● リヒャルト・ユルゲン・アウフシュナイターの『親衛隊』は国内主流七派と連携する構えさえ見せ、アーク側の防備を突破し、重要拠点『三ツ池公園』さえ陥落せしめた。時村に対抗し、神秘界隈に影響力の触手を伸ばさんとする大田重工のバックアップを受けた『親衛隊』は強力な『革醒兵器』の開発と増産を続け、自己の戦力を増やし続けている。三高平に来訪したキース・ソロモンの宣戦布告時刻が迫る中、そんな彼等に時間を与えすぎる事は愚かと考えた戦略司令室は比較的早期段階での『親衛隊』攻撃計画を承認した。それは守るべき拠点を二つ以上に増やした彼等への意趣返し。三ツ池公園攻撃と、彼等の本拠と思われる大田重工埼玉工場の二重攻撃計画の発動であった……。 ● 太田重工埼玉工場。 『親衛隊』の重要拠点であるその場所で、フェヒターは報告書の確認に余念が無かった。 彼の主な任務は国内リベリスタの牽制。『親衛隊』に起きる厄介ごとの露払いが主な仕事で、そのための武装集団を指揮している。だからこそ、先日三ッ池公園で起きた大規模戦闘は、『アーク』という厄介極まりない相手を理解する上で、最も有効な資料であった。 そして、一通りの分析を済ませた、まさにその時のことだ。彼の副官である金髪の女性、ロッテが入ってくる。 「失礼します、少尉」 「どうした、曹長。卿には別の任務を与えていたはずだが?」 「ヤー、その件についてです。アークがこちらに攻撃を仕掛けて来るとのことです」 ロッテの言葉に目を細めるフェヒター。 わずかに耳を疑う。もちろん、それを考えていなかった訳ではない。だからこそ、ロッテを始めとした部下を警備に出していた。 しかし、時期が早過ぎる。まだ体勢を立て直し切った訳ではないはずだ。日本が得意とするバンザイアタックか? いや、違うはずだ。少なくとも、自分が見てきたアークという組織はそのような相手ではないはずだ。だとすると、『親衛隊』以外にことを急がなくてはいけない事情が発生したのか、確実な勝算を得たかのどちらかであろう。 「少尉、よろしいでしょうか?」 と、そこでロッテの言葉がフェヒターを現実に引き戻す。 ここで考えていてもらちが明かない。自分としては後者の可能性も鑑みて、対応に当たるべきだ。 「問題無い。クリスティーナ中尉に連絡を取れ。直ちに我々も防衛に当たる」 すぐさま頭を切り替えると、フェヒターはてきぱきと指示を与えて行く。炎の如き攻撃性と氷のような冷静さを併せ持った男なのだ。 そして、ある程度した所で、わずかに逡巡し、その上で指示を出す。 「『ヴルカーン』もあったな。アレも出すぞ」 「『ヴルカーン』ですか? あれは未完成ですし、機動性を欠いた状態の運用は効果が薄いと思いますが……」 「構わん、この際砲台代わりになれば十分だ」 そう言って、フェヒターは愛用の剣とマシンピストルを手にする。 胸が高鳴る。 そう、総てはこの瞬間のために。 自分の生きる場所は戦場にしかない。 であれば、今宵も戦い抜こう。 再び祖国に栄光が輝くまで。あるいは、自分の命が尽きるその日まで。 ● 全力で「夏」を主張する暑さをした7月のある日。リベリスタ達はアークのブリーフィングルームに集められる。場にははっきりとした緊張が漂っている。 そして、リベリスタ達に対して、『運命嫌いのフォーチュナ』高城・守生(nBNE000219)は今回の件への説明を始めた。 「これで全員だな。それじゃ、説明を始めるぜ。察しの良いあんたらなら、もう気付いているだろ。今回お願いしたいのは、『親衛隊』連中との戦いだ」 「やはりか」と頷くリベリスタ達。中には、はっきり「待っていた」と答えるものもいた。誰もが分かっているのだ。もはや、『親衛隊』の自由を許す訳にはいかないと。 三ツ池公園を制圧した『親衛隊』は神秘的特異点である『穴』を利用して革醒新兵器を強化すると共に、今もなお新たな動きを見せ続けている。彼等に時間を与える事は新たな危険を生む事に他ならない。キース・ソロモンの宣戦布告時刻が迫っているのも然り。アークには早期の攻撃でこれを切り抜ける以外の道が無いのだ。 守生が端末を操作すると、画面に表示されるのは決戦の場所、大田重工埼玉工場。 「『親衛隊』を倒すってだけじゃねぇ。この作戦を成功させるために、三ッ池公園で頑張っている連中もいるんだ。彼らのためにも、心してかかってくれ」 そう前置きして、守生は大田重工埼玉工場襲撃作戦の意図を説明する。 『親衛隊』は前回の戦いでアークという組織の脆弱性、即ち『エース』に頼りがちな戦力構成という弱点を突いてきた。即ちそれは『守るべきものを多く持つ』アーク側の泣き所を狙ってきたという事である。 アークが立案したのは敗戦の意趣返しである。本拠と公園の同時攻撃。厳密に言えば公園奪還の大作戦を陽動に、手薄になった本拠を制圧せんとする狙いである。少なくとも本拠と三ツ池公園の二拠点を防備しなければならない『親衛隊』は以前よりも荷物を増やしていると言える。 「『親衛隊』だって、決して層が厚い訳じゃない。それに、連中と手を組んでいる七派の件も、室長が手を打ってくれた」 そう、七派についても戦略司令室長・時村沙織は国内七派筆頭格の逆凪黒覇に乾坤一擲の『楔』を打ち込んだ。それは多分なリスクを含むものではあったが、彼に動きを躊躇わせるには十分であるに思われている。即ちそれは『この場でアークが倒れた場合、キース・ソロモンの相手になるのは『勝利した』日本の神秘勢力である』というハッタリ。確かにキースに確認を取った訳では無いが、『計算の立たない最強の腹ぺこ』である彼は損得計算を重視する合理主義者にとって最悪のジョーカーだ。黒覇が『親衛隊』を介してバロックナイツの――キースの情報を収集出来るならば却ってそれはその裏打ちになるとも言えるだろう。 そこまで説明した守生は、細かい作戦の説明に入る。 「あんた達に向かってもらうのはここだ。「倉庫」にいる『親衛隊』を相手して欲しい」 続けて端末に現れたのは、軍服を着た若い男だ。だが、一部のリベリスタは知っていた。『親衛隊』のフェヒター少尉。「猟犬」らしく、各地でリベリスタを狩ってきたフィクサードだ。 「工場の防衛に乗り出したこいつは、革醒兵器の1つ、列車砲を持ち出してきた。これからの攻撃を受けると、こっちも危ない。そうなる前にこの兵器を破壊してくれ」 革醒兵器「ヴルカーン」は極めて強力な兵器だ。 しかし、幸いなことに攻撃までにはそれなりに時間もかかる。そこにリベリスタ達が付け込む隙はある。 もっとも、フェヒター率いる部隊は、強力な相手だ。そう簡単にやらせてはくれないだろう。今まで戦った中でも強敵だったが、加えて「特異点」を手に入れたことによる武装強化も図っている。 それでも、だ。 「この戦いはアークの浮沈がどうとか言う次元じゃすまねぇ。この機を逃したら、世界そのものがやばい」 『親衛隊』は既に「特異点」を利用しての作戦に従事している。今ここで止められなければ、そう遠からず彼らは大規模な動きを見せるだろう。 息を呑み、頷くリベリスタ達。 そこで守生はわずかに目を逸らした。 「こういうことは苦手だから、一度しか言わねぇぞ。その、なんだ」 いつもの送り出しの言葉かと思ったら、様子が違う。 そして、軽く深呼吸すると、いつものように守生は鋭い目で睨み直す。 「あんた達なら世界の危機も『親衛隊』も、まとめてぶっ飛ばしてくれる。俺は、信じているぜ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:KSK | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 9人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年08月07日(水)22:47 |
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■メイン参加者 9人■ | |||||
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● 「バリケードを突破されたぞ!」 「倉庫に向かっている! 何としても潰せ!」 『親衛隊』の兵士が口々に叫ぶ。 彼らの先で大田重工の工場敷地内を我が物顔で爆走するのは『外道龍』遠野・御龍(BNE000865)の愛車、11t大型デコレーショントラック『龍虎丸』だ。 「行くぜ相棒ぅ! 御意見無用! 盛大に、ド派手に行くぜぇ! 神風精神ナメんじゃないよぉ!」 「真夜中だけどハデに行こうぜ、キャッシュからの――パニッシュ☆」 警備システムを豪快に曳き潰し、弾丸のように走る、走る、走る。 『SHOGO』靖邦・Z・翔護(BNE003820)がド派手に弾丸をばら撒き、立ち塞がる敵を散らしていく。 そして、SHOGOの目はブリーフィングルームで見た列車砲、革醒兵器ヴルカーンの姿を捉えた。 重厚な雰囲気を与える列車砲の前で『親衛隊』が道を塞いでいるが、構うことは無い。 「相手が列車砲なら我はデコトラだ! 40年代までまとめてぶっ飛ばしてやる!」 御龍は愛車よりも巨大な列車砲を前にして、一層強くアクセルを踏み込んだ。 ● 「やあやあ、また会えたね。覚えているかな。楽しみにしていてくれたかな」 「無論だ。このような状況で無ければ、もっと嬉しかったがな」 先ほどまで『龍虎丸』に乗っていた『群体筆頭』阿野・弐升(BNE001158)はフェヒター少尉と睨み合っていた。彼らの横では『龍虎丸』が盛大な煙を上げて燃えている。 「でも、どうでもいいよね。戦場であったら殴り合うだけだしさぁ。鬱憤溜まっているんでしょ?」 「卿らのお陰で余計にな」 弐升がぶんと両手斧のようなものを振り回すと、フェヒターも右手の剣を握り締める。 2人の周りを突撃の混乱から立ち直った『親衛隊』の者達が囲む。 その時だった。 「オレの相手は誰だっ!?」 勇壮な叫びと共に、リーツェ・F・ゲシュロート(BNE004461)を始めとしたリベリスタ達が果敢に戦場へ割って入る。 後続部隊がやって来たのだ。 「これは普通に倒すだけでは足りなさそうです。後悔させてやらないと」 『弓引く者』桐月院・七海(BNE001250)が天上に向かって放った矢は、業火となりて『親衛隊』へと降り注ぐ。矢に用いられた素材は彼自身の、『幻想種』の力を宿した羽根が使われている。今までのものとは一味違うのだ。 リベリスタ達の強襲は大胆に見えて、極めて合理的。 相手の防衛が強固ならば、防御の後ろ側に入ってしまえば良いだけの話だ。 「列車砲ね……。よくもこんなもの、日本国内に持ち込んだものです」 「全く。何でもかんでも戦争当時の兵器を持ち出せば良いって訳じゃないでしょうに」 もっとも、これには元より期待はしていなかったが、革醒兵器自身の損傷は十分なものとは言えなかった。煙の中から姿を見せる革醒兵器の姿に、『蒼銀』リセリア・フォルン(BNE002511)と『炎髪灼眼』片霧・焔(BNE004174)、2人の少女は唇を噛む。 近代兵器としては既に時代遅れと言っても良いが、中身は大田重工の力も借りた最新式。加えて、三ッ池公園の『穴』の力も借りて、神秘的に大幅なアップデートを図った革醒兵器なのだ。 「なるほど、戦争を始めるなどと言うからには、確かに相応の装備ではある……でも、させない」 「そうね、残しておいて好き勝手されるのも勘弁願いたいし、私達で文字通り纏めてぶっ飛ばしてしまいましょう?」 私達を信じて送り出してくれた彼に応える為にもね。 強い決意を胸に、仲間の信頼を背に、青と赤、2人の少女は戦場へとひた走る。 目的は亡霊の生み出した革醒兵器の破壊、そして何よりも、『親衛隊』の野望を打ち砕くことだ。 (お父様、お母様。どうかわたしたちを護って) 『blanche』浅雛・淑子(BNE004204)は亡き父と母に祈りを捧げる。ここで『親衛隊』の野望を食い止められなければ、世界規模の災厄が起きるのだ。そうすれば、残った肉親である祖父母も無事ではいられまい。それだけは避けなくてはいけないのだ。 相手は執念に燃え、仲間の怨念を背負った亡霊である。だけど、それがどうした。 人の想いを背負って戦うということならば自分も同じこと。 「陣形を立て直せ! 敵は『8人』! この戦いが我らの未来に繋がる道と思え!」 ロッテが仲間に檄を飛ばしながら、戦闘行動の共有を図る。 『親衛隊』の恐ろしさの1つは、この連携行動。 いやらしいまでに効率を求める戦法に、アークは苦しめられてきた。 しかし、今夜は違う。今宵、主導権はアークの手の中にあった。 「戦いに身を置くから分かるんだ。今の日本の平和がどれだけ尊いのかって」 『親衛隊』の誰もが気付かなかった影の中から、純白の翼を持つ少女が姿を見せる。 少女が想うのは、世界を守るために巨大な鬼の王に立ち向かった姉のこと。 それを思えば、目の前にいる敵などどうということは無い。 「増援も陽動かぁッ!!」 気付いて部下に指示を飛ばそうとするフェヒターより遥かに速く、『エンジェルナイト』セラフィーナ・ハーシェル(BNE003738)は七色の光を纏って、刀を閃かせた。 「姉さんが守った世界は、私が絶対守り抜いてみせるよ。戦争なんて起こさせない! 親衛隊はここで倒しきる!」 ● もし、馬鹿正直にリベリスタ達が真正面の戦いを挑んでいたら、『親衛隊』の突破は決して容易では無かった。相手の方が額面上の戦力は勝っているのだ。 決死の覚悟と運命の加護を上乗せして戦えば、互角の戦いに持ち込むことは出来よう。しかし、それでは革醒兵器によるアーク本陣への攻撃を止めることは出来まい。 だからこそ、この強襲から起きた混戦状態は、アークにとって有利な状況を作り上げた。 「間も無く、我らの理想が叶うのだ! こんな所で!」 セラフィーナの刺突に距離感を奪われ、全身から血を流しながら、『親衛隊』のホーリーメイガスは必死に叫ぶ。地面に倒れ伏し満身創痍だ。 その姿に淑子の手が一瞬止まる。 『親衛隊』の『誇り』を理解してしまったから。血も涙も夢や希望の欠片さえもない兵器を作ってまで為したいことが、彼らにもあるのだろう。 「けれど、お生憎様」 淑子が戦斧を大きく振り上げると、鮮烈な輝きを放つ。 彼女にだって『信念』がある。 だから、止まれない。 「わたしにも、あなたたちを討ってでも護りたいものがあるの。殺さなきゃいけないものだって、山ほどに」 力の限りに破邪の力を宿した斧を振り抜く。その重量そのものが既に凶器。革醒者としては直接戦闘能力に劣るホーリーメイガスが耐えられるものではない。 少女はその可愛らしい顔立ちを朱に染め、強い意志と共に呟く。 「こんな処で死んでいるゆとりなんて無いのよ」 支援役を倒された『親衛隊』の側に、刹那の動揺が走る。 その隙を見逃す程に、七海は甘くない。その瞳は空を駆ける狩人の瞳。狙った獲物は逃がさない。 「砲塔とかケーブルとか狙えたら楽だけど。というか動力供給部分どこだ?」 聳える革醒兵器を眺める七海。 ゲームなどでよくお目にかかるが、実際に目にしてみると少々勝手が違うようだ。だったら、それはそれで仕方が無い。纏めて吹き飛ばしてしまえば同じこと。 「そっちばかり注目するなよ、親衛隊諸君」 雷霆が走り、再び戦場を炎が包み込む。 おそらくそれは、『あの日』のベルリンにも似ていたのだろう。 そんなことを思いながら、リセリアは革醒兵器に接近する。 「行かせるかぁッ!」 「……鋼の鷹」 リセリアは一瞥すると、真っ直ぐ進む。思う所はあれど、ここで関わって良い相手ではない。 そして、フェヒターが剣に破壊のエネルギーを溜めたその時だった。 「おっと、今日はオレと遊ぼうぜトリさん。唐揚げとか食べながら」 間に割り込むように入ったのはSHOGOだ。軽い口調と共に引き金を引く。 魔弾の射手としては、戦人の鎚相手に接近戦を挑むなど、出来れば避けたい行いだ。しかし、型に囚われないのがSHOGO流。臆する事無く、むしろ一層集中力を増して攻撃を躱しながら『親衛隊』を狙い撃つ。 「戦闘中に食事をする趣味も遊ぶ趣味も無い」 「冗談が分からない男はモテないよ」 「モテる必要なんかねぇだろ! よくも我の相棒をやってくれたなぁ! ぶっ殺す。全員ぶっ殺す!!!」 燃えるデコトラから、龍が立ち上がる。 否。 姿を現わしたのは御龍だ。 眼差しは怒りに燃え、全身から破壊のオーラを立ち上らせている。 愛車を使用することに賛成したのは紛れも無い彼女自身であるが、それとこれとは話が別。そもそも『親衛隊』が妙なことを考えなければ、『龍虎丸』が壊されることも無かったのだ……という無理矢理な理屈をでっちあげる。 「全力で潰す!!」 怒りに任せたまま御龍は飛び上がると、そのまま肉厚の刃を叩きつける。その凶悪なまでの破壊力が直撃すれば、さしものフェヒターとてただでは済むまい。地面のコンクリートが派手に吹き飛ぶ。 御龍が暴れ、SHOGOが道を塞ぐ。 そうやって、フェヒターを抑えている間に、リベリスタ達は革醒兵器に集中攻撃を仕掛ける。 炎の上がる倉庫の中を氷が包み込んだ。 リセリアの生み出す氷刃の霧を前に、守り手達は革醒兵器の対神秘攻撃機能を起動した。しかし、倒せないならそれで構わない。動きを封じることが出来れば、彼女にとっては目的は果たされたも同然。 「発射なんてさせません。ここで終わりです!」 動きを封じ切れなかったものにはセラフィーナが向かう。高速の剣技が七色の光を宿して敵を貫く。その光は相手を惑わせ、戦うべき相手を誤認させる。その状態で革醒兵器を守るなど不可能だ。 そして、敵に向かうための道が出来上がってしまえばこちらのものだ。 咥え煙草の弐升がバッターボックスに入った野球選手のように軽く斧を振り回す。 ちょっとした準備運動だ。 破壊するべきものは分かっているし、珍しく障害物は無い。 だったら、この状況を思い切り楽しんで。 楽しんで楽しんで、ぶっ放せばいい。下手に気負えば手先が鈍る。 「全力でぶつかって、倒れなかった方が勝ちのシンプルなお話だっぜ」 轟 巨大なエネルギー弾が空を劈く。 さしもの巨大な革醒兵器も揺れる。 「格ゲーのボーナスゲームだな! まあ、的はでかいし壊し甲斐はあらぁ。たーのしぃー」 「私はそこまで言うことは出来ないけど!」 焔は華麗に飛び跳ねながら、革醒兵器の中心点を見据える。 狙うべき場所はあそこだ。 自分には全てを圧倒するような破壊力は無い。だけど、鍛え抜かれた技と拳なら誰にも負けやしない。 なによりも、 「呀!」 拳に破滅の気を蓄える。 そう、鍛えた技と拳なら誰にも負けやしない。 なによりも、鍛え抜かれた乙女の拳には無限の可能性が詰まっているのだ。 「私たちの仲間はやらせない、絶対によ! だから、さっさとスクラップにでもなりなさい!」 放った掌打から、兵器の全体に破壊のオーラが伝わって行く。 しばらくすると、先ほどから僅かに動きを止めていた兵器は再び動き出した。 まだまだ破壊には足りない。しかし、止めることは不可能では無い。 リベリスタ達が確信した時だった。 「ぐふっ」 全身を見えざる刃でズタズタにされ、リーツェが膝を付いた。 ● 「ま、まだだ……。その厄介な代物、綺麗に壊してやる」 力が抜けて行く膝に、運命の加護を借りて無理矢理力を注ぎ込むと、リーツェは連続で革醒兵器に斬り付ける。ほんのわずかでも隙が出来れば、仲間が終わらせてくれるはずだ。 「はぁぁっっっ!!! 当たれぇぇ!!」 その一方で、SHOGOもまた、顔を青く腫らしながらフェヒターと向かい合っていた。『親衛隊』側も肩口を大きく切り裂かれているが、SHOGOが今にも倒れそうなのも明らかだ。 「どうやら、卿のことを見誤っていたようだ。その軽薄な口調と裏腹に、中々肝が据わっている」 「ほんと、は、今日もケツ、まくり、たいけど、ね。諸々の、事情で、とことん、いっちゃう、ぜ☆」 「確かに、久しぶりに楽しめる戦いだったが、我々にも作戦がある。その闘志に最大の敬意を表した形で葬ろう」 フェヒターの言葉にSHOGOは引き金を引くが、既に照準も定まらない。 弾丸を軽く躱すと、フェヒターはマシンピストルの引き金を引き返す。 すると、リベリスタ達に弾丸が襲い掛かってくる。元は一般人へのスキル賦与を目的として作られた実験用の武装だが、フェヒターが妙に気に入って使い続けている武器。 その制圧力は極めて高い。 「させないっ!」 焔が弾丸の雨を掻い潜り、倒れた仲間達の元へと向かう。そこへ『親衛隊』がブロックに入る。たしかに彼らも数を減じているが、リベリスタ達ほどではない。いや、むしろ多くのリベリスタが革醒兵器の対所に向かった分、彼らには若干の余裕が残っている。 「邪魔をするな! 道を塞いで来るなら文字通り抉じ開けるわよ!」 叫んだ焔は大地を蹴ると、飛翔しながらの蹴りで『親衛隊』を薙ぎ払っていく。 「撤退しましょう。このままでは、ヴルカーンを破壊している所じゃありません!」 「で、でも……」 淑子の言葉に、セラフィーナは躊躇する。理屈では納得できるが、感情では納得できない。 このまま革醒兵器への攻撃を継続すれば、発射を遅らせることだけなら出来る。だが、完全な破壊に至るよりも、『親衛隊』の戦力がリベリスタ達に向かって来る方が早いはずだ。 同じく革醒兵器の破壊に臨んでいたリセリアは向き直ると、撤退の姿勢に入る。しかし、愛用の剣を握り締める手からはぽたりと血が垂れた。 「護れなかったと、そう言いましたね。フェヒター少尉」 「……如何にも。我らの力が及ばなかったため、祖国は敗れ去った」 だから、鋼の鷹は戦いの愉悦へと逃げた。力の及ばなかった弱い自分を忘れるために。その一方で、取り戻せるものがあるのならと『親衛隊』には所属し続けていた。 「リヒャルト少佐も、失ったから誤りを正すと言いました。貴方達が……護れなかったからと、今こうして再び戦争をしようというのならば……」 リセリアの瞳から一粒。涙が零れ落ちたような。 そんな気がした。 「私達は……護りきってみせます。貴方達の様には、絶対にならない……!」 撤退するリベリスタ達を、『親衛隊』は追撃しなかった。 彼らとて補給役をやられて、これ以上の戦闘が出来る状態でも無い。そう言う意味で、リベリスタは最悪の事態の回避に成功していた訳だが、ここに1人。諦めの悪い男がいた。 「何処まで行っても前のめり。リソースは使い切って何ぼ、だ」 『親衛隊』から距離を取った状態で、弐升は肩にギロチンアックスを担ぐ。まだ作戦が完全に失敗したわけではない。要は「敵の攻撃がアーク陣営に届かなければ勝ち」なのだ。だったら、上手く行けば空中で弾丸を撃ち落し、逆に敵の革醒兵器をぶっ壊す位の真似は出来るかも知れない。 「遊びで命を賭けるんだよ。それぐらい狂っている方が楽しいじゃねぇのさ」 弐升の口元に笑みが浮かぶ。胸が高鳴る。 完全な博打なのは百も承知。だからこそ、楽しい。 「ま、あれだね。俺の人生で、生き方の問題だ。何言われても聞く耳持たん」 そして、倉庫の方がチラッと光った。 弐升は渾身の力を込めて破壊のエネルギーを撃ち出す。 空を翔けたのは炎の柱。まさしく火山の噴火の如きそれは、亡霊たちの怨念を糧とするが故に、禍々しき炎となって。 破界の力は破壊の力を呑み込んで、敗北の悔しさを噛み締めるリベリスタ達の上を飛んでいくのだった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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