前なんか覚えちゃいねぇぞ」 ハンスは余裕の笑みを浮かべた。超幻影を作りだして無数の障害物を作りだして後ろに隠れる。一瞬にしてハンスの姿は消えた。 「それで隠れたつもりですか」 彩花は幻想殺しでハンスの幻影を見破った。 ハンスが超幻影から出てきたところを狙う。彩花が大きく空中に飛躍する。空中で上体を捩じって右足を大きく振り上げた。 「ぐはあっ!!」 ハンスは顔面を殴打されて地面に膝をつく。 「お前は確かあのとき俺の動きを見破った奴だな――」 ハンスが顔面を抑えて立ち上がる。 「あら、やっぱり覚えててくれたようですね」 「当たり前だ。彩花――といったっけな。どうやら俺達は相性最悪らしい。もちろん恋人同士にはなれないな。祥子とは相性抜群なんだが」 「今頃気づいても遅いですよ。それに冗談は休み休みにいったらどうです? それじゃそろそろ死んで貰いましょうか!」 「同じ手が通用しないなら力づくで勝負だ」 ハンスがリーガルブレードで斬りかかる。彩花は斬られた。傷ついて後退する。 なんとか両手で抑えつけようとするが、相手の力に逆に投げ飛ばされる。 そこを再び剣で切り裂かれた。 彩花は攻撃を渾身のストレートを繰り出して反撃するが、徐々にハンスに押され始めてしまった。一人で相手するのはやはり厳しい。 頼みのモニカと祥子はそれぞれの敵に掛りきりで当分支援できない。 敵の猛反撃に晒されてまだ時間がかかっていた。 「仕方ありませんね。それまで絶対に抑えてみせます」 彩花はハンスに切り裂かれながら歯を食いしばり続けた。 一方、戦車に乗ったアイゼルネは義弘達を撃退すると今度は未明と対峙した。未明はトーチカ戦から離れてアイゼルネに立ち向かう。 すぐに後ろから義衛郎が追い駆けてきて再び前後に挟み撃ちする格好になった。 「鎧や盾があれば、誰かがいてくれれば大丈夫?」 未明はやってきたアイゼルネに厳しい言葉をかけた。 「この戦車のことかしら?」 「ハンスのことよ。あなたあの人に守ってもらってるんでしょ」 一瞬、アイゼルネは顔をしかめた。 「甘えた事言う前に、まず自力で確り立ちなさい。やるべきをやり、持てる全てを使いなさい。自分の事も満足にできない者に、余分な何かは為しえない」 「なにを生意気なことを! あんたに私の何がわかるっていうのよ!」 アイゼルネが四方八方に渾身の刺の雨を降らせる。義衛郎と未明は身体中に刺を突き刺されて倒れ込んだ。出血がひどくなる。それでも未明は気迫で立ち上がった。 地面にふたたび潜り込もうとする戦車に飛びつく。 「全く、その手の戦法使うのは1人だけで十分よ! 任された事を一心に為す。そんな事もできないで、他所の心配なんて誰ができるの!!」 怒りをぶつける様に渾身の力でアイゼルネに向かって剣を突き出す。 だがアイゼルネは戦車に顔を埋めて攻撃を避けた。 逆に砲弾をぶっ放して未明を吹き飛ばす。 未明も地面に倒れ込みながら血反吐を撒き散らして倒れた。 「相手はこのオレだ。かかってこい!」 義衛郎は未明を庇うように前方に躍り出て刀をアイゼルネに突きつけた。 ●無事に帰る約束 「ぎゃああああああ――――」 同行リベリスタの悲鳴が辺りに響いた。トーチカから放たれる射撃にやられてまた一人叫び声をあげて地面に崩れる。 「めんどくせーですがこんなところで寝ないでください」 「もう少しです。踏ん張って!」 士気は高いとはいえすでに限界に近かった。必死になって小路や麻衣が後ろから支援をするが回復は追いつかない。 「相手も大分士気が高いですね。なんとかしなければ」 相手のナイトクリーク陣も強硬に抵抗した。セッツァーが適確な指示を出すお陰でなんとか戦力の減退をなるべく押さえていた。 これ以上犠牲を出さないためにはやくトーチカを制圧する必要がある。 速度を生かして慧架がふたたび斬風脚を叩きこむ。 「こちらも堅いですが――」 ジョンがトーチカ戦に参入してピンポイントでひびの部分を狙い撃った。もろくなった部分に次第に大きな穴が空いてついに一つのトーチカが壊れ始める。 次の瞬間、中にいたスターサジタリーたちが一斉に飛び出してくる。防御施設を捨てて攻撃に出た敵はマシンガンをぶっ放した。 ジョンはたちまちスターサジタリー勢の攻撃に呑まれた。 それまでずっとトーチカで戦っていたスターサジタリーたちが、戦場を無尽に駆けるようになったために敵の機動力が上がった。 その動きまわるスターサジタリー達に今度はリベリスタ側が翻弄される。次々に近くにいたリベリスタが餌食になった。 「双鉄扇を携え、防御体制をとったワタシに生半可な攻撃が通じるとお思いでしょうか――護る事に特化したこの力、存分にお見せいたしましょう!」 狙われた同行リベリスタの前にリサリサが降臨する。味方への攻撃の盾となって必死になって身体を張る。敵が月の盾ならこちらは双鉄の扇だ。 リサリサが敵を引き付けてリベリスタたちは逃げることができた。だがもう一方のトーチカからさらに別のスターサジタリー勢が一気に急襲してくる。 「くっ! 今いい所だったのに――!」 ハンスと対峙していた彩花は新たにやってきたスターサジタリーたちに襲われた。代わりに応援に戻ってきた祥子がハンスの行く手を阻む。 「ああ、彼女生きてたのね。よかったじゃない。この前のあなたはクロスイージスっぽくてカッコよかったわよ?」 「今度はお前か――ありがとう。そっちにいるのは、ひろさんか?」 「祥子が散々お世話になったようだな」 傷ついた義弘がハンスを睨みつけた。祥子がハンスにひどい怪我を負わされたことはもちろん知っている。 「ユングフラウ少尉! こちらです」 ハンスが傍に現れた戦車に叫んだ。 アイゼルネの戦車がハンスに合流しようとした。 そうはさせないと義衛郎が斬りかかるが、ハンスがアイゼルネの戦車の前に立つ。 義衛郎の斬撃をブロックした。アイゼルネはハンスを援護し刺を一斉に放射する。 リベリスタが猛烈な刺矢に襲われる。その間にやってきたスターサジタリー勢とともにアイゼルネとハンスは一斉に攻撃を放った。 一か所に合流した親衛隊たちの総攻撃にリベリスタたちはなすすべがない。 合流された親衛隊の破壊力にリベリスタ達は押され続けた。 祥子はハンスに苦し紛れにジャスティスキャノンを放つ。 「どうして親衛隊にいるのか知らないけど、彼女が笑って暮らせる場所に、さらって逃げちゃえばいいのに――」 ハンスは攻撃を食らって顔をしかめる。 「なら祥子もそうすればいいだろ。リベリスタなんて辞めて俺と一緒に来いよ」 祥子は不覚にも一瞬どきっとした。 ハンスの真剣な表情に祥子は思わず目を逸らす。 「ひろさんは、お前の青く腫れた顔なんてもう二度と見たくないはずだぜ、な」 一瞬、話を振られた義弘はとっさに対応ができない。 祥子にやると見せかけてリーガルブレードで義弘の身体を切り裂いた。 「ひろさん!」 「お前のひろさんは所詮この程度の実力か、笑わせるぜ。俺の方がよっぽど頼りがいがあるんじゃないか、祥子」 「絶対に許さない――」 祥子は吠えた。 「彼はあたしに生きる目的をくれた大切な人だから、無事に一緒に帰ろうって約束したから、絶対に死なせないわ。それにあたしも、こんなところで倒れるわけにはいかないのよ!!」 祥子は渾身の力を込めてギガントスマッシュを叩きこむ。 腹に大きな一撃を食らったハンスは叫ぶ。 「お嬢様! 今ですよ」 モニカの言葉に即座に反応した彩花はハンスを抑えにかかる。目の前で組み合いになったところをモニカが狙った。 「はやく……モニカ!」 「これで終わりにしてあげますよ――」 モニカは彩花に応えて照準を狙い定めた。 ハンスの顔面に全神経を込めた魔弾を放つ。彩花に抑えつけられていたハンスは逃げることができない。 「ぐあはあっ!!」 ハンスの絶叫が辺りに響く。仲間に庇われるように後衛に退く。その前にアイゼルネの戦車が前に立ちはだかって一気に火を噴いた。 敵サジタリー勢の一斉攻撃も苛烈さを帯びた。砂塵が巻き起こり、辺り一帯の視界がたちまち見えなくなった。 おもに自動砲を持つモニカが敵の格好の的になった。こちらも激しい火力で応戦するがあまりの弾幕にリベリスタはそれ以上前に行けない。 これ以上進むと敵味方のハニーコムガトリングに巻き添えを食らう。 「みんな撤退するわよ。早く急いで」 自らも深手を負った未明がついに味方に指示を出す。 すでに戦闘不能者が多数出ていた。 これ以上戦っていては生死に関わる。どちらが早く倒れるかの勝負だが、こちらの方が先に消耗した。味方同士の互いのフォローが上手くいかず戦力を分断されてしまい、逆に敵同士の連携を密にさせてしまった。 ユングフラウ小隊の上手い切り返しの反撃と優れた連携のチームプレイはリベリスタたちのそれを上回っていた。 単調な攻撃の繰り返しでは相手に有効なダメージを与えることはできなかった。 敵の一斉攻撃を突破する有効な策が他にないため、ここは引きさがらざるをえない。下手に突っ込むと砲弾の嵐に呑みこまれる。 後退するなら今が唯一のチャンスだ。ハンスが攻撃を受けて苦しんでいる今なら彼は追っては来られない。砂塵に隠れてアイゼルネの戦車も迂闊にこちらには攻めて来られないはずだ。 未明とリサリサは迅速な判断を下した。まだ動けるリベリスタ達に倒れてしまった者に手を貸すよう指示する。 「頑張ってください。あと少しで逃げられます」 モニカが間に前に立って火力で牽制する。まだ動けるセッツァーや麻衣たちが懸命に庇いながらリベリスタ達は退却を余儀なくされた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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