● ザ。ザザ……ザザザザザー……ブッ。 「――おい、ベンヤミン。貴様、今何処に居る。箱舟と思える影が例の場所に向かったが?」 『レオォォォン!! 友よ!!! 勝利の祝では貴様に会えて俺は、俺は、嬉しかったぞ!! で、その件だが、それはそれは、…………………。 ぬぁぁぁぁあああああああんだってええええええ!!! それはぁぁあああ!!』 通信機から響き渡った声に、レオン・ブラウンシュヴァイクは頭を抑えた。彼とベンヤミンは古くからの知り合いだ、会話に遠慮と言うものが迷子に成っているのが証拠でもある。 レオンが言うには、数を揃えて来た敵影が『とある場所』へ向かったのをレオンの部下が感知したのだ。 「今から向かってやるが、全部の起動が間に合うかは計算できん。貴様の低脳さにはいい加減飽き飽きしている。何故敵が強襲して来る事を事前に計算して対策していないんだ。脳みその代わりに詰め込むものでも用意してやろうか? なあ、おい」 ブッ……。 『いくらレオン様であっても、ベンヤミン様を罵倒する事は』 『良いのだ、クリストフ。これがレオンなりの気遣いなのだ』 通信機の回線に入り込んだクリストフ。絶対の信頼と忠誠を置いている主を良い様に言われているのが気に食わないと吐く。それを制したベンヤミンはおそらく、迎撃する態勢を整えている最中なのだろう。珍しくまともな落ち着きようで、頼む、そう言い残し、通信は途切れた――。 「センセ、馬鹿の下には馬鹿が着く様です」 「あぁ……私も大概馬鹿だ。鉄が焦げる臭いより、薬品で焼ける肌の臭いの方が好きだがな……まあいい、友は友だ」 「では、俺も。何処までも着いて逝きましょう」 「アルトマイヤー様の御前だ、敗戦は許されない。この命、惜しくは無いが役目を全うせず死ぬ事は、何よりの恥だ――!!」 征くぞ、我らが戦場へ。 ● 「三ツ池へ参りましょう。やられたら万倍返しです」 『未来日記』牧野 杏理(nBNE000211)は集まったリベリスタ達を見回した。 もはや時間は無い。二か月後にはキース・ソロモン戦を控えたリベリスタ達だ。だが、今は目の前の事柄を解消しなくてはならない。 その壁たる親衛隊は、日々、特異点の穴の力を利用して革醒新兵器を強化しつつあるの。どちらにしろ八方塞がりなのだ、もうこれ以上、敵に時間をやる事は無い。 今回アークは三ツ池にて敵戦力の陽動後、手薄になった大田重工、つまり敵の本拠地を強襲する作戦を示した。前回は上手く七派にしてやられたが、今回は『キース・ソロモン』を盾に七派の介入は抑えられたと言えよう。 この決戦は世界規模に膨れ上がりかけている戦争を止めるための大きな分岐点と成るだろう。今回こそ万全の態勢で臨む箱舟だ、もはや親衛隊等、恐るるに足りぬと言っても過言では無い――! 「皆さんが担当するのは、三ツ池公園にて陽動。そして敵戦力の撃退です」 集められたリベリスタ達は、三ツ池にて敵戦力を引き付ける作戦を行う。その為に前回戦場をワラワラと駆けていた『パンジャンドラム』を狙うのだ。 「この革醒新兵器を狙う事によって、壊されたくないと必死な親衛隊が釣れます。 芝生広場にパンジャンドラムは均等に配置されているようです。数は前に増して8。この内3つは起動状態ですが、5つはまだ起動されていません。起動方法は杏理には不明でした、すいません、が、親衛隊をパンジャンドラムに近づけたら起動させらてしまうかと思います」 この『パンジャンドラム』。4mの車輪の形をしており、ボビンに着いている噴射器の力を使って、高速回転しながら突進してくる兵器だ。 その威力は前以上のものに成っている。下手したら一発攻撃をくらっただけで戦闘不能になってしまうかもしれない程の馬鹿威力だ。まだ3つしか起動していないが、起動している数を増やせば増やす程、此方が不利になるのは確実。 「リベリスタ達が到着した時点で、親衛隊と鉢合わせる形になるでしょう。クリストフ上等兵、ベンヤミン曹長、その他お着きが5名、その場に居合わせます。その後、レオン・ブラウンシュヴァイク曹長、アルタ・ブロイアー上等兵、お着き4名が援軍として駆けつけます。援軍は水辺の広場の方向から来るようです。警戒を怠らずに!」 敵の数も多いが、兵器の数も多い。それを10人でどうにかしろとは杏理は言わない。 「なお、今回は作戦柄、杏理が別口でリベリスタ20名の護衛部隊を用意しました。庇う、抑える、などなど……彼等は貴方たち10人を護るためだけに動きます。何人倒れようが……貴方たち10人の貴重さに比べれば。不満は後で聞きます、それ所では無いというのは理解、して、欲しいのです……!」 良く言えば、盾。悪く言えば捨て駒。『覚悟』を持ったリベリスタ達だ。その中には『クレイジーマリア』マリア・ベルーシュ(nBNE000608)の名前もあった。 「パンジャンドラムの威力は以前にも増して強くなっております。護衛部隊がどれだけ耐えられるか……は期待できない時間かもしれません。それでも貴方たち10人を信じましょう」 こんな、大量の死が見えている任務。杏理の拳は握り締め過ぎて、爪が肉を抉っていた。戦士の前で泣くものかと、杏理は水分を多く含んだ瞳を見せないように頭を下げる。 「厳しい任務でしょう。それでも、杏理は勝利を信じております」 もはや言う事はこれ以上無い。ただ、『全員』の無事を祈るしか無くて、その儚い希望の実現はリベリスタに託された――。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:夕影 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ EXタイプ | |||
■参加人数制限: 10人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年08月09日(金)23:18 |
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■メイン参加者 10人■ | |||||
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●闇下に広がる赤 公園を照らす光は乏しい。一寸先は闇とはよく言ったもので、まさにそれが目の前にあるかの様な雰囲気だ。 稼働の時を待つ車輪は静かに眠っていたものの、既に稼働している車輪は犠牲を求めていた。遥か、亡霊の夢を現実にするために、その礎として。 『誰が為の力』新城・拓真(BNE000644)はその車輪の間を駆けながら、身体に神秘を纏った。目線の先、クリストフが剣を抜いていたが彼の従者であろう短剣を持った男が拓真の前に立ち塞がる。 「退くんだ!!」 「ハッ!!」 短剣は彼の身体を切り刻み、芝生に赤色の絨毯が引かれていく。その刃は拓真だけに留まらず『逆月ギニョール』エレオノーラ・カムィシンスキー(BNE002203)にも伸ばされた。同じようにソードミラージュの男が幻影によって分身し、エレオノーラを囲うのだ。そんな敵の攻撃をアタッシュケースで弾き返してしのぐエレオノーラの紺色の瞳が見据えたのは――ベンヤミン。 「劣等共がァァア!! 態々嗅ぎつけやがってェェエ!!」 あーあー、怒った怒った。血相を変えてキレている彼に、エレオノーラはくすっと笑った。 やっぱり、あいつらって馬鹿なんだわ、と脳裏を過ぎ去った文字の列。しかしだ、隣を見れば拓真の姿があるので範囲攻撃は不可能だ。目の前で抑えてくるソードミラージュの肩に手を置き、足で地面を蹴って跳躍。その男の頭にアタッシュケースの角を思い切り叩きこめば、確かな手応えを感じた。 「何よ、スーパーって。英語じゃない」 「うるさぁあああい幼女ぉぉお!! これにはメタ的に言えない事情があるのだあああ!!」 弾け飛んだのは、ベンヤミンの多重の気糸。それはエレオノーラ程の回避の持ち主であったとしても直撃させてくる様な精密さを備えていた。だからなんだ、と当てられて痛む頬を手の甲で拭う。そんな事よりまた学習していないのかと大きくため息を吐いた。 「後、あたしは幼女じゃなくて82歳だし、男だから」 蟀谷に力を込めて、細くなった瞳はナイフで再びソードミラージュを討つ。 「ベンヤミン様の敵は、全て蹴散らさせて頂きます」 拓真の瞳に映ったのはクリストフの掌。頭を掴まれた瞬間に、漆黒の帯が拓真を絡め取って――そして、コロンと小さな正方形の箱が落ちた。 ハッと振り返った『みにくいあひるのこ』翡翠 あひる(BNE002166)。前へ出ていった前衛の数が足りない。そのはずだ、一人スケフィントンの箱に封じられてしまっているのだから。すぐさまあひるの腕は天を仰いだ。 「お願い、あひるの大切な人たちを護って――!!」 掲げた腕の間から白い光が漏れていく。応えた聖神の気まぐれな奇跡は、あひるの祈りに応えたのだ。 「誰がための力。こんなものでしたか」 剣を振るって、ベンヤミンを抑えてくるリベリスタを狙おうと歩みかけたクリストフだったが。 ――チリッ。 何か、己が施した呪いが解ける……そんな小さな違和感を感じた。後ろを振り返れば、拓真がよろりと起き上り、再び剣と銃剣を力強く持ったのだ。更に後方で光に包まれ、祈るあひるの姿。 「そうでないと、面白くないですよね」 「我が双剣にて、アークに勝利を……!!」 ●芝生に轢かれる赤 少年の高笑いが響いていた。 「我がりっくんレイザーに、不可能は無いのだ!!」 『ジーニアス』神葬 陸駆(BNE004022)が右手を横へ振れば、彼の周囲には無数の刃が出現していた。今度はその手を上へと上げれば、刃達は起動していない車輪を主に巻き込み――しかしその攻撃の中には味方のリベリスタも含まれた――刃達は降り注ぐ。彼の命中は高い、被害は相応に与え、そして与えられてしまった。 『運命狂』宵咲 氷璃(BNE002401)はその刃の動向を見ていた。その最中にも指で虚空をなぞり、陣を組み上げ、魔術を成す。刃の雨の中を、血色の鎖が駆け抜けていった。 「マリア!」 「キャハハハッ――ハッ!!」 氷璃の声に、右手に迸っている雷撃の弾丸を宙へ投げる『クレイジーマリア』マリア・ベルーシュ (nBNE000608)。そして天から降り注ぐのは雷の雨。 舞台は範囲攻撃の嵐であった。降り注ぐリベリスタの攻撃に軌道していない車輪には傷が増えていく。しかしだ、ゴロリと音を出しながら動き出す車輪は味方ホーリーメイガスを狙って元気に、そして容赦なく迫っていくのだった。例え其処に車輪があろうとも、車輪は車輪を轢き飛ばしつつ進む。 「あまり難しく考える事はないぞよ。皆で戦って、皆で勝って帰ってくる。簡単じゃろう? ……ベル」 笑う金色の頭を撫でた、『巻き戻りし残像』レイライン・エレアニック(BNE002137)。優しいその感覚に、マリアは手を伸ばしてレイラインの横ポニーを力いっぱい引っ張ったのだ。 「にゃぎゃぎゃぎゃぎゃ! 痛いのじゃベル!!」 頭に小さな痛みが走る中、レイラインが見たマリアの顔は何処かむすっとした顔をしていた。どうした、と聞く前に彼女が先に口を動かす。 「皆って、何処から何処までの皆なのかしら」 マリアが指を刺した先――既に、1人。味方のリベリスタが車輪に潰されて死んでいた。肉がぱちゅんと弾け、骨はプレスされ、気高き決死の魂だけが役目を果たしたのだと消えていく。近くでは車輪の勢いに飛ばされてしまったイージスが奥歯を噛んで、地面に拳をぶつけていた。 「ねっ。皆でっていうのは……何処から何処まで?」 マリアの見開いた赤い瞳が、レイラインの瞳をじっと見ていた。見つめ合っていた時間は数秒にはならないが、レイラインにとっては数分にも感じた歪んだ刹那。突き動かされた様にして振り返ったレイラインは、赤いペンキを地面に敷いた車輪へ向かうために地面を蹴った。 再び電撃を振らせるために、両手で雷を織り始めたマリアを見ながら『グレさん』依代 椿(BNE000728)は胸前の服を掴んで、ぎゅっと握りしめた。彼女に要らない事を言ってしまったか、それとも、いや、だが生きて欲しいのだ。親として、保護者として、何より大切に思う彼女――。 「娘が親より先に死ぬなんて、絶対あかんからな? 親より先に亡くなったら、天国にも地獄にも行けんと、賽の河原で延々石積み――」 パチン――ッ 椿の頬に衝撃が走る。顔を真正面に戻してみれば、マリアが小さな手を振りきっていた。 「何、言っているの……!!」 眉間にシワを寄せ、見るからに怒っているマリアの表情。それはクレイジーマリアとして名を馳せている時とはまた違う、椿にとって初めて見る顔であった。 「マリアも決死隊よ!!? 19人死んでも良いけど、マリアだけ生きろと、そう、言うのかしら!!? 車輪の赤色に成って死んだ奴にも貴女みたいに大切に思ってくれていた人は居たはずよ!?」 けして、大切に思ってくれた事が嫌な訳では無い。しかし、今は戦争だ、人が死ぬのだ、死ぬために来た人も居るのだ。命に差なんてものは存在しないだろう、命に違いなんて存在しないのだろう。 「マリアを思う暇があれば、マリアが潰れる順番になる前に敵を撤退させる事に躍起になりなさいよ、椿ィ!!!」 「ちょっとでかくなったからって、なんだっつーんだってーのよー」 『ハルバードマスター』小崎・岬(BNE002119)はアンタレスを地に刺し、メイガスを轢いた車輪がこっちへ向かってくるのを見ていた。岬の背後にはレイザータクトが防御の性能をドーピングしている作業中であり、おそらく彼が次の犠牲者なのだろう。 レイラインと椿の攻撃が奔った後、岬はアンタレスを掴み、頭上で回転させてから構える。 「鎧袖一触と行こうぜー、アンタレス!」 楽しそうに裂けた口は岬の表情。跳躍し、岬の身体は空中で一回転する。重量武器こそ、遠心力が映える武器は無いだろう、縦一文字に回転しながら漆黒を投げだす彼女。すれば、突っ込んできた車輪は繋ぎ目部分で見事に真っ二つになり、片割れとなった車輪が岬の左右隣を通過。岬の後方で爆発したのだった 「あ。壊れたぜー」 「時間にして20秒ちょい……ですね」 『先祖返り』纏向 瑞樹(BNE004308)は利き手を天へと掲げた。大蛇の影が足元から伸びる瑞樹の腕に、黒きその影は絡まっていくのだ。 「景気付けに一発いくよ!」 疑似であれ、それは間違いなく不運の禍月。赤く染まった弧は血の暗示か――輝いた光は車輪たちを射抜く。 「なんや、案外はよう壊れるんか?」 続いたのは椿であった。占うのは敵の運命。例えば未来、例えば不幸。彼女が出した結果は不運であれ、車輪の行く末を案じているかのようにギチリと兵器は鳴る。 『無何有』ジョン・ドー(BNE002836)は精神力を糧に気糸を舞わせた。紅月が舞うその間を、まるで夜空を流れる星の様に通過していく気糸。それは正に雨の如く車輪へと落ちていく。 リベリスタの攻撃は優勢だ。しかしその背後で、レイザータクトとスターサジタリーの1人が潰れていた。此方が車輪の勢いを削っていくのと同時進行で、此方の死者も増えていくのだ。 「我等が……アークに、勝利を……」 そして命が消えていく。残りの盾は、15。 ●それは燃え上がる赤 公園に癒しの風は溢れだした。とはいえ、これはあひるの回復では無く敵のもの。 「なんだこの惨状は。ひとつ作るのに一体どれだけ労力がいるか解っているのか」 到着したのだ、レオン・ブラウンシュヴァイクにアルタ・ブロイアーとその従者たちが。彼等は水辺の方向から出現したが、リベリスタ達が戦っているのは芝生公園の中央部。 瑞樹や、レイライン、デュランダルが向かうが10秒はかかるだろう。その間に、3つのパンジャンドラムが起動されてしまった、これで計5つだ。 「なんか増えたで!!」 「めんどくさくしやがってよー」 それに不平不満を述べたのは車輪を撃退するために走りまくる、椿と岬のコンビであった。あっちへごろごろ、こっちへごろごろ、しかし狙う車輪はひとつに集中して。 「おお! 我が、友よぉおおおお!! レオン、待っていたぞおおおお!!」 「うるさい、馬鹿が。燃えたパンジャンドラムの修理費は貴様が持つが良い」 陸駆が前線を駆けた。再び揃えた刃の群を従えつつ、瞳の先で最速で向かった味方のソミラに当てないようにしながら攻撃は行われた。 「貴様! この短期間に1Mも巨大化できるなど、貴様天才か?!」 「ただの研究者だ、不可能は無い」 「いくらだ! いくらくらいかかるのだ! おいくらまんえんだ!」 「企業秘密だ、覗いてはいけない穴だ、聞いたところでパクって作るのは駄目だぞ」 浴びる刃をイージスを盾にし、レオンがやり返しだと放ったジャッジメントレイにより芝生公園内は光で溢れた。直後、敵のインドラの矢が同じように芝生公園を明るく照らしていく。 「しかも自律起動とは恐れ入る!! 天才たる僕が褒めてやる! すごいぞ」 「あんまり嬉しくないのは何故だろうな」 「これでも心から褒めているのだ」 刺さった矢を抜き、放りながら陸駆はレオンを指差して笑った。やり返し、とでも言うように再び刃の群がレオン達の頭上に揃っていた。 「だが悲しい事に、貴様らにあげる三ツ池は無いのだ」 本日は晴れときどきナイフにお気を付けください。 陸駆の隣を駆けていくレイラインと瑞樹。 「おおっと、これ以上の玩具遊びはご遠慮願うぞよ?」 「はは、随分可愛らしい子猫ちゃんですね」 レイランはアルタの前に。其処で放たれたのはグラスフォックであった。1人でも多く、と燃えた彼女の瞳だが気付けば隣の味方デュランダルを巻き込んでしまっていた。そのまま車輪が体力が低くなった彼を良いことに、敷かれた氷のリンクに真っ赤な血が流れただのった。 「好きには、させないんだから」 「ハッ」 瑞樹はレオンの前に立つが、その手前で敵イージスに抑えられてしまう。レオンが居る後衛へ流れられたのはデュランダルの少年が1人。 「親衛隊がああ!! 絶対に、絶対に出ていかせる!!」 「威勢だけはいいな」 彼の攻撃も敵イージスによって阻まれてしまった。しかし彼は諦める事は無いだろう。後方で、再び光り輝いた紅月――。 「今行くから、それまでもって!!」 瑞樹の張り上げた声に、デュランダルの少年はこくりと頷いた。瑞樹の力を頼りに、少年は再び剣に力を込めたのだ。 「行かせるかあああ!!」 しかし敵もそれをすんなり許してくれる程、ヤワな相手では無い。瑞樹の腹部――光輝いた敵の剣が大きく突き刺さったのだった。そのまま横へと裂いて、敵を蹴り飛ばす瑞樹。そして前へ。 「くわ……」 車輪の数が増えた事は、状況がかなり不利に成った事を提示していた。胸の前で合わせた祈り手に更に力を込めて、泣きそうになりそうな瞳を堪えて彼女は願う。 「覚悟を決めて、あひる達を信じてくれている貴方達。必ず守るとは、言えないけれど……皆で帰れるよう、あひる頑張るから……どうか死なないで。ここを取り返して、生きて、皆揃って帰ろう……!」 積みあがる死体は紛れも無くリベリスタ達の方が多い。というのも、7人がかりで2Tちょっとで倒せた車輪を、4人で倒す場合は適当に算数をしたとしても2倍前後の時間がかかるのだ。そして6つになった車輪が味方の支援リベリスタを轢いていく時間も2倍か3倍に膨れ上がった。 残念な事に、もはや後衛の支援たちは息絶えた――。 ジョンは崩れそうな車輪をその目で探しつつ、その少し前方で氷璃は詠唱を重ねていた。隣に居るマリアも同じ、葬送の音色を奏でようと陣を組む。 「いいこと? 命を捨てる覚悟があるのなら、死に物狂いで生き延びなさい」 氷璃が震えているイージスの女へ、その耳に言葉を挟んだ。けしていつも希望は無い事は無いはずだ。決死といえども、生き残って罰では無いのだ。 「キャハハハハハ!! 早く壊れちゃいなさいよおぉおおお!!!」 咆哮したマリア、その瞬間に氷璃とマリアの葬送曲が戦場を駆けて行った。 そうだ、情けない姿は見せられない。今まで死んだ勇敢な戦士のためにも、此処の公園だけはどうしても彼等の手に落す訳にはいかないのだ。あひるは再三、祈り手を握って願った。握り過ぎて爪が手の甲を抉っていたのに気付かない程に集中して聖神に願うのだ。 「お願い、お願い――あひるの、大切な人たちを護って!!」 彼女の願いを受けた戦士は立ち上がった。マリアの雷が迸った直後、エレオノーラはナイトクリークの心臓にナイフを刺して刃を回転させてトドメとし、その死体を放り投げた。 「あんな勝手な奴の下に何十年いる訳? マゾなの?」 エレオノーラが次に向かうのは、クリストフだ。未だに然程削れもしていない体力を持ち、目線があった彼にクリストフは笑った。 「はい、拾われたこの命――ベンヤミン様のために潰えるのであれば本望!!」 飛ばされてきた漆黒をエレオノーラは鞄で叩いて止めた。逆の手にはソードミラージュとナイトクリークの命を削ったナイフを握り締め、そして、駆ける。 「そう、なら死になさいな」 エレオノーラの、冷めた瞳に力が籠った。その眼前、そしてクリストフの背後だった。再三のスケフィントンから抜け出した拓真が黄金の剣を片手に、振りかぶっていたのである。例え敵にも数々のドラマを持って此処に立っていたとしても、拓真の周囲に広がった仲間の死を無駄にしないためにも、これしか、これしか無いのだ。 「――覚悟ッ!!」 「な、に!?」 ほぼ血眼になった拓真の瞳の中で、クリストフが振り返るのが見える。しかし、その反応では遅かった。黄金の剣は、クリストフの脳天を穿った――。 ●翼に着いた赤 動き回る車輪を追いかけ続け、攻撃を重ねていく岬。アンタレスの瞳には車輪を常に映し続け、そしてその漆黒をソレへとぶつけていく。 後方よりレオンの癒しは神秘兵器である車輪にも有効だ。車輪の傷が癒えるという文字の並びは見ていて不思議な気分になるが、現実そのような事が起っていた。 「なら癒える前に壊してしまえば問題ねー。いくぜーアンタレス!!」 その声が響き渡る、戦場――ジョンが再三の気糸を戦場の空に走らせている中、ふと見回して数えた仲間の数。もはや残っている支援組はデュランダルにソードミラージュ、クロスイージスだけか。そしてまた、ジョンはフィクサードを狙って放つ気糸。その入れ替わりの様にして、逆方向へ車輪が転がって行った。 狙いは、マリア。元々体力が低い彼女だ、此処いらで狙われても当然である。車輪を追っていた椿がそれに気づいた時には既に声を張り上げていた。どうか、車輪の下敷きにならぬようにと願う矢先。 しかし車輪の攻撃は、マリアを庇っていたクロスイージスが変わり身となって潰される、突き飛ばされて回避したマリアはそのまま。 「ギャハッ!! ギャッギャッギャッギャハハハハハハハ――ッ!!」 周囲を見回し、プレスの死体だらけ。白き翼に跳ねた血。そして3つの車輪に轢かれて、アイロンがけしたかのように綺麗になったクロスイージスを見てマリアは再度笑っていた。 「マリア、落ち着きなさい。大丈夫、大丈夫よ」 そっとマリアの手を繋いで握ってみた。すれば、マリアも握り返した小さな繋ぎ手。震えているのか、それとも楽しんでいる武者震いか。それは氷璃には察する事はできるだろう、マリアに負けない程に彼女も強く手を握り締めた。 「お姉様。あのごろごろしているやつ、うざったいわね、壊しちゃってもいいかしら」 「そうね、壊しつくす事こそが私達マグメイガスの仕事よ、マリア――」 重なる攻撃。 「うおおーみんなやる気だぜー」 「マリアさん狙っておいて、ただではすまさへんでぇ!!」 岬のアンタレスから暗黒が、そして椿のギルティドライブも一緒になって、そこにジョンの気糸も重なった。 砲弾のようにかけていく黒き怨嗟――そして、組み上げていく葬送曲。同じ紅い鎖であれど、少しだけ色が異なる2色のそれが戦場を駆けた。そして、大きな音をたてて動いていた車輪が、横に横転し、鎖が通過した穴だらけになって機能停止したのだった。 ひとつの兵器が消えた時、陸駆の口端が斜めに吊り上がる。 「これも僕の計算通りなのだ」 不服そうにその言葉を聞いたレオンは舌打ちをした。神秘兵器であれど、やはり欠陥はつきものか。壊れない、強い、凄いかっこいいものを作りたいというのは男のロマンではあるが。 レオンが目前で死したデュランダルの死体を見下ろしていた。決死を胸に、飛び込んでいった勇敢な戦士だ。それは敵であれ、その覚悟には敬意の念を思ってしまう程度には常人離れしていて、しかし悪く言えばまるで無謀で、無駄な――。 「なら、その身体。再生利用してやろうか」 死を一番上手に汚せる楽団を思わせるような発言。否、まるで楽団。 しかし戦力となるのであれば、目の前の敵を倒せるのであれば、其処に容赦はいらない。現に、この薬は神秘兵器であって我らがアーリア人の研究成果。 「それは、それは――!!」 瑞樹の目に見える注射器。敵に死者が出て……ならまだしも、味方の死体を蹂躙される訳にはいかない。即座に撃った紅月。続いた陸駆のピンポイントだったが、彼を守護するイージスに全て吸い込まれてしまうのだ。 できあがった死体は、敵の人形。哀れな傀儡はそのままレイラインへ剣を向けたのだった。 アルタの刃がレイラインの首に綺麗に一本線を作って斬り込みを入れた。更にそのうえから落ちてくる剣にレイラインはすれすれで身を反らして避けていく。 「貴様ら、その薬……どれだけ外道か解っているのじゃよな!!」 「センセーの発明は世界一ィ……です。ま、死んだんですからいいじゃあないですか」 そんな馬鹿げた話は無いと、頭に血管が浮き始めたレイラインの周囲は音をたてて空間が氷り始めていく。それは怒りを表しているかのように、炎よりも熱い氷の結晶。 「覚悟の上に積まれた屍を、汚す事の何処が良いのじゃ――!!!」 氷像を作り続けるレイラインの攻撃、アルタがその氷に捕まった。背に居るレオンを護るため、と言ってしまえばそれまでであるが、やはりレイザータクトか完全に前衛をはれるまでの装甲は無い。 その後方では陸駆が虚空を掴んで、それを引いて、アルタから精神力を奪っていた。車輪に瞳を輝かせる彼であれ、バッドメディシンには輝かない様で。 「天才には下衆の考えは理解できないのだ」 「ふん」 レオンはさして、興味無さそうに。空に成った注射器を投げ捨てた。 「そんな事言っている内にだな、貴様の配下は死にかけているのだがな」 「くそ……が……ぁああ!!」 失いかけた精神力。もはやこれを撃つのは最後になるかもしれない。瑞樹は両手に力を込めて月を呼び出した。 「見ておきなさい、これがあんたの死の引導――!!」 アルタの瞳に広く映り込むその禍々しき月は、彼の命を奪い取るには十分な輝きを持っている。瑞樹はそのままアルタの命を奪うために、紅月を放った直後、短刀をその手に、彼の首を切り倒した――。 しかし、傍でレオンの注射針が獲物を、それこそまるで腹減りの獅子のように、先から雫が一滴落ちたのだった。 「すぐ起き上れるさ……試してみたかったんだよ。君の身体に、この液体を入れ込むのをね」 させまいと、レイラインと瑞樹はレオンへと走る。 「どれだけ根が腐ってるんじゃ!!」 「させない、絶対に!!」 ●決死の思いで放つ赤 頭を抑え、その指の間からは血が漏れ出していたクリストフ。 「ベン、ヤミン様……っ!!」 「諦めなさい、貴方の死後、あっちのうるさいのもすぐに後を追わせてあげるわよ」 エレオノーラの鞄がクリストフの後頭部を穿った。直後、ベンヤミンの幾重もの気糸がエレオノーラと拓真を貫いていく。すぐにあひるの回復で立ち直る2人、しかし疲労は重なるばかり。 「この忠誠、絶対……!」 もはや彼の中にある精神力も尽きる寸前なのだろう、幾度となく拓真を黒い箱に仕舞ったものの今はその力が無く触れる漆黒が拓真の頬を掠るだけ。 その場に立っているのはクリストフにベンヤミン、そして拓真とエレオノーラだけだった。周囲を見れば、敵も味方も入り混じって力無く倒れて重なっているだけ。それがいくら積みあがろうが、拓真の剣は錆びる事は無く。 「……ありがとう」 ふと漏れた、戦死した仲間への敬意。それを報われる形にするために、クリストフに再度落とした両手の剣――!! 咄嗟に頭を庇ったクリストフの両腕ごと叩き斬り、重力にものを言わせて剣は上から地面まで落とされた。 咲いた花は、赤色。落ちた身体は、もう、ベンヤミンを護る事は無い。 未だ車輪は動き回る。そしてそれを追う岬だが、進行方向を辿ってみれば車輪はマリアへと向かっていた。もはやイージスの庇いが無い彼女はこのまま轢かれてしまえば終わりと言えるだろう。 「やっべー」 漏らした岬の声だったが、他方を見れば嗚呼、とまた呟いた。 ――貴女は、私が護るから。 雷を放ち、そして車輪を見たマリアが舌打ちし、覚悟を決めた直後だった。氷璃の手には炎の塊がひとつ。 「マリア、けして最後まで諦めては駄目よ」 彼女の手にあった炎は爆発的に膨れ上がった――それは己の身さえ焦がし、傍にいたイージスをも巻き込んだものの、近くに寝ていた車輪が動く事を止めた。 マリアの目前で急ブレーキをかけた如く、車輪は止まる。そしてそのまま氷璃の方へと転がっていくのだ。先に息途絶えたのはイージスだったが、次の犠牲者は紛れも無く氷璃であり、庇う事を禁止とされたマリアには攻撃するしか手は無く。 「馬鹿……ね!!」 そのマリアの声に、氷璃はくすっと笑った――。彼女を轢いた車輪に岬と椿が動向を追った。 「ついに精鋭を食ったなー」 「許さんよ……許さんよ!!!」 車輪が大きく弧を描いて帰って来た。アンタレスを振りかぶった岬の、その漆黒が車輪を捕えるが止まらない。椿の銃口――その先に迫る車輪。 「どんだけ血を飲めば止まるんや」 その手に怒りを込めて、放つ弾丸――それは断罪の光か。しかしそれでも車輪は止まらなかった、やはり人手が、火力が、いまいち足りないというのか。椿と岬はそのまま散り散りになって車輪を回避した。 ふと、振り返った椿の瞳にマリアが車輪に轢かれて飛ばされていく姿が見える。 「マリアさ……!!!」 すぐにでもマリアの元へ駆け、抱きしめたい衝動をその胸に押し殺し、椿は眼前の、迫り来る車輪を撃破するために躍起になるしかなかった。 2つの火力を失った事はリベリスタとしては致命的だ。なお、車輪を狙う手が少なくなった以上、レオンの回復が彩を増す。直後に轢かれていくのはジョンであった、それは車輪の性質を忠実に表しているかのように、体力の薄いものから順に。最後に放った気糸に、仲間に頼りを乗せ、そしてまた1人と倒れていく。 茫然となって立ち尽くした椿。 「ギャハハハハハハハ!! 俺んのぉおおおパンジャアアアンドラームはすっばらしぃいいいぞおおお!!!」 次々飲み込んでいく車輪を見て、一番喜んでいたのはベンヤミンだ。その声を聞いて、ブチィと何かがキレる音が聞こえたような聞こえなかったような。椿が握り締めた得物に、血が滲んだ。 「……あいつ、ドラム缶にコンクリ流し込んで三高平港に流そう」 ぼそっと椿はそんな事を言った。それを知る事も無いベンヤミンのもとへと走る、漆黒の強戦士。 「少し、黙っていてくれ」 クロスイージスを突き飛ばし、それでもまだあと2人か。拓真の瞳に映る敵の大笑いが、耳のすぐ近くで聞かされているかのようにこびり付く。 「なぁぁリベリスタァァア! 我が兵器の前にひれ伏すがイイイイイイイイイイ!!!!」 何処までも精密な気糸が拓真の胸を撃ち抜いた。それでも彼は前へと――前へと。 「きゃっ」 少女の声――車輪が狙ったのはあひるだ。 「くわ……」 思い出すのは、以前轢かれた――あの時の感覚。フラッシュバックの様に思い出されるそれにあひるの身体がぶるりと震えた。もはや頼りの庇い手がいないのだ――。 それでも彼女は諦めたくないのだと胸が高鳴った。願うは癒し、乞うは、勝利――!! 「あひる……頑張ったよね……」 一滴の涙が頬を流れた。護るのだ、と顔にある傷痕が己を強調するかのように痛んだ気がした。顔に手をあてた瞬間、あひるの身体から光が漏れていく。 最後の聖神は仲間の傷を癒していく――しかし眼前には車輪。嗚呼、どうか、目を覚ました時には――。 あひるの羽が1枚1枚舞っていた。その羽の1枚を手のひらに着地させた陸駆。そしてそのまま拳で握った。 「天才に、任せると良い」 並べた刃――陸駆の周囲に千本ナイフが用意された。 「リベリスタ、いや、箱舟は底力だけは認めてやってもいいな。しかしだ、アーリアには」 「そのアーリアを、僕は生まれた時から超えているのだ!!」 レオンの額に血管がびきっと走った。そのままナイフはレオンの周囲のイージス達を貫いていく。直後、刃の間を突き抜けて、眩しすぎる一本線がレイライン、瑞樹、陸駆を襲った。燃える身体、しかし愚痴を言う暇は無い。 「若僧が、粋がるな!!」 「若僧では無い、神葬・陸駆なのだ!!」 再び揃えたナイフの群れ――。レイラインはそのナイフの合間からイージスの首を裂く。氷の結晶をその武器に乗せ、時を刻み、敵の急所を着く。トドメと言わんばかりに、瑞樹は1枚のカードを構成した。 「あんたの未来だ、素直に受け入れる事ですね」 それは死を予感させる、生を嘲笑うジョーカーのカード。瑞樹はそのままそれをイージスの裂かれた首へと放った。 そして前へ進んだ。それでレオンの元へ、薬で動かされているデュランダルの、同じく動かされているアルタの攻撃が瑞樹を貫いた。近いのに、遠い、目の前に、笑う研究者の裂けた口が瑞樹には見えていた。 「無理だ、諦めろ」 それでも、諦められなくて。咆哮した瑞樹はデュランダルの片腕を短刀で切り裂き、進む。 回復手を完全に失った事は、敵側にレオンが居る限りリベリスタが不利に成った事を表していただろう。尚且つ、戦力を分散し過ぎたか、レオン対応班も、ベンヤミン対応班も、一進一退だ。 そして車輪へ、岬はアンタレスを振り続け、椿は弾丸を酷使し続けた。 ● 「覚悟してきたんだ、最後まで踏ん張るんだ」 「ええ加減にせーよ、兵器ごときがぁあ!!」 もはや精神力も尽きる、その手前であっただろう、赤い線を見るのはもう飽き飽きした。その線を追い続けるのも、飽き飽きした。時には肉塊を飛び越え、仲間のリベリスタが頼んだと言いながら涙を流して轢かれていった。 そこまで仲間の命を弄ばれて、2人は立ち止まるなんて事は頭の中には無い。レオンのジャッジメントレイに、ベンヤミンのピンスペが体力を蝕む――それでも。 荒れた息の中、無意識に近いくらいにすり減った体力に鞭をうち、椿は遠心力に任せて怨嗟を放つ――続く、椿は彼女の漆黒に乗せ、魔弾を放っては咆哮した。迫る車輪――バキっと何かが崩壊した音がした瞬間だった、今まで聞いたことの無いような音が聞こえる……何か、血からを溜めているかのような。 「やっべー」 「ちょ! 岬さん危ないで!!」 言えども、その頃には遅いのだ。耳を塞ぎたくなる様な轟音と、地震が周囲に木霊した。椿と岬、2人は大爆発の中に巻き込まれていく。 岬の身体が宙に舞った。しかし容赦無くもう1つの車輪が彼女を轢きに来たのだ。拓真がそれを目の端で見ていて、そして陸駆は頭に指を当てて言う。 「僕の天才的演算に寄れば勝率は――」 口ごもった、小さな陸駆の唇。目の前に敵が居る、しかしそれを差し引いても残った車輪が厄介だ。陸駆は頬から流れる汗を拭って、噛みしめた唇は白くなっていく。 「どうしたリベリスタ。何をしに来た? 車輪を壊しに来たか、それとも我等の退却を夢見たか?」 「ギャーーーーハハハハハハハ!!! この我等、アルトマイヤー様の眼前で負ける事は許されないのだアアアアア!!」 敵の士気は上がっていく。車輪が誰かを飲み込めば飲み込む程、己達が作ったものは確かな強さだと確信していくのだ。もはや5人と、クロスイージスの数人だけになってしまったリベリスタ達。 「……撤退だ」 拓真は両手の剣で敵イージスを弾きながら言った。しかし目の前にレオンを迫らせた瑞樹が焦ったように、レオンへ向かいたい足を止めた。 「小娘か、最善の判断だ」 瑞樹の耳に聞こえた車輪の音。それがレオンと瑞樹を分かつようにして、眼前を過ぎていく。その瞬間、エレオノーラも後方へと地面を蹴りながら、AFを起動させる。 「手の空いている子は、リベリスタを拾って頂戴。生きてる子優先よ」 一斉に下がる、リベリスタ。レイラインは岬の身体を抱えながら、後方に見える動いている死体に反吐を吐く。命があった事に感謝しよう――敗北は、けして恥では無い。瑞樹は倒れていたマリアの小さな身体を拾った。力無い瞳が開いて、見えた姿に。 「瑞樹……親衛隊、は……?」 「……っ」 遠くを見た赤い瞳に映ったのは、段々と小さくなっていく親衛隊達の姿。嗤っていた。緑の芝生が真っ赤だった。死体さえ回収できないで、残してしまう仲間だったものがあった。 「……撤退ね」 「……そう」 かくして、この芝生の戦いは幕を閉じた――。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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